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参考人(
岡田尚君) 一九九一年の夏に、私は北海道の紋別に、私の事務所でオウムに殺害された坂本堤
弁護士のお母さんの坂本さちよさんと行ったことがあります。当時、坂本
弁護士一家救出活動を訴えて
全国を回りまして、紋別に行って訴えた集会の後、紋別の地で、いわゆる千四十七名の中の人たちと奥さんたち、家族の人たちが坂本さちよを激励する夕食会というのを催してくれました。
そのときに出てくる言葉は、飲んだりしていますから、とにかくうちの父ちゃんはあほやなと。何でもう少し
国鉄労働組合を早く脱退しなかったのか。この間まで一緒に働いてきて、そして中には
国鉄労働組合の役員をやった人がいて、その人のもとについてきていたのに、土壇場になってその役員も
国鉄労働組合を脱退する。脱退しようしようと毎日毎日思いながら何となく日々を過ごしているうちに脱退し切れなくて、そして不採用になってしまった。あなたばかな目を見るよというふうに私はずっと言ってたんだと、お母さんたちが一生懸命愚痴をこぼされました。
そのときに坂本さちよさんが、自分がどんなに不幸な人間なのかということを嘆き合うなら、皆さんたちより私の方がよっぽど不幸だろう。やっと
弁護士にした息子がある日突如いなくなり、嫁さんもいなくなり、初孫の一歳二カ月の子供も全部いなくなっちゃう。その事件の半年後でしたか、お父さん、つまり自分のだんなが労災でほとんど口もきけない。そういう事態になっている自分を嘆いて嘆いて、私はどうしてこんな目に遭うんだろうかということを最初はずっと思っていた。でも、結局自分は生きていかなきゃいけない。そのときに、何て運の悪い人間なんだろうかということを悩んでいるだけではどうしようもない。やっぱり、可能な限り自分の中でいいことを見つけたり、明るいことを見つけたりしていくことで生きていくしかないんだという
お話をされて、それまで何て自分は運の悪い運命をしょわされたのかと愚痴ばっかりこぼしていらっしゃった、いわゆる千四十七名の奥さんたちも、本当に逆に激励されたという夕食会でありました。
一千四十七名の人の問題でよく国会でも、衆議院でも、一人平均七十四回に及ぶ職業相談をし、三十四回の職業あっせんをしましたという話が出ました。それを全部拒否して、そして今日に至っているんだろうか。何か一つのイデオロギーというか思想というか、そういうことをしょって立ってみんなが生きてきたんだろうか。
私は、多くの人たちと北海道の稚内から鹿児島まで本当にいろんなところを回りました。国の一つの政策、
法案、それは大きなところで判断を下していかなければならないと私も思います。しかし、その中に、巻き込まれると言っては表現が適当でないかもわかりませんが、その中に一人一人が生きているわけです。それは自分が選んだ人生かもわかりません。しかし、その旅立ちのときには自分が選んだ人生ではありません。国の政策、
法案、その中で一人一人の人間の生活というものに
影響を及ぼし、その人生の何分の一かをそのことのためだけに生きていかざるを得ない事態になっていることを、私は本当に
弁護士として具体的な人間と接している中でその思いを強くしております。
私がこれを申し上げるのは、今度の
法案が中身としていいとか悪いとかという御
意見もあるかと思います。しかし、やっぱり問われているのは、三社が
完全民営化することがいいのか悪いのかというだけの議論で、それで済むんでしょうか。十四年に及ぶ
国鉄の分割・
民営化の中でさまざまな問題が発生をしている問題をきちんと手当てもしないで、けじめもしないで、それで出発していいのでしょうか。
累積債務の処理の問題も、当時は六千億円の国民負担というふうに橋本運輸大臣がおっしゃいました。分割・
民営化後はそれにさらに加わるような国民負担はあり得ないと。しかし、御承知のとおり、三十五兆円の処理しなければならない長期債務、これはもともと、本当は
国鉄の債務というのは二十五兆五千億円だったんですよね。御承知のとおり、本四架橋公団だとか年金の負担だとか上乗せされて三十七兆円になりました。
清算
事業団が引き継いだ二十六兆円も、結局は
平成十年に二十八兆円に株を売ったり土地を売ったりしても膨らんでいて、二十四兆円を一般会計にして、結論からいえば国民負担。先ほど
四国の
社長さんもおっしゃいましたように、
経営安定基金として、いわゆる持参金と言っていいのか、つけた。しかし、当時七・三%の
金利は維持できない。四・何%かの
金利を前提にしながら、しかしその不足分をどこが手当てしているんでしょうか。何百億円に及ぶ負担をやっぱり国がしているわけです。固定資産税の優遇
措置も五年間延長しました。
そうすると、債務の問題もあるいはいわゆる
三島の問題も本当にどういうふうに今なっているんだろうか。できのいい長男三人が、もうおれたちはそれぞれ独立していくよ。できが悪いと言うと怒られるかもしれません。その
会社そのものができが悪いわけではありません。そういう構造を持っていた
三島の将来というのは本当にどうなるんですか。
扇大臣が衆議院で、新しく三社を、子供を育てるんだというふうにおっしゃいました。しかし、よく考えれば、
国鉄時代に一つだったものを、
三島も含めて
貨物も含めてどういうふうに育てられるんだろうか。そういう意味では、トータルに考えて、
国鉄の分割・
民営化の現実やそれが今も引きずっているものを見ないでというか、それを切り離して、できのいい息子だけが行くということでいいんでしょうか。
私は、大きな流れとしてこの
民営化の流れをもとに戻せと言うつもりはございません。しかし、今言ったように、労働者の問題も債務の問題も
三島や
貨物の
経営の問題も、それなりにこの際具体的な点検をしながら、検証をしながら、そして新しく生きる道を選択するなら選択しなければいけないんじゃないかと思います。
いわゆる一千四十七名問題でILO勧告というのが出されました。衆議院でもいっぱい議論をしていただきました。四党合意という線で政治解決という舞台に上っております。ILO勧告をよく読めば、
委員会はすべての
関係者に対し、当事者にとって満足でき、
関係する労働者が適正あるいは公正に補償される解決に早急に到達するという目的で四党合意を受け入れるよう勧告しています。ILO勧告は、御承知のとおりそれぞれの
関係当事者に対する勧告ではありません。
政府に対する勧告であります。ILOが
政府に対し何を勧告しているのか。それはやはり当事者にとって満足でき、
関係する労働者が適正公正に補償されるということを
政府が後押ししなさいということを言っているわけであります。そういう中身のものとして、四党合意をつくり上げるように勧告していると思います。丸裸のままの四党合意、そのことをILOが勧めているわけではありません。
ぜひそういう面では、その後押しというものをやはりしていただくのがILO勧告の趣旨にのっとった国の態度ではなかろうか。条約遵守義務を国が果たさなければならないとするならば、その根本のILOが言っていることをきちんと踏まえた解決にやはり乗り出すべきなのではないんでしょうか。
私は、結局、さまざまな国が決めていくことで、それは大きな道筋の中で正しいこともいっぱいあるだろうし、しかし、その中で具体的に一人一人の人間がどういう現実になり事態になっているかということをやはり視野に入れながら国の
施策は進められていくべきだというふうに思います。もちろん、たった一人の人のことにすべてがかかわっていたらそれは全体の政策は進まないということもありましょう。しかし、やはりそこに目を向けた、そこにちゃんと手の届く気配りをした政策、その実行というのがきちんとなされることによって政治というものがあり、人間の生き方や尊厳というものに対する思いというものがその当事者に伝わるならば、この国はもっとすばらしいものに、一人一人の国民が、やっぱりこういうものなんだ、国の政策はという確信を持って進めるのではないでしょうか。
私は、この十四年、恐らく大半の時間、坂本救出活動と
国鉄労働組合や全動労の組合の人たちのこの現実の中でどういうふうにやっていくかということを
全国を歩きながら考えました。私は、
日本の国で行っていない県は徳島県だけであります。オウムのときもやはり国会の
先生方にお世話になり、最終的な特別立法もつくっていただきました。何もないところから、そこに現実に発生している問題に対して
先生方の御助力でさまざまな
法案をつくり、それが具体的な人間を救済するという道も初めてわかりました。
私は、今回の
民営化法案について、
法案のどこそこがいいとか悪いとかという議論もあるかもわかりませんが、やはり
国鉄を解体して幾つかの
会社に分けて、そして出発をしたそのもとを抜きにしては本当の評価、本当のこれからの道筋を示すものにはならないだろうという思いを持ってきょう
意見を述べさせていただきました。
ありがとうございました。