○
参考人(三輪
定宣君) 三輪でございます。よろしくお願いいたします。
私は、二つの
法案につきまして、
内閣提出法案には基本的に反対、四会派提出
法案には基本的に賛成の
立場から
意見を申し述べます。
私は最近、
学級規模等に関して幾つかの調査
研究に参加いたしましたので、初めに主にそれらを踏まえて
意見を申し述べます。
まず、
内閣提出法案につきましては、第一の問題は、いわゆる四十人
学級基準を維持したことでございます。私どもの共同
研究では、
学級規模の
標準は二十人
程度とすべきであるという
結論でございます。
教育学者で
組織する日本
教育学会のチーム、私も含めて総勢三十三名が三年間、最近、科学
研究費の交付を受けて、
学校・
学級の適正編制に関する総合的
研究を行いまして、その総括の提言で次のように述べております。
学級規模の
標準は、二十人
程度とすべきである。(中略)財政
状況などの事情により
標準規模を大きくする場合も、二十五人以下に設定しなければその
効果は少ない。こうして初めて国際水準に到達する。なお、
加配よりも
学級定員の
標準を一人でも下げるべきであるというのが
現場教員の判断である。(中略)現在、
学校教育はたくさんの問題を抱えている。これらの問題解決のかぎ的条件は、
学校現場におけるゆとりの創出である。ゆとりの
中心は人間
関係のゆとりである。
教職員配置の
改善は、このゆとり創出の基本条件である。
学校改革政策の最優先事項として、上の提言をまず第一に
実現していただきたいということでございます。
その基礎には、具体的な調査
研究あるいは原理、歴史
研究や政策予測
研究とともに、最新の国際比較
研究がございます。例えば、四十五カ国の初等
学校四
学年の
学級編制基準は、二十五人以下が十三カ国、二十六から三十が九カ国、三十一から三十五人が六カ国、三十六から四十人が九カ国、そして四十一人以上が八カ国。まとめますと、三十人以下が四八・四%、約半分、三十五人以下が六二・二%で約六割であります。その根拠には、
学級規模と
教育効果に関する
研究の蓄積があり、この
報告書も内外で百三十五点の文献一覧を載せております。中でも、アメリカのグラス・スミス曲線がよく知られております。また、パーソナルスペース、つまり個人の縄張り範囲、占有空間の理論も注目されております。
次に、四十人
学級は、
現場の教員や
保護者、国民の要求からも遊離しております。民主
教育研究所の
教職員研究委員会、
責任者は私ですが、二年間、
学級規模と
教職員定数に関する調査を行いました。その中で調査項目の
一つに、あなたの望む
学級規模はどのくらいですかというものの回答は、
学習指導の面からでは、三十人以下が、教員八四・七%、父母八三・四%、二十五人以下がそれぞれ五三・八%、五六・六%。そして、
先生と
子供とのコミュニケーションの面からでは、三十人以下が、教員九一・九%、父母八八・八%、二十五人以下が、それぞれ六八・四%、六八・七%でした。
今の
教育学会の調査では、
小学校教員四千六百六十三人の回答は、三十人以下が、低
学年で九六・〇%、中
学年で九四・一%、高
学年で九一・二%、二十五人以下が、それぞれ八六・八%、六五・三%、五二・三%。要するに、教員、父母ともに八、九割が三十人以下を、そして六、七割が二十五人以下の
学級を望んでおります。
全国連合
小学校長会の調査、校長七百八十五人の回答でも、適正な
学級規模三十人以下が九〇・〇%です。各団体の
学級規模改善目標は、
教職員組合は三十人以下であり、それらの
実現を求める三千万署名運動では、十年来、署名数は毎年ほぼ二千万を超えております。政党では、自民党を除いてほぼ三十人以下、自民党でも千葉県連は二十五人です。財界では、経団連が二十から三十人
程度、九六年。
社会生産性本部が二十人
程度、九九年であります。自治体では、二〇〇一年三月現在、全国三千二百七十九自治体のうち、過去四年間に千五百七十八自治体、四八・一%が三十人以下
学級を国に求める
意見書を採択し、千葉県議会は全会一致で二十五人
学級の要望を決議しております。三十人以下
学級のコンセンサスは熟していると言えます。
三十人以下
学級の
実現は、教員の年齢構成の極端な不均衡を是正し、若い教員を継続的に採用し、
学校の活力を高めるためにも不可欠であります。日本
教師教育学会のチームが、最近、私が
研究代表となりまして、科学
研究費の交付を受けて、教員の年齢構成と教職活動・
教育効果に関する調査
研究を行いました。
それによりますと、現在、首都圏等の都市部では教員の年齢構成が極端に不均衡です。例えば調査時点の九七年度、
小学校の場合、千葉市では二十代教員は五・二%、四十代教員は五七・七%、東葛
地域、松戸市や柏市の
地域ですが、二十代が二・九%で五十代が五五・一%。四年余を経過してそのアンバランスはさらに進んでいると思います。教員の年齢幅は二十二から六十歳くらい。ですから各二五%
程度が均衡のとれた年齢構成ですが、
現状では極端に不均衡で、
子供や教員がいわば若い
先生に飢えている状態で
教育活動に多大の支障が生じ、教員採用・養成にも甚大な影響が及んでおります。
報告書はまとめで、教員採用の前倒し、平準化などとともに、若い教員の大量不足解決のために三十人
学級の緊急実施を提案しております。
第二の問題は、四十人
学級を前提とした
都道府県のそれを下回る
基準設定の問題です。
地方分権や機関委任事務廃止のもとでそれは当然ですが、国庫
負担金や地方交付税等の財源措置が伴っておりません。今日の自治体財政の危機的、破局的
状況では、実施されても局所的、しかも自治体の財政格差は避けられず、その場合も、
子供の居住
地域にかかわらず行き届いた
教育条件を平等に受けるという
教育の
機会均等に反します。現に、財政力指数、
基準財政需要額に対する
基準財政収入額の割合ですが、九七年から九九年度の平均は、四十七
都道府県の場合で自治体数が、指数が〇・三未満が十一、〇・三から〇・五未満が十九、〇・五から一未満が十六、そして一以上はわずか一で、市町村は
都道府県よりもさらに大きな格差があります。自治体の
学級規模改善の努力や方針が、均等の論理で国から制約されるおそれもあります。
今次
改善ではその自然減を補うにすぎず、実質的増加ではありません。しかも、義務制、高校のそれぞれの
人数も、少
人数授業やあるいは教諭以外の
定数改善のために法で縛られて、または
行政指導で誘導されて、
学級規模の
基準引き下げに活用できる余地がほとんどないと思います。自治体が住民要求とのはざまで苦境に立つなど、矛盾の激化は必至だと考えます。
第三の問題は、少
人数集団指導の
加配であります。
本来、少
人数教育は小中三
教科だけではなくて、すべての
学校、
学年、
教科で必要で、大きな限界がそこにあります。当面三
教科でも、その
加配は
小学校では五年間で八千六百人、毎年千七百二十人、全国の
小学校は二万三千八百六十一校ですから、毎年度七%ずつ、完了時でも三分の一の
学校に一人の計算です。平均的な十二
学級規模の
学校、一
学年二
クラスでは、六
学年のうち一
学年だけの三
教科、あるいは三
学年で一
教科ずつくらいしか少
人数授業ができないわけであります。中
学校では五年かかって各校平均一・三人
程度で、三
学年のうち一
学年の一・五
教科程度がせいぜい。高校では少
人数加配は新
教科の情報に限られております。第六次
計画の
チームティーチング等の個に応じた
教育の
加配で一・六万人や、
授業を持たない教員の活用の一部は、
学級規模基準の引き下げ、例えば一年生を三十五人
学級にするとか、いわゆる境界
学級、つまり一、二名の変動で
学級数が変わる
学級等の対応に使う余地を考慮しますと、少
人数加配に多くの定数が割けません。また、TT
加配は新規
加配とは違う性質の定数でございます。非常勤講師の採用でもそれほど拡大は見込めないと思います。基本三
教科で二十人
授業といいますと、すべての
学校や
学年で
実現するようですが、それは錯覚、幻想で、一斉に少
人数学級を求める要求や必要からほど遠いものと思います。
しかも、少
人数授業が
生活集団と
学習集団を分離して、
クラスを解体して行われることも問題であります。それは
学級づくりを困難にするでしょうし、
学習の
効果を妨げるでしょう。また、習熟度
集団に編制して行われれば、実質的には能力差別を生んで、
学級崩壊を制度的に助長しかねません。少
人数授業加配がいわゆるひもつきになり、
学校現場の実態、必要、あるいは要求に即した適正な利用を妨げることも懸念されます。
第四の問題は、非常勤講師の任用拡大であります。
非常勤講師は、近年、経費節減や需給の調整要員として増加しております。いわゆる定数崩しによって正規教員定数を複数の非常勤講師に換算、分割する新制度は、経費節約等のため乱用されるおそれがあります。非常勤講師は、
教職員集団の
一員として
教育活動を担っておりますが、総じて身分不安定、待遇は劣悪、差別的で、教員採用試験の受験勉強にも追われ、正規教員のような研修の
機会もないなど、教職に十分に専念することが困難な状態であります。
本来、
教育に臨時はあってはならないものであります。就職難のもとで非常勤講師の希望者は不足しないでしょうが、その乱用は若い教員の使い捨てになり、将来の教職の土台を掘り崩すことになりかねません。非常勤講師の当面大幅な待遇
改善とともに、正規採用の拡大、正規任用化などが必要だと思います。
第五の問題は、この
教職員定数の
改善に
教職員のオーバーワークや多忙、過労
状況の
改善措置を欠き、超過勤務や
授業時間の軽減、権利行使などが考慮されていないことであります。
神戸小
学生殺害事件の直後、NHKが全国の
教師の緊急アンケートとして、有効回答九百七十七人の結果を放映しました。九七年七月二十六日の「
教育トゥデイ」でありますが、あなたは今本当にやりたい
教育、納得のいく
教育ができていますかという質問に対して、はいはわずか一一%でいいえが七九%でありました。八割の
教師は力量が発揮されていないのです。そのいいえの理由は、ゆとりのない多忙、カリキュラムが多い、
クラスの
人数が多いでした。定年までもたないという
教師がふえ、中途退職者の割合は九七年三月、京都府の場合で
小学校七七・五、中
学校六九・八%で、七、八割に上ります。
教師の勤務実態を正確に調査し、その条件を抜本的に
改善するという観点から
教職員定数の見直しをすることが必要と思います。
第六は、
教職員定数の
改善に
学級や
授業を担当しない、または担当の少ない教員の定数や職務の見直しがなく、教頭複数配置のような、それを拡大するような措置になっていることであります。
最後に、四会派の提案は、公立小中
学校三十人
学級を十年間で完全実施することを骨格としており、基本的に賛成いたします。
私は、二十一世紀を展望して、当面、国公私立
学校の小中
学校、高校の三十人
学級、続いて二十五人
学級、
標準二十人
程度を
実現すべきものと考えますので、その一過程として評価いたします。三十一人以上の
学級の割合は、
小学校で四八・五%、中
学校で八〇・六%です、
資料によりますと。三十一人以上の
学級の平均数を三十四人と仮定しますと、そこに在籍する
児童生徒数とその割合はそれぞれ四百四十三万人、六二・七%、三百二十七万人、九六・五%という膨大な
人数ですし、高校ではほとんどが三十一人
学級であります。今回の措置はこの実態を放置したことになります。
教育基本法は、個人の尊厳、人格の完成を
教育目的の根幹に据えまして、そのための
教育条件整備を
政府の責務として規定しております。一人一人の
子供を人間として大切にし、それぞれの人間的可能性を最大限開花させることは、
教育への権利の保障であるとともに、極端な少子化のもとで日本
社会の将来の
発展を左右する大きな
課題だと思います。
教育条件の根幹として
学級規模の
改善、二十人
程度の少
人数学級の
実現が望まれるわけであります。
公
教育の対GNP比は、八一年度から九八年度の間に五・七七%から四・七六%に低下しております。九八年度のGNPが五百四兆円ですから、一年度だけでも五兆円が削減された計算です。その水準を幾らか復元すれば、三十人
学級実現の経費、推定約一・五兆円
程度は確保されます。
また、国際比較で公
教育費の対GDP比は、OECD二十九カ国中、日本はワースト二、最低から二番目で、OECD平均の七一%にとどまります。これはOECDのエデュケーション・アト・ア・グランス、
教育一覧の二〇〇〇年版からでありますが、このように
教育財政の立ちおくれが
教育条件の深刻な停滞を招いていることは明らかであります。
学級規模の推移に照らして、近年の少子化はその飛躍的
改善の絶好のチャンスであったと思います。大型土木事業や銀行救済など約何十兆円もの公的資金が投入されるのに比べますと、一兆円
程度を
教育費に振り分けることは決して不可能ではなく、要は政策選択の問題だと思います。
子供たちは私たちの未来であり、
教育費は未来をつくる真に公共的な費用です。最高の公共事業とも言うべき
教育に財政の重点を
転換させ、国の総力を挙げて三十人
学級達成を急ぐことは、日本の未来にかかわる重大な
課題と考えます。
政党会派を超えて、本
委員会の議員各位が結束し、牽引車となって、三十人
学級実現に向けて御奮闘くださることをお願いし、私の
意見陳述といたします。
ちょっと時間をオーバーいたしまして、大変失礼いたしました。