○千葉景子君 私は、民主党・新緑風会を代表して、ただいま
議題となりました内閣提出の
刑事訴訟法及び
検察審査会法の一部を
改正する
法律案、
犯罪被害者等の保護を図るための
刑事手続に付随する
措置に関する
法律案、民主党提出の
犯罪被害者基本法案について
質問いたします。
これまで犯罪被害者は、
我が国の刑事司法手続が国家刑罰権対被疑者・被告人という構造を前提に
制度化されていることから、捜査や裁判の参考人か証人として扱われることはあっても、主体的に
刑事手続に関与する法的地位は与えられていませんでした。被害者として、犯罪に関しては相対する当事者であるにもかかわらず、法
制度では蚊帳の外に置かれ、精神的にも経済的にも苦痛を強いられてきた状況が今広く認識され始めています。
今回の
政府案は、
刑事手続における被害者の取り扱いを規定したもので、犯罪被害者の法的地位を明確にする第一歩として歓迎したいと思います。
しかし、これはあくまで第一歩であり、「すべて
国民は、個人として尊重される。」と規定した憲法十三条、生存権や国の
社会保障義務を規定した憲法二十五条に照らして
考えると、いまだ十分な位置づけがなされているとは言えません。また、国連においては一九八五年に、被害者のための司法の基本原則宣言、いわゆる犯罪被害者人権宣言を採択していますが、
政府案及び
政府が進めている
対策はこの宣言から見るとまだまだ不十分であります。
民主党案は、犯罪被害者の人権保障を土台に据え、被害者が犯罪に遭ったときから被害回復を図り、
社会復帰するまでのすべての段階で必要とされる
施策や法制上の
措置などを総合的に実施するための基本方針が示されたものですが、
政府としてもこうした基本法制定を念頭に置いておられるのか、まずお伺いいたします。
臼井法務大臣は、衆議院本
会議において、基本法の必要性は、種々の個別具体的な
施策を講じていく中で、総合的な見地から
検討するのが適当であろうと
考えております、今回の
法案に盛り込まれていない点についても、
議論が熟したものから適切に
対応してまいりたいと述べられています。
しかし、総合的な
ビジョンをまず提示することで、個別具体的な
施策に方向性を与え、
議論をリードしていくのが
政治の
役割であり、
政治家たる大臣の御任務ではないでしょうか。臼井法務大臣の御決意をお聞かせください。
関連して、民主党の発議者にお伺いいたします。
基本的人権の歴史を振り返ってみますと、十九世紀は国家からの自由を追求し、二十世紀にはそれに加え国家による自由が求められてきました。
刑事訴訟法は、いわば十九世紀的自由権の世界とも言えましょう。二十世紀
最後の年にようやく二十世紀の視点が盛り込まれることになったわけです。
ところが、時代は既に先を行っています。国家刑罰権に対し被疑者、被告人及びその弁護人が対決するという構造から、国家と加害者、被害者が当事者として司法にかかわり、加害者、被害者の両者がともに
社会復帰を果たせるようにすることで正義を実現する回復的司法ともいうべき
考え方が世界の潮流ともなっています。
民主党の発議者は、こうした
考え方をどのように評価されていらっしゃいますか。基本法にはこの二十一世紀的とも言える
考え方が反映されているのでしょうか。御所見をお示しください。
また、
犯罪被害者基本法案と
政府提出
法案とは相対立するものではないと思われますが、その
関係についてはどのように
考えておられますか。
さらに、民主党案では、財政上、法制上の必要な
措置を講じることとしています。予算を伴う
施策となればその優先順位が問題となりますが、具体的にどの
施策に取り組むべきだと
考えているのか、さらに法制上の
措置としては現在何を想定されているのでしょうか。御説明をお願いいたします。
続いて、
政府案と犯罪被害者行政の具体的
内容に沿って
質問をさせていただきます。
犯罪に遭って心身にダメージを受けた被害者にとってまず重要なことは、適切なケアを受けることです。この被害者支援について厚生省はこれまでどういう取り組みをしてまいりましたか。犯罪被害者
対策関係省庁連絡
会議の報告書を見ても
余り踏み込んだ取り組みがされているようには思えませんが、いかがでしょうか。
衆議院での
審議においても、犯罪被害者や遺族の方が高額の救急救命費や治療費を請求された事例が明らかにされています。また、哀悼の念など全く感じられない施設で司法解剖され、遺体を運ぶ運送費まで請求されて、遺族は、
社会から見放されたような思いで疎外感を強め、さらに傷ついたという話も伺っております。
こうした医療費等について
公費負担をすることについては、
国民の
理解も得られるのではないかと思いますが、
丹羽厚生大臣はどのようにお
考えでしょうか。
犯罪直後の危機介入と言われる被害者支援の仕組みづくりには、厚生省こそ率先して取り組むべきだと思いますが、いかがでしょうか。まずは、前代未聞の犯罪で多くの犠牲者を出し、今も深刻な後遺症で苦しんでいる地下鉄サリン事件の被害者の実態
調査を行い、被害者のニーズに耳を傾ける中で支援の方策を確立していただくよう要請いたします。
丹羽厚生大臣には、ぜひ積極的な御
答弁をお願いいたします。
また、刑事事件の司法解剖の施設等、被害者の尊厳が損なわれることのないよう、全国の施設を点検してくださるよう求めます。臼井法務大臣の御
見解をお聞かせください。
次に、犯罪被害者保護
法案について伺います。
法務省は、成案を得る前にパブリックコメントを募集いたしました。その際、項目として挙がっていた「没収・追徴、保全
制度による損害回復」、つまり被告人が犯罪によって得た収益等を没収、追徴して被害者の損害回復に役立てようという
趣旨ですが、これが
法案に盛り込まれなかった
理由は何でしょうか。寄せられた
意見は賛成するものが大半だったと聞いております。
犯罪被害者に関する実態
調査でも、被害による影響の中で、
生活が苦しくなったと回答する人が多数を占めています。被害者からも求められていた規定であり、ぜひ
見直していただきたいと思いますが、法務大臣の
答弁を求めます。
刑事訴訟法改正案の性犯罪に対する告訴期間の撤廃についてお伺いいたします。
これまで、被害から六カ月以内に告訴がないと加害者を罪に問うことができませんでした。強姦罪のように二年以上の有期懲役を科せられる重大な犯罪がこの規定によって処罰を免れてまいりました。被害者の多数が中高生や小学生という事実を
考え合わせると怒りさえ覚えます。
改正は遅きに失したと言わざるを得ません。
そもそも、性犯罪が親告罪である必要があるのでしょうか。欧米諸国では、性犯罪は親告罪とはなっておりません。
我が国でも、複数の加害者による強姦については、告訴の有無にかかわらず犯罪として処罰されることになっており、被害者のプライバシー保護の
理由だけでは説明がつきません。
問題は、性犯罪被害者の保護が法的、
社会的に適切に行われていないために、プライバシー侵害を含め、二次被害、三次被害と呼ばれる事態を引き起こしている点にこそあるのではないでしょうか。捜査や裁判の中で、あるいは医療現場の
関係者から心ない、暴言とも言える言葉を投げかけられることは日常茶飯事に起こっています。
千葉県警では、警官自身が留置場に勾留中の
女性を強姦するという言語道断の事件さえ発生しています。
裁判においても、九五年の横浜セクシュアルハラスメント事件の地裁判決に見られるように、被害者は外へ逃げるとか悲鳴を上げて助けを求めるとかできたはずなのにしなかったと、いまだに
男性優位の通俗的な
見解が示されているのです。性的被害を受けた
女性が一時的に硬直し、何事もなかったかのように行動し、不快な行為に抗議することがないという現象はレイプトラウマ症候群と呼ばれて、既に専門家の間ではよく知られたことでもございます。
警察、検察、裁判官、医師等、被害者と直接接する機関の人々に対し、被害者の心身医学等に関する最新の知見を周知させ、人権
教育を徹底することが必要だと
考えますが、国家公安委員長、法務大臣、
厚生大臣の御
見解をお聞かせください。
千葉県警の事件については
調査をし、厳正な対処をするよう国家公安委員長に求めます。
被害者
対策の先進国である
イギリスでは、性犯罪の被害者について、第三者に特定されることのないように匿名を確保することが
法律によって保障されています。こうした事例を参考に、被害者保護の
観点から、性犯罪に関する諸規定の全般的な
見直しをしていただきたいと思います。法務大臣の御所見はいかがでしょうか。
次に、被害者の知る権利に
関連して伺います。
警察の被害者連絡
制度、検察の被害者等通知
制度によって随分改善はなされてまいりましたが、そうした
制度があることを広く知らせることが必要です。被害者が一々問い合わせ先を確認するまでもなく、被害者や遺族に対してリレー式に刑事司法の各機関が
責任を持って情報提供することが求められています。特に、性犯罪の被害者にとっては、加害者の出所情報もぜひ知りたい情報です。性犯罪は再犯性も高く、現に出所した加害者によって被害者が殺されるという最悪の事件も起きています。
これらの点についてどのように
制度の改善を図っていくのか、法務大臣、国家公安委員長の
答弁を求めます。
警察の捜査規範に関して伺いますが、昨年六月に被害者
対策の一層の
推進を盛り込んだ
改正が行われています。衆議院で我が党の同僚議員が、その実施状況について業務監察をしてはどうかと提案したことに対して、保利国家公安委員長は積極的な姿勢をお示しになりました。その後、どのような指示、指導をされておられるのか、御報告をいただきたいと思います。
新潟の少女拉致監禁事件、埼玉や兵庫のストーカー殺人事件、愛知の少年恐喝事件など、いずれも警察が適切に対処していれば被害の拡大を防ぐことができた事件が相次いでいます。個人的な警察官の問題ではなく、警察全体の捜査能力の低下が危惧されるところです。
先日、我が党の議員が警視庁警察学校、警察大学校を視察いたしましたが、新規採用の若者
たちの意欲的な姿が印象的だったと報告を受けています。警視庁では、
女性は四十倍、
男性も十七、八倍の難関を突破して採用された若者
たちだそうです。
優秀な人材を確保しながらそれが犯罪防止や摘発に反映されないということは、
制度に問題があるのではないでしょうか。現場の実績より試験の成績が重視される昇任
制度や警備、公安に偏重した警察機構の
あり方の
見直し、
女性警官の積極的登用など、抜本的な改革が必要だと
考えますが、保利国家公安委員長の御
見解をお聞かせください。
最後に、小渕前総理は、犯罪被害者の遺族の
方々にみずから手紙を出し、被害者の
意見を聞いて種々の
施策を実施していくことを約束されています。我が党も遺族の方から御
意見を聞く機会がございました。
被害者
対策に当たる国家公安委員長、法務大臣、
厚生大臣の皆様から、この小渕前総理の約束を受け継いで実行されていくその決意をお伺いして、私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣臼井日出男君
登壇、
拍手〕