○佐藤(謙)
委員 本当にもう言いわけを聞いているとしか思えない。本当に規制ができたのだろうかなんということを言われると、水俣病患者の方々の無念さがさらにますます増してくるのではないかな。
これは、御承知のように、テレビが
日本に普及し始めた
昭和三十年代。特に、今の天皇陛下の御成婚から東京オリンピックにかけて飛躍的に
日本が高度経済成長を進めたときに、テレビの普及が爆発的に進んだ。そのプラスチックの可塑剤としてのアセトアルデヒドを
日本はどうしてもつくらなければいけないという、そうした産業界からの要請というものがあって、当時は残念ながらまだ石油化学工業というのが発展をしていない、電気化学工業によらなければいけない、そういう状態の中で、このチッソという会社がほぼ独占的にそうした製品をつくっていた。もし、ここでチッソがアセトアルデヒドを製造しなくなると大変な
日本的な損失を与えてしまうということで、
日本の産業をリードする役所を中心に見て見ぬふりをしていたのは、これはもう明らかなことなんですね。
昭和三十一年に水俣病の公式な発見があって、
昭和四十三年に結果として
政府が統一見解を出すまでの十二年間、私は、本当に環境行政に携わる者が決断をしさえすればやれることは幾らでもあった、そういうふうに考えます。規制がとてもできなかったで済まされる問題ではなくて、産業優先のそうした時代にいろいろな方策があった。
例えば、アメリカからサリドマイド禍を救ったフランシス・ケルシーのように、どんなにサリドマイドを認可しろと言われても断固としてそれをはねつける勇気さえあれば、
法律は後からついてくるということがあったわけであります。
そうした勇気というもの、それは、何も
大臣だけを僕はお責めしているわけではなくて、国会そのものが、ハンセン病と同じように怠慢であったということを考えれば、私にもその
責任の一端はあるというふうに考えておりますけれ
ども、こういうときだからこそ、やはりこの問題には、いろいろな混乱を生ずることをあえて承知の上でも、上告を断念されるべきであったと私は考えます。
私は、そこから環境問題の主要なテーマとして、去年の八月にも申し上げましたけれ
ども、予防
原則というもの、だからこそそうしたことを我々が主張していかなければいけない。護憲か改憲かとか、あるいは集団的自衛権がどうのこうの、憲法解釈がどうという議論が本当に今盛んに行われていますけれ
ども、私は、この予防措置
原則というものがいかにこれから二十一世紀の政治の対立軸になるかということを予感するんですね。
それは、新幹線のATS装置じゃないけれ
ども、何か人影が見えて、それが確実に人であることが確認されるまでスピードを緩めない、そういう社会を選ぶのか、何かあるなと思ったときに一度とめて、そして確認をしてから前に進んでいくという道を選ぶのか。公共
事業でいえば仮差しとめのような、そういうもう一つの価値を
環境省が率先して主張していかない限り、私は、ほかにだれが主張するのかと言いたいのです。
そこで、先月の四月十日に、朝日新聞ですけれ
ども、名古屋大学
教授の池内さんという方が、「求められる予防措置
原則」、私は、これはもう得たりや応で読ませていただきました。去年の八月には、先ほど
河野さんが
質問された
カルタヘナ議定書をめぐっての議論、つまり、食の安全ということについて私は予防
原則が必要だということを言ったし、また、現に、WTOのこれからの議論の中に予防
原則をEUは持ち込もうとしています。
幸いなことに、新環境基本計画の中にも予防の
原則というものが入っているようでありますし、もとはといえば、地球サミットで合意されたリオ宣言の中に予防
原則というのは書き込まれていて、きのう、おとといですか、パリで行われたOECDの
環境大臣会合で採択されたOECDの環境戦略にもこの予防
原則がきっちりと非常に大きなスペースで載っているわけです。
そういうことを考えると、
環境大臣が、この予防
原則について前向きな姿勢で、水俣病の問題だけではなくて、いろいろとこれから考えられる化学物質の問題あるいは食の安全の問題等々を含めて、
環境省内にそうしたことを研究しようというような機運を持ち込んでいただけないものだろうか。本当にホームページ一つで結構です。みんなからいろいろな意見が来る、恐らくこの予防
原則については大変国民は関心が強い。
それを裏返すかのように、今この予防
原則の研究を一生懸命やっているのは産業界だというのですね。それは、予防
原則というものがこれから市民権を得てしまったら大変なことになるということで、抵抗の材料を研究するために今一生懸命勉強しているということですけれ
ども、
環境省はこの辺について、何か前向きに、よしやろうというようなそうしたお気持ちをここで御披瀝いただけませんでしょうか。