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山野目参考人 御
紹介をいただきました
早稲田大学の
山野目でございます。どうぞよろしく
お願い申し上げます。本日は、このような
意見陳述の
機会を与えていただきまして、まことにありがとうございます。
本日は、ただいま
委員長の方から御
紹介がありましたとおり、
内閣提出の
法律案として貴
委員会に付託されておりますところの
中間法人法案の
審議であるというふうに承っております。そこで、
民法学を専攻する
立場から、
民事法制の一角をなすところの
法人法制につきまして、
所見として考えておりますところを開陳させていただきたいというふうに考えるものでございます。
既に
委員の
皆様方におかれましてはよく
御存じのことでいらっしゃるかもしれませんけれ
ども、
我が国の
法人法制の全体的な見取り図を確認させていただくことといたしますならば、申すまでもなく、一方におきましては、商法や
有限会社法の
規律に服する
営利法人がございますけれ
ども、反面、
他方におきましては、今般問題となっております非
営利法人がございます。
私からの
所見の
陳述は、本日の御
審議の趣旨を踏まえまして、この非
営利法人の
領域におきまして従来の
法制がはらんでまいりましたところの、いわば光と影とでも申しましょうか、既に立法として
成果の
達成が得られている
部分、及び、いまだ十分に
成果の
達成が得られていないのではないかと考えられる
部分のそれぞれについて
お話を申し上げたいと考えるものでございます。
もとより、一口に非
営利法人というふうに申しましても、これには
幾つかの
タイプがございます。いささか大ざっぱな分け方をすることをお許しいただけるといたしますならば、一方におきましては、
団体の
構成員となった
人たちの相互の、互助的な
利益の
追求のためのもの、いわば
社員共通利益追求型とでも申すべきものがあるのではないかと思いますけれ
ども、反面、
他方におきましては、
ボランティア活動など
市民が自由に行う
社会貢献活動のようなものを進めている
タイプの、言うなれば
市民活動型というものがあるのではないかというふうに思うわけでございます。
いささか余談でございますけれ
ども、
社員共通利益追求型あるいは
市民活動型というふうな、
ニックネームと申しますか、キャッチフレーズというのは、これは非常につくるのが難しゅうございます。わかりやすく書こうとすると、やや
法律的に不正確なものになってしまいますし、
法律的に正確なものを書こうとしますと、今度はやや
伝達力に欠けるというようなものになってしまうわけでございまして、私がきょうお示ししている何々型という
二つのものも、必ずしも自信のある
ニックネームではないかもしれませんけれ
ども、ひとまず、本日の御
審議で可能な限りわかりやすく
委員の
皆様方に
所見をお伝え申し上げたいという
観点から、仮につけたものでございますので、お許しを賜りたいというふうに思うわけでございます。
お挙げしましたこの
二つの
タイプのうち、
後者の
市民活動型につきましては、
委員の
皆様方御案内のとおり、一九九八年に制定されました
特定非
営利活動促進法が、
ボランティア活動を初めとする
市民が行う自由な
社会貢献活動のために
法人格取得の道を開いたわけでございます。
法人格は、
認証を得ることにより取得することができ、この
認証を与える
権限は、
都道府県知事または
内閣府の所管として
内閣総理大臣が担うこととされておりますけれ
ども、しかしながら、この
認証は、
法律の定める
一定の要件を満たす限りにおきましては、基本的に与えなければならないものというふうに考えなければなりませんから、この仕組みは、いわば霞が関的な
裁量行政とは全く異なる
発想によって、いわゆる
NPOを支援する
法律制度環境を大きく改善させるということに寄与したのではないかというふうに申せると思います。このあたりは、
我が国の
法人法制が
一定の
成果を上げている
領域として評価することができる
部分ではないかと考えるものでございます。
そして、もう
一つの
タイプであります
社員共通利益追求型の方につきまして、今般の
法律案が、
有限責任中間法人及び
無限責任中間法人の
制度を設けることによって、
法律による明確な
規律に道を開こうとしていることは、今申し上げましたような大きな流れの中に位置づけてみます際に、あわせて注目しておくに値する事柄ではないかというふうに考える次第でございます。
従来におきましては、実質的に
公益と
営利のいずれをも
目的としない
団体が、
民法三十四条に基づいて
許可を与えられて
公益法人として
設立されてまいった
実態があり、これに伴い、さまざまの不適正な事態を出来してまいったことは、既に各方面におきまして指摘されているところではないかと思います。
今般の
法律案が、今後に
設立される中間的な
団体の、それにふさわしい
法人格取得の道を開くに至ることは、既に
政府による今般
法律案の
提案理由説明などにおきましても言及されているところでございますけれ
ども、私からも改めてその意義を強調させていただきたいというふうに考えるものでございます。
しかしながら、
我が国の
法制がいまだ
達成していない影の
部分にも目を向けることといたしますならば、そこには
幾つかの問題もまた指摘しなければなりません。
市民活動型の非
営利法人について申しますならば、私としては、先ほど話題とさせていただきました
特定非
営利活動促進法の、まさに
法律の題名に
特定という
言葉がかぶさっているというところをとりわけ問題視させていただきたいというふうに考えるものであります。申すまでもなく、
特定という
言葉がかぶさっているのは、この
法律により
法人格を取得することができる
NPOが、
法律の別表に掲げられております
一定の種類の
NPOに限られるからでございます。そのような
意味におきまして、
特定非
営利活動促進法は、その
法律の名称が象徴いたしますとおり、決して
一般法ではございません。
もう
一つの
タイプであります
社員共通利益追求型の方につきましては、本日御
審議いただいております
法律案により
一般法が整えられることとなる、そのような
運びになるのかもしれませんけれども、私といたしましては、本日このような
機会をちょうだいいたしました折に、ぜひとも、
立法府の
皆様におかれましては、この
市民活動型の方につきましても
一般法をおつくりいただくというお仕事に関心をお持ちいただきたいということを特に強調させていただきたいと考えます。
なお、今
お話しいたしました
市民活動型に関する
特定非
営利活動法人につきましては、その
一般法的な
性格の薄さ、希薄さということに加えまして、
幾つかの細目の
論点もございます。例えば、これも御
承知のことでいらっしゃるかもしれませんが、
特定非
営利活動法人に
寄附をした個人や
法人に対し
課税の
軽減が図られないといった問題がございます。今般、
租税特別措置法六十六条の十一の二の
規定などに基づき、
認定特定非
営利活動法人に対する
寄附について特別の定めが設けられるに至ったところでございますけれ
ども、その新しい
制度の
運用実態などの観察を踏まえまして、
立法府におかれましては、このような施策の一層の
推進のために
努力を傾けていただきたいと考えるものでございます。
NPOに対する
第三者評価機関の
発展、発達や、さらに
第三者評価を可能とする
NPOの側からの
情報公開など、申し上げた
税制上の
措置の
推進と関連するさらなる若干の
論点があるということもあわせて指摘をさせていただきたいと考えます。
また、
社員共通利益追求型の方に目を転ずることといたしますならば、実質的に
公益、
営利のいずれをも
目的としない
団体が、従来におきまして、既に
民法三十四条に基づき
許可を与えられて
公益法人として
設立されてまいった
実態に対する対処ということが問われなければなりません。今後、さらなる論議が進められ、これらの既存
団体の
組織変更に関する
法制を整備し、これら既存の中間的な
団体が、公的な
監督のもと適切な手順に従って、ふさわしい
法人格のもとでの
規律に服する
方向へ移行させるための方策を鋭意
推進してまいることが、今日喫緊の課題であります行政改革の文脈におきましても強く望まれるところではないかというふうに考える次第でございます。
ここまで、
幾つかのことを申し上げてまいりましたが、
所見として強調申し上げたいことは、今般の
法律案を一里塚としながら、さらに、申し上げてまいりましたところの
市民活動型をも含めた非
営利法人の
一般法制の構築に向け、立法課題の
追求に引き続き意を用いていただきたいということに尽きるものであります。
何ゆえにこのようなことを強調申し上げるかと申しますときに、今日、
市民社会の
あり方、その構築に向けての
我が国の思想、文化の
あり方が大いに問われている時代状況にあると考えるからでございます。
権利能力のあるなしということにかかわって形式的な観察をする限りは、
法人と自然人というものは同じである、等質であるということになるのかもしれませんけれ
ども、しかしながら、かけがえのない個人の尊重という憲法の理念に立ち返って考えます際には、大切なのは
法人それ自体ではなく、そこに結集する諸個人、言いかえれば
市民であるはずではないかと考える次第でございます。
今日の政治思想に大きな影響を与えた
世界史的文書でありますかのフランス人権宣言には、結社の自由を保障する条項がございませんでした。そして、そのフランスにおきましては、革命の後の慎重な検討の経過の後に、一九〇一年になって、非
営利の社団が
法人となる手順を定める
一般法が制定を見てございます。
かの国の、フランスのこのような歴史的経過から読み取ることができることといたしまして、ここには、結社なり
団体なり、それそのものが自己完結的にと申しますか、自己
目的化してしまうという姿ではなくて、むしろ人々が集うことそのもの、あるいは集おうとしている人々の一人一人を大切にしていこうとする含意が隠されているのではないかというふうに考える次第でございます。そして、今日の時代状況は、このような、申し上げた思想的な原点に立ち返って、非
営利法人法制を改めて根本から見直すべきときが来ているのではないかというふうに考えるものであり、このことを特に強調申し上げることといたしまして、私からの
所見の
陳述とさせていただきます。まことにありがとうございました。(拍手)