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公述人(沢藤達夫君) 横浜市内で
弁護士をしております沢藤でございます。
本日は、この
ような場におきまして
意見を申し上げる機会を与えていただきましたことを大変光栄に感じている次第でございます。
私は、これまで十年以上にわたる
弁護士生活の中で、刑事
事件や民事介入暴力事案等をめぐって多くの
現場の
警察官と接点を持ち、あるいは県民が
警察に何を求めているかを肌で感じてきました。また、昨年の秋以降、一連の
不祥事によって多くの国民、県民の
信頼を損ねた
神奈川県
警察が、その
信頼の回復を図るべく県民から忌憚のない
意見、要望を聞き、県民のための施策を実現していくことを目的に設けた
神奈川県
警察を語る会、これは県内の財界人、自治会の代表者、
教育関係者、文化人、評論家、
弁護士など十二名から成るものでありまして、
警察幹部との
意見交換を通じて
警察の
あり方、施策、活動全般にわたって県民の立場から
意見、要望を伝えていくというものでございますが、そこにおきまして
委員の一人としてこれまで参加してきました。
このたびの
警察改革、特に今次
警察法の
改正に関して
意見を述べさせていただきます。
まず、今後の
警察の
あり方を考える上での御参考ということで、これまでの
弁護士活動などを通じて感じた県民の
警察に対する期待といったものを申し上げます。
一言で申し上げるならば、県民にとって
警察というのは、二十四時間対応してくれる最も身近で最も力強い正義の味方であってほしいということではないかと思います。これは、まさに県民のための
警察の確立にとっては非常に重要なことであり、
警察としても大切にしていっていただきたいと思っていますが、こういった県民の思い、期待といったものが、とても残念なことでありますが、最近大きく揺らいだというか動揺しているのではないかといった状況が見られているわけであります。
少し細かに申し上げますと、二十四時間対応してくれるというのは、制度としては今も昔も変わっていないのですが、最近の著しい
犯罪の増加、複雑化、事故の増加等によって、例えば交番の
警察官が
現場での取り扱いに追われ恒常的に不在に近い交番があるとか、あるいは
警察署におきましても、
捜査員が
捜査に出払っている、取り調べがあるなどの事情で県民の訴えや相談に十分対応できていないという現状も散見され、十分に県民の期待にこたえられていない感がございます。
これは数字的に見てもそのとおりで、
神奈川県におきましては、昨年、それぞれ刑法犯認知件数が約十四万三千件、交通人身事故が約六万五千件、一一〇番総受理件数が約九十一万五千件に上っており、それぞれ十年前と比較して三〇%から七〇%増になるなど極めて高い増加傾向を示しているほか、さらに、ことしの上半期はいずれの数値も過去最高であった昨年の件数を大幅に上回っております。加えて、月平均約三万七千件余りの各種相談が
警察に持ち込まれており、こういった
警察の
現場対応事案の量的な急増に第一線の特に体制面が十分に追いついていないことが起因しているのではないかと思われます。
また、力強いといった面ですが、最近の
警察は、国際的な組織
犯罪やハイテク
犯罪等新しい
犯罪に対する対応のおくれが
指摘されているほか、刑法犯の検挙率が急激に低下している
ようですが、これに対する懸念といいますか、体感治安の悪化も日々増している
ような状況がございます。
最後の正義の味方という点でございますが、
神奈川県民にとってこの
信頼を揺るがした決定的な要因が、今さら申し上げるまでもございませんが、昨年発覚した元
警察本部長らによる犯人隠避、証拠隠滅
事件でありました。正直申し上げまして、
神奈川県民はこの
事件に大きな衝撃を受けたわけでございます。ただ、だからといいまして、
警察というのはどうし
ようもない組織だったというわけではございません。私の見る限り、
現場の
警察官はほんの一部の例外を除き県民生活のために日々汗を流しており、県民のための
警察だという思いは強く感じていると思います。
警察官の仕事は昼夜なく、場合によっては身の危険をも伴う厳しいものでありますが、大多数の
警察官は、例えば殺人や重要
事件、事故が発生すれば、何週間も休みもなく、あるいは何日も家に帰れなくても、それをいとわず
事件解決のため全力を尽くして勤務をしております。それだけに、一連の
不祥事をめぐり、
警察全体あるいは
警察そのものが悪いとの
議論によって、国民に必要以上の
警察不信が広がったり、
警察官全体の士気が低下しないかと心配しているわけでございます。もちろん、一部には仕事に対して不熱心で惰性に流れている
警察官が皆無とは言いませんが、全体としては大部分の
警察官は一生懸命やっているものと思います。ただ、最近の仕事の多さ、忙しさ、複雑さ、多様さに
警察の体制面が十分に追いついていない状況が見られるわけであります。
また、二十四時間対応する行政機関が限られているために、本来
警察の扱うべき仕事とは言えない
ようなものまで、例えば道路上の犬や猫の死骸の片づけや近隣同士の民事的なトラブルな
ども困り事相談や一一〇番等によって
警察に持ち込まれ、処理を求められているというのが実情でありまして、ただでさえ忙しい中で、県民の主観的な期待に対し、
警察として予算的にも人員的にも
権限的にもこたえ切れないことによる相互の認識のずれというか、あつれきといった
ようなものが生じている
ような気もしております。もちろん、我々が
警察という組織に何を求め何を期待するのかという
議論の中で、
警察の予算や体制といった問題がネックになっているとすれば、国民は当然にそれ相応の負担をすべきでしょうし、人員についてもふやすべきだと思います。
しかし、一番大事なのは、組織の中身といいますか、昨年の一連の
不祥事によって失われた県民の
信頼を全
警察職員がどうとらえ、どう意識し、そしてどう変わろうとしているのかといった問題だと思います。この点については、昨年来、
神奈川県
警察を語る会のメンバーの一人として十分に関心を持ち、その変革の過程を注視しているところでありまして、語る会などにおきましても
県警に対して申し上げるべきところは率直に申し上げているわけでございます。一連の
不祥事以降、
警察は県民に
信頼される
警察の実現に向けて真摯な努力を続けているものと思っております。
参考までに、これまでの
県警の
信頼回復に向けた取り組みについて申し上げますと、
警察は県
公安委員会の指導を受けながら自己改革のための努力に心血を注いでおり、例えば県民からの
苦情をホットラインで直接受け付ける
監察ホットラインという各種
苦情に対して
システム的に対応できる体制を構築したほか、
県警の全職員が少人数ずつ千四百程度の班に分かれた上で、
不祥事の具体的な事例を題材にするなどして、みずからの
あり方についてさまざまな
議論を交わしたり、民間企業研修やボランティア活動を通じて職務倫理の醸成に努め
ようとする倫理研修班制度が導入され、全職員に至るまで
警察改革に向けた高い意識を保持し
ようと努力していることがうかがえます。
また、私が参加している語る会を含め
幾つかの
警察署にもこういった会が開催されており、また倫理研修班活動や各種の講習会等で積極的に民間人を招いて
意見を聞くなどして
警察活動に民意を反映させる努力をしていると聞いております。無論、昨年あれほどの
不祥事が発覚したばかりであり、
県警は県民の
信頼回復に向け今後も不断の努力を続けていかなければならないと思いますが、
県警挙げてのこういった取り組みにつきましては、自己改革能力の発揮、自浄機能の強化という面から見て十分に評価できるものであり、県民の一人としても大きな期待を寄せている所存でございます。
県
警察をどう考え、どういったものにしていかなければならないかにつきましては、
警察だけでなく県民全体として考えていかなければならない問題でありまして、そういった
意味では県民の一人として今後もしっかりと
意見を申し上げていきたいと考えております。
前置きが長くなりましたが、日々の
警察活動に大きくかかわりを持つことの多い
法律実務家の一人として、今回の
警察法改正について
幾つか
意見を述べます。
結論から申し上げますと、
公安委員会の
管理機能の充実に関する
規定、
公安委員会に対し
文書で
苦情の申し出をすることができる制度を設けた
規定、
警察署協議会を設置する
規定などを盛り込みました政府案に私としては賛成でありまして、ぜひ早急に本案を成立させていただきたいと考えております。
以下、その
理由を申し上げさせていただきます。
まず、
公安委員会の
管理機能の充実に関する
規定の新設につきまして、
神奈川県
警察においては、昨年の一連の
不祥事の発覚を機に、
不祥事の発生、処理に関して
公安委員会にその都度
報告を行い、指示、指導を受けるなど
監察に関して積極的に
公安委員会のチェックを受けて誤りのない対応に努めているとのことでありますが、今回の政府案はまさにこの
システムを法制度的に確立し
ようとするものだからと考えられるからであります。
参考ですが、実際に語る会に
出席した際には、公安
委員の方も会に
出席されて我々の
議論の様子を傍聴するなど、
警察活動の
あり方に関する県民の声にしっかりと耳を傾けておられました。
公安委員会みずから寸暇を惜しんで署の巡視に出かけたり、
警察学校や
警察署で直接みずからの
意見を職員に語りかけたり、各種会合等に参加するなど、生きた
警察をしっかり把握し
ようという意識が感じられます。
この
ようなことから、
公安委員会と
警察組織の管理運営という緊張関係が従前に増して機能しているのを肌で感じているところでございまして、法
改正によってこの関係の一層の充実化を図っていくことが期待できると考えられるからでございます。
次の、
警察職員の職務執行に
苦情のある者は
文書により
公安委員会に申し出ることができ、これに対して
公安委員会は、法令または条例の
規定に基づき誠実に処理し、その結果を
文書により回答しなければならないとする
規定ですが、これも従来なかった
公安委員会と県民の直接のパイプが創設されるということになるため、県民の声がより
警察運営に反映されることになり、
警察に民意を反映する上で極めて有効な制度であると考えます。
その上、
文書によらない
苦情の申し出につきましても、
警察本部長に集約の上、適正に処理し、
公安委員会に
報告すべきであるとされておりますが、こういった制度の充実により、本年
幾つかの県で大きな問題となった事案、県民が切実な思いで
警察に対応を求めてきたにもかかわらず、
警察が真摯に対応せず痛ましい結果が発生した
ような事案も組織として迅速かつ的確に取り組むことにより防げることになるものと期待しております。
現在、
神奈川県警では、各種
警察活動に対する不満や
苦情といった県民の声を本部の
監察官室が
監察ホットラインで受け付け、速やかに署に指示するなどして処理しておりますが、さらに今後、こういった県民の声を県民の良識を代表する
公安委員会に申し出て、
公安委員会が県民の立場に立って処理を行い、あるいは処理結果を確認の上
文書で回答することになれば、県民の
警察に対する
苦情はこれまで以上に誠実かつ適切に処理されるものと思います。
参考までに、
現場の多くの
警察官から聞いた話によりますと、
警察に対する
苦情の中には、取り締まりや
捜査への牽制と見られるものや、一方的な誹謗、民事
訴訟を有利に進め
ようとするもの、あるいは
警察の所掌事務を越えたもの等が相当数あることも事実でありまして、
警察側も対応にいささか苦慮している面もある
ようですが、こういったことを極力回避するためにも、申し出者や
苦情内容を特定するために
文書による申し出にしたこと、そして
公安委員会の見識や公平な立場で
判断することとしていることは制度として妥当であるものと考えております。
最後に、
警察署協議会といった制度につきましては、
警察署の
業務運営に地域住民の意向を反映させるため、各
警察署に地域住民を代表してその意向を表明するにふさわしい方にその
あり方について
意見を聞くための機関と理解しております。当然に
警察署によって
犯罪や交通の情勢も大きく異なっており、各署の
警察活動はそれぞれ地域的特性を持つべきものでありますから、地域社会が切実に必要としている活動に重点を指向していくためにも
効果的な制度になりますでしょうし、むしろ我々県民側も、こういった場を通じて地域社会の安全のために積極的に発言するとともに、必要な協力をしていくべきと考えているところであります。
今回の
警察法改正に関して
幾つか
意見を述べましたが、
警察改革といった観点から
議論の参考としていただくべく、もう数点申し上げたいことがございます。
一つが、
警察の体制の見直し、人員のシフトと必要な増員措置であります。仕事で
警察署にお伺いしても、とにかく忙しく、人が足りない状況がよくわかります。もちろん
警察も人員や
システムの
合理化を行っていく必要はあると思いますが、物理的にどうし
ようもないところは増員等で対応していかなければならないのではないでしょうか。
二つ目が、一生懸命仕事をしている者に対する正しい評価と、やる気をなくしている者に対する厳しい人事措置を真剣に考えていただきたいということであります。悪貨は良貨を駆逐すると言いますが、活力のある健全な組織を保つ上でもそういった制度がどうしても必要だと思います。
その三が、個々の職員の実務能力の向上と装備資機材や
システム等の高度化であります。特に新しいタイプの
犯罪にやや
警察の立ちおくれが見られる中、喫緊の課題と考えます。
最後に、
警察がやるべき
業務とそうでない
業務の振り分けであります。これは明確な区別は難しいのかもしれませんが、二十四時間稼働している官庁として、あらゆる
業務への対応を求められている今の
ような状況が続けば、
警察は本来的
業務である
犯罪の
捜査等に対する体制を維持できなくなり、ただでさえ低下著しい検挙率が一層低下することにもなりかねず、私はこの傾向を非常に危惧しております。
以上、
警察活動を見る機会の多い一
弁護士として日々思っていることをるる申し上げた次第です。本
法律改正により、
神奈川県
警察を初め全国の
警察がより一層県民のための
警察として確立されることを心より祈念し、私の
意見陳述を終わらせていただきたいと思います。
以上でございます。