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山田参考人 中央大学法学部の
山田でございます。
私は、大学では
労働法と
社会保障法を担当しております。きょうは、研究者の一人として、ここで
意見を言わせていただくことに大変感謝しております。
御承知のように、
男女共同参画
社会を迎えて、これからますます、いろいろ
参考人の三人の先生がおっしゃいましたように、
男女が安心して働きながら
家庭生活を維持できることが求められている時代が来ております。それからもう
一つは、
我が国の二十一世紀の課題として、やはり少子高齢化の中で、高齢化をとめることはできませんから、少子高齢化ということは、結局、
少子化の問題ということに収れんできるのではないかと思います。その意味で、もちろん基本的には
男女平等を達成することが基本的な問題関心ですけれ
ども、政策的には
少子化の
解消という重要な課題がこの今回の
法改正には込められているのではないかと思います。
その意味で、
男女平等を達成するためには、少なくとも四つの政策が必要ではないかと私は
考えております。
一番目が、実効のある
男女平等法です。いわゆる均等法ですね。ある意味でポジティブアクション、あるいは間接差別も含んだ、実効性のある規定を設けること等です。
二番目には、その実効性確保のための救済機関。裁判所というのはなかなか、訴えるというのは時間も勇気もお金も要りますので、むしろ行政機関が、イギリスのEOCやアメリカのEEOCのような行政機関による救済をすることが平等の実効性を確保できる手段ではないかと思います。
それから三番目が、
職場においてセクシュアルハラスメントがないような、安心して
男女が働けるような
職場環境の
整備。
そして四番目が、先ほど申しました、
育児、
介護を含めた、
職場だけではなくて
家庭でも
男女平等が図られることが
四つ目の要件ではないかと思います。前の三つは
職場における
男女平等だけが問題となっているんですけれ
ども、四番目の
育児、
介護については、
職場だけではなくて、
家庭での
男女平等も求められているという点で、他の三つと区別される重要な問題ではないかと思います。
そういう意味で、今回の
育児・
介護休業法について、さまざまな
意見はあると思いますけれ
ども、新しい
法改正がされたことは一応評価させていただきたいと思います。
具体的な問題について言及させていただきますけれ
ども、まず第一に、いわゆる
激変緩和措置。
育児や
介護に従事する
女性労働者に対して
労働時間を
制限する、いわゆる
労働基準法百三十三条の
激変緩和措置が、来年の三月、
平成十四年三月末で終了することになります。その後の
ポスト激変緩和措置をどうするかということがあったんですけれ
ども、これについても、小学校就学前まで、
男女に共通する時間
外労働の規制が問題となっていたわけですけれ
ども、ここでこういった上限
設定ができたことは非常に評価できるところではないかと思います。
ただ問題は、中で、事業の正常な運営を妨げる場合にはという条件がついております。これをどう
考えていくかということです。これは、
労働基準法の年休の
使用者の時季変更権の問題の要件でもありますし、あるいは、
育児・
介護休業法の
男女の深夜業の拒否権行使のときの要件でもあります。そういう意味で、これが具体的にどういうものを意味するのかという点をぜひ指針等で明確にしていただきたいということが第一点です。
それから、同じこの問題につきましては、時間
外労働の上限
設定を
請求する場合、一カ月前までにするということになっているんですけれ
ども、
育児や
介護の緊急性を
考えた場合には、当然、
企業の人的な配慮の
関係で
一定の準備
期間が必要ということはよく
理解できるんですけれ
ども、
一定の例外、緊急的な事態については一カ月以内の短い
期間でも例外的にそれを認めるような
措置もとっていただきたいと
考えております。
次に、これは大きな問題点だと思いますけれ
ども、第二が、
育児・
介護休業の取得を
理由とする不利益取り扱いの問題です。
従来これは解雇については
制限があったんですけれ
ども、では解雇以外の不利益取り扱いというのは何かというのは非常に大きな問題で、私、推測ですけれ
ども、具体的定義が出なかったというのは、恐らくこれはかなり
労使で
意見が対立した結果ではないかと推測しておりますけれ
ども、そういう意味で、どこまで不利益を与えるかということ。これは、現在の
法律でも、例えば、産前産後
休暇について、
労働基準法六十五条に規定がありまして、それを受けて十九条で解雇を禁止しております。そういう意味で、産前産後の休業取得を
理由とする場合には現行の
労働基準法は解雇は禁止しておりますけれ
ども、その他の不利益取り扱いは禁止していないという点で、現在、この
育児休業取得、似ているところがあります。
これにつきましては、東京高等裁判所の判決で、先生方御承知と思いますけれ
ども、ボーナスを支給する条件として九〇%出勤することを条件としていて、その欠勤扱いとして産前産後
休暇やあるいは
育児時間、
育児休業や
育児休業法上の
労働時間
短縮措置を含めていて、そしてその
女性職員は、
最初は、産前
休暇はボーナスがなくなるのでとらなくて、倒れてしまって出産をしたのですけれ
ども、産後
休暇はとらざるを得ないので、当然それをとれば一〇%超えますので、ボーナス支給なし。次回は、ではということで、
育児休業法の
労働時間
短縮措置をとって、やはりそれで一〇%割ってしまってボーナスが支給されないということについて、裁判所は、そういった産前産後
休暇について解雇を
育児休業法は禁止している、そういった趣旨からすれば、欠勤扱いにできるのは
労働者の責めに帰すべき事由に限定すべきであるとして、これは
育児休業取得自体ではなくて、
育児休業法上の
労働時間
短縮措置をとったことを
理由とする不利益取り扱いについて、それがボーナスの九〇%条項という
関係で問題となったのですけれ
ども、
一つのその
考え方はとても
参考になると思いますね。
ただ、もう
一つとして非常に難しい問題は、先ほどちょっと
参考人の方からありましたけれ
ども、例えば、
育児休業を取得したからといって昇進試験を受けさせないというのは、それは許されないということは明確だと思いますけれ
ども、例えば、ある程度欠勤した
労働者に対してどの程度の不利益を課すことが公平であるかというのは、結構微妙な問題ですね。
例えば賞与とか、あるいはもちろん賞与の算定をどうするかとか、あるいは昇格、昇進にどう評価するかというのは、もちろん基本的には
育児休業などの取得を
理由として不利益取り扱いをしてはいけないということになりますけれ
ども、では、全くしてはいけないのか、これは微妙な問題だと思いますね。
それは、
一つには、もちろんこの休業をとったことによる不利益は基本的に抑えるべきですけれ
ども、反面、公平という観点からいいますと、他の
労働者、取得しない
労働者との公平性をどう担保するかという問題がもう一本入ってくる。この辺をどう調整するかというのは、極めて難しい問題。つまり、一〇〇%もらえるか、そういう
考え方もあり得ると思いますけれ
ども、ゼロもおかしい、しかし一〇〇%もらえるというのもどうかと、いろいろな論点が出てくる。
その点で、そういったボーナスの査定、あるいはそういった昇格などの人事考課をどうするかについては、やはり詳しい具体的な指針をつくって
検討していただくということが必要ではないかと
考えております。
それから、次の問題ですね。先ほど、今月二十七日の夕刊に、一面に、今回の育休
法改正の記事が出ていまして、非常にそこでは大きく、トップで取り上げられておりまして、それだけ
社会の関心も強いということを実感いたしましたけれ
ども、そこによりますと、不当な配転や昇格差別を禁止することが挙げられておりまして、不当な配転が、もちろん何をもって不当かが問題ですけれ
ども、不当な配転が許されない、
育児休業をとったことを
理由として不当に配転することが許されないのは当然のことですけれ
ども、問題は、昇格差別、何をもって不当な昇格差別とするかという基準、これは非常に難しいと思います。
そういう意味で、不利益をなるべく課さないということと、もう
一つは、他の従業員との公平さをどう担保するか、この二点の相反する基準を調整しながら基準づくりをするという作業が指針づくりの中で求められるのではないかと思います。
ところで、
育児、
介護については、一
年間全く休むという休み方もあるのですけれ
ども、フレキシブルな休み方が不可欠ではないかと
考えます。それは、例えば
介護休業についても、ずっと休む必要はなくて、例えば病院に通っているので月曜日の午前中だけ毎週休みたいというケースがありますね。その意味でも、そういったフレキシブルな
休暇のとり方、人員配置の問題もあるのですけれ
ども、を認めることが、それが
育児・
介護休業なんかがとりやすい
一つの方法ではないかと思います。
その意味で、
労働基準法上の例えば変形
労働時間制のように、働かせ方のフレキシビリティーと言われるのですけれ
ども、休み方のフレキシビリティー、あるいは働き方のフレキシビリティーを保障することも必要ではないかと
考えます。
また、
育児休業につきましても、あるケースでは、一
年間休業をとりますと、ある雑誌の
女性編集者のケースなんですけれ
ども、それをとって復職したときに、もうトレンドについていけないというので、他の部署に配転させられたということも聞いております。
そういう意味で、もちろんこれは
育児休業期間の満了時の原職復帰等の権利保障が必要なんですけれ
ども、なるべく休まない、休まないで済むなら休まない方が、そういう意味で
勤務時間
短縮制度が極めて重要な意味を持ってくるのではないかと思います。そういう意味で、今回の
勤務時間
短縮措置が三歳まで延びたということは、やはり評価される点ではないかと思います。
それからもう
一つ、
育児休業などの最大の問題点は、先ほ
ども御指摘がありましたけれ
ども、
男性の取得率が非常に低いということが大きな問題ではないかと思います。
しかし、やはり
社会では
男女が同じように荷物を持つということを
考えれば、
一つには不利益取り扱いを禁止する
措置と、もう
一つは積極的な、
男性がとれるような
制度づくり、ある程度
企業の
制度づくりを奨励するだけではなくて、
一定の
水準、
一定の
男性がとるような方法づくりが求められているのではないかと思います。
それから、第三の点は、努力
義務とはいえ、子の
看護休暇が導入されたことも
一つの前進ではないかと思われます。
看護休暇がない場合、小さな
子供を持つ
労働者は有給
休暇を取得していたわけですから、その意味で、
一つには、これは無給ということになると思いますけれ
ども、本来的には子の
看護休暇というのが努力
義務でも制定されたことの意味は非常に大きいと思いますけれ
ども、反面、今までこの
制度がなくても
労働者は有給
休暇をとっていたわけですから、その意味で、
実態はもしかしたら変わらないのかもしれない。もちろん、従来よりはとりやすいという面はあるのですけれ
ども、無給であれば、結局有休をとって
看護休暇をとるということになってしまうという問題があります。
そういう意味で、これだけを有給にするというのはちょっと突出していますので、なるべく
労使が有給にするような
ルールづくりを、それも指針の中でつくっていただきたいと希望しております。
それから、
最後の点が、配置に関する配慮
義務に関するものです。
現在、単身赴任者は三百万人を超えて、
女性も約千人近く単身赴任していると言われています。このような中で、今回のこの規定の中で、配転させる場合には
一定の
育児や
介護を配慮するということは非常に大切なことで、評価されるべきことですね。
けれ
ども、そこでむしろもう
一つの問題は、配転後の配慮の問題ですね。裁判例の中でも
使用者の配転命令を認める条件として、
一定の不利益を軽減する
義務というのを求める裁判例もあります。その意味で、
一つ配転時にそういった
育児等の状況を勘案して配転を決めるということも大事なんですけれ
ども、やはり、
育児、
介護との
関係で、配転以降の配慮
義務ですね、例えば
一つには自宅に月に一回ぐらいは帰れるような交通費の保障をするといったような、配転後の配慮
義務についても御
検討いただければと思います。
以上、時間が参りましたので、どうも御静聴ありがとうございました。(
拍手)