○中村敦夫君 いろいろ細かい議論もありますけれども、今回の改正法は三つの特徴があると思うんです。一つは刑事罰の年齢引き下げ、もう一つは凶悪
犯罪の
原則逆送、もう一つが被害者対策ですね。この三番目の被害者対策という点は私も同意します。ですから、それのみを改正法の中に入れる、あるいは別建てで
法律をつくるなり規定をつくるなりするということはあり得ると思います。
しかし、刑事罰の年齢引き下げと
原則逆送ということが
法律の中ではっきりと書き込まれてしまいますと、これは教育や更生というものを基本理念にしている
少年法、そしてそれをつかさどる家裁というものの整合性がなくなってしまう、つまり家裁の権限と権威の分譲となってしまうんじゃないかということだと思うんですね。制度的に分譲してしまいますと、
少年法の本来の理念というものが崩れざるを得ない、法との整合性がなくなるんじゃないかということを私は今までの議論で感じているわけです。
こうしなきゃいけないという根拠として、何度も
お答えいただいているようですけれども、やっぱり家裁じゃ
判断が甘い、だめだということだと思うんですね、はっきり言って。だから変えなきゃいけないということが基本的な理由というふうに聞こえますが、私はこれは甘いとか辛いとかという問題で
考える問題じゃないと思うんですね。要するに、家裁が適切にやっているかどうかということが重要なのであって、甘い辛いの問題ではない。
そもそもこういう
法律問題が出てきたということの背景には、やはり世論というものが大きく影響していると思うんですね。世論というのはどういうふうにして
犯罪の場合できてくるかというと、これはやっぱり報道なんですよ。ですから、報道によって、凶悪な
少年犯罪がふえている、何かしなければ大変だというキャンペーンがかなり張られて世論もそうなってくる。そうすると、政治は黙っていられない、特に政権与党は何かしなきゃいけないということの中でこういう形の
法律改正の案が出てきたんだというふうに私は見ているんです。
それでは、その世論をつくったマスコミ報道という問題を少し述べてみたいと思うんですけれども、最初にマスコミ報道、要するに
少年の凶悪
犯罪キャンペーンというものが盛んになったきっかけはやっぱり一九九七年の酒鬼薔薇事件ですね。十四歳の
少年が小学生の首を切ってしまったという非常に猟奇性のある衝撃的な事件、あれは確かに今までにない形でした。
そうしますと、マスコミとしてはこれははっきり言って商売になるネタなんですよ。要するに、売れなくなるまで書きまくっていく、あるいは放送するということによって、もちろん真実追求という役割もあると同時に、マスコミも商売ですから、そういうふうにマスコミというのは動くわけですね。私はマスコミの側にいましたから、とにかく売れるネタはどんどん売り尽くす、では次は何かないかということになって、結構連続的にやるという傾向があるわけなんです。特にいろんな、何というんですか、売り物というかタイトルが必要になってくるんです。
例えば十七歳の
少年がたまたま数多ければ、十七歳はすごいというような話に持っていくことができるわけですけれども、それは基本的に偶然なんです。十七歳が
犯罪を連続的に犯したのは昔もあったわけですね。
社会党の浅沼さんを殺したときの十七歳も、あの当時も十七歳ははやったわけですから、そういう傾向があります。極端な
犯罪があれば、次々と必要以上にそれを強調していくというマスコミの流れがあります。
大体、報道量の多かったものはどのぐらいあるかということを
考えますと、参議院の
法務委員会調査室が作成したメモがあります。これは「
少年による最近の主な凶悪事件」というタイトルの表でございまして、二十二件挙げています。酒鬼薔薇事件以来、大体三年弱の中の事件なんですね。
これはもう少しあるんじゃないか、これは下げた方がいいんじゃないかというそれはあるとしても、おおよそ私がファイルしている
少年事件と大体合致しますから、まずこの二十二件の報道によって、この三年の間に世の中に凶悪な
少年犯罪がふえている、どんどん異常になっているという、不安をあおるそういう世相というものができ上がったということは確実でありますし、それならばこの二十二件というものは本当にそうなのか、この二十二件に対して家裁が適切な処理をしなかったのかどうかというふうに具体的に
考えると
物事の本質はわかるんじゃないかと。
凶悪
犯罪というのは普通、殺人、強盗、強姦ということを言いますね、暴行は粗暴犯というふうに分けられていますけれども。その極端な殺人ですら、実際問題としては百件を超える数字が多少長い間移動しているだけで、実際に激増しているというようなデータにはならないんですね。それで、凶悪
犯罪がふえているというのはデータの読み方だというような
答弁になりますと、データは何にもならなくなってしまう。ですから、もし本当にふえているのであれば、数字的にだれもがそれを認めるようなものになっているはずです。殺人が三百件、五百件となれば、これは確実に変わっていますね、世の中が。そして、これはもうデータの読み方だとは言えないという、それがデータの読み方だと思うんです。
そこで、この二十二件の凶悪
犯罪と呼ばれているものも、ただ凶悪だという一つの言葉でくくることができないんですね。いろいろ違うと思うんです。ですから、私なりに大体三つの分野に分類してみたわけです。
一つは古典的な
犯罪です。動機だとか
犯罪形態が今までもあった非常にわかりやすいもの。もう一つは感情的な問題、情念とか感情にまつわるような、かっとなってやったか、あるいはずっと恨み続けてあるときに爆発してばっというようなタイプの、利害とは余り関係ないような
犯罪。もう一つは人格
障害とか
精神病理学に属するような、そういう非常に難しいわかりにくい
犯罪。
だから、同じ凶悪
犯罪といっても一つの言葉であおっちゃいけないと思うんですね。政治家だとか
法律家だとかは、世論の感情的なものにあおられて、ただ報復しちまえという短絡的な発想から
物事を
判断してはいけないというふうに私は感じています。だから具体的にこの二十二件ですよ、一番特徴的だったのは。
法務委員会調査室は時系列で並べていますが、私は三つに分類しました。
この中で最初のもの、要するに理解しやすい
犯罪、それは昔からあるタイプの
犯罪ですね。これは二十二件のうち大体十件なんです。そのうち暴行殺人というのは四件あります。
これは、平野議員も述べた最初の、九八年の岡崎事件というものです。これは要するに十四歳の
子供のけんかなんですね、そもそもが。ただ、加害者の
少年が同情されて嘆願書まで出たというようなことがありまして、被害者が非常に困惑したと。しかし、警察から一切何が起きたのかというのを知らされていないと。被害者の両親は、相手の
少年を恨んではいないんだ、厳罰も求めていないんだ、ただ事実を知りたいということで問題にしている事件なんです。ですから、ここでは保護観察という、十四歳の普通の
子供のけんかが殺人になってしまったということに対して処置があるわけです。むしろ警察が被害者に対していろいろな情報を提供しなかったという問題があるだけなんです。
もう一つは、栃木のリンチ殺人事件。これは十九歳です。これは四人に二カ月間連れ回されてリンチを受けたわけです。それで最終的に殺されてしまったと。これも警察の
対応が非常に悪かったということで有名になった事件ですけれども、これはもう逆送されて無期懲役を食らっていますね。
それから、狭山市のリンチ殺人事件。これは二〇〇〇年。十六歳の
少年が主犯ですけれども、この
少年というのは大体ずっといじめられていた側だったんですが、あるときにいじめの側に回って、四人で一人の
少年を殺してしまったということで、これはいろいろ考慮されて中等
少年院に、更生可能だという
判断でしょう、送られたわけです。
それから、那覇の高校生殺人事件ということがあります。これは完全に暴行していじめるということでしたから、今逆送されて裁判中になっている。
それから、強盗殺傷では大阪の寝屋川の老人殺人事件。これは十四歳の
少年の殺人なんですけれども、地検の
判断で初等
少年院に送られたというふうになっていますね。これは十四歳であって、非常に
子供じみた動機だったということが審判の材料になったんだと思います。
それから、夢の島強盗殺人事件というのが二〇〇〇年。これは十五歳なんですが、審判中ですね。これも野球部で非常に明るい
少年だったのが中学三年になって突然ぐれ出したということでございます。
それから、久里浜の脱走
少年強盗事件。これは十九歳。これは審判中ですが、金欲しさにやったわけですし、これも逆送の可能性がこれからあるのではないか。これは軽くて済むわけはないだろうというふうに想像できますね。
それから、山口県の母子殺人事件というのがあります。これは強姦殺人ですから、十八歳の
少年ですけれども、これはもう逆送されて無期懲役です。これは母親を強姦して
子供まで殺してしまったという悪質なものですね。無期懲役。
それから、名古屋の五千万円恐喝事件というのは、これは十五歳の
少年を中心に不良
少年たちがどんどんどんどん一人の
家庭から金をおどし取って、遂に五千万円になってしまった。その間一体どうしていたんだという
社会の
責任というものもありますけれども、これは中等
少年院に送られています。
そしてもう一つは、これはシンナーですね、薬物による影響で
精神状態がおかしくなって、堺市の通り魔殺傷事件として有名になりましたけれども、これは逆送されて懲役十八年ということなんですね。
こうして見ますと、この十件の中で逆送されているのは四件あるし、もう二つぐらいふえると大体六件ぐらい逆送になるんじゃないかということで、この家裁の
判断というのは数字的に言ってもその処理の仕方においても私はおおむね妥当だと思うんですよね。
これで甘いとか辛いじゃなくて、適切かどうかということで、わざわざ
法律を改正して、家裁はだめだからやっぱり
原則逆送にしなきゃいけないんじゃないかという理由は、この一番わかりやすい事件の中でも言えると思うんですが、そのことについて御感想を伺いたいのです。