○
熊野参考人 ただいま御紹介いただきました
熊野でございます。
お手元に配付されておると思いますけれども、レジュメをつくっておきましたので、一応それに従いまして
意見を申し述べさせていただきます。
レジュメの最初にお断りしてございますように、私は
法律の専門家ではございません。私の専攻は、
金融及び
証券市場の研究者でございます。したがいまして、
法案の
法律的に微細な点につきましては、私は何も申し上げる資格はございません。ただ、以前同じ大学の同僚でもございました
上村教授がただいま詳細な
意見をお述べになっておられますので、私は、
金融市場、
証券市場において今回の
法案がどのような影響を及ぼすであろうかという点に限定して、お話をさせていただきたいと思います。
なお、私の個人の見解におきましては、
金庫株に関する条項以外の点につきましては、私の
立場はニュートラルでございます。それは私が
法律の専門家ではないという点にも
関係いたしまして、
金庫株に関する条項以外は
意見を述べるのを差し控えさせていただきます。
配付
資料の前段階、ナンバーの二のところは単に形式的な、いわば
法律論、
原則論を述べておるだけでございまして、証券、
株式というものは
資本の調達の
目的を持って
発行されるものでございますから、それは本来、
株式の本質と矛盾するものでありまして、それは
消却その他特殊のケースに限定されるべきものであろう、そういうふうに考えております。今回の
改正案は、買い入れ
目的の
制限を
撤廃し保有を自由に認める、保有
期間の
制限も
撤廃するというようなことでございますから、
原則からの違背は一層際立っているというふうに考えざるを得ません。
そのbは、先ほどから申し上げておりますように、
法律の専門家ではない私の守備
範囲外でございますけれども、単に
金融・
証券市場の研究者の
立場から見ますと、
株式を
市場から吸収するというのは本来は減資、そして
市場に供給するときには増資の
手続によるべきものであろうと考えられるわけでございますけれども、それの抜け道を設けるものでございます。
これに類するものとしましては、戦前の我が国の
商法の
分割払い込み
制度、それから、戦後
アメリカ法を導入して設けられたと理解しております授権
資本制度と多少似た点もございますけれども、これはそれなりの合理性があると思いますけれども、この
金庫株に関しましては、
会社の
経営者、
取締役会に大変なフリーハンドを与えるものでありまして、これは、そこに書いておりますように、いろいろな厳重な
制限を設けるべきであろうというふうに考えております。
金融・
証券市場の研究者の
立場から、一番私が問題といたしますものは、我が国の
証券市場における証券の保有構造からの見地でございます。
今回の
金庫株の
制度が持ち出された最大の原因は、最近の
株価の低迷をいかに救済しようかという点にあろうかと存じます。
市場から、
会社の恣意的な意思によって自由に
株式を吸収し、そして今度は
会社の都合によってまたそれを放出する。減資、増資の手段でなくて、
会社が買い取り、そしてまたそれを売却するということは、
会社の
経営者、
取締役会の大変な恣意によって
株式の需要、供給に影響を与え、そうしてそれが
株価の形成に大変な影響を与えるというところが一番問題とすべきではないかと思うわけでございます。
法律家の
立場からいいますといろいろの見解があると思いますけれども、大変大まかではございますが、
金融市場、
証券市場の研究者の
立場から見ますと、
株価の形成に最も大きな影響を与えるものは言うまでもなく需要と供給でございまして、それを
会社が自由に行うということは、これはすなわち広い
意味における
株価操縦そのものではないだろうかというふうに私は感じるわけでございます。
いろいろな見方があるわけでございますけれども、戦後、我が国の
証券市場に大変大きな影響を与えたものは、
株式の保有構造であろうかと思います。
我が国の
株式の保有構造というのは、戦前は、代表的な
会社というのは財閥
会社でございまして、財閥の内部で閉鎖的に
株式が保有されておったわけでございます。それが第二次大戦後、財閥が
解体され、財閥の閉鎖的な持ち株というのが開放されたわけでございまして、そうして、それは
昭和二十年代には大変大衆的な保有構造という形になっておったわけでございますが、それから数十年たちまして、極端な法人保有という構造になったわけでございます。
すなわち、これがいわゆる
持ち合いという構造でございまして、その
持ち合いというものは、
企業金融上、全く
資本の充実になっていないではないかというふうな非難がされておるわけでございますけれども、そのあたりのことはさておきまして、
発行株式のほぼ七〇%以上が法人の所有になっておりまして、個人の所有というものは二五%ぐらいにしかなっておらないというような
状況が一時形成されたわけでございます。
個人の保有というものは、仮に二〇%、三〇%といたしましても、そのすべてが
市場に出回るものではなく、そのごく一部でございます。こういうことが、我が国の
市場の大変な投機的な性格というものを形づくってしまったというふうに私は理解いたしております。
それをいかに正常化するかというのが、我が国の
証券市場の正常な発展に最も必要なところでございますけれども、現在の
株式市場の
状況を見ますと、大変に
株価が低迷いたしておりますが、それが正常化される一つのプロセスではないかというふうに私は理解しております。
最近、
株価が低迷しておりますが、それは一般に言われておりますように、
持ち合いの解消売りというものが大きなファクターであるというふうに考えておりまして、問題の本質は、
持ち合いの解消売りをいかに円滑に、そして大衆的な保有構造の中に吸収していくか、そういうところが一番必要ではないかと私は考えるわけでございます。それをまたまた、法人所有の一つの変形であろうと思いますけれども、
金庫株という形で各
発行会社に自由に吸収させるということは、これは大変な逆コースでございまして、
証券市場の発展にまたまた大変有害な影響を与えるのではないかというふうに私は憂慮いたしております。
なお、特に法人所有の中で最も問題とすべきは銀行の
株式保有でございまして、戦後
アメリカから、
アメリカの一九三三年銀行法、三三年証券法、三四年証券取引所法その他が導入されて、我が国の戦後の
証券市場規制が行われたわけでございますけれども、その中で最も重要なものは、銀行の
株式保有の禁止でございます。
先般、我が国におきましても、
金融制度の改革によりまして、銀行の証券業務というのが許されたわけでございまして、それは、
アメリカにおきましても、だんだんと銀行の業務は自由化されております。しかしながら、注目すべきは、
アメリカにおきましても、本来、銀行の
株式保有というのは厳重に
制限されておりまして、これは、第二次大戦前も戦後も、つまり、
アメリカの一九三三年銀行
法制定以来、全く変わっておらない。現在におきましても、
アメリカにおきましては、銀行の
株式保有は厳重に
制限されております。
私は、今まで数多くの著書、論文におきまして、銀行の
株式保有というのは厳重に
規制すべきであるというふうに主張してまいりましたが、戦後、その点におきましては、全く手がつけられておりません。銀行の
株式保有というものがいかに銀行の
経営をゆがめ、
証券市場をゆがめておるかということは非常に明らかでございまして、本来、銀行の
株式保有が合衆国におけるように厳重に
制限されておりますならば、現在のような困った状態というのは招来されなかったであろうと私は思っております。
しかも、銀行はかつて大変な含み益を持っておりましたので、その含み益を、益出しという
方法によりまして利益を出しまして、これが、不良
資産、つまり不動産担保貸しによる不良
資産、貸し出しの焦げつきの処理というものをおくらせた最も重要な原因であろうと思っております。
このように、銀行の
株式保有というのは大きな
弊害を持っておるわけでございまして、そのあたりのことに手をつけることなく、そしてここに至って、またまた、法人所有の一つの変形であります
金庫株というものを、ヨーロッパ、
アメリカに比べましても大変ルーズに採用されるということは、私は賛成いたしかねるのでございます。
レジュメの第四に書いておきましたけれども、現在の
株価の絶対水準というのは大変低くなったわけでございますが、これは、一時大変高過ぎたから、それに比べて低くなっただけのことでございまして、現在、絶対水準が低いのかというと、必ずしもそうではない。四けたの
株価が幾らでもございますし、三けたの
株価も大変多いわけでございまして、時々二けたの株もございますけれども、二けたの株、しかも額面割れというのは、これは当然ずっと以前からそうなってしかるべきものがやっと最近そうなったというだけでございまして、決して現在の
株価水準が低過ぎるとは必ずしも言えない。
では、何に比べて低過ぎるかといいますと、これは、法人の保有、法人の
資産状況に比較して低過ぎるだけでございまして、つまり、
株価の絶対水準からいって低いというのではなくて、これ以上安くなると、銀行の
資産上、大変悪影響を及ぼす、こういうだけのことでございます。すなわち、これも、銀行の
株式保有というものがほかのものに大変強い影響を及ぼして、我が国のいろいろな
経済運営あるいは
法制に対しても大きな影響を与えるというようなことでございます。
したがいまして、将来は
株式の法人所有を厳重に
規制すると同時に、現在進められておりますこのような
金庫株その他の
制度というものの将来の
運用について、私は大変
懸念するものでございます。
なぜならば、かつて
証券市場から
株式を吸収したことがございまして、それは、
昭和四十年に、銀行の保有
株式に対して
日本共同証券、それから証券
会社の投資信託の保有
株式に対して
日本証券保有組合、こういう二つの棚上げ機関が結成されたわけでございますけれども、それは、
昭和四十年代の
株式市場の回復に伴いまして、全部、再び法人所有の方にまた逆戻りしたわけでございます。
今回の
措置が棚上げの
効果を持つものとするならば、それがまた、
昭和四十年代の
日本証券保有組合あるいは
日本共同証券の棚上げ株が再び法人のもとに逆戻りいたしまして、そして我が国の大変ゆがんだ
株式保有構造を一層強化するものとなった、それと同じようなことにならないような
措置を講ずべきであろうと思うわけでございますけれども、現在、今回の
改正に対してそういうことが全く論議されておらないということは、我が国の証券・
金融制度のゆがみを是正しなければならないという
立場からいたしまして、私は大変憂慮するものでございます。
なおいろいろ申し上げたいこともございますが、時間が参りましたので、これで私の
意見を終わらせていただきます。
どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)