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参考人(
鈴木佑司君) こういう機会を与えていただきましたことを感謝いたします。
私は、三ページにありますように、実はNGOの活動で
国連に長くかかわってまいりました。特に、ニューヨークではなくてパリに
国連のユネスコという組織がございますけれども、このユネスコを支える民間NGO活動は実は一九四七年に、つまり
日本が
国連に入る十年ほど前に仙台市で初めて生まれまして、現在は
世界に五千の兄弟がおります。そういう
意味では
日本の発信したNGOというのが実は私が長いことかかわりました運動でして、そこで見ました最も厄介な問題は実は先進国同士のすさまじい争いでありまして、
ドイツの方がおっしゃったように、そう先進国同士は甘くない、嫉妬と権力をめぐるすさまじい争いこそ実は
国連にとって非常に厄介な問題であるということをまざまざといたしました。
きょうお話しいたしますのは、少しそういう経験を踏まえて、五十年ぐらいのスケールで考えていただきたい問題を幾つか提出しておきたいというふうに思います。と申しますのも、
日本を除いてでき上がった
国連、
日本は明らかに敵国でありました。その敵国が実は
国連の新しい担い手として、重要な担い手として登場するには五十年かかってまだやれていない、そういうスケールで考えたらどうかというのが一点目。
二点目は、軍事
大国だから
日本が
安全保障理事会の
常任理事国になるとだれも思っていない、
お金を出し、さまざまな協力をするからです。全く違う要因が実は
日本をここに押し上げてきている。その
意味でいうと、一体これからどんなことが起こりそうかを、やや学問的になるかもしれませんが申し上げてみたいというのがきょうのテーマであります。ただ、
安全保障問題一点に絞って
議論をさせていただきたい。
最初に、お手元にレジュメとして統計図をお渡しいたしました。これは一九四五年から九五年までの五十年間の千人を超える
紛争の統計であります。死者が千人を超えるという
紛争は大
紛争です。
二番目に、
紛争といいますのは
戦争ではない。一方が国家、もしくは両方とも国家でない、例えば
宗教団体同士、人種同士、こういうものの武力対立を
紛争と申します。当事者が両方とも国家の場合を
戦争といいますので、
紛争という概念は大変広うございますが、三十九、千人以上の犠牲者を出した
紛争が
世界にございます。そのうち十八が一九八九年、冷戦が終わってからの
紛争であります。という
意味でいうと、大きい
紛争は冷戦が終わってから起こっているということになります。
それから、この図で見ていただきますと、
アジア太平洋地域は十一、中近東七、
アフリカ十二、中南米三、
ヨーロッパ六とございます。千人以上死んでいる
紛争はこれだけございます。しかし、私が注目してほしいのは死者の数の多さです。これだけの人が実は死んでおります。最近で一番大きい
紛争はルワンダという
アフリカにおけるツチ族とフツ族の戦いでございまして、一年半で八十万人が死にました。こういう巨大な
紛争が起こっております。
しかし、もう
一つ見ていただきたいのは死者と難民の数であります。第二次大戦までの
戦争は大体死者が避難民の六分の一と言われていたんですが、ちょうど今の
ヨーロッパがそうであります。三十三万死者が出て、百八十八万のいわゆる避難民です。ところが、
アジア、
アフリカ、中南米では避難民と死者の数が余り違わない。
紛争の残虐性であります。人種対立、
宗教対立という解きがたい原因が実は
紛争の原因になってきている。これが実は今日の
世界の特徴であります。
これをどうやって防いだらいいか、これが実は
世界が直面している最も厄介な問題。これをどうすると、そして軍事力で果たしてこれが解決できるのかどうかということが問われているのが今の時代であろうかと存じます。
これに対して明らかに大きい変化が今起こっているというふうに私は読んでおります。それはどうしてかというと、こういう
紛争が
戦争に、
戦争が
地域戦争に、
地域戦争が大
戦争に、
世界戦争に
発展しにくいメカニズムが既にあるというのが一点です。
二番目は、この
紛争を現場で解くという方法に随分と開拓、方法、人材、金が動くようになりました。つまり原因の場所で解決をする、それどころか
紛争が起こる前の対立の段階で予防的にこれを抑える。予防的措置と申しますけれども、
川村先生が言われたとおり、予防的な措置についてもさまざまなメカニズムが登場してまいりました。
そして、それを集約したのが実はここ数年
関心を集めております
人間の
安全保障、国家の
安全保障ではなくて
人間の
安全保障という
考え方であります。そして、これを実現する方法として、全く私どもがこれまで
安全保障にかかわらないと見てきた自治体とかNGOというのが登場しているというのが現実かと存じます。
そこで、非常に短い時間でございますけれども、安全に関して、安全という機能をだれがどうやったらいいかと。十九
世紀の中ごろから、御承知のとおりこれを扱うのは主権国家のみ、それも
大国のみという形で
世界は実は覇権秩序を求めてまいりました。この
最後が
アメリカという国であります、どなたも御存じのように。しかし、その
アメリカは覇権的な
立場になった途端に実はこの
役割を担えないという変化を起こした最初の国であります。御承知のとおり、湾岸
戦争のとき、私どもから一人当たり一万円以上の
お金を取り上げたわけであります。覇権とはすべての人の面倒を
お金でも軍事でも文化でも見るということが条件であります。これはキッシンジャーの本にも出ていますように、覇権とはすべての領域にわたる面倒を見る能力であります。見ることができなくなりました。
それにかわって出てまいりましたのが、多くの参加する
国々が共通して出し合う、公共財を出し合う、
お金を出し合う、軍隊を出し合う、知恵を出し合うというものです。その基準をグローバルスタンダードと言うふうになりました。しかし、これはしばしば
アメリカ的スタンダードかどうかというのが非常に厄介な問題ですが、少なくともグローバルスタンダードを
議論することになったことは明らかであります。
ということは、これはリヨンの
サミットからわかったことですけれども、一たん決まると
各国はそれにふさわしい国法をつくらなければならなくなりました。
環境基準についてのアジェンダ21ができますと
環境基本法をつくることになります。ところが、もっとおもしろいことがわかったのは、基本法を実施するための地方自治体における
環境アセスメント条例をつくらないとこれは実効性がないということがわかった。つまり、
国連と国家と地方自治体がそれぞれ
役割分担をする、これを現在政府機能の三層化と呼んでおります。
このことは、
安全保障の
世界でどういうことが出てきているかといいますと、
国連の
安保理だけでは実は安全機能を十分に果たすことができない。となると
地域、例えばAPECとかASEM、これは
アジア・
ヨーロッパ会議でございますけれども、こういう大きいメガリージョンという統合を遂げよう、こういうところで
議論をしようと。その下に今度は、マクロリージョンと呼んでいますが、
ASEANとか
EUというかなり具体的な
地域性がはっきりあって、平等の原則で、これだけ
お金を出し、これだけ兵隊を出しますよというメガ、マクロリージョンというのができてまいります。その下に、これを支えるためにどういう
地域がどういうものを出すか。現在、
日本では緊急援助隊が自治体から出ているというのは皆様御承知のとおり、消防署、警察官。実はこの重層的なメカニズム、これをセーフティーネットの重層性と呼んでおりますが、これがどうやら
安全保障の
世界に登場しかかっているのではないだろうか、これが実は仮説であります。
先ほど、五十年ぐらいで考えていただきたいと申しましたのは、P5、つまり
安全保障理事会の
常任理事国になるかならないかではなくて、なろうがなるまいが大きな国である
日本は必ずぶつかるであろう問題があります。それは、先ほど申しましたこの
世界的
紛争にどういう
格好でかかわるかであります。
P5になるというふうに私は思います。ユネスコで経験している限り、明らかに票の動きは先進国の票が少のうございますから、明らかに勝つと思います、ただし一点だけ除いて。最も近い
大国の恐らく嫉妬、イギリスであり、フランスであり、
中国であり、
アメリカの嫉妬というものを解決する能力がなかりせば多分P5にはなれないと思いますが、票であれば絶対に勝つと思います。
問題は、勝つ勝たないではなくて、なった後に一体どうする。いや、ならなくたってやらなきゃいけないことがある、その手だてと能力を一体我々はどのように持ったらいいかということが実は一番重要なテーマではなかろうかというふうに思います。
そこで、どんな
課題が重要かということを次に掲げてみました。三つございます。
これは
川村先生とかなり重なるところでございますけれども、
一つは、
紛争の解決に私どもはかかわらざるを得ない。
世界のGDPの一五%を一国で握り、
世界じゅうとかかわりを持つこんな国が
紛争が起こって知らんぷりは到底できません。これまで実は
紛争の解決にさまざまな
格好で既にかかわっております。これは後で申します。そのかかわったところは、
紛争を軍事的に抑える、停戦に持っていく、こういうことはやっていないけれども、
紛争原因の除去に対しては相当深く
日本はこの五十年かかわってまいりました。
経済協力がその
一つであります。つまり、
紛争原因の根本に戻ってこれを
一つ一つ解決していくということが実は五十年、百年、最も重要なかかわり方だと仮にすれば、この点では
日本は相当深くかかわってきているということは事実であります。しかも、相当深い
貢献をしてきているように思います。
その限りでいうと、
日本がかかわった
アジア太平洋地域において、例えば
ASEAN諸国、私はこれは専門の研究対象でありますけれども、一体
ASEANで
紛争はどういうふうに変わったかと申しますと、一九六〇年代の後半以降
戦争は
一つもありません。すべて
経済成長しております。現在、人種対立、
宗教対立はございますけれども、これについてもかなりの展望がございます。その限りで申しますと、
紛争の防止から
紛争原因の除去へと恐らく
世界的には
努力が動いていくというふうに思われます。
二つ目に、そういう
紛争原因そのものを解いていくというふうにするには一体どうしたらいいかということが実は知恵の出しどころであり、この点が非常に重要になるわけでございますが、これには既に非常に明快な
国連のコンセプトがございます。どちらもUNDPという
経済社会理事会から出てきた新しい
考え方でございまして、
安全保障理事会ではないんですけれども、
国連の
経済社会理事会は
日本が最も影響力を持ち得る重要な理事会でありますが、ここのUNDPという組織が
人間開発とか
人間の
安全保障というコンセプトを既に出して五、六年、長いのは十年たっております。
こういう方法として、それぞれの
人々まで行き届く
紛争原因の解決の仕方というノウハウは、学会においても、そして
国連のさまざまな
機関においても経験が集積されてまいりましたし、実は
日本の国家のメカニズムの中にあります、例えばJICAという組織は既にこれに深くコミットしておりますし、
アメリカのUSAIDもこれにかかわっておりますし、さまざまな先進国の援助団体もこれにかかわるようになりました。
実は、方法として、国家に
お金をつぎ込めば汚職が起こり、独裁体制が次々に出てきてしまうという矛盾を解決する方法として編み出された
人間の
開発とか
人間の
安全保障というコンセプトは明らかに
長期的に効果を上げるだろうというふうに私は思いますし、
日本にとって最も強いところであります。
実は
日本が弱いし、これから恐らく重要になると思いますのは次の点であります。
それは、担い手が恐ろしく多様になると。ここにお見えの先生方は国会の、つまり国政にあずかる先生方でありますけれども、国家だけではなくて、実は自治体もNGOも
地域のさまざまな組織も深くかかわる。ちょうど
ヨーロッパにおいて
EUと
各国と
各国のいわゆる都道府県とNGOが縦型に協力する、それぞれ分担を決めて
一つのことをやり遂げていく、こういうのを相互補完性と申しますけれども、相互依存と相互補完性を組み合わせるようなやり方が出てまいりました。NGOが重要な位置を占めてきておるというのはどなたも恐らく否定されないというふうに存じます。
ということは、私が一言で言えばというのは次の二つでございます。
一つは、
国連改革というのはきょうのテーマであります。そして、その組織の
改革は絶対に必要でありますが、私が見てきた
途上国の組織
改革は、つくったころには政権がかわり、また新しい組織案をつくって、でき上がったころはまた政府がかわってという、組織
改革案だけが山ほどできて
一つも実現できないというのがこれまでの実は
途上国の欠陥でありましたし、恐らく国際組織の重要な欠陥であろうかと存じます。
私がかかわりました八年間のユネスコの
改革は、八つの報告が毎年つくられましたが
一つも実現できませんでした。それほど実は組織いじりというのは難しい。しかし、機能
改革というのは日常的に可能であります。そうして、その機能
改革において、ある面でいうと
お金を出し、出し方を工夫し、これについてさまざまな専門家を育ててきたという点で
日本の
貢献はこれから非常に注目を浴びると私は思います。
もう
一つ、非常に重要なポイントがございます。これは、ここにお見えの国会の先生方が
国連の場にほとんど行っていらっしゃらない、あるいはオン・ザ・ジョブ・トレーニングをやっていらっしゃらない、議場で
発言をされていないと。もっとも、国
会議員の先生方が行ってもNGO席しか座れないかもしれません。私どもと同格でございます。しかし実は、開かれた
国連をつくる、
国民に開かれた援助をするということをお決めになり、開かれた
国民参加型の援助を実現することができた
日本のあり方でいえば、
国連をそれぞれの
国民に開いていくということは十分可能なはずであります。
実は、どうやって開かれた
国連にしていくかということなしに、今までのような、本当に閉じられたごくごくわずかな五カ国だけの
国連というのは、これは二十一
世紀には通用しない。六番目の
常任理事国になったところで、秘密クラブだけでは恐らく
意味がない。その
意味でいうと、
日本は初めてその秘密クラブをあけていく、オープンにしていく。軍事力ではない、違う経験であけていく最初の秩序あるおもしろい
役割を、したがってそういう
意味では、
欧米とは違う新しい
貢献ができるのではないかというのが私の申し上げたかったことであります。
ありがとうございました。