○速水
参考人 日本銀行は、本年六月、平成十二年度下期の通貨及び
金融の調節に関する
報告書を国会に
提出させていただきました。今回このような形で
日本銀行の
金融政策運営について説明する機会をいただきましたことを厚く御礼申し上げます。
日本銀行は、物価の継続的な
下落を防止し、持続的な経済成長の基盤を整備するという断固たる決意を持って、内外の中央
銀行の歴史に例を見ない思い切った
金融緩和
措置を機動的に講じてまいりました。また、先般の
米国における同時多発
テロ事件の発生後は、
資金決済の円滑と
金融市場の安定を確保するために、
市場に極めて大量の
資金を
供給いたしますなど、迅速な
対応に努めてまいりました。
そこで本席では、まず私から、最近の内外経済情勢や
金融政策運営につきまして申し述べさせていただきたいと思います。
内外経済情勢と八月の追加緩和
措置から始めたいと思いますが、
日本経済の動向を見ますと、昨年秋以降の世界的なIT関連分野の調整や、これを背景とします海外経済の急激な減速を受けまして、輸出が大きく落ち込み、また、国内生産も大幅な減少を見ることになりました。
海外経済の方は、その後も減速傾向を一段と強めてまいりました。すなわち、
米国や東アジアでの経済の調整がさらに深まる中で、欧州でも景気の減速が次第に明確となってまいりました。こうしたもとで、
日本の輸出や生産は大幅な減少を続け、
企業の収益や設備
投資も減少に転じてまいりました。さらに最近では、このような
企業部門の調整の
影響が雇用・所得面にも広がり始めるなど、経済の情勢は厳しさを増してきております。この間、物価は、需要の落ち込みに加え、技術革新や流通合理化、安値輸入品流入の
影響な
どもあって、
下落傾向を続けております。
こうした経済情勢の悪化に対して、
日本銀行は三月に、コールレートという金利にかわって、日銀当座預金という
資金の量を
金融調節の主たる操作目標として、その上で、この残高を、それまでの四兆円
程度から五兆円
程度に増額するという、思い切った
金融緩和に踏み切りました。さらに、この新しい
金融調節の枠組みを
消費者物価の上昇率が安定的にゼロ%以上となるまで続けることを決めました。
さらに八月には、この新しい枠組みのもとで、
金融面から景気回復を支援する力をさらに強化するために、日銀当座預金残高を六兆円
程度に増額するとともに、大量の
資金供給を円滑に行うため、必要に応じて長期国債の買い入れを増額いたしました。
その後、今月の十一日には、
米国において、同時多発
テロという大変衝撃的な、また痛ましい事件が起こりました。
事件の発生後、
日本銀行は直ちに危機
対策本部を設置するとともに、東京の
金融市場が開く前に、私が談話を発表し、
資金決済の円滑と
金融市場の安定確保に万全を期すという断固たる
姿勢を明らかにしました。その上で
日本銀行は、翌十二日朝、世界に最初に開かれる東京の
市場で、
流動性需要の増加に
対応して、二兆円という大量の
資金供給を機動的に
実施しました。これで日銀当座預金残高は八兆円を上回る
水準にまで引き上がったわけでございます。
その後、内外の
金融市場を見ますと、
日本銀行を初めとする主要中央
銀行による潤沢な
資金供給や、
市場参加者による適切な
対応の結果、これまでのところは、
取引や決済面での大きな混乱は回避されております。
しかし、今回の事件が、内外の
金融・資本
市場や、ひいては
実体経済活動にどのような
影響を与えていくのか、引き続き細心の注意を持って見守っていく必要があると思います。また、今後、万が一にも
資金決済の円滑さや
金融市場の安定性が損なわれるような
事態になりますと、これまでの思い切った
金融緩和
措置の効果浸透にも支障を来すおそれがあります。
こうした情勢にかんがみて、
日本銀行は、今週、九月十八日に開催されました定例の
金融政策決定会合におきまして、議長であります私の提案により、当初十八、十九日の二日間とされておりました日程を一日に短縮して、速やかに
金融政策運営の方針を決定することといたしました。その上で、
金融市場の安定を確保するとともに、
金融緩和のより強力な効果浸透を図る観点から、次の三つの
措置を決定いたしました。
第一に、当面、日銀当座預金残高について、具体的な目標金額を特定せず、
市場が必要とする
資金を機動的にかつ潤沢に
供給していくことといたしました。
第二に、公定歩合の引き下げを
実施いたしました。現在、公定歩合は、本年三月に導入したロンバート型貸付制度、すなわち、担保など一定の条件を満たせば、
金融機関が
日本銀行から自動的に貸し出しを受けられるという制度の適用金利となっているわけでございます。これを今回〇・一五%引き下げまして、〇・一%といたしました。
第三に、九月中間期末に向けました臨時
措置として、ロンバート型貸付制度の利用の上限日数を引き上げることといたしました。
このように
日本銀行は、本年入り後、世界的な経済情勢の悪化や
米国における
テロ事件の発生といった困難な局面の中で、機動的かつ弾力的な
金融政策運営に全力を挙げて努めてまいりました。
仮に、
日本銀行は物価の
下落を放置しているといった見方があるとすれば、それは全くの誤解です。この点は、ぜひとも御理解いただきたいと思います。
しかし、
日本銀行が
金融市場に対して
資金を文字どおりじゃぶじゃぶに
供給しても、そうした
金融緩和の効果が
金融機関行動や
実体経済活動になかなか伝わっていかないのが現状でございます。このような
状況のもとでは、物価の
下落傾向を
金融緩和だけで食いとめていくことは難しいと言わざるを得ません。
金融緩和の効果が十分に発揮され、
日本経済が安定的かつ持続的な成長軌道に復帰するためには、現在の極めて緩和的な
金融環境を活用するような前向きの経済活動を促して、民間需要を喚起することが不可欠だと思います。そのためには、
不良債権の処理により
金融システムの機能を回復させることや、
税制面での
措置などを通じて資本
市場の機能を高めていくこと、さらには、民間需要を効果的に引き出していく
方向で
財政支出の内容を見直していくことなどが重要かと思います。とりわけ、
不良債権問題、裏から見れば
企業の
過剰債務の問題が解決しない
状況のもとでは、
日本銀行による思い切った
金融緩和は効果を発揮しにくいと申してよいかと思います。
日本銀行は、物価の継続的な
下落を防止するとともに、
不良債権処理に伴う問題への
対応も含め、
日本経済の安定的かつ持続的な成長の基盤を整備するために、今後とも中央
銀行としてなし得る最大限の努力をしていく決意でございます。同時に、
金融システム面や経済、産業面での構造
改革への取り組みがたゆまず進められていくことを強く期待している次第でございます。
御清聴ありがとうございました。