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最高裁判所長官代理者(堀籠幸男君) 昨日の最高
裁判所裁判官会議におきまして、いわゆる福岡の問題につき最高
裁判所調査委員会による
調査結果の
報告がされ、了承されました。
このたび参議院
法務委員会においてこの問題について集中審議がされることとなりましたが、その審議に先立ちまして、
調査委員会の
委員長を務めました私から
調査結果の
概要について
説明させていただきたいと思います。
調査報告の結論は
報告書の冒頭に掲げた三点にまとめられております。これを読み上げますと、
一 古川龍一判事の妻古川園子を被疑者として、福岡簡易
裁判所に対し、
平成十二年十二月十三日、十二月二十二日、
平成十三年一月九日、一月二十九日、一月三十一日の五回にわたって各種の令状請求があり、各回について
裁判所部内で令状請求
関係書類のコピーが取られたが、令状請求のあった事実を含めてこれらの書類の
内容が古川判事に漏洩した事実はない。
二
司法行政上の
目的から、本件令状請求に伴い
裁判所部内で伝達された
情報が許容される必要最小限度を超えていた点に問題があり、さらに令状請求
関係書類のコピーを取って伝達したことは、不適切であったといわざるを得ない。
これらの問題点については、
司法行政上速やかに再発防止策を講じなければならない。
三 古川判事が、妻古川園子の
刑事事件に関する証拠を隠滅したと認めるに足りる証拠はない。
というものであります。
本件の令状請求
関係書類のコピーの問題に関連して、裁判部門から
司法行政部門への
情報伝達の
あり方について若干御
説明したいと思います。
裁判部門は独立してその職権を行使するものでありますから、裁判部門の
情報は原則として当該部門内にとどめられるべきものであり、みだりに
司法行政部門に開示することは裁判の公正を
確保する見地から許されないものと考えます。しかし、同時に、
司法行政部門は裁判が適正迅速に行われるようこれを
支援するためにあるものでありますから、このような
目的を達するために、合理的な必要がある限りにおいては、裁判部門から
司法行政部門に対して
情報を伝達することも許されると解すべきであります。この場合においても、令状請求
事件については、捜査の密行性の
要請がとりわけ強いことなどから、このような
情報提供が許されるのは例外的な場合に限られるものと考えられます。
司法行政上の
措置を必要とする場合として通常想定されるのは、一、当該令状請求
事件の裁判を担当する
裁判官を初めとする裁判
関係者や、宿舎、
庁舎の警備が必要となる場合、二、忌避、回避の問題を生じて、
裁判官の配置を変更したり、担当
事務に変更を加えることを考えなければならないときなど、当該
事件の裁判の公正性、適正性に対する
信頼を
確保するために必要な場合、三、極めて例外的でありますが、
裁判官本人及び
裁判官の妻子が
犯罪の被疑者として捜査の対象となっているときのように、公正な裁判の遂行に対する差し迫った障害があり、当該
裁判官がそのまま裁判
事務を続けることが相当かどうかを
検討しなければならない場合などがあります。このような場合、
司法行政部門が
司法行政上の手段をとる前提として、裁判部門から
司法行政部門に
情報が伝えられる必要があり、必要最小限の範囲でそれが許容されるものと考えられます。
本件では、
調査の結果、令状請求に伴い
裁判所部内で伝達された
情報が許容される必要最小限度を超え、さらに令状請求
関係書類のコピーをとって伝達したことが不適切であったとされたのでありまして、今後に向けて再発防止策を立てることが重要であると考えます。
本件において結果的に不適切な
処理がされたことについて考えてみた場合、本件が
裁判官の妻を被疑者として令状請求されたという希有な事態であったとはいえ、よるべき準則もなく、日ごろの職員の
指導にも本件のような事態に対処できるだけのものが欠けていたことが原因の
一つとして考えられます。この点は率直に反省しなければならないと思います。
早急に
検討すべき再発防止策は、令状請求があった場合において、それに関する
司法行政部門に伝達する際の取り扱いについての準則を定めることであります。
調査委員会は裁判部門から
司法行政部門への
情報伝達の
あり方を
検討しておりまして、これを参酌して、可能な限り限定的で明確な準則を設けるのが相当であるとの提言をしているところであります。どういった形で準則をつくるかにつき、
関係部局において直ちに
検討に入ることといたします。なお、この準則を定めるに当たっては、捜査機関との協議も必要であろうと思われます。
次に、
関係者の処分について
説明いたします。
昨日の
調査結果
報告が了承されたことを受けて、
関係者の処分の手続に着手しました。まず、
最高裁判所事務総長の権限に係るものとして、コピーに直接かかわった渡辺福岡地裁首席
書記官と松元福岡地裁
事務局長に対し、いずれも
懲戒処分として戒告することが決定され、処分手続が進められています。
その他、本件と
関係のある
裁判官としては、古川判事のほか、福岡高裁の青山長官、土肥
事務局長、さらには福岡地裁の小長光所長が考えられるところであり、昨日、
裁判官会議において福岡高裁に分限申し立てをするかどうかの
検討をしてもらうこととなりました。これを受けて、昨日の福岡高裁の常置
委員会においてこの四名について
裁判官分限法に基づく懲戒の申し立てをすることが決定されたとの
報告を受けました。
裁判官の懲戒は一般の公務員とは異なり裁判手続で行われますが、福岡地裁の小長光所長は福岡高裁の五人の
裁判官による合議体で、福岡高裁の青山長官、土肥
事務局長、古川判事については最高裁の大法廷において、いずれも分限裁判がされることになります。その結果、懲戒すべきか否かが審理され、決定により結論が示されます。したがって、
裁判官については直ちに処分結果が出るものではありませんが、結論が出次第、公表いたします。
報告の骨子は以上のとおりであります。
このたびの一連の出来事は捜査ないしは
調査によって
一定の結論を得たわけであり、
裁判所からの捜査
情報の漏えいはなく、古川判事においても証拠隠滅の事実を認めるに足りなかったわけではありますが、いずれにしてもその過程で
国民からさまざまな疑惑の目を向けられてもやむを得ない結果となったことはまことに遺憾であり、
裁判所としては、このたびの件を重い教訓として受けとめ、平素の
検察庁や
検察官との
関係においても厳格に襟を正していくべきものと考えております。これから
司法の
信頼回復に向けて努力してまいりたいと思っております。