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坂本(進)
参考人 私は、
株式会社の
農業参入になぜ反対かということを一農民の
立場として話してみたいと思います。
それで、ちょっと迷ったんですけれ
ども、この本をお配りしました。自分の宣伝になるのでどうかなと思いましたけれ
ども、一応、
株式会社の
農業参入について反対の文章がまとまって百十九ページに書いてあります。ここに「世界に例のない「企業の
農業参入」に道が開かれた」というふうに書いていますけれ
ども、世界に例のないということで、私は、皮肉の
意味と、それからちょっと怒りの気持ちを込めて書きました。
以下に、二つの理由からなぜそう言えるのか話してみたいと思います。
世界に例のないという
意味は、ちょっと飛び飛びで済みませんが、百三十四ページのところに、後で読んでもらえばいいんですけれ
ども、これまで、
株式会社を含めて、広い
意味の企業
農業ですけれ
ども、それで
農業が継続してきたという事例はありません。
例えば、ここに挙げましたラティフンディウムとか、最近で言えばソ連のソホーズ、それから今、人民公社は違いますけれ
ども、人民公社もつぶれました。それから、アメリカで今やられているアグリビジネス多国籍企業による直接間接支配。ロッキー山脈のオガララ水系というのがありますけれ
ども、私、四、五年前に行って環境問題に詳しい人に教えてもらいましたけれ
ども、あそこの水脈というのは一万年かかってたまった地下水です。それもくみ上げられて、だんだん砂漠化している。だから、文明の後に砂漠が残ったという有名な言葉がありますけれ
ども、アメリカ
農業の後に、何百年たった後に一体、今までのまま維持できるのかなということがちょっと心配であります。歴史的に見たら、そういうことなんです。
それからもう
一つ、世界に例のないということで銘打ったという
意味は、
家族農業こそずっと持続性があるということ、人に優しいし環境に優しい、そういうことで皮肉を込めて書いたわけです。
なぜそう言えるかというと、また飛び飛びで済みませんが、百二十五ページのところに、後で読んでもらえばいいんですけれ
ども、簡単に説明しますと、登呂ムラというのがあります。あそこは八町歩あって、十二軒の
農家が共同で水を引いて、それで
農業が成り立っている。
日本の村というのは、そういう
視点で見ていくと、大体共同で水を引いてきて、二千年もずっとそうやってきたわけですけれ
ども、大河川から人間の毛細管のようにずっと水路が伝わってきて、それであちこちで水社会と村が築かれてきた。
そこに
株式会社が入っていくということは、
組織原理が全く違うというか、
家族農業の場合は、私も、生業観というか、そういう気持ちで
農業をやっています。そこに
株式会社が入ってくるということは、利潤の追求ということで、詳しく説明する時間はありませんけれ
ども、全く
組織原理が違う。だから、間に合わなければやめるしということで、今までの村の美風というのがつぶれてしまうのじゃないかなというふうに考えています。
私、以上で大体言うことは終わりなんですけれ
ども、もう
一つ、皮肉の
意味を込めたというのは、我々のこれまでの
体験があります。
実は九二年の新政策で、
株式会社の検討を始めますと、そのときはまだ実感がありませんでした、世論としても。名前を挙げて申しわけないんですけれ
ども、文芸春秋にその二年後あたりに永野日経連元
会長が、百万ヘクタールも減反するなら財界に
土地を出せと。私はそれを読んだときに大変だなと思いまして、当時自民党も反対であったので、自民党の方を通して私にも反論を書かせてくれと言いましたけれ
ども、結局没にされました。
京都大学の名誉教授の飯沼先生は私、よく存じ上げているんですけれ
ども、その先生が言うには、今の農政というのは三奪作戦、つまり人、作物、
土地。人、作物は大体とられました。私の息子も大学の三年生で、この前東京に来たときに聞かれました。父さん、帰っても食いぶちはふえるけれ
どもいいかと、いや、食いぶちがふえるのはいいけれ
ども、将来性がないので、まず就職してくれと私は言いました。そういうふうに人はとられて、作物も、今米をつくるのも非常に
制限されています。最後に
農地に王手がかかったというふうに私は思っています。
農地法もいろいろ
規制はかけられているようですけれ
ども、一回風穴をあけられると、最後は、
農地法は換骨奪胎されて雲散霧消してしまうんじゃないか。それは何年かかるかわかりませんけれ
ども、これまでの経過を見ていると、そういう心配があります。
では、
株式会社はなぜかということなんですけれ
ども、毎年交渉に来ているわけですが、九七年に経団連と、それから私は農林省の方に行くということで、秋田県から二、三人来て手分けして交渉に行きました。経団連に行った人は、経団連の方では、
担い手がいないから私たちがお手伝いするんだ、こう言いました。しかし、私はその
お話を聞いてかちんときたのですけれ
ども、さっき言いましたように、言葉はきついですけれ
ども、三奪作戦によって
農村がどんどん衰退しているので、
株式会社が入ってくると。
私、今ちょっとわけがあって満州のことを調べているのです。というのは、五歳のときに満州から引き揚げてきたので調べているのですけれ
ども、満州で現地の、当時満人と言いましたけれ
ども、中国人から二束三文で
土地を取り上げて、そこに入植させたのですね。私のおやじはそういうところじゃなくて、興農合作社というところに勤めて
農村の振興をやっていました。何か、一方では
土地を取り上げながら、一方では満州の
農業振興をやるというので、罪滅ぼしかなと思ったりしているのですけれ
ども、今の状況というのは、
農村を疲弊させて、それで
農地を奪う。
だから、今、遊休
農地を二万ヘクタール持っているそうですけれ
ども、企業は、なぜそんなに
土地を欲しがるのかな、ちょっと欲張り過ぎじゃないかなと思っています。本当に
農業をやりたいのだったら、山林の原野を開発してもやれるわけですから、その裏の方を考えてしまうというか、一農民としてはちょっと被害者意識があるかもしれませんけれ
ども、時間も来たようですから、あとは
質疑でお答えしたいと思います。
ありがとうございました。