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参考人(
中西寛君) ありがとうございます。
本日はこのような場にお招きいただきまして、ありがとうございました。
私は、
アメリカ、特にことしの一月に発足をしましたブッシュ新政権の
東アジア政策、特に
東アジアの
安全保障政策という観点からお話しさせていただきたいと思います。
アメリカのことですので、新聞、雑誌、テレビあるいはインターネット等で御列席の方々もよく御存じのことだと思いますけれども、私なりに調べたところをお話しさせていただきたいと思います。
まず具体的な
政策的な分析に入る前に、新しく発足しました
ブッシュ政権の性格ということについてお話をしておきたいと思います。
ブッシュ政権は、御存じのとおり、かつてのブッシュ大統領の息子でありますジョージ・ブッシュ氏が大統領になったわけですけれども、まずブッシュ大統領、あるいは
ブッシュ政権の性格を見る上では
二つの視点があるんではないかというふうに思っております。
第一の視点は、いわばたいまつは次の世代へというふうにいいますでしょうか、世代的な問題でありまして、ブッシュ新大統領は一九四五、六年生まれですからクリントンと同い年でありまして、彼と大統領選を争いましたゴア氏もほぼ同じ世代であります。こうした世代によって大統領選が争われたということは、
アメリカの政治指導の世代というのが五十歳代の世代、あるいは太平洋戦争を知らずにむしろベトナム戦争の時代に移ったということをはっきりと確定したということではないかと思います。
そして、後ほどお話をいたしますように、ブッシュ新政権を固める閣僚のうちの主要な
人たちは、新大統領よりは年上の
人たちでありまして、かつての共和党政権、この最近三十年間で、
クリントン政権の八年間とカーター政権の四年間、合わせて十二年間を除くと共和党政権が続いておるわけですけれども、このかつての共和党政権の遺産といいますか資産といいますか、そういった
人々が閣僚を固めるということであります。
したがいまして、このブッシュ新政権の第一の性格といいますのは、新しい世代、クリントン、ブッシュ・ジュニア世代に共和党がそれまでの培った資産を継承していく。まず最初の四年間で、そうしたシニアな閣僚がブッシュにさまざまな政治教育を与え、四年後の選挙に勝って新しい世代に共和党のリーダーシップを移していくということが基本的な性格であるというふうにまずは理解できるのではないかというふうに思われます。
第二の視点は、この共和党、民主党というのが
アメリカの二大政党で基本的な政治的バランスを構成しておるわけですけれども、その中で、それぞれ両党の結束、一致といったようなものは、この二十年あるいは三十年ばかりの間、それほど強いものではありませんでした。共和党、民主党の中にそれぞれ幾つかの流れがありまして、その間の対立
関係というのは比較的強いものだったわけですけれども、このブッシュ新政権においても、共和党の中のいわゆる共和党保守派というグループと共和党中道派というグループの間の潜在的な対立、路線の違いというのはいまだに継続しているというふうに理解できるということであります。しかし、レーガン政権以降のいわゆる
アメリカの保守革命を受けまして、この
二つの路線の対立、中道的な路線と保守的な路線の対立というのは次第に性格を変えつつあるように思われます。
そこで、共和党としては、この八年間、最初の四年、さらにはその後の四年を展望しておるわけですけれども、その間に共和党が
一つのまとまった路線、中道と保守を融合したような路線をつくっていくということを考えていく。そのために、
アメリカの
ブッシュ政権下での内政、外交
政策を考えているということではなかろうかと思います。
このような
二つの視点を踏まえた上で、先ほど申しましたように、少なくとも、このたび発足しましたブッシュ新政権においては、特に外交・
安全保障問題については比較的経験の少ないブッシュ新大統領よりはそれまでに外交・
安全保障について長い経験を有する共和党のメンバーたちが主導権を握ると思われるわけですが、それらの
人々について簡単に見ておきたいと思います。
まず、公的な地位において一番高い地位にありますのはチェイニー副大統領でありまして、
アメリカの副大統領の地位というのはさまざまに変わりますけれども、このブッシュ新政権については、チェイニー副大統領の地位はかなり高いというふうに考えられます。彼はブッシュ前政権の国防長官であります。
それから、国防長官になりましたラムズフェルド氏は主要な閣僚の中でも一番年齢が高い六十八歳ということになりますけれども、このチェイニー副大統領の前任者としてフォード政権における首席補佐官をしておりましたから、この政権の中でも最も
発言力の高い一人というふうに考えられます。
それから、国務長官には湾岸戦争のときによくテレビにも出てきましたパウエル元統合参謀本部議長が就任をいたしました。彼は六十三歳でありまして、政治的にはどちらかといえば彼は中道に近いと目されております。かつて大統領選、大統領候補にも擬されたときがありましたが、そのときも共和党か民主党かというのがはっきりしないというふうに考えられていた人でありまして、そういった意味では、チェイニーやラムズフェルドはどちらかといえば共和党保守派に近い存在であるのに対してパウエル氏は中道に近い。
この両者の違いというのがどれほど重要なものであるかということについては注意を要するので、しばしば
アメリカの政権内で
考え方の違いというのはあるわけですから、この違いが決定的にあるというふうに考える必要はないと思いますけれども、ややニュアンスの違いがあるということは留意さるべき点ではなかろうかと思います。
こうしたチェイニー、ラムズフェルド、パウエルという三人が一番シニアなレベルであるというふうに考えられますが、そのほかに若い世代として、
国家安全保障会議、NSCを担当する
大統領補佐官に任命されましたコンドリーザ・ライス氏という、スタンフォード大学で教授をしていた女性の方がおられます。彼女はロシア問題の
専門家でありますが、一九五四年生まれでありまして、主要閣僚の中では数少ないブッシュ氏よりも年下の世代であります。
そこで、恐らくこの
ブッシュ政権の基本的な発想としては、フォーマルな国務、国防あるいは副大統領といったようなラインが実際の
政策の中心に当たり、ライス氏が主轄するNSCはスピーチをつくるであるとか、あるいは長期的な
政策を練るといったような場所として使われるということではないかと思います。
このNSCには、ライス氏のもとにトーケル・パターソン氏という、国防総省に以前、
日本部長として勤めていて、
日本語もよく知っているという方が上級
アジア部長という肩書で就任することがほぼ予定されておりますので、彼がNSCにおける
日本問題あるいは
東アジア問題での主たる責任を負うということが予想されます。
しかし、実際面での対日あるいは対
アジア政策についての中心は、フォーマルな省庁のトップの下にいる
人たち、例えば先日国務副長官に任命されましたアーミテージ氏、彼は国防、もともとは海軍士官、海兵隊にいた人でありまして、軍事にも詳しい人でありますが、彼が国務副長官、それから彼と同じ年齢、五十五歳のウォルフビッツ氏が国防副長官ということになりまして、この二人、それにアーミテージ氏の下になりますけれども、ジム・ケリー氏という、これも海軍出身の方ですが、彼が国務次官補になる予定でありまして、こうした
人たちが実務を担当していって、先ほどのパターソン氏、あるいはUSTR、通商代表部の代表に任命されましたロバート・ゼーリック氏、ゼーリック氏も四十七歳と若い人ですが、あるいは経済問題担当の
大統領補佐官になりますリンゼー氏といったような若い世代と組んで
アジア問題などを扱っていくというふうに予想されます。
次に、議会との
関係でありますけれども、御存じのとおり、大統領選は史上まれに見る接戦でございましたから、そのことにかかわって民主、共和両党の対立意識というのはやや高まったということになります。それを反映しまして、議会との
関係がこの
ブッシュ政権についてもとりあえずは重要な政治問題であるということは言うまでもございません。
議会の構成を考えますと、上院においては共和党が五十、民主党が四十九ということでありまして、ほぼ拮抗しております。それから、下院につきましても、共和党が二百十七、民主党が二百八ということでありますから、票差は九でありまして、やや共和党が上回っておりまして、共和党優位ということではあるんですけれども、議会との
関係はそれほど盤石なものではないということになります。
同時に、ブッシュ大統領個人に対する世論の支持率は今のところそれほど、これまでの
アメリカの歴史から見ると高いものとは言えませんで、この段階での世論
調査で五五%ぐらいの支持率ということで、大体六〇%ぐらい普通はありますものですから、それに比べるとブッシュ氏個人の威信というのはやや低いということになりますので、この点からも議会との調整が重要な問題になる。
このことは、対外
政策においても、特に問題となるような軍事的行動を行うときに民主党が反対をする、拒否的な行動をとるという力が比較的強いということを意味しているように思われます。それほど、特に
米国民に犠牲、リスクが及ぶようなものでなければ、例えば先日のイラクに対する空爆のようなものであれば大統領の裁量のうちで行うことが可能でありましょうけれども、人道的あるいはその他の理由での軍隊の派遣といったようなことについては議会の説得というのはより困難なことになる。共和党政権自身がそれに対してやや消極的であるというふうに言われておりますけれども、議会との
関係からいっても、対外的な介入、
アメリカの
国家に対して負担の大きい介入については消極的になるもう
一つの
要因ではないかというふうに思われます。
次に、このブッシュ新政権の
東アジア安全保障政策の基本方針ということについて、今までのところからわかる範囲で触れておきたいと思います。
ただ、最初に申し上げておかなければいけないのは、
ブッシュ政権が発足しましてまだ二カ月弱でありまして、その間、
ブッシュ政権の基本的な対外
政策における力点というのは、軍事・国防問題についての見直しをするという方針を明らかにしたこと、そして
クリントン政権の末期から重要なイシューになっておりました中東における和平問題に力をかけるということでありまして、
東アジア問題についてはまだそれほど具体的な
政策を提示しているというわけではないということであります。したがいまして、先ほど触れましたようなアーミテージ氏、ウォルフビッツ氏が本格的に仕事を始める今ごろの段階からだんだんと具体的な性格が見えてくるだろうということなのでありますけれども、そうした限定を置いた上で
ブッシュ政権の
東アジア安全保障政策について見てまいりたいと思います。
まず第一の要素は、この
ブッシュ政権がいわゆる
国家ミサイル防衛構想、NMDというふうにレジュメでは書いておりますが、この問題については比較的強いコミットメントを示しているということであります。これは、
アメリカ本土を弾道ミサイル、大規模なものではなくて比較的小規模な弾道ミサイルの
脅威から守ろうという技術的、戦略的な計画であります。
この問題は、
一つには軍事的な理由から、ミサイルの拡散、第三
世界、
発展途上国に対する拡散が広まってきたという軍事的、戦略的な理由から重要であるという
意見がございますし、もう
一つはレーガン政権のいわゆるスターウオーズ構想、SDI構想以来、共和党、民主党、あるいは左派と右派を分ける非常に重要な政治的イシューでもあるという点でありまして、この点で、NMDを重視するというのは共和党右派がこの
ブッシュ政権の中で主導権を握っているという政治的なメッセージでもあるわけであります。
そして、このNMD問題との関連で一番最初に問題になりますのは言うまでもなくロシアとの
関係でありまして、一九七二年に
アメリカと
ソ連の間で結ばれましたABM条約という条約がございまして、この条約によって両国はミサイル防衛についてのシステムについての配備についてはかなり厳格な制限を相互に了解しております。したがって、NMDについて本格的にこれを配備するということになればABM条約との抵触というのはほぼ避けられない
事態であります。
そのことからしまして、
アメリカとしては、NMDを推進するに当たりましてABM条約を一方的に廃棄してロシアとの
関係を無視する、あるいはロシアとの
関係が悪化することを踏まえてABM条約を廃棄するのか、それともロシアに何らかのインセンティブを与えてABM条約の修正に応じるように持っていくのかということが大きな選択になるのでありまして、これは共和党の右派と中道派の間でやや
考え方の分かれるところではなかろうかというふうに思われます。
いずれにせよ、このロシアとの
関係という関連から
東アジアにもこのNMD問題というのは影響を及ぼすのでありまして、NMDを推進する理由の重要なものとして挙げられているのが
発展途上国、特に
北朝鮮のミサイル開発であります。
したがって、ロシアとしては、特にプーチン政権はABM条約を維持するということを重要な課題として掲げていますので、
北朝鮮に影響を及ぼして、そのミサイル開発計画を何らかの形で抑制することによって
アメリカにNMDを推進するような口実を与えないということを目標にしておるわけであります。したがって、その意味からロシアは近年、
朝鮮半島政策を重要視している
一つの理由でありまして、この点については
山岡参考人の方が御専門だと思いますのでまたお話があるかもしれませんけれども、この観点からもロシアと
東アジアの
安全保障の問題というのは注目さるべき問題ではなかろうかと思います。
次に、第二点目としまして
中国・
台湾政策に移りたいと思います。
先年十一月、ブッシュ大統領が投票が終わりましてまだ確定をしていない段階でありましたけれども、そのときに行ったブッシュ演説というのがこれまでのところの
ブッシュ政権の外交
政策の基本方針を述べたものというふうに理解されておりますが、その中でブッシュ大統領は、
中国は競争相手であり戦略的パートナーではない、悪意を持たずに接することは必要だが幻想を抱いてはならないという
表現を述べまして、従来の
クリントン政権が
中国について戦略的パートナーというふうに呼んだ
政策を変えたというふうに一部では理解をされております。
それほど明白に
変化があったかどうかということについては留保が必要でありまして、例えば先ほどのライス氏などはその前に書かれました論文においては、
中国をパートナーとしてではないけれどもやはり経済的には重要な存在、そして経済的な
変化を通じて
中国の
政治体制が
変化を遂げるといういわゆる関与
政策的な議論はしておりますので、その意味では変わっていないということも言えるわけです。ですから、この点でも
アメリカの対
中政策が固まったというふうには言えないだろうと思いますが、ただ幾つかの点で
脅威としての
中国というのを強調する側面が出てきていることは確かであります。
そうした根拠としては、
三つぐらい
中国の
脅威というのを考えているように思われるわけですけれども、まず第一は、
中国が核保有国、一定の核能力を持つ
国家としての
脅威でありまして、これはNMDあるいは
日本などとのTMDの
関係でも問題になることでありますが、これはなかなか厄介な問題でありまして、
アメリカとしては
中国をNMDの対象として考えるということは公式にはまだ言っておりません。当然のインプライされた、示唆された内容としてはそういうことがあるわけですけれども、
中国は核不拡散条約でも核保有を認められている国でありますし、戦略的安定を重視するか、あるいは核の
脅威を与える国として扱うかというのは微妙なぐらいの核能力を持っている国でありますので、この点は
アメリカとしても扱いをまだ決めていないという点だろうと思います。
二番目の
中国の
脅威は兵器拡散国としての
中国でありまして、例えば先日もイラクに対して空爆を
アメリカがイギリスとともに行いましたときに、
中国がイラクにおいて地下光ファイバーの建設を支援しているといったようなことを
中国の大使に正式に警告をしまして、
中国側はそうした
事態があるとすれば善処するといったような回答は米政権に寄せているようであります。これは従来、
アメリカが重視しております中東
関係の、あるいは武器の拡散問題などに関しても
中国の、兵器拡散国としての
中国としての側面を重視するという点で、この点では
ブッシュ政権の中に基本的なコンセンサスがあるのではないかというふうに思われます。
第三の視角は
台湾との
関係でありまして、これについては先ほど
高木参考人から詳しい御説明がありましたのでそうした前提のお話は省略をさせていただきたいと思いますけれども、近々予定されておりますのは、毎年四月に行われます
台湾に対する武器供与の問題についての、武器売却問題についての合意でありまして、ことしは
台湾に対して艦艇、いわゆるイージス艦と呼ばれる艦艇を供与するかどうかというのが大きなイシューになっております。
イージス艦は、TMD、ミサイル防衛に使えるものでありますから、
中国としても
台湾がイージス艦を持つかどうかというのは非常に注目しておるところでありまして、現在のところ、ブッシュ現政権はことしについてはイージス艦の売却は行わずに別の形の駆逐艦あるいはレーダーシステム、ミサイル等を供与するというような報道がなされておりますけれども、私が知る限りでは最終的な決定ではありません。少なくとも現政権は、
台湾について、あるいは
台湾海峡において軍事バランスを保つ、そうしたことによって
中国が
台湾を
武力によって威嚇することは抑えようとするのではないかと思います。
このことは、議会においても比較的有力な共和党系議員の中にいわゆる親
台湾派という
人たちが多いということからも
一つの
背景があるのではないかというふうに思われるわけですが、その意味で、
クリントン政権が
戦略的あいまい性といいながらやや
中国寄り的な姿勢を示したように受け取られる場面があったとすれば、
ブッシュ政権は少なくともその当初においてはそのように受け取られることはないということをはっきりさせようというふうに考えているということは言えるのではないかと思います。
次に、
朝鮮半島政策でありますけれども、これは
クリントン政権下で行われてきましたいわゆる九四年の枠組み合意、
アメリカと
北朝鮮の間の枠組み合意のもとでの
政策というのを継承するかどうかということがイシューになろうかと思います。
例えば、
パウエル国務長官は就任の際の議会証言で、基本姿勢として、ミサイルの開発、輸出、
韓国の
脅威となっている戦力配備の問題を根本的に改善しない限り人道的な食糧支援以外の見返りを与えないでありますとか、
クリントン政権の関与
政策を続けることには問題はないが性急な
関係正常化には走らない、
日本や
韓国との協議を重視し現実的かつ非常に慎重に対応するというふうに語っておりまして、これは、
クリントン政権の基本路線は否定はしないけれども、
北朝鮮の出方、特に実質的な意味での
安全保障上の
変化というのが見られない限りは
アメリカが早急に動くことはないというふうな姿勢を示したというふうに理解できようかと思います。
その意味で、
アメリカとしては同盟国重視、
日本及び
韓国との協議のもとで対
北朝鮮政策については融和的であるよりも警戒的、あるいはウエイト・アンド・シーといいますか、待機的という
政策をとりあえずとろうというふうに考えているというふうに理解できますが、その点で問題になりますのは
アメリカと
韓国との
関係であります。
韓国の金大中政権は、御承知のとおり、いわゆる太陽
政策で
北朝鮮との和解、融和というものを
一つの基本路線としておりました。先日、プーチン・ロシア大統領が
韓国を訪れたときにも、プーチン大統領が太陽
政策に対して支持を与え、金大中大統領が金正日総書記のロシア訪問を歓迎するといったような交換がなされましたけれども、こうした意味ではプーチン大統領のロシア、そして
中国、さらに
北朝鮮、金大中政権下の
韓国といった国々が
朝鮮半島の緊張緩和にある意味で政治的ステークを持っているのに対して、
アメリカの政権との間にややそごが見られる雰囲気もあるわけです。したがいまして、金大中大統領が訪米を近々するはずでありますけれども、このときに、
アメリカ、
韓国の
関係がどのようになるかということが注目されるわけであります。
次に、大分時間もなくなりましたけれども、日米安保
関係について簡単に触れたいと思います。
日米
関係につきましても、まだ
ブッシュ政権が発足して以降まとまった
政策表明というものはなされていないというふうに思われます。そのこともありまして、昨年十月に発表されました
アメリカ国防大学の
国家戦略研究所の報告がアーミテージ・レポートというふうに呼ばれまして、重要視されております。皆さんのお手元にある資料の中にも翻訳が抄訳ですけれども入っております。
このアーミテージ・レポートというのは、先ほど触れましたアーミテージ国務副長官、あるいはウォルフビッツ国防副長官、そしてパターソン氏なども、あるいはジム・ケリー氏なども入っておりまして、
他方で、民主党政権と
関係が深かったジョセフ・ナイ氏であるとかカート・キャンベル氏なども入っておりますバイパーティザンの、超党派の対日方針報告というふうに位置づけられておりまして、選挙期間中に出されたものですから共和党政権の
政策報告書として考えるべきではないというふうに思われますけれども、
一つの指針にはなる報告書だろうと思います。
この報告書自身は、政治、
安全保障、情報、経済、外交といったような広範な問題について扱っておりまして、
安全保障に特化したものではなく、その点は
日本の読者がこの報告書を理解する点で注意すべき点だと思いますが、ここでは
安全保障についてのみ若干触れておきたいと思います。
しばしば新聞でも取り上げられますように、この報告書の中ではかなりはっきりと、集団的自衛権の問題につきまして、これは
日本が決めることであるけれども、日米同盟の運用のためには集団的自衛権を
日本が
行使しないという方針が障害になっているというふうに述べております。その理由についてはっきり書いておりませんけれども、恐らく
二つの理由があるだろうと思います。
一つは、オペレーショナルといいますか、実際的な側面でありまして、新ガイドラインのもとで日米安保が機能するということになった場合に、集団的自衛権については
行使をしないという
日本の基本的なスタンスは、部隊を運用する場合に非常にやはり困難を生じる
可能性があるという点であります。
それから二番目は、政治的な問題でありまして、新ガイドラインを含めまして一九九六年の日米の安保についての共同
宣言にありますように、
冷戦後の日米安保の基本的な
政策は
地域的な
安全保障のためにこの
関係が基礎となるということでありまして、その意味ではオペレーショナルな面を超えて、
日本が
地域的な
安全保障のためにいかなる貢献をなすかという点が日米安保の基底にある哲学になるわけであります。その点で、
日本の
武力、軍事力は自国を守るためには使われるけれども
地域のためには使われないんだという基本的なスタンスを表明するものとして、集団的自衛権は政治的障害でもあるというふうに考えているのではないかと思います。この点からしますと、例えば
日本が、集団的自衛権の個別の問題ではありませんけれども、国連の平和・
安全保障活動などにもより積極的になるべきであるというこのアーミテージ・レポートの中の言葉は平仄が合ってくるわけであります。
次に、TMDの問題でありますが、この問題は先ほど言いましたように
アメリカの文脈での政治的側面がございますので、このアーミテージ・レポートではごく簡単に、従来の日米間の合意が推進されるべきであるというふうにしか触れておりません。しかし、これまでお話をしてきたような
ブッシュ政権の性格、特にラムズフェルド国防長官のNMDに対するステークといったようなものを考えますと、TMD問題もやはり重要な焦点の
一つになるであろうというふうに考えられます。
そして、この問題は
日本にとりましては、
日本はイージス艦を持っておりますけれども、そのイージス艦に配備され得るような形での海上でのミサイル防衛システムを構築することになるかどうかということが
一つのかぎであろうかと思います。
そのことは、
一つには、
台湾海峡における防衛の問題、
台湾海峡のミサイル
脅威について
日本あるいは日米間で運用されるTMDシステムが関与するのかどうかという問題をもたらしますし、もう
一つは、
朝鮮半島との
関係で
北朝鮮のミサイル
脅威をどのように考えるか、あるいは
韓国は従来TMDに消極的な姿勢を示しているんですけれども、日韓間の
安全保障上の問題ということの
可能性もあるわけです。そうした点から、
アメリカが推進するであろうと思われますTMD問題について
日本は改めて考え直す必要があるということではなかろうかと思います。
最後に、基地問題について触れたいと思いますが、このアーミテージ・レポートの中でも沖縄についてわざわざ別枠が設けて記述してありまして、
アメリカ側が沖縄を中心とする在日米軍基地問題について重要な関心ないし懸念を持っているということは明白であります。そして、大枠としましては、そうした対日関心のことが
一つと、もう
一つは、ラムズフェルド国防長官のもとで
アメリカの国防
政策あるいは軍事的な兵力配備の問題について基本的な見直しが行われるであろうということ。その
二つの
要因から、いわゆる
クリントン政権下で提唱されました
アジアにおける十万人
体制というのが見直しされる
可能性は比較的高いものではなかろうかというふうに考えられます。
ただ、問題は
二つありまして、
一つは、先ほど言いましたように、
台湾海峡あるいは
朝鮮半島の問題で
ブッシュ政権は協調的であるというよりは強固であるというイメージをつくりたいものでありますから、沖縄における海兵隊の兵力削減といったようなものを具体的に考える際にも、それが
中国、
北朝鮮に対してどのようなメッセージを送るのかという観点を抜きにして考えることはできないだろうという点。
それから第二番目に、
アメリカの全般的な兵力配備見直しあるいは軍事
政策の見直しの一環として在日米軍問題も扱われることになるわけでしょうから、その際に、日米安保
体制というのが、世論あるいは周辺国に対する配慮から兵力を減らすのではなくて、新たな
安全保障上の理由から兵力を再配置するのであるという形をとらないと、日米間でスムーズな基地問題についての重要な
政策変更というのも行われがたいということになるのではなかろうかと思います。
そういったことでありまして、恐らく
ブッシュ政権はそろそろ、特に金大中大統領の訪米をきっかけにして
東アジア政策について何らかの考えを明らかにしてくる段階だと思われますけれども、この一、二カ月あたりがそういった面では
ブッシュ政権の
東アジア安全保障政策については注目されるべき期間ではなかろうかというふうに考える次第であります。