○西村眞悟君 私は、自由党を代表して、
森総理大臣の
米国及び
ロシア訪問に関する
報告に対して
質問をいたします。(
拍手)
首脳外交は、お互いに国益を背負った礼服を着た戦闘とも言われるものでございます。しかるに、その直前に、国家主権の象徴たる
政府専用機の機内で、やめる時期を聞かれて目的地に向かう国家の代表は、
日本以外のどこにもおりません。ボクサーがリングに上がるときに引退時期を聞かれてそれに答えていれば、試合に負けるのは当たり前でございます。それと同じでございます。事実、
森総理は、父上の眠る
イルクーツクで負けたのでございます。
私は、
総理に、国家を背負って立つ者の気力の衰えを感じます。気力が衰えた者が国家を代表すれば、甚だしく国益を害するのは当然であります。与党内で何を言われておろうが、国民と相手国の
首脳は、
森総理の
総理大臣の地位にふさわしい気力と誠意を注視しているのであります。
よって、今回の
首脳会談に際し、
総理に、気力にもとることなかりしか、また、外交をみずからの延命手段に用いるという誠意にもとることなかりしか、国民に弁明していただきたいと存じます。(
拍手)
さて、
日ロ外交は、国内の
認識不足と意思分裂のために戦後最大の危機にあると思われます。対ロ
交渉に重点を当てて御
質問をいたします。
なぜなら、
我が国は、一九九〇年代に入り、いつの間にか四島一括返還という主張をトーンダウンさせており、七十億ドルを超す
経済支援をしたあげく、今までいかに不利な
状況においても堅持してきた領土に関する法と正義の
立場を、クラスノヤルスクから川奈に至る一連の
会談で放棄したと思われるからでございます。
そこで、原点に戻って、以下の点を
総理に確認したいと存じます。
一、ソ連を含む連合国の発した大西洋憲章は、領土不
拡大を明記しており、これこそソ連を継承した現在の
ロシアを拘束するものである。いわゆるヤルタの密約は、米英ソ
首脳、すなわち、ルーズベルト、チャーチル、スターリンの意図の
表明にすぎず、国際法上、領土移転の効力を持つものではない。
二、
日ロ間での千島の定義は、既に一八七五年に千島樺太交換条約において確定しており、それは得撫以北十八島である。
三、したがって、
日ロの国境線は、既に得撫と択捉の間に存在する。
さらに、一、国境線とは、領土が画定して初めて、それを前提として
技術的に定むるものである。したがって、領土画定なき国境線とはそもそも論理矛盾であり、仮に領土画定なき国境線があると思い込んでも、その線は法的に無効であり、幻である。
二、ところで、
ロシアは領土の画定よりはまず国境線の画定をとたびたび主張してきたところ、これを川奈で
日本側が受け入れたということは、論理的に無効なるものの画定を受け入れたこととなると同時に、北方領土に関する
我が国の法的地位の不確定をも受け入れたことになる。したがって、川奈における
日本の提案は領土の原点から大幅に後退したものであり、この提案が維持される限り、
我が国は、
ロシアに対し北方領土に関する法と正義の
立場を失い、以後、
ロシアに対しては不法占拠という言葉を使えなくなる。
三、よって、クラスノヤルスクから川奈に至る
日ロ会談は、国家における領土の
重要性にかんがみると、戦後
日本外交最大の失策である。
この
認識について
総理にお伺いしたいと存じます。(
拍手)
我が国は、エリツィン大統領にさらに十五億ドルを提供し、川奈
会談をセットしたのでありますが、その後、
ロシア側は小渕
総理に、川奈提案は受け入れることができないと通告し、さらに
プーチン大統領は、
クラスノヤルスク合意は
努力目標であると
表明したのであります。よって、この
ロシアの態度の変更に応じて、
我が国も、川奈提案を白紙に戻し、幻の国境線画定などの迷路への誘導にごまかされず、領土問題
解決の原点、つまり、法と正義の
立場に立ち返るべきであります。
総理は、クラスノヤルスク
会談と川奈提案を今後維持すべしと
考えておられるのか、御所見をお伺いしたいと存じます。
日本国内には、現在に至るも、時々、
ロシアに迎合するように、二島返還論や
平和条約と領土の分離論などが浮上しておりますが、一九五六年以来の
ロシアのたび重なる態度変更を眺めれば、利を得れば態度を豹変さすは
ロシア外交の常套であり、二島返還論や条約と領土の分離論を打ち出せば、
ロシアの術策にはまり、
我が国からの
経済支援だけが実行され、四島はおろか二島も返らないと心得るべきであると存じますが、
総理の見通しを述べていただきたいと存じます。
一九五六年の日
ソ共同宣言は、十年以上、シベリアに抑留された多数の
日本兵捕虜を人質にされ、サケ・マス漁業禁止区域を一方的に設定され、
国連加盟には拒否権を行使され、さらには、スターリンの呼びかけによって国内の分裂という、想像を絶するソ連側の一方的な圧力のもとで、
日本側松本全権がよく耐え続けた末、
締結されたものでございます。
この共同宣言が有効であると今さら
プーチン大統領が当たり前のことを言ったことがニュースになること自体、
ロシア外交の本質を雄弁に物語っているのでございます。
そして、四十五年前のあやふやな確認しかニュースにならない今回の
日ロ交渉は、田中
内閣が粘りに粘ってたどり着いた、
平和条約の障害は北方領土ただ一点、しかも四島一括返還という線を捨て去り、あの四十五年前の極めて不利益な
状況下に逆戻りさせることを確認したにすぎない完全な敗北でございます。
イルクーツクでの
会談は、
ロシア側は弱体化した
森総理との
会談に応じたこと自体で
日本側に貸しをつくることとし、
日本はマイナスのみ与えられた状態であります。国益の毀損、甚だしいものがございます。
総理を
ロシアに行かすべきではなかったと私は判断しておりますが、
総理の弁明をお聞かせいただきたいと存じます。
プーチン大統領は、
我が国に冷水を浴びせるかのように、当の
森総理大臣の主催する
沖縄サミット直前に、
北朝鮮を訪れて、
北朝鮮のミサイルは平和的性質のものであると
発言して友好善隣条約を
締結し、
中国とは戦略的パートナーシップを確認し、韓国とは京義線をシベリア鉄道まで連結させる
協議を行うなど、極東において帝政
ロシアの日清、日露前夜のような外交を展開し、さらに、
ロシアは聖なる我らの大国、南方の海から北極の
地域まで我らの森と平原がつながるという歌詞で、スターリンの制定したメロディーを持つ
ロシア連邦国歌を復活させ、現代の
ロシアにおいても、その権力の大国意識と伝統的支配圏への執着はソ連並びに帝政
ロシア時代と変わらないことを露骨に示してきた指導者でございます。
このような
ロシアが不法占拠する北方領土の返還
交渉は、一九五六年に比べて格段に増大した
我が国の国力と国際的存在感を背景にして、冒頭に述べた法と正義の原則を堅持し、功名心にとらわれて
ロシアの態度変更に惑わされて飛びつくことなく、方針を一貫させることによってのみ必ず
解決できると私は
考えますが、
総理の今回の
交渉を経た教訓を前提にした御見解をお伺いしたいと存じます。
さて、アメリカとの関係でございますが、
我が国が細心の注意を払うべきは、アメリカ大衆の心理の動向でございます。
憂慮すべきは、
総理訪米前に、アメリカの株安は
我が国経済の停滞が原因とする論調が
世界的に流れ始めたことでございます。
しかし、アメリカの株安は、
我が国の責任ではありません。アメリカは、この十年、
我が国の不況をしり目に右肩上がりの株式市場の好況を謳歌してまいりました。仮に
我が国の不況がアメリカ株安の原因とするならば、アメリカのこの十年の好景気の
説明がつかないのでございます。
総理はこのことを
ブッシュ大統領及びアメリカ大衆に明確に
説明されたのかどうか、お尋ねいたします。
しかしながら、アメリカ国民の貯蓄傾向はゼロ以下のマイナス、つまり借金で、大衆の五割以上が株投資をしております。この極めてもろい
状況下で、アメリカは、昨年四月から株が下落傾向を続けているのでございます。このことは、アメリカ大衆の所得が大幅に減少していることを意味し、ここにおいて、アメリカ大衆が、みずからの所得減少の原因を、責任を、理屈を抜きにして感情的に
日本に転嫁する土壌ができ上がりつつあると言わざるを得ません。
この
状況は、戦前の
日米敵対の始まりというべき、不況にあえぐアメリカ大衆の
日本移民排斥・
日本人排斥心理の高まりという歴史を見るまでもなく、極めて重大で、危惧されるものでございます。
この意味で、
森総理が大統領に言われるままに
我が国不良債権の償却を約束してきたことは、それ自体がよい悪いはともかく、下手をすれば、アメリカ大衆の中に潜在する心理的な株安・生活苦
日本原因論に火をつけかねないと憂慮されるのでございます。まさにこのアメリカ大衆の心理の動向こそ、
日本が細心の注意を払うべき外交的
課題であると存じます。この点に関して
総理の御所見をお伺いしたいと存じます。
総理が訪米する前に、
北朝鮮に拉致された
日本人の
家族が
ブッシュ新
政権に側面支援の要請に訪れておりましたが、
総理は、
ブッシュ大統領との
会談で、
北朝鮮による
日本人拉致問題を話題にされたのかどうか、されたとしたら、その応答の
内容を明らかにしていただきたいと存じます。
最後に、
日米同盟を重視し、
日米の成熟したパートナーシップを掲げる
ブッシュ新
政権との関係において、真に
日米共同して
我が国が東
アジアの安定要因としての役割を果たすためには、
我が国において、集団的自衛権は保有するが行使できないというがごとき、まことに奇妙な法解釈を変える決断が不可欠と存じますが、
総理はその決断なくしてアメリカに行かれたのか、それとも、その決断をされているのか、これからされるのか、
安全保障の問題でございますから明確に御答弁されますようにお願いいたします。
以上、
総理大臣の地位にふさわしい御答弁を期待申し上げ、私の
質問を終えます。(
拍手)
〔
内閣総理大臣森喜朗君
登壇〕