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平澤参考人 ただいま御
紹介いただきました
平澤でございます。
私、ここでお話しさせていただこうと思っていることは、お手元にございます、これはつい数日前に発売された潮という雑誌に書いたこと、それともう
一つ文芸春秋にも書きましたけれども、これは発行日の
関係できょうこちらにお持ちして
皆様に提供することができないんですが、それらに書いたことを踏まえながら少しお話しさせていただきたいと思います。
今回の問題で私が一番重要な
ポイントだと思ったことは、この潮の原稿の一番
最初に書いてあることです。最大の
問題点は、
牛乳が生鮮
食品であるのか、それとも工業
製品なのかということにあるのだと思っております。
メーカーの方は、ずっと昔からこれは工業
製品として位置づけてつくっているとしか私には思えません。
消費者の方はそう思っていない、
牛乳は依然として生鮮
食品であると思っている。ここに重大な
考え方の違いがございます。
今回の問題は、単に
社長が
対応を誤ったとか、あるいは社会に公表するのに
最初の
時点から五十二時間もかかったとか、そういうことだけではない。それらはむしろ現象的な問題だと思います。
もう少し具体的に言いますと、
雪印乳業も、つい数日前、大きな新聞広告で再
利用はもうやらないと宣言しました。しかし、今までやっていたということ自体が
消費者にとっては想像を絶することだったと思います。しかも、
トップメーカーがやっていたということは、極めて
責任が重大だと思います。
これはどういうことかと申しますと、ここに書きましたように、
製品の再
利用、車に例えますと、
欠陥車と指摘されて、部品を取りかえてそれをまたそのまま使う。自動車の場合はそれで結構だと思いますけれども、
牛乳の場合はそういうことがあってはならないと思います。これは単にモラルだとか気分だとかそういうことではなくて、
牛乳の
食品としての性格に根差していると思います。
再
利用するためには、当然もう一度熱をかけなければいけません。つまり、再加熱ということになります。生鮮
食品であるとすれば、加熱するということは本当はやってはいけないことだと思いますけれども、これだけ流通
システムが大きくなって、ほとんどの人が都市に住んでいると、朝搾った
牛乳をそのまま買ってきて飲むというふうな社会ではありませんから、そうすると、どうしても最小限度の手を加えなきゃならない。それが、フランスの有名な化学者、一八九五年に亡くなりましたけれども、パスツールという人が編み出したパスツール方式の加熱、いわゆるパスチャリゼーションという加熱方式なんですね。
もう少し具体的に言うと、これは六十三度で三十分加熱する。もう
一つやや簡便な方式として後で開発されたのが七十二度十五秒という……。何をねらったかといいますと、有害な病原菌はこれで全部死んでしまう、しかし、チーズをつくったりするときに必要な乳酸菌は一部残っている、そういう状態の加熱方式であるわけです。
ところが、現在
日本でやっているのはそうではなくて、いわゆる超高温滅菌と申しまして、百二十度ないし百三十度二秒という加熱方式。これですと、病原菌だけじゃなくて乳酸菌も全部死んでしまいますから、チーズはつくれません。もちろん、
雪印乳業は
日本で一番有力なチーズ
メーカーでありますから、そのための
牛乳はパスチャリゼーションでやっている。
消費者には、そういう六十三度三十分、七十二度十五秒のパスチャリゼーション
牛乳は一滴も出しておりません。つまり、二重人格のようなことをやっているとしか私には思えません。そういうことで、
消費者は
牛乳の加熱にそういう問題があるということも知らない。
また、今回の
事故を起こしたのはカルシウム添加
牛乳といわゆる低脂肪乳です。
この低脂肪乳の場合は、水とバターと脱脂粉乳があればできてしまいます。それをやはり百二十度ないし百三十度二秒で加熱してしまう。
カルシウム添加に至っては、
牛乳が良質なカルシウムをたくさん含んでいるということは、
メーカーはずっと昔から言い続けておりました。では、どうしてカルシウムを今入れるんですか、今まで言っていたことは何だったんですかということになると思います。実は、カルシウムを入れなければならないのは、超高温滅菌、加熱によってカルシウムがなくなるとは言いませんけれども、カルシウムが変性いたします。吸収が悪くなります。恐らくそれを補うねらいもあるのかもしれないけれども、とにかくカルシウムを入れて売っております。
もう
一つ申し上げますと、ESLというタイプの
牛乳があります。これは普通の
牛乳より二倍日もちがするということになっています。ただし、幾らその
牛乳の紙パックを見ても、ESLということは書いてありません。
現在品質保証期限というのが明示されておりますが、これは二週間ですから、ずっと先の日付が書いてある。そうすると、
消費者は、ああ、これは新しいんだ、七日タイプのものよりも十四日タイプの方が品質保証期限が先にありますから、それで買ってしまう。でも、それを製造した日は同じ日なんですね。
消費者は、
牛乳は生鮮
食品だと思っている。ごまかされて、あるいはだまされてと言うべきかもしれないけれども、ESLがいつつくられたのかということはわからないままで飲んでいる。
私、非常に断面的なことを言いましたけれども、とにかく、現在の
牛乳は工業
製品としてつくられている。
雪印を初め
日本の乳業
メーカーが全部そういうふうにしてつくっております。
一番ここで私が望みたいと思っていることは、今回の
事件を契機に、
牛乳づくりの
あり方をもとの生鮮
食品に戻すということをどうしたらできるのかということを、
メーカーだけではなくて
消費者も含めて研究し実行していくことだ、このように思います。
以上で終わります。