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勝木健司君 私は、
民主党・
新緑風会を代表して、
年金関連七
法案に対し、強く
反対する立場から
討論を行います。
法案に
反対する
理由を述べる前に、
与党三党による横暴な
委員会運営について強く抗議するものであります。
私どもが当初から要求してきた総理
質疑、地方公聴会がなされないまま、
委員会審議が十分に行われていない段階で
質疑が突如として打ち切られ、事もあろうに中央公聴会が開催されたその日に打ち切られたのであります。
重要
法案につきましては、
委員会審査の冒頭に総理に対して基本的
質疑を行うことができるとの
与党との申し合わせに沿って、私どもは
年金という重要
法案の
審議に当たり、冒頭、小渕総理の出席を要求し、
質疑が行えるよう強く要請してまいりました。
一たんは
与党の理事から三月三日金曜日の総理出席が約束されたのでありますが、前日になって、
理由も明らかにされることなく、一方的に総理の出席は難しくなったと通告され、総理
質疑は実現しなかったのであります。
我々は翌日、総理官邸の動きを伝える新聞報道によって、三月三日の総理の
日程には
国民福祉委員会に出席するに十分な余裕があったことを知り、愕然といたしました。
国会軽視も甚だしいと言うべきであります。
憲法第六十三条は、
内閣総理大臣その他の国務大臣は、答弁または説明のために出席を求められたときは、必ず出席しなければならないと定めております。小渕総理は、憲法が定める
国会への出席義務を何と心得ておられるのか。
また、総理の出席を約束しておきながら、直前になって拒否するという
与党の
姿勢も、公党間の信義に反するもので、許しがたいものであります。
さらに、
採決の強行により、
与党は我々から修正案の協議や
法案に
附帯決議案を付する機会を奪ったのであります。
年金改革をよりよいものとするための建設的な議論の芽を摘んでしまったのであります。
そもそも、この
年金関連法案は、
衆議院の
厚生委員会で数を頼りにした
与党の横暴で
採決が強行され、
衆議院議長の裁定で
法案審査が
委員会に差し戻されたといういわくつきの
法案でありました。
国民はこの間の
経過と
与党の
国会運営の
あり方について重大な懸念を抱いておりましたが、良識の府参議院においてもまたもや
採決強行という愚行が繰り返されたのであります。我々は、
年金関連法案が
委員長並びに
与党の横暴で
強行採決されたことに対し、深い憤りを覚えております。
年金関連法案の
採決を強行した責任は、
政府・
与党にあることは明らかであります。
国民の政治に対する不信感はますます増幅することでありましょう。
ことしは
衆議院議員の総
選挙の年でもあります。世論、マスコミは
政府・
与党を厳しく弾劾するとともに、
政府・
与党は有権者の厳しい審判を受けることになると強く警告をしたいと思います。
さて、昨年の十二月、私は参議院本
会議で、
年金関連法案に対して小渕総理に質問をいたしました。その中で私は、
国民の公的
年金に対する不信感の原因は何であるのか、総理のお考えをお聞かせ願いたいと申し上げたところでございます。ところが、総理は、
国民に不安があることは事実と認めながら、その原因については何ら言及をされませんでした。
私どもは、
国民の公的
年金に対する不信感は、
年金改革のたびごとに保険料の引き上げと給付水準の引き下げをセットとし、さらに支給開始年齢を先延ばしする、そういう意味で、まさに
年金が逃げ水のように
国民の手の届かないところに行ってしまうような、そういう改革案を
政府が繰り返し繰り返し
提案してきたことに大きな原因があると考えております。
今回の
政府案も、一方では将来の保険料を引き上げることを前提に、他方では給付水準を引き下げる、支給開始年齢を先延ばししようとするものであります。これでは
国民の
年金不信の火に油を注ぐようなものであります。
政府・
与党はこのような
年金改革案で
国民の将来不安が本当に払拭できると考えているのでしょうか。
小渕総理が委嘱された「二十一世紀日本の構想」懇談会でも、
年金制度は二十一世紀という長い期間を見据えて構築しなければ、人々の不安を必要以上に深刻化させると言っております。また、
年金の論理だけで改革案を用意するというような縦割り行政の弊害は排除する必要があるとも言っております。
政府案に対するこれほど痛烈な批判はありません。今回の
年金関連法案に対しては、小渕総理のおひざ元からもこのように厳しい批判がなされているのであります。
政府は、このような
国民の批判を受けて、
政府案の修正や撤回、凍結等を含めた対応を真剣に検討すべきであります。
次に、
年金関連七
法案に
反対する主な
理由を申し述べます。
反対理由の第一は、今回の
政府案が
基礎年金部分の改革をなおざりにして、いわゆる二階部分の給付抑制だけを行おうとしていることであります。すなわち、
基礎年金の国庫負担割合の引き上げを先送りするなど、
政府は
基礎年金の抜本改革から逃げ続けていることであります。
基礎年金の国庫負担を
平成十一年度に現行の三分の一から引き上げることについては、既に前回九四年の法
改正時に
国会修正で
法律の附則に明記されたところであります。これを受けて、
衆参両院の
委員会におきましても、
全会一致で二分の一を目途に引き上げることが決議をされておるところであります。
このように、
基礎年金の国庫負担二分の一への引き上げは、
政府が
国会と
国民に対して約束したことであります。今回、
政府が引き上げを見送った背景にある財政構造改革法は既に凍結されており、約束どおり二分の一への引き上げを直ちに
実施すべきであります。
政府案では、二分の一への引き上げは五年後になってしまうわけでありますが、私は、この四月が無理ならば、二〇〇一年度からでも
実施するよう強く要望をいたします。
さらに、より根本的な問題でもある税
財源によって真の
国民皆
年金を実現しようとするのか、無
年金者が出ようとも
社会保険方式を維持しようとするのかという問題につきましても、
政府・
与党は政策を明確にすべき時期に来ていると思います。
基礎年金の
財源を全額税とすることで
国民皆
年金が維持できるようになり、また、女性の
年金問題や無
年金障害者の
年金問題などの懸案事項の解決が図られるのであります。
私ども
民主党・
新緑風会は、
基礎年金の
財源を全額税とする制度を検討し、早急に結論を得るべきものと考えます。
小渕総理は、二兎を追う者は一兎も得ずとして、景気対策に専念されておりますが、
政府の景気対策は公共事業一辺倒であります。景気低迷の最大の要因は個人消費の沈滞でありますが、その背景には、御承知のように、
国民の将来不安があることは周知の事実であります。個人消費の伸びに結びつかない公共事業だけに莫大な予算をつぎ込むのではなく、
国民の将来不安を解消するために、
基礎年金の抜本改革を断行して
社会保障への信頼の回復を図ることが
国民の財布のひもを緩め、ひいては個人消費の拡大につながるのであります。これこそ総理の言う景気対策として
政府のとるべき最優先の政策ではないでしょうか。
反対理由の第二は、賃金スライドの凍結と
厚生年金報酬比例部分の五%削減の問題であります。
賃金スライドの凍結と報酬比例部分の五%削減によって、公的
年金の給付水準は大幅に低下をいたします。今の現役世代が老後受け取ることになる
年金の受給総額は現行制度より一千万円以上削減されることになります。今回の
政府案は勤労者の老後の
生活設計を根底から脅かすものであります。
特に、
年金水準の実質的維持を図ってきた賃金スライドの凍結は制度の本質的な変更であり、また、前回
改正で導入されたばかりの可処分所得スライドの考え方をも破棄するものであります。ところが、
政府の説明は
国民が到底納得できるものではありません。
委員会に提出された資料によりましても、賃金スライドの凍結と報酬比例部分の五%削減について、この部分を一年間執行を停止したとしても、全体でわずか五千億円程度の財政影響で済むことが明らかとなっております。厚生
年金だけでも百三十一兆円もの積立金があることから、この程度の財政影響は積立金を活用することで十分に対応できるものであります。
また、公費負担への影響も年間三百六十三億円程度にとどまることが明らかとなっております。今回の介護保険の特別対策が一兆円を超える国費の負担増であったことを思えば、財政規模だけを見れば
政府・
与党の決断一つで十分に可能であると言わざるを得ません。
さらに、小渕内閣は今般の
年金関連法案に加えて医療保険の分野でも抜本改革を先送りし、
国民に負担増を強いるだけの
法案を提出いたしました。
政府・
与党は、かつて橋本内閣が不況下に九兆円もの
国民負担を強いたことで景気の一層の悪化を招き、さきの参議院
選挙で
国民の厳しい審判を受けたことをよもやお忘れではないと思います。にもかかわらず、小渕内閣は今また
国民の不安をあおるような施策を強行されようといたしております。
公的
年金の給付水準を大幅に低下させるといった
国民の不安をあおるだけの政策は、将来に対する不安を解消するために、何としても見直していただきたいと思います。
将来への不安が個人消費を冷え込ませ、経済の停滞をもたらしていることから、私どもは、賃金スライドを引き続き
実施すべきであり、同様に報酬比例部分の五%削減は撤回すべきであると考えます。それができなければ、一年間この
改正部分の執行を停止してでも、その間有識者
会議等の結論を待って
社会保障のあるべき全体像を明確にした上で、まず
基礎年金改革を含めた
年金制度の抜本改革を断行すべきであります。
反対理由の第三は、老齢・退職
年金の報酬比例部分に係る支給開始年齢の引き上げ問題であります。
高齢者の雇用と老齢・退職
年金は接続していなければなりません。それが高齢期における
生活保障の大原則であります。老齢・退職
年金の支給開始年齢の引き上げは、
政府案では二〇一三年から
実施することが
提案されておりますが、これを撤回するか一時凍結するなどして
国民の不安を解消し、公的
年金に対する信頼の回復を図ることこそ先決であると思います。現下の経済情勢、六十歳代前半の雇用
状況を考慮するならば、二〇一三年以降の支給開始年齢の引き上げ
措置を、今法制化する
必要性は全くないのであります。
「二十一世紀日本の構想」懇談会も、
高齢者の雇用環境の整備と無
関係に
年金の支給開始年齢だけを引き上げるのでは、ただでさえ老後の不安を感じている四十歳代から五十歳代の中高年齢層の不安を増幅させ、
生活防衛のために貯蓄の増強に追い立てるばかりであると、そういうふうに言っております。
政府は最悪のタイミングで支給開始年齢の引き上げを
提案いたしております。これでは
国民の将来不安をあおり、ますます個人消費が冷え込むことになります。
老齢・退職
年金の支給開始年齢の引き上げは、経済情勢の安定と
高齢者雇用の環境整備が不可欠の前提でありますが、
政府はいまだこれらの政策
課題に有効な対策を打ち出せずにおります。支給開始年齢の引き上げは、将来、景気と雇用の回復を待って改めて
提案するなり凍結を解除するなりすべきものであります。
反対理由の第四は、老齢・退職
年金の繰り上げ支給に伴う減額率についてであります。
国民年金の繰り上げ支給については、現在、六十歳から受給し始めると四二%という大幅な減額率を掛けて減額支給されます。すなわち、一生涯にわたって五八%の
年金額しか受給できないのであります。
本来、老齢
年金の繰り上げ支給、繰り下げ支給の制度は、一定の範囲内でどの時点から
年金を受給し始めても一生涯で受け取れる
年金の総額は変わらない、その意味で画一的な支給開始年齢を強制されるものではなく、個々人の事情やライフスタイルに合わせて、いつから
年金を受給し始めても不公平な取り扱いを受けないようにするという重要な仕組みであります。
ところが、現在の減額率は昭和三十年時の生命表に基づいて算定されたものであり、その後の平均余命の伸びが反映されておりません。その結果、現在の減額率は、早期に受給を開始しようとする者に対して余りにも不当に厳しいものとなっております。
年金審議会の委員である高山一橋大学教授は、
年金数理的に見て、中立的な減額率については二六%ないしは二七%の減額になると推計されております。
政府は、四二%の減額率を三五%とも三〇%に改めるとも言っておりますが、この数字に関する
政府の説明は、予定利回りを五・五%にするなど現実の経済情勢と大きく隔たっており、到底
国民が納得できるものではありません。
適正な減額率の設定は、
国民に老齢
年金を何歳から受給し始めるべきかという問題を公平な条件のもとで弾力的に決定できる選択肢を与えることになります。私どもは、現在の雇用情勢に配慮して、早期退職者の
年金受給に不利益を与えないよう、また、国際的に見ても、より緩やかな減額率を適用すべきであると考えます。
国民が納得できる形で繰り上げ支給の減額率の
適正化を図ることは、支給開始年齢を引き上げようとする
政府案にとって必要不可欠の
課題、要請であります。
反対理由の第五は、
年金積立金の
自主運用に関する問題であります。
国民年金、厚生
年金の積立金は現在約百四十兆円にも達しておりますが、現在の公的
年金の財政方式が既に積立方式ではなくなっている
状況で、そもそもこの巨額の積立金はいかなる性格の
資金であるのか、
政府の説明は一向に要領を得ておりません。賦課方式であれば、過剰な積立金は保険料の引き下げや給付水準の維持のために使われるべきものであります。
また、百四十兆円という額は、国の一般会計の約二年分に相当する膨大な金額でありますが、
政府は、
年金積立金の適正な積立水準の
あり方についても合理的な説明ができないのであります。
さらに、百四十兆円もの巨額の
資金を市場で適切に運用していくことが本当に可能なのかどうか、
年金福祉事業団にかわって新たに設置される
年金資金運用基金にその体制と責任能力が備わっておるのかどうか、私どもは今もって
政府から納得できる説明を聞いていないのであります。
これらの問題については、これから行われる財政投融資改革の
審議にあわせて、当然
審議をやり直すべきであります。
政府の
年金関連法案には、このように多くの欠陥というか問題点があります。私は、
国民の
生活や暮らしの安心を提供することが私ども政治家の責任であると信じておりますが、そうであるならば、
少子高齢社会にふさわしい二十一世紀の
社会保障制度や
年金制度の
あり方を、与
野党の垣根を越えて、真摯にかつ十分に議論することが
国会の責務であると思います。
にもかかわらず、
与党三党は、
採決強行による
委員会差し戻しといういわくつきの
衆議院並みの
審議時間が消化されたことばかりを強調し、私どもに一たんは約束した総理への
質疑すら拒否し続け、あげくの果てに、事もあろうに公聴会の直後に
採決を強行したのであります。
公的
年金に対する
国民の不信感は、ますます増大するばかりであります。
国民がこれ以上将来への不安を抱かなくても済むように、
政府・
与党は、私どもの
提案に対して謙虚に耳を傾け、さらに
国会における議論に応じるべきであること、そして
国民の審判を仰ぐために
衆議院の
解散・総
選挙で
国民に信を問うべきことを強く訴えて、私の
反対討論を終わります。(
拍手)