○
小川参考人 御紹介いただきました
小川でございます。軍事問題の
専門家の
立場から、今回の
同時多発テロ、そしてこれを受けた
我が国の
行動について、若干の考えを述べさせていただきたいと思います。
実は、今非常に奇妙な感じでこの部屋に入ってきたのですが、先月四日、
山形へ向かう
山形新幹線の中で
加藤委員長とばったりお目にかかりまして、とにかく
日本の
安全保障、
危機管理というのは、幼稚園でいうと
年少組のレベルのまま推移している、このままでは
専門家としては座視できないので、とにかく
政治が力を発揮していただきたいということを実はお願いしたその直後に、一週間後にこの
同時多発テロだったわけです。ですから、何かの因縁かなという思いでここに立たせていただいているわけでございます。
実は、私
ども軍事専門家の間では、このような形の
戦争が二十一
世紀において国際的な重要な
課題になるだろうということは半ば常識となっておりました。これは、一九八〇年代の初めごろからであります。
東西冷戦の
構造が崩れる中で、そのたがで締めつけられていた
民族対立あるいは
宗教対立などが噴き出す。そして、
弱き者は
テロ、ゲリラという格好で
強き者に立ち向かう。これは、
一つの
戦争のあり方であります。これをどのような形でなくしていくのか、これが恐らく
日本の
平和主義にとっても一番問われるところであろうと思うんですね。
しかし、そんなことを
知識として持っていた私でございますけれ
ども、やはり
ワールド・
トレード・
センターに
ハイジャック機が突っ込むさまを見て、実は
言葉を失ったんです。そして、簡単にでき、しかも、
テロリストの
立場から見るとこんなに破壊的な
効果の大きい戦術というものが目の前に展開されている、その
恐怖におののいたわけであります。これをどうやって封殺していくのか。これは恐らく、
日本の
立場を超えて
国民がみずからの問題として考えなければいけないことだろうと思ったんですね。
例えば、
最初は、高度な
操縦技術がなければああいう
飛行機の飛ばし方はできないとかいうコメントもいろいろな
専門家から出ました。ただ、少なくとも、
自衛隊の末端にいて、
飛行機の
世界に今友人がたくさんいる
立場から言いますと、あれは
ハイジャックに成功しさえすればできる話なんです。
パイロットは乗客の人命第一ですから、そして自爆するなんて思っておりませんから、もう言うがままに飛ぶんですよ、
最後のところまで。そして、例えば
ワールド・
トレード・
センターが数キロ先に見えてきたら、
パイロットをどかす、あるいは殺害をする、後は
操縦桿を握っていればそのまま行くんです。
それは、
報道機関の中には、あれは四十五度で傾いて突っ込んだから
ビルの
構造まで
研究したという。まあ、そうかもしれない、しかしそうじゃないかもしれない。その証拠に、
水平飛行のまま突っ込んだ
ビルも同じように崩壊しているじゃないですか。だから、いろいろな違ったことを書かないと我々の商売成り立たないわけでございますので、それはそれで
参考にしたい。
あるいは、ワシントンの
ペンタゴンの五階建ての
低層ビルに
大型機でアプローチするのは難しいという。でも、現にフライト・
データ・レコーダーの
中身を見りゃわかるじゃないですか。一回
低空で飛び抜けて、急旋回したやつがどんと当たった。私がハイジャッカーだったら、
パイロットに、
ペンタゴンの
連中に目に物見せてやりたいから
低空で飛び抜けろと言いますよ。そうすると、自爆するなんて思っていないから、飛び抜けてくれますよ。それで、旋回して、再度、
ファイナルアプローチに入ったときに
操縦桿を奪えばいいんです。
ノープロブレム。しかもあれだけの
破壊効果、これをどうやってとめるのか。
だから、これは後で必要があればお話をいたしますが、
危機管理の基本、これを終わることなく、
エンドレスとも思われるような息の長い営みとしてずっと続けていくこと、その中でしかこういった
テロというものはなくならない。
同じ
テロといいましても、今
報道機関が大きく取り上げておりますが、フロリダとそれから
ニューヨークにおける
炭疽菌の問題、これだってそうですよ。
私自身は、
生物化学兵器の
専門家じゃないけれ
ども、少なくとも
日本の消防、警察、
自衛隊が
第一線で持たなきゃいけない
生物化学兵器ハンドブックというものを翻訳した
人間でございます。これは、今
消防庁などは、
消防庁長官の指示で
第一線がみんな持つようになっている。でも、それなんかを見ますと、やはり私
どもの
研究がすごくおくれているというのは随所に見られるわけであります。
ただ、その中で
炭疽菌について言いますと、これ、すごく長く生きるんですよ。今回のやつも、五十年ぐらい前にアイオワ州の大学の
研究室から出た株らしいということですが、いや、五十年も生きているのかというんですけれ
ども、その
生物化学兵器ハンドブックを見ますと、第一次大戦中に捕虜になった
ドイツ人将校、
ドイツ軍の
将校が持っていたものを
連合軍が押収した。それが一九九七年の
時点で生きていたというんだから。これは
兵器にしちゃうと一週間ぐらいで死ぬそうでありますが、我々は、やはりきちっとそれを認識して、その恐ろしさに対処しなきゃいけないということなんです。
そういうものを目の当たりにしながら、私は、この事態に対して我々はどうすべきかと思ったんですが、
最初の
段階で、残念ながら、我が
政府の
意思の
表明というものは若干
当事者意識に欠けるだろうと私は思った。これは
国家意思の
表明ですからね。国として、
世界に向いてどういう
行動をとるかという話。それは、例えば、
アメリカに対して
支援をするとか
協力をするという
言葉が前に出ちゃったでしょう。何ば言いよっとかという話なんですね。
熊本弁で言いまして済みません。でも本当ですよ。
私たちは、
二つの
意味であの
事件については
当事者なんです。
一つは、
日本の
平和主義というもの、これは、二十一
世紀最大のテーマである
国際テロを撲滅していくためにどうしていくかという
責任が問われる
立場じゃないですか。その
意味でも、やはり
行動しなきゃいけない
立場であります。これが
日本の
平和主義の実現であります。
いま
一つは、
我が国の
国民が、二十四人という方が命をねらわれた。そういう
意味でも、やはり
当事者としての自覚を持たなきゃいけない。
協力をする、
支援するというのは、
国家意思の
表明としては、これは
人ごとの話ですよ。だめだということは
政府首脳にも申し上げた。
その
流れの中で私が申し上げたのは、ですから、少なくとも
容疑者、
容疑組織があぶり出されて国際的な裁きの場に引き出されるまでは、少なくとも
日本は、
アメリカだけじゃなくて、
国際社会と主体的に共同
行動すべき
立場である。その後は、それぞれの
考え方で動くということもあるでしょう。でも、その
段階までは、少なくとも我々は
最大の力を発揮できなきゃいけない。一番難しいとされている
自衛隊の
派遣についても、憲法の枠内できちんと
役割分担ができるようにしなきゃいけない。この問題を迅速に、しかも
最大限やるためには、これまでの、
同盟関係に関する
議論の延長線上ではだめだ。だから、新しい
法律できちっとくくって、
周辺諸国も心配しないような形で
行動する。当然ながら、
同盟関係に関する
議論は、これも正面からきちんと
議論していけばいい。その辺をやりましょうという話で申し上げたことがあります。
それで、現在の
流れは大筋そういう方向になっておりますので、私としては、今度は
中身を詰める番だと思っているんですが、やはり
二つの点で非常に懸念がございます。
一つは、
自衛隊の
行動に関して、これは
政治家の
先生方も勉強は随分していらっしゃいますが、やはりもうちょっと
考え方を整理する必要があるし、
官僚機構もやはり
知識に欠けるところがある、認識に欠けるところがある。その結果、
自衛隊を出しても、隊員を危険にさらすばかりで、十分な任務の
達成ができないというような
現実が目の前にある。これは、少なくとも、例えばPKOなどに
自衛隊を
派遣するに当たっても、基本的な構想がないということが浮き彫りになっている問題であります。だから、その辺をどうしていくかという問題。
それからもう
一つは、
国内の
危機管理の問題であります。
我々は、今回の
テロ事件においての重要な
当事者である。しかも、相手の
立場で見ると、
日本は、今回の
テロがあろうとなかろうと、
アメリカの最重要な同盟国でございます。
日本国がなければ、
アメリカの覇権というものは、これは確立できないぐらいの
立場でございます。それは客観的な事実としてあるし、そうであればこそ、ソ連、ロシアの時代を通じて一九九七年まで、あの国の核弾頭をつけたミサイルは
日本列島に照準を合わせていたじゃないですか。デンバー・サミットでエリツィン大統領が照準を外すと言って初めて、それは、そういう心配が一応ない時代になった。まあ、照準というのはすぐ戻せますけれ
どもね、戻せば。だからそれは、
アメリカと事を構える場合、
日本列島を核で吹き飛ばす必要がある場合もあるからねらうわけであります。そこで、我々が持たなきゃいけない
当事者意識というのは明らかなんですよ。
だから、今回、
テロリストグループの
立場から見ても、
日本は、
世界と共同
行動をとっているという
立場から見てもやはりターゲットになり得る、我々は少なくとも
テロをやられないだけの抑止力を備えていることを見せつけなきゃいけない、そういった
立場なんです。そのために、やはり
政治は
行動し、税金を使わなきゃいけない。これは、党派を超えてきちんとやらなきゃいけない話なんです。
ただ、この国会周辺、総理官邸の周辺を
テロリストの目でいつも僕は見て歩いているんですけれ
ども、警察官のたたずまいを見ただけで、ああ、これは
テロ対策なんかない国だとわかります。警察官が命がけでやっているということは僕は評価しますが、その警察官、このままだったら、あっという間に殺されちゃうんですよ。だから、やはりハイレベルの能力を備えているということが伝わるようなことはやっておかなきゃいけないだろうと思っています。
これは駆け足で、あと三分ぐらいでばっと今の話をいたしますが、例えば
自衛隊を
派遣するに当たって、武器をどうするかとか、武器使用についてどうするかとかいう問題はありますが、少なくとも、難民の救援などに
自衛隊を出す場合でも、例えば、タリバン勢力というのは大した軍事力は持っていないんですよ。しかし、それが例えば難民キャンプに迫っているという
情報が入って、難民を保護しながら若干撤退しなきゃいけないという
状況が出てきた場合、どうするんですか。外務省の役人たちなんか、もう自分でチャリンコで行って、何か怖いやつがいたら、くるっとUターンしてぱっと逃げればいいと思っているらしい。
しかし、軍事組織の
行動というのは、そんな軽いものじゃないんです。非常に鈍重なんです、特に陸上部隊というのは。これは、
自衛隊の中でも陸海空でまだ認識が一致していない。海上
自衛隊、出港準備した船だったら、乗り物に乗っているからばっと出られると思っている。だから陸上
自衛隊は重いと言うけれ
ども、おまえら何言っているんだという話をするんですね。もうちょっと勉強しようよというので、今度、十九日にやるんですよ、
防衛庁の中で。
例えば、
アメリカの陸軍の師団だって、普通の師団が動員命令が出てから戦場で戦闘加入するまで、マニュアルどおりにいったって三十日かかるのだから、重い。しかも、難民を抱えて下がらなきゃいけないということになりますと、遅滞
行動という
言葉が必要になるのですよ。つまり、迫ってくる敵に対して、少なくとも重迫撃砲でどんどん撃ち込んで、足どめをかけながらじりじり下がるということは最低限できなきゃだめなんです。でも、このぐらいの遅滞
行動ができるぐらいの装備品を持っていたって、正規軍同士の戦闘には加入できないんですよ。
だから、そこのところできちっと線を引けば、憲法の枠内で、例えばPKFに
自衛隊の普通科連隊を出して、国際的にも
日本の果たすべき役割をきちっと全うするということはできるという
議論はあり得るわけであります。
私自身は、必要があれば後でお話しいたしますが、PKFに関しても
日本モデルというものが憲法の枠内で実現し得る。これは、
防衛庁の中心的な課長さん方とも話をし、
自衛隊の高級幹部たちとも話をし、多分これで国際的にも
国内的にも大丈夫だろうけれ
ども、問題は、あとは
政治だなと。内閣法制局の
方々がきちっと理解をしてくだされば、あとは
政治がそれをクリアすればできるだろう。
これは逆に言いますと、
日本は国際的な貢献をしていないじゃないかという外圧によって、いきなり憲法を侵犯しないための歯どめでもあるのですよ。悪法は法なんて言い方をすると怒られるけれ
ども、憲法の完成度を高めなきゃいけないという問題はいっぱいあるわけです。この憲法が足かせになって何もできないということじゃだめだし、しかし、憲法に問題があるからといって、がっと外圧に押されてこれを侵すようなことがあれば、自国の憲法も守れない信用ならない国となりますから、その面から我々は国益を損ねるわけであります。
だから、やはりそういった歯どめにもなるような形で
一つの
自衛隊の
派遣のあり方というものを、PKFということも念頭に入れながら考え、今回の
テロ対策にも活用していただきたい。
それから、
危機管理の中で
テロ対策ということでいいますと、昨年の九州・沖縄サミットの
時点で線を引きますと、現在どうかという問題は社会的
責任があるから言いませんよ、
テロリストに手口を教える。
アメリカでいうと国
会議員は口が軽いということになっているから、
日本の国
会議員はそういうことはないと思うけれ
ども、いろいろ問題になりました。
ただ、やはりこれは、去年の九州・沖縄サミットの
時点でいうと、本当に幼稚園
年少組。警察は、
日本の警察はいい点いっぱいあるのですよ、しかし、
テロ対策についてはもう本当に無知。自分たちが国際的に見ても全然役割を果たせないということについての自覚がない、そこが問題である。これは、警察庁の上層部には全部言いましたよ。
自衛隊も
テロ対策はだめなんです。ただ、それを自覚しているところはかわいい。そこら辺の違いなんです。
でも、それをはっきりして、まず、国会、皇居の警備も含めて、順番でいえばやはり警察なんですよ。これはいいのです。だから、野中さんが講演で、警察がだめみたいじゃないかとおっしゃるから、だめなんですよというのが私の
意見ですよ。ただ、だめだということを自覚して、警察の能力を上げてやるということをやらないと、
自衛隊をどうしたってしようがない。そこに、やはり警察力じゃ対抗できないような事態がありますので、それはタイムラグが生じない格好で能力を上げた
自衛隊がカバーできるようにしていく。
だから、とにかく皇居や国会の周りに迷彩服が立っていれば戒厳令みたいだ、そのイメージはわかります。そうならないようにするというのがその前の
段階ですから、そういったことは、やはり
政治がきちっと
議論をしていただければ一気に実現できる話であります。これが
日本の
平和主義を実現する営みの
一つであるということで今回の
議論を進めていただければ、これにまさる幸せはございません。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)