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参考人(
金子晃一君)
金子でございます。私の方は、お手元のレジュメにございますように、新潟県立小出病院といいまして自治体系の病院で、総合病院の中で精神科の医者をやっておる者でございます。
本日は、
精神障害など
障害を持つ患者さんの
医療を担当しているという
医療提供者側としての立場、また
医師という
資格を持っているという
医療職の一員として、今回の
法律案に関しまして
一言御意見を述べさせていただきたいと思っております。
私のところにも、現在外来の受け持ち患者さんが約七百名ぐらい個人的にいらっしゃいますけれども、その中にも
医療職の方はいらっしゃいまして、
幾つかのことがございました。
例えば、ある看護婦さんは、精神分裂病という精神疾患を発病されて、非常に激烈な幻覚、妄想状態になりました。残念ながら、非自発的、つまり強制的な入院治療もやむを得ないような状態になったことがございます。ただ、この方に関しましても、十分に休息をする、また適切な治療を行うことによって
障害を残さずに病気は治癒しております。それで、現在はきちんとお勤めをなさっています。
また、最近の事例でございますが、医者の中にも当然ながらうつ病などになる方もいらっしゃって、約半年間、適正に
業務が行えないという状態になった方がいらっしゃいました。ただ、この方に関しましても、きちんと治療をした結果、病気の方は治りましたし、またストレスを感じるという環境を調整するということによって、つまり職務の場所を変える、質を変えるということによって、その方の
能力が十分に発揮されるような場所で現在も医者を続けていらっしゃいます。
逆に、ある検査技師の方は、職場の方から見ていわゆるうつ病の症状が非常に強い、早くかからせたいんだと。ただ、御本人はそういったように精神科にかかったりすることによって自分の検査技師としての
資格が奪われてしまうのではないかと非常に不安になっていらっしゃいました。結局は、その方は
医療にかかる機会を逸したまま首をつられて亡くなってしまいましたけれども、そういったような、病気になった、
障害を持ったことによって自分の
資格が奪われてしまうのではないかというような危険性というか、危惧を御本
人たちが持ってしまうというのは非常に不幸なことだというふうに思っています。
今回の
法律案に関しまして、評価できる点を
幾つかまず述べさせていただきます。
一つは、絶対的な
欠格事由から
相対的欠格事由へと
改正されたことです。
障害者の方々の自立と
社会参加という
理念に基づいて、絶対的な
欠格事由、つまり一律に
資格を与えないということではなくて、相対的な、個別個別なその方の状況に合わせた
資格のあり方を検討するということは評価に値するものと思っております。
それから二点目は、
相対的欠格事由の的確な運用ということでございますが、つまり、具体的な
相対的欠格事由を的確に運用するということは、言いかえれば限定的に適用するということでもありましょうし、これは
障害を持った方々にも
資格取得に関して門戸を広げるものであると理解しております。
三点目は、
資格試験の
欠格条項の廃止でございます。これは、いわゆる
医師や歯科
医師の国家試験受験
資格に係る
欠格条項がなくなるようでございますが、このことに関しましては、
障害者の方々が自分の
能力を生かした形で
社会へ
参加する可能性が広がったものと理解しておりますので、これについては賛同させていただきたいと思っております。
それから四点目ですが、意見聴取手続の整備ということでございまして、
資格喪失該当の
障害者の方々に対してあらかじめその旨を通知して意見を聴取するというのは、
障害者の方々の
権利を尊重するという
意味で非常に重要だと思っています。これについても評価をいたしたいと思っています。
ただ、残念ながら、いまだ不十分であると思われるこの
法律案についてネガティブな面を
幾つか述べさせていただきたいと思っています。
一つは、疾病と
障害ということですが、疾病を主因とする
障害、つまり病気による
障害が多いわけですけれども、その疾病の症状が
障害の程度に大きくかかわるものが多いわけです。つまり、病気が治ってくれば
障害の程度も当然軽くなるわけでございまして、原則的には十分な休養と治療が優先されるべきであって、安易にそのときの疾病の症状による
障害によって欠格というような適用をなすべきではないと思っております。
二点目は、
資格試験と
欠格事由ということですけれども、
資格試験に合格された方でも該当者には
免許を与えないことがあるということになっておりますけれども、疾病が主因たる
障害においては当然ながら、先ほども申し上げましたように、疾病に対する治療が優先されるべきであって、
資格の取り消しが優先されるべきではございません。これは当たり前のことだと思っています。
ただ、相対的な
欠格事由につきましても、具体的なガイドラインをどう定めるかということが問題だろうと思っています。
個々の事例について、一般的から個別的へ、抽象的から具体的へというのは非常にいいと思うんですけれども、ただ、
社会規範や、例えば今回は医者の診断書が必要だということになっておりますけれども、その診断する医者の恣意的な
判断要素が入り込む懸念があると思います。
それで、大事なことは、診断に係る具体的で
障害当事者にもわかりやすいようなガイドラインの策定が必要ではないかと思います。今後、早急に政省令とその運用に関するガイドラインの策定
委員会を設置した方がいいと思いますし、それはまた
障害を持った方々自身の
参加を含むものであった方がよろしいかと思っております。また、このガイドラインは、
障害を惹起する疾病に着目するものではなくて、つまり、例えば
精神障害だからとかいうのではなくて、
業務の遂行
能力やその補助手段に着目したものになってもらいたいと思っております。その
意味では、
資格種別によって
障害を特定するというのは望ましくないものと考えています。
次に、意見聴取は
免許権者からの独立性を持つべきと思っております。欠格を理由とする
免許拒否処分には
行政不服
審査法が適用されるというふうに言われておりますけれども、
免許権者の方々が指定する人だけではなくて、
障害当事者を含め公平性や中立性に
配慮する必要があると思っております。また、もう一つは、欠格にも期間限定という考え方があってもいいのではないかと思っております。つまり、
障害の程度や補助手段によりまして、それも日々
障害の程度は変わり得るものでございますし、また補助手段は進歩するものでありますから、
業務遂行能力というのがそれにつれて変わってくるわけです。ですので、ぜひ期間限定のような欠格といいますか、
免許停止の処分もあっていいのかもしれないと思っています。
それからもう一つ、意見聴取の際には診断書作成
医師を同席した方がいいのではないかと。ただ、当然ながら、これはその意見を聴取する
障害を持った方々の求めに応じてということになるかと思いますけれども、先ほどもございましたが、その方々と信頼関係がある治療関係を持っている医者がその方のことをきちんと的確にまた
判断し御
説明する機会も必要なんではないか、診断書一枚だけでは不十分だろうと思っております。
それから次ですが、
異議申し立てと再
審査の規定。一回、欠格ということになりますと、なかなかその後の手だてがございませんように感じます。一定期間の
免許停止処分などにつけ加えまして、
免許拒否処分に関して
異議申し立てと再
審査の規定が必要だろうと思います。
さて、その次ですが、先ほどの
江草参考人からもございましたが、教育や就業環境の整備。つまり、いわゆる卒業試験とか国家試験の場合は
欠格条項がないわけですけれども、入学の時点で
障害を理由にはねられてしまっては問題があろうかと思いますから、ぜひその旨を、
厚生労働省管轄ではないかもしれませんけれども、文部科学省などにおいて各教育機関にこの
趣旨が周知徹底されるような施策を望みたいと思っています。
それから、最後ですけれども、
見直し規定が必要だと思います。我が国が今後、真のバリアフリー国家を目指そうとするならば、将来的に
欠格条項をなくして、より個別性に着目した対応に移行すべきです。また、相対的欠格に関する具体的なガイドライン策定や、また教育のあり方、就業環境の整備などにおいては、今後一定期間を要します。この
法律が国民と
障害を持った方々にとってさらによいものになるためにも、
見直し規定や附帯決議が必要であると考えています。
医療職の資質や
業務遂行能力というのは、疾病や
障害に特定されるものではなく、その病気や
障害を持った人が
医療業務を遂行することによって、むしろ病気の方々についての理解や援助が推進されるのではないかと考えております。
今回の
法改正をきっかけといたしまして、
障害を持った方々の完全
参加と平等が実現することを希望しております。
以上です。