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井田参考人 私は
火山学者ですので、
三宅島の
火山活動の
状況について
お話ししたいと思います。
資料をお配りしておりますので、それに沿って進めてまいります。
まず
資料の一ですけれども、これは
三宅島の
噴火の概要みたいなことが書いてあります。ここでは、過去にもいろいろ
噴火しているわけですけれども、二十年おきぐらいに
噴火しているわけですけれども、基本的には
山腹の割れ目から溶岩を出すというふうな
活動を続けてまいりました。それで、
爆発性は低かった、そういう
意味で、防災上は
余り大きな問題というのはなかったわけです。
それに対して、二〇〇〇年、昨年の
噴火はかなり異例の展開を示しました。それについて
資料二で御説明いたしますが、
噴火を全体として三つの
段階に分けられるかと思います。
第一
段階は、昨年の六月の末なんですけれども、マグマが上昇してきて、それが西側の
山腹の方に移動して、最終的には
海底噴火が起こった。
海底噴火が起こった位置というのは上の図で見ていただきたいわけですけれども、そういうところで
海底噴火が起こった。この
段階は、いろいろな
観測データを駆使しまして、かなり
状況を把握しておりました。それで、
予知もそれなりにうまくいっていたと考えています。
私どもは、これで
活動が終わったのではないかと実は思っておりましたが、その後、七月に入りまして、第二
段階の
噴火が起こりました。これは非常に異例な出来事であったわけです。
まず、七月八日には山頂で小
爆発が起こって、小
爆発自体はいいわけですけれども、そのときに非常に大きな
陥没孔が二千五百年ぶりにできるということが起こりました。その後に、今度はその
火口でもって非常に
爆発性の強い
噴火が起きた。
三宅島としては
余り経験のないような
爆発性の強い
噴火が何回も起きるということが起こりました。
それで、我々として、いろいろ
経験のないというようなこともありまして、その
活動を把握しそれを予測するということがかなり難しくなってしまったわけです。それで、非常に予期せぬ
災害という
可能性も考えられるということで、結局は、ある
意味では科学的な判断を放棄した形で、
行政に
避難の
検討をお願いするということになりました。そういうことで、九月の初めに
全島避難ということが起こりました。
その後が第三
段階のステージなんですけれども、そこでは
火山の
爆発的な
噴火の
活動というのはなくなったわけですけれども、累積した
火山灰が降雨時に
泥流を起こすということが起こりました。それから、これも非常に予期せぬことだったわけですけれども、非常に
多量の
有毒ガスを含むような
火山ガスが
放出を続けたということで、
泥流と
火山ガス、特に
火山ガスということが重要な要因になって、
爆発的な
活動の方はおさまったんだけれども、帰島ができないという
状況が続いているわけです。
その次のページですが、
資料三、四は、昨年の八月の
爆発性の強い
噴火のことについてもう少し詳しく
お話しいたします。
一番
最大の規模の
噴火というのは八月十八日に起こったわけですけれども、それが
資料三です。このときには、噴煙が成層圏まで上がりまして、かなり
多量の降灰が出たわけですけれども、それと同時に噴石がたくさんありまして、その数センチ大のものが山ろくまで出たわけです。そのために、家畜とか家屋あるいは自動車などに
被害が出たわけです。非常に幸いなことに、人命には被災することはなかったわけですけれども、かなり危険な状態であったということです。
それから、
資料四に入りますが、八月二十九日には
火砕流という現象が出ました。これは、
雲仙・
普賢岳でも
火砕流というものが出たわけですけれども、これとは違ったものでして、温度が非常に低くて、速度もゆっくりしたもので、それ
自体は
危険性の低いものであったわけですけれども、こういうものが出たということが我々にとっては非常に驚きであったわけです。そういうことを受けて、
全島避難ということになりました。
それで、三ページ目に移りますが、
資料五以下は、今
最大の問題になっております
火山ガスについて御説明いたします。
資料五は、
火山ガスの濃度やそのほかのものが時間とともにどう変化したかということで、その
横軸は時間です。
まず、この
火山ガスの
成分なんですけれども、真ん中ぐらい、あるいは上、ずっと比較していただけばいいわけですけれども、基本的には、主
成分はH2O、水蒸気です。ですけれども、
二酸化硫黄あるいは
硫化水素あるいは二酸化炭素というような
有毒ガス成分が大体一〇%
程度含まれている、そういうような
状況です。
その中で一番よくはかられているのは、一番上にあります
二酸化硫黄の量です。これはCOSPECという
遠隔測定で割と簡単に、簡単ということはないんですけれども、はかりやすい装置がありまして、それを使ってかなり頻度高く
測定を行っております。
それによりますと、まず、どのくらい出ているかということを見ていただきたいわけですけれども、一番上の図のスケールがキロトンとありますけれども、百キロトンというのは十万トンですから、大体毎日数万トンぐらい出ている、まずそれが一つのポイントです。ただ、それにしましても、全体として見ると、その
ガスの
放出量、
火口から出る
ガス全量の
放出量というのはだんだん下がっていく。最近は一、二万トンという
状況になっているということを見ていただきたいと思います。
その
ガスがどういうことであるかということを比較するために、四ページ目では、ほかの
火山の
状況と比較しております。
上の
資料六は、イタリアのエトナ山です。これは、
二酸化硫黄の
ガスが非常に
多量に出ているということで世界でも有名な
火山なので挙げてありますが、ここでは、非常に
活動的な
火山で、しょっちゅう
噴火が起こるわけですけれども、
噴火が起こるときには、場合によっては二、三万トンというようなものが出るわけですけれども、通常は大体五千トンぐらいの
放出量で、
三宅島と比べると数分の一であるということをまず見ていただきたいと思います。
それから、日本の
火山では、割とよくはかられていて、非常によく問題になっているのは桜島でありますが、桜島が下であります。この図の棒グラフの方は
地震の回数で、今ちょっと無視していただいて、上の方に幾つかバーがありますが、これが
二酸化硫黄の
測定量で、そのスケールは右側の方に出ております。大体の値というのは二千から三千トン・パー・デー、そういうことであって、やはり
三宅島と比べると一けた低いということであります。
こういうことから見ましても、
三宅島で出ている
火山ガスの量というのは、
火山学者も
余り経験したことのないような非常に量の多いものであるということを御理解いただきたいと思います。
次のページの
資料七、これは五ページ、六ページにまたがりますけれども、先ほどまでは
火山ガスが
火山からどれだけ出るかという全量を問題にしていたわけですけれども、それがいろいろな山ろくの観測点でどういうふうな影響を与えるかという、山ろくではかった濃度を記録した
データ、これは
東京都の
データであります。これもやはり
横軸は時間で、それを全体として六点の観測点の
データを集めております。
まず見ていただきたいのは、どこでも、これはほとんど連続的にはかっているわけですけれども、高い濃度、棒のようにぱっと上がっているということは、ふだんはそれほど濃度が高くなくて、突然上がる、それから、それにしてもそれが
余り続かずに、数時間とか数日ぐらいで大体おさまる、そういうような、時間的に非常に変動が大きいということが一つのポイントです。
それからもう一つは、六枚のグラフの間の関係を比較して見ていただきたいわけですけれども、非常にたくさん、例えば時に一〇ppmを超えるというような濃度が出ているのは、五ページの一番
最初の図、これは東側の空港の観測点でありますが、そこだけであります。ほかのところの観測点というのは、それよりもずっと低いということになる。こんなふうに時間と空間で随分大きな変動があるということであります。
それは何かというと、一言で言うとこれは風の影響であります。
火山ガスが山頂の
火口から出ているわけですけれども、風に流されていろいろな方向に行くわけです。そして、時間によっては、風向きで来たときには非常に濃度が高くなるけれども、そうでないときには別に特別なことはない、そういうことであります。それで、東側で非常に高濃度が出るというのは、特に冬場には西風が卓越する、そういうことに対応いたします。
次に七ページ目に移ります。
資料八ですけれども、これは、気象庁なりほかのいろいろな機関がいろいろな
火山観測を行っています。それをある
意味からいってまとめたものであります。
それの下から三番目の
火山ガスについては、もう今
お話しいたしました。そのすぐ下に、関連したものとして、
火口内の温度というのをはかっております。この温度というのも結構変動するわけですけれども、基本的には下がっているように見えます。それから、関連して、二つぐらい上の
三宅島の噴煙、これは出ている噴煙の高さをはかっているわけですけれども、これも変動があるわけですけれども、基本的には全体としては下がっているということで、
火山ガスの噴出の勢いというのが、全体としては、ゆっくりであるけれども下がっていくということは見ていただけると思います。
それから、上の二つ。空振というもの、空振というのは
爆発に対応する空気振動です。それから、微動というのは、地下で何かが動いている、そういうことに対応するものですけれども、これはむしろ噴出の状態あるいは
爆発の状態みたいなものを示しているわけであります。
一番下に、顕著な
爆発が起こったときというのが書いてあります。昨年の八月に非常に激しい
爆発を起こしたわけですけれども、その後一時非常に静かな状態だったのですけれども、ことしに入ってから多少そういう
爆発的な
噴火が目立ってまいりました。
ただ、
爆発と申しましても、例えば遠方のカメラで見てみますと、ふだんは真っ白な噴煙が上がっているわけですけれども、黒いものがもくもくと数分ぐらい上がる。それに対応して、多いときには山ろくでもかすかに、よく見るとわかる
程度火山灰が降る、その
程度であります。
今、これは非常に大きな
火口ができておりまして、直径が一・五キロで、深さが五百メートルというようなすごい大きな穴になっているわけですけれども、例えばその外に噴石が出るとか、そういうようなことはありません。防災上は、この小
噴火というのはほとんど無視してもいいような、そういうものであります。
八ページ目が、こういう
活動に対しては、
火山噴火予知連絡会という機構がいろいろとその評価を行っているわけですけれども、これは一月近くになるんですけれども、先月それに対して評価した内容が書いてあります。
見ていただきたいのは、最後から二つ目のブロックの「以上のことから、」というところで大体まとめが書いてあります。「以上のことから、地下のマグマの状態に大きな変化はなく、
火山ガスの
放出を含めて、
火山の
活動は全体として低下途上にある」というのが我々の認識であります。それから「この過程で浅部火道が部分的に閉塞されると、降灰をもたらす小規模な
噴火や
火山ガス放出量の多少の変動」、これは、小
爆発があるということを申し上げましたけれども、それがどういうことで起こっているかという我々の認識、理解であります。
結局、その次の段落ですけれども、「今後も、少量の降灰をもたらす小規模な
噴火は発生する
可能性がありますが、山麓に
災害を起こすような規模の大きな
噴火の
可能性を示す観測結果は得られていません。」そういうような感じが我々の持っている認識である。
火山ガスは下がっているけれども、まだ注意が必要だということで、結局、要約しますと、現在の
段階というのは、小
爆発はあるけれども、それは防災上はそんなに危険なことではないだろう、
火山ガスは相変わらず危険な状態、
多量に出てはいるんだけれども、それは下がっていく傾向にあるということになります。
それで、こういうことから、帰島なりをどういうふうに議論していただくかということなんですけれども、今申し上げましたとおり、
火山ガスの影響というのが結構、場所、時間や空間的に非常に変動するというふうなことがありますので、帰島の判断というのは、単純に
火山活動の評価というだけではなく、それに対してどういう防災対応がとられるか、とれるかということにかなり依存するのではないかと思います。
以上であります。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)