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2000-07-18 第148回国会 衆議院 大蔵委員会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十二年七月十八日(火曜日)     午後一時開議  出席委員    委員長 萩山 教嚴君    理事 大野 功統君 理事 桜田 義孝君    理事 根本  匠君 理事 渡辺 喜美君    理事 上田 清司君 理事 北橋 健治君    理事 石井 啓一君 理事 鈴木 淑夫君       大木  浩君    鴨下 一郎君       岸田 文雄君    倉田 雅年君       砂田 圭佑君    高市 早苗君       林  幹雄君    松宮  勲君       村井  仁君    村田 吉隆君       山本 明彦君    五十嵐文彦君       岩國 哲人君    河村たかし君       小泉 俊明君    後藤 茂之君       後藤  斎君    末松 義規君       中川 正春君    松本 剛明君       久保 哲司君    若松 謙維君       中塚 一宏君    佐々木憲昭君       山口 富男君    阿部 知子君       植田 至紀君    小池百合子君     …………………………………    大蔵政務次官       村田 吉隆君    参考人    (日本銀行総裁)     速水  優君    参考人    (日本銀行総裁)    山口  泰君    参考人    (日本銀行理事)     黒田  巖君    参考人    (日本銀行理事)     増渕  稔君    参考人    (日本銀行理事)     小池 光一君    参考人    (日本銀行理事)     永田 俊一君    大蔵委員会専門員     田頭 基典君     ————————————— 委員の異動 七月十八日  辞任         補欠選任   岩國 哲人君     松本 剛明君   谷口 隆義君     久保 哲司君 同日  辞任         補欠選任   松本 剛明君     岩國 哲人君   久保 哲司君     谷口 隆義君     ————————————— 本日の会議に付した案件  金融に関する件(通貨及び金融調節に関する報告書)     午後一時開議      ————◇—————
  2. 萩山教嚴

    萩山委員長 これより会議を開きます。  金融に関する件について調査を進めます。  本日は、ただいま参考人として日本銀行総裁速水優君、日本銀行総裁山口泰君、日本銀行理事黒田巖君、日本銀行理事増渕稔君、日本銀行理事小池光一君が出席しております。また、後刻日本銀行理事永田俊一君が出席の予定であります。  去る六月六日、日本銀行法第五十四条第一項の規定に基づき、国会に提出されました通貨及び金融調節に関する報告書につきまして、概要説明を求めます。日本銀行総裁速水優君。
  3. 速水優

    速水参考人 速水でございます。  去る六月六日に、日本銀行法第五十四条に基づきまして、平成十一年度下期の金融政策運営に係る半期報告書国会に提出させていただきました。本日は、本報告書につきまして御説明の機会をいただきましたことを、厚く御礼申し上げます。  初めに、日本経済現状に対する認識と金融政策運営につきまして、簡単に考え方を述べさせていただきます。  まず、日本経済現状でございますが、日本銀行は、昨年二月にゼロ金利政策という思い切った金融緩和措置を講じました。当時の日本経済は、デフレスパイラルの瀬戸際という危機的な状況にありましたが、それから約一年半が経過して、経済情勢は大きく改善してまいりました。  まず、昨年の夏場以降、輸出アジア中心とする世界経済回復を反映して、明確に増加し始めております。また、ゼロ金利政策金融システム対策背景に、金融システム不安や企業資金調達に関する懸念は大きく後退していきました。こうしたもとで、生産活動増加を続けておりますし、現在では、企業収益業況感改善も顕著になってきているように思います。  景気の自律的な回復のかぎとなります民間需要動きを見ますと、設備投資は明確な増加傾向をたどっております。個人消費は依然回復感に乏しい展開となっておりますが、消費者マインド改善傾向にありますほか、賃金、雇用者数減少傾向に歯どめがかかりつつありますことなど、前向きの動きが出始めていることはうれしいことだと思います。  こうした情勢を踏まえまして、日本銀行では、景気現状につきまして、我が国の景気は、企業収益改善する中で設備投資増加が続くなど、緩やかに回復しているというふうに判断をいたしております。  次に、中長期的な課題への取り組みでございますが、日本経済は、これまで直面してまいりました中長期的な課題につきましても解決の糸口をつかみ始めており、バブル崩壊後の停滞から脱却するための足場を固めつつあるようにうかがわれます。  その第一が、産業構造経済構造改革であります。情報通信分野における技術革新流通革命流れは、経済活動活性化させてまいっております。また、最近の設備投資輸出伸びには、情報通信やその関連分野が大きく貢献してきていると思います。  第二は、金融システム面での新たな動きでございます。日本金融システムは、公的資金の投入や金融機関リストラ努力などによりまして、安定を回復してきております。その中で、昨年来、大規模金融再編事業会社による銀行業への新規参入構想など、グローバルな金融環境変化背景にして、新たな展開が見られ始めております。  もっとも、さまざまな構造的課題がすっかり解決されてまいりますためには、まだまだ時間を要するものと考えられます。その意味で、日本経済に対するおもしは取れたわけではなくて、直ちに高い成長が実現するといったことは望みにくいかもしれません。しかし、そうした制約のもとでも、民間部門に前向きの循環の力が芽生え始めたことは、評価できるものと思います。  次に、当面の金融政策運営でございますが、日本銀行は、昨年四月以来、ゼロ金利政策解除基準として、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢になることを挙げてまいりました。また、この条件は、民間需要自律的回復が展望できるようになること、このこととかなり近い意味であると申し上げてまいりました。  昨日の金融政策決定会合におきましては、景気先行きについて、海外経済等外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資中心に緩やかな回復が続く可能性が高いというところまで判断が前進してまいりました。これを受けまして、物価面では、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退していると認識されまして、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるということが大勢判断となりました。  一方、留意点も少なくありません。技術革新などをてことした経済活性化は、まだ緒についたばかりでございます。また、企業リストラが続く中では、全体的な経済状況改善の恩恵が家計に伝わりにくい面があります。きのうの会合でも、雇用所得環境を含めて情勢判断の最終的な詰めに誤りなきを期したいという意見が出ました。  また、企業過剰債務はまだ相当の規模で残っております。企業過剰債務問題が金融システム実体経済に及ぼす影響につきましては、これまでも政策委員会で議論を重ねて、そうした要素も織り込んだ上で先行き経済動向を見通すよう努めてまいっております。したがいまして、今回のいわゆるそごう問題につきましても、その民事再生法適用申請自体経済全体の先行きに大きな悪影響を与えるとは判断いたしておりません。しかしながら、短期的には市場心理などに与える影響をもう少し見きわめる必要があるという指摘がなされました。  以上の点を総合的に検討した結果、昨日の金融政策決定会合では、賛成多数でゼロ金利政策の継続が決定されました。  ゼロ金利政策につきましては、その効果や副作用をめぐってさまざまな意見があることは承知いたしております。また、大幅に改善している経済情勢とこのような極端な金融緩和政策は整合的ではないという御指摘もいただいております。今後の金融政策決定会合では、こうした点も念頭に置いて、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至ったかどうかという基準に則して適切に判断してまいりたいと考えております。  終わりに、金融政策運営をめぐりまして、ゼロ金利政策についての評価を初め、政策運営の手法、枠組みなども含めて、さまざまな論点があろうかと存じます。日本銀行でも、現在、金融政策の目的であります物価の安定の考え方につきまして、政策運営透明性向上の観点から、総括的な検討に着手いたしております。  本日は、私ども金融政策運営についてさまざまな角度から御意見、御批判をちょうだいいたしますとともに、日本銀行考え方をできるだけ率直に説明させていただきまして、御理解を賜りたいと存じております。何とぞよろしくお願い申し上げます。  ありがとうございました。
  4. 萩山教嚴

    萩山委員長 これにて概要説明は終了いたしました。     —————————————
  5. 萩山教嚴

    萩山委員長 質疑の申し出がありますので、順次これを許します。渡辺喜美君。
  6. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 日本銀行株主総会に当たり、自民党を代表して質問をさせていただきます。  昨日の金融政策決定会合でございますが、ただいま総裁がお述べになられましたように、結論としてはゼロ金利政策維持するということであります。しかしながら、その前提は大分変わってきておるのですね。  今も述べられましたように、事実上の景気回復宣言をやっておられるのであります。例えば、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退をしていると判断した、こう述べておられます。また、ゼロ金利政策解除条件としてきたデフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるというのが委員会大勢判断であった、こう言っておるわけですね。  従来、デフレ懸念払拭というのは総合判断である、こう言ってきたのでございますが、きのうの時点でこれが「そごう判断」に変わったのでしょうか。つまり、総合判断でやってきたのが、そごう問題が出てきたがゆえに、市場心理などに与える影響をもう少し見きわめる必要があるということで、この論点からゼロ金利政策維持になった、こういうことなんですね。  ということになりますと、今総裁がお述べになられたように、デフレ懸念払拭というのは、民間需要自律的回復が展望できるようになることとほとんど同義語である。しかし、これが極めてまたあいまいになってきたな、こう言わざるを得ないのですよ。  ことしの四月ぐらいからでしょうか、総裁も副総裁も、とにかくゼロ解除だということで、マーケットとの対話と称しながらあっちこっちで講演をされて、ゼロ金利解除の地ならしをやってこられたわけですね。ですから、つい十日ぐらい前までは、次は必ずやるなとだれしも思っておったのですね。ところが、総合判断からそごう判断に切りかわってしまって、ゼロ金利維持だ、こういうことになったのですね。  中には口の悪い人はオオカミ少年などと言う人もいるのですが、グリーンスパン議長さんより一歳年上の総裁をつかまえて少年呼ばわりするとは何事だと私は思うのでございますけれども、いずれにしても、一体何でまたゼロ維持ということになってしまったのでしょうか。仮にゼロ金利解除をするとしたら、これは金融引き締めということになるのじゃありませんか。いかがでしょうか。
  7. 速水優

    速水参考人 仮にゼロ金利政策解除いたしたとしましても、それは経済改善状況を認識した上で、その程度に応じて金融緩和程度を微調整するということであります。微調整といいますと日本語ではわかりにくいかもしれませんけれども、欧米の中央銀行などではファインチューニングなどという言葉を使っております。そういうふうに、ゼロ金利政策解除したからといって、金融を締め始めたんだということでは全くございません。  ゼロ金利導入の昨年二月に比べまして、あのときはデフレスパイラル懸念も多くありましたし、金融システムもまだ不安定な状況の中で政府もいろいろ手を打たれた、それに私どもも呼応してゼロ金利といういまだかつてやったことのない思い切った政策を打ち出したわけでございます。それが、ここ一年半近くたってみまして、経済情勢はごらんのようにかなりよくなってきておりますし、本年度かなりGDP成長率プラスであるというふうに思われます。  これは、経済に対しまして金融が大幅に緩和された状態維持されるということに全く変わりはございません。したがいまして、インフレ対策でもなければ金融引き締めにも当たらないということを申し上げておきたいと思います。
  8. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 金利を上げて金融引き締めでないのですか。金利を上げるというのは、では一体何年ぶりのことなんでしょうかね。金利を上げれば、例えば今、超過準備というのがありますね、豚積みというものですよ。これはどれぐらいか知りませんが、いっときは五兆円ぐらい積んであることもありましたね。まあ一兆円ぐらいの期間も続いた、今はもうちょっと減っているのかもしれませんがね。〇・二五上がれば、こういう豚積みというのは減っていくんじゃないのですか。そうすれば、当然マネタリーベースは減少してきますね。お金の量が減ってくるのに金融引き締めじゃないのですか。どうでしょうか。
  9. 速水優

    速水参考人 私ども日本銀行の場合に、ここ十年金利を上げたことはございません。公定歩合バブルの九〇年の金利の引き上げ以来ずっと下げてきておるわけでございまして、十年間下げ通しということでここへ来ておるわけです。今の公定歩合〇・五%につきましても、もう五年間〇・五%を据え置いておるわけで、運用金利でありますいわゆるフェデラルファンドに相当する無担保コールレートにつきましても、昨年の二月に〇・一五に下げまして、さらにそれをもう少しゼロに近いところまで下げていっていいというふうに申して、今日いわゆるゼロ金利という状態でここへ来ておるわけで、引き締めということは全然いたしておりません。  日々の資金需給調整のために市場金利がふえたり減ったりすることは自然の流れでございまして、それに相当して金融市場局で毎日毎日朝から、きょうはこういうふうに運用しようといったようなことで調整をいたしておることは事実でございますけれども、これは金融引き締めでも何でもございません。  方針としては、金融緩和ということをここ十年続けてきたというふうにお考えいただいて結構だと思います。
  10. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 せんだって発表された六月のM2プラスCD、これは何と一・九%ですよ。悲惨な成績じゃないですか。それからマネタリーベース、六月は六・四%ですね。ことしの一月ぐらいでしょうか、これは二〇〇〇年問題などがあったりして、二〇%を超えるマネタリーベース伸びがあったわけでございますが、これが四月ぐらいを境にどんどん減り続けているのですね。七月は多分もっと減るだろうという話もございます。  ベースマネーが減り続けているときに、さらに金利を上げてベースマネーを絞ってしまうというのは、これは金融引き締め以外の何物でもありませんよ。十年ぶり金利を上げるのですから、これは明らかな政策転換であって、これが金融引き締めでないなどと強弁することは断じて許されない話ではないかと私は思います。  先ほど総裁から、GDPが相当プラスになる、そういうお話がございました。では、ちょっと順序を変えて御質問いたしますけれども、今年度及び来年度物価成長率見通しは、日本銀行はどう読んでおられますか。
  11. 速水優

    速水参考人 物価につきましては、今、卸売物価は少しずつ上がりつつあります、これは石油の関係もあるわけでございましょうけれども。コンシューマーズプライス、消費者物価の方はまだ少しずつ下がっております。  これを私どももいろいろなところで分析もし、調査もしておるわけですけれども需給ギャップ供給超過で下がっていっているというよりも、二つ大きなファクターがあると思うのですが、一つは、製品輸入が非常に進んできておる。御承知のように、円高傾向で、アジア諸国日本が円が強いということを非常に喜んで、それの上に乗っかって対日製品輸出をどんどんふやしております。そういうものが市場で、安く、しかもかなりいいものが、日本企業などが随分力を入れて海外技術を提供し、そういうものがどんどん入ってきております。  そういう製品輸入の格好で価格が下がってきているということと同時に、もう一つは、やはり流通革命といいますか、流通合理化といいますか、今まで何段かの過程を通じて消費者の手に入ったものが、外でつくったものが一遍に大量に全国津々浦々の商店、合理化された商店の店先に並んで、それを直ちに争って買っているといったような状況を私自身も目にしております。そういう流通革命流通改革というものがかなりスピードで進んできております。これによってコストが下がり、消費者は安くて悪くないものを手にしているというのが現状でございまして、こういった消費者物価の値下がりというのは私は心配するに当たらない、むしろ歓迎すべきものであって、こういったことで、これまで長年問題になってきた内外価格差というのがなくなってきているのです。  そのことを申し上げてお返事にさせていただきます。
  12. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 物価見通しについて聞いたのですよ。物価下落が、よい下落か悪い下落かなんということは聞いていないのです。要するに、物価が下がるということは、よいも悪いも一体どれぐらい下がるのですか、それから、成長率一体何%になるのですかということを今お聞きしたのです。  日本銀行として、物価見通しそれから成長率見通し、それぞれプラスなのかマイナスなのか、今年度と来年度。いかがですか。
  13. 速水優

    速水参考人 失礼しました。見通しを申し上げるのを忘れてしまいました。  物価の方は、まあ大体これで今、先ほど申し上げたようなことが続いていくのだろう、本年度中ぐらいは間違いなくこれぐらいの状況で進んでいくと思います。  それからGDPにつきましては、これは数字で申し上げるのはなかなか難しいかと思いますけれども、一—三月があれだけ、年率で一〇%の成長を遂げておるわけで、四—六月の、その後の機械受注動きとか、設備投資動きとか、あるいは給与の動きとか、そういうものを見ておりますと、決してこれはマイナスにはなっていかないと思っております。これだけのげたを履いて、本年度民間はやはり二%前後といったような数字を出しておりますけれども、私どももそれぐらいのところはいくのじゃないかなという感じがいたしております。
  14. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 来年はいかがですか。今年は二%と今おっしゃいましたけれども、来年度はいかがですか。
  15. 山口泰

    山口参考人 恐縮でございますが、来年度について、まだ自信を持って申し上げられるような数字というのは持ち合わせておりません。御理解をいただきたいと思います。     〔委員長退席根本委員長代理着席
  16. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 先ほど総裁は、物価下落はまあ大体ゼロぐらいだろう、そういう見通しをお述べになられましたね。成長率は、機械受注とかその他いろいろな指標を見ながら、これはプラスになる。IT投資なんというのも今中小企業でもやっていますよ、ですから、そういうことも見込めばことしは二%ぐらいのプラスになる。  では、来年は一体どうなんですか。これは恐らく、IT投資みたいなものが一巡してしまえばどんどん下がってくるのじゃありませんか。それから公共投資も、果たして財政が前年度あるいは前々年度のように下支えするような体力があるかどうかということも大いにこれは疑問ですね。ですから、そういうことを考えると、そんな甘い見通しではないのではないかなという気が私はするのですがね。  先ほど総裁は、円高アジアは喜んでおる、こういうことを言っておられましたよ。今世界貿易赤字の大半は、実はアメリカ合衆国に集中し始めているのですね。御案内のように、ことしはアメリカ貿易赤字は四千億ドルを突破するかもしらぬ、そういうことを言う人がふえてきております。何でそんなに赤字がふえたかというと、これは言うまでもなく、アメリカ人貯蓄率マイナスにしてでもお買い物をし続けている。その背景株高ですね。ですからグリーンスパン議長は、余りにもこの株高資産効果が強過ぎるというので金利を立て続けに上げて、この資産効果を冷やそうという努力をやってきたわけであります。  この一年間、アメリカ株価を見ておりますと、例えばダウ平均は、大体一年間平均してならしますと一万七百ドルぐらいでしょうか。高値が一万一千七百ドル、低い方が九千七百ドルぐらいで、大体その中間、一万七百ドル。きのうあたりが一万八百ドルぐらいですか、大体この水準だということなんですね。  一年間株が上がっていないというときにはキャピタルゲインはどうなるか。キャピタルゲインは多分ないのだと思いますね。ですから、この何年間かアメリカ株価がものすごい勢いで上がってきた、そういうときには、例えばキャピタルゲインが年間三兆ドルぐらいあるとも言われておりました。アメリカGDPが大体九兆ドルぐらいですから、個人消費日本よりも大きい国でありますから七兆ドルぐらいでしょうか。キャピタルゲインが三兆ドルもあれば、相当これは個人消費に貢献するはずですね。そのキャピタルゲインが仮にゼロだとしたならば、アメリカ人はこれからお買い物を今までのようにしますか。  アジアが確かに景気回復してきた。アジアアメリカ向け輸出で相当助かっているのですね。日本は、総裁がおっしゃるように、アジア景気回復に助けられてアジア向け輸出をふやしてきた、こういうことですよ。そうすると、この循環がこれからどうなりますか。  この間の月例経済報告の経企庁の報告を聞いておりましても、輸出の方は、日本からアジアに対する輸出、これがちょこっと横ばいになり始めているのですね。北米向け輸出というのはもう減り始めているわけですよ。ですから、今の時点円高というのは日本の国益であるとは恐らく言えないのだろうと私は思いますよ。  このように、現にアジア向け北米向けとも輸出が鈍化ないしは低下している状況のもとで、恐らく何カ月か先にはもっとこれは減るのじゃありませんか。いかがでしょうか。
  17. 山口泰

    山口参考人 アメリカ経済現状それから最近生じておりますスローダウンの兆しにつきましては、ただいま渡辺先生がるる御指摘になられたとおりだというふうに思っております。  アメリカ政策当局も、ここ何年間かの経済成長というのが速過ぎるというふうに考えて、そういう判断のもとで、むしろこれをスローダウンさせるような政策的な努力をしてきたというふうに理解しております。ごく最近の米国連銀発表文でも、最近の経済指標は総需要拡大ペースが潜在的な成長率に向かって鈍化しつつある可能性を示しているというようなことを述べております。  したがいまして、ここ何年間かの極めて速い成長スピードに比べますと、これから米国経済スローダウンする可能性が高まってきているというふうに私どもも考えておりますが、ただ、それでアメリカ経済が直ちに失速的な状態になってしまうのかどうかというあたりになりますと、まだまだ見通しは非常に不透明であるというふうに言わざるを得ないのではないかと思っております。  現在、アメリカ経済の中でスローダウンし始めておりますのは、金利の上昇に敏感な耐久消費財需要でありますとか住宅建築であるという状況でございまして、米国経済をこれまで牽引してまいりましたIT関連とするハイテクの分野については引き続き非常に高い成長が続いているというふうに言われております。  また、先生ただいま御指摘になられました米国以外のところへの波及的な影響でございますけれども日本周辺諸国を見回してみますと、東アジア諸国では、やはり先般の金融危機から抜け出しました後、その後も成長のある種の弾みがついたような動きが依然として続いておりまして、そういう意味では世界経済が当面は比較的高目の成長率をたどる可能性が現在でもなお高いのではないかというふうに思っております。
  18. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 輸出は多分減っていくと私は思います。したがって、そういうことも成長率見通しとか経済見通しの中にきちんと入れておかなければいけないのではないかということを指摘させていただきます。  次に、GDPデフレーター、これは一—三月期でしょうか、マイナス一・七%。消費者物価、東京都区部、ついこの間出たのがマイナス〇・九%。実質金利一体どれぐらいになるのですか。例えば、短プラが今一・三七五、貸出約定平均金利が一・七ぐらいですか。実質金利というのは何%ぐらいになるのですか。
  19. 増渕稔

    増渕参考人 私から申し上げます。  現実のGDPデフレーターそれから消費者物価数字は、先生指摘のとおりの数字でございます。  実質金利を算出する場合、現実の物価の上昇率ではなくて、先行きの予想物価上昇率あるいは期待物価上昇率を使うというのが本来であるというふうに思います。  仮に、現在の金利と現実の物価上昇率との関係で実質金利をはじきますと、例えば現在の長期金利は約一・七%でございますので、現実のGDPデフレーターの前年比を差し引きますと、実質金利は約三・四%という数字になります。  短期でいいましても二%というような数字になろうかと思いますが、長期金利に関して言いますれば、こういう計算は、先行き十年間にわたって毎年同じペースで物価が下がり続けるというかなり極端な期待形成といいますか予想を前提にしておりますので、現実の物価上昇率と現実の金利を差し引きした数字を使うことには限界があるというふうに考えております。
  20. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 現実的に限界があるかどうかは知りませんが、とにかくGDPデフレーターがマイナスで、物価が下がっているわけですよ。実質金利は今の計算だと長期が三・四%、短期が二%ですね。幾らゼロ金利にしても実質ゼロ金利になっていないということですよ。ですから、ゼロ金利にしても、お金の量がふえなければ金融緩和をしたことにはなっていないのですよ。依然として物価は、よかろうが悪かろうが下落し続けている、こういう状況があるわけです。  今企業収益は確かに改善をしている。この間の短観を見てもそうですね。中小企業などは必ずしもそうとは言えませんけれども、大企業企業収益は明らかに改善傾向が見られるということであります。  最近、日本銀行でダム論というのがあるのですか。これは、企業収益増加をすると、ダムに水がたまるような形でいずれ雇用と所得の増加をもたらして個人の消費が回復する、こういうシナリオなんだそうでありますけれども、これも本当にそんな甘い話なのかという気がするのですね。  雇用情勢は、これからバランスシート調整が進むに従って多分悪くなっていきますよ、間違いなく。そういうときに、賃金は伸びるのですかね。中小企業雇用の過剰感というのはむしろ強まっていくのじゃないのでしょうか。企業リストラというのはことしで終わるわけじゃありませんね。恐らくこれから最低二、三年はかかっていきますよ。そうすると、とてもじゃないが、家計にそのダムの水が来るというのは随分先のことになるのじゃないかという気がいたします。いかがですか。
  21. 山口泰

    山口参考人 現在のところ、御指摘のとおり企業収益改善が非常にはっきりとしてきている一方で、家計所得の方は何となく回復がおくれぎみであるというような状況が目の前に出てきているように思います。これは、今の先生の御指摘の中にもございましたように、企業雇用を含めましてリストラ続行中であるという事情がかなり強く作用しているというふうに思います。  ただ、それでも、企業収益の背後にございます、例えば生産活動などを見ますと、これが非常に活発になってきておるものですから、例えば残業時間が延び時間外所得がふえるとか、あるいは名目賃金の内訳を見ましても、所定内の賃金も含めまして、じわじわと最近は増加傾向が出てくるというようになってまいりました。これは、昨年までの二年間ほど、名目賃金が落ちる一方であった状況とは非常に違う局面に移ってきたというふうに考えております。  ダム論というのは、日銀の中でフリーディスカッションをやっておるときに使っております俗語でございますので、正確な言葉ではございませんけれども、過去の経験則を見てみますと、企業収益増加というのがまず先行して起こり、少しタイムラグを置きまして、それが例えば賞与の支給増となってはね返るとか、時間外給与の増となってはね返るとかいうようなことが起きておりますので、今回も、いずれはそのような形で緩やかな家計所得の増加につながっていくのではないかというふうに考えておりますし、またそのように期待しておるところでございます。
  22. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 日銀に限らず、霞が関のエコノミストと言われる人たち共通の発想なのかもしれませんが、ストックの問題を余りにも考えなさ過ぎるのじゃないかという気がするのですね。  家計の、例えばサラリーマン世帯の平均年収に占める借金の割合は一体どれぐらいかということを調べてみますと、昭和五十年には二八・四%でした。それが今は何と七六・五%、この二年間の間に何と一〇%以上もふえている、こういう大現実があるのですね。要するに、給料が伸びないときに借金の比率はどんどん膨れ上がってきている。こんなときに、だれが消費をしますか、だれが投資をしますか。  今、スーパーマーケットの売り上げが落ちているのだそうです。話を聞きますと、お買い物のお客さん、家庭の主婦などは、買う金額だけでなく、買う点数が減ってきている。要するに、夕食のおかずを一品減らしているということですよ。フローのみならず、ストックのもたらす悪影響、こういうことに余りにも着目しなさ過ぎたのではないかという気がするのであります。  企業の方でも、そごう問題で明らかになったように、これはもう完璧な外科手術過程に入ったということですよ。我々は、この外科手術を早くやらなければいけませんよということを言い続けてきたわけであります。去年、私は、お金の借り手の再生をやるには産業再生委員会をつくって損失処理と債権放棄をモラルハザードを回避しながらどんどん前倒しで進めていくべきだ、業界再編とセットの話でありますけれども、そういう提案をしたわけであります。残念ながらこれがうまくいきませんで、産業再生法を非常にピンぼけな法律にしてしまった。しかし、ここへもってきて外科手術は待ったなし、いよいよスタートをしたわけであります。  外科手術をやるには、まず麻酔をかけなければいけませんね。我々が麻酔としてやったことは、銀行の資本増強であり、中小企業の特別保証であったりしたわけでございます。外科手術をやっている最中には、これは長時間にわたる手術であればあるほどカンフルを入れておかないといけませんね。ですから、これは財政出動をやったわけであります。  一方、手術をやれば当然血が流れますから、輸血をしなければいけないのですよ。それがまさに去年の二月から始まったゼロ金利じゃないのですか。ですから、血の入れ方が、ゼロ金利にしてどんどん血を入れているんだ、点滴のバルブを緩めているんだと言いながら、ほとんど血が入っていない、五%か六%ぐらいしかふえていないというのじゃ、もうとてもじゃないがこれは外科手術に耐えられなくなってしまうのですよ。  ですから、そういうあたりは一体どのようにお考えなんですか。家計のバランスシート、企業のバランスシート、こういうことが大変なデフレ圧力になっている、そうお考えになりませんか。
  23. 山口泰

    山口参考人 御指摘の、ストックの問題あるいはバランスシートの問題というのが日本経済に長きにわたりましておもしになってきておるというのは、私どももその点は十分認識しているつもりでございます。でありますからこそ、現在、例えば技術の最先端分野かなり活発な設備投資が出てくるというような形で景気回復の初期の兆候があらわれてきているわけでありますが、過去の景気回復の初期の局面に比べますと、成長率の上がるスピードがなかなか鈍いというような状況が出てきているというふうに思っております。  ゼロ金利政策を去年の二月ぐらいから続けているにもかかわらず、なぜ血液の流れが鈍いのかという御質問があったと存じます。  確かに、マネーサプライとか銀行貸し出しとか、こういう量的な数字を見ますと、一方は二%前後の伸びでございますし、もう一方の貸し出しの数字の方はまだ前年比マイナスというような状況を続けております。  ただ、これには、先生指摘のバランスシートにまつわるもろもろの問題のほかに、設備投資を行っている企業のバランスシートの状態を見てみますと、何分企業収益回復かなり顕著に出てきているものでございますから、企業のキャッシュの範囲の中で設備投資などの投資資金を十分に賄ってなお余りがあるというような状態になっております。つまり、設備投資はようやく回復局面に入ってまいりましたが、それに比例して、銀行などに対する資金の需要が出てきていないというのが現在の局面ではないかと思っています。  逆に、資金需要さえ出てまいりますならば、銀行は当然貸し応じたい、それによって金融機関の収益を立て直したいという気持ちを持っておりますし、現在の金利水準はそういうような資金の需給バランスを改善する方向を促すような力を十分に持っているというふうに考えております。
  24. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 とにかく、これはもう待ったなしで外科手術をこれからどんどんやっていくわけであります。例えば、建設業の雇用が六百五十万人と言われますが、果たしていつまでこういう雇用維持していけるか。仮に雇用が百万人減れば、失業率はこれで一・何%プラスになるわけですよ。したがって、こういうストックの問題を抱えているときに、デフレ懸念がほとんど払拭されたなどというのは、余りにも現実を無視した話じゃないのかと私は思うのであります。  大体、ゼロ金利政策解除する、それによって日本の構造改革をやるんだなどとおっしゃっていますが、一体日本銀行はいつから構造改革を所管する銀行になったのですか。  それから、ゼロ金利解除金融政策の自由度を回復するためにやるんだと。〇・二五に上げれば確かに下げることもできますね。しかし、そんなすぐにでも下げるような利上げを何で今やるのかということですよ。〇・二五に上げたら一体その後はどうするんだ、半年間続けるのか、一年間続けるのか。ゼロ金利解除説明責任が余りにもお粗末過ぎるのですよ。いかがですか。
  25. 速水優

    速水参考人 ゼロ金利のことにつきましては、私どもはあらゆる機会をとらえて、どうしてこういうことをやったのかということを説明いたしております。しかし、去年の二月とことしの、現在との経済状態景気情勢変化改善ということを考えますと、引き続いてゼロ金利ということを続けていくことに私どもかなり無理といいますか、金融政策を担当する者としてこれでいいのかということを感ずる次第でございます。  先ほどちょっとおっしゃった、構造改革の責任を持つなどというようなことを私どもは言った覚えはございません。ゼロ金利政策の副作用としてモラルハザードや構造調整の阻害といったような点が指摘されていることは、政策委員会でも随分議論してきたところでございます。だけれども、かねてから申しておりますように、ゼロ金利政策を評価する際には、そのプラス効果と副作用とをあわせて経済情勢全体との関係で考えることが大切ではないかというふうに思います。  ゼロ金利のもたらした効果というのは、短期金利もターム物金利もほぼゼロに低下しておるわけでございますし、長期金利も一・七%前後で低い水準で推移しておるわけですし、株価は昨年の初めから比較しますと三、四割は上昇しているわけでございますし、企業金融は、資金繰り、企業の資金流動性というのはほぼ全く懸念なしに払拭されているというふうに考えていいと思います。  また、市場参加者とか銀行の資産運用の姿勢、そういうものも積極化してきておりますし、企業資金調達の環境も改善してきております。景気の方は、私先ほど申し上げたように、各種経済対策やゼロ金利対策などによって財政、金融両面からの経済の下支えに加えて、海外経済堅調のプラス効果もあって持ち直しに転じておることは申し上げたとおりでございますし、物価も申し上げたとおりでございます。  ただ、反面、副作用としてどういうことが出てきているかと申しますと、まず、家計の所得というのが、千三百六十兆ある日本の家計の金融資産というもの、このうち四百兆ぐらいは個人借り入れがございますから差し引き九百兆ぐらいになりますが、これが、元本は減価しておりませんけれども、ほとんどゼロに等しいような金利をずっと我慢してここまで来ておるわけでございます。  それから、短期金融市場というのが、コールが四十兆ぐらいありましたのが、今残高二十兆ぐらいまで減ってきて、もし何かが起こったときに資金の調達その他に不都合が生ずることを懸念している次第でございます。  さらに、市場参加者のモラルハザード、構造調整の遅延といったようなことも、私どものゼロ金利を少し色をつけて、質で貸すものと貸さないものが出てきてしかるべき状態にまで今来ていると思うのです。今伸ばさなきゃならないもの、将来見込みのあるものを伸ばしていく、競争力のあるものを伸ばしていく、整理してしかるべきものは整理していくというのが現在やるべき私ども政策ではないかというふうに考えております。
  26. 渡辺喜美

    渡辺(喜)委員 とにかく、日本銀行は特殊法人でありますから、いずれ情報公開法に従って議事録の公開を十年もたたずに迫られるわけでございます。きちんと説明責任を果たせるようにしてください。そして、物価の安定に関する報告書、これは夏までに必ず出す、こういう約束でありますから、楽しみにお待ちをいたしております。  以上です。
  27. 根本匠

    根本委員長代理 次に、石井啓一君。
  28. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 公明党の石井啓一でございます。私の本日の持ち時間は二十分でございますので、ゼロ金利政策に焦点を絞って質問をいたします。  昨日の政策委員会後の説明資料あるいは本日の総裁の冒頭の説明でも、昨日の委員会の大まかな議論の概要は御説明がありましたけれども、非常に断片的でございますので、改めまして、昨日の政策委員会の議論の詳細といいますか、骨格をきちんと御紹介いただきたいと思います。冒頭よろしくお願いいたします。
  29. 速水優

    速水参考人 昨日の決定会合でございますが、今後公表する議事要旨をごらんいただきたいと思いますが、委員会大勢判断を申し上げると大体次のとおりだということでございます。  かねて申し上げておりますとおりに、我々は、ゼロ金利政策解除条件として、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢になることという判断基準を設けております。昨日の会合では、この考え方に沿って民間需要回復力をどのように評価するか、活発な議論が行われました。  そのうちで、設備投資は、企業収益改善するとともに増加が続いていくであろう、個人消費は依然回復感に乏しい展開となっておりますけれども消費者マインド改善傾向にあるほか、賃金や雇用者数減少傾向に歯どめがかかってきつつあることなど、前向きな動きが出始めている。  こうした状況を踏まえまして、委員会では、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力、先ほどちょっと御説明しましたけれども、そっちの方は大きく後退しておりまして、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるというふうに判断いたしました。しかし、最終的にゼロ金利政策解除するためには、雇用所得環境を含めて情勢判断の最終的な詰めに誤りなきを期したいという意見でございました。  また、最近のいわゆるそごう問題、これは私どもとしても突然起こったという感じでございますが、問題はもともとあったわけでございますけれども、あの時点でああいった形で決定が行われていくということになりますと、木曜日の日、株価かなり下がりましたし、今まで余りやったことのないいわゆる民事再生法といったようなことが、ああいう大きな、一兆八千億も借金をし、一万余りの取引先を持っている、全国津々浦々に店を持っているそごうが突如破綻する、その後どうなっていくのか、株式関係などがどういうふうになっていくのかといったような点につきましては、ちょっと一日、二日で市場はわからないということを正直なところ私ども心配したわけでございます。  そういうことを考えますと、全体の動きに加えて、突如起こってまいりましたそごう問題の見通しというのをこの際はっきりつける必要があるというふうな懸念がございまして、きのうは現状維持ということにした次第でございます。  総合的な検討の結果は、多数決で現状維持が決まりましたことを申し上げておきます。
  30. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 それでは、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるというのが大勢判断ということでありますけれども、かねてから日銀は、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢というのは、すなわちこれは民間需要自律的回復の展望が得られることだ、こういうふうな御説明をされているわけでございます。  最近の日銀の短観を見ると、確かに大企業の製造業は非常に業況判断がよくなっている。プラスに転じている。先行きプラス幅が広がっている。ところが、やはりいまだに中小企業は非常に業況判断が厳しい。特に非製造業では不振が続いている状況でございます。また家計部門でも、失業率あるいは家計調査等を見ますと、確かに失業率あるいは所得環境は下げどまってはおりますが、一方で個人消費伸び悩んでいるという状況にあるわけでございます。  今後の中小企業景気回復、あるいは家計部門の雇用とか所得とかあるいは消費についてどのような先行きの展望をお持ちになっているのか、判断をしているのか、御説明をいただきたいと思います。     〔根本委員長代理退席、委員長着席〕
  31. 速水優

    速水参考人 昨日の金融政策決定会合では、企業収益が非常によくなって、この六月短観などではそのことが非常にはっきり出てきたわけでございますが、それに伴って、設備投資増加が続く、企業部門の前向きの循環メカニズムが動き始めているということが確認されたわけでございます。  中小企業の動向につきましても、収益や設備投資の計画から見て、大企業に比べてテンポは緩やかではございますが、徐々に改善の方向に向かっているようにうかがわれました。  一方、家計部門につきましては、企業の人件費抑制のスタンスに大きな変化が見られないために、経済状況改善の恩恵が家計に伝わりにくくなっている面があると思います。先ほどの、大分水がたまってもダムから下へなかなかそのまますっとおりてこないといった状態ではないかと思います。ただ、それでも、企業部門の回復が進んでいけば、いずれ賃金の増加雇用環境の改善などを通じて個人消費が徐々に前向きの広がりを見せていくのではないかというふうに見られると思います。  雇用所得環境につきましては、このところ、各種の指標から見る限り、下げどまりから改善への道筋が徐々に明らかになってきているように見られます。また、最近、個人消費関連指標一つ一つ見てみますと、全体としては回復感に乏しい状態が続いておりますけれども、消費マインドを示す各種の指標が既に九七年の消費税率引き上げ前のレベルにまで回復してきております。このように、企業部門の改善が家計所得の増加を通じて個人消費にも好影響を及ぼしていく展望は次第に開けていくのではないかというふうに見ております。
  32. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 当初の報道、観測記事等によりますと、恐らくこの七月十七日の金融政策決定会合でゼロ金利政策解除されるのではないかという観測が専らでございました。それを織り込んだような市場動きもあったわけでございます。実際に、昨日の議論の経過では、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるということで、ゼロ金利解除条件がもうほぼ整いつつあるという判断を示す一方で、留意点として二つ挙がっていますね。  一つは、雇用所得環境を含め、情勢判断の最終的な詰めに誤りなきを期したいという点、もう一つは、そごう問題の影響をもう少し見きわめたい、この二つが留意点だということでございますから、この二つが見きわめられれば、逆に言うと、これはもうゼロ金利政策解除できる、こういうことになろうと思います。  まず一つは、雇用所得環境を含め、情勢判断の最終的な詰めに誤りなきを期したいということでありますけれども、この情勢判断の最終的な詰めというのはどのように行うのでしょうか。具体的に言いますと、どういう経済指標がどういう状況になったときにそういう判断に至るのでございましょうか。確認をいたしたいと思います。
  33. 速水優

    速水参考人 デフレ懸念払拭が展望できるような情勢になること、あるいは民間需要自律的回復が展望できるようになること、こういう表現を私どもは使いながら、これを最終的に確認するまでゼロ金利は続けるのだということを言ってきておるわけですが、何か特定の判断材料がそこにあるのかと言われましても、それは特定の判断材料で決めるということではないと申し上げるほかないと思います。  企業部門の回復傾向が十分しっかりしたものとなって、それが家計部門にも波及していく展望が開けたと言えるかどうか、今後の各種指標やヒアリング情報を注意深く点検して、適切に判断してまいりたいというふうに思っております。  きのうのところは、先ほどから申し上げておりますそごう問題がそれに加わって、市場がどういう受けとめ方をし、先行きどういうふうに展開していくのか、また、昨日行われたようですが、国会などでもどういう手を打っていかれるのかということが、きのうの時点でははっきりわかっておりませんでした。そういうこともあって、現状維持ということで決定をいたした次第でございます。
  34. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 特定のデータで判断するものではないというふうにおっしゃいますけれども、ただ、総裁が先ほどから説明していますように、企業の方は大体いいだろう、その好調な企業の部門の影響が家計に伝わるかどうかをきちんと見きわめたいということでありますから、いわゆる消費ですとか所得がどうなるのかということは恐らく非常に注目点だと思うのですね。例えばこの夏のボーナスがどうなるのだろうかとか、あるいは、場合によってはこの四—六のGDPの速報値を見て、例えば個人消費がどうなるか、こういうことは非常に重要な点だと思うのですけれども、この点についてはどういうふうな御見解がございますでしょうか。
  35. 山口泰

    山口参考人 私から答えさせていただきます。  先ほど総裁から申し上げましたように、これさえ見ていれば最後の判断をできるという何か単一の、ぐあいのいい、好都合な指標があるわけではございませんので、やはり最後の詰めというのは主要な材料を総合的に見ていくということしかないと思っております。  ただその中で、企業の収益、設備投資といった企業関係のデータについては短観を含めましてかなりいい材料が出そろってきたというふうに思っておりますので、どちらかといえば個人周りの雇用とか所得、消費関係のデータが割合に重要であろうというふうに思っておりますし、また、金融政策について判断を下す場合というのはやはりマーケットの動きというのを無視するというわけには到底まいりませんので、今申し上げたようなことを含めまして、よく総合的に、誤りなき判断をできるように努力したいと思っております。
  36. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 それでは、留意点の二つ目のそごう問題の件でありますが、これが短期的に市場心理などに与える影響をもう少し見きわめる必要がある、こういう指摘であります。  ゼロ金利政策継続の決定に大変大きな影響を与えたというふうに理解しておりますけれども、きょうの新聞報道でも一部ございますように、企業の倒産事案が金利政策決定に大きな影響を及ぼすということになると、同程度の大型倒産が起きたときに金利政策決定にどういう影響を与えるのだろうかということが次に考えられるわけでございまして、その点についての見解を伺いたいと思います。
  37. 速水優

    速水参考人 そごう問題につきましては、私も詳しく見たわけではございませんけれども日本企業、これはやはり、バブルの後遺症といいますか金融システムの後遺症といいますか、まだああいう大きな債務を持った大企業が残っているということで、私の感じとしては、整理すべきものは早く整理していかないとますます悪いところが膨らんでいくということはどのケースでも見られるわけでございますし、そういう意味では、少し手を打つのが遅過ぎたのかなという感じすらするわけでございます。  特にそごうのケースは、政府の一時保有になっていた銀行の売却に当たって瑕疵担保といったような条件がついておりましたために、これが非常に大きな問題になったと思うのです。ああいう債権放棄といったようなことは、金融機関としては、悪いところに対してそういうことをやっていくのはかなり通常のやり方であったのだろうと思いますけれども、いかにも金額が大きかったことと、政府との間の約定が残っていたために、新生銀行がどういうふうにしていくかということを政府を交えて相談しなければならないといったような特殊のケースであったということがあるわけで、そういうこともあって、新しい内閣ができてこれにどう手を打っていくかということで、あの時点で出てきたのだと思います。  そういう意味でも、私ども、ちょっと先が読めないということを正直に申しまして感じますので、これが市場にどういう影響を与えていくかということをもう少し見通した方がいいということでああいうことになったというふうに御理解いただきたいと思います。
  38. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 時間があればもう少しお聞きしたいのですけれども、もう時間が少ししか残っておりませんので、最後の質問にいたしたいと思います。  国の経済政策と日銀の金融政策との整合性ということでありますけれども、巷間言われておりますのは、政府の方は四—六のQEを見て今年度の補正予算を検討する、やるかどうかも含めて検討するということになろうかと思いますけれども、仮に政府の方が平成十二年度の補正予算を組むことになった場合、ゼロ金利政策解除との整合性というのはどういうふうにお考えになるのか。  その前に解除されるかどうかはわかりませんけれども、一般的には、補正予算を組むということは景気刺激ということでありますが、ゼロ金利解除というのは、先ほどの説明では金融引き締めではない、緩み過ぎているのを多少もとに戻すということのようですから、その判断は、渡辺先生と違って私はそれが妥当であろうとは思いますけれども、ただ、ベクトルとしては緩める方向から多少方向を変えることは確かなことでありますから、そういう補正予算編成との整合性というのはどういうふうにお考えになっているのか、確認をいたしたいと思います。
  39. 速水優

    速水参考人 お答えいたします。  当面の財政政策運営につきまして私の立場から具体的にコメントするのは差し控えたいと思いますが、仮にゼロ金利政策解除することになったといたしましても、それは経済改善に応じて金融緩和程度を微調整するものであって、経済に対して金融が大幅に緩和された状態維持されるということには何ら変わりはないと思っております。  したがいまして、そうした金融政策運営は、景気回復に全力を挙げるという政府の方針と整合的であると考えております。
  40. 石井啓一

    ○石井(啓)委員 時間が参りましたので、以上で終わります。
  41. 萩山教嚴

    萩山委員長 次に、小池百合子さん。
  42. 小池百合子

    小池委員 保守党の小池百合子でございます。  ついせんだってまで経済企画庁の総括政務次官を務めさせていただきました。よって、政策決定会合には何度か出席をさせていただき、その現場の雰囲気、委員の皆様方の御論議などを直接聞かせていただいたわけでございます。本日のこの「通貨及び金融調節に関する報告書」を拝見いたしておりましても、私の名前もしっかり載せていただいておるところでございます。  さて、私の持ち時間も同じく二十分でございます。幾つか端的に伺わせていただきたいと存じますが、やはり、昨日、世界市場も注目されました日銀の政策決定会合、つまりゼロ金利政策解除ということが一番大きなテーマになっていたかと思います。まさに金利というのはその国の景気、そして経済全体を総合してあらわした一つの大きな重要な指標指標と申しましょうか、その国の経済の健康診断の結果出てくるものである、もしくはその健康が害することのないような形で前もって予防的に動かすものであるというわけでございますが、昨年の二月以来の、無担保コール翌日物でございますが、ゼロ金利政策、この実施から既に一年半がたとうとしているわけでございます。  言うまでもなく、歴史的にも非常に記録されるであろう我が国のゼロ金利政策、たしか十六世紀のジェノバでの記録以来のことでございまして、まさに、総裁、副総裁それぞれの記者会見の記録などを拝見いたしましても、今のこのゼロ金利政策というのは異常な形であるということは繰り返し述べておられるところかと存じます。昨日は、結局解除は先送り、解除はされないという形に決定されたわけでございますが、市場の受けとめ方を見ておりますと、そごうの問題もございましたでしょうが、解除はなしという受けとめ方で冷静にといいますか、変化がなかったわけですから当然のことですが、それに対しては余り大きな反応はなかったかのように思います。  私の考え方でございますけれども平成十一年度GDPもようやくプラスに転じて、〇・五%という数字が出ました。しかしながら、名目を見ましてもまだまだひ弱であるということでございますし、なおかつ産業構造が大きく変わっているという点で、なかなか先の見通しをつけにくいというのも頭が痛いところでございます。  そこで、私は、異常なこのゼロ金利政策ではございますが、そもそも経済そのものが異常なんであって、金利が異常なのではなくて、その異常な経済に合わせるために異常な政策をとらざるを得ないというような認識を持つべきではないのか。では、その異常さから脱出できたかというと、私はまだその点では確信を持てないという立場をとっております。よって、昨日の決定というのは、そういった総合的な判断からいたしまして、全く妥当であったというふうに私は考えているところでございます。  経済が何をもって異常とするのか、また、異常でないとするならばどの点が異常でないのか、その辺の総合的な、昨日の政策決定が導かれたその中での御議論も踏まえて、経済現状、これについて日銀総裁の御見解を承りたいと思います。
  43. 速水優

    速水参考人 委員会にも何回か御出席いただきましたので、委員会で議論していたことは先生よく御存じだと思います。  私どもは、我が国の景気は、企業収益改善する中で、設備投資増加が続いていく、緩やかに回復しているということでこれを高く評価して、また、先行きにつきましても、海外経済等外部環境に大きな変化がなければ、今後も設備投資中心に緩やかな回復が続く可能性が高いというふうに判断いたしております。  物価面では、こうした緩やかな景気回復が展望されるもとで、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力というのは大きく後退していると判断しております。  こういうことを踏まえますと、日本経済は、ゼロ金利政策解除条件としてきたデフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるというのが委員会大勢判断でございました。  そのことは、恐らく先生も六月の日銀短観をごらんになったと思いますけれども、あれだけ収益がよくなり、それが全体を潤していくというのは時間の問題だと思っておるわけでございまして、これは昨年二月のあのデフレスパイラルの危機の状況から脱した現状においては、自然な動きではないかというふうに私ども判断いたしております。  しかし、金利を上げるということは、これはなかなか難しいことで、日本銀行もここ十年、正直言って金利を上げたケースがないのです。ここ五年間、〇・五%という公定歩合維持して、昨年の二月に、翌日物の無担保コールを〇・〇二というほとんどゼロに近いところまで下げるように金を出してくださいということを金融市場局長に命じて、そういう操作をここまでやってきたわけでございます。  これがやはり戻るべきときに戻っていくということを適当な時期にやらなければならないと考えておりますので、また今後ひとつよろしく御支援いただきたいと思います。
  44. 小池百合子

    小池委員 そのデフレの圧力といいましょうか、デフレの危機的状況があったということで、過去形でおっしゃったと思うのでございますが、まだ構造的なデフレ圧力というのは基本的に消えていないのではないか。  例えば、今IT革命ということが言われておりますが、これは実際にネットを使って、例えば一番安い航空券はどこかといったらぱっと出てくるのですね。世界じゅうで一番安いものは何かというふうなものが出てくる。ですから、私は、ITというのは実はデフレのツールではないかというふうに考えております。それから、最近、物価の動向を見ておりましても、基本的には原油高ということの特殊要因があるのではないか。ですから、総じてこの構造的なデフレ圧力から脱したとはまだまだ言い切れないのではないかと考えております。  私はまた、この大蔵委員会に何年か在籍しているわけでございますが、一時ネガティブ金利までを主張した一人でございまして、ですから、その意味では、むしろ今がこらえどきではないかというふうに感じております。  逆に言えば、最近このゼロ金利政策解除というのが随分あちこちでアナウンスメントがされているようなところが散見できるわけでございますが、むしろ日銀とすれば、ゼロ金利政策というまさに異常な政策をできるだけ早くやめたい、これは当たり前のことかもしれません。また、これまでインフレファイターとしての歴史をお持ちの日銀とすれば、ゼロ金利という中で、まさに自由度が全くないというところで動きようがないというのは、日銀の役割とすれば非常に狭められているということでも、その辺はお察しをするわけでございますが、どうも前のめりになっておられるのではないか。  今まさに大きく潮目が変わろうという前兆は確かにございます。幾つかの企業の動向であるとか設備投資であるとかそういったところを見ますと、兆しは十分見えてはいる。しかし、今まさにオールドエコノミーとニューエコノミーが鳴門の渦潮のようになっている段階で、私はここはむしろ腰を据えて取り組む方がいいのではないかというふうに考えるわけでございますが、構造的デフレ圧力ということからまだ脱し切れていないという私の考え方について、どうお考えになりますでしょうか。
  45. 山口泰

    山口参考人 経済の中に循環的、構造的、さまざまな力が働いておりまして、その中で構造的に経済活動を圧迫するような力が依然として残存しているというのは御指摘のとおりだと思います。  その残存しておるものの中にどういうのがあるだろうかと考えてまいりますと、やはり私どもは、バブルの後遺症、これは結局バランスシートの調整が十分終わっていないということになるわけでございますが、そういう問題もあろうかというふうに思います。  それは結局のところ、中期的な経済成長率がなかなか過去のようには高まっていかないというところにあらわれてくるはずでございまして、それが需要の弱さあるいは需給バランスの悪化ということを通じて物価を押し下げている間は、これはデフレ圧力が非常に強い状態でございますから、ゼロ金利がたとえ異常なものであっても続けざるを得ないというふうに考えて今日まで来たわけでございます。  ただ、幸い、そういう中にありましても、つまり構造的な下押しの圧力がある中にありましても、設備投資などが息を吹き返し、今かなりの力を得ようというふうに情勢が変わってきております。こういう情勢が持続いたしますならば、申し上げたような意味でのデフレ圧力というのも徐々に減退していくはずでございまして、その点について私どもはある種の手ごたえを感じているというのが直近の状態でございます。  なお、先生の御指摘の中にありました、例えばITというのはむしろデフレ的な要因ではないかというようなお話でございますけれども、確かにITというのが米国で見られましたように生産性の大幅な上昇につながっていく場合には、コストダウンを可能にするという意味で、物価が上がりにくい状態をつくり出す一つの要因になろうかと思っております。ただ、生産性が大幅に上昇するといたしますならば、それはサプライサイドから経済成長力を高める、強化する筋合いのものでございまして、そこのところがうまくいけば企業の収益が強くなっていく。また、新しい商品なり産業群なりが育っていくということで、経済の構造改善を伴いながら成長率が高まり、決してデフレ的ではない物価の安定というのを期待できる可能性もあろうかと思っております。
  46. 小池百合子

    小池委員 まさにそのあたり、今後のITをどのように育て、また本来は余り政治が関与せずに自由に発展を遂げてくれるのが一番健全な姿だと私は思っておりますが、いずれにいたしましても、ITということをプラス効果が出るように、私なども今後とも考えてまいりたいと思っております。  それから、時間がございませんので、最後に一点だけ伺いたいことがございます。  先週、この大蔵委員会委員の中にも何人か御一緒にワシントンに行ってまいりました。これまでは、例えば昨年は、ワシントンの議員と話をしますと、日本の鉄鋼問題ばかり文句をつけられてまいりましたが、今回は日本経済は大丈夫かということでむしろ哀れみを誘っていたような状況でございまして、それだけに一日も早く日本景気回復、そして再建ということを進めなければならないということを痛感したわけでございます。  一方で、そのアメリカでございますが、本当にわずか十年ほどの間にいわゆる双子の赤字から財政赤字の部分が大幅に改善され、むしろ黒字をどうやって使っていくのかということが次の秋の大統領選の争点にもなっているわけでございます。本当に経済というのは、逆に言えば、政策がきっちりしていれば十年で変わることができるといういい例かもしれません。しかし、これまで赤字を垂れ流していたアメリカがそのたびに米国債を発行してきたということで、日本のまさにジャパンマネーがいいお得意さんだったわけでございます。  そうなってまいりますと、アメリカの財政赤字からの脱却ということがもう目の前に迫っている、いや、もしくはそうなっている。そうなってきますと、米国債というのはこれから発行されるのかどうかということ。それからまた、その際には債券市場に対する影響はどういうことになるのか。また、ジャパンマネーの運用先としての米国市場というのが、連邦の債券でございますね、ここのところが、品物がそれこそなくなるというような事態になってきたときにはジャパンマネーの運用はどうなるのか。民間企業もあるわけで、そこで社債の発行ということは今後ともあるわけでございましょうから、そちらにシフトされていくということも考えられますが、そういったアメリカ経済が約十年間で大幅に好転をしたということから、ちょっと私どもも発想を変えなくちゃいけないのではないかと思います。  そういった点で、日銀としてどういうふうなシミュレーションをされ、またどんなことが考えられるのか、これまでの結果のところについてお伝えいただきたいと思います。
  47. 山口泰

    山口参考人 米国の財政事情につきましては御指摘のとおりで、日本から見ますと何ともうらやましい状態が出てきております。既に国債の買い入れ消却が始まっておりまして、現在の財政の黒字が今後長期にわたって続いていきますならば、結局は、米国金融市場の中から国債というものが姿を消すのではないかというようなことまで今議論されております。  そういう状況でございますから、米国金融市場は現在非常に大きな構造変化を経験しつつある状態だと思います。仮に国債というものが代表的な金融資産の地位からおりるということになるとどういうことが起きるのかというのは、余り経験したことがございませんので、実はまだはっきりしない部分が多うございますけれども米国の中では、国債に取ってかわろうということで名乗りを上げている金融資産、あるいはそれを発行している発行体というものが既に出てきておりまして、例えば、ある程度公的な色彩を持った政府機関の一部でありますとか、そういうところが発行する債券が国債にかわる優良資産としてマーケットの中核的な地位を占めるのではないかというような見方が出ております。  最も重要なことは、この構造変化が激しい市場内競争を通じて実現しつつあるということでございまして、結局、競争の中で投資家からどのような金融資産が好まれるのか、選好されるのかということによって構造変化の行き着く先が決まるのだろうと思います。  したがいまして、今私どもの頭の中に米国市場の落ちつく先について明確なイメージがあるというわけではございませんで、競争の中からいろいろなものが淘汰され選び抜かれていく、このプロセスをよく見てまいりたいと思いますし、恐らく日本の機関投資家も同様の関心を持って米国市場を注目しているところではないかと存じます。
  48. 小池百合子

    小池委員 時間が参りましたので、終わります。ありがとうございました。
  49. 萩山教嚴

    萩山委員長 次に、後藤茂之君。
  50. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 後藤茂之でございます。  本日は、民主党の第一バッターということで、最初にゼロ金利政策の総括の問題、その他報告書が出ておりますけれども、それにまつわる幾つかの問題点について質問をさせていただきたいというふうに思っております。  さて、ゼロ金利政策でありますけれども、もう御承知のとおり、日本経済デフレスパイラルという非常に厳しい瀬戸際という異常事態の中で、それに対応してとられた異例の政策であるというふうに位置づけをされていると思います。  そしてそのことについては、所得分配がゆがむとか、あるいは短期金融市場の機能が低下するとか、あるいは市場参加者のモラルハザードが起こる、構造調整がおくれる等の大きなコストを払って行われている金融政策であるというふうに私も認識しておりますし、日銀もそのように説明をしてきているというふうに思っております。  それゆえに、九九年四月に総裁が記者会見をされまして、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢になることがゼロ金利政策解除条件であるというふうに御説明された後、るるお話をされておられますけれども、それは内容的にいえば、経済情勢民間需要自律的回復の展望が得られるような状況になることであるというふうにお話をされているものだというふうに認識をしております。  さて、これまでいろいろな議論もあるわけでありますけれども、私自身も、雇用や所得の例えば経済の指数等、非常にまだまだ心配な状況であるということについては同じように考えております。特に、いろいろな分析、大企業と中小企業というふうに分けて考えていきますと、私自身は日々割合に精密機械の中小企業が集積した地域を歩いておりますので、そうした立場から見ますと、例えば、大手の企業が大分よくなってきた、しかしそれは、リストラということによって雇用調整を行ったり、あるいは単価の調整を行う中で大手の企業が相当に体質がよくなってきてはいるけれども、しかしそのリストラのあおりを中小企業は受けているわけでありまして、そういう意味では、資金の問題にしましても、あるいは収支の問題にしましても、非常に落差が大きい、そういう認識を持っているわけであります。  ですから、今の経済が全くデフレ的でないとか、悪いとか言うつもりは毛頭ありません。逆にそういう意味では、雇用、所得の改善が出てくるような、経済的には全体としての構造政策を推し進めていく時が来ているというふうに感じておりますけれども、しかし、今議論になっているのは金融政策の局面であります。  そういう意味でいきますと、今までもるる御説明があったと思いますけれども、改めまして伺うわけですけれども民間需要の自律的な回復の展望が得られる、そういうデフレ懸念払拭が展望できるような情勢にもうなったと考えられるのではないか。その点について伺いたいと思います。
  51. 速水優

    速水参考人 日本銀行では、景気現状につきまして、企業収益改善した中で設備投資増加が続く、また緩やかに回復が続いているというふうに判断をしております。先行きにつきましても、海外経済等外部環境に大きな変化がない限り、今後も緩やかな回復が続く可能性が高いというふうに考えております。  このように緩やかな景気回復が展望されておりますもとで、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力というのは、ここへ来て大きく後退しているというふうに見ております。こうした状況のもとで、昨日の金融政策決定会合においても、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢に至りつつあるというのが委員大勢意見であったわけです。  しかし、ゼロ金利政策解除するためには、雇用所得環境を含めて情勢判断の最終的な詰めに誤りなきを期したいという意見や、最近のそごう問題が市場心理などに与える影響をもう少し見きわめる必要があるという指摘もありまして、こうした点を総合的に検討した結果、ゼロ金利政策の継続を決定したということでございます。  ゼロ金利の副作用につきましては先ほども説明したとおりで、このこともほっておけないというふうに私は考えております。
  52. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 今お話がありましたように、自律的回復の展望の方向という話でございますから、そういうことになりますと、これまでのゼロ金利の評価ということからいきますと、デフレスパイラルの瀬戸際の中でとられた異常な政策であるという位置づけであろうかと思います。しかし、経済改善が始まった中でのゼロ金利政策ということになりますと、これまでのゼロ金利政策をどういうふうに評価されるか。その辺のところはどうお考えでありましょうか。
  53. 速水優

    速水参考人 確かに、経済回復傾向が明確化する中で極端な金融緩和政策を続けておりますと、いずれ経済物価情勢の大きな変動をもたらしたり、より急激な金利調整が必要となるリスクが増大していく可能性がございます。したがいまして、将来が不確実であることを踏まえると、経済改善に応じて金融緩和程度を微調整していくことが、長い目で見て健全な経済発展に資するものというふうに考えております。  こうした考え方に基づきまして我々が採用しておりますのが、デフレ懸念払拭が展望できるような情勢ということを基準にしておるわけでございます。今後とも、この基準に照らして、先ほど申しましたような点を中心情勢分析を行い、適切な判断を下してまいりたいというふうに考えております。
  54. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 ゼロ金利解除の時期につきましても、相当に実体経済の面から見ますと準備が整ってきているということであろうと思いますので、日銀の方としても、この政策についての見直しを早いうちに行われるのがよろしいのではないかというふうに考えておるわけであります。  さて、しかしながら、ゼロ金利政策の途上におきましても気になっていることはありまして、例えば民間銀行貸し出しの問題等がございます。九六年以降、前年比下げをずっと続けるトレンドにありまして、特殊要因調整後でも、六月、三角二・一%、そんなような状況であります。  そして、この状況につきまして、この報告の中におきましても、民間銀行においては、自己資本面からの制約が緩和していることもあって、大手行を中心に貸し出しボリュームが確保されてきているとか、あるいは、民間銀行貸し出しが伸びていないのは、キャッシュフローが好転する中で、設備投資などが低水準にとどまって資金需要の低迷が続いているからで、資金需要がないからであるという分析がなされているわけでありますけれども、ざっと申し上げまして、こうした分析というのは、主に大手の企業中心にした分析であるような気がしてなりません。問題は、先ほども申し上げましたような、リストラのあおりを受けるようなやる気のある中小企業への対応であろうというふうに思っているわけであります。  これまで金融政策が打たれている中で、実際に銀行の窓口の貸し出しで、ああ、緩んだなという実感があったのは、恐らく、九八年の十月の信用保証枠の拡大、あるいは十一月の、企業金融の円滑化のためのオペ、貸し出し面の措置がとられた、そのときには確かに窓口でも少しよくなったという実感があったように思われますけれども、その後、なかなか、銀行の窓口での貸し出しが緩んでいるという実感が余りないというのがちまたの率直な意見だというふうに私は思っております。  そういう意味で、これからこの問題自身は、直接日銀だけの問題ではないわけでありますけれども、中小企業の資金繰りも念頭に置いて、今後の金融政策というものをぜひ運営していっていただきたいというふうに思うわけであります。  そして、今までにも何度も御指摘もありましたように、ゼロ金利政策解除後も金融緩和の基調を変えるということではない、そういう経済局面であると思いますけれども解除時にその旨の明確なメッセージを日銀から送っていただく必要があるのではないかというふうに考えております。そういう意味で、その点について日銀の御意見を伺いたいと思います。
  55. 速水優

    速水参考人 ゼロ金利解除した後の、どういうふうなことを考えていかなきゃならぬのかということをお聞きになっているように思います。しかし、それは少し先のことになりますので、ここで差し控えさせていただきますが、仮にゼロ金利解除したといたしましても、それは経済改善に応じて金融緩和程度を微調整するということでありまして、経済に対して大幅に金融が緩和された状態維持されていくことは間違いございません。  もちろん、ゼロ金利政策解除ということに限らず、政策変更の際には、御指摘のとおり、その考え方や背後にある金融経済情勢判断について丁寧に説明することが重要であるというふうに考えております。  お答えになっていたかどうかわかりませんが。
  56. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 先のことについてのコメントを求めてもあれだと思いますから、そういうことでよろしくお願いをしたいと思います。  それでは、一つ、議論の過程で気になったことについて申し上げるわけでありますけれども、先ほども市場との対話とかいう話が出てまいりました。この問題というのは、マーケットがこれだけ大きく、そしてまた成熟してまいりますと、非常に難しい問題だというふうに思うわけでありますけれども、このたびのゼロ金利政策をめぐる議論につきましても、実を言いますと、日銀の方としても、これまでの議事要旨あるいは月報の公開とか、さまざまな新しいデータを公開されて努力をされてきているように思います。しかし、その中でも、そうした問題が醸成されるようになってきた大きな一つの原動力、牽引が、日銀総裁あるいは副総裁、そういう皆様方の記者会見であったり懇談であったり、そういった面が非常に多かったような気がいたします。  もちろん、家計を中心に、ゼロ金利を早くやめてほしいという強い声があったことや、あるいは産業界の中にも、構造調整をやっていくためにはもうそろそろ潮どきが来ているのではないかという意見があったからこそのことであったと思いますけれども、このように個々の政策委員総裁のいろいろな、場外乱闘と言うには不適切かもしれませんが、そうした言葉によってそういう政策形成がされていくということが市場との対話ということで非常に健全であるのかということは、これからの検討課題としても残っているように思います。  もちろん、逆に、ゼロ金利を上げちゃいけないという、そういう意味での場外乱闘のパンチも飛んできているわけでありますけれども、その辺のところを、本来であれば、日本銀行が月報とか議事要旨だとかさまざまな公開資料によって客観的に論じられるような、そういうマーケットを通じた対話という道をこれからもう少し探っていく必要があるのかもしれない、そういうふうに思いました。この点については、質問ではございませんので、今後、いろいろ私も勉強させていただきたいと思いますが、日銀の方でも考えていただければというふうに思います。  さて、先ほどから出ております民間需要自律的回復の展望という言葉からもわかりますように、デフレ懸念払拭できるような状態かどうかということをねらって見ていくという議論にどうしてもなるわけでありまして、早目早目の政策運営を行うという立場からいろいろな議論を行われているわけでありますが、その中で、この報告書の中にも結構ページをとって触れてありますけれども、インフレターゲティングが書かれてあります。  もちろん、調整インフレ論的なインフレターゲティング論は、これはもう論外であることは言うまでもないので申し上げませんけれども、中期的なインフレ目標率を設定して期待形成の安定化を図るという意味でのインフレターゲティング論というのは、例えば英国で九二年にとられまして、BOEは、二・五%、先行二年間ということで、足元の絵を示しながらインフレターゲティングをやっているわけです。世界にも、八八年のニュージーランドを初めとして、相当に大きな国があります。  メリット、デメリット、いろいろな問題があると思いますけれども、インフレターゲティングに対して当局としてはどのような見解を持っておられるのか、伺いたいと思います。
  57. 山口泰

    山口参考人 今先生のお話の中に出てまいりましたとおり、いわゆる調整インフレ論というものは私どものとり得る選択肢ではございません。  もう一つの、海外の一部の国で行われておりますインフレーションターゲティングというものにつきましては、これは、どちらかといえば、かなり長い年月にわたって非常に高いインフレ率で悩んでいた国が最後の手段としてそれを採用したというような成り行きをたどった場合が多かったと思いますけれども、これを虚心に眺めてみますと、市場の期待を安定化させることをねらうというような効果一つ考えられます。うまく市場から信認を得られる場合には、それは中央銀行の強い決意を示すという効果もあろうかというふうに思います。  ただ、いろいろ問題点もございまして、私どもが思いますに、そもそも物価の安定ということが究極の目標なわけですけれども、その目標となる物価の安定というのを単一の物価指標の特定の数字でもって示すということが本当にできるのだろうかとか、適当なんだろうかというような問題があろうかと思います。それは一例でございますし、ほかにも検討課題がいろいろ残っているというふうに思います。  特に、我が国の実情に照らして考えてみました場合に、我が国はこのところ、高いインフレ率で悩んでいたというのとは逆の状況を経験しているわけでございますし、十年、二十年という期間をとりましても、長い期間にわたって物価が欧米諸国に比べるとはるかに安定してきたという実績がございます。  また、先ほど来の御議論の中にも出ておりますように、今後いわゆるIT革命というのが本格的に進んでいきますならば、それは物価に対しましてもかなり影響を持つということが考えられます。そのほか、流通面での大きな変革というのも構造的に物価影響を与える一つの要因だと思いますが、そういうことを考えますと、物価安定目標を単一の数字で示すということについては、どうしても慎重に検討したいという気持ちが強くなるわけでございます。  ただ、いろいろ申し上げました上で、最後に、にもかかわらず、日本の中でインフレーションターゲティングという問題が提起されます背景としては、やはり金融政策運営について透明性をさらに高めることはできないものかという問題意識が底流にあろうかと思っております。私ども政策の透明性を高めるというのは大変重要なことだと思っておりますので、そういうことも念頭に置きながら、現在総括的な物価についての検討を行っているところでございます。
  58. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 私も、インフレターゲティングについては、日本については、数値を示すということについては、いずれにしてもまだそういう時期ではないし適当でないというふうに思っておりますので、それはよろしいのでありますけれども、しかし、本質は、物価というものがどういうものかとか、物価の問題が本質の問題であります。新日銀法に規定されているとおり、金融政策の目的というのは「物価の安定を図ることを通じて国民経済の健全な発展に資すること」ということでありますので、まさに「物価の安定」の「物価」が何であるか、「物価の安定」が何であるかということは本当に本質的な問題だというふうに思っております。  三月十日の記者会見において、そのことにつきまして検討を、夏場ごろまでに取りまとめができるよう努力するという御発言が総裁記者会見においてなされておるようでありますけれども、そろそろ暑い時期、夏場ごろとなってまいりました。検討状況はどうなっているか、お聞かせいただきたいと思います。
  59. 山口泰

    山口参考人 物価の安定に関する検討ということで、おおよそ四つぐらいの論点に絞りまして、現在鋭意これを研究しているところでございます。  四つと申しますのは、第一に物価の安定についての基本的な考え方をまとめたいということ、第二に物価の計測の仕方、つまり物価指数をめぐる諸問題について、第三に最近の我が国の現実の物価動きについて、そして最後に、第四に物価の安定の数値化をめぐる諸問題についてといった論点でございます。  日銀のスタッフがこれらについて幾つかのペーパーをまとめ始めておりまして、できるものから単独の調査分析のペーパーとして公表をさせていただいているところでございます。  御指摘のとおり、できれば夏ごろまでに何らかの成果を出せるよう鋭意努力したいというふうに考えましたし、そのように申し上げたところでございますが、実際取り組んでみますと、思ったとおりといいますか、思った以上にといいますか、大変問題が複雑かつ多岐にわたっておりますので、取りまとめの時期につきましては、検討の進捗状況をあわせ見ながら、少し弾力的に考えさせていただきたいと思っております。
  60. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 ぜひなるべく早くにおまとめをいただきまして、そのことが政策の透明性に大きく前進、寄与することだろうというふうに考えております。  それでは、少しほかの論点に変えまして、次に、日銀の健全性の問題、中立性の問題にかかわるような問題点について少し伺いたいと思いますけれども、昨今日本経済状況が非常に悪いというようなことを見まして、例えば、外国、MITのポール・クルーグマンとか、アメリカの学者の中にも、需要不足に陥っている日本経済の需給を一致させるような実質利子率はマイナスである、これを達成するためには期待インフレ率を引き上げる必要がある、そのために、例えば中央銀行がインフレ率について目標を定めて誘導するようなことを考えてはどうか、そしてその政策手段として、超過準備供給を上積みするとか、あるいは新発長期国債の日銀引き受けを行うとか、あるいは既発長期国債の買いオペを増額していくとか、そのような議論がなされているわけであります。  そして、そういうことを受けたりもいたしまして、ちまたでも量的拡大、さらなる緩和として、日銀引き受け論が時々散見されるわけであります。インフレターゲティング論の問題はさきのとおりでありますから、日銀引き受けの問題について言いますれば、過剰な通貨の供給というのはもちろん悪性インフレを招くわけですし、また、インフレーションになる前から、実際に通貨発行の歯どめの喪失感が出てくれば期待インフレ率は上昇してくる。そういう意味では、長期金利の上昇を招いて非常に問題があると思っているわけであります。  この点については日銀も全く同様の御意見と思いますけれども、ここで一度決意の表明をしていただきたいというふうに思います。
  61. 速水優

    速水参考人 国債の引き受けや買い切りオペを増額するということについて、ここ一年ばかり同じことを答えてきておるわけでございますけれども、私ども考え方はこれまでと全く変わっておりません。  すなわち、中央銀行が一たん国債の引き受けを始めてしまいますと、財政支出の拡大、通貨の増発、これに歯どめがかからなくなってしまいます。将来、悪性のインフレを招くおそれがあるというふうに思います。そうなりますと、日本銀行はもとより、日本全体の政策運営や、円という通貨に対する内外の信認が失われていきます。経済の持続的な成長自体もこれによって損なわれていくことになると思います。このことは我が国を含む各国の歴史から得られる貴重な教訓でございます。したがいまして、新規の国債を引き受けるという考えは全く持っておりません。  また、国債の買い切りオペにつきましても、長期金利が上がらないようにとか、財政の資金調達を円滑にするためにといった目的でふやし始めてしまいますと、結局は切りがなくなって、引き受けと同じ問題を引き起こしてしまう可能性が強いというふうに考えております。
  62. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 それにかかわる問題でもあるのですけれども、郵便貯金の集中満期の問題がことし四月、五月ぐらいから生じてきているわけであります。運用部の資金繰りをサポートするために、資金運用部の国債、これは現先売買のスキームが公表されているわけでありますけれども、その資金繰りをサポートするために資金運用部に対して資金を供給していくということになりますと、資金運用部と申しますのは国債の引き受けを行っているわけでありまして、運用部との売買から実質上の抜け道をつくってやることにもなろうかと思います。そういう意味では、その点についても十分な規律、いろいろな形で政府に対して日銀は資金を供給するスキームがあるわけでありますので、その点についてもトータルな判断をしていただきたいというふうに思います。  さて、日銀のバランスシートの規模でありますけれども、コンピューター二〇〇〇年問題に伴う資金供給あるいはゼロ金利政策を継続してやってきたことの結果としまして、報告書にあるとおり、年末には既往ピークの百十一兆円に達しております。年が明けましてからの十二年三月でも百六兆円、百兆円を超えてきているわけであります。  内容的に、質的に見れば、預金保険機構向け貸し付けが減少しているとか、あるいはFBの市中公募入札の制度が始まったとかいうことで、健全性や流動性は相当に高まったという指摘はもちろんあるわけでありますけれども、しかし、そうはいっても、こうした緩和政策が続けられている中で、健全性、流動性、中立性という点から見て、このままで一体大丈夫なのか。日銀のバランスシートの資産規模百兆円にまつわる疑問でございますが、その点についてのお考えを伺いたいと思います。
  63. 増渕稔

    増渕参考人 私から申し上げさせていただきます。  先生指摘のとおり、昨年十二月末、ことしの三月末の私どものバランスシートの資産規模は、コンピューター二〇〇〇年問題に伴います金融機関の流動性需要の高まり、あるいは四月から始まりました郵便貯金の集中的な満期到来等に備えました政府によります現預金の保有増加等に対応いたしまして、日本銀行が弾力的な資金供給を行いましたことによって相当に膨らみました。御指摘のとおり、十二月末で百十一兆円、三月末でも百六兆円ということでございます。  ただ、内容的には、これも先生指摘のとおり、昨年の四月から政府短期証券の公募入札化が行われまして、日本銀行が国に対して受け身的に信用供与をするということが解消されておりますし、それから、預金保険機構向けの貸し付けが、預金保険における民間からの資金調達の順調な進捗等によりまして、大幅に減少しております。したがいまして、流動性等の面での、内容的には望ましい方向への変化があらわれていると思います。  また、コンピューター二〇〇〇年問題に伴います流動性需要というものが鎮静化してきたということもございまして、この六月末では総資産規模も八十四兆円弱まで縮小いたしております。  以上でございます。
  64. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 それから、いろいろと質問が飛ぶようで申しわけないですけれども金融システムの問題についてでありますけれども、九九年三月に、早期健全化法によって七兆四千五百九十二億円という金融機関への資本増強が行われました。そのことによって金融システムの不安は払拭されているというふうに認識をしているわけでありますけれども、しかし、欧米の主要行などを見てみますと、コアキャピタル、いわゆるティア1と呼ばれているものについて言えば、それだけで一〇%近くになっているわけでありますけれども日本の主要行については、ティア1プラスティア2でやっと一〇%ぐらいというような事態になってきているわけです。  今の日本経済状況金融状況を考えたときに、急激なさまざまな対応をすべきだというふうに言っているわけではありませんけれども、しかし、その中で日本の全体としての金融の仕組みを考えてみましたときに、九〇年代の日本金融が非常に厳しかったことの一つの反省として、銀行外の金融仲介の機能が非常に弱かったという点が、やはり非常に大きなバブルの傷のもとになったのではないかという反省があるのではないかと思います。グリーンスパンなんかも日本を名指しで、そういう意味では批判しているわけでありますけれども、これから資金調達手段を多様化していくということについて言えば、証券市場というものの活用がますます必要になってくるわけであります。  しかし、ここで一つだけ私自身の考えを申し上げると、最近言われておりますベンチャー支援の観点も相まっておるわけでありますけれども、私は、通常の資本市場だけではなくて、リスクキャピタルのマーケットをぜひつくることが必要であるというふうに考えております。  これまで、ベンチャー企業が成功するための条件を考えてみますと、一人のベンチャー企業を起こす人が技術もアイデアも持っている、経営能力も持っている。そして、例えば土地を持っているとか、とてもお金持ちの親切な知り合いがいるとか、そういう条件を満たしていて、そうして本人が会社を起こそうという決断をして初めてベンチャー企業が起きるわけであります。  しかし、アメリカの例を見ましても、あるいはこれからの合理的なベンチャー育成策ということから考えてみますと、これらの機能というのは分けることができる。つまり、スニーカーを履いてTシャツを着た学生でも、実を言うと大きなアイデアや技術を見つける可能性はあるわけです。しかし、彼がそのままベンチャー経営者として成功する確率は非常に低い。  ハイリスク・ハイリターンを求めるリスクキャピタルも、実を言うと存在しています。ですから、そういう意味では、新しい技術やアイデアについて、起業家の成功率をレーティングするような仕組みがあれば、ハイリスク・ハイリターンのリスクキャピタルとマッチすることができる。では、経営はどうするかということになれば、経営能力のある者にストックオプションをつけるなどしてインセンティブをつけて、経営の問題と資本の問題と技術、アイデアの問題を分離していくことが可能になると思います。そういう意味では、これからのベンチャー支援の観点も含めて、資金調達の手段の多様化として、ぜひともこういうリスクキャピタルマーケットを日本でつくっていく必要があるというふうに考えておるわけであります。  さて、もう一つ、最後になりますけれども、御質問をさせていただきたいと思います。  ことしの五月三十日に、日本銀行金融研究所翁所長を初め三名の方たちによりまして、「資産価格バブル金融政策 一九八〇年代後半の日本の経験とその教訓」という論文が出ておりまして、この中にも、これはあくまで個人の意見であって、日銀としてのサーベイではないという断りが書いてあるわけであります。  しかし、政策当局にとりまして、例えばバブル期、景気の拡大が非常に明確化している中で低金利が継続されたことによって、低金利の永続に対する期待が広がって、そのことが金融政策のいわば資産価格上昇効果というのを非常に大きくしたことがバブルの原因だというふうに言われているわけでありますけれども、しかし、そうした一つ一つの例えば経済の事象や、あるいはそのときに政策当局一体どういう気持ちでどういうことをしたのか、あるいはどういう気持ちでどういうことをしなかったのか、その点について丁寧に精査をする、そして二度と同じ失敗を繰り返さないように教訓を学んでいく必要があるだろうというふうに思っております。  このことは決してバブルの問題だけではなくて、例えば今回のそごうの問題も含めて、金融再生の間に起きたさまざまなことについても、これは歴史的な大変な教訓でもあるわけですから、そういったものをまとめていく必要があるというふうに思っているわけです。  バブル期の金融政策、もちろんバブルが起きていったときの金融政策バブルがはじけた後の金融政策のいろいろなサーベイをする必要があるように思うわけでありますけれども、そうしたサーベイ、これは銀行自身がやられることであっても、オフィシャルに第三者にまとめさせるものであっても、いかなる形もあるだろうと思いますけれども、そうした金融政策をサーベイするオフィシャルなリポートをまとめるようなお気持ちはあるか、ぜひそういうものをまとめていただきたいと思いますが、見解はいかがでしょうか。
  65. 山口泰

    山口参考人 先生指摘の論文は、三人の著者を連ねた個人の論文でございます。バブルというような非常に大きな経験になりますと、日本銀行の公式見解をこれについてまとめるというようなことがなかなか難しゅうございます。ただ、実際に起きたこと、その中で、金融政策の面でどういうことに悩みながら問題を考えていたかというようなことをきちんとレビューし総括するということは避けて通れない課題であるというふうに思いまして、そういう思いを込めて三人の著者がサーベイをしてくれたということでございます。  これは個人論文ではございますけれども、行内である程度議論も行いましたし、政策委員会に対しての報告も行った後、発表したものでございます。そういうもので、現時点といたしまして、バブル期をサーベイしたものとしては最も包括的なものではないかというふうに思っております。  さらに、これとはまた別に何かサーベイを行うかどうかということは現在のところ考えておりませんけれども、今後とも、必要に応じまして、バブル期あるいはバブル崩壊後のさまざまな経験を、今日の金融政策運営に役立つような観点から研究を深めていきたいというふうに思っております。
  66. 後藤茂之

    後藤(茂)委員 時間が参りましたので、終わります。
  67. 萩山教嚴

    萩山委員長 次に、岩國哲人君。
  68. 岩國哲人

    岩國委員 民主党の岩國哲人でございます。  本日は、日銀総裁以下幹部の方をお迎えいたしまして、これからの経済の中における銀行の役割、そういったことを中心にし、健全な銀行とはどうあるべきなのか、そのような観点から、幾つか質問させていただきたいと思います。  まず最初に、外形標準課税、これはことしの初めから問題になっておりますけれども、先進七カ国と言われる中で銀行だけを対象にした外形標準課税を既に実行している国はどこですか。
  69. 小池光一

    小池参考人 申しわけございません。ただいま手元に資料がございませんが、多分、先進国ではないのではないかと思います。  後ほど確認の上、御報告いたします。
  70. 岩國哲人

    岩國委員 あれだけ銀行協会の方が大変問題にしていらっしゃることについて、なぜ日本銀行がそれに関しての正確な知識をお持ち合わせではないのですか。私は、この問題への意識の落差の大きさに愕然とする思いです。  検討中の国はありますか。
  71. 小池光一

    小池参考人 後ほど確認いたしまして、御報告いたします。
  72. 岩國哲人

    岩國委員 ないのではないかと思う、こうおっしゃいましたけれども、そうした、日本銀行の中で長年仕事をしておられて、銀行だけを対象にした外形標準課税なるものが、なぜ、これという世界のマネーセンターバンク、というよりもマネーセンターカントリーであるロンドンであるとかニューヨーク、つまり、イギリス、アメリカでは行われてこなかったのか、その理由は何だと思われますか。総裁の御意見をお伺いいたします。
  73. 速水優

    速水参考人 地方の財政というものが非常に貧しかったということは確かにあったと思いますし、金融機関が、それぞれの地方でかなりいい場所を占めて、いい行員を採用して、周辺から非常にうらやましがられていたことはこれは事実だと思います。そういうことが、何かにつけて、これだけ地方で稼いでいるんだから地方にもっと税金を納めていいじゃないかというような空気が出てきたことも、これは自然の流れかもしれません。  実を言いますと、私ども、東京都を通じて税金を払っていくということ、これは日本銀行の立場からいって、どっちみち税金を納めるか、あるいは剰余分を納付金として納めるかといったようなことで、特にどちらに納めてもどうということはないわけですけれども、地方の民間銀行にとってはこれはかなり大きな問題であっただろうというふうに思います。  ニューヨークやロンドンでは外形標準課税というのがとられていない理由として、金融市場の国際競争力を維持するためにそういうものはとらないということにしているのだというふうに聞いております。私どもも、その立場からいくと、やはりこれ以上金融機関に課税の負担がふえていくことは大変だなという感じがいたしております。そしてまた、銀行業だけから取っていくということはフェアではないという感じは私個人としてはいたしております。
  74. 岩國哲人

    岩國委員 銀行業の収益云々という次元の問題というよりも、私が総裁からはっきりとお伺いしたいと思いましたのは、日本はこれから世界のマネーセンターバンクとして東京を中心として育成していくのだ、今まで歴代の内閣もはっきりそういう方向を出してきておられるし、また諸制度、法律も整備してこられたはずであります。その延長線の上に、このようにロンドンあるいはニューヨークに対抗して十分世界の三大マネーセンターとしての責任を果たしていく上から、このような銀行だけを対象にする外形標準課税というものに対して、これはやってはならないことなのかやってもいいことなのか、端的にお答えいただきたいと思います。
  75. 速水優

    速水参考人 御指摘のように、私どもとしても、東京国際金融市場というものを、円の国際化の一つのあらわれでございますけれども、ぜひとも早急につくり上げていきたいというふうに考えております。そういう意味では、税制の面では確かにほかの国よりも負担が多過ぎるということはあります。それは国債の取引その他についてもあるわけでございますが、そういうものもやはりグローバルスタンダードにしていかないと東京にほかの国に負けない金融市場ができていくということにはなっていかないというふうに思っております。  そういう意味でも、確かに御指摘のように、銀行にだけ課税するということがこれから問題になってくる可能性は十分あると思いますが、私が記憶していることが間違いなければ、五年間の期限を限って東京の財政赤字を埋めていく一つの緊急手段としてとったというふうに理解しておりますけれども、御指摘のような東京の金融市場としての発展を阻害する可能性があることを十分私ども懸念いたしております。
  76. 岩國哲人

    岩國委員 そうした地方公共団体の収益の点からはある程度評価できるとしても、円の国際化ということが国益の大事な一翼を担うということであるならば、このような新税を設けることは国益の観点からはマイナスであるという考えを総裁としては持っていらっしゃるというふうに理解させていただいて、次の質問に移らせていただきます。  日本銀行業の収益性についてお伺いしたいと思います。  銀行を中心とした金融サービス業がそれぞれの国の中でどれだけの税金を負担しておるのか、表現をかえれば、それぞれの国の法人企業税収入の中でどれぐらいの比率を銀行業金融サービス業は持っておるのか、これについてお伺いしたいと思います。  金融サービス業、イギリス、アメリカ日本、それぞれの統計のとり方に若干誤差はありますけれどもアメリカでは三〇%の税収入が金融サービス業から支払われております。イギリスは二〇%。日本はわずか一〇%を金融サービス業が現状としては負担している。一〇%というのは十年前の水準であって、最近五年間だけをとればそれは五%にまで減ってきています。アメリカ、イギリスに比べて金融サービス業の国の税収入に対する貢献度が著しく低いというのが日本の特徴ではないかと私は思います。低いどころか今や限りなくゼロに向かって進んでいるわけです。こういう点について総裁としてどういうふうにお考えになりますか。  日本銀行として、自分が監督し指導しているその業界が、日本の税収の中におけるシェアがどんどん低下している。国際的な基準から見ても、よその金融サービス業は、アメリカではしっかりイギリスでもしっかり税収のそういった貢献をしているのに、日本においては一〇%を割り込んで今や五%、ある年においてはわずか二%という例さえあります。こういった点について、総裁としてどのようにお考えになっているのか。  このままでいいのだ、税は限りなく低く、それでも金融サービス業というのは展開できるし、国に対する貢献、あるいは国益という言葉もありますけれども、国益に貢献する、税収の面における金融サービス業の貢献度というのはアメリカ、イギリスに比べて極端に構造的に低いということは、これは何が原因だと思われますか。
  77. 速水優

    速水参考人 私も税制は余り詳しくないのであれでございますけれども金融サービス業は低いかもしれませんけれども、法人課税というのは高いわけでございますし、それを全部ひっくるめて見てみますと、日本は決して、銀行は税金の支払いが少ないというふうには言えないのじゃないかと思っております。この点は税制の問題でございますので、金融サービス業を上げろとか下げろとかいうようなことは、ちょっと私の立場で申し上げかねるというふうに申し上げないといけないと思うのです。  先ほどの外形課税にしても既に決まったことでございますので、これは五年なら五年で早く決まったところで通常化していくことを期待しております。今やめた方がいいとかどうすべきだということを言う立場にはございませんので、そこはお許し願いたいと思います。
  78. 岩國哲人

    岩國委員 先ほどの外形標準課税に対する質問と角度は違えて私は質問しておるわけですけれども、外形標準課税については私も反対です。そういった国籍のない業務、国籍のない商品、つまり通貨を扱う業種に対してローカルな、日本も地球の中では一つのローカルですから、ローカルな課税をしていくということはこういう国境のない金融取引において一番の阻害要因だという観点から私は総裁の御意見を伺いましたし、私も全く同感であります。  今私がお伺いしておりますのは、銀行にもっと税金をかけろという角度から申し上げているのではなくて、銀行にどんどん税金をかけるのじゃなくて、銀行がどんどん税金を払えるような体質に持っていくことが日本金融行政の上で大切じゃありませんか、そういう視点が欠落しているのじゃないかと思うのです。  諸外国との比較の上においてもどれほどの収益率を上げているのか。トータルとしての金融サービス業がアメリカと対抗しイギリスと対抗しとおっしゃっても、税収の上でもしっかりと対抗していただかなければ、日本の多くの納税者が依然として高い個人所得税、依然として高い法人企業税を払い続けなければならない一つの理由は、この金融サービス業がよその国においては大いに活躍し、納税者としてもしっかりとした貢献をしているときに、納税者として十分な貢献ができないような体質、それは我が国の金融行政のどこに欠陥があるかということを認識していらっしゃるかどうか、それをお伺いしたいわけです。
  79. 速水優

    速水参考人 日本金融行政というものは、御承知のように、戦後一貫して非常に金融が先行して日本経済はここまで大きくなってきたわけですけれども、その背景には、都銀も地銀も全部含めていわゆる護送船団方式といいますか、最も弱いところを目標にして担当の行政機関がそれをサポートして育てていく、手とり足とりやっていくということで、必ず利益が出るような、預金金利にしてもすべて委員会で話し合って、申し合わせて決めてきたというような状態でここまで来ているわけです。  それが、ここへ来て、自由化の波の中で、今までのような行政指導というのはやってはいけない、しかも、リスクを十分とって自分たちのやれるものを選んでやっていくということがようやく始まって、今ここで大きな金融再編動きが出てきていることは御承知のとおりでございますので、むしろ、御指摘のようなことはこれから起こってくることではないか。どの銀行がどの部門で強いか弱いかということがはっきりしてくる時代に入ったというふうに理解しております。その過程の中で、おっしゃるような問題も解決されていくのではないかというふうに思います。  金融がサービス部門でもっと稼いでもいいじゃないかとおっしゃる点は、私も全く同感でございます。
  80. 岩國哲人

    岩國委員 六月の総選挙、我々も街頭で有権者の皆さんに訴えてきましたけれども、今までの選挙にないぐらいに、一般有権者のこの税の問題、税の使われ方、そして税金の取られ方についての関心が非常に強くなってきている。特に東京では私はそのことを強く感じました。  そのときに、こういう経済の大事な一角を占める、大きなウエートを国際的に占めている日本金融サービス業が、どれだけの税金を国民の一人として負担しているか。それは、とりもなおさず、春秋の筆法をもってすれば、我が国の法人税率が高いのも、あるいは個人所得税率が高いのも、銀行が税金をしっかりと払っていればもっと下げることだってできるはずですから、そういう観点から日本銀行の銀行行政あるいは指導というものも、これからは納税者の視点を持って、しっかりと収益を上げ、たくさん税金を払えるような銀行を日本がどれだけ持っているかということが、これからの幸せ、国としての繁栄につながっていくのではないか、そのように思います。  そのことを要望し、次に、各銀行の資産の運用について、山口総裁にお伺いしたいと思います。  日本の銀行の国に対する貢献、経済に対する貢献度については、近年、芳しくない話題が非常に多いわけです、新聞を見る限り。一つは、監督官庁との癒着の問題。あるいは、収益が低いのに高い給料を払っている、こういう問題。あるいは顧客本位で業務を展開していないといったような点。例えば、本当にみんなが融資を受けたいとき出してくれない、貸し渋りという現象がこの近年非常に蔓延してしまったわけです。俗によく言われるのは、晴れた日には傘を一生懸命持たせて、雨が降ってきたらどんどん傘を取り上げる。このような顧客本位ではなくて自己本位の貸し付け姿勢というものが問題にされ、国会でもこの二年間議論されたことは御承知のとおりです。  そこでお伺いしますけれども、この貸し渋り現象の一つの大きな理由、景気のいいときにはどんどん貸し過ぎる、景気が悪くなると貸し渋るという一つの理由は、日本の銀行が株式を持ち過ぎているという体質にも一つの原因があるのではないかと思います。アメリカの銀行、ロンドンの銀行、日本の銀行と比べた場合に、それぞれの国の持ち株比率について今どのようになっておるのか、そして、日本の銀行に対してどういう指導をしようとしておられるのか、端的にお答えください。
  81. 山口泰

    山口参考人 諸外国を含めました主要国の銀行の資産に占める株式のポートフォリオの比率については、ただいま数字の持ち合わせがございませんので、後ほど御報告させていただきます。  大きな流れといたしましては、日本の銀行の持ち株比率が比較的高いということでございまして、これに対して、例えば米国のようなところでは、商業銀行の株式保有というのがつい最近までは原則として認められておりませんでしたので、その比率はほとんどネグリジブルであるというふうになっております。  ただ、米国などでも、直近に至りまして、非常に大きな金融制度の改革という事業が進行中でございまして、この中で、金融機関あるいは金融持ち株会社の株式保有についても新しい考え方が出てきており、今後は持ち株比率が幾分上昇する可能性を秘めている、そういう状態にあろうかと思っております。
  82. 岩國哲人

    岩國委員 日本の銀行、大手銀行と言われるところが、全部で四十兆円の株式を持っています。国債も、四十六兆円の国債を持っております。こういうものが値下がりした場合には、当然貸し出し姿勢に大きな影響を与えるわけです。  国債についても、仮にゼロ金利政策が変更されて一%上がった場合には、どれぐらいこの四十六兆円の国債が値下がりして、極端な例を申し上げると、一晩で一%金利水準が上がった場合に、この四十六兆円は幾ら値下がりするのですか。
  83. 山口泰

    山口参考人 金利が上昇するということは、逆に価格が下がるということと裏腹でございますから、当然値下がり損というのが発生してまいります。  ただ、その影響の大きさにつきましては、金融機関が実際にポートフォリオの中で持っております国債の種類でありますとか残存期間でありますとか、あるいはそのポートフォリオをどういうふうにヘッジしているかというようなことによって大きく結果が変わってまいりますので、一概に何兆円程度影響が出そうだということを申し上げるのは、大変難しゅうございます。  実際に、最近の金融機関の持っておりますそういう債券等のポートフォリオの中身を見てみますと、これは私どもの承知している限りでは、金融機関金利の変動リスクというものを当然意識しておりますものですから、例えば、大手銀行などでは、長期の国債保有のウエートを減らしまして、短期の国債の保有のウエートをふやすというような行動に出ておりまして、将来の金利変動リスクに対して防衛的なバランスシートをつくろうというような動きが見られるところでございます。
  84. 岩國哲人

    岩國委員 そういう防衛的とか、修飾的な文章ではなくて、あれだけゼロ金利政策の変更について議論を重ねてきておられるのであれば、金利政策を変更した場合に、日本の銀行の資産にどれだけ値下がりの影響が出てくるのか、そんなシミュレーションはやっておられないのですか、日本銀行として。
  85. 速水優

    速水参考人 金融機関の国債保有というのは、日本だけでなくて、ほかの先進諸国も皆、大量の国債を引き受けてもらっております。数字で申し上げますと、日本は、三百四十六兆円のうち民間の保有が三五%です。アメリカは、三百九十二兆円のうち、円換算ですが、民間が三六%。ドイツは、百九十兆円の国債発行のうち民間で持っているのは五二%。みんな民間金融機関が大量に引き受けているわけです。  日本の場合も、今までは長期の国債が多かったわけですけれども、昨年四月から短期国債がどんどん出るようになりまして、今はもう恐らく七十兆円ぐらいが一年以内の国債になっていると記憶しております。  そういうような短期のものを持ってヘッジしながら国債保有をしておりますから、今の日本金融機関、たとえゼロ金利の引き上げといったようなことが起こったとしても、おおむねヘッジ済みというふうに考えていただいて結構だと思います。
  86. 岩國哲人

    岩國委員 そうした国債価格の変動に対するリスクが、それぞれの銀行のヘッジ方針によってほとんど大きな混乱が起きないというふうに日本銀行は楽観していらっしゃるということは大変結構なことだと思います、それが事実であるならば。しかし、四十六兆、その中にはかなりの長期債、中期債もあり、ヘッジが一〇〇%できているのか、五〇%できているのか、三〇%まではできているのか、そういったことについてもう少し数字的に情報を公開すべきではありませんか。
  87. 速水優

    速水参考人 これは、始終残高が動いておりますし、国債の範囲も御承知のようにFB、TB初め、先ほど七十兆と申しましたが、現在八十兆ぐらい持っていますね、一年以内のものは。それから、二年物、四年物、五年物、六年物、十年物、十五年、二十年、三十年と、これだけ種類が多様化しておるわけでございまして、こういうものをうまく使いながら金利リスクをヘッジしている。  私も、三月末、非常に心配だったものですから、多少、銀行の幹部の人たちに会うたびに聞いておったわけですけれども、御心配は要りません、ほとんどヘッジができております、そういうふうに言っておりました。
  88. 岩國哲人

    岩國委員 日本の銀行の場合、海外の銀行について私はそんなに熟知しているわけではありませんけれども、そうした株式の株価のリスク、これを非常に大きく抱えていること。次に、国債の価格の変動リスクを抱えていること。三番目に、為替レートの変動ですね。外貨資産も日本の銀行の場合には外国の銀行に比べてかなり比率が高いと思います。この為替レートのリスク、国債価格のリスク、株価のリスク、他国の銀行に比べて日本の銀行はこの三つのリスクを抱えている。本当にこれから国際競争力をきっちりと養っていけるのかどうか、私は大きな不安を覚えておりますので、きょうはこういう質問をさせていただきました。また何か追加していただけるような資料、説明等が後日ありましたら、ぜひ私も勉強させていただきたいと思います。  次に、ゼロ金利政策について。私も、ゼロ金利政策を早急に転換すべきだということを何度も申し上げてまいりましたけれども一つ数字だけをきょうは御紹介いただきたいと思います。  この十年間にいわゆる低金利政策、超低金利政策、ゼロ金利政策と言い方が三回変わりましたけれども、この十年間に十年前の預金金利の水準というものが十年間続いたならば得られたであろう家計利子収入と、その間に累計で失われた——失われた十年ではありませんけれども、失われた利子は幾らだったのか、この二つの数字だけを端的にお答えください。
  89. 増渕稔

    増渕参考人 申し上げます。  九〇年度、十年前でございますが、その時点で家計の純利子所得は十二・六兆円でございます。九八年度は七・六兆円となっておりますので、この九年間で五兆円減少しているということになります。九年間の累計を計算するために預金あるいは借入金利が九〇年度以降横ばいと想定いたしますと、純利子所得の累計は百十三兆円でございます。しかし、実際の純利子所得の累計は八十六兆円でございますので、計算上は、金利低下によって純利子所得が累計で二十七兆円ほど減少したという計算になります。
  90. 岩國哲人

    岩國委員 ありがとうございました。  時間も迫ってまいりましたので、あと一つ。  昨日のこの大蔵委員会で、興銀の西村頭取がおいでになりました。私はそのときに、九六年以降最近の五年間で日本の銀行は政党への献金というものをしておったのかどうか、社会的にこれだけ問題になっている中で。同じ質問を私は橋本総理のときに予算委員会でもしました。自民党総裁として橋本総理は、献金は受けていないけれども、お金を借りておった、借り入れはしておったと。そして、近年は献金ではなくて借入金の棒引き、そういう棒引きという表現を使って、これは献金ではなく借金の棒引きであると。  昨日、そごう問題に関連して私は、そういう借金棒引きの実例は何もデパートだけではなくて、この永田町の中でも借金棒引きを受けた人がいるのかいないのか、それを質問したわけです。西村頭取は、今まで自民党に対してもそのような貸し出しをしたことはありませんということだった。明らかに橋本総理の答弁と興銀の頭取の答弁とは違っております。興銀は貸していない、自民党は借りた、こういう答弁なんです。  日銀考査の中で、興銀と特定していただかなくて結構ですけれども、こういう大手銀行がこの五年間、政党に対する貸し出しは一切やっていなかったのか。二番目に、今、債権放棄が問題になっておりますけれども日本の政党に対しての債権放棄は日本の銀行によって行われたのかどうか、それは日銀考査の中で確認しておられますか。
  91. 黒田巖

    黒田参考人 お答えいたします。  日本銀行では、先生指摘のとおり、考査を実施いたしております。しかし、個別銀行の貸出先の状況、自己査定における分類上の扱いなどに関します具体的な内容につきましては、日銀法第二十九条及び考査に関する契約におきまして秘密保持義務を負っておりますため、御質問ではございますが、お答えをすることは差し控えさせていただきたいと存じます。
  92. 岩國哲人

    岩國委員 そういった秘密保持義務があるとおっしゃいますけれども、政党というのは限りなく透明度を高くしなきゃならないのです。国会においても新聞においてもこれほど献金のあり方、政党のお金の使い方が問題になっているときに、日銀考査でそのようなことを考査されたのかどうかさえも返事ができないということですか。現に橋本総理は、借り手として借りたとおっしゃっているのです。借りた人が確認していることをなぜここは考査の方で確認できないのですか。(発言する者あり)
  93. 萩山教嚴

    萩山委員長 静かに。御静粛に。  黒田参考人
  94. 黒田巖

    黒田参考人 お答えいたします。  日本銀行の考査のやり方でございますが、一般論として申し上げますと、金融機関は自己査定基準にのっとりまして、債務者の経営状況、返済能力、債務の履行状況等に応じた自己査定を行っております。私ども、考査におきましては、こうした自己査定の適切性をチェックするということをやっているわけでございます。  ただ、繰り返しになって恐縮でございますが、考査で把握いたしました個別銀行の貸し出し内容については、お答えすることを差し控えさせていただきたいと存じます。
  95. 岩國哲人

    岩國委員 現に借り手の方でそういうことは透明にしたいというお話の中で借りたということをおっしゃっているわけです。金額もその場で表明がありました、銀行界からのトータルとして。そういった日銀考査の中でそういう自己査定というものを日銀の観点から適正かどうかを考査したとおっしゃいました。そうした銀行から政党への貸し出しというのは第何分類になっているのですか。
  96. 黒田巖

    黒田参考人 お答えいたします。  先ほど申し上げましたとおり、日本銀行の考査のやり方は、まず金融機関に自己査定基準にのっとっての自己査定を求めておりまして、これは債務者の経営状況、返済能力、債務の履行状況などに応じて自己査定を行う、すなわち分類を変えていくということでございます。
  97. 岩國哲人

    岩國委員 昨日の興銀の頭取の答弁は正しかったと理解してよろしいのですか。日銀考査の結果、痕跡は全くなかった、政党への貸し出しはなかったという昨日の西村頭取の答弁を、日銀としてそのとおりだということはおっしゃられますか。
  98. 黒田巖

    黒田参考人 お答えいたします。  繰り返しになりましてまことに恐縮でございますが、考査の個別的な事項につきましての内容についてはお答えを差し控えさせていただきたいと存じます。
  99. 岩國哲人

    岩國委員 それでは、重ねてお伺いします。  長銀の場合についてはどうだったのですか。長銀も個別行だ、これもその秘密は守らなければならないとまだおっしゃいますか。四兆円の日本の納税者のお金が使われた銀行のそういう経理内容さえも、事後的にも公開ができないのですか。重ねてお伺いします。
  100. 萩山教嚴

    萩山委員長 時間がありませんので、簡潔に、明瞭にお答え願えませんか。  黒田参考人
  101. 黒田巖

    黒田参考人 繰り返しましてまことに恐縮でございますけれども、考査における個別の内容につきましてはお答えを差し控えさせていただきたいと存じます。
  102. 岩國哲人

    岩國委員 そうした国民的な関心が非常に強い、しかも一私企業ではもはやない長銀について、事後的にさえも一切日銀考査の内容を明らかにできないというのでは、日銀考査はだれのための考査をやってくれているのですか。我々日本人のための、国民のための、納税者のための考査というのをやっていただいているんじゃないのですか。  私はそういう点については非常に不満があるということを申し上げて、そのことを資料要求あるいは追加説明を要求させていただいて、私の質問を終わらせていただきたいと思います。  委員長の方でお取り計らいいただきたいと思います。
  103. 萩山教嚴

    萩山委員長 理事会において善処いたします。
  104. 岩國哲人

    岩國委員 ありがとうございました。
  105. 萩山教嚴

    萩山委員長 次に、上田清司君。
  106. 上田清司

    ○上田(清)委員 民主党の上田清司でございます。  総裁初め副総裁理事の方々、御苦労さまです。私も渡辺議員と同じように、株主総会の株主の一人のつもりでお伺いしたいと思います。  まず、これまで最近の総裁の言動とか見ますと、ゼロ金利解除必至である、そういうニュアンスで私は受けとめておりまして、ぜひそうしてほしいなという気持ちを私自身は持っておりました。  そこで、わざわざそごうの名前が出てきておりますが、今回ゼロ金利政策を継続された原因の大きな要因にそごう問題はあったのでしょうか。
  107. 速水優

    速水参考人 先ほど来お答えしておりますように、そごうの問題が水曜日の日に出て、株価が下がり、為替も弱くなり、これから先どうなるのかなという懸念を持ったことは確かでございます。  それから週末を明けて月曜日の決定会合でございましたから、この問題についての今後の成り行き、ああいうやり方で競争力をなくした企業がつぶれていくのは、これは仕方のないことでございますし、いつまでも長々と先延ばししていくよりは、ああやって整理を早くしていった方がいいという、やり方は全く賛成なんですが、何分あの大きな企業が、一兆八千億、しかも一万の取引先というのが破綻をしてどういうことが起こってくるのか、ちょっとその辺のところは二日ぐらいでは読み切れませんし、あの法律自体が御承知のように四月に出て、これまで中小企業については三、四十社はやったのでしょうけれども、あんな大きな企業にまであのやり方でやっていけるということは実は私どももちょっと想像していなかったところでございまして、従来のやり方よりはあの方が早く決着がついていいのだろうと思いますけれども、それだけに、市場に対する影響、波乱、波を立てる可能性というのは十分心配されました。このことがかなり大きなファクターであったことは間違いございません。  それから、先ほど来申しておりますように、消費あるいは所得、雇用、この辺のところの数字について、どれぐらい流れていって、どれぐらいの消費のふえ方が起こっていくのか。部分的には、例えば乗用車が六月に前年比六・一%もふえたといったような数字も出ているのです。しかし、それがすべてではないわけで、全体としていま一つ消費が伸びてきたという感じが持てない委員方も多いというようなことで、今回はとにかく見合わそうということで、現状維持というのが多数決になった次第でございます。     〔委員長退席、桜田委員長代理着席〕
  108. 上田清司

    ○上田(清)委員 多数決になったということで受けとめたのですが、七月十日に総裁は、スイスのバーゼルで開かれた国際決済銀行の月例総裁会議で記者団に対して、日本経済はもう少し高い金利でも十分吸収できる、このようにゼロ金利解除のニュアンスを伝えておられて、大体市場もそういうことを織り込みながら準備をしていたように私は考えておりますが、とすれば、そごうだけだったらまだわかるのですが、その他の経済要因というのは、七月十日前後から十七日までの一週間、特に変更はなかったというふうに思いますが、この一週間で、そごう以外の問題で経済的な何か数値で特別な変更というのはあったのでしょうか。
  109. 速水優

    速水参考人 七月、バーゼルで確かに、日本人の記者が寄ってこられてそういう質問をされたので、私は、今の日本経済であればそれぐらいのことは吸収できるということは申したように記憶しております。  それはやはり、私はあの日バーゼルで十カ国の総裁方といろいろな話をして、日本かなり立ち上がってきたなとみんな感じてくだすったわけです。それだけでなくて、アメリカの方もソフトランディングができそうだという感じを私は受け取りましたし、ユーロはユーロで一時非常に悪くなっておりましたのが盛り返してきて、ドル、ユーロ、円、いずれも上がり始めたというような感じをみんなが持ったわけでございます。  そういう中で、ゼロ金利をいつまでも続けていくのはそろそろ考えなきゃいけないということを私もかねてから感じておったわけですけれども、そういう気持ちがしてああいう発言になったのだと思っております。それは、すぐやるとかやらぬとか言ったわけじゃございません。しかし、今でも私はあれぐらいのものなら十分吸収できると思っております。  四月の十二日ですか、市場にも話し込まなければいけないという気持ちがありまして、政策委員会のアプルーバルを得て、四月十日の決定事項の後、十二日の日に、ゼロ金利というのは不自然なものなんだからいずれ解除しなければならないのだということを市場に申し始めました。  それを言い始めてから既に四カ月近くなっておりますけれども金利を上げるというのはなかなか難しいことなんです、御承知のとおり。特に債務者、この場合は国と企業ですけれども、債務者から反対が出るのは、いい顔をされないのは、いつの場合でもそうです。中央銀行というのはそういうものなんです。そういうこともございますし、少し早い時期から言っていく。  アメリカの場合も、グリーンスパンが九三年の七月だったと思いますけれども金利を上げなければいけないということを言い出して、それで彼が実行したのは七カ月後ですね。こういうものなんです、中央銀行は。グリーンスパンの力をもってしても、言ってすぐやるわけにはいかないものだということ。九三年七月に言い始めて、公的な場で言ったのです、それで九四年の二月に実行しております。  これはやはり、上げていくということはそういうものだというふうに御理解いただきたいと思います。
  110. 上田清司

    ○上田(清)委員 大変楽しい御回答をいただきました。  たまたまそごう問題が出てきましたけれども、逆にこんなことも示唆を受けたりいたしました。サミットで森総理が政策変更の説明をするのが極めて下手ではなかろうか、したがって、政策変更をしてサミット首脳会議で森総理に御迷惑をかけるのは申しわけない、こういう海外からの圧力に対して、これはサミットに対する御迷惑というよりは、むしろ海外からのプレッシャーを政府にできるだけ与えないようにという、政府に対する貸しを日銀はされたのではなかろうかというふうに私はちょっと解釈をしているのですけれども総裁、そういうことはないのでしょうか、あるのでしょうか。
  111. 速水優

    速水参考人 そういうことはございません。  ただ、サミットとかあるいはG7とかいうのが日本のマスコミは非常に関心があって、金利の問題まで議論するんだろう、あるいは注文をつけるんだろうとおっしゃいますけれども、実際問題として、私はサミットに出たことはありませんけれども、G7の席でそんな議論が出ることはないのですね。これは日本の新聞ももう少しその辺のところは十分あれして書いていただきたいと思うのですけれどもアメリカが何か日本に向かって金利を上げたらいかぬぞなどということを言うようなものではございません。
  112. 上田清司

    ○上田(清)委員 もう一つ伺いますが、基本的にはやはり市場というのは、ゼロ金利解除があり得るものだということを織り込み済みで準備をしていたというふうに私は実は思っております。にもかかわらず、そうでなくても、反面、余裕を持って今回の継続を受けとめることができたので、比較的、市場はそんなに混乱していない、こんなふうに私は思いますが、一方では、今後ゼロ金利解除されることによっていろいろな意味でのマイナスも出てくるのではないかというような、そういう懸念を持っておられる立場の方々も多いのですね。今回の判断はよかったという、さまざまなエコノミストたちの判断もあります。  私も実は気にしておりまして、日銀のスタッフの方々に、ゼロ金利解除によってどのようなマイナスが起こり得るのかというシミュレーションは現実に行っていらっしゃるんでしょうというようなことで、ぜひそういう資料をいただけませんかと言ったら、シミュレーションをやっておられるというようなことを聞いた記憶がありますが、資料は出せないようなニュアンスのことを言っておられました。  富士総合研究所が、ゼロ金利解除された後に長期金利が一%上昇した場合、さまざまな債務を持っている機関あるいは企業体がどのような状態になるかということを分析したシミュレーションが実は私の手元にあるのですけれども、日銀では、ゼロ金利解除された場合、例えばプラスの面では家計の利子所得がふえていく部分、あるいは今度は逆に長期金利が上昇して企業の債務がふえていく、そういうシミュレーションのプラスマイナスについてどのように分析されたのかをぜひ教えていただきたいと思います。
  113. 増渕稔

    増渕参考人 日本銀行の内部でも、経済情勢を分析する際にシミュレーションを行うことはございます。政策変更といいますか、金利の変動があったような場合に、それが経済全体にどのような影響を与えるのかというようなシミュレーションを参考資料として使うことはございます。  ただ、これは計量モデルを使ってシミュレーションをするということになるわけでございますが、モデルを使う場合は、為替相場とか原油価格とか、そういった外部的な条件について一定の前提を置いて行わなければならないということがございますし、それから、得られる結果は、あくまでも過去の何年間か、相当な期間にわたっての平均的な姿から導かれるということになりますので、その時々の、いわば現在の経済情勢にぴったり当てはまるというものでもございません。  したがいまして、そういうシミュレーションにつきましては、分析作業、経済情勢判断等を行う上でのあくまでも参考資料という位置づけでございまして、今のところ、私どもでこれを公表するという考え方は持ってございません。
  114. 上田清司

    ○上田(清)委員 この富士総研の試算は、こういう話になっております。  試算は、ゼロ金利解除で、無担保コール翌日物金利が〇・五%上昇、これに伴って長期金利も一%上昇した場合を想定した。これは主に債務残高の多い建設、不動産、小売業の三業種を中心にやったわけですが、経常利益は全業種でゼロ金利解除前より六・七%減少、なかんずく建設など三業種の経常利益は三二・六%減と大きく落ち込む、こういうことでございますし、例えば現在三十九兆円ある金融機関の不良債権、リスク管理債権が三兆円拡大する、こういうマイナスの話もしております。  それで、私は何を申し上げたいかというと、実はそれでもゼロ金利解除すべきだというふうに思っております。  それはなぜなのかといいますと、今回の総選挙の結果、やはりこれは極めて一番身近な民意だというふうに私は受けとめておりますが、これまでの日本経済政策は、従来、構造改革よりは御身大事、問題先送りの中でずっと政策を続けたことによって、むしろ日本経済は飛躍するチャンスを失い、ずっと停滞することになった。今後も、ゼロを境にしてプラスマイナスかという話でしかこのままだと私はいかないというふうに思っておりまして、むしろ民意は経済政策の変更を求めている、こんなふうに私は思っております。  そういう意味で、もしこのゼロ金利政策解除するとすれば、次の政策委員会にでも決定すべきだというふうに思っております。また、そうしなければ、この後もし、そごうに続いてというふうに言うと余りよくない話でありますが、何か一つ企業が倒産したり、あるいは何らかの形で民事再生法なり会社更生法なりを申請したりすると、その都度日銀の政策決定がそれに左右されるということになれば、半永久的に金利政策について日銀はその判断をする権限を奪われることになるというふうに私は思わざるを得ないのですね。  そういう意味で、次の政策委員会においてはもう明確に日銀のメッセージを発する必要がある、こんなふうに思っております。  総裁に改めてお伺いしますが、今回はたまたまこういう事情があったのですが、わざわざ日銀の声明文の中にも「みきわめる」あるいは「最終的なつめに誤りなきを期したい」という意見があり、「また、最近のいわゆる「そごう問題」については、市場心理などに与える影響をもう少しみきわめ」たいという、この「みきわめる」という言葉を使っておられますので、そういう意味で、もう本当に間近かな、こんなふうに思っておりますが、この点についてどのような御所見かを承りたいと思います。
  115. 速水優

    速水参考人 今回のケースは、そごうの処理の枠組みというのが突然変更されたということでございまして、それがきっかけになって市場心理などがかなり振れたわけでございますね。そういう影響がまだ続きかねないときにこの場で決めるわけにはいかなかったということは先ほども申したとおりでございます。  したがいまして、大型倒産のおそれがある限りゼロ金利政策解除しないというようなことを言っているわけではありません。まだまだ出てくるかもしれませんし、どういう解決の仕方をしていくのかよくわかりませんが、私どもが今まで知っていたのは、会社更生法といったような格好で整理していく限り非常に時間がかかるわけですが、今度の場合はそうでないようでございますので、そういうことを非常に心配したわけですね。こういう状況の中で、これからまた一月先までにどれぐらい何が起こるかわかりませんし、ここでこの次にまで延ばしますといったようなコミットは一切できませんので、その辺は御理解いただきたいと思っております。  ただ、私も、経済がこれだけ上向いてきている、これが確かなものである限り、早くもとの姿に戻していくのが筋だというふうに考えております。
  116. 上田清司

    ○上田(清)委員 総裁デフレ懸念払拭するまでいわば金融緩和政策、ゼロ金利政策を継続するというのがこれまでの政策だというふうに思いますが、一つだけきちっとお尋ねしたいと思います。いわゆる超低金利政策そのもので過剰債務というものを解消できるのか。つまり、金融機関中心とする企業過剰債務というのを解消することができるのか。  過剰債務を解消することも、これは目的の一つになっているのでしょう。私はそう思っているのですが、まずその点がそうであるとすれば、私は、そうはなっていない、この五、六年、物価下落する中で、幾ら超低金利政策をとっても債務の過剰を減らすことになっていない、むしろ問題を先送りするだけでどんどんそのことをふやしているような、そういう感じを持っておりますので、この点だけちょっと明確な御回答をいただきたいのです。
  117. 速水優

    速水参考人 企業の債務が減っていないじゃないかという御質問かと思いますけれども、私は、これだけ前向きの設備投資動きが出てきておりますからには、企業はやはり資金は要ると思います。そういうこともありますから、できるだけ潤沢な資金をこの際出していくことが企業にとってもプラスであり、生き延びるといいますか、新しい需要を見出してどんどんつくり、売っていく、合理的に売っていくということが今まさに行われつつある。これが構造改革という名前で言われているわけでございまして、私どもの方で今までゼロ金利というようなことでこれでもかこれでもかというぐらい潤沢な資金を流してきたことが、金融機関等を通じて、あるいは市場を通じて企業に大きなプラスに、資金の潤沢さといいますか流動性に対する懸念を全くなくしているということは申し上げてもいいと思っております。  バランスシートもだんだんよくなっていくだろうと思いますが、日本企業ではなかなか創造的破壊といいますかクリエーティブディストラクション、特に古くて大きい伝統のある企業ほどそこのところは難しいように見受けますけれども、これからの新しい設備をどんどん入れて、競争力をつけて、いいものを安くつくっていくという、この日本企業家のバイタリティーというものはやはり生き返ってきているというふうに私は思っております。  そのことが最も大切なところでございまして、イノベーション、こういう革新こそ景気をよくするものだとシュンペーターが言っておりますけれども、全くそのとおりでございまして、ここへ来てようやく先が少し見え始めたかなという感じがいたしております。
  118. 上田清司

    ○上田(清)委員 いわゆるIT分野などはそういう部分があるかもしれませんが、私が申し上げたのは、日本経済のいわば心臓ともいうべき金融機関中心とする、そういう過剰債務をたくさん抱えたところが一切浮上しないという状況にあるということを指摘したわけであります。むしろ超低金利政策によって金融機関が再生したとか、そういうことはとても考えられないという状況であります。  それで、先ほど七カ月後に金利引き上げをしたというようなことですから、では日銀のゼロ金利解除は七カ月後かなというようなことも思ったりするのですが、とにかくアメリカのFRBが二月に公定歩合を五・二五に引き上げ、そしてまたヨーロッパの中銀もユーロ防衛のためにやはり三・五%に引き上げた。大変日本金利と乖離が出てきているので、結果的にはこの動きというのはずっと、世界日本というレベルで見ていきますと、結局日本国内においては家計所得を企業所得に移転させて、結果として消費が伸びずに内需の拡大につながらない、そういう一つ流れがある。もう一つは、そのことが自律回復を妨げる。  そして、先ほど申し上げた部分に関して言えば、やはり日本の低金利で吸収できる資金を海外に回す、とりわけアメリカに回す。アメリカのいわば対外赤字を穴埋めする形で日本のマネーを吸収し、そして、そのマネーは特にアメリカ株高維持するために使われていくという、もう何のための超低金利政策かというふうに私は思わざるを得ません。正直言って、日本経済というのはどの国のためにあるのか、日本人のために、日本の国のためにあるのかというようなことを考えざるを得ないような状況がずっと続いている。こんな異常な状態を本当にしていいのかどうか、このことをやはり考えなくてはいけない。  何よりも、今いろいろな金融商品が出てきておりますが、そういう金融商品にはしっかりリスクを考えながら投資をしなさいよということを、高齢者の方やあるいはまだそうした金融知識なんかがない人たちに求めるのは大変酷な話でありまして、リスクをかけないで資産の運用をするような人たち、そういう分野の人たちを今すべて除外してしまっている。金利が百万円預けていても二千円ぐらいにしかならない、定期預金で。いわば最小限度、庶民がリスクなしで資産を運用することが全く不可能な時代になっている。この原因をつくっているのは、やはり中央銀行たる日銀の問題の大変大きな一つだと私は思っておりますから、ぜひ、すべての国民が金融リスクを考えないで最小限度の資産運用ができるような社会をつくっていくべきだ、これが政治の使命だというふうに私は思いますし、また中央銀行の使命だと思います。  もう時間もなくなりまして恐縮ですが、今申し上げました、日本の超低金利政策がもたらす一つ循環的なシステム、そしてそれが海外にはね返る部分、そしてそれが日本のために余りなっていないという問題意識に対して、総裁の御所見を承って終わりにしたいと思います。
  119. 速水優

    速水参考人 ちょっと一言だけ、誤解をお持ちのようなので繰り返させていただきますが、先ほどアメリカの話をしましたのは、グリーンスパンが九三年の七月に国会で言って、それで九四年の二月にやったというので七カ月なんです。私は四月に記者会見で言っておるわけです。ですから、今から七カ月なんて、そういうことを言っているわけではございませんから、そこのところは誤解のないようにお願いしたいと思いますし、グリーンスパンがこれを言う前に、既に三、四年金利を据え置いているのです。そういう状態日本と似たような状態があったということを言いたかったので申し上げた次第です。(上田(清)委員「いやいや、肝心なところを」と呼ぶ)
  120. 桜田義孝

    ○桜田委員長代理 上田議員の質問に対する答弁を。
  121. 上田清司

    ○上田(清)委員 マクロの話の一番大事なことを聞いたのですけれども
  122. 桜田義孝

    ○桜田委員長代理 では、山口総裁
  123. 山口泰

    山口参考人 日本銀行金融政策は、あくまで日本経済の健全な発展のために運用してまいります。申すまでもございません。  それから、御指摘の中で一番胸に響きますのは、国民に対して、余りリスクをとることなく普通の運用利回りを提供できるように早く持っていくべきではないかという御指摘であったと存じます。気持ちは同じように持っているつもりでございますけれども、そのためには、やはり国民経済の中に金利の支払い能力というのがよみがえってこないとなかなか難しいと思います。そのために、デフレ懸念払拭を展望できる暁になれば、少なくともゼロからは早く動きたいということを考えてきたわけでございまして、こういう政策の果てに、成長率が高まっていく展望が得られれば幸いだと思っております。
  124. 上田清司

    ○上田(清)委員 それでも、いわば世界経済という一つの仕組みは物価下落を招き、常にデフレ状況にあり得るのではなかろうか、その中で対策をとる以外方法がないという、そういう仕組みをやはり考えるべきではないかというふうに思っております。  ありがとうございました。
  125. 桜田義孝

    ○桜田委員長代理 次に、鈴木淑夫君。
  126. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 自由党の鈴木淑夫でございます。  既に三時間を経過いたしましたが、私を含めて三人、あと二時間十五分残っております。お疲れかもしれませんが、この半期報告国会へ提出して、このような形で国民の代表である国会議員を相手に質疑をするということが、新日銀法のもとで、日本銀行の、そして金融政策の独立性の非常に大きな担保となっているわけでございます。その意味で、日本銀行の、そして金融政策の独立性を守るための大事な機会でございますので、申すまでもないことでありますが、あと二時間十五分頑張っていただきたいと思います。  一年前のこの会合で、ですから平成年度下期の半期報告を議論するこの会合速水総裁は覚えていらっしゃるかと思いますが、ちょうどその審議期間の二月からゼロ金利政策がスタートしました。私は速水総裁に対して、ゼロ金利政策をとったこと自体は私も賛成ですけれども金利をゼロにするということは大変異常なことであって、金利というのは流動性を放棄することに対する報酬と言ったのはケインズでしたか、そういう貨幣経済における基本的なメカニズムでありますので、これをゼロにしちゃう、流動性を放棄してもただだよという、これは非常に異常な話なので、余り長くやってはまずいだろう。どこかにひずみが出てくるおそれがある。しかし、もちろん景気がまだ悪いうちに金利を上げたりしたらこれまた大変なので、非常にこれは変更する時期をつかむのが難しい。こういうことを私が申し上げましたところ、速水総裁も、全くそのとおりだ、これは非常に異常なことだから、長くやることがない方がいいのだけれども、しかし変更の時期をつかむのもまた非常に難しいんだ、こういうことをおっしゃった。次の日の新聞に、総裁がゼロ金利政策を異常だとみずからおっしゃったというふうに報道されましたが、しかしそれは非常に総裁の正しい御認識であったと思います。  今日まで変更の時期をつかまないでこられたわけですが、これで一年半近くなっております。やはりその結果、もちろん景気を支え、そして今のように設備投資主導型の回復の端緒をつかんだという点で大きな効果を上げたことは言うまでもないのですが、しかし、総裁も先ほどちょっとおっしゃいましたけれどもマイナスもないことはないんだろうと思うのですね。ちょっとおっしゃったのは、たしか、モラルハザードが発生する、それから、構造改革を阻止するような効果がありはしないかと二つおっしゃいました。  私の質問は、この二つの点、あるいはほかにもあるなら、もう少し具体的に、日本銀行としてはゼロ金利政策の副作用としてこういうことがあるというのは十分承知しておるという御指摘をいただきたいと思います。
  127. 速水優

    速水参考人 鈴木委員の今おっしゃったこと、私も思い出しました。  それで、私自身も、ゼロ金利というのは資本主義経済を踏みつけるものだと。大きな金をコールであるとはいえ翌日物でも無担保で、ただで金を貸すなんということが資本主義経済にあり得るはずがないので、それはよほど特別の事態の中でああいうことを私どもも決断してやったわけでございまして、景気さえ上向いて、デフレ懸念払拭が展望できるところまでいけばゼロ金利はやめるということを何回も申しておるわけで、今のところ、まだそこまで確信が持てなかった。  今回の場合は、そごう事件も加わって、引き続き現状維持ということになったわけでございますが、私ども、副作用として心配しておりますのは、やはり一つは、家計なんかの利子の収入が減ってしまっている。日本は非常に、アメリカなんかと違って貯蓄超過の国でありますし、特に千三百六十兆円という家計の金融資産というのは非常に大きな資産であります。これは相当部分を年金生活者が持っている。恐らく六、七割以上だと思います。  英米などでは、個人の借り入れというのはかなり多いですから、金利が上がれば運用の方もふえるけれども、住宅その他の借入金利はふえるということで、余り個人は問題にしないのだと思いますけれども日本の場合は、千三百六十兆のうち約九百何十兆で、個人が借りているのは四百兆ぐらいしかないのですね。それが、いつまでも今のような薄い運用益でじっと我慢してくれているというのは、大変私どもはありがたいことだと思うし、そういう庶民の方々、消費者の方々に早く明るさをもたらしたいという気持ちは非常に強いのです。利子収入が減ってきているということは、やはり経済のすべてを暗くしていくことになると思うのですね。財団なんかもそうです。日本には特に財団が多うございますけれども、運用益で動いている財団などがみんな困っているわけですね。そういうことが一つ。  物価が上がっていないので元本価値は維持されていますから、その辺は皆さんが黙ってくれている一つのあれだと思いますけれども、特に、私どもの仲間なんかと会いますと、いつまでもこんなことをするなよというようなことを言っているのは、自分たちの苦しみを言っているのだというふうに思います。  第二には、先ほどちょっと申しましたが、市場におけるモラルハザードが発生しやすい。どんどん潤沢に金が出るというのは、景気を支えていく背景にはなりますけれども、それだけ困っても金がついてくるんだということは、やはり資本主義経済の原理とは反したものだというふうに思います。  それから第三は、やはり構造調整が今一番大事だと言っているときに、いいものも悪いものも、将来競争力がありそうなものも、とてもこのままではだめだというものも、全部それをそのままにしてやっていくように支えてきた。これも緊急対策としてはやむを得なかったと思うのですけれども、この辺のところがゼロ金利の副作用というふうに言ってよいかと思うのです。  ゼロ金利政策を評価する際には、プラス効果や副作用などをあわせて、経済情勢全体との関係で考えることが大切だと私は思っておりました。その意味では、いわゆる副作用と言われる現象だけを取り出してゼロ金利政策の弊害を論ずるということは、必ずしも適当なことではないというふうに思います。むしろ、経済回復傾向が明確化している中で極端な金融緩和策を続けていると、いずれ経済物価情勢の大きな変動をもたらしたり、あるいは急激な金利調整が必要となるリスクが増大するというようなことがより大きな問題であると考えるべきだというふうに思っております。  したがいまして、将来の不確実性を踏まえますと、経済改善に応じて金融緩和程度を微調整することが、長い目で見て健全な経済発展に資するものだというふうに考えております。潤沢な供給は引き続き続けるということで、引き締めるのではないのだということをよく皆さんにわかっていただいた上でやめないと、誤解される可能性があるということを心配してきたわけでございます。
  128. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 総裁、ありがとうございました。  ゼロ金利政策効果と同時に、その効果よりは小さいわけですが副作用がある。それの中には、庶民、なかんずく金利生活者あるいはさまざまの社会貢献をしている基金などが困っているということもある。そういうことを含めた総裁の真情の吐露と申しますか、そういう本当につらいことに耐えながら、やはり大きな目的のためにやっているというお気持ちが今あらわれておりました。大変私も感動した次第でございます。  さあ、それで、ゼロ金利政策、さはさりながらようやく効果の方が出てきた。特に設備投資が出てきたというわけでありますが、これについての質問に移ります。これは割と技術的な情勢判断になりますので、副総裁あるいは調査担当理事のお答えで結構でございます。  まず第一、この前の六月調査の日銀短観の設備判断DIを見ると、まだ大企業製造業でも過剰超幅が二〇%ポイントあるのですね。かなり過剰だと見ているのですが、そういう中で設備投資が出てきていることについて、日銀はどう判断しているのですか。どういう理由で、平均的に見ると過剰超幅が二〇%ポイントもある中で設備投資が出てきているというふうに見ていますか。設備投資回復の理由について、副総裁でも調査担当理事でも結構ですから、お答えください。     〔桜田委員長代理退席、委員長着席〕
  129. 増渕稔

    増渕参考人 私から申し上げます。  現在、設備投資先生指摘のとおり明確に増加してきたと思っておりますが、その背景として四つばかりの点が考えられるのじゃないかと思います。  まず第一点は、企業の収益が着実に改善してきたということでございます。企業の収益、九九年度は、主としてリストラ効果というようなことで減収の中での増益ということでございましたけれども、二〇〇〇年度見通しは、売り上げがふえる中でさらに利益がふえる、増収増益が見込まれるということになってきております。これが第一点でございます。  それから第二点といたしまして、これまで設備投資の水準が長らく低く抑えられてきましたために、資本ストックの伸び率も、ひところに比べかなり低下してきておる。確かに、設備の判断について過剰感はなお高いわけでございますけれども、資本ストックの伸び率が下がってきたということも半面の事実だと思います。  それから三点目といたしまして、そういう中で我が国経済成長見通しにつきましても、企業の見方が上向いてきているということでございます。中期的な見通しも、経済企画庁の調査によりますれば若干でございますけれども上向いておりますし、そうした中で、今年度経済見通しにつきましては、民間調査機関の見通しでございますが、半年前と比べますと軒並み上方修正して、本年度は平均しますと二%弱という成長見通しとなっていると思います。私どもの短観調査によりましても、企業業況感改善してきております。  四番目に、これが今回の非常にユニークな点であると思いますが、世界的にインフォメーションテクノロジーの革命、いわゆるIT革命が強まります中で、情報関連などの成長分野について積極的な投資を行っていかなければ二十一世紀に生き残れない、そういう気持ちも強まっているということがあろうと思います。  そういう四つばかりのことを背景といたしまして設備投資増加してきている、そのように考えております。
  130. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 四つとも、程度の差はあれそういうことが設備投資回復に寄与していると思うのです。  しかし、増収増益だと言っていますが、私は、この前の六月の短観を見てつくづく思ったのですけれども、収入の方、売上高、このレベルは過去に比べると、二年連続のプラス成長をした九五、九六年ごろよりも、鉱工業生産で見ても、実質GDPで見ても、それから短観で見ても低いのですよ。それなのに売上高収益率はもうあそこを突破してくるのですね。それはリストラ効果といえば効果なんでしょうが。  だから、雇用を抑えながら、リストラを続けながら、収益だけ上がっている。分配率でいえば、資本収益率はぐんぐん上がりながら、しかし労働分配率は下がっているような形で動き出しているのですね。こういう形の設備投資回復に持続性があるのかなというのが一つです。  それからもう一つは、成長見通しは好転した、それはそのとおりですよ、今まではゼロ成長かと思っていたのだから。しかし、二%弱なんというのはまことに低い成長率ですね。これもまた私はちょっと、持続性があるのかしらと心配なんですよ。特に来年の成長率についてはもう霧の中で、確信を持っているような企業経営者は本当にいるのかな。この秋に補正予算がどうなるのかわからないけれども、本当に設備投資だけが引っ張って、公共投資は、御存じだと思いますが、二年連続マイナス成長したころの水準までもう既に下がっちゃっていますよ、この前発表になった一—三の公共投資のレベルで。この先もそんなに期待できない。本当に設備投資だけで来年度まで成長が続いていくのかしら。  その辺について企業家が確信を持っていないと設備投資は持続的には伸びていかない。今はもう公共投資がだめになってしまっているから、設備投資が持続的に伸びなければ成長も持続的に伸びないのですね。そういうことをあわせて考えると、今出てきている設備投資の持続性について、日本銀行はどう考えているかということをもう一度お伺いしたいと思います。
  131. 増渕稔

    増渕参考人 まさにその点が非常に関心の強いところでございますが、先生指摘のとおり、非常に高くなりました労働分配率について、これが下がるということが、国際的なコスト競争力を回復するために、企業の目から見るとやはり必要なことなのだろう。その一方で、やはり企業部門の強さが家計の方に回っていきませんと、経済全体として力強いといいますか、民間需要主導の自律的回復にならないというのも、それはそのとおりでございます。  したがいまして、いわば狭い道を行くということになるのだと思いますが、今現在、総裁がここでお話しされましたように、家計の方につきましても、企業部門の強さがある程度にじみ出していく、そういう形にだんだんなりつつあるのではないかな。したがいまして、労働分配率が下がる中で、しかし家計部門にも循環的には企業部門の力強さが伝わっていく、そういうことの中で設備投資も持続していくということが考えられるというのが一つでございます。  もう一つは、IT革命というのは、やはり世界的に大きなうねりを持って力強く起こっておりますので、これが簡単に終わってしまうということも考えにくいと思います。そういう大きなうねりの中で、我が国企業IT関連設備投資というのも強まっているということがございますので、その面からも、持続性について期待が持てるのではないかというふうに考えられると思います。
  132. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 IT革命についてはおっしゃるとおりだと思うのですね。非常にいい条件、フォローの風が吹いていると思います。ただ、ストック調整が終わったからとか、成長見通し回復してきたとか、あるいは収益が回復してきたからという循環的な設備投資回復要因については、その強さについて十分これからも注意して見ていっていただきたい。特に、普通なら設備投資リード型で回復が始まれば、雇用がふえて、賃金が上がって、消費が出てきて、その消費でまた設備投資が出てという好循環がすぐ出てくるのですが、その兆しはあるものの極めて緩やかですよね。  また、短観の話をしますが、御存じだと思うけれども雇用判断DIを見ると、まだ過剰超幅が三〇%ポイント、大企業製造業という一番いいところを見て三〇%ポイントもあるわけですから、ひとつこれからもその点は十分注意を払って見ていっていただきたい。うっかり楽観的な方に傾かないよう、さりとて、別に極端に慎重である必要はないのですよ。間違いなく設備投資リード型の回復は始まっているわけですから、どうぞその持続性について十分な注意を払ってもらいたいというふうに思います。  次に、物価の問題に転じたいのですが、きのうの金融政策決定についてのステートメントの中で、これまでも他の質問者が引用していましたが、二つのことがはっきり書かれているのですね。一つは、「需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は大きく後退している」という判断が出ている。それからもう一つは、「「デフレ懸念払拭が展望できるような情勢」に至りつつある」。これは、現状がそうだというよりも、「至りつつある」、こう言っているわけですね。前者の潜在的な物価低下圧力が大きく減退している、これは何を根拠に判断していますか。  普通なら、すぐデフレギャップかね、デフレギャップが縮んでいる証拠はあるか、こんな低い成長率でデフレギャップは縮んでいるのかとか、稼働率を見てみろ、まだ随分低いぞ。さっきも言ったように、とにかく売り上げや生産は前回の二年連続プラス成長のときより低いところにいますから、何をもって潜在的な物価低下圧力が大きく後退していると判断しているのですか。
  133. 山口泰

    山口参考人 物価低下圧力にはいろいろなものがございますけれども、その中で、需要の弱さから来るもの、あるいは需給ギャップの大きさから来る部分、そういうものについて見ますと大きく後退しているというふうに判断しております。  根拠を幾つか申し上げますと、例えば、経済成長率について今御指摘がございましたけれども、現在の設備投資回復のテンポなどから見ますと、恐らく今年度経済成長率は前年度かなり上回ることを見込んでもよろしいのではないかと思いますし、直近のところについて、例えば、鉱工業生産の伸びなどを見てみますと、前年比で五、六%というかなり高い成長率になってきております。先生が引用されておられます短観によって企業の需給バランスについての判断などを見てみましても、これは着実に需給がよくなっている、改善しているというようなお答えをちょうだいしております。  こういうときは、総じて需給関係が徐々にではありますがいい方向に向かい、需給ギャップが縮小に転じつつある状況ではないかというふうに考えてよろしいのではないかと存じます。
  134. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 副総裁が言われるように、デフレギャップが縮み始めたなという感じは僕も持っているのですね。ただ、デフレギャップが依然として物すごく大きいのですよ。物価というのはデフレギャップが縮み始めたら上がってくるのか、必ずしもそうではない。デフレギャップが縮み始めたって、デフレギャップのレベルがむちゃくちゃ大きければ、需要圧力が弱いがゆえの物価下落というのは続き得るわけですね。だから、そういう意味で、確かに後退はしているが、依然として大きな、需要の弱さに由来する潜在的な物価低下圧力は存在しているわけですよ。だから、そこのところも注意深く見ていただきたい。余り楽観的な見方をしないようにしていただきたいと思うのです。  それから、「デフレ懸念払拭が展望できるような情勢」になりつつあるだから、現在がそうだとは言っていないが、「デフレ懸念払拭が展望できる」、これの具体的根拠は何ですか。
  135. 山口泰

    山口参考人 デフレ懸念現状と将来について、どういうことを根拠に判断していこうかということは、これまでの金融政策決定会合の中で、私どもなりにかなり議論を尽くしてきたところでございまして、結局のところ、物価そのものの動きとそれからその背後にある需要動き、なかんずく民間需要の力強さについての判断、この二つが大きなポイントではないかというふうに考えるに至ったわけでございます。  第一の物価そのものの動きにつきましては、先ほど申し上げたようなことでございまして、実は、どの物価を見るかによって少し動きが異なっております。卸売物価などはここのところむしろ前年を上回るような数字が出てきておりますので、企業活動の活発化ということを素直に反映した動きになっていると思いますが、消費者物価などにつきましては、むしろ流通面の変革の影響の方が大きくあらわれている可能性がございまして、前年を幾分下回るというような動きになっております。上がるものもあり、下がるものもありということで、全体としておおむね安定傾向に入ってきているというふうに考えております。  その背後にあります民間需要動きにつきましては、先ほどもちょっと私どもの方から答弁を申し上げたところでございまして、設備投資につきまして、特に世界的なIT需要につながっている部門を中心にしまして回復動きかなりはっきりとしてきておるという状況になっております。  企業部門の立ち直りで、ようやっと雇用市場の下げどまり、あるいは、賃金に対する若干のいい影響が出始めるというようなことが起きてきておりますので、恐らく、ゆっくりとではありますけれども民間需要が持続的に回復していくような条件が整いつつあるのではないかというふうに考えた次第でございます。
  136. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 私も、時間外だけじゃなくて求人がふえ始めたなとか、あるいは賃金指数がようやくプラスになってきたな、中身は時間外手当中心ですが、そういうことは承知しているのです。だから、そういう設備投資と消費の好循環の芽みたいなものが見えているなとは思うのですが、それが物価下落をとめてプラスインフレに変えるだけのところに来るまでにあとどのくらいかかるのかなと思っているのですよ。  というのは、国内卸売物価は確かにプラスのインフレ率に変わったけれども、あれはエネルギー関係で上がっているだけで、除いてしまったら下がっているのじゃないですか。石油関係と言ってもいいですよ。石油の関係だけじゃないのですか。あれを除いたらマイナスのインフレ率じゃないか。それから、消費者物価は依然として下がっていますよね。基本的にはやはり消費者物価ですよ。最終需要の、GDPデフレーターのプロクシーとして使うなら消費者物価ですから。  そういうことを考えると、まだ物価は下がっているじゃないかという議論はあり得ると思うのです。その点、どうですか。国内卸売物価プラスになったことは知っているけれども、あれは石油の影響を除いたらマイナスじゃないのですか。  それから、どの物価指数で見るかという問題があるというのは副総裁の言うとおりだけれども、やはり普通は、国内卸売物価ですか、消費者物価ですかといったら、どちらかといえば消費者物価が重要、基本的な指標ですよね、GDPデフレーターに近いという意味で。その点はどうですか。
  137. 山口泰

    山口参考人 卸売物価が前年よりも〇・三%程度上昇していることにつきましては、原油価格上昇の影響が入っているということは御指摘のとおりでございます。  ただ、原油以外の部分につきましても、例えば素材の市況が全般にしっかりしているとか、あるいは、ほとんど常に値下がりをしておりますような電子部品とか電気関係のもろもろの商品につきましても、値下がり幅が小さくなるとか、物によってはかなり上がるとかいうような状況が生まれておりますので、やはり企業周りの需給関係の改善ということが物価面にはそれなりに出ているというふうに思います。  ただ、もう一方で、消費者物価については、ここのところ、前年比マイナス〇・何%というオーダーでございますけれども、弱い状態が続いております。こちらの方は、申し上げましたように、これは程度問題はよくわかりませんが、流通面での変革の動きというのが何がしか影響していることは恐らく間違いないだろうと思いますし、そうだといたしますと、これは簡単に終わるというものではないのかもしれません。  そういう意味で、消費者物価が上がり始めるというような状況が近い将来出てくるということを考えているわけではございませんで、ただ、申し上げましたように、民間需要が私どもの期待どおり持続的に立ち直っていくという場合には、少なくても需給の面から物価が下がっていくというようなことは心配しなくてよろしいのではないかと思っているわけでございます。
  138. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 私も実は同意見でして、需給の面からマイナスのインフレ率が続くような状態は終わりつつあるだろうなと思っているのですよ。  やはり、技術進歩に伴う、生産性向上に伴う下落が相当あると思います。それから、一種の流通革命ですね。昔のように高いマージンを取って売っている百貨店は構造不況業種になってしまって、何だか知らないけれどもいろいろディスカウントショップが、フランチャイズチェーンか何かで出てきた。こっちはどんどん売れている。そういうのを正確に把握すると物価が下がる。そういうさまざまな流通革命とか技術革新なんかで下がる部分、これはむしろ好ましい下落だと思いますけれども、そういうものがありますから、物価指数が下がっている間は絶対にゼロ金利を解消しちゃいけないなんて言うつもりはないのです。  それで、ここから先、また速水総裁に対する質問に変わります。政策の問題でございます。  私は、ですから、今、設備投資リード型の回復についてはその持続性に十分注意を払ってくださいよということを申し上げたし、それからデフレ懸念払拭というのも、物価指数を単純に引用しているとそうじゃないよみたいなことを言われるかもしれない。その点についても技術革新とかあるいは流通革命とかいろいろな要素も考えて、今研究しておられるようですけれども、そういうことも含めて上手に説明するようにしていただきたいと思いますが、その二つを前提にして私の政策判断は、実は、もうゼロ金利を解消すべき時期に来ているという政策判断なんですね。  ですから、きのうの政策決定会合の結論を見てちょっと感じたのは、二つ多分考慮したのだろう。一つはそごう問題。これはそうなんだろうと思うのですね。  それからもう一つは、上田委員がちょっと言っていました、これは日銀としては口が曲がってもそうですなんて言えないことですが、私がちょっと感じたのは、やはり時の総理がみずから、日銀の専管事項ではあるがゼロ金利解除しないでよなんて余計なことをしゃべっていた。あれは僕は、あの方は、サミットを控えていますから、上田委員が言ったように、サミットで日本経済説明をするときに、やはりその直前にたとえ〇・二五%でもマーケットのレートが上がったということになると、そういう専門家の集まりではない、政治家の集まりだから、単純に金利が上がったという言葉になってしまうので嫌がっていたなという印象を持っています。  だから、そういう、総理がサミットを目前に控えていて、説明する自信がないと言ったら失礼だから自信がないとは言わないけれども、これは動かされると厄介だ、そう思っているに違いない。それとそごうと二つあったのかなというふうに私は思います。  が、もう総裁は十分御存じだと思いますが、大型の企業倒産というのは景気回復初期にどんどん出るのですね。そういうものです。それで、もう御承知のように、そごうの後にも新生銀行関係だけ見ても大きいのが控えている。ゼネコン二社とか流通グループのでかいのとかが控えていますから、これが全部倒れるかどうか知りませんが、大型倒産があるたびにびびっていますと利上げの時期を失するおそれがあるというのは、歴史の教訓であります。  それから、政治的配慮も時として金融政策の運営の失敗のもとになっているということは十分御承知のとおり。バブル発生のあのときの利上げのおくれも、明らかに政治的な圧力に対する配慮が行き過ぎてしまった。それから、大インフレーションを起こしたときも、日本列島改造論とか福祉元年予算とか、ああいう政治の動きに引きずられたというところがあります。戦後の日本金融政策で二つだけ大失敗したと私が思っているのは、二つとも政治の圧力があったと思っておりますから、気のきいた配慮をちょこっとやるぐらいなら、きのうの程度ならいいのですが、行き過ぎるとこれは危険なことだなと私は思っております。  これを見ますと多数決でと断っておりますから、やはりもうゼロ金利政策解除しようよとおっしゃった政策委員もおられたのだなと私は思います。これは要旨を発表するまで総裁も口には出せないでしょうけれども、本当は何人いましたかとか聞きたいところですが、おっしゃれないと思うから聞きません。ただ、そういう方がいたということに私は気を強くしております。  だから、そごうに対する配慮、大型企業倒産に対する配慮、あるいは総理が何か嫌だなとか言っているのに対する配慮というのは、ちょっとはいいですが、余り大きくなってはいけない。その意味では上田委員と私はたまたま同意見ですが、なるべく近い将来の政策決定会合でその辺を見きわめて、もう解除すべき時期に来ているというふうに私は感じております。  これはちょっと総裁としてはお答えしにくいかもしれませんが、そういう私の感想に対してどうお思いか。
  139. 速水優

    速水参考人 いろいろアドバイスいただきましてありがとうございます。  ゼロ金利政策解除というのは、金融引き締めの第一歩ではなくて、あくまでも経済改善に応じた金融緩和のファインチューニング、微調整なのですね。こういうふうに私ども考えております。  ただ、これが、最初申しましたように、十年ぶりなのですね、金利を引き上げるというのは。こういうことでもございますし、政策変更というのは、特に長く据え置いて下げてきたものを上げるということになりますと、これは、上げて、困るなと嫌な顔をされるのはやはり借り手であって、最終的には借り手は企業と、企業というのは財界人も含めてですね、企業と政府の国債だと思うのですね。金を出す方はやはり家計であり、千三百六十兆マイナス四百兆ですか、家計の人たちはやはり上げて喜ぶわけなのですね。そこのところは、どっちにしてもそうなのですが、特に上げる場合にはかなり、いつやっても大きな風が吹いてくるに違いないということは私どもも覚悟しております。しかし、その両者をうまく正しいタイミングで、正しい上げ幅で動かしていくのが日本銀行の機能であり、責任であり、役割だと思うのです。そこのところは、私もやるときは勇気を持って皆さんに訴えてやっていかなければいけないと思っております。その時期は迫ってきているというふうにも思います。  ただ、先ほどおっしゃったそごうの件は、私先ほど説明したように、初めての件だし、新しい法律でこれがどういうふうに市場に反映するか、波を立たせるかということは、あの時点ではやはり決めかねたからでございます。上から声が来たというのは、全くそれはございません。そこだけはよく理解しておいていただきたいと思うのですが。  そういうことで、ゼロ金利解除は、やはり私どもにとってはかなり歴史的な、大変大きな決断だと思っています、幅は仮に非常に小さいとしても。そこのところは御心配なく、私どもはやるべきときにやらなければいけないということは十分心得ておりますから。そこは、今回はそれができなかった、そういう事態ではなかったというふうに御理解いただければありがたいと思います。  やるときにはいたします。
  140. 鈴木淑夫

    ○鈴木(淑)委員 おっしゃることはよくわかります。十年ぶりの上げになるわけですから、抵抗が大きい。しかし、決断すべきときには必ず決断するという力強い総裁のお言葉をいただきまして、私も大変うれしく思います。  そごうの問題というのは、しばらく見ていれば大体わかる程度のことだと思うのですね。それに、さっきも言いましたように、大型倒産、まだまだ出るかもしれませんし、そのたびにびくびくしていると、これはどうかなと思います。しばらく見て、影響を見届けたらこの問題はどけていいと思います。  それから、上から、天の声が降ってきて曲げられたなんて私、全然思っていないのです。逆に、日本銀行政策委員が配慮したのかな、そういう人が多かったかなと想像していると申し上げたのですね。今の日本銀行に対して直接の圧力がかかっているなどというふうには私は全く思っていないのです。それは大丈夫です。  最後に、もう引き上げの時期が来ていると私は思いますので、さまざまな、そういうそごうやなんかに対する配慮が終わったらぜひ実行していただきたいと思いますが、そのやり方、これは恐らく、おまえに言われるまでもなく、おれだってそう思っているさと言われるかもしれませんが、まず第一は、小幅でそろりと入ることだなと思っております。言うまでもなく、公定歩合の〇・五は動かしてはいけない。今、〇・〇二から〇・〇三という異常なゼロ金利、短資の、仲介手数料を抜いてしまったらゼロだというこの異常な低金利を、普通の低金利、しかし、公定歩合の下、例えば〇・二五%前後、上げ幅としては〇・二五%くらい、ターゲットレートとして〇・二五%前後、これくらいのところへそろりと上げるくらいがファーストステップなのだろうなと私は思います。  言うまでもなく、公定歩合より下ですから、〇・二五に保つためには量的な緩和は相当続きますので、また幅としても〇・二五は小さいですから、その上で、マーケットがそれをどう受けとめるか、よくごらんになるべきだなと思います。特に長期の市場金利の動向。つまり、その結果、みんなが先行きがどうなると見ているか、先の金利水準の予想をどう修正しているかというのは長期金利にはねますから、長期金利の動向を十分ごらんになって、しばらく様子を見る。またそれが預金金利、貸出金利にどうはねていくか、十分見きわめていただく。そういう形でそろりと入っていく。大いに説明責任を果たされて、誤解がないように説明される。それで、すっかり静まって、みんなが消化した段階で、次のステップをとるべきかどうか、景気情勢なんかとともにあわせて改めてまた考えるということが最も望ましいのではないかと思っております。  恐らく日本銀行も、そんなことはおまえに言われるまでもなく、おれたちはそんな急激な変化をさせようとは思っていないよということだと思いますが、ぜひ、公定歩合をいじるのではなくて、公定歩合のはるか下で普通の超低金利に直していただいて、マーケットに対する影響、それから実体経済に対する、特に企業家心理に対する影響、その辺を十分時間をかけて見きわめていただくというのがいいのではないかなと思っております。  ただ、タイミングとしてもう来ているという私の意見を申し上げまして、時間でございますので質問を終えたいと思います。率直にお答えいただきまして、まことにありがとうございました。
  141. 萩山教嚴

    萩山委員長 次に、山口富男君。
  142. 山口富男

    山口(富)委員 私、日本共産党の山口富男でございます。  初めに速水総裁にお伺いしたいのです。  今月の三日に開かれました日本銀行金融研究所主催の第九回国際コンファランスにおける総裁の開会あいさつというのがございます。この中で総裁は、一九八〇年代のバブル期の金融政策を振り返って、「金融政策は、当時のバブル生成の必要条件であり、金融政策には明らかに何がしか責任があったことは否めない。」こうおっしゃいました。そして「私が重要であったと思うのは、」このように前置きをされまして、「景気回復が明確化した一九八八年夏以降も、低金利を比較的長く維持し、こうした低金利が永続するとの期待を根づかせた」こと、このことが「バブル拡大の原動力の一つとなったのは否定できない事実であり、重く受け止める必要がある。」このようにあいさつされていらっしゃいます。  きょうも質疑の中で、しばしば総裁バブル期の後遺症の問題をお話しになりましたけれどもバブル期の日銀の金融政策の問題点についてどのように受けとめていらっしゃるのか、改めて簡潔に説明していただきたいと思います。
  143. 速水優

    速水参考人 先般、バブル期の政策を反省するという題で、日本銀行金融研究所を中心にして、三人の非常にすぐれたエコノミストが個人の名前で発表したものがございます。それは私どもの方からも、内外からの要請に応じてどんどんコピーをお届けしております。  その中に、そういう、かなり詳しく調べて、反省材料は何と何かということを書いてくれているのがあるのです。恐らくあそこに出ていた学者の方々もみんなそれを読んでくだすったと思うのですが、そういう八〇年代バブル発生の背景、それから政策判断のおくれといったようなことは、今になって反省して、今後の私どもの教訓としていきたいというふうに思っております。  バブルの発生につきましては、自由化、国際化といったような経済環境の変化背景とする金融機関の積極的な貸し出し姿勢とか、首都圏への一極集中とか、土地取引に関する法制、税制などのさまざまな要因が相互に複雑に影響し合って、経済全体にいわゆる右肩上がりの幻想が生まれてしまったということではないかと思います。ただ同時に、長期にわたる金融緩和にもその原因の一端があったということは否定できないと思います。  バブルの発生に至る金融政策を振り返ってみますと、国内経済は、一九八五年のプラザ合意以降の急速な円高進行に伴いまして、そのデフレ効果が強く懸念される状況でありました。また当時は、国の経済政策面でも、大幅な経常黒字の是正や円高の回避が優先的な課題となりました。そうした中で、金融政策運営面でもぎりぎりの選択を迫られたものと理解しておりますが、結果としては、景気拡大が明確になった状況のもとでも金融緩和は継続され、それがバブル発生の一端となったということであったと思います。  こうした経験から得られます金融政策の教訓としては、第一に、経済が抱える潜在的なリスクに注意を払って、こうしたリスクに対して予防的に対応していくべきであるということ、第二には、為替相場の安定とか対外不均衡是正のために過度に金融政策に依存した対応をとることは適切ではない、金融政策としては、あくまで物価の安定を目標にして、これを通じて経済の持続的成長に貢献していくことが大事であるということではないかと思います。  日本銀行としては、これらの点を十分認識して、毎回の金融政策決定会合におきまして経済金融情勢を丹念に点検して、適切な政策運営を行うよう努めているところでございます。  以上でございます。
  144. 山口富男

    山口(富)委員 今のお話ですと、バブル期の金融政策への反省と教訓の一番大事なところは、総裁のお言葉ですと、景気回復したにもかかわらず金融緩和を持続したところにあった、こういうお話だったと思うのです。  それでは、現在の問題についてお聞きしたいのですけれども経済企画庁が先月の十九日に、消費税率が三%から五%に引き上げられた九七年四月から始まる今日の景気後退の問題で、その谷が九九年四月にあるという判定を行いました。  そうしますと、日銀は、景気の谷が九九年四月としまして、その谷以来、一年以上にわたってゼロ金利を続けてきたことになりますが、これは、今総裁がおっしゃいましたバブル期の金融政策への反省の問題との関係で、矛盾したことになるのじゃありませんか。
  145. 速水優

    速水参考人 九八年、九年という時期につきましては、経済の実体面だけでなくて、最もあのときに不安であったのは、やはり金融システムの不安だったと思います。このことは日本で初めてなんです。昭和の初め以来なかったことが起こったのですね。それで、大きな銀行が現実に倒れたわけです。  そういう金融システムの不安、大銀行が倒れる、それに対して、まだそれを救う法律も完備していない。去年の春、公的資金の注入が始まったわけですけれども、それまでやはり金融が不安定で、ここへ預けていて大丈夫かという、まあペイオフがありますけれども、みんな銀行というのは絶対につぶれない、それこそコンボイシステムというので、護送船団で守られているからつぶれることはない、どこへ預けても同じなんだと思っていた金融機関にああいうことが起こったというのはこれまた予想しなかったことで、本当はもっと早くから気がつくべきだったと思いますけれども、そういうことを背景にして、やはりすべての経済への暗さ、不安が蔓延したというふうに考えるべきじゃないかと思うのです。  ですから、先ほど御指摘の点とは少し情勢が違っているのじゃないかというふうに私は思います。
  146. 山口富男

    山口(富)委員 そうしますと、きのうの金融政策決定についての文書を読みましたけれども、これを読みますと、なお様子を見たい、わかりやすく言いますとそういうことになるんじゃないかと思うのです。実は、振り返ってみますと、速水総裁御自身もこの間、ゼロ金利政策解除する方向での発言をやはり繰り返してこられたと思うのです。  近いところでは、六月の二十九日に、全国労働金庫協会・連合会通常総会の総裁あいさつ、これはきょう御出席黒田理事が代読されたそうですけれども、その中で速水総裁はこのようにおっしゃっていらっしゃいます。「日本経済は、私どもがゼロ金利政策解除条件としている「デフレ懸念払拭が展望できる情勢」に着実に近づいていると判断しています。」そしてまた、そごう問題なんですけれども、これが表面化した七月十日の段階でも、やはりスイスで、日本経済はもう少し高い金利でも十分吸収できる、こう述べられてまいりました。  そうしますと、きのうゼロ金利の継続を決めたわけですけれども、これらの発言の経過を振り返りますと、何か理由があったのではないかと考えることになるんじゃないかと思うのです。  それで、森首相が十四日の日に、ゼロ金利政策解除の問題について、金利を上げるということがいろいろな意味株価通貨などに影響していく、日銀も適切な判断をしていただけるのではないかと期待している、こういうふうにある新聞で述べました。さらに、もう皆さん御存じのように、アメリカのサマーズ財務長官が折に触れてゼロ金利政策の継続を求める発言を行ってまいりました。  それで、きょうの新聞報道で各紙が社説でゼロ金利の継続の問題を掲げておりますが、その中で、例えば毎日新聞は、ゼロ金利継続の決定が政治や米国に気を使うものではないか、こういう論評を掲げています。それから、朝日新聞は、日銀が十分説明しないと、結局は政治や政府の圧力で弱腰に転じたと受け取られかねない、こういう危惧の指摘をしております。  昨日のゼロ金利政策の継続の決定に当たって、日米両政府首脳の発言の影響はなかったのかどうか、総裁御自身はどのようにこれらの発言を受けとめていらっしゃったのか、簡潔にお話しいただきたいと思います。
  147. 速水優

    速水参考人 アメリカの政府から、日本銀行金融政策運営について働きかけがあったといったようなことはございません。先ほどおっしゃった、サマーズが言ったじゃないかというのも、これは私は聞いておりません。  それから、日本の政府との関係では、新しい日本銀行法のもとで十分な意思疎通を図るということが求められておりまして、金融政策決定会合には、必要に応じて政府からも御出席いただきまして、意見を述べることができるようになっております。逆に、政府の考え方金融政策決定会合における意見の表明という形で明らかにするというのが法律の趣旨であります。  日本銀行としましては、こうした形で表明されております政府の意見にも十分に耳を傾けた上で、最終的には日本銀行政策委員会の責任と判断金融政策を決定している、これが新法のもとで私どもがやってきたことでございます。政府もよくこの新法の考え方理解し、視野に入れてくだすって、私どもを立ててくれていると思います。  その際政府からどのような意見が述べられたかを明らかにすることは、金融政策に関する透明性を確保する観点で極めて重要なことでございます。このために、日本銀行は、政府からの出席者が述べられた意見についても約一カ月後に公表されます議事要旨において公表することといたしておりますので、今は申し上げるわけにもいきませんけれども、一カ月後に議事要旨をごらんいただきたいと思います。
  148. 山口富男

    山口(富)委員 政府の発言や意見についても十分耳を傾けているというお話だと思うのですが、話を進めまして、総裁は先ほど、ゼロ金利政策について、昭和以来なかったことだというお話をされました。ゼロ金利政策がしばしば異例なものとされてきたのですが、そもそもこういう金融政策の運営の経験というのは諸外国を含めてほかに例はあるのですか。
  149. 速水優

    速水参考人 私が申し上げた昭和以来なかったことというのは、ゼロ金利政策ではなくて、金融システムの不安、破綻、これでございます。銀行の破綻ですね。これは、私の記憶する限り、戦後はなかったと思います、戦争中はもちろんのことですけれども。  今御質問のゼロ金利政策というのは、これは私どもの歴史の中では初めてのことだと思います、日本銀行史の中で。ただ、バブルがはじけて、一九九〇年に金利がピークに来て、そこからずっと下げて、九五年に〇・五%になって、それをずっと五年間公定歩合は〇・五で維持しているわけですね。その中で、事実上運用金利である翌日物無担コールという、アメリカではFFなどと言っていますけれども、この金利を〇・五からさらに下げていって、昨年の二月に、〇・二五からさらに下げるだけ下げようというふうに指示を出したわけでございます。  そういうのがこれまでの経緯でございます。
  150. 山口富男

    山口(富)委員 日本銀行の歴史上なかったということですが、国際的な例はあるのですか。
  151. 山口泰

    山口参考人 私どもの承知している限り、金融政策を実行する上でかぎになるような金利を意識的に、政策的にゼロにしているという経験はなかったと思います。  アメリカの一九三〇年代、大不況のさなかにおきまして政府短期証券の利回りがほぼゼロに低下したということはございました。それがほとんど唯一の経験であるというふうに記憶しております。
  152. 山口富男

    山口(富)委員 今お話しになりましたように、日本の歴史の上でも世界の歴史の上でも、意識的な政策としてこういう政策をとった例はないということだと思うのです。そうしますと、こういう異例な金融政策をとっておりますから、やはりこれが日本経済と国民生活にどのような影響を与えているのかというのは、常にそれこそ意識的に分析していくことが必要だったと思うのです。  私たち日本共産党は、これまでも国民生活を守る立場それから景気回復を願う立場から、ゼロ金利政策の問題点をその都度事実に即して指摘してまいりましたが、今回国会に提出されました通貨及び金融調節に関する報告書を読みますと、しばしば金融政策決定会合において、ゼロ金利政策の副作用という名前で、家計の利子収入の減少、これによる所得分配のゆがみが大きな問題になっていることが議論されてきております。  そこで、具体的な数字をここで確認しておきたいのですけれども、先ほど岩國議員の質疑の中で、九〇年度から九八年度をとると累計で二十七兆円減少という計算が紹介されましたが、私が七月十二日に日銀からいただいた資料で計算しますと、これは二十七・一ないし二十七・二兆円の減少になるのじゃありませんか。
  153. 増渕稔

    増渕参考人 兆円単位で先ほど丸めて答弁を申し上げましたので、兆円以下まで入れれば二十七・何がしという数字になるはずでございます。失礼をいたしました。
  154. 山口富男

    山口(富)委員 その数字を答えていただきたいのですが。
  155. 増渕稔

    増渕参考人 申し上げます。  私どもの計算によりますれば、九〇年度から九八年度の累計で二十七・七兆円という数字になるはずでございます。
  156. 山口富男

    山口(富)委員 この二十七・七兆円、これは九八年度までですから、九九年度を足していきますともう少し膨らんでいくはずなんですが、いずれにしろ、九一年からの日銀の金融緩和それから低金利政策がもたらした所得分配のゆがみ、これが二十七・七兆円としますと、大体四分の一が失われたことになるのですね。特に高齢者の方が受けた被害の深刻さというのは大変深刻で、だれもが指摘する問題ですけれども、今回のゼロ金利政策の継続決定に当たってこれらの点はきちんと検討されたのですか。この点をお尋ねします。
  157. 山口泰

    山口参考人 私ども金融政策決定会合を開く都度、それまでに入ってきました新しい情報をすべて頭の中に入れながら、最適な政策を選択しようということでこれを積み重ねてきているわけでございます。今回の昨日の決定会合におきましても、ゼロ金利政策を継続することのメリットそれからデメリット、それは当然両様を頭に入れて判断を下したつもりでございます。
  158. 山口富男

    山口(富)委員 この所得分配のゆがみのとらえ方なんですけれども、メリット、デメリットというとらえ方では弱いと思うのです。やはり国民生活にかかわる問題ですから、日銀の政策が家計部門にどういう影響を与えるのか、これは日銀法の第二条の規定にあります「国民経済の健全な発展」、この全体にかかわる非常に大きな問題だというふうに思うのです。  それで、今二十七・七兆円という具体的数字が確認されましたけれども、こういう巨額の所得が個人から金融機関あるいは企業に移転されたことが、所得の分配に非常に大きな影響を与えたと思うのですけれども、こういう所得分配のゆがみの問題について、日銀として独自に分析して、国民にその結果を公表する説明責任があるのじゃありませんか。
  159. 山口泰

    山口参考人 家計部門の利子所得が差し引きで大きな減少になっているということは、ゼロ金利政策を始めた当初から私ども当然意識しておるところでございます。  ただ、私どもが、にもかかわらずゼロ金利、あるいはそれよりもさらにさかのぼっていわゆる超低金利と言われるような政策を約五年間にわたって続けてまいりましたのは、家計部門だけとりましても、利子所得というのは家計所得の中の一部でございまして、結果といたしまして低金利あるいはゼロ金利が回り回ってその他の家計所得をふやす効果を持つならば、全体としては、多少時間がかかることではありますけれども、家計部門にとっても低金利のメリットが及ぶはずである、そういうことが日本経済全体の回復にやがては貢献していくはずである、そういうことを考えたからでございます。
  160. 山口富男

    山口(富)委員 今説明のあった後半の部分は後ほど取り上げますが、私がお尋ねしたのは、家計部門に明確な影響があるのですから、その問題について国民にきちんと説明する責任があるんじゃないかと尋ねたのです。その点をお願いいたします。
  161. 山口泰

    山口参考人 家計部門の金利の収入、これは金利の支払い、受け取り、両方あるわけでございますけれども、差し引きで考えた場合に、例えば、九〇年度と比べて直近の年度でどれぐらいの減少になっておるかというようなことは、これまでさまざまな場でお尋ねをいただきましたし、その点については私どもなりの計算をその都度説明申し上げているはずでございます。また、家計所得全体がどういうような動きになっているかというようなことにつきましても、国会の場を含めましてしばしばお尋ねをいただいておりまして、これについてもそれなりに説明を果たしてきているつもりでございます。
  162. 山口富男

    山口(富)委員 そうしますと、日銀として、年齢の構成ですとか利子所得に依存している方ですとか、そういういろいろな部門を分けてきちんと計算されているわけですね。
  163. 山口泰

    山口参考人 私どもが依拠しております数字は、基本的に国民所得統計ベースの数字でございまして、これは御案内のとおり、家計所得につきまして、雇用者所得あるいは社会保障給付、財産所得、利子所得というような区分から成り立っております。したがいまして、こういうもののそれぞれが、例えば、年齢階層別に金融政策によってどの程度影響を受けているかというようなことは、これは計算ができません。  したがいまして、私どもがこれまで世の中に申し上げております数字といいますのは、家計のネットの利子所得というのが金利低下局面の中でどれぐらいの変動をこうむってきたかというようなこととか、あるいは、その減少分を含めまして家計所得全体としてどういうような動きになっているか、これは増加をたどってきているわけでございますけれども、そういうようなことを説明申し上げてまいりました。
  164. 山口富男

    山口(富)委員 私、今の答弁を聞きまして、驚きの念を禁じ得ません。やはり、これだけ金利の問題でもどういう影響が起こるのかということが問われているのに、具体的な数字が実際には持ち合わせていない、そういう答弁になると思うのです。  それで、もう一つお伺いしたいのですが、日本銀行の審議委員の篠塚英子さんが、ことしの五月に「日本経済日本銀行」と題した講演を日本金融学会で行いました。  この中で篠塚審議委員は、海外中央銀行では、金融政策が所得分配に与える影響についてどのように考え、国民に説明をしているのか、こう問いを発して、アメリカの例を挙げていらっしゃいます。そして、「米国中央銀行が、金融政策の分配問題に対する影響や、国民の所得分配の変化といった点にも丁寧に目配りしていることに注目するべきである」。そして、日本アメリカは違うわけですけれども、その違いを認めた上で、その「独自性を超えて、私どもが学ぶべき点も多い」、こういうふうに述べていらっしゃいます。  ゼロ金利政策の継続が家計部門に与える影響について、私は日銀として引き続き注意深く見る必要があると思うのですが、この点の見解はいかがでしょうか。
  165. 山口泰

    山口参考人 ゼロ金利政策あるいは低金利政策が家計部門に回り回ってどういう影響を与えるのかということにつきましては、金利所得だけではなくて、結局家計も日本経済全体の中の一部なわけですから、日本経済全体がどのような影響金融政策によって受けていくのであろうかというところの分析が不可欠であろうと思います。したがいまして、その作業は当然複雑にならざるを得ませんし、いろいろな前提の置き方によって結果についての評価は変わってこようかと思います。  ただ、今御指摘いただきましたような、もう少し、例えば年齢別にどうであるとかいうことにつきまして、詳細な、信頼できる統計があれば、そういうものを使いましてさらに勉強をしてまいりたいと思っております。
  166. 山口富男

    山口(富)委員 それでは、今後に期待する面もありますので、次に進みます。  先ほどからの質疑の中で、低金利政策というものが企業の収益にも貢献しているという話が出てきたと思うのですが、今度の低金利政策の受益者である大手の銀行を見ますと、大きな業務純益を上げながら、中小企業へのいわゆる貸し渋りと言われるものが続いていると思うのです。なぜ貸し渋りが続いているのか、日銀としてその原因をどこに見ているのか、この点、見解をお伺いしたいと思います。
  167. 増渕稔

    増渕参考人 最初に数字のことを申し上げますと、私どものとらえております統計によりますれば、全国の銀行によります中小企業向け貸し出しの本年三月末時点の前年比伸び率は、中小企業向けは前年比マイナス四・四%とマイナスになっております。全体の貸し出しの伸び率はマイナス一・四%ということでございますので、中小企業向け貸し出しの伸び率が低いというのは事実でございます。  貸し出しが全体として減少している、中小企業向けも減少しているということの背景といたしましては、中小企業も含めまして収益が回復する中で、これまで減価償却の積み立てもありましてキャッシュフローが豊かになり、設備投資増加といった前向きの企業活動が資金需要に結びつきにくいという状況となっていることが一つございます。それから、多くの企業がいわゆる財務リストラという形で過去の借金、借り入れの返済に取り組んでいるといった事情も影響していると思います。  民間の銀行の貸し出し姿勢でございますが、バブル崩壊の後、慎重なものになったことは事実でございますけれども、最近では、資金繰り面の改善あるいは自己資本の増強といったことができたことなどで、大手の銀行でも、融資先の信用力などを見きわめながらでございますが、貸出残高を回復させたい、回復させようという姿勢は出てきているように思われます。ただ、資金需要がない中で、貸し出しの残高の増加に結びついていないということでございます。  ちなみに、金融状況について中小企業自身がどのように判断しているのかという点を私どもの短観の調査に当たって見ますると、確かに中小企業から見ました金融機関の貸し出し態度は大企業と比べれば厳しいということではありますけれども、この一年間の間に相当に改善はいたしております。  具体的な数字で申し上げますと、昨年、九九年六月の短観調査で、中小企業から見ました金融機関の貸し出し態度判断のいわゆるディフュージョンインデックス、DIはマイナス一二でございましたが、この六月はマイナス三まで改善しているということでございます。したがいまして、銀行の貸し出し姿勢も、中小企業から見ましてもやや積極的にはなってきているということであろうと存じます。
  168. 山口富男

    山口(富)委員 今のお話ですと、全体の動向としてはなお厳しいけれども改善の兆しがこれありという話だと思うのですね。  それで、今紹介されました四日発表の日銀の短観を見ますと、資金繰り判断金融機関の貸し出し態度判断、これはともに、中小企業はなお苦しい、厳しい方向を脱していなくて、しかも一時的には今後強まることもこの資料は予測しております。  日銀法の四十四条で日銀は金融機関を考査する立場にありますから、私は、引き続き、このような貸し渋りがなぜ生まれてくるのか、この問題を注視するように求めたいと思います。そして、国民生活を守り景気回復を進める立場からゼロ金利政策解除を求めて、次の問題に進みます。  景気の問題なんですが、日銀の皆さんを含めまして大方の一致した見方は、個人消費、家計消費が回復していない、明るい展望がなかなか見えない、こういうことだと思うのですが、設備投資と並んで民間需要の大きな柱になっております個人消費現状についてどう見ていらっしゃるのか、簡潔にお話し願いたいと思います。
  169. 増渕稔

    増渕参考人 個人消費でございますが、依然として全体としては回復感に乏しい展開というふうに私どもも見ております。ただ、そうした中で、消費者のマインドは改善傾向にございます。それから、所得のもとになります賃金とか雇用者数減少傾向にも歯どめがかかりつつあるなど、前向きの動きも出始めているところでございます。  こういう動きのもとになります企業部門の活動は非常に強くなってきておりますので、その企業部門の活動の強さが、今申し上げましたような消費者マインド改善、賃金や雇用者数減少傾向の歯どめといったことの中で、企業部門の強さが家計部門にも波及する、すなわち個人消費が今よりは回復した状態が見込める、そういう展望ができつつあるというのが現状ではないかと思います。
  170. 山口富男

    山口(富)委員 個人消費が現実に回復どころか回復感に乏しいという話は、私もそうだと思うのです。  しかし、問題になってきますのは、この個人消費の動向が日本経済判断する上で重要な指標であるというのは一致できると思うのですが、その際に、きょう渡辺議員の質問でも取り上げられましたけれども、最近日銀の関係者の間で消費回復見通しを語る際にダム論という考え方が出ている。  少し具体的に言いますと、朝日新聞の五日付では、「企業部門の収益が川上の「ダム」にたまり、その水が川下の家計部門にあふれ出すという」考え方をとっていると。それから、日本経済新聞の五日付では、「個人消費を左右する雇用者所得の源泉として企業収益というダムの水位に着目、その上がり具合から消費の先行きを占おうという理屈だ。」こういう紹介があります。今の答弁もややこれに似ているように思いましたが、総裁御自身はこの種のダム論についてどういうお考えをお持ちでしょうか。
  171. 速水優

    速水参考人 企業の収益が非常に伸びているというのは、私どもの予想以上にいいわけですね。それを原点にいたしまして、企業は、それを自分のところの設備投資に使ったり、あるいは準備金に積んでみたり、あるいは自己資本の強化をしたり、あるいは給与をふやして、あるいは雇用をふやして新しい仕事をしていくといったようなことが今少しずつ進んでいるように思います。そういうことを通じて収益が家計の方へ流れていっているはずだというふうに私どもは見ております。  それがどの段階で消費の増加になってどういう形で伸びていくのか、そこまでいきますと、いま一つ、はっきりした実証といいますか、あかしを握ることは非常に難しいという感じがするのですけれども、そこのところが恐らくダムの水が下までうまく浸透してきているかどうかというような表現になってきているのではないかと思います。
  172. 山口富男

    山口(富)委員 最後のお言葉にありましたように、はっきり言えることは、その立証、あかしを得るのはなかなか難しいという話だったと思うのです。  皆さん御承知のように、この考え方というのは、アメリカでも、レーガン政権の時代に、トリクルダウン論という話で、いわば企業サイドの収益が上がればそれがやがて家計部門に滴り落ちる、そういう政策があったのですけれども、これも実際アメリカでは政策上破綻した考えなんですね。結局、問題になるのは、今の企業収益の実態がどうなっているのかということが問題になると思うのです。  きょうも、報告書概要説明で、総裁は、家計に伝わりにくい面があるのだということを強調されました。ことしの三月期の上場企業の決算を見ますと、売上高は全体で四・四%のマイナス、経常利益は、その中で、前の期と比べて一五・五%増加して、確かに三年ぶりに増益に転じています。しかし、その中身は、景気回復による収益改善というよりも減収下での増益であって、これを報道した新聞でも、人件費を初めとしたコスト削減、リストラによる改善が顕著に出たものだ、こういう論評がなされております。やはり増収増益の見通しと簡単に言えない問題があると思うのです。  速水総裁御自身、五月に日本経済研究センターで講演をなさっていらっしゃいますけれども、その中でも、現在までの企業収益回復には人件費削減などの従来型リストラに負う部分が大きいことは否定できない、こういうふうに述べていらっしゃいます。やはり、このダム論というのは、ダムの水位が上がる背景に家計の水位が下がるということも一因としてあるということを見なきゃいけないと思うのです。  ですから、企業収益の水位が上がればやがて家計部門も上がってくる、そういうとらえ方は、私は、家計部門、国民の生活を企業収益の従属変数とみなすような、余りに表面的で単純過ぎる見方だと思うのです。もしこういう見方に日本銀行全体が陥ってしまうと、景気回復の方向を見失うことになるんじゃないかと思うのですが、見解をお伺いしたいと思います。
  173. 山口泰

    山口参考人 まず第一に、これまでの企業収益が、いわゆるリストラ努力、コストダウン努力というものにかなり依存してきた部分があるというのは御指摘のとおりだと思いますが、最近の短観の結果で見てみますと、昨年度は、これは大企業から中小企業まで全部含めてでございますが、売上高がマイナス二・一%減収でございまして、経常利益がプラス二四・二%増益でございましたが、今年度企業の予想といいますか見通しをとりますと、同じ数字が、売上高がプラス二・四%、経常利益がプラス一三・一%、久方ぶりに増収増益の予想が出ております。これが仮に実現いたしますならば、リストラによるコストダウンだけではなくて、久方ぶりに売上高の増加を伴う増益ということが実現していくことになりますので、そういう意味でも景気展開は新しい局面を迎えつつあるということではないかと存じます。  それから、家計部門の水位といいますか、そういうものを見てみますと、昨年までの二年間ほどは、賃金が低下し雇用も減少するということで、雇用者所得全体として、おっしゃるように水位が下がりぎみであったと思います。ことしに入りましてから、雇用の減少に少しずつ歯どめがかかってまいりまして、御案内のとおり、新規求人などはこのところ二けたの増加に転じております。名目賃金の低下も、ことしの初めからどうやら下げどまりに向かってきておりまして、賃金と雇用の積から成ります雇用者所得も、昨年までとはやはり少し局面が切りかわってきているというふうに思いますので、水位の低下にも歯どめがかかりつつあるというのが現状ではないかと存じます。
  174. 山口富男

    山口(富)委員 私は、その増収増益論についてはいろいろな批判的資料も生まれておりますから、そういう局面が変わりつつあるという認識は持っておりません。  それから、副総裁がきょうの質疑の中で、もともとこのダム論というのはフリーディスカッションの中で生まれた俗論だというお話をされたのですね。これは俗論ではないのですか、もう一度確認いたしますが。
  175. 山口泰

    山口参考人 日銀の内部で、企業から家計への波及がどういうようなテンポで生ずるのか、生ずるとすればどの程度であろうかというようなことを議論している中で、このダムの議論、ダムを援用して解釈するということはできないだろうかというような話が出てまいったということでございます。
  176. 山口富男

    山口(富)委員 そうしますと、俗論ということでよろしいのですね。日銀の正式の考え方ではないということでよろしいのですね、確認いたしますが。
  177. 山口泰

    山口参考人 ダム論というのは、別に日本銀行の公式の用語ではございません。
  178. 山口富男

    山口(富)委員 わかりました。  時間が参りましたので、私は最後に申し述べますが、やはり景気回復に向けて引き続き、経済活動の六割を占めると言われる個人消費の問題、これを温める政策が非常に大事だと思うのです。それで、私は、企業部門だけでなくて家計部門の動向をよく見て日本銀行の皆さんがこれからの金融政策の運用に当たるように改めて求めまして、質問を終わります。  どうもありがとうございました。
  179. 萩山教嚴

    萩山委員長 次に、阿部知子さん。
  180. 阿部知子

    ○阿部委員 社会民主党から阿部知子、質問させていただきます。  長いお時間、そしてちょっときき過ぎたクーラーの中で、皆さん大変御苦労さまでございます。私からの御質問、何点かさせていただきます。  まず第一に、速水総裁にお伺いいたします。  新日銀法の施行後二年を経まして、かつての自社さ連立政権のもと、私ども社民党も含めて強く主張いたしました日銀の政府からの独自性並びに透明性ということに関しまして、今日に至るまで二年間の速水総裁の印象、感想、また御意見をお聞かせくださいませ。     〔委員長退席根本委員長代理着席
  181. 速水優

    速水参考人 日銀法が新しくなりまして二年余りになります。この誕生の過程ではいろいろ御尽力いただいたのだと思いますが、おかげさまで独立性と透明性という、この二つの新法の理念を実現すべく私どもも最大限の努力を行ってまいりました。これは、私どもが非常に長年期待しておりました二つのことを与えられたという感じがいたしております。  まず、独立性の方から申しますと、この間、日本銀行では、デフレスパイラルの瀬戸際といった危機的な状況に対応するためのゼロ金利政策の採用などは、これは内外に例のない極めて思い切った金融緩和策であったと思います。また、その一方で、国債の引き受けは行わないこと、長期国債の買い入れオペは一定のルールに従って行うこと、こういった方針も貫いてまいりました。このように、独立した中央銀行として何を行うべきであり何を行うべきでないのかということを、政策委員会で十分討議を尽くした上で、政策委員会の責任と判断で決定してまいったつもりでございます。  もちろん、そうした判断について広く市場や国民の理解を得ていく上では、政策運営の透明性を確保していくことが極めて重要であるということも、私どもが強く心の中に持っておるもう一つの原則でございます。  この点、日本銀行は、金融政策決定会合の議事要旨それから金融経済月報の公表、こういうものを通じて政策決定の内容やその背景を極力明らかにするように努めております。さらに、私自身、こうした国会での答弁や記者会見あるいは講演など、さまざまな機会を通じて日本銀行考え方をできるだけわかりやすくお伝えするように努力をしてまいったつもりでございます。これらの結果、日本銀行政策運営についての透明性、アカウンタビリティーといいますか、この透明性は、先進各国の中央銀行と比較してもトップクラスにあると自負いたしております。  もちろん我々としてもこれで十分と考えているわけではございません。今後とも国民や市場からの信認を確保、向上させてまいりますためにはどのような点を改善すべきなのか、さまざまな御意見や御批判にも真摯に耳を傾けつつ、努力を続けてまいりたいと思っておるところでございます。
  182. 阿部知子

    ○阿部委員 ただいまの御答弁の中で、ゼロ金利政策の導入に当たっての独立性については、一定私も納得いたしますところでございますが、本日の委員会に約半日出席いたしまして、速水総裁がこの間ずっと公言しておられましたむしろゼロ金利政策解除ということに関しましては、ここのところ、平易な言葉を使いますれば腰砕けと申しますが、なぜか不思議なことに実現いたしませんでした。  これを素朴な目で拝見しておりますと、先ほど来何人かの質問にもございましたが、例えば首相からの要望、あるいは米国の財務次官からの御要望等々もあったやにお見受けするほどに、やはりそれまでの、七月十日までの速水総裁の御見解と異なる結果が本日のゼロ金利政策解除なしというお話でもございました。  その意味で、独立性につきましてはなお私は懸念を残すところでございますが、この間、いろいろな方が御質問なさいましたし、あえてこの場で伺いますことは総裁を苦しい立場に押し込むようにも思いますので、私の印象のみを申すにとどめさせていただきます。  また、いま一つの透明性に関してでございますが、これは先ほどの岩國委員の御質問にもございました中で、たしか黒田理事の御発言かと思いますが、私どもは、例えば銀行から政治家への政治資金の借用と申しますが、流れがあったやに、これまでの国会の中でも伺っておりました。そして、そうしたことについても、各銀行の動向を必ずしも日銀がこの場において国民の前に明らかにできないということ一つをもっても、まだまだ国民の要求する透明性からはほど遠いというふうに思っておりますが、この点についてはいかがでございましょうか。速水総裁にお伺い申し上げます。
  183. 速水優

    速水参考人 透明性の点につきましても、私自身も日本銀行に長く勤めてきた者でございますけれども、昔に比べて随分変わったなという感じがいたします。  そして、まず、決定会合の議事録を広報したり、あるいは記者会見で説明をしたり、さらにまた、このごろは特に市場との対話ということの重要性を非常に感じておりまして、市場に対していろいろな形で私どもの考えを伝えるように努力をいたしておるつもりでございます。この辺は新しい日本銀行法に私どもが課された課題であると思いまして、今後ますますその努力を重ね、努めてまいりたいというふうに思っております。
  184. 阿部知子

    ○阿部委員 昨日、ちょうど梅雨明け宣言がなされましたが、何度も申し上げますが、国民はこのゼロ金利政策解除を待ち望んでいたものと私は思っております。そして、現実には、きょうの報告書にもありますように、そごう問題を初めとしていろいろな観点からゼロ金利政策解除は時期尚早というふうに判断されたということで、なお先ほどの透明性の問題から、速水総裁みずから国民の前に御意見なり見解なりをさらに明らかにしていただけるよう私からお願い申し上げます。  次に、先ほど来、外からの圧力によってこの政策が決まったものではないという主張が繰り返されておりますが、それを天の声ではないという形でおっしゃっておりますが、私はここでひとつ民の声を御紹介申し上げたいと思います。  なぜならば、天の声ならぬこの決定に、本当の意味速水総裁と思いを一にして国民のための金利政策を求めているのは、ほかならぬ生活者、庶民でございます。その庶民の声を速水総裁はもちろん御存じと思いますが、私がこの場で新聞投稿の幾つかから引用させていただきますことによって、ゼロ金利解除、この一点に総裁のお気持ちがさらにさらに強く傾いてくれるよう願って、二つの投稿を御紹介申し上げます。  地方紙から二つですが、まず、名古屋の朝刊に出ました六十六歳男性からの御意見でございます。   景気対策で日銀がゼロ金利政策を採用して久しい。その間に日本の多くの制度は、正常に機能しなくなった。   金利が適正なら国民の所得になるはずの利息分が、銀行と産業界へ流入して不良債権と債務の処理に使われ、とくにゼネコンを助けることになった。その分、消費は盛り上がらず、景気はさえない。   年金、国保、その他の文化基金などは運用益が大きく下がった結果、元金まで減少し、制度そのものも成り立たなくなる状況だ。   金利の上下で、立場によって明暗が分かれるが、明暗のバランスがとれる適正な金利を選び、社会に活力をもたらすことが大切だ。   公定歩合が適正でなければ、景気も社会の諸制度も国際競争力も維持できない。   ゼロ金利政策では、円高ドル安になっても金利を下げる余裕はなく、インフレに暴走する危険がある金融緩和しか手段がないのが現状だ。   日本経済、その他の諸制度はゼロ金利で正常に機能するようにはできていない。早急に適正金利に戻し、明暗のバランスを正せば、消費は戻って、景気を助けるだろう。  このことの中で一番強く指摘されておりますのは、今般の短観を見ましても、一番回復の遅い消費動向については、ゼロ金利解除こそが、まず消費者の動向を大きく改善する早道であるというふうに理解されると思います。  引き続き、第二の投稿の御紹介に参ります。七十三歳のやはり男性でございますが、西部の朝刊からでございます。   三月期の決算で、都市銀行など大手の主要銀行十五行が黒字を計上したという。六年ぶりのことで、銀行にとってはめでたいことであろう。   しかし、いくら黒字になっても現在のゼロ金利政策が解かれ、たとえささやかでも利子を待ち望む庶民の懐を潤すことにならないのだから残念である。   一説では、家庭の預金は七百兆円を超えるという。その利子を五%とすれば、三十五兆円の利息が家計に入る計算だ。それが全部消費に回らないにしても、年間の消費支出は一〇%以上伸び景気の浮揚は見込まれると思う。   このたびの銀行黒字は、ゼロ金利政策とともに株式市場がもたらしたもののようで、銀行自身が血みどろの営業努力を重ねた結果ではないようだ。国民の血税である公的資金で銀行は立ち直りはしたが、銀行内部でどのように営業改革をしたのか、国民にはなにも見えない。 等々でございます。  ここに二つ御紹介した国民の声は、やはりこの間のゼロ金利政策で得をしたのは銀行と一部企業、損をしたのは国民、庶民であるという見解を多くの国民が持ったことの反映であると思います。もちろん、物価の安定等々の当初目的とされました日銀総裁のゼロ金利政策導入時の観点はさることながら、今のこの二つの庶民の御意見について、速水総裁の御見解を承りたく存じます。
  185. 速水優

    速水参考人 私も、ゼロ金利というのは異常な金利であるということは、きょうも何回も言わせていただいております。これはできるだけ早い時期にもとの姿に戻していきたい。  確かに、ゼロであればこれ以上下げられませんし、本当の意味での金融調節というのはこの状態では非常に難しいということが言えるわけです。ただ、今、やはり昨年の二月以降、金融システムを安定化してデフレスパイラルをなくすようにしていくという日本経済に課せられた大きな課題の中で、私どもはやれる最大のことをやってきたつもりでございます。それがやはりかなり効果を果たして、中期の金利、長期の金利も余り上がらないで、私どもが潤沢に流している資金が、金融機関を通じ、あるいは市場を通じて企業に回り、またその資金が新しい仕事をつくり、そしてまたそういうふうに上がってくれば個人が潤うようになってくるわけでございますから、もうここまで来れば大体先が見えてきたと私は思っております。  確かに、おっしゃるように、大衆、市民の預貯金というものが、非常に長期にわたって低金利に我慢をしてきてくだすったということ、これは本当に私どもとしては申しわけがないという感じはいたします。  しかし、これでむしろ元本がしっかりしております。減価は全然しておりません。そういうことで、これから少しずつ金利が上向いていって明るくなってくれば、これらの方々も、特に年金生活者、あるいは生涯一生懸命働いて積み立ててこられた方々が、その預貯金の利益を得られないというのはやはり非常に悲しいことでございますから、ここのところはなるたけ早い時期に引き上げていくことが必要だ。  金利を上げるということは、一方で借りる人たち、先ほども申し上げましたように、企業や政府にはやはりいい顔はされません。しかし、それをやることが、最終的には預貯金を通じ、あるいは一人一人の家計にある金融資産というものがもう少し利益を生むような形になってくることになれば、これは明るいニュースだと思いますし、経済自体もそれによって明るくなっていくと思います。早くそういう事態が来ますように、私どもも一生懸命努力をしながら、正しいタイミングで正しい幅の引き上げというか、ゼロ金利解除というものをやっていきたいと思っております。  ただ、これは引き締めではないということと、ゼロ金利解除しても資金の供給は引き続き潤沢に行っていくんだ、この二つのことはぜひ皆様も御理解いただきたいというふうに思います。何か、金利を上げると言えばこれは引き締めなのかというようなことをあちらこちらから声が出てくるわけなんで、その中間にあって私どもがそれを調整して、そのどちらにも余り不満のないような形で金利を正常化していくといいますか、もとどおりの姿にしていくことに努めてまいりたいというふうに思っておる次第でございます。  今の二つの投書はどちらも同じようなことを言っておられたと思いますので、今の私の説明で御満足いけないかもしれませんが、回答にさせていただきたいと思います。
  186. 阿部知子

    ○阿部委員 このような庶民の見解といいますか国民の見解が出ますもう一つ背景には、先ほど来、国民は苦しい思いをしている、しかしながら銀行は必ずしもそれに見合う営業努力をゼロ金利下ではしていないというふうに受け取っている向きが多いものと思われます。  そして、そのことに関連して、本日提出されました報告書の中でお伺いをいたします。  二ページ目の「中長期的な課題への取り組み」という中の回答でございますが、日本経済が比較的回復過程にあるという中の説明で、「第二は、金融システム面での新たな動きです。」とされまして、「日本金融システムは、公的資金の投入や金融機関リストラ努力などによって安定を回復してきました。」というくだりがございます。このことに関連して、日本の各銀行の努力速水総裁はどのように評価され、またどのような不十分点を考えておられるでしょうか、お教えください。
  187. 速水優

    速水参考人 金融機関リストラ努力というのは、金融システムの不安とそこからの立ち上がりの過程で、彼らがやはり自分たちで資本金を潤沢にもっと大きくして、自分たちの不良資産を償却するとともに、自分たちの得意の方向に向かうことによって、銀行業の今後の方向をそれぞれが示さなければいけないという大きな一つの転換の時期であったと思います。  そういう意味では、九八年の春からここ一年半あるいは二年の間に日本の銀行は、資本の注入もありましたけれども、自己開示をどんどんやりますし、それと同時に、自分の得意とするバンキングの方向をはっきり定めて、再編といいますか、マネーセンターバンクなどと言われる海外にたくさん店を持っていた銀行が二十近くあったわけですけれども、そういうものが、やはり自分たちはこのままではいけないということで、それぞれ今後の生きる道を考えながら、かなり大きな再編が起こって、大銀行でも四つないし五つのグループに分かれて、合併ないしは持ち株会社をつくって一緒に仕事をしていくという方向が定まってきた。  これなどは随分早い、しかも彼らの努力、政府のいろいろな指導もあったと思いますけれども、自分たちで将来のことを考えて、進むべき道を進みながらリストラを行っていったということは、私は高く評価していいんだというふうに思っております。この調子で、スピードを落とさないでリストラをやり、かつ、自分たちの業務の方向をはっきり決めて進んでもらいたいというふうに思っております。     〔根本委員長代理退席、委員長着席〕
  188. 阿部知子

    ○阿部委員 では、今のことに関連して、少し視点を変えて伺います。  今回のゼロ金利政策解除に向かわせしめない最大の理由がそごう問題と言われております。では、速水総裁はそごう問題の本質は何であるとお考えかというのがまず第一点。また、その中でメーンバンクたる興銀の果たすべき役割について、二点目、お伺いいたします。
  189. 速水優

    速水参考人 そごう問題につきましては、私どもも、前々からいろいろそごうが大変だということは聞いてはおりました。しかし、大きな借り入れを持ち、しかも必ずしも収益が上がっていない、どういう形でこれが今後の方向を決めていくかということを関心を持って見ておったわけでございますけれども、御承知のように、民事再生法という新しい法律が昨年の秋にできまして、それが四月から施行されることになったわけですけれども、負債がとにかく一兆八千七百億円、商品の納入会社だけで一万社以上あるといった大きな百貨店でございますから、これがどうやって立ち直っていくかというのは非常に大きな課題であったことは間違いのないところでございます。  どういうふうにしていくかなと思って、会社更生法といったような方法もあるでしょうし、どこかと合併するということもできたでしょうし、しかし、民事再生法を適用するという形で政府が関係者と話し合って、預金保険機構その他と話して決めていかれたということは、私は間違っていないと思います。このやり方でいきますと決着が非常に早くつくのじゃないかと思います。  ただ、これに伴って失業問題が出たり、あるいは出入りしていた会社がいろいろ苦労をしたりというようなことは、まだまだこれから起こっていくかもしれません。しかし、それは資本主義経済の中での起こるべくして起こった企業の破綻でございますから、その点はそれぞれの道で今後のことを考えていくしかないというふうに思っております。
  190. 阿部知子

    ○阿部委員 そごう問題に関しまして国民が抱いた感情と申しますか印象と申しますか、これは、もちろんそごうという企業が放漫経営の末に破産を迎えたということ以上に、そのことに国民の血税をつぎ込むような金融再生委員会の策が出されたということにも一つ大きな問題があると思います。特に、メーンバンクである興銀の果たすべき役割ということについて、国民が、本来のそごうと興銀の関係から見てもっと的確な責任がとれるのではないかというふうに思ったことにもあると思いますが、この点についてはいかがお考えでしょうか。
  191. 速水優

    速水参考人 今御指摘の点は、興銀とそごうとの長年の取引だと思いますけれども、個別の取引のことでございますので、私の立場でこれをコメントするわけにはいかないということを申し上げたいと思います。
  192. 阿部知子

    ○阿部委員 了解いたしました。  では逆に、確かにそごうは資本金一兆七千億円、従業員も、下請関連を含めますと五万人程度見込まれる、それだけの企業ではございますが、先ほど来多数の委員から御指摘がありますように、これから、倒産する企業の個々の動向を見てゼロ金利政策解除が云々されるのであれば、逆に言うと、いつまでたっても切りがないということにも結びつきかねません。  そこで、個別そごう問題に関しまして、速水総裁指標となさいます幾つかの観測点をお教えください。逆に、このそごう問題で何と何が安定すればゼロ金利政策解除してよしとみなされ得るのか、その点についてお答えをお願いいたします。
  193. 速水優

    速水参考人 先ほども申し上げたことなんですが、民事再生法の適用で解決するという方針が決まりましたのも、全く私ども予想していなかったことでございましたし、市場も同じだったと思うのです。それで、木曜日の日はかなり市場は荒れたと思います。株も下がりましたし、為替もかなり動いて円が安くなる。海外から見て、日本は大丈夫かという感じが恐らく多少は出たのかと思います。  そういうことは、しかし、よくよく話し合いを聞き、法律を読んでみますと、この方法が最も早く、そごうがこれ以上生き延びられないということであるならば、やはり早く整理していかないと、これを先延ばし先延ばししていったのでは、今おっしゃったような、雇用者もそうですし、それから株主、取引先いずれもみんな、このままでどうなるのかなと思いながら続けていくというのはやはり無理があると思います。  この新しい法律が、かつての会社更生法など、これは随分時間がかかるんですね、そういうものに比べて二、三カ月で決着をつけていくというふうにも聞いておりますし、恐らく市場の方も、きのうきょうあたり割合落ちついた動きをしているようでございますから、私は、そんなにこの問題は長く尾を引かないのじゃないかと。ほかにも大きな伝統のある企業で破綻しなければならないというような企業もあるかと思いますけれども、今度のそごうのように、非常に関係が、幅が広くて大きな企業が突如民事再生法という新しい法律でこれを整理するというふうに決まった市場の驚きというのは、そんなに繰り返されるものではないというふうに思っております。  そういう意味では、なるたけ早く市場がこれをのみ込んで落ちついてもらいたいと思いますし、私どもとしても、ゼロ金利解除の問題を考えるについても、こういうことが長引けばやはり心配が残るわけですから、そういう意味からも、早く市場が平静化することを願っておる次第でございます。
  194. 阿部知子

    ○阿部委員 きょうちょうだいいたしました資料の三ページによれば、そごう問題は、短期的には市場心理などに与える影響をもう少し見きわめる必要があるとの指摘がなされたという、非常に漠然とした表現がとられておりますので、私は今具体的にお伺いいたしました。  そして、速水総裁のお答えが、一つには株式市場、もう一つには為替市場の変動であるというふうに承りましたので、少なくとも株式市場に関しましては、いっとき銀行銘柄を中心下落が起きたそうに書いてございますが、それも回復過程に向かいつつあるということで、残るもう一つの為替等々の指標に関しまして、これは速水総裁以外の方でも構いませんから、そごう問題が与えた為替への影響と、それをいつまで見れば一応影響解除されたとみなされ得るのかについてのお答えを伺いたく存じます。
  195. 山口泰

    山口参考人 為替市場におきましても、ただいま総裁が申し上げましたように、そごうの法的処理への移行ということがある種の連想を生みまして為替の変動を誘ったわけでございますけれども、幸い、その後、大きな変動が続けざまに起きるというような状況にはなっていないと思っております。  ただ、これは少し前の議論のときにも私申し上げたことでございますけれども、日銀の金融政策決定に関する政策委員会の議論というのは、それまでに出てきた経済金融それから世界経済、極力多くの情報を消化して、経済の今後についての展望を立てながら一つ政策判断をその都度下していく、こういうやり方をとっておりますので、もちろん、これから次の政策決定会合までにどういうことが起きるのか、予断を許しません。あらゆることに注意深く目をみはりながら、最善の選択をしていきたいと考えております。
  196. 阿部知子

    ○阿部委員 再度山口総裁に御確認でございますが、一応、株式市場と為替については、変動があったが安定傾向にある、他の指標については、具体的なものは挙げられないけれども、慎重に見きわめていくというふうな御見解と確認してよろしいでしょうか。
  197. 山口泰

    山口参考人 先週、七月十二日にそごうが法的処理に移行するという発表がなされて以後の市場に限って申しますと、幸い、大きな混乱が生ずる事態には至っていないというふうに思っております。こういう傾向が定着することを願いながら、市場動向を注意深く見てまいりたいということを申し上げました。
  198. 阿部知子

    ○阿部委員 では、引き続いて、問題点を少し移行させていただきます。  外圧云々に関してのこととも関連してまいりますが、日本のゼロ金利政策米国市場に及ぼす影響についての御見解を教えてください。どなたでも結構です。
  199. 速水優

    速水参考人 お答えします。  ゼロ金利の早期解除ということが行われたときに諸外国の声がどういう声なのかという御質問かと思います。  G7は、各国の大蔵大臣、中央銀行総裁の方々と、各国の経済情勢政策運営について忌憚のない意見を交換する場所でございますけれども、私はゼロ金利は引き続き存続することにいたしますということを説明いたしましたけれども、それに対して注文をつけ合うというような会合ではございません。G7もそうですし、毎月一回行われますバーゼルでのBISの総裁会議なんかでもそのとおりでございます。みんなよく話は聞いてくれますけれども、どうしたらいい、どうすべきだというようなことは言われません。  これまでもG7を含めた国際会議等におきまして、我が国の経済情勢や、ゼロ金利政策解除する条件としてデフレ懸念払拭できるような展望ができるまでということを繰り返し説明してきておりますので、国際機関などにおきましても、日本経済改善の方向に進んでいることは十分認識してくれていると思います。  いずれにしましても、G7各国とも、金融政策は独立した中央銀行がみずからの判断と責任で運営するものであることは法的にも確立しております。そのことは日本銀行でも同様でございまして、日本銀行の現在の政策運営について、海外からの声が何らかの妨げになってかかってくるというようなことはございません。
  200. 阿部知子

    ○阿部委員 マスコミも含めてその点の懸念が大きいことゆえ、ここで再度確認をさせていただきました。  引き続いてまた、ゼロ金利政策解除ということについて、最後に二点、御確認をしたいと思います。  ゼロ金利政策解除に当たっては、一に物価の安定ということを指標にこの間進められてきましたが、景気回復という新たな視点ということも先ほど来各委員からの御意見がございました。例えば小池委員はまだまだ景気回復は不安定であるという御意見でしたし、指標を、物価の安定のみならず景気回復というふうによりさらに広くとりますと、なかなかゼロ金利解除は難しくなってまいるやに存じますが、再度、ゼロ金利解除における一番大切な中心的視点を何とお考えか、速水総裁に伺います。
  201. 速水優

    速水参考人 御指摘のとおり、金融政策の目的というのは物価の安定、言いかえてみれば、インフレでもないデフレでもない状態を目指すということでございます。このために、ゼロ金利政策解除条件も、デフレ懸念払拭という物価面において着目しておるわけでございます。先行き物価動向を判断するためには、物価指数の動きだけでなくて、その背後にある需給バランスとか賃金の動向などを総合的に見ていく必要があると思います。  そうした観点から、民間需要自律的回復が展望できるかどうかが重要なポイントとなっておるわけでございますが、このことは、景気回復を至上命題として物価安定という目的を放棄しているということではございません。日本銀行としては、持続的な景気回復を実現させるためにも、今後とも、物価の安定確保を基軸に据えて、金融政策判断に誤りなきを期してまいりたいと思っております。
  202. 阿部知子

    ○阿部委員 ありがとう存じました。  景気回復という観点から、私の関連いたします医療分野において、短観等々での指標に必ずしも反映されない部分がございますので、この点について最後に一点だけ質問をさせていただきます。  現在、就労人口六千万のうち約六百万人以上が医療、介護、福祉の分野に従事しております。先ほどの渡辺委員の御質問の中での公共事業等々に従事する人口六百五十万人に引けをとらない人数でございます。しかるに、この医療、介護、福祉分野での活動は、今回の短観等々を見ましても、必ずしも正しく反映される指標がないやに思いますが、このことに関しまして、今後の景気回復、特に私は、医療、介護、福祉分野こそこれからのIT産業と並ぶ景気回復に寄与する分野と思いますので、このことを正しく反映できる指標について、日銀のお考えを伺います。
  203. 永田俊一

    永田参考人 お答え申し上げます。  ただいまの御質問でございますが、短観に医療分野あるいは福祉分野、介護分野といったものが反映されていないのではないかという御指摘でございました。  確かに、短観は企業のいわば景気動向というものを調べるためにアンケート調査をさせていただいておるものでございますので、対象は営利法人ということになっております。したがいまして、現在のところ、医療法人なりあるいは福祉法人といったものにつきましては非営利ということが多いものでございますので、現在、調査の対象としては入っておりません。  ただ、反映されているかどうかという問題でもう一つ申し上げますと、まさにこの分野に対しまして、例えば病院に介護の器具を納入するとか、そういう資材とかあるいはサービスを提供している企業、全体で九千強の企業に対して調査を依頼しておりますので、そういう間接的な効果というものは入っているというふうに推察されるわけでございます。  いずれにしましても、この問題は大変重要な今後の成長分野の問題でございますので、私どもも、統計につきましては、定期的な、恣意性を入れない見直しを適時やっておりますので、見直しの際にそういうことにつきましても十分配慮していきたい、そのように考えております。
  204. 阿部知子

    ○阿部委員 どうもありがとうございました。以上で質問を終わらせていただきます。
  205. 萩山教嚴

    萩山委員長 以上で質疑は終了いたしました。  参考人におかれましては、長時間御苦労さまでございました。  本日は、これにて散会いたします。     午後六時三十七分散会