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参考人(
岡村久道君) ただいま御紹介にあずかりました
岡村でございます。
私は、
我が国の中では比較的早い時期から、
情報通信ネットワーク関係の法律に
弁護士及び大学教員という
立場から実務と研究の両面で携わってまいりました。本日は、こうした
立場から
参考人として率直に
意見を申し述べたいと思います。
まず最初に、今回、この
基本法が立法の運びに至りましたことにつきまして積極的に評価申し上げるものであり、
政府関係者の御尽力に対し深く敬意を表するものであります。
法的
側面から見た背景及び現状ということについて簡単に申し述べます。
インターネットは、つい十年ほど前までは理科系の研究者を
中心といたしました、ある
意味では閉鎖的な学術
ネットワークでございました。その後、急速に九〇年代に入りましてから商用化が進められるとともに、商業
利用を含めてだれでも自由かつ比較的簡単に
利用できる本当の
意味でのオープンな
ネットワークとして一般
大衆に開放されるようになりました。その反面、実
社会におけるさまざまな問題が一気に
インターネットに流入し始めたことも事実でございます。
この商用化の結果、国境の壁を越えた
大衆のデジタル情報が行き交う公道としての存在へと性格を変容させた現在におきましては、法的な
基盤整備が各国で議論されるに至りましたのは、その
意味では必然的な流れにほかならないと考えております。一種の比喩のような言い方をいたしますと、公道という存在でございますので、未成年者も通りますれば交通事故な
ども発生するということも十分に考えられます。したがいまして、これを国際的なハーモナイゼーションに配慮しつつ、総合的な
政策づくりが必要となったわけでございます。
インターネットを
中心とする
IT革命には、光の面だけでなく影の面があると指摘されることがございますが、以上のような背景がその重要な要因の
一つとなっているように思われてなりません。
こうした見地から、本法案を光のみならず影の双方の部分から検討したいと思いますが、時間の関係もございますので、本日御配付いただいております「
意見陳述の詳細」ということを詳しい部分については読んでいただきたいと思います。
次に、
情報通信ネットワークと消費者
保護という観点から申し述べます。
ネットの
世界は実
社会の合わせ鏡であると指摘されることが少なくございません。
インターネットの商用化以降、いわゆるネズミ講あるいはマルチ商法といった悪質商法が
電子メールなどを媒介してネットの
世界に流れ込んできており、警察庁のウェブなどでも注意が呼びかけられております。また、東京証券
取引所のいわゆるホーム
ページの中でも、
インターネットのメリットは詐欺師も受けておりますという甚だショッキングな呼びかけが消費者に対して行われております。
さらに、
国民生活センターがつい最近公表しました調査結果によりますれば、
全国の消費者から寄せられたネット関連の苦情件数は、九五年度はわずか六十三件にすぎなかったところ、その後毎年倍増し続けて、昨年度は
インターネット便乗商法を初め実に六千件を超える
状況へと急増している
状況でございます。もとより、母数でありますネット
利用者の急速な増加という点が被害者件数の急増の原因となっているということは否定できない事実でございますが、それにいたしましても、何らかの対処が必要であるということは否定できない事実であると存じます。
こうした背景のもとで、昨年十二月にはOECD理事会がガイドライン、
電子商取引についての消費者
保護ガイドラインというものでございますが、それが承認されておりまして、諸点に触れられております。
本法案でも、
電子商取引等の促進という条項中で消費者
保護に言及されているということだけでなくて、衆議院で可決された際の附帯決議にもその旨が出てまいります。
本法案に至りますまでの
我が国の現状を検討いたしますと、今春成立の電子署名法では、例えば第三者が勝手に他人名義を使って成り済ましをした場合とか、あるいは認証機関の認証が誤って、請求を受けたような場合については、何ら触れられているところがございません。電子署名は今後不可欠の技術になると思われますので、消費者
保護の見地から不安が残る
状況でございます。
また、最近成立いたしました書面交付
利用整備法におきましても、これまで書面の交付が要求されてきたものを消費者の同意を条件に電子メッセージで代替できるということになっておりますけれ
ども、やはり消費者
保護という観点からは不安が残ることも事実でございます。
その一方、訪問販売法の改正などで、最近もなされましたけれ
どもいろいろと御努力がなされており、また公正
取引委員会もネットへの対応策を打ち出しておられるところでございます。しかしながら、例えばネット上での
ソフトウエアとかコンテンツの通信販売などについては、訪問販売法、今回変わりました特定商
取引法ですが、その対象から除外されている等、まだまだ十分な
状況ではございません。こうした点の御配慮を強く
お願いするものでございます。
次に、
行政の
情報化という点について申し上げます。
今回の法案中にも出てまいりまして、これは非常に大きな
意義を有するものと考えてはおります。しかしながら、電子化されることの結果といたしまして、例えば電子署名あるいは事前のユーザー登録を必要とするなどかえって煩雑な手続が要求されるということになりますと、結局のところ、
国民みずからが独力で手続を行うことが困難になりかねないところがございます。さらには、手続の
説明をウェブで閲覧しても非常にわかりにくい専門用語が並んでいるということでは、
国民はみずからのそういう手続を行うことを事実上断念せざるを得ないということにもなりかねません。
国民の利便性の向上という観点から考えるならば、そうした面でも利便性のよい、本当に使い勝手のいいシステムの構築ということが同時に必要になろうかと存じますし、そうして初めてデジタルディバイドの是正ということが可能になると思われます。
さらに、電子情報公開ですが、
米国の場合は、今回の
資料にもついておりますけれ
ども、九五年に文書削減法というのができておりまして、電子データ化が促進されております。こうした点が今回の法案では、あるいは方向性では示されておりません。
行政の
効率化のみならず、情報公開の電子化という
側面からいたしましても、こういう点にもぜひ御配慮いただければと存じます。
さらに、オンラインプライバシーの
保護の問題について申し述べます。
我が国では、昨年の京都府宇治市の漏えい事件等々、漏えいという問題が
中心になっております。しかしながら、アメリカの場合には、むしろネットを介して無断で
個人情報を積極的に吸い上げるという非常に深刻な
社会問題となるべき事件が発生しておりまして、
我が国でも今後さらに重大になるものと思われます。
我が国では、現在、
個人情報保護基本法制に関する大綱が決定され、立法作業が進められております。しかしながら、こうした大綱を拝見する限り、最新の
ネットワークへの対応という問題が甚だ不十分な嫌いがあるように思われてなりません。こうした最新の
状況を踏まえながら立法化が進められていくことを強く望むところでございます。
さらに、総合的な
政策などの必要性ということでございます。
我が国の場合は、大学
教育におきましても、大学の研究におきましても非常に強い縦割りの法学
教育となっております。しかしながら、現状のような
ネットワークの問題を申し述べますと、今も申し述べましたとおり、プライバシー、
知的財産権あるいは商事
取引、民事訴訟法など、極めて学際的な、学問の領域を超えた状態になっております。
アメリカのロースクールの場合には、
コンピューターテクノロジー関係の法律講座が数多く設置されるなど、これに対応している
状況でございます。
我が国におきましても、大学
教育でこうした縦割りを除去した新しい枠組みのもとで研究が進められ、
産業等と一体となって、真に
国際競争力がある人材の輩出ということができるように思えてなりません。そういうような形の要望の方も
お願いしておきたいと思います。
また、ドッグイヤーという
状況でございますので、三年以内の見直しと今回の法案では規定されておりますけれ
ども、ぜひとも常に見直しを続ける体制づくりということを
お願いしたいと思います。
最後に、ほかの方からも出ましたけれ
ども、
我が国は、アメリカはもとより、アジアの諸国などと比べましても総合的な
政策が立ちおくれた
状況であることは否めません。したがいまして、本法案が速やかに成立に至ることを願うとともに、本法案成立後、これに基づいて一層迅速かつ積極的で大胆な
政策を御
推進願いますよう要望いたすものです。
御清聴ありがとうございました。