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参考人(
白井孝一君)
弁護士会の方の
資料につきましては、お
手元に「
犯罪被害者に対する総合的
支援に関する提言」及び「「
犯罪被害給付
制度に関する中間提言」に関する
意見書」というものを配付させていただいてありますので、ぜひともこれを
参考にしていただきたいというふうに
思います。
初めに、現在、
先生方も御承知のように、国連の
犯罪被害者の
人権宣言という内容からいたしまして、私
たち弁護士あるいは
弁護士会の
被害者に対する取り組みというのは大変おくれておりました。そればかりではなくて、
犯罪被害者の方から、
弁護士というのが二次
被害の
加害者になるという厳しい指摘もございまして、こういった中で私
たちは反省いたしまして、心を入れかえて、そしてようやく
弁護士会の方でもここ数年の間に
犯罪被害者支援ということについて真剣な取り組みを始めるようになりました。各
弁護士会内に
犯罪被害者支援に関する
委員会とか
支援センターというものを設けまして、そして特別に訓練を受けた
弁護士がこれに担当いたしまして、
相談活動等に乗るようになりました。
中には二十四時間
体制で、担当の
弁護士が携帯
電話を持ちまして、そして
被害者の方から
弁護士会に
電話がありますと携帯
電話に転送される、そしてなるべく早い機会に
弁護士が
被害者の方とアクセスがとれるようにというようなことをやっている
弁護士会もございますし、あるいはまた、
先ほど山上先生の方で
民間の
支援団体のことが報告ございましたけれども、そうした
支援団体の方に出向いていって当番制で相談に乗るというような
活動も始めております。
またあるいは、
弁護士が二次
被害の
加害者にならないようにということで、すべての会員に、
加害者にならないように注意するようにというパンフレットを配った
弁護士会も出てまいりました。
そういうことで、大変おくればせながらではありますが、少しずつ取り組みを始めております。
被害者の
方々の要求からいたしますとまだまだ足りないというふうに思っておりますけれども、何よりも、とにかく
現場において一人でも二人でも救済できるということを我々の
活動の基本に置くということでやっております。
そういうようなことを前提にいたしまして、それでは今後のあるべき姿、
被害者支援のあるべき姿というものはどうしたらいいんだろうかということで
検討いたしましたのが、そこに配らせていただきました総合的
支援に関する提言というものであります。時間が限られておりますので内容についてはぜひお読みいただきたいと
思いますが、根本的にはやはり私
たちとしては、総合的な
支援策というものを国の方で立てていただきたい、あるいはそれに準じて地方自治体でやっていただきたいということが趣旨でございます。
ここに、私が担当しました静岡県のある
被害者の方の例をちょっと御紹介いたしますと、この方の場合は、息子さんが高校二年生でしたけれども、全く
自分とは関係ない数名の若者に因縁をつけられまして、殴る、けるの暴行を受けて植物人間のようになってしまったというケースであります。
九六年の九月に
事件が起きまして、私どもが、
被害を受けた経済的な
被害等について報告を出していただいたのが九九年六月。およそ三年近くの間にどれぐらいの費用がかかったかというふうに申しますと、
病院の支払いが七百三十八万円です。これについて高額医療等で還付を受けたものが三百二十八万円ということであります。そのほか介護用品とか、特別に、寝たきりの
子供を運ぶための特別の車両とかその他の費用を含めますと、三年間でかかった費用が一千百六十九万円。そして、六カ月ごとぐらいに
病院をかわらなければならないという状態でありましたので、働いていた奥さんが一年間休職をしなければなりませんでしたが、休職期間中の減収が二百五十万円というような状態でありました。
しかし、
加害者側から受けた見舞金がありまして、また、特別に私どもの方でお願いをして県警の
犯罪被害者対策室の方に
努力していただきまして、この犯給法で支給されたお金が三百三十五万円ありました。そうした還付金や見舞金や
給付金等を含めまして、三年間に払われたお金が千二百九十三万円ということでありました。
したがって、この方
たちの実際に出費した千百六十九万円、受けたお金は千二百九十三万円ですけれども、奥さんの減収を入れますとマイナスの方が大きいと。しかも、これ三年間の総計ですので、その後、現在に至るまで毎月三十万円近くの
医療費を支払っておりまして、そのうち還付金などで戻ってきたものを考慮いたしましても、毎月十万円以上のお金がマイナスになっていくという状態にあります。
しかも、全く植物人間と同じような状況にありますので、
病院の方は、これ以上手当てしても治らないということですので、出ていってくださいということになります。この方は、九六年から九九年までの間に四つの
病院をかわらなければならないという状況にありました。静岡市に住んでいながら、中には伊豆の方まで
病院を探してそこでお願いすると。現在は藤枝市に
病院を移っておりますけれども、ここももうことしの夏が限度だろうと。また新しい施設を探さなければならない。そして、静岡県の方にこういう場合の施設はないだろうかということをお伺いを立てたところ、あることはあるけれども、現在百四十名の方が順番待ちをしている、そういう状態なので、あなたが順番に並んでいただいても入るのはいつになるかわかりませんという状態ということであります。
そして、
加害者に対する
裁判という問題ですけれども、私どものところに来たのは、
刑事裁判が終わってから見えました。この
加害者の諸君がなぜうちの
子供にこんなことをしたのか、本
人たちの口からどうしても聞きたいと。
刑事裁判をやっているときには息子の看病で精いっぱいで何が何だかわからない状態だったということで、私どものところに来ました。それがきっかけだったわけですが。
裁判をやっても、まず
最初に、どこの刑務所に入っているのかわからない。それから、殴った人間は三人だけではなくてほかにもいたはずなのに、その
人たちについてはどうなっているのかわからない。そういう状態でしたから、私
たちとしては、まず法務省の方に、矯正局の方に、どこの刑務所に服役しているのかという
弁護士会照会を出して回答を得るということもやりましたが、いつ出所するかはわからない、教えることはできないということでした。
それから、
裁判を起こす場合に
裁判費用というのがかかります。それは
弁護士費用以外に印紙代を払わなければなりませんが、この点につきましては、本来の請求額が非常に高くなり、印紙代も相当の金額になりましたが、
裁判所の方に訴訟救助を適用してほしいということをお願いしましたが、この方
たちは夫婦共働きですので一定の収入がかなりあると。実際には出費で、なくなっているにもかかわらず、収入を基本にいたしますと訴訟救助が出ないということで、何とかそれを工夫してやってもらえないだろうかということで、請求額を半額に減らして印紙代を半額に減らして、それでようやく
裁判官の
理解を得て訴訟救助を得たという状態ですが、後に和解が成立いたしますと、この訴訟救助を得た分を
裁判所に納めなければならないという状態でした。
そして、この方
たちはどうしても
加害者に
裁判に出てきていただきたい、本
人たちと直接話したいということでしたので、意図的にテレビや新聞に出て
加害者に
自分たちの苦しみが伝わるようにしたわけですが、幸いにして
加害者の方
たちが
裁判に出てきてくれました。私
たちとしては、
被害者の御両親と話をして、せっかく
加害者が刑務所から出てきて
社会復帰をしようとしているんだから、マスコミなどにさらされないようにということで、むしろ
加害者側を我々は擁護するというようなことで、
加害者については一切取材は避けてやってくれということをお願いしまして、そして彼らも謝罪をしたいという意思を表明したために対話が始まりました。
そして、前後十回にわたって
加害者と
被害者が直接対話をいたしまして、最終的には、お金は、今は一銭もお金がないので払えないけれども一生涯かけて支払っていきたいということで、毎月一万円か二万円ぐらいずつ払っていただくというような、金額的には本当に毎月三十万円の
医療費がかかるのに一万円や二万円ではとても焼け石に水ですけれども、本
人たちが一生涯かけてこの
被害者のために尽くしたいということを言ってくれたのでこれで和解をしたわけですが、同時に、本当に償うんだったらば、彼らは、
被害者の少年に会って、そして
病院の送り迎えとかなんとか
ボランティアのことをやりたいというふうに
加害者が申し出てくれたわけですが、現在会わせるとフラッシュバックが生じるおそれがあるということで、じゃ、
被害者本人に対して
ボランティアをするというつもりでほかの人にやってもらいたいということで、
裁判所の和解ではこの
加害者の方
たちがほかの困った人に対する
ボランティアをすると。そして、
事件のあった九月十五日に、毎年九月十五日に
被害者の両親に
ボランティアの内容を報告するという和解をしたわけでありますが、今現在両親が一番心配しているのは、私
たちが働けなくなったらうちの
子供はどうなるんだろうかということであります。
そういった
被害者の方に我々はどのようにこたえたらいいだろうかというのがこの
支援の
課題ということになると
思います。それに対してやはり少しでもこたえるようにというのが私
たちの提言であります。
今回の
法案は経済的
支援ということに関する犯給法についての
法案でございますので、その中で経済的
支援に関して申し述べたいと
思います。
私
たちが考えていますのは、経済的
支援というものを総合的に考える場合に三つの側面があるというふうに考えております。
一つは、今言いましたように、直接
被害者自身が
加害者に対して損害賠償等の請求をする、これがやはり一番の基本にありますので、この
加害者に対して損害回復を請求するについて効果的な
支援というものが必要であるというふうに考えております。
これにつきましてはどのようなことが考えられるか、問題になっているかといいますと、
加害者情報あるいは
事件情報に関する
提供。そして、早い段階からの
弁護士の
支援など法的サービスを受けられるようにすること。そのためには
法律扶助
制度を改善していただくこと。
犯罪被害者支援弁護士の国選弁護
制度を設けていただくこと。それから、
先ほど言いましたように訴訟救助の適用を改善すること。民事訴訟における
被害者の立証責任の軽減をすること、これは民事訴訟法の改正をしていただくということになります。それから、制裁的慰謝料というものを場合によっては認めるように民法を改正していただくこと。保全処分における保証金を無担保でできるようにしていただくこと。また、債権の優先性を認めるために抵当権に優先する先取特権を認めていただくこと。それから、
加害者から誠意ある謝罪を受け、十分なる対話に基づく解決を図るための仲裁
制度のようなそうした
制度を設けていただくこと。それから、民事、刑事をあわせて一緒に
裁判できるような附帯私訴
制度を新設すること。それから、
被害者の弁済を可能ならしめるような刑罰
制度の改善を図っていただくこと、というようなことを
弁護士会で
検討しております。
それから、次に公的補償という問題ですけれども、やはり公的補償ということを考える場合には、これは
被害者の
権利なんだという
権利性ということをやはり明確にすべきだというのが日弁連の考え方であります。
項目につきまして、医療関係費を含め、かなり細かいところも
検討しておりますが、時間がありませんので、項目につきましては割愛させていただきますが、今回のような単なる
医療費というだけではなくて、休業補償とかあるいはその他の点、施設の費用も含めまして総合的に見ていただきたいというのが提案であります。
それからまた、
事件直後の処理やあるいは介護のために会社を休まなければならないということになった場合、
被害者本人だけではなくて
家族などの会社を欠勤しなければならないという方があります。そのような場合に労働基準法を改正していただいてできる限り雇用の
確保をしていただくということと、同時に会社の経営者の方に対する補助を出していただくこと、そういうようなことも
検討しなければならないと
思います。
このように非常に多岐にわたって相当総合的にやらなければならないわけですけれども、やはりこれを一遍に
実現することは無理でありますので、当面、もしできれば自賠責保険並みの補償をしていただきたいというのが願いであります。これは今の国民
生活において、自動車の強制保険程度の補償はというのはコンセンサスが得られるのではないかということに基づくものであります。
第三番目の側面といたしましては、
民間支援団体に対する効果的な
支援を行うための経済的
援助ということであります。
民間支援団体による
ボランティアあるいは
専門家の
支援というのがどうしても必要不可欠だということであることは一致していると
思いますが、それを全部手弁当でやってくれ、自前でやってくれというのは、これはもうどだい無理な話であります。したがいまして、どうしても国の方から財政的な
援助を出していただきたいということが趣旨であります。例えば静岡県の場合などでは、
警察官の
方々が一人一人ポケットマネーから寄附をして、そうして財政を支えるというような気の毒な状態、そういう状態であります。ですから、ぜひとも国の費用で出していただきたい。私の試算では、全都道府県に五百万円ずつ出していただいてもたった二億三千五百万円で済みます。一千万円出しても四億七千万円で済むわけでありますから、ぜひともこの点をお考えいただきたいというのがお願いでございます。
今回の改正法の点につきましては、私どもは積極的に評価して、よくここまで
思い切った改正案を出していただいたというふうに考えております。一歩でも二歩でも前進するという点からいけば大変なことだというふうに考えております。これにつきましては、この
法案を作成していただくに当たって
検討会の諸
先生方やあるいは
警察庁の
被害者対策室の方が大変な
努力を尽くされたということを聞いておりますので、そうしたことの成果だというふうに私
たちは考えております。
しかしながら、やはり
被害者の要求という点からしますと、まず、金銭条項の点につきましてはまだまだ不足の点がありますので、それにつきましてはお
手元にお配りいたしました
意見書にしたためてありますので、ぜひそれを御
参考にしていただきたい。
基本的な考え方というのは、
警察庁が調査いたしましたおよそ平均的な想定される
被害者というものを想定いたしまして今回の改正案ができているわけでありますけれども、それよりもなお深刻な
方々を取り残してしまっていいのかということであります。やはりこの
法案はこの
法案の
制度として基本としながらも、より深刻で必要のある
被害者の方には、特別にその
被害者の方
たちにはこれだけのものを支給いたしますよという道を残していくべきではないかというのが趣旨でございます。
金銭条項につきましてはその程度で、あとは文書に譲りたいと
思いますが、もう一つ、
被害者の指定
援助団
体制度というものが新設され、そしてこの
法案では新しく
目的条項が設けられまして、この中で今までとは違った、金銭条項とは違ったものが含まれているということで、この点についてちょっと述べさせていただきたいと
思います。
まず、このような
警察あるいは
検察庁と連絡をとりまして連携いたしまして
被害者の
支援を
早期に行うということは、これは絶対必要でございます。ですから、このような
制度を設けていただくこと自体は私ど
もとしては賛成であります。
しかしながら、
被害者に対する
支援というものは、
警察や
検察庁と連絡をとり合いながら行う
支援だけではなくて、多方面にわたる非常に総合的な
支援であります。ですから、これを犯給法という
法律の中で公安
委員会の管轄の
もとに指定
団体ということで閉じ込めてしまうというだけでいいんだろうかということが我々の問題提起であります。
今回の改正案は改正案としてこれはいいのでありますけれども、総合的な
民間の
支援ということを考えました場合に、私
たちとしてはやはりそれにふさわしい
法律というものを別途つくるべきではないかと。
犯罪被害者支援法というような、仮にそのようなものをつくって、その中で
警察や
検察庁と連絡をとり合う、連携し合う
支援というものはどうあるべきかという条項を一項目設ける、そのような形にするのが本来のあり方ではないかというふうに考えております。
それからもう一つは、この指定団
体制度あるいは
警察の
情報提供等、あるいは人員派遣による
支援ということがこの犯給法という
法律に設けられたことによって、この犯給法という
法律の性格が変わったのではないかというふうに我々は評価いたしました。
と申しますのは、この犯給法の性格というものが恩恵的な見舞金的なものというふうに今まで述べられているわけですが、今回のように
民間による
援助団体というものの
制度を設ける、あるいは
警察が直接
情報提供や人員を派遣して
支援をするということになりますと、これは明らかに
被害者の
人権というものに対する
支援ということになります。
人権を回復するということに対する
支援ということになりますので、
人権回復の
活動に対する
支援という性格が加わってくるわけであります。これはある意味でいいますと我々が提唱しております
基本法の考え方の先取りというふうに評価できるわけでありまして、その意味では、
犯罪被害者等給付金支給法というこういう名称ではありますけれども、
法律の性格がここで一部大きく前進したのではないかというふうに
もとらえられるということであります。ですから、今後のこの
法律の運用あるいは解釈に当たりましてはそのようなことが言えるのではないかというふうに
思います。
ただ、いずれにいたしましても、
現場においてこれを生かすためには、
先ほどありましたように、我々
弁護士やあるいは
民間団体の方でもしっかりとした
研修、
倫理規定等を設けまして、この
法律をフルに活用できるような
体制というものを考えていきたい。
また、今回新たに拡大いたしました
給付金の内容につきましても、実際に
現場で
警察官の方の
意見を聞きますと、これだけやるには相当の人員と手間暇かけないととても大変ですというお話ですから、本当にこの
法律を生かすためには、しっかりとした人員配置と、そしてそれに申請をする側の方でも熟練する必要があるということを考えております。
したがいまして、私
たちといたしましては、本当は
基本法を
制定していただいて総合的な
体制をとっていただきたいというのが願いでありますが、この
法律をできるだけこの国会においていいものに修正していただいて、なおかつ我々
現場の方においてそれを生かすということを考えていきたいと
思います。