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2000-11-24 第150回国会 参議院 文教・科学委員会 第5号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十二年十一月二十四日(金曜日)    午前十時開会     ─────────────    委員異動  十一月十七日     辞任         補欠選任      和田 洋子君     小林  元君  十一月二十日     辞任         補欠選任     日下部禧代子君     照屋 寛徳君  十一月二十一日     辞任         補欠選任      照屋 寛徳君    日下部禧代子君  十一月二十二日     辞任         補欠選任      本岡 昭次君     小宮山洋子君      福本 潤一君     益田 洋介君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         市川 一朗君     理 事                 岩瀬 良三君                 亀井 郁夫君                 佐藤 泰介君                 松 あきら君                日下部禧代子君     委 員                 阿南 一成君                 有馬 朗人君                 佐藤 泰三君                 中曽根弘文君                 松村 龍二君                 水島  裕君                 小林  元君                 小宮山洋子君                 佐藤 雄平君                 益田 洋介君                 畑野 君枝君                 林  紀子君                 田名部匡省君    政務次官        科学技術政務次        官        渡海紀三朗君    事務局側        常任委員会専門        員        巻端 俊兒君    参考人        京都大学名誉教        授        科学技術会議議        員        井村 裕夫君        京都大学大学院        法学研究科教授        ユネスコ国際生        命倫理委員会委        員長       位田 隆一君        三菱化学生命科        学研究所主任研        究員       ぬで島 次郎君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事補欠選任の件 ○参考人出席要求に関する件 ○ヒトに関するクローン技術等規制に関する法  律案内閣提出衆議院送付)     ─────────────
  2. 市川一朗

    委員長市川一朗君) ただいまから文教・科学委員会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る十七日、和田洋子君が委員辞任され、その補欠として小林元君が選任されました。  また、去る二十二日、本岡昭次君及び福本潤一君が委員辞任され、その補欠として小宮山洋子君及び益田洋介君が選任されました。     ─────────────
  3. 市川一朗

    委員長市川一朗君) 理事補欠選任についてお諮りいたします。  委員異動に伴い現在理事が一名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 市川一朗

    委員長市川一朗君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事日下部禧代子君を指名いたします。     ─────────────
  5. 市川一朗

    委員長市川一朗君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  ヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案審査のため、本日の委員会参考人として京都大学名誉教授科学技術会議議員井村裕夫君、京都大学大学院法学研究科教授ユネスコ国際生命倫理委員会委員長位田隆一君及び三菱化学生命科学研究所主任研究員ぬで島次郎君の出席を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 市川一朗

    委員長市川一朗君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 市川一朗

    委員長市川一朗君) ヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案議題といたします。  本日は、参考人方々から御意見を承った後、質疑を行います。  この際、参考人方々一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  皆様方には、ただいま議題となっておりますヒトに関するクローン技術等規制に関する法律案につきまして忌憚のない御意見をお述べいただき、今後の審査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、位田参考人ぬで島参考人、それから後ほどお見えになります井村参考人の順でそれぞれ十五分程度で御意見をお述べいただいた後、各委員質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、御発言は、意見質疑及び答弁とも着席のままで結構でございます。  それでは、まず位田参考人から御意見をお述べいただきたいと存じます。位田参考人
  8. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 京都大学大学院法学研究科で教官をしております位田でございます。同時に、ユネスコ国際生命倫理委員会というのがございまして、そこで九八年以来委員長をさせていただいております。  本日は、この非常に重要な法案についての審議に関連して参考人としてお招きいただきまして私の意見を申し上げることになりまして、どうもありがとうございます。  私は、特に生命倫理という観点からお話を申し上げたいと思っております。クローン技術科学的なことに関しましては後ほど井村先生の方からお話があると思いますので、科学的なことは井村先生の方にお願いをいたしまして、私はきょうは二つのことをポイントにしてお話をしたいと思います。お手元の資料を見ていただきますと、一ページ目に「人クローン個体規制のあり方」、そして二ページ目に「特定胚研究規律方法」、この二つの点をお話ししたいと思います。  人クローン個体、いわゆるクローン人間をつくるということについて、国際的に禁止することについてはコンセンサスがございます。御承知のように、一九九七年二月にイギリスで羊のドリークローン羊として誕生いたしました。その結果、人間についてもクローン技術が適用できるんだ、いわゆるクローン人間をつくることができるということで大きな問題を投げかけました。これに対して、レジュメのところでは一九九八年デンバーサミットと書いてありますが、九七年の間違いでございます。どうも申しわけございません。九七年にそのドリーが生まれて直後に開かれましたデンバーでのサミットにおきまして、人に対してクローン技術を応用して個体をつくり出すことは禁止するべきであるということに合意を見ました。  人クローン個体をつくることについての禁止という観点からすると、デンバーサミット以前にも既にイギリスドイツフランス国内法がございます。クローン禁止する国内法ではございませんが、イギリスは胚及び受精に関する研究についての法律ドイツ胚保護法、そしてフランスでは生命倫理法、いわゆる国内のどちらかといえば一般法に近いものが既にございましたので、これらの国については人クローン個体をつくることについては国内法を適用する形で禁止ができるということになっております。それ以後、九七年のデンバーサミット以降、多くの国がクローン人間に適用することについては禁止をするということを表明しております。  必ずしもいずれの国でも立法が行われているわけではありませんが、立法の準備をしている国が少なからずございます。ユネスコの調査によれば、三十数カ国が既に国内法なり宣言なり、もしくは政府声明なりという形でクローン人間をつくることを禁止しております。国際機関を見ましても、ユネスコの一九九七年十一月に採択されましたヒトゲノム及び人権に関する世界宣言では、人クローン個体産生を人の尊厳に反する行為であるということで禁止をしております。一つ一つは述べませんが、いずれもWHO、国連、それから欧州審議会等人クローン個体をつくることを禁止する宣言なり声明、もしくは欧州であれば条約ができております。  人クローン個体禁止する方法といたしましてはいろいろな方法があるかと思いますが、我が国のように拘束力ある法律による禁止というのが最も実効性がある方法であると思います。実は、法律をつくらないということは拘束力のない禁止意味するわけでありまして、もし我が国人クローン個体産生禁止するという法律がなければ、実質上我が国では禁止をしないと国際的に宣言をするのに等しいというふうに考えられます。こういうふうな拘束力のある法律をつくらないということは、むしろ人間尊厳に反する行為に対する態度としては極めて不十分な処理の仕方であろうかと思います。とりわけ、最近話題になっておりますように、宗教団体中心として、アウトサイダーが日本クローン人間をつくる事態、これが現実のものになってきておりますので、早急に対処する必要があると思います。  先ほど申しましたように、外国でも法律により禁止する国がふえつつあります。我が国では、生命倫理一般法をつくってからクローン禁止をするべきだという議論がございます。確かに、生命倫理一般法をつくるのは理想的なやり方でありますけれども、同時に、日々生起する生命倫理の問題について適切に対処する必要もございます。一方で、一般的に生命倫理に対する考え方を醸成し、他方で個別の処理をするというのが現実的なやり方だと思います。そういう意味では、今回の法案のような、いわゆる個別法もしくは特別法と言われる形でヒトクローン産生については禁止をするというのは極めて妥当なことだと思われますし、同時に、生命倫理全般に関して我が国のとるべき立場について議論を続けていくことは言うまでもなく必要なことでございます。  いずれにしましても、従来から我が国では法によって何らかの規制をする、もしくは法をつくって規律をするという場合に個別法の方式をとってきておりまして、これは十分に我が国で利用されてきている方法でございます。  それでは、法律によって罰則をつけて禁止するということの理由は何なのかということでございますが、生命倫理一般的な根本基準として人間尊厳人権というものがございます。先ほど申し上げたユネスコヒトゲノムに関する宣言でもわかりますように、クローン人間をつくるということは人間尊厳人権に反する行為であるという位置づけが国際的になされております。我が国では人間尊厳とは何かということについて必ずしも明らかではありませんでしたので、科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会議論をいたしました結果、次の三点が人間尊厳に反する行為であるということが明らかにされました。  一つは、クローン人間をつくって、そのクローン人間から例えば臓器を取り出して自分に移植するということ。これは人間を道具化することであって、もしくは手段化することであって、人間の育種につながる。これが一点。  それから二点目は、個人としての尊重ということをうたっている憲法の理念に反する。つまり、あいつはクローン人間だと言われる、もしくはあの人はクローン技術を使って生まれてきた人だ、そういう形で差別につながるおそれが非常に大きい。こうなりますと、憲法人間尊重とうたっているにもかかわらず、これを許してしまうことは憲法違反になるというふうに言っても過言ではありません。  そして第三に無性生殖でありまして、人間子供が生まれるということについては有性生殖を通じて生まれてくるというのが基本的な認識でございます。ここから逸脱するような行為、これはまさに社会秩序を破壊する行為につながるという認識でございます。  この三つが総合して人間尊厳に反する行為であるという考え方をとりました。  さらに、これに加えて、生まれてくる子供クローン人間と申し上げますが、これの安全性についても全く確実ではない。そうすると、生まれる過程で、もしくは生まれてから死んでいく存在を生み出すようなものであるということでございまして、こういったことを総合すれば、反社会的な行為である、具体的には人権及び憲法的な価値に反する行為であって、したがって刑罰禁止することが妥当であるというふうに考えます。  どの程度刑罰をかけるかということでございますが、刑事罰の機能は本来抑止力でございまして、違反行為が重大であるということと、その抑止に十分な刑罰をかけるということが対になってございます。クローン人間をつくるということは、先ほど申し上げたように、例えば人間をつくってそこから臓器を取り出す、臓器を取り出せばその人間が死にますので物理的な殺人でございますし、しかも個人尊重もしくは人権の侵害という意味では精神的な殺人にも当たるというふうに思います。こういう点で、懲役の十年ということは合理的な刑罰重みであるというふうに思います。クローン人間をつくることが従来の刑事犯罪と比べて何に該当するか、これを余り議論しても意味がないかと思います。といいますのは、従来の刑事犯罪にない新しい種類の刑罰だからでございます。  以上が、クローン人間をつくることについての禁止の問題でございます。  続きまして、この法律に規定される予定になっております特定胚研究についての規律考え方について意見を申し上げます。  特定胚研究というのは、科学研究、具体的に申しますといわゆる生命科学研究一つでありまして、科学研究の自由というのは思想の自由でございます。日本国憲法の第二十三条に言う学問の自由に当たります。  科学というのは未知のものへの好奇心真理探求というふうに言いかえてもいいかと思いますが、真理探求進歩への欲求、この二つを柱として科学というものが発展してくるというふうに思います。科学研究の自由を認める意味もまさにそこにあるわけでございまして、この科学研究の自由を奪ってしまうということは人間の命を奪う、精神的に命を奪うということにも等しい、一言で言えば人権は命であるというふうに考えるのが正しいかと思います。それゆえに、安易な科学研究の自由の制限は許されないというふうに考えます。制限が許されるのは社会価値秩序が脅かされるときに限るべきでございます。  しかしながら、他方で、科学人間社会の活動でございますので全く規制を受けないというわけではありません。規制をするもしくは禁止をする場合には、合理的で十分な理由と、そしてそれに見合う手段方法が必要でございます。法によって完全に禁止するというのは、ある意味では最後手段でございます。  特定胚研究を具体的に取り上げますと、その研究意味というのはさまざまな医学的な応用が見込まれています。確かに、胚という問題について考えますと、ヒトの胚は人間生命萌芽であるということが一般に理解されております。科学技術会議生命倫理委員会のもとでのヒト胚研究小委員会議論でも胚は生命萌芽であるという位置づけがなされております。したがって、慎重な取り扱いが必要なのは言うまでもありません。しかしながら、胚が直ちに人の命である、人の命そのものである、もしくは、もう少し敷衍して言いますと、人間であるというふうには言い切れないところがございます。  我が国では胚の取り扱いについてコンセンサスはまだないと考えております。そうなりますと、特定胚研究して得られる成果の有用性生命萌芽保護というものをどう調和させて科学研究を進めていくかということが問題になります。この点で、一つは、通常のヒトの胚にはまだなっていないというのが特定胚でございますし、しかもその有用性を考えてみますと、治療不能であった疾病等への新しい治療法可能性があります。したがって、結論的には特定胚研究は何らかの形で認める必要性がございます。この場合には、胚の取り扱いを慎重に行いながら特定胚研究進展を支援する必要が実は国家の側にあると私は思います。  科学研究一般に対する規制方法といたしましては、一つ許可制、もう一つ届け出制というものがございます。許可制というのは、すべて一応禁止して、そして条件に合うもののみ許可をするというやり方でございます。それに対して届け出制は、原則は自由でありますけれども、規制の必要なもののみ届け出を義務づけまして、自主性尊重するというやり方でございます。さきに述べました科学研究の自由の意義及び特定胚研究意味ということから判断をいたしまして、私は届け出制が妥当な方法であるというふうに考えます。  と申しますのは、特定胚研究をすべて禁止するべき程度にまで社会価値秩序を脅かすものであるかどうかということが問題でございます。特定胚そのものというものは、先ほど御説明をいたしました人クローン個体をつくり出すことであるとか、いわゆるヒト動物のまざり合ったような、ヒト亜種というふうに申し上げますが、そういった個体をつくり出すこととは異なります。そういう意味で、社会価値秩序を極めて大きく脅かすというふうには言えない研究であろうと思います。  許可された研究のみに対して研究を認める、つまり全部を禁止して少し窓口を広げておくというのは、科学進歩をかえって阻害するおそれがあります。科学者にとっては自己規制に基づいて積極的な好奇心を活用するのが重要でございまして、許可された研究のみに研究を限定するのは国が科学研究の自由をコントロールすることにつながると思います。  以上をまとめて少し生命倫理一般についてのお話最後にいたしたいと思いますが、今後の我が国課題といたしましては、人の尊厳人権尊重を確保しながら生命科学進歩を図るということにあるかと思います。  生命倫理というのは、生命科学進歩をストップさせることが目的ではございません。尊厳人権尊重しながら科学進歩させるということにこそ生命倫理意味がございます。その場合には、人の生命重み個人尊重を一方で考えながら、他方科学及び科学者への信頼を得ることによって、同時に科学者責任、とりわけ科学者のいわゆる説明責任と最近言いますが、そういった責任と、そして社会科学及び科学者に対して持つ関心を深めていくということが課題になります。  我が国における生命倫理は、こういう上に述べた二つの点を基盤にして、幅広い議論からコンセンサスを得ることによって行動規範が醸成される、この行動規範こそが生命倫理であるというふうに思います。  以上で私の意見を終わります。どうもありがとうございました。
  9. 市川一朗

    委員長市川一朗君) ありがとうございました。  次に、ぬで島参考人にお願いいたします。ぬで島参考人
  10. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) おはようございます。  三菱化学生命科学研究所研究員をしておりますぬで島次郎と申します。よろしくお願いいたします。  私は、研究所は分子生物学の研究所ですが、私自身の研究先端医療技術中心にした科学政策研究で、社会科学系人間でございます。その政策研究者として内外のこの種の政策を比較研究してきた者として、きょう御意見を申し上げます。  お手元に「「クローン法案」の問題点と望ましい代案」と記しました一枚紙をお配りしてあると思いますので、その要旨に従って申し上げます。  衆議院を通過したクローン法案政府が提案した法案には幾つか重大な問題があると何人かの方々が指摘されております。そのうち、私が問題であると考えることを順に申し上げます。  まず第一、ヒトクローン禁止することはいいとしても、この法案ヒトクローン禁止の仕方が人の生命尊厳の十分な保護にはならないと考えます。法の内容として説明されていることと本当に書いてあることがどうもずれているような気がいたします。と申しますのは、この法案は、結局、一部の特定胚母胎に移植することだけを禁じ、その前のクローン胚とかキメラ胚とか、そういう胚をつくることを広範に認めております。これはクローン類似研究というのを国が法律でもって認めた世界でも非常に珍しいクローン研究容認法ということになっております。これは、私は、科学技術会議小委員会答申の線を超えている部分があると考えますし、文部省告示の線を超えている部分もあると考えます。つまり、審議会答申が正しく法案に翻訳されていないのではないかと思います。  詳しく申し上げると時間がとられますので、一つだけ例を申し上げますと、例えばこの法案は、動物細胞核人間の卵に植えて、そこから胚をつくるということを認めております。しかも、それを母胎に移植することを禁止しておりません。幾ら研究の自由とは申せ、ここまで認めるのでしょうか。私もこの小委員会のメンバーに加わっておりましたが、その答申を幾ら読んでも、そこまで認めるとは書いてございません。  また、文部省告示というのは既にクローン研究において出され、大学等で広く守られております。その告示では人のクローン胚作成禁止されております。認められておりません。しかし、この法案はその文部省告示の線を否定して、人のクローン胚をつくることは認めております。その辺がちょっと私はおかしいのではないかと思う次第です。  よその国でも、例えば一番最近出たものでは、ヨーロッパ連合が、人のクローン胚作成禁止するべき、あるいはまだ時期尚早で認めるべきではないというようなヨーロッパ連合倫理委員会答申を出しております。  このクローン禁止の仕方のもう一つの問題は、科学技術会議が進めておられる施策が、この法案はごく一部でありまして、同じ人の生命始まり操作する研究でありながら、クローンキメラ、ハイブリッドだけは法規制をすると。そうではない、ヒトの胚をすりつぶして胚性幹細胞というものをつくる、この研究は法の対象から外して行政指導のみで規制しようと。それ以外の、生殖医学などで広範に行われているヒトの胚をつくったり使ったりする研究は公には無規制と。そういうトリプルスタンダードがこの法案政策の全体像であります。これも日本だけの人の生命始まりに対する倫理使い分けではないでしょうか。こういう倫理使い分けを国民は認めるでありましょうか。  クローンクローンだから禁止だというだけでは不十分であって、クローンというのは認められる人の生命操作の範囲を超えているから禁止なのであると考えます。  ところが、政府法案では、第一条、「目的」というところで、人の生命尊厳に関する内容として、だれかのコピーではない、コピーされないということと、人間以外のほかの動物とまぜられないという二つが書いてございます。それだけが人の生命尊厳でしょうか。コピーされない、ほかの動物とまぜられない、それだけが人の生命尊厳なのでしょうか。生殖医療生殖医学分野においては非常に広範に生命科学進展の中で人の生命操作をやっております。そのどこまでが許され、役に立ち、認めるべきであるのか、そういう包括的な議論が必要であります。にもかかわらず、クローン法案はそうした必須の検討を回避していると言わざるを得ません。  特に、衆議院では、無性生殖だからクローン禁止なのだと、クローンだけ特別扱いする理由説明する議論が多かったようですが、それでは有性生殖なら何をやってもよろしいのでしょうか。  例えば、代理母というのがございます。これは胎外でヒトの胚をつくってそれを使う、ヒトの胚の作成と使用の仕方の一つのバリエーションです。これを禁止するということについては国民のコンセンサスはあるように見えますし、厚生省が検討しておる新規制案でもそれは禁止されているようです。代理母有性生殖であります。ですから、それだけではクローン禁止ということには、ほかのものは禁止しないでいいということにはならない。また、禁止とは言わなくても、ほっておいていいとは思えないわけです。  もう一つ、現在のクローン法案の大きな問題として、この法案は、人の生命操作に対して倫理の規定というのがない法案になっております。この法案を一字一句よく読んでいきますと、まず第二条、「定義」というので十何ページもございますが、その内容は、一般人はおろか、発生学、医学の専門の研究者にも理解不能な用語が並べられております。科学にない言葉が貫かれております。規制されるべき当の研究者にも理解できない定義というのは、適切なのかどうか疑問です。  そういう理解不能な用語と手続の規定、届け出ろというような、それだけを定めた法案で、特定胚のごく一部を禁止する、母胎への移植を禁止するという条項があるぐらいでございます。倫理を定めた規定がない。届け出制にするということは、すべて認めながら、それでもまだ認められないものはあるわけですから、その判断の基準というのが倫理原則ということになります。それがどう読んでもこの法案にはきっちり書いてない。  その具体的な倫理原則は、衆議院でつけられた附帯決議の中にしかございません。その衆議院の附帯決議の内容は、認められる人の生命操作研究ヒトの胚の研究とは、事前に基礎実験が繰り返され、人間でやる必要性と妥当性が認められること、それからそのヒトの胚の材料となるもとの精子、卵子などを提供した御本人から、ちゃんと何々に使うと説明し、同意をとるということ、そして研究に用いるヒトの胚と卵子というものはやりとりをするときは無償にする。つまり、お金でやりとりしないと。そういう倫理原則が附帯決議にしかないというのは大変問題ではないでしょうか。  こうした法案が通ると、極端な話を申し上げますと、例えば日本ではヒトの胚や卵を売り買いしても法律で罰せられない国だと宣言するに等しくないでしょうか。臓器の売買は臓器移植法で禁止されております。それと矛盾しないでしょうか。心臓や肝臓は売買してはいけないけれども、卵や胚は売買していいとは言わないまでも、法律で罰しないというのは整合性を欠くのではないでしょうか。  厚生省でも生殖医療規制が進められており、医療目的においてヒトの胚を作成、使用することについて一定の規制が進んでおります。そういう規制が進んでいるということ、あるいはクローン法案のようなものが必要だということは、人の命のもとをいじくる研究に対しては何らかの規制が必要だというコンセンサスは医療分野でも研究分野でも煮詰まってきているのではないでしょうか。  その厚生省の生殖医療規制案でも、ヒトの胚の医療目的でのほかの人への提供を認める方向です。そして、科学技術会議でも、クローン法案とは切り離した形で、ES細胞研究ヒト胚性幹細胞、マスコミで万能細胞と言われているものの研究のためにヒトの胚の提供を認めております。  そうすると、不妊治療目的でのほかのカップルへの提供と、それ以外にまだ生殖医学研究目的での提供というのもあります。そしてさらに、それ以外のES細胞研究のような産婦人科と関係ない研究目的での提供、そのどれが優先して、どういう順番で、だれが現場で説明と同意をとるのでしょうか。厚生省、それから科学技術会議、どちらの審議会もそうした優先順位とか、かち合うということを想定しておりません。そのためのルールがございません。このままではヒトの胚が生まれる現場で混乱が起きて、研究者と医療者と、それぞれのほかの患者とかと胚の取り合いということにもなりかねないのではないでしょうか。これは非常に避けるべき事態であると考えます。  ですから、少なくとも科学技術会議の事務をやっている科学技術会議単独で指針をつくるのではなく、厚生省など、ES細胞研究ヒトの胚を使う再生医学の研究に予算をつけている関係省庁共同で研究の指針をつくり、共同の責任審査、管理するべきではないでしょうか。ヒトゲノムヒトの遺伝子の方の研究ではそういう四省庁共同の倫理指針の策定というのが進んでおります。ヒトの遺伝子も命のもとです。ヒトの胚や卵も命のもとです。であるならば、同じ程度の扱い、共同所管にしていただきたいと考える次第です。  最後に、結論を申し上げます。  今、生命科学が急速に進展し、ついに来世紀は生命科学の世紀になるのではないかと言われ、さまざまな生命操作が現実のものとなったこの新しい世紀を迎える現時点で、クローン禁止するだけでは対応できないと考えます。本来あるべき筋の規制というのを一刻も早く実現していただきたいと思います。  その筋とは、ヒトクローンをつくることを禁止するのは、ヒトの胚をどこまで研究目的でつくったり使ったりしていいかというヒト研究規制の一環として行われるべきで、ヒトの胚の研究規制は、そのヒトの胚をもたらすもとになっている生殖補助医療の規制の一環とするべきだというのが本来あるべき筋であり、ヒトクローン禁止立法化したほかの先進諸国が実現してきた筋であります。日本だけがその筋と違う政策をとる理由というのは本当にあるのでしょうか。  そして、これは一般法では全くございません。生殖医療、生殖技術という非常に限定された個別法であって、十分個別的である。そういう意味では、先ほど位田先生がおっしゃられた日本の法伝統にも合致したものだと考えます。  クローン法案は、衆議院での審議の結果、見直し規定が修正され、さらに膨大な附帯決議がつけられました。その内容を解釈するならば、クローン禁止だけではだめで、ヒト胚全体の扱いも検討して見直すべしというわけですから、今述べたような包括的規制必要性が認められたものと私は思います。  ですから、三年以内というふうに言わず、もうそこまで必要性衆議院認識され、こちらでも認識されることと考えますので、三年後と言わず今から検討をして、一刻も早く、来年にでも実現すべきではないでしょうか。生殖補助技術規制ヒト研究規制の中でクローン禁止するという政策の筋を実現するために、ぜひ良識の府である参議院で継続審議にし、慎重な御検討をお願いしたいと思います。  以上です。ありがとうございました。
  11. 市川一朗

    委員長市川一朗君) ありがとうございました。  次に、井村参考人にお願いいたします。井村参考人
  12. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 井村でございます。おはようございます。  私は、科学技術会議の議員を務めておりまして、その職責上、科学技術会議生命倫理委員会委員長も務めております。したがって、本日は主としてその立場からお話を申し上げたいと思いますが、一部私個人意見も含めることをお許しいただきたいと思います。  この法案で使われているクローン技術という言葉ですが、これはある程度特定した言葉であります。クローンといいますのは、一般的には遺伝子が共通である個体あるいは細胞を指す言葉であります。したがって、クローン技術はかなり広い範囲のものでありますけれども、ここでは体細胞の核を移植して、そして個体をつくる技術のみをクローン技術というふうに書いております。これはわかりやすくするためであります。  御承知のように、我々の体を構成する細胞は大きく分けて二種類ありまして、体細胞と生殖細胞であります。体細胞は二組のゲノムを持っております。二つのセットのゲノムを持っております。それに対して生殖細胞はワンセットであります。したがって、卵子と精子が受精をいたしますと、そこで二セットになって個体ができるわけであります。ここで問題にしておりますのは、その体細胞の核を卵子に移入して個体をつくる、それをクローン技術というふうに呼んでおります。  このクローンは、哺乳動物ではできないと長い間考えられてまいりました。ところが、御承知のように、一九九七年にイギリスクローン羊ドリーが生まれまして、続いてマウス、それから牛等幾つかの哺乳動物クローン技術が成功いたしました。したがって、ヒトでもつくれることがほぼ確実になってまいりました。そこで、デンバーサミットにおいてクローン人間産生禁止を採択いたしまして、それを受けて当時の橋本総理のイニシアチブで科学技術会議の中に生命倫理委員会が発足したわけであります。  したがって、生命倫理委員会が最初に取り上げた課題クローンの問題であります。それ以後、ES細胞とかゲノムとか幾つかの問題を議論しておりますけれども、本日はそのうちでクローン技術の問題について、法案政府が提出いたしましたので、それについて少し述べたいと思います。  クローン技術の現状を申し上げますと、動物への応用はいろいろな面で有用でありますので非常に進んでおります。したがって、ここはどの国も規制をしておりませんし、我が国規制すべきではないというふうに考えております。  しかし、クローン人間をつくるということは倫理的に非常に大きな問題があります。しかも、これは比較的簡単につくれるのではないかということも考えられますので、速やかにクローン技術ヒトに適用することを禁止することが国として必要である、それが日本クローン人間に反対をしているということの意思表示にもなります。また、世論調査におきましても、圧倒的に多くの人が反対をしているところであります。  禁止理由は、先ほど位田参考人お話しになりましたように、ほぼ同じでありまして、まず、これは無性生殖であって、遺伝子がその提供者、その細胞を提供した人と同じであるということであります。それから、人間尊厳を侵害するというふうに考えられます。現在、地球上には約六十億の人間がいるわけですが、恐らく一人一人遺伝子は違っていると思います。それが人間の個性であります。それを人為的につくるということは問題があります。もちろん、一卵性双生児の場合には自然にできたクローンでありまして、これは遺伝子が同じでありますが、それを除きますと、遺伝子が多様であるということが人間あるいは生物の特徴であって、それは守るべきであるということであります。それから、社会秩序の混乱を避けるべきである。そういうところから速やかに禁止すべきであるという結論に到達いたしました。  禁止方法としては、罰則を伴う法律をつくるという方法とガイドラインで規制をするという方法があります。国によってその方法が違っておりまして、例えばアメリカなどではガイドラインを議論しているというところであります。  私は、少し個人の見解を申し上げますと、法律による規制は少ない方がいいと思っております。それは、科学者にはできるだけ自主性を与えて科学進歩を促すべきであるということが一つございます。それから、これからの科学者は自己責任を持って社会に対していく必要があると考えております。すなわち、みずから情報を公開し、社会の中で社会とともに生きる道を構築していく必要があると思います。最近、科学者社会の間には一種の契約関係があるという考え方が出ておりますが、そういった契約関係を今後強めていくためにはやはり科学者自主性が重要であります。法律規制をすることはそれを損なうおそれがあるというふうに思われます。  それから第二に、科学進歩は非常に速やかであります。実は、生命倫理委員会でこの問題を討議し始めた当初は、まだES細胞の問題は全く出ておりませんでした。したがってクローンだけを議論していたんですが、途中からES細胞が出てまいりました。今後どのような新しい技術があらわれてくるか予測することは全く困難であります。したがって、ヒト胚全体を広く法律規制しているドイツフランス等におきましては、特にフランスでは現在法律の改正の動きが出てきているところであります。  そういった状況下で、私は、どうしても人間尊厳を守るために行ってはいけない技術のみを法律規制し、その他はガイドラインによって規制をしていくのが妥当ではないかというふうに考えました。ガイドラインでは二重の審査がなされます。一つはIRBといいまして、それぞれの大学、研究所の持つ倫理委員会であります。その倫理委員会を通った後で、文部科学省に恐らく設置されるであろう委員会審査を行います。問題があれば現場検証もすることができるというふうに考えているわけです。こうしたガイドラインによって規制をしていくということはもちろん必要でありますが、それによって多くの弊害が除き得るのではないかというふうに考えております。  生命倫理には二つの大きな要素があると私は考えております。一つは医学の進歩を図るということでありまして、それは患者さんにはかり知れないほどの大きな利益をもたらします。しかし、同時に人間尊厳を守っていくということも重要であります。人間尊厳というのは理性を持った人間として失ってはならないものであると考えておりますが、それを守ることも同時に必要でありまして、その両方に配慮しながら法律なりガイドラインなりによって規制をしていくというのが生命倫理における一つの重要な方向であろうというふうに考えております。  どうぞよろしく御審議のほどをお願いいたします。
  13. 市川一朗

    委員長市川一朗君) ありがとうございました。  以上で参考人からの意見聴取は終わりました。  これより参考人に対する質疑に入ります。  なお、各参考人にお願い申し上げます。  御答弁の際は、委員長の指名を受けてから御発言いただくようお願いいたします。  また、時間が限られておりますので、できるだけ簡潔におまとめください。  それでは、質疑のある方は順次御発言願います。
  14. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 自民党の有馬でございます。どうぞよろしくお願いいたします。  まず最初に、ちょっと私の頭を整理する意味で、井村先生に現在の科学技術の上での状況についてちょっとお話を伺いたいと思います。  まず、人間動物の有精卵というものができたときに、どの段階でこの部分は頭になるとか、この部分は足だというふうなことがわかるようになっているのでしょうか。これがまず第一問であります。
  15. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 動物の種類によって分化の時期は違いますが、人間の胚では一般に受精後十四日たちますと原始線条というのが出てまいります。この原始線条はそれが神経系に発達していくもとになるものでありまして、このあたりから機能の分化が始まっているというふうに考えられます。それ以前の細胞としては胚盤胞と呼ばれる時期があるわけですが、その時期に内部にある細胞をとりますと、これはあらゆるものに分化し得るまだほぼ万能の能力を持っておりますので、その時点ではまだ分化が始まっておりません。
  16. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 どの部分がいつごろ分化するか、そしてこれが例えば臓器の何々に対応するということがわかれば、そうすれば動物人間の集合胚で、例えばまず動物性の集合胚で、動物胚の部分でこれは肝臓になる部分だからそこを殺しておきますね、そこに人間のを入れる。そうすると、その新しくできた個体においては人間の肝臓が入っているとか、そういうことがはっきり言えるような時代は来るものでしょうか、あるいはつくれるような時代は来るものでしょうか。
  17. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 可能性はあると考えております。しかし、そういう研究はまだほとんど進んでおりませんが、動物におきましては二種類の違った種の細胞が一つ個体の中にあるのをキメラと呼ぶわけですが、そういったキメラは特に鳥などでは比較的早くからつくられております。したがって、可能性はあると思いますが、まだできるかできないかは断定できません。
  18. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 ありがとうございました。  そこで、私がどうもわからないところについて三人の参考人の方に伺いたいと思っています。  それは、人間尊厳とは一体何なのですかということです。人間尊厳というのを見ますと、例えば人間の唯一性の崩壊と言われておりますけれども、じゃ人間の唯一性というのは何で決まるのですかということをお聞きいたしたいと思います。  例えば、遺伝子、DNA等が同じであるということが多分同一性というようなことなんだろうと思うけれども、しかしながら環境によって随分変わってくる。例えば、井村先生クローン人間ができたときに、ジュニア井村は勉強の仕方が違うと思うんですね。そうすれば当然個性が出てくるので、それは本来別な人間と見てもいいのではないかとかねがね私は思っているのです。この点についてひとつお聞きしたいと思います。  そこで、もっと違う理由があるのだろうと私は思うんですね。倫理ということの面で、人間尊厳に関して違うことがあるのではないか思っています。私もクローン人間をつくることは大反対なんですが、一体この禁止する倫理が非常に強いものだろうかどうだろうかということが先ほどからお聞きしている点であります。  先ほど二組のセット、それが卵になったり精子になりますと一組になる、そういうことをおっしゃいましたけれども、それが組み合わされていく、そして新しい個体が生じてくるというところには適者生存のようなことが自然界でずっと何億年、何十億年と行われてきている。そういう自然の発展を阻害するということになるというのが私の見解であります。しかし、先生方はそれをどうお考えになっておられるか、お聞かせいただければ幸いであります。
  19. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 人間尊厳とは何かというのは、生命倫理の国際シンポジウムでも常に問題になりまして、研究者の間でまだコンセンサスがございません。  今、先生がおっしゃった人間の唯一性を守るということ、それから生物は地球上にあらわれてからずっとほとんどが有性生殖をしてきております。有性生殖というのは、今おっしゃったように、遺伝子をまぜ合わせることによって多様な個体をつくる、そのことが生存に有利であったからであります。それを否定するということもございます。  しかし、より大きな問題として、人間が意図的にある遺伝子を持った個体をつくっていくということ、それは新しい生命の誕生を道具化することではないか、このことはやはり許されないであろうというふうに私は考えているわけであります。
  20. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 今、井村参考人がおっしゃったこととほとんど同じ内容になるかと思いますし、先ほど私が冒頭で御説明をしたこととも同じことなんですけれども、クローン人間をなぜつくるのかと。それが、例えば移植用の臓器をつくるためということであれば、これはまさに人間を道具化する、手段化するということでございますし、それからつくるということにおいて、でき上がるのは人間であっても、あいつはクローンだと言われる可能性が極めて高い。しかも、それは男女の間の有性生殖によって生まれるものではない、人工的につくられた人間だというふうに言われる。これはまさに個人尊重、つまり人間であるということを否定するに等しいというふうに思います。  先ほど申し上げましたように、人間の道具化と個人尊重、そして無性生殖、人工的な人間をつくるというこの三つを合わせて、クローンの問題に関しては人間尊厳に反すると言うことができます。  確かに、同じ遺伝子を持つという点に関してはいわゆる一卵性双生児と同じ状況でございますが、一卵性双生児というのは基本的に有性生殖で、要するに男女間の性の営みによって生まれてくる極めて自然的な人間の誕生であるというふうに思います。それと全く逆の立場にあるのがクローンだというふうに考えております。
  21. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 私は、人の生命尊厳というのはこう考えております。  クローンに限らず、人そのものではないにせよ、その人の命のもとであるヒトの胚というものが安易に研究材料として、物として扱われない、そして研究目的手段とされない。先ほど人の道具化とおっしゃいましたが、それよりもう一つ命のもとの道具化、命のもとの材料化というのも人の生命尊厳に反するのではないでしょうか。あまつさえ、それが研究材料として有償でやりとりされるということになりますと、これは人の生命尊厳に反すると考えます。
  22. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 私がお伺いしたのは人の尊厳とは一体何なんだろうということでありました。それに対してちょっと違う観点からのお返事でもあったと思いますが、皆さんのお考えは了承いたしました。  私は今でも研究者であると思っているんですけれども、研究者でありましたので、それは自由がなければ発展しないと思いますね。それは憲法で保障されているということがありますので、その自由を奪うことは大反対であります。しかしながら、研究者はそういう自由度を持っていると同時に社会責任というものを持っていると思います。これは井村先生もさっきおっしゃられたことであります。  ですから、今後の二十一世紀においての生命問題だけじゃなくて、あらゆる研究において、やはりこの社会責任を適切に判断するには自然科学者だけでは私は不可能だと思っております。かつての行政改革会議で、総合科学技術会議に常勤の人文科学者が必要であると私が強く主張したのは実はこの理由であります。  そこで、科学技術会議委員でおられます井村先生に、現在、総合科学技術会議で一体どういうふうな格好で人文科学者意見をお聞きできるような形にお進めであるか、その辺について手短に現状をお知らせください。
  23. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 総合科学技術会議は、今、有馬議員がおっしゃいましたように、単に自然科学だけでなくて人文社会科学も含むことになっております。したがって、少なくとも常勤議員に一名、人文社会系の方が任命されることを私は期待をしております。  それから、昨年の春ごろ、一年以上前でございますが、科学技術会議の中に二十一世紀の社会科学技術に関する懇談会を設けまして鋭意議論をしてまいりました。近々、その報告書を出版いたしますので、ごらんをいただきたいと思います。  私は、今、有馬議員がおっしゃったとおりの考え方を持っておりまして、二十一世紀になりますと、先ほど契約という言葉を使いましたけれども、やはり科学者社会との関係をもっときっちりしたものにしていかないといけない、そのためには人文社会系の人の援助も必要であると思っております。恐らく、そういう科学技術と社会に関する専門の委員会を設けることになるのではないであろうかというふうに思います。
  24. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 ありがとうございました。  そこで、少し違った観点で、特に位田先生にお聞きしたいことがあります。それは、クローン技術に関しては、一国だけが厳しくしても、規制の全くない国があればそっちへみんな研究者は行ってしまって自由に発展させるということがあり得ると思うんですね。  そこで、先ほどフランスドイツ等々のお話を伺いましたけれども、そして三十五カ国でしたか、こういう制限あるいは法律をつくっているということをおっしゃったのですが、やはり世界全体で厳しくしていかなければならないと思います。そういう点で、日本以外の国々が今後どのくらい世界全体として合意を得るようなことになるのか、その辺についての見通しをお聞かせいただきたいと思います。
  25. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 基本的にクローン人間をつくるということに賛成の国は今まで聞いたことがございません。それをどういう手段をもって禁止するかというのは各国でさまざまやり方があります。法律をつくる、もしくは既存の法律を適用するという形のところもあれば、国内での、例えば政府のガイドラインでありますとか政府声明でありますとか、さまざまなやり方があろうかと思います。  と同時に、三十数カ国と先ほど申し上げましたのは、クローン人間を実際につくれるような環境にある国、つまり科学技術の進歩がそれなりに進んでいる国は多分ほとんどだと思います。発展途上国の場合にはクローン技術を考えることすら実は余裕がございません。例えば、アフリカにおいては、エイズなりエボラ熱の方がクローン人間もしくはその他のES細胞の研究とかそういった生命科学研究よりははるかに重要でありまして、そちらの方に目が向いている。では、そういった国はクローン人間をつくることに賛成しているのかというと、これは全くそうではありません。  ユネスコにおきましても、議論の中でクローンをつくっていいという提案が一度だけ出たことがございます。これはイスラエルの科学者でございますが、不妊のカップルの場合にはクローン人間をつくることを認めてもいいのではないかという議論が出ましたが、その他すべての国は全部反対をいたしましたし、それからイスラエル自身が実はクローン人間禁止するという法律をつくっております。  それでは、いつ世界的に統一的にヒトクローン禁止することになるかとお尋ねになると、これは非常に答えにくいですけれども、少なくとも今のところはどの国もクローン人間をつくっていいと言っている国はございませんので、これについては私はある意味では楽観的に考えております。
  26. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 ありがとうございました。  私は加速器であるとか天文台であるとか、そういう巨大科学ということをずっとやってまいりましたので、お金の要る科学であります。そうなりますと、今、位田先生がおっしゃられたように、小国ではできないと思うんですが、しかし先進諸国より規制の弱いところにいつでも移転してやれるという心配が私はあるのです。それはなぜかというと、一般論としてクローン技術という生物科学は先ほど申しましたような巨大科学ではない。ですから、比較的お金なしでもやれるのではないかという点では非常に心配していて、ぜひとも国際的にきっちりと全世界の国々がこのクローン人間を抑えるように御努力賜りたいと思っているわけです。  物理学者は原子力を発電のような平和利用だけに限るべきであったと私は思っているわけです。しかし、原子爆弾を発明してしまったということは大変人類にとって不幸なことでありました。私も原子核物理学者の一人として非常に残念だと思っています。その原子爆弾というものを考えますと、戦時中であったということが一つ、そして世界じゅうがこの競争をした、軍備としてやろうとしたことが大きな問題であったかと思っております。万やむを得なかったと言う人も多いのですけれども、私は残念に思っています。幸い今日は平和な時代でございますので、どの国もクローン技術を軍備というふうなことに直接結びつけようとは考えていない、これはすばらしい幸いなことだと思います。  しかし、私が非常に心配をしているのは産業界でありまして、産業界が動くモチベーションというのはもうかるかもうからないかということであって、これが大きな産業になるよとなると市場原理でどんどん進んでいくおそれがあると思うのです。ですから、その意味でどの国も同じような厳しい法律規制を持つべきだと考えております。  特に私がお聞きしたいと思っておりますのは、一番大きな国でありますアメリカあたりは規制がどうも弱いように思いますけれども、その辺についてもっと厳しい国際的な合意はできないものでしょうか。位田参考人にお聞きいたしたいと思います。
  27. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 確かに、おっしゃるように、産業界がクローン技術を応用してさまざまな産業利用をするということがあり得ると思います。  私は、今の御質問には二つの問題があったかと思いますが、一つ科学研究をするということと、それを産業的に利用するというのは二つの違うステップだと思っております。科学研究をするということについてはどんどん進めていかなければいけないことだと思いますし、それに対して法律の足かせをはめるというのは逆の方向に行ってしまうと思います。それに対して、科学研究の成果をどのように産業利用するかということについては、必要であれば何らかの形で法律で定める、規制をするということが可能でございます。  それに対して、もう一つの問題、すなわちアメリカはどうかということでございますが、残念ながら、ユネスコの立場を代弁するならば、アメリカはユネスコから脱退をしておりまして、実は日本が最もたくさん分担金を支払っている国でございます。しかし、アメリカはアメリカなりの実は考え方がございまして、アメリカはある意味では自己責任といいますか、自分がこれがいいと思えばそれを最大限尊重する国であると思います。そのために実はアメリカは、国内法で例えばクローン人間をつくらないということがなかなか制定できない国であると思います。しかし、クリントン大統領は基本的にクローン人間をつくるということには猛反対をしておりまして、したがって政府資金はクローン人間研究には与えないという立場をとっております。  アメリカが生命倫理について、世界のその他の国と同じような形でクローン人間禁止するということを私もそしてユネスコ生命倫理委員会自身も願っておりますけれども、このあたりについてはいかんともしがたいところはありますが、アメリカ自身としてはクローン人間をつくってはいけないという認識は当然のことながら持っております。クローン人間をつくることによって何らかの研究上もしくは産業上のプラスがあるというのが実はそれに対する反対の振り子として出ているんだろうと思います。
  28. 有馬朗人

    ○有馬朗人君 最後に、もう一度科学者社会責任についてお伺いしたいと思います。  まず、今回のクローン人間規制に関して私も賛成でございまして、いろいろ御意見がありますけれども、ともかく早くやらなきゃいけない、そういう意味で、まだまだいろんな問題があるかと思いますけれども、急いだ方がいいと私は考えているわけであります。  ただ、研究者というのは、私も含めてでありますけれども、新しいことを発見し発明することは大好きです。ですから、禁断の実を食べるということはしょっちゅうやりかねない。そこで、私は自然科学者に対する自己規制というのが非常に必要だと思っております。その点は井村先生がおっしゃっておられたとおりだと思います。  ただ、私は自然科学者自己規制というものが強いとは思わない。ですから、今後、特に生物が発展していく際にどうやって研究者の自己規制を強め、研究者の本能を抑えることができるのかということについて私は非常に心配をしているわけであります。  そういう意味で、いろいろお聞きしたいことはありますが、時間が参りましたので、私は日本だけでなく世界じゅうの生命科学者の良心に期待しております。どんな国も産業も、特に倫理にもとるような応用、倫理にもとるような利用はしないように念願いたしまして、私の質問を終わらせていただきます。  どうもありがとうございました。
  29. 佐藤雄平

    佐藤雄平君 佐藤雄平でございます。  きょうは参考人の三人の先生方、本当に御苦労さまでございます。  今の有馬先生のお話、まさに私はごもっともだと思うんです。このクローンの問題については、私は法律、技術よりも最も大事なのはやっぱり倫理であろうと、そんなふうに思っております。  たまたま「ヒトクローン無法地帯」という本がありまして、この本をちょっとはしょって読んでみました。本当に末恐ろしい話になります。人工授精から始まって体外受精、それが最後には実はクローン人間の売買というか、そんなところまで行き着くであろうという本でありまして、生殖の技術、生殖そのものが何かマーケット化してしまって、それが商売になってしまう。  こういうふうなことを私はいろいろ考えてくると、やっぱり人の道徳というか倫理、特に井村参考人は科技庁の中の委員長をやっておられたということで、これと同時に戦後五十六年間のいわゆる教育の問題についても、すぐ目の前の即戦力、即効性、そんなことをどうしても優先にし過ぎて、私は今児童生徒の問題も出てきているのかなと。そういう意味で、私は、この中で人文科学、長い目で見て人間社会のプラスになること、これを考える大きなファクターというのが大事であろうと、そんな思いをしております。  そういう前提の中で、二つのことについてそれぞれの参考人にお伺いをしたいと思います。  その一つは、生命科学生命倫理についてであります。それはその人の唯一性があるし、先ほども言いましたように、道徳の観念が大事、大変必要であると。  私は、この中でやっぱり最後は人の生命、寿命というのはどこまでが人の寿命である、場合によっては生まれてすぐ亡くなっても日本の感覚からいうと寿命だったなと言うし、百歳になって、百五十歳になって亡くなっても寿命だったのかという話になって、寿命という言葉があると思います。それは、なぜかというと、今生命操作ということも非常な問題になっているわけですから、そういうふうな意味からすると、生命操作というふうなことを考えたりすると、やっぱり寿命という問題をどういうふうなとらまえ方をするのか。  生命科学生命倫理、それと同時に生命操作についてどのような御所見を持っておられるか、三人の先生方にお尋ねしたいと思います。
  30. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 大変難しい問題を提起されましたが、生命科学進歩は今後ますます加速されるだろうというふうに考えております。二十一世紀が生命の世紀であると言われるのは、その理由一つ生命科学の爆発的な進歩が期待されるからであります。しかし、それと同時に、やはり生命科学に携わる者はもちろん、社会全体が倫理を考えていかないといけないであろうと私は考えております。先ほどちょっと触れました二十一世紀の社会科学技術に関する懇談会の中で倫理のことが問題になりました。それからまた、教育が非常に大きな問題として取り上げられました。だから、そういったことを通じて社会全体も生命科学のあり方を考えていく必要があるのではないだろうかというふうに考えております。  それから、寿命というものはどういうものかということでございますが、これは人間が生まれてから死ぬまでの期間を寿命と言うわけであります。それは、御承知のように、随分延びてまいりました。縄文時代は、よくわかりませんが、十五歳まで、平均の寿命が十五歳以下であったというふうに考えられております。それが、今から百年前には四十三歳ぐらいになりまして、現在は八十歳までなったわけであります。これがどこまで延びるのかというのは予測できませんけれども、恐らくそう長くは延びないのではないだろうかというふうに考えております。  生物が進化の過程、さっきちょっと生物の話が出ましたが、進化の過程で有性生殖という戦略を取り込んだわけです。それは非常に有益であったわけですね。無性生殖クローンをつくっていくことになりますけれども、有性生殖は極めて多様な個体をつくります。例えば、人間の卵巣には数百個の卵子があるわけですけれども、その遺伝子を調べると全部違うんじゃないかと言われるぐらいに多様性があるわけです。だから、それが生物の非常に大きな基本になっているわけです。  それと引きかえに死という戦略をとったわけですね。だから、死がなければその生物の発展はないわけであります。参議院においでになって二百歳、二百五十歳の議員の方がおられたらどうなるか。ちょっと考えただけでも予想できないわけでありますけれども、死というのはやはり生命体が進化の過程で取り込んだ一つの戦略である、それはその種の発展のために非常に必要なものであるというふうに考えております。だから、寿命を延ばすということは決していいことではないと思います。  それから、もう一つ重要なことは、単に寿命として生きている、息をしているというだけではなくて、その人が人間としての尊厳を保ち、判断力を保った状態で生きないといけないわけですね。これは最近、生命の質、クオリティー・オブ・ライフという言葉がよく言われますが、それを持った期間を長くするのなら大賛成でありますけれども、それを犠牲にしてまで息だけしているのは、これは大問題であろうというふうに考えております。  ちょっと御質問の趣旨に答えられたかどうか自信はありませんが、そのように思います。
  31. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 寿命ということの科学的な意味については私は答える資格がございませんので、生命操作というのはどういうことになるのかということをお答えしたいと思います。  生命科学研究によって何を有用な成果であると考えるかということなんですけれども、要するに、例えば医療を考えてみますと、自然の生活について、人間が自然に生活をしていく上で著しい不利益とか負担があれば、それを治療するというのが医療だと思うんですね。それに対して、生命操作というのは、自然に反する科学技術によって命を例えば長らえさせるということだろうと思います。  寿命と先ほどおっしゃいましたのは、ある意味では、こういう言い方が正しいかどうかわかりませんが、神様がその人の命をどの程度長くするかというのを決めていただいたのであって、人間が決める、もしくは人間が長くする、短くするというものではないと思います。自然の人間の生活を、先ほど井村参考人がおっしゃったように、人間らしさを持って生活できる。その人間らしさを確保するために生命科学研究があり、もしくは成果の利用があるんだと思います。それを一言で言えば人の尊厳と。生命操作するというのはまさに人の尊厳に反することになるんだろうというふうに思います。  もっとも、問題はどこまでが自然の人間の生活であるかということでございますが、それについてはっきりとここまでであるという線を引くのは非常に難しいと思いますけれども、少なくともクローン人間をつくるということは完全に操作の域に入って、人の尊厳に反することだろうと思います。
  32. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 現代社会の中での生命操作のあり方という御質問で、適切にも教育について御言及されまして、私もそれが今後は一番大事なファクターであろうと考えております。私は、幸いにも、先ほど申し上げたように、分子生物学の研究所社会科学系人間として職を得て、こうして社会に出てきてお話しさせていただいたり、逆にお話を伺い、しかも自分の研究所では実験科学をやっている人間たちの話も聞けるという非常に恵まれた立場にあります。そのようなプログラムをぜひ国でも常設化していただきたい。  教育といっても学校の中だけではもう足りないと思います。ですから、どこまで許されるかという議論の大前提には、今どこまでやっていて、近い将来どこまでやりそうで、遠い将来には何をやるかという科学の実態について、例えば総合科学技術会議が内閣府に移された暁にはそういう調査研究プログラムをぜひ常設化していただいて、関心のある人はだれでもそこにアクセスでき、しかも国会などでの議論参考に、すぐにそこからさっと出てくるというような調査研究教育プログラムというのをぜひ国レベルで制度化していただきたいというふうに思います。それが長期的には非常にいい基盤整備になると信じております。  以上です。
  33. 佐藤雄平

    佐藤雄平君 本当に生命倫理ということ、よく委員会の中でも議論をしながら進めていただきたいと思います。  もう一つ、これは法律案についての中身なんですけれども、有性、無性とあります。しかし、冷静に考えてみると、有性であろうと無性であろうと、私は人の生命ヒト胚、これも人の生命になる。無性のヒトクローン、これも現実問題としては個体産生するというふうなことになると、その結果から逆に考えていくと、どうしてもやっぱり倫理が必要であろうというふうなことも考えるわけでありますが、そうなってくると、私はやっぱり生殖医療にどうしても関係してくる話であろうと思います。  生殖医療、これはある意味では厚生省、科学的なヒトクローンについて科技庁でやっているわけですけれども、私はこれは何で厚生省との共管にできなかったのかなと。それは委員長をやっておられる井村先生から、二年間の議論の中で生殖という範疇にどうしてこれは入らなかったのか、結果として両方とも人が生まれるという前提からすると。その辺についての経過をお伺いしたいと思います。
  34. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 科学技術会議の中に生命倫理委員会が設置された経緯につきましては、私も実はよく存じ上げておりません。これは当時の橋本内閣総理大臣の判断でつくられたものであるというふうに伺っております。  それで、実際的には、この生命倫理委員会の下にクローン問題の小委員会ヒト胚の小委員会、それから最近ではゲノムの小委員会等を設けて、そこには各省の関係者から出てきてもらって議論をしております。生命倫理委員会の方は、そういう省の代表というよりも、いろんな分野の代表、宗教学者もおられれば作家も哲学者も、いろんな人が出てきているわけです。だから、具体的な議論は主に小委員会でなされておりまして、各省の間での議論も行われております。  したがって、先ほどぬで島参考人がガイドラインをつくるときには厚生省も入れるべきだということをおっしゃいましたが、これは当然であります。ゲノムの場合には四省庁合同の委員会で現在ガイドラインをつくりつつありますが、同じ形が多分とられるであろうというふうに私は考えております。  その程度でよろしゅうございますでしょうか。
  35. 佐藤雄平

    佐藤雄平君 それはやっぱり管理するというふうなことが、これも本当に大事なことになってくると思うんです。そうなると、科学技術庁の所管の研究しているいろんな研究所、それと同時に厚生省の医療の先端、これは両方ともいずれきちんとした管理監督をしないと、私はこのヒトクローンについては技術的な面で大変なことになってしまうんじゃないかなと、そんな思いをしております。  さらに、井村先生の「クローン人間につながる可能性があるので、」、いわゆるクローン研究可能性、「研究は特に慎重に行うべきであるが、」という項目があります。このことについてはまさにそのとおりだと思うんです。だとすれば、私はやっぱり法律の中で、可能性がある限り届け出というより許可制にした方が行政機構の中で非常に管理しやすいんじゃないだろうかと。一方には科学技術研究の自由というふうなことはあるにつけても、今のこの法案中心というのはヒトクローンができるというふうなこと、これが最大の問題ですから、ここの部分についてだけでもやっぱり私は役所が許可をするんだというふうなことが大事だと思うんですけれども、これが届け出制というふうなことをもう一回お尋ねしたいと思います。これは、井村参考人位田参考人、双方にお伺いしたいと思います。
  36. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) まず最初に、誤解のないようにちょっと付言をしておきたいと思いますが、科学技術会議の中に生命倫理委員会が設けられております。その事務局を科学技術庁が担当しているわけでありまして、科学技術会議はしたがってすべての省庁を含むものであると。これは、現在では総理府、来年からは内閣府に入りますが、そこに直属しているわけでありますから、すべてのものを含んでいると考えております。ただ、事務局が科学技術庁であって、今回の法律はそこから出ているわけですけれども、これは手続上の問題でありまして、基本的には生命倫理委員会は各省にまたがったものであるというふうに考えているわけです。  それから、届け出制許可制の問題でありますけれども、繰り返しになりますけれども、法律許可制にするということは非常に研究者の手を縛ることになるのではないかというふうに考えております。それはやはりいろんな点で、例えばES細胞は許可制であるというふうになるといたします。そういたしますと、ES細胞に関しては一度きちんとした審議をして、その基準をつくればいいわけですね。ところが、すぐに何が飛び出してくるかわからないわけです、新しいことが。新しいことが飛び出すたびに官庁にお伺いをして許可を得ないといけないということになってまいりますから、そこで非常に時間を必要といたします。それで、届け出制の場合にはもうちょっと研究者の自主性が大きいわけですね。しかし、それでももちろんこういった生命倫理世界ですから、研究者がやりたいことを自由にやっていいわけではありません。  そこで、さっき申し上げましたように、大学なり研究機関は今ほとんどすべて生命倫理委員会を持っておりますから、そういう委員会許可を得て、その上で文部科学省の審査を得ないといけない。だから、基本的には両者の間にそれほど大きい違いがないのではないか。ただ、精神的には私は非常に違うんじゃないかというふうに思っております。  だから、やはり研究者に自由を与えたいし、新しい事態が起こったときにより柔軟に対応できるようにしたいということを考えているわけです。だから、法律によって規制することは最小限がいいのではないかというふうに思います。どうも日本規制が多過ぎて、許可制が多過ぎますので、できるだけ許可制を少なくしていただきたいというふうに私は考えております。
  37. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 誤解が若干あるかと思いますので申し上げますが、クローン人間をつくることについては法律禁止されておりますので許可届け出も全くないということ、これが一つでございます。  それから、届け出制にしようというのは基本的には特定胚研究に限られておりまして、これがもし特定胚研究からそれが個体産生につながるという部分については、当然法律禁止されている部分に入ります。  胚の研究自体を許可制にするか届け出制にするかという問題については、確かに行政の方で管理しやすいというのは一たん禁止して許可をするというやり方かと思いますが、しかし科学研究を管理するということ自体はある意味では国家管理主義に立ち戻ってしまうことになるわけでして、私も社会科学者の端くれですので申し上げますが、そういうふうに国家が科学研究をがんじがらめにして管理する方向に動くというのは、まさに民主主義に反するのではないかというふうに思います。そういう意味で、何らかの社会に極めて大きな影響を与える場合には確かに禁止することが必要であろうかと思いますけれども、基本的には科学者の積極性、自主性に任せて研究を進めていく。  確かに、これまで科学者はそういうことに、科学者責任ということに余り注意を払ってこられなかったかと思いますので、今後は科学者責任をきちっと自覚していただいて、かつ社会の側も、科学者にそういう責任があって、社会もそれをある意味ではウオッチングといいますか、ちゃんと監視をするんだと、そういう社会の側の認識も必要だろうというふうに思います。
  38. 佐藤雄平

    佐藤雄平君 どうもありがとうございました。
  39. 益田洋介

    益田洋介君 三人の先生方、お忙しいところ御苦労さまでございます。  まず最初に、私は井村先生にお伺いしたいと思います。  先生からいただいたこの二枚紙の集約でございますが、その一番最後に「生命倫理の基準」ということで先生が問題提起をされております。「生命倫理に関する考え方」というところでございます。そこに、私が非常に興味を持ちましたのは「自己決定権の尊重」というところでございまして、「インフォームド・チョイス」と先生はおっしゃっておられます。  ここに本がございます。私の出版した本でございまして、「遺産相続人」ということで、何を扱っているかといいますと、一応法廷サスペンスと書いてありますけれども、これは本を売るために出版社の方につけていただいた副題でございますが、安楽死の問題でございます。九四年に出して、若干は売れましたけれども、その当時はそういう精神的な余裕がまだあって、どうも国会に参りますと、非常に何といいますか、機械的なといいますか即物的な物の考え方しかできなくなって残念なんです。  私は先生のお話を伺いながら思い出したのでございますが、これは実際にあったイギリスの医療過誤といいますか、遺産を持った不治の病にかかった人たち、そういう人たちに対して、ある特定の論理を持った医者が、医者の使命というのは何かといいますと、それは苦しんでもう治る見込みのない患者の苦しみを一刻も早く取り払ってやるのが医者の倫理だと、それが医学というものの本質であるというような、そういう考え方をした医者がおりました。それで、私はこういうことを書きました。「死に至らしめなくとも、死期を早めること自体が立派な殺人なのだ」と。これは検察側の考え方です。ただ、それに対してその医者は法廷で言うわけですけれども、自分は「法律のことはわからない。しかし、もう治療が意味をなさなくなってしまっている患者には、幸福になってもらうようにするのが医師の務めだと私は認識している」と。  この物の考え方、両極端、検察側と被告人の考え方の違い、先生はどのようにお考えでしょうか。
  40. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 実は、先ほどちょっと時間がなくて一番最後のところをはしょったわけですが、ここは一般論を書いたまででありまして、必ずしもクローンだけにかかわる問題ではないと思っております。  それで、今の御質問の問題ですけれども、私はやはり自己決定権というのを尊重しないといけないというふうに思います、一般的に言えば。生命科学の技術の世界では自己決定権というのをできるだけ尊重しないといけないというふうに考えているわけです。  ただ、安楽死という状況になりますと、本人が自己決定できる状況かどうか、十分な理性を持って自己決定できるかどうかということが非常に大きな問題になりまして、したがって安楽死というのは現在世界のほとんどの国で認めておりません。それから、一たん認めた国でも、それをもう一度変えようという動きがあるわけであります。  ただ、安楽死以外に尊厳死という概念があります。これは、生命のむだな、むだなといいますか、最終的には死に至る病気の場合に、ただ延長をするだけのことはしないでおこうということで、これは本人の意思に従って医療行為を少なくしていくということはできるわけです。  しかし、いずれの場合にも私は本人の自己決定権を最大限尊重すべきであろうというふうに考えております。  ここで「インフォームド・チョイス」と書いたのは、今まではインフォームド・コンセントという言い方が多かったわけです。コンセントというのは、医師の方から患者さんに話をして患者さんがそれに同意するという、どうしてもそういう雰囲気があるわけです。そうじゃなくて、もうちょっと積極的に患者さんがいろんなことを選択できるようにしていくべきであろうと。これは言うは易しくして実際は非常に難しい問題がたくさんあるんですけれども、ただ、そういう方向はこれから重要であろうということで、ここで「インフォームド・チョイス」という言葉をあえて書いたわけであります。  御質問の趣旨にお答えできたかどうかちょっとわかりませんが、もし不足のところがあったらまたお聞きいただければと思います。
  41. 益田洋介

    益田洋介君 ありがとうございました。  安楽死と尊厳死というふうな区分の仕方を先生はされておりまして、私の場合もその尊厳死にむしろ近い考え方で御質問させていただいたわけでございます。  次に、位田先生にお伺いしたいんですが、ことしの五月十八日、衆議院科学技術委員会に先生に参考人として出席をしていただきました。そこで先生は量刑の判断についてお考えを申し述べられております。今回の法案ではクローン人間をつくると懲役五年以下もしくは五百万円以下の罰金となると。これは前の法案でございますが、例えばフランスではこれに反すると二十年の懲役と極めて重たい刑が科されておりますと、こういう御意見を述べられた。それで、先生の御意向を受けた形で懲役十年以下、一千万円以下の罰金というふうに本案は修正をされました。  さらに、ことしの九月二十二日に、欧米などで活躍しているある宗教団体でございますが、これがクローン人間をつくるという計画を発表した。これで非常に動揺が世界じゅうを駆けめぐったわけでございますが、自民党のクローンの小委員会の水島委員長、きょうも御出席でございますが、日本に規則がないのは異常である、早急にこれは法案をつくらなきゃいけない、そうでないと科学技術への信頼が大きく揺らぐと先生はおっしゃっているんです。  法案はこういった過程を経て、可及的速やかに成立させなきゃいけないというのと同時に、十年以下または一千万円以下に引き上げられた。こうした科学技術の悪用を防ぐということは早く断ち切らなきゃいけないということで、そういう危機感が日本のこういった立法府での動きにつながったと。  ただ、日本では初めて科学技術を規制する、それに懲役を科するという取り組みでございまして、この点が非常に問題視されて、ある野党ではこれが問題だと。要するに、科学技術の発達とか研究の自由を阻害することになるという議論も一部にはございます。  この量刑判断について先生の御意見を改めてお伺いしたいと思います。果たして十年でも軽いんではないかというようなニュアンスまで先生はおっしゃっていらっしゃいます。
  42. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 私は、ことしの五月に衆議院お話をさせていただいたときには、五年では軽いというのは以前から思っておりました。  その理由は、先ほど冒頭の説明でも申し上げましたが、クローン人間をつくる目的が例えば臓器移植であるということからすると、人間をつくるということと、それから臓器を取ってその人間を殺してしまうということにつながると。そういう意味で物理的殺人である。同時に、もし無事に生まれてきて、その人が人間として生活をする場合には、あの人はクローン人間だと言われて個人尊重もしくは人権の侵害が起こるということを考えまして、それは精神的な殺人だというふうに申し上げました。そういう意味で、五年では短いだろうというのが衆議院での私の意見でございました。  じゃ、十年でも短くないかと言われますと、人間を殺す、つまりいわゆる殺人罪というのは刑法では三年から死刑までさまざまに状況によってバラエティーがございます。  そういうことを考えて、どのあたりが最も妥当かということでございますが、確かにフランスは二十年で、極めて長期の懲役でございますが、そのほかの国は大体十年程度だろうと思いますので、十年ぐらいの懲役を覚悟して科学者クローン人間をつくるかということなんだろうと思います。五年ぐらいだったらすぐ出てこられるというのは若干言い過ぎかもしれませんが、十年というのはやはり科学者にとっては極めて長い期間だろうと思いますので、一応妥当であろうというふうに考えています。これよりも短くていいという意味ではありませんで、これよりも長いということであれば私は賛成をいたします。そういう意味で、十年以下ということで、上限十年というのは現時点では妥当だろうというふうに考えております。
  43. 益田洋介

    益田洋介君 ありがとうございました。  この量刑の判断基準というのは非常に難しいものでございまして、今後やはりまた見直さなきゃいけない時期があるいは来るかもしれないという感じを私も持っております。  次に、ぬで島先生に伺いたいんですが、先生にいただきました「問題点と望ましい代案」というペーパーでございますが、その一のフレーズの三にありますが、「政府法案がいう「コピーされない」「他の動物と混ぜられない」だけが人の生命尊厳か。」と、こういった疑念を先生は呈されているわけでございまして、さらに、「生殖医療生殖医学も含め、どこまで人の生命操作が許されるのか、」と、この点、若干敷衍して先生の御意見をお伺いしたいと思います。
  44. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 要するに、人の尊厳生命尊厳というのは、コピーされない、ほかの動物とまぜられないだけではないだろうと。先ほどお答えしましたように、人そのものではないにしろ、人の命のもとが研究材料として簡単にやりとりされるようではいけないし、そこに金銭が絡んで直接有償で取引されたりしてはいけないだろう、そういうことを入れていかなければいけないであろうということを申し上げたわけで、生殖医療規制については、御承知のように、厚生省の方で検討が進んでございます。  生殖医学の方で気になる発展分野といたしましては、不妊の原因というのはさまざまございますけれども、精子や卵子という受精卵のもとになる男性、女性両方のそれぞれの生殖細胞がうまくできないというとき、精子や卵子はうまくできない方でも、そのもとになっている細胞までは体の中にあるという方がいて、その精子や卵子のもとになる細胞を取り出して培養して何とか精子、卵子に育て上げていけば自分の子供が持てるんではないかと。  そのときに、例えばその精子や卵子をどうやって培養するかというと、人工的には非常に難しくて、そうするとまず産婦人科の研究者が考えたことは、ほかの動物の精巣や卵巣の中で育てたらどうであろうかと。それで、人間の精子を見事にネズミの精巣の中で育て上げて実現した方が出てこられて、報道がありましたので御記憶かと思います。それが今度は卵子も試みてみよう、ネズミの中でつくった人間の精子や卵子で子供をつくってみようと。それは研究でございまして、まさかそういうものはすぐにとは思いませんし、学会その他でも検討はされるとは思いますが、そういう発展分野もある。  しかもさらに、脳死した女性から卵巣組織をとってきて、その卵巣を培養して卵を取り出そう、それが不妊治療に使えるんではないか、あるいは研究材料に使えるんではないかというような研究も考えられて、一部実施されているようでございますので、生殖医学研究についてもそうしたことを野放しというわけにはいかないだろうというふうに考えられております。それに国がどこまで関与すべきかということはぜひ早急に御検討いただきたいと思います。  現に、科学技術会議生命倫理委員会でも、ことしの三月の御決定で、ヒト研究全体の検討が早急に必要であるという決定を下されております。しかし、それから八カ月半経過いたしましたが、科学技術会議においては実質的な具体的な取り組みというのはほとんどないように伺っております。ですから、その検討を早急にこちらでお願いしたいと申し上げている次第です。
  45. 益田洋介

    益田洋介君 同じくぬで島先生に伺いたいんですが、これはレジュメではありませんで、「世界」という雑誌の九七年六月号で、先生は「人クローン日本は対応できるか」という論文を発表されております。  ヨーロッパ評議会の生命倫理条約について、日本は加盟国ではない、それからさらには条約に署名する資格はないと、今の日本には。もっと臨床試験の被験者の人権保護やインフォームド・コンセント、これはインフォームド・コンセントでございますが、の幅広い義務づけを日本が緊急に取り組むべきであるし、日本の医学研究と臨床現場を改善する抜本的な原則と態勢を整える必要がある、このように主張されております。  この点についても若干敷衍して御意見を伺いたいと思います。
  46. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) ヨーロッパ評議会というヨーロッパの四十カ国が参加した地域国際機関がございます。生命倫理条約と通称されていて条約の本名は違うんですが、国際的に法的拘束力がある生命倫理分野での初めての条約と言われています。ただ、まだごくわずかな国しか、五つ六つぐらいしか批准しておりませんで、ごくわずかな国でしか発効してございません。その附帯条項にヒトクローン禁止するというのも即座に採用されましたが、そのヒトクローン禁止という附帯条項が位置づけられる位置づけのされ方が、ヨーロッパの生命倫理条約では、今御指摘いただきましたように、ヒトをどこまで研究材料にしてよろしいか、その場合どういう倫理的条件が必要であるかということがこの条約の本体をなしてございます。その中には、ヒト丸ごとではなく、ヒトの体の一部、臓器、組織についての規定もございますし、ヒトの胚を実験目的でつくってはいけないというヒトの胚の研究規制についてもございます。  こういう包括的な条約あるいは規制の中でヒトクローン禁止するというのは非常にすっとおさまるわけでありますけれども、日本は、そういう意味でもこの条約の筋になるべく近づける形で対応していかないと、国際的な対応という点でもおくれるのではないかと危惧しております。  以上です。
  47. 益田洋介

    益田洋介君 次に、三人の先生方にそれぞれ御意見を拝聴したいんですが、一つ考え方としては、クローン技術の応用という面からの検討も非常に有用になってくるんじゃないかというふうに思っております。例えば、アメリカのウィスコンシン大学のジェームス・トムソン教授たちが、臓器移植、白血病、パーキンソン病の治療に応用できるだろうというふうな、これはES細胞の問題でございますが、これは言ってみれば明るい面の利用方法でございます。さらには、医療関係、特に移植用の臓器作成、それから不妊治療、それからさらには疾病の治療ということで、ミトコンドリアを交換することによって疾病を防ぐ治療の可能性も大であると、こういうふうな意見もございます。  これについて、井村先生位田先生、それからぬで島先生、それぞれ御意見を拝聴させていただきたいと思います。
  48. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) まず、ES細胞でありますけれども、これはクローン技術とは関係がございません。といいますのは、これは受精卵、精子と卵子が受精をしてできた受精卵が一定程度成長したところで、それをつぶしまして、その中の細胞をとって培養をいたしますと無限にふえ続ける、しかも条件を与えることによって神経細胞になったり血管になったり骨髄の細胞になったりすると、そういう細胞であります。したがって、これは非常に医学に大きなインパクトを与えました。  それから、特に日本では臓器移植が、これ法律をつくっていただきましたけれども、年に二例ぐらいしかできないという状況で、非常に多くの患者さんが臓器移植を待ちながら亡くなっております。したがって、こういったES細胞を使う細胞移植というものに非常に大きな期待をかけているわけです。  ただ、問題は、ヒトの受精卵を壊さないといけない。一たん細胞系をつくりますと、半永久的とまではいかなくても相当使えるだろうとは思いますけれども、しかしいずれにしろヒトの受精卵を壊さないといけないというところに倫理的問題があるわけです。したがって、世界の各国ともES細胞については非常に悩みました。悩みながら、しかしより多くのメリットがあるということで、世界のほとんどの国が何らかの形で受け入れていく方向に現在進みつつあるわけです。  それ以外にも、今ミトコンドリア異常症もおっしゃいましたし、いろんな新しい技術が生まれてくると思います。それから、ES細胞も、受精卵をつぶすのではなくて、移植を受けたいと思う人の体細胞をとってきて、その核を動物の卵子に入れて、そうしてES細胞をつくろうという試み、こういう可能性もあります。まだ人間ではやられておりませんし、この法律でもそれは今のところ認めておりませんからすぐにできるとは限りませんが、そういった可能性もあるわけですね。  だから、これからの一つのあり方は、幹細胞、幹の細胞というわけですが、単に受精卵からだけではなくて、もっとほかの方法で、倫理の絡まない方法でそういうものをつくっていこうと、そういう動きが現在あるわけです。  今後、どういう医学応用が出てくるかはちょっと予想ができません。さらに驚くような新しい応用の方法が出てくるかもしれないわけですが、その場合には、それに対して一々対応していくことが必要であると思います。  先ほど、ちょっと最後の結びに言いましたように、私はこの生命倫理、特に医療の倫理というのは非常に難しいわけですね。それは、一方では目の前に悩む患者さんがいるわけです。その人を救わないといけないというのは医師の使命であります。しかし、同時にそれが人間尊厳を侵すということであってはいけない。その間での選択をしていかないといけないわけですね。  だから、そこで非常に難しい問題がたくさんありまして、現に臓器移植のときも日本は非常に悩みましたし、常に悩まないといけないわけでありますけれども、しかし一方では病気で亡くなりつつある患者さんを何とか助けるということも必要でありますから、その両者に目を配りながら、一つ一つの問題について選択をしていく必要があるだろうと考えております。
  49. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 今の御質問は、ES細胞の問題とクローン技術の応用という二つの問題を含んでいると思いますが、いずれの研究でありましても、基本的にその研究の成果が従来治療法のなかった疾病もしくは異常に対して新しい治療法を生み出すことができるであろうと。どこまで確実かという科学的なところは私もはっきりとは存じませんけれども、しかしそういう可能性があるので研究をしていこうというのが一番重要な点かと思います。  その際に、胚を使うということが生命倫理の点からは一番重要な障害でございまして、ES細胞に関して申しますと、これはES細胞を取り出すための胚、すなわちヒトの受精卵をどこから持ってくるかということが重要でございます。胚を全く研究に使ってはいけないという国も幾つかございます。ドイツ胚保護法という法律がございますし、それからバチカンなんかは受精卵から人間生命は始まるのでヒトの胚は一切さわってはいけないというのがその立場、これはもちろん宗教的な立場でございます。  しかし、一般に現在世界の多くの国で認められているのは、体外受精をした後に残る凍結受精卵、凍結胚であれば、もし研究に使わなければそれは廃棄されるものである、廃棄されるということは胚は何ら役に立たないで胚そのものをつぶしてしまう、消滅させてしまうということにほかならない、それよりは研究を続けて、従来治療法のなかった新しい治療を見つけるために使う方が、捨てられる胚を用いて研究する方がずっと重要な意味を持つし、そのことが人の尊厳に反するとは言えないであろうと。  それに対して、その研究のためにわざわざ胚をつくるということについては多分世界のほとんどの国は反対をしておりますし、かつそういう法律ができたりもしくは宣言なり報告書が出ていることがございます。  クローン技術についても同じようなことが言えるわけでして、クローン技術によって人の個体をつくるということは当然禁止されますけれども、しかし、クローン技術を応用して胚の段階で何らかの新しい医療の可能性を探るということは、実は科学研究のある意味では基本的な立場だろうと思いますので、このことについては認めるべきであろうと。しかし、当然科学研究の自由の乱用というのはいけませんから、そこのところは例えば届け出制にするという形でコントロールをする必要があるかと思います。
  50. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 応用の面で気になることがやはりこの分野でもございます。  ヒトの胚を使うES細胞研究クローン技術が結びついた応用が考えられています。自分専用の臓器や組織をつくるために自分の細胞核を移植したクローンの胚をつくって、そこからES細胞をつくれば、自分専用で免疫抑制もしないでいい臓器や組織がつくれるのではないかと。  このES細胞研究のためのクローン胚作成という合体した技術について、イギリスはこれを認める決定をして国際的にもかなり論議を呼び起こしております。アメリカはこれを認めませんでした。先ほど申し上げたヨーロッパ連合倫理委員会も時期尚早として認めませんでした。フランスも先ほど言及がありました法改正ではクローン胚をつくることも禁止すると、人間だけじゃなくクローン胚をつくることも禁止する方向です。  この点、日本クローン胚をつくることを認める法案を今つくろうとしているわけですから、ここもどうなるのかというのは、国際的な対応の中で日本のこの法案が果たして適切な内容かどうかということをぜひ御審議いただきたいと考えます。
  51. 畑野君枝

    ○畑野君枝君 日本共産党の畑野君枝でございます。  本日は、三人の参考人の先生方、ありがとうございます。  私は、主に生命科学生命倫理の問題についてきょうは伺いたいというふうに思います。    〔委員長退席、理事岩瀬良三君着席〕  そこで、まず井村参考人に伺いたいのですが、先生が座長を務めていらっしゃる二十一世紀の社会科学技術を考える懇談会で「社会とともに歩む科学技術を目指して」という報告を出されていらっしゃると思います。その中で、「科学技術関係者の社会責任倫理」ということで、例えば原子力関連施設等の事故や新幹線のトンネルの崩落事故なども挙げながら、倫理教育と安全対策の徹底は極めて重要な課題であるということにもお触れになっていると思うんです。  こうした科学技術と倫理という大きな問題から考えて、具体的には生命科学生命倫理の問題、あわせてヒトクローン規制に対する考え方、ちょっと大きな話になるのでございますが、どういう点が必要なのかというのを、大きな点と具体的な事例を含めて先生が考えていらっしゃることについて伺いたいと思います。
  52. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 大きな立場から見た場合には、最初に私が申し上げたとおりであります。  私は、やはり科学技術というものは社会の中でしか存在できないものであろうと思っておりますから、科学者、技術者は社会に対して一定の責任を負うべきであろうという立場であります。それを先ほど契約という言葉で申し上げたんですが、一種の契約ではないかと。社会科学者や技術者に対して研究費を出しているわけですよね。それで今度は、科学者、技術者はその研究費を受けてどういう研究をしたかということを社会に公開しなければならない。そうして、それが社会にとってもし有害なものであれば、そういう研究は認められない。基本的にはそういう立場をとっております。したがって、これから次の世紀は、科学者、技術者に対してそういった倫理教育をしていく必要があるであろうと考えております。    〔理事岩瀬良三君退席、委員長着席〕  問題は、しかし、何が有益で何が有害かという判断であります。これは個々の問題になると大変難しくなってまいります。例えば、脳死臓器移植ですと、脳死の人から臓器を取り出さないといけないという問題が出てくるわけで、そこで非常に悩むわけですね。だから、個々の問題になりますと、今申し上げたような大変矛盾した状況に直面せざるを得ない場合があるわけです。  ES細胞もその一例でありまして、ES細胞は非常に有益であろうということは考えられます。現に、動物実験ではもうその有益性がかなり証明されてきています。しかし、実際にはヒト胚を今のところ壊さないといけない。たとえそれが余剰胚であっても、それを壊すという倫理的な面に直面するわけです。  だから、その場合には、さっきも申し上げましたように、やはり悩む患者さんを助けるための医学の行為と、それから人間としてとってはいけない行為と、その間の両方をよく見ながらそれぞれの事例について考えていきませんと、全体としてこうだというのは、基本原則はできますけれども、個々の例について見ると、何が有害で何が有益なのかという判断が大変難しくなってくるわけです。臓器移植も、最初は日本は非常に抵抗いたしましたけれども、だんだん受け入れられてくるという形になりつつあるわけです。  だから、そういうふうに社会の受容というものがやはり時代とともに変わってまいりますので、そういったことも考えながらやはり倫理は考えていく必要があるであろうと思っております。
  53. 畑野君枝

    ○畑野君枝君 次に、位田参考人に伺いたいんですけれども、ユネスコヒトゲノム人権に関する世界宣言お話がございました。各国のいろいろな状況もお話がございましたが、こうした規定がどのように守られていくのか。例えば、イスラエルの例のお話がございました。たしか不妊治療に対しては認めるべきだという案がイスラエルから出されていて、しかしその後、人クローン個体については禁止という法律がつくられているという話もございました。  それで、どのように各国で守られていくのか、特に人の尊厳に反する行為としてどうすべきかという点について、もう少し具体的にお話を伺いたいんです。  ドイツのように胚保護法を持っているところがございますが、そういうところとフランス日本との違いという点で、人クローン個体産生ヒト胚の操作についてわかる範囲で伺いたいと思います。  また、生命倫理一般法をつくることは理想的だというふうにおっしゃっておられました。その点の考え方についても伺います。
  54. 位田隆一

    参考人位田隆一君) ユネスコ宣言そのものは条約ではございませんので、法的拘束力がございません。当然、各国の中だけではなくて、各国間、国と国との間でも拘束力がない、これは御承知のとおりかと思います。そうすると、拘束力のない、倫理規範と申し上げますが、拘束力のない倫理規範をどういうふうに各国で守ってもらうかということについては、ごく一言で言えばやはり人々の認識であり、その人々の認識に基づく各国政府生命科学に対する政策だろうと思います。  そのためにユネスコがやっておりますことは、実は先日も、十一月の上旬にエクアドルでユネスコ国際生命倫理委員会を開きました。世界のいろいろな地域で生命倫理委員会を開くことによりまして生命倫理に対する認識を深めていただこう、それから同時に、ユネスコが希望しているのは、各国で国の生命倫理委員会というのを、例えば井村参考人委員長をしておられるような科学技術会議の下の生命倫理委員会のような、国全体の生命倫理の問題を考える生命倫理委員会をできるだけたくさんの国でつくってほしいということを要望しております。現在、世界では多分四十カ国ぐらいはでき上がっておりますし、これからつくろうと努力している国が随分たくさんあるということは存じ上げております。  そういう形で人々の認識を高めていくということがやはり倫理でございまして、法ではございませんので、人が人の命とか人間尊厳をどう考えるかということが基盤になるということだろうと思います。そのためにユネスコは国際的な活動をしているということが一つございます。  それから、ドイツ胚保護法を持っていて胚の研究を全面的に禁止している、しかしフランスとか日本はそうではないじゃないかということでございますが、ドイツ胚保護法を持っているのは、御承知のように、歴史的な理由がございます。第二次大戦前のユダヤ人に対する断種もしくは虐殺、そういう人種差別から生まれた、ある意味では非常に大きな反省の一部として胚の保護ということが問題になったので、ドイツはそういう胚保護法をつくりました。それに対して、日本とかフランスはそういう過去が、全くないとは申し上げませんが、ドイツに比べるとそういう状況ではございませんでしたので、そうなりますと人間尊厳保護しながらどこまで生命科学を進めていくかという、調和といいますか、科学進歩させるのと同時に、人間尊厳もしくは人権保護していくというやり方として、どういう原則を持ち、もしくは具体的な手段方法を講じていけばいいかというのを議論することができているんだろうと思います。  そういう意味で、日本生命倫理委員会でこれまでクローンについて、もしくはESについて、またゲノムについて議論をしてきたのはそういう背景があってのことでございます。言いかえれば、ドイツの方も胚を保護するという政策はいいんですけれども、そのことによって胚の研究ができなくなるというマイナスが実は非常に大きく最近考えられておりまして、何らかの形で胚保護法の改正、胚をないがしろにしていいという意味ではございませんが、どこまで胚を保護しながら科学技術を進めていくかということについての議論が始まっているというふうに聞いております。
  55. 畑野君枝

    ○畑野君枝君 次に、ぬで島参考人に伺います。  今回の法制定に向けてクローン技術規制生殖医療と切り離せないという立場から、生殖医療全般を規制する法制度もあわせて検討すべきではないかという声が日弁連などを含めて出されてきたというふうに思います。生殖医療の現場で生み出されている余剰胚を含めた基本的な考え方について、先ほどもお話ありましたが、もう少し具体的な問題点について伺いたいと思います。ES細胞を含めてお話をいただければと思います。
  56. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 生殖医療現場においてヒトの胚をつくり、それをどう使うか、あるいは保存するかということに関しては、日本産科婦人科学会という産婦人科のお医者さんたちの団体がありますが、これは任意団体ですので、法人ではありますけれども、何というか、強制権とか、こういうルールをつくったから守らせるというようなことでは機能していないということで、ヒト胚の研究についても若干のルールの制限はあるんですけれども、医療の現場でそれが一〇〇%守られていることは保証できないということで、厚生省でもいよいよ学会に任せずに規制に乗り出すというところであるというふうに認識しておりまして、その検討がもう二年間進んで、この十二月にも出る予定ですので、議論を先送りしろと言っているのではなく、もうすぐに出てくるものでございますから、その内容と合体させた法案をぜひおつくりいただきたいと申し上げている次第です。
  57. 畑野君枝

    ○畑野君枝君 次に、三人の参考人の先生方に共通して伺いたいと思います。  生命倫理委員会や厚生科学審議会などが専門的な知見での論議をされていると思うんですけれども、クローン問題や生命倫理問題については国民的な議論が必要になっているというふうに思います。先ほど例に挙げたドイツのように、生命尊厳にかかわる問題はオープンな第三者機関によって国民の意見が反映されているという国もあるというふうに伺っているんですね。その点で徹底した情報公開また国民的な議論が必要になっていると思います。その点で、どのような具体的な方向が必要なのかというのを伺いたいんです。  例えば、教育の場でどのようにしていくか、あるいは子供の権利からいってどうなのか。例えば、自分のルーツを知る、こういう問題も含めてかかわってくると思いますし、あるいは女性の権利ということで言うと、身体的あるいは精神的な負担が多いのが女性の側だというふうに思います。そういう点を含めて情報公開や国民的な議論をどのようにつくっていく必要があるのか、具体的なお話があれば伺いたいと思います。
  58. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 科学技術会議におきましてはすべての委員会を公開にしております。したがって、プレスは常に出席をして、そのたびに何らかの報道をしているということがあります。それから、中間報告案ができますと、必ずそれをインターネットに載せてパブリックコメントを求めております。それから、クローン問題に関しましては、それ以外に世論調査を行いまして、そうしてその結果、大部分の人がクローンを認めるべきでないという結論を得ましたので、こういう法律案にしたわけであります。それ以外に、例えばES細胞等につきましても、一般の人たちを対象としたシンポジウムも開催しております。  そういった努力は今後ともしていかないといけないと思うんですけれども、何分にも医療の問題は難しい問題が多いんですね。だから、なかなか理解をしていただくのが困難な場合もあります。例えば、クローンなんかですと比較的わかりやすいんですが、ES細胞になるともうなかなか難しくなってくるというところがあります。  それから、生殖医療全体を見渡していろいろ考えていくということは非常に必要だろうと私は考えております。ただ、これはなかなか簡単にいかないところがあるわけです。それは、体外受精だけを例にとりましても既に約二十年の歴史があります。その間、日本産婦人科学会は私はできるだけの努力をしてきたと思います。もちろん、任意団体ですから、会をやめてしまえば拘束はないといえばそれまでですけれども、非常に多くの努力をしてきたというふうに考えております。  もう一つ難しい点は、胎児に関する問題です。日本は、戦後、経済的な理由による人工妊娠中絶を認めてまいりました。それが現在も続いているわけです。これを新たに議論しないといけないというのはやはり非常に難しい大きな問題になるのではないだろうか。これは女性の自己決定権とかいろんなことで、御承知のように、アメリカでも国を二分した議論になっておりますけれども、非常に難しい議論になるんじゃないかと。ヒト胚だけでなくて、やはり私は胎児の取り扱いについても考えていく必要があると思っておりますけれども、それまでには相当な時間を必要とする。  一方、クローンは、何もしなければ日本でもやられるかもしれないという心配もあったわけですから、今回はクローンに限って必要最低限の法的規制をいたしましょうということで考えたわけです。  それ以外の点は、先ほど申し上げましたように、ガイドラインで拘束をしていく、それでできるだけ研究者の自由な発想を妨げない方法をとりたい、そのように考えたわけです。
  59. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 今、井村参考人がおっしゃったこと、私も全面的に賛成をしたいと思います。それに加えて幾つかつけ加えさせていただきます。  生命倫理に関する議論の情報公開ということをおっしゃいましたけれども、これについては、先ほど井村参考人の方からお話がありましたように、会議の公開でありますとか、いわゆるパブリックコメント、世論からいろんな意見をいただくという方法がございます。と同時に、具体的に生命科学を現場でやっている研究機関等におきましては倫理審査委員会というのが当然設けられていると思いますし、もしこれからやられるところがあれば当然設けなければいけない。その倫理委員会で行われている議論をできるだけ、公開というのは患者さんの問題もありますので完全には難しいかと思いますけれども、できるだけ透明性を確保すると。ある一つの問題について生命倫理観点からどのような形で議論が行われてどのような結論が出てきたかという、その議論の筋道を明らかにしていっていただく、これが非常に重要なことだろうと思います。  それから、公開性という点では、先ほど若干お話がございましたが、四省庁合同のヒトゲノム・遺伝子解析研究に関する共通の指針というのがございます。これは厚生省が中心になって、事務局になって検討委員会を開いてきておりますが、これも、厚生省には珍しくと申し上げると厚生省のお役人にしかられるかもしれませんけれども、公開をいたしております。もう委員会は一応終わりましたので今から聞きに来ていただくということはできませんが、そういう公開性というのは非常に重要だという認識が、我々はもちろん持っておりますし、各省庁の方も最近持つに至っていると思います。  それから、先ほどお話がありました教育という点に関しては、私も全くそのとおりだと思います。ユネスコ国際生命倫理委員会でも教育の重要性というのは極めて強調されておりました。  教育というのは、単に倫理を教育するということだけではなくて、生命倫理目的というのは、先ほど申し上げましたように、人の尊厳を維持しながら生命科学を発達させていくということでございますから、科学に対する教育と、そしてその科学を適正に進めていくための生命倫理に対する教育、この二本の柱が教育の中で適切に進められなければいけない。しかも、大学レベルから始めるのではなくて、私は、例えば小学校のレベルから今の科学というのはどういうふうになっているんだということを考えていかないといけないし、それから中学校、高校ではきちっと科学なら科学という形で教育をしていただきたいというふうに思っております。  それから、当然倫理は実は道徳教育ではなくて、倫理というのは、先ほど少し冒頭のところで申し上げましたが、社会行動規範でございますので、宗教とか道徳とは違うんだということを御理解いただいて、ある研究をやっていいかどうかというのを議論の中からコンセンサスで得ていくということが倫理の基本だというふうに思っております。  それから、子供の権利でありますとか女性の権利を重視するのは当然でありまして、例えば胚の問題であれば、一番負担がかかるのは女性ですから、女性がその胚をつくる、もしくは胚を譲り渡すということについていわゆるインフォームド・コンセント、女性の側の同意がなければ認められるべきものではございません。それはもう全くおっしゃるとおりですし、子供も、例えば人工授精、体外受精等も含めて自分の出自を知る権利というものが当然認められるべきだと思いますので、子供の権利もこの中では極めて重要です。  ただ、生殖医療について一言だけ申し上げますと、中絶の問題につながりますので、中絶を認めるかどうか。単に経済的理由だけで今は比較的緩やかに中絶が認められているのが現状でありますけれども、本当にそれでいいかどうかということは、生命倫理一般の問題とも絡めてこれから議論をしていかないといけないんだろうと思います。
  60. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 生命倫理を公の場で語ることについて公開が重要であるという御指摘、大変重要だったと思います。大変残念ですけれども、日本ではそれが進んでおりません。  科学技術会議生命倫理委員会は、下の小委員会はすべて公開されていましたが、上の生命倫理委員会は発足後二年以上非公開で行われて、公開されたのがようやくことし三月、第八回目からだけです。それから、厚生省でも先端医療技術評価部会という部会は公開されておりますが、その下で生殖医療を検討している専門委員会は一貫して非公開のもとで行われております。  それぞれ議事が非公開であれば議事録を速やかに出すという手当てもあるかもしれませんけれども、その議事録が出るのも二カ月おくれ、下手すると三カ月おくれというときもございます。これでは議事の適切な公開とは言えないと思いますので、この辺については国会の方でも御配慮いただいて、生命倫理を公の場で語ることは、公開が徹底されるようにぜひ実現させていただきたいと考えます。
  61. 畑野君枝

    ○畑野君枝君 ありがとうございました。
  62. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 社会民主党の日下部禧代子でございます。どうぞよろしくお願い申し上げます。  生命科学あるいは遺伝子組みかえ技術ということについて考えますときに、医学あるいは生物学だけではなく、どうしても倫理、宗教にわたる幅広い分野の課題というものが検討されなければならないことは言うまでもないというふうに思います。それは、人間とは、あるいは人間の存在、人間の誕生とは、生命とは何かという、そういった根源的な問題にまでどうしても踏み込まざるを得ないからでございます。ところで、したがってと言った方がよろしいと思いますが、法律の策定に当たりましてはやはり時間をかけて国民的な論議というものが不可欠であるということは、今の御論議でも問題が提起されたところでございます。  ところが、今のお話にもございましたけれども、情報公開、これは非常に重要なことでございますが、この政府案の骨子となる答申をお出しになった科学技術会議生命倫理委員会というのはクローン問題を検討していた、発足以来、今おっしゃられたように、二年以上にわたって非公開であったということを、今、ぬで島参考人からのお言葉もございましたが、公開されたのがことしの三月の第八回以降だというふうに承っておりますが、なぜ非公開であったのかを井村参考人にまずお伺いしたいと存じます。そして、なぜ八回から公開になったのかということでございます。
  63. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) この問題は、一番最初に、私は、当時委員長ではございませんでしたが、委員としては参加しておりました。一番最初のときか二回目ぐらいのときに公開のことが議論をされましたが、非常に強硬な反対を出される方がありました。したがって、その方を実は説得をしたわけです。そこにかなり時間を要してしまいました。それは、後で自分の意見を文書にして出すのは結構です、そのときに自分はきちんとチェックして間違いがないかどうかを確認します、しかし口頭で話す場合には私は間違いをしばしばしますとその方が言われるんですよ。だから公開は絶対反対ですということで、公開がなかなかできなかったというのが真相であります。  しかし、多くの委員の方は、初めはやっぱり公開に抵抗感を持った方もありましたけれども、次第に回を重ねるごとに公開へ傾かれたので、最終的には、遅いといってしかられるかもしれませんが、本年三月から公開をすることができるようになったというのが真相であります。  ちょっと記録されるとまずいようなことではないでしょうか。
  64. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 やはりこういう非常に根元的な問題、そして同時に国民全体の問題、国民的な議論というのを至るところで聴取する、その声が反映された上での法案づくりということがなければ、さまざまな問題があちらこちらから法案ができた後に噴出してくるというようなことにもなりかねないと、私は大変にその点を危惧するわけでございます。  ですから、今、井村参考人がおっしゃいましたように、公開は反対だという方、そのような方を委員の中にそれ以後も入れていらっしゃるのですか、それともその方は観念なさったのでございますか。
  65. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) 最終的に同意をされました。  それから、生命倫理委員会としては、私どもはできるだけの公開性を保ってきたつもりであります。だから、生命倫理委員会の会そのものの公開はおくれましたけれども、それ以前にも議事録は公開しておりますし、それからいろいろの機会にインターネットを使ったパブリックコメントも求めておりますし、基本的には公開性をできるだけ保つ、そういうトランスパレンシーを保つということの重要性は十分理解しているつもりです。
  66. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 特に女性の場合は、女性の卵子の採取、使用ということが、これはクローン技術も含めまして生命科学にはどうしても必要になってまいります。そういった点で、女性の意見、それからまた当事者の意見の反映ということは非常に重要だというふうに思うのでございますけれども、このクローン小委員会の名簿を見ますと女性の委員はお一人も入っていらっしゃらないのでございます。  その点に関しまして、クローン小委員会委員でいらっしゃいますぬで島参考人が、たしか第七回、これは平成十年十一月二十四日の委員会におきましてこのように御発言なさっています。「きょういただいた「今後の進め方」の中で、答申を最終的にまとめる前に、ヒアリングやシンポジウムを行うかとか、女性委員の追加をするかといった検討事項がありますが、この点については、どのようにするのでしょうか。」という御質問があって、そして岡田委員長が、「この次に議論したいと思いますが、いかがでしょうか。」とお答えになっていらっしゃいます。  そこで、ぬで島参考人にお聞きしたいのでございますが、その後、女性委員が追加されたとか、これを見ますと追加されておりませんけれども、それから女性の意見を聞く機会を持たれたとか、そのようなことも含めまして女性の意見はどう反映されたというふうにお考えでございましょうか。果たして女性の意見を聞く機会はあったのでしょうか。どうも皆無であったような気がするのでございますが、ぬで島参考人、どうぞよろしくお答えください。
  67. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 全くの平のぺいぺいだった委員の私がお答えするようなことではないと思いますので委員長の方にお聞きいただきたいと思いますが、クローン小委員会自体はその最終答申を出して閉会するまで女性委員の追加ということは行われませんでした。公開のシンポジウムということもクローン小委員会としてはなかったと記憶しておりますし、特に女性の観点からヒアリングを行うということで、厚生省の生殖医療の専門委員会などで行われたような女性団体あるいは不妊の患者さんの団体からのヒアリングということも必要ではないかと申し上げたのですが、ついにやっていただけないまま最終答申を迎えることになりました。
  68. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 次に、位田参考人にお伺いしたいのでございますが、先生は厚生省の厚生科学審議会先端医療技術評価部会のヒト組織の移植等への利用のあり方に関する専門委員会委員でもいらっしゃいますね。この委員会では、ヒト組織の採取とか利用に関して議論されているというふうに伺っております。女性の卵子の採取、あるいはまた研究への利用のあり方について議論されておりますでしょうか。私はどうも議論されていないように思うのでございますが、卵子の採取と研究利用について議論もないままに、卵子から核を除いて、そして他のヒト動物の核を入れるといったクローン技術を認めてしまうというような法律をつくるということに関して私はかなり大きな疑問を持つのでございますが、その点に関していかがでございましょうか。
  69. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 私は、先ほど委員がおっしゃいましたヒト組織の移植に関する専門委員会委員をしておりますが、同時に現在は生命倫理委員会委員をさせていただいておりますし、実はクローン小委員会委員をしておりました。それから、その後開かれましたヒト胚性幹細胞、いわゆるES細胞に関する小委員会委員でありましたし、さらにヒトゲノム研究委員会委員も、ずっと三つの委員会に出ておりました。そういう意味で、厚生省、科学技術庁のこの問題関連の委員会にはすべて出席させていただいていたということになります。  ヒト組織の移植に関する問題なのですが、これは卵子等は対象外でありまして、要するに移植用の組織、例えば皮膚でありますとか、もしくは筋肉でありますとか、そういうことを特に組織バンクをつくって運営していくためにどういうことを考えればいいかということを議論しておりましたので、ここの委員会では卵子もしくは胚の問題は対象外でありました。そこは御理解いただきたいと思います。したがいまして、したがいましてというのは変な言い方なんですが、女性はおられませんでした。その問題にかかわっておられる方、専門家はほとんどが男性でしたものですから、そういうことになってしまいました。  それから、公開性という点では、特に胚の問題について、先ほど女性の権利というお話にも出ましたけれども、重要ですので、ヒト胚研究小委員会、ES細胞の問題を議論した小委員会では女性がお二方出ておられます。それから、ヒトゲノム研究委員会にも現在女性が、二人でしたか、三人でしたか、出ておられます。クローンについては確かに女性は、クローン小委員会は女性は一人もおられませんでしたが、これは胚の問題を軽視したというよりは、生殖医療の問題ではないという認識からクローンだけを切り離して議論をいたしました。  この法律案には、人クローン個体産生、要するにクローン人間をつくるということと特定胚の問題と両方含まれておりまして、特定胚の問題については、女性も入っておられるES細胞に関する小委員会の方で議論をした結果でございます。  親の生命倫理委員会の公開は遅かったのですが、今申し上げた私が入っております三つの小委員会は当初から完全に公開されておりますし、それは全部議事録もインターネットで見ることができます。要旨ではなくて発言したとおりが書いてございますので、一般の人たちにも透明性は確保されているというふうに思います。
  70. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 引き続いて位田先生にお伺いしたいのでございますが、この法案というのはいわばクローン人間禁止法案というようにも解釈してよろしいのかというふうに思います。この点について、まずどのようにお考えかということです。  しかし、この法案では、子宮に戻すということを禁止している胚を、体細胞クローン胚ヒト動物との交雑胚、融合胚、集合胚に限定しております。ヒトヒトとの集合胚、これはキメラ、あるいは受精卵クローン胚規制で対応することになっておりますが、ユネスコではこういうヒトヒトとのいわゆるキメラ個体作成禁止していると思いますが、その点、いかがでございましょうか。二点お答えいただきたいと存じます。
  71. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 最初に、クローン人間禁止法と考えてよいかということでございますが、私はそのとおりだと思います。ただし、クローン人間禁止するだけが内容ではなくて、今御質問にありましたように、それ以外のいわゆる特定胚もあるいは禁止し、あるいは届け出制、指針で禁止するという形になっております。  ユネスコヒトクローン以外のものを禁止しているのではないかというお話でございますが、禁止はしておりません。許しているわけでもございませんが、ユネスコの先ほど申し上げたヒトゲノム人権に関する世界宣言ではっきりしておりますのは、人間尊厳に反する研究行為として二つ挙がっております。一つは、人クローン個体産生、いわゆるクローン人間をつくるということ、これはこの法律案禁止されることになっています。それからもう一つは、生殖細胞系列に対する遺伝子の操作ということでございまして、これは場合によっては人間尊厳に反する可能性がある行為であるという位置づけがなされています。  それら二つは、例えばこういうものが人間尊厳に反する行為であるという例として挙がっておりまして、それ以外何が人間尊厳に反する研究行為であるかということについては、これから議論をして煮詰めていくということになっております。  胚をさわることそのものが人間尊厳に反するかというと、それは必ずしもそうではないというのが一般的に我々の生命倫理委員会の中で、必ずしも合意をしているわけではありませんが、胚を使ってはいけないということを絶対的に禁止するべきだというふうな意見は余り聞いたことがございません。胚の研究というのは極めて有用な、医療に用いる可能性があるので、そこを閉じてはいけないというのが生命倫理委員会でも合意ができているんだろうと思います。
  72. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 ぬで島参考人にお伺いしたいのでございますが、参考人は国際的な事情にお詳しいというふうに承っておりますが、今議論しております本法案が成立し施行された場合に、国際的にどのような評価というようになるだろうとお考えでいらっしゃいますか。これが第一点でございます。  それから第二点で、時間をかけて議論すべきだという意見と、それから、いや、もうとにかく早く、クローン人間がつくられないようにするために早くこの法律を成立させようという御意見があります。例えば井村先生は、この法案の成立を急がなければ日本クローン人間の産出を禁止しようとしていないと誤ったメッセージを世界に発することにもなりかねないというふうに御発言を新聞などでなさっておりますけれども、その点はぬで島参考人はどのようにお考えになりますか。ぬで島参考人のお考えと、そして国際的な評価ということを含めてお答えをいただきたいと存じます。
  73. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 国際的にどう評価されるかというのは、私も深く危惧しておるところであります。これで日本ヒトクローンをつくることを法律禁止した、それだけではとどまらないと思います。  恐らく、先ほど申し上げましたように、多くの国がそこまではやっちゃいかぬのじゃないかと言っている人クローン胚作成であるとか、御指摘になられましたヒトヒトキメラ胚作成であるとか、そういうことを広く認める内容になっております。動物細胞核ヒトの卵に入れるというようなことまで認めているということで、日本生命科学で随分過激な生命操作まで認める国になるんだなというような評価をされるのではないかと。  しかも、クローンを単独で禁止する法律をつくる初めての国になると思いますが、その法律の中で広範に研究を容認しているというふうに受け取られかねない構造になっておりますので、その辺、予想はつきませんけれども、厳しい評価を下される可能性はあるかと思います。よその国の立法内容と比較してもかなり隔たりがありそうなところがございますので、大変気になるところであります。  それ以外の点については既に申し上げてきたことでありますので、お時間はおとらせしない方がいいかと思いますので、よろしくお願いいたします。
  74. 日下部禧代子

    日下部禧代子君 ありがとうございました。
  75. 田名部匡省

    田名部匡省君 この委員会質疑者も着席のままでというのがルールでありまして、私はルールに基づいて座らせてやらせていただきます。  率直に申し上げて、いろんな先生方の、委員の皆さんの発言を聞いて、私もこれは素人なものですから、これはお三人の先生方にもう最後に、全部言った後、一言ずつで終わりますから。  国民の立場から見ると、こういう専門的な知識はだれもないと思うんですね。もうやってもいいし、やらぬでもいいしというぐらいの感覚だろうと思うんです、専門家でないですから。ただ、参考人の先生方の話を聞いて、何かそんなに急いでやらぬでもいいのかなという感じも実は私は今受けたんですね。  この国は何でも場当たり的に、その都度何か起きるとやると。例えば、政治家が悪いことをすると政治家の倫理の問題をやるし、公務員が悪いことをすると公務員を取り締まるそんなものをやるしと、場当たり的なんですね。本当にもう少しじっくり考えてやっていただきたいなというのが一つ。  それから、クローン人間といっても、まだこれはだれも見たことがないものですから、議論しても、見て、ああ、こういう人間ならいいなとか、こういうふうならだめだなというのはわかりますけれども、我々これ見当もつかないんですね。ただ科学的な面からばかりの議論が多い。何のための研究をするのか。  先ほどの社会の受容によって変わるんだという井村参考人お話は私は全くそのとおりだろうと思うんですね。大体、今までいろいろ研究されてつくって実用化して、便利なものほど危険なものはないんですよ。これは車だって飛行機だって薬だって、農薬なんというのはもう今大騒ぎになるほど、便利なものほど危険なものはない。ですから、何のために研究をこれから続けていくのかという目的がしっかりしていないと、たださっき言ったように受容によって変わると。  例えば、人口がどんどんふえて食糧問題をどうするかとかなんとかという議論さえ出ている。中国では人口が多くて中絶を一生懸命やっている。一方、我が国はどうかというと、高齢化で少子化だと、やがて三十年もたったら八千万人になる。こんな話が結構議論の中にあって、こういうものとの関連をどうこれから考えていくのか。これはいい悪いは別ですよ。そうなった時代に、皆さんはこれからも研究はずっと続けるんでしょうから、それはそれで結構ですけれども、研究した成果をどう生かしていくかというために私は何か考えておかなきゃいかぬと。  それから、臓器移植なんかの、アメリカへ行って高いお金を払って、皆さんからお金を集めて行ってやっている子供さんたちを見ると、大変だなと。そういう面ではこういうものが生かされることによって助かる人が出てくるんだろうなと。一方では研究者の自由ということはやっぱり認めなきゃいかぬと。そうすると、そこに制限を設けるのかどうか。これはやってはいかぬ、これはしてもいいというそのことをやらせたのでは、これは研究者の自由というものはなくなる。  その辺のところを考えてみて、私も今、その分野だけを見ればこうだなという感じはあるけれども、総合的にやるとその国によっていろいろとあるわけですから、先ほど質問の中にもあった、体外受精はいいけれども、これよりも本当に研究の成果が出てこっちもすばらしいと、こうなったときに一体どうされるのかな、こんな疑問を持ちながら参考人の皆さんの話を伺ってきました。  どうぞその辺の私の考え方について、こうですよということをお話いただければありがたいと思います。
  76. 井村裕夫

    参考人井村裕夫君) まず、日本は少し場当たり的過ぎはしないかということであります。一般論的に言えば確かにそのとおりでありまして、私も二年半ほど前に科学技術会議の議員を命じられて、初めて国の科学技術政策に少しかかわるようになったわけですが、確かに先々を見て常に議論をして前もって考えていくということはなかなかできておりません。だから、それはこれから総合科学技術会議の大きな課題であろうというふうに思います。  ただ、生命科学生命倫理については何が飛び出してくるかわからないんです。あす何が出てくるかわからない。だから、それに対する対応はやむを得ないわけですね。どうしても対応的になる部分はあると思います。例えば、ヒトのES細胞ができるということは、みんなできないと信じていたわけです。それをある人がやったわけですから、だから科学世界では常に予測不能なことが出てくるということは考えておかないといけないと思います。  それから、目標でありますが、クローン個体をつくること自身は私は科学の問題ではないと思っています。だから、それは科学の対象ではありません。ただ、試験管の中でヒトの胚についていろんなことを研究していくのは、先ほどから話題になりましたように、医療にいろいろ応用できる可能性がある、そういう意味でここはやっていかないといけないだろうと。だから、それを全部野放しにするんじゃなくて、やはりガイドラインできっちりと抑えていくということは考えていかないといかぬだろうというふうに思います。  以上が私のお答えでございます。
  77. 位田隆一

    参考人位田隆一君) 最初に、国民から見ると専門知識が不足しているというふうにおっしゃいました。まさにそのとおりだと思います。ですから、教育の重要性というのはもう一度強調しておきたいと思います。科学倫理に対する教育の重要性でございます。  それから、場当たり的ということについては、実はドリーの出現そのものが、場当たりというのはおかしいかもしれませんけれども、みんなが予想していなかったことでありまして、予想していなかったことが生じた場合にどう対処するかというのは、これは場当たりという言葉は実は当たらないのではないかというふうに思います。  確かに、生命倫理一般議論が既になされていて、ある程度の国の生命倫理考え方というのはこういうものであるということが準備されている国、例えばフランスイギリスドイツ等は何らかの形で既存の法律で対処ができましたけれども、日本では残念ながら生命倫理一般についての議論はほとんどなされておりませんでしたし、科学者もつい最近までは余りそういうことを考えてこなかった、お医者さんも含めてですが。したがって、我が国生命倫理一般議論がこれから必要である、もう始まっておりますけれども、必要であるということは確かでございます。  しかし、生命倫理一般議論を続けながら、同時に生命科学というのは、先ほど何が飛び出してくるかわからないとおっしゃいましたけれども、生命科学の発展は非常に速いので、そのときそのときに出てくる新しい状況に対してどういうふうに対処するかというのは、個別にやはり議論をし、何らかの方法をとらなければいけない。そういう意味では、クローンというのは人間尊厳に反するというのをだれも考えておりますので、これに対して今禁止をするというのが必要だと、それが必要な対処の方法だと思います。  クローン人間をだれも見たことがないとおっしゃるのはそのとおりでして、実はクローン人間を見てからでは遅いのであります。クローン人間ができてからというよりも、クローンの胚をつくって、そしてそれを胎内に入れて着床させてしまうと後は人を殺すことになりますので、そうなってからでは遅い。そういう意味で、胎内に入れることを禁止するということからこの法律案の規定ができているんだろうと思います。  じゃ、議論をしていくうちに例えば社会の受容が変わってくる、研究目的もさまざま新たなものが出てくるかもしれないという場合には、まさにそこに見直しの規定が必要なわけでありまして、この法律案に書かれている見直しというのも、今後クローンもしくは特定胚についての研究でこの法律を見直す必要があるかもしれない。場合によっては厳しくする、場合によっては緩くするということも必要だと思いますので、そこは社会認識なり受容なりに合わせて、また国会で御議論をいただいて、社会のそのときの状況に合った法律をつくっていただくということだろうと思います。
  78. ぬで島次郎

    参考人ぬで島次郎君) 急ぐ必要があるのかという御質問をいただきましたので、先ほどの日下部議員の御質問と合わせて、もう一度私の先ほど申し上げた考えを確認させていただきたいと思います。  ドリーが出てきてということでありますが、それからはもう三年半以上経過してしまいまして、もう既におくれているということです。その間、特に支障もなく無事に過ごせて大変よかったと思いますが、ここまでおくれたのであれば、厚生省の生殖医療でのヒト胚の使用、作成規制案の検討がもうすぐに、もう来月出ますので、それを待って検討しても僕は遅くないと思います。三年半おくれたものが四年になっても、よりいいものができるのであれば許されると私は考えます。その中で、人クローン個体をきっちり禁止、筋の中で禁止していただきたいと思います。  しかも、来年は行政再編がございます。内閣府というものができます。その新しい行政体制のもとで、先ほど井村参考人がおっしゃっていただきましたように、関係省庁の共同所管でもってこの問題について、法律、指針というもののしっかりした枠をつくって二十一世紀を迎えたい。私は、それ以上の先送りというのはよくないと思います。来年いっぱい、遅くて来年いっぱい。上半期ぐらいまでにできれば一番いいのではないかというようなスパンで考えて、そのつもりでやって、いっぱいになるかなと。また、多少はおくれるにしても、無限な先送りというのはもう許されませんと思います。年単位の先送りというのは許されないというような程度で感触を持っておりますので、改めてもう一度申し上げます。
  79. 田名部匡省

    田名部匡省君 場当たり的と申し上げたのは、皆さんの方を言ったのでなくて、一般的にこの国というのは何でも事が起きてから始める、前もっていろいろ考えて規制をすることをやらない国だということで申し上げたんです。  それから、里親制度というのがありまして、子供を欲しい、どうしても欲しいという人のことはわかるものですから、捨てる親もあるけれども拾う親もあって育てて、ですからクローン人間クローン人間だと言われることが問題なのではないかなという話がちょっとあったものですから、そういうふうに言われるかもしれぬけれども、しかしもらってきて育てたからといって、そんなことになっているのをちゃんとやっているのを見るとどんなものかなと、こうふっと思ったものですから申し上げました。  大変ありがとうございます。
  80. 市川一朗

    委員長市川一朗君) 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人方々一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、長時間御出席をいただき、貴重な御意見を賜りましてまことにありがとうございました。本委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後零時五十一分散会