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参考人(西川
元啓君) 経済
団体連合会におきまして経済法
規専門部会長を務めております新
日本製鐵の西川でございます。
本日は、
参議院法務委員会におきまして、
参考人として意見を述べる機会をお与えいただきまして、まことにありがとうございます。
それでは、
会社分割法制の導入を柱といたします
商法改正法案につきまして、これを全面的に支持する者として意見を述べさせていただきます。
グローバルな競争に直面している我が国
企業にとりまして、国際競争力を維持強化していくためには、組織
再編を通じて経済環境の急速な
変化に対応して事業の選択と集中を行い、効率的な経営を行っていくことが極めて重要であると
認識しております。しかし、我が国におきましては、諸外国にある
ような組織
再編に関する法制が長い間十分には
整備されてこなかったのでございます。
しかるに、平成九年に至りまして、経済界が五十年間にわたって主張し続けてまいった独占禁止法
改正による純粋
持ち株会社の解禁がなされ、また
商法改正による
合併法制の合理化が行われたのを皮切りといたしまして、平成十一年には
商法改正による
株式交換・
株式移転
制度の導入が行われたところでございます。この
制度は昨年十月に
施行されたわけでありますけれ
ども、この四月までに既に四十五件の
株式交換がなされております。また、
株式移転につきましては七件が行われているという
状況でございます。また、同じく平成十一年でございますけれ
ども、産業活力再生特別措置法が制定され、分社化を容易にする
制度が創設されるなど、
企業の組織
再編に関する
制度整備が相次いで急速に進んでまいったのでございます。これも経済社会の激しい移り変わりに対応して、我が国
企業が諸外国の
企業と競争する場を国際的に遜色のないものにし、国際システム間競争をリードし
ようとする国
会議員の皆様を初めとする政策立案や決定に当たる方々の御英断のたまものと
理解しているところでございます。この機会に、経済界を代表いたしまして、御
関係の皆様に対しまして厚く御礼申し上げる次第でございます。
また、本日の審議事項であります
会社分割法制に関しましても、平成十一年三月三十日の閣議決定の規制緩和推進三カ年計画におきましては、平成十二年度をめどに結論を得ることとされていたところでございますけれ
ども、産業競争力
会議等における経済界の要請などを故小渕前
総理にお受けとめいただき、法制審議会においては一年間の前倒しで結論を出していただいたところでございます。経済界といたしましては、小渕前
総理のリーダーシップに敬意を表しますとともに、他の法案に先んじまして本法案を御審議いただいております本
法務委員会の
先生方に対しまして厚く御礼申し上げる次第でございます。
それでは、ここで
会社分割法制の活用方法につきまして御
説明申し上げます。
御高承のとおり、本
商法改正法案からいたしますと、
会社分割として、人的
分割と物的
分割、新設
分割と吸収
分割、これを単独で実施する場合と他社と共同で実施する場合、こういう組み合わせがありますし、また一部は人的、一部は物的等といろんな類型が想定されるわけでございますけれ
ども、ここでは四つの事例について御
説明をいたしたいと思います。
まず第一でございますけれ
ども、
企業の既存の子
会社群の
再編成の利用でございます。
企業によりましては千社を上回る子
会社を有するところもあるわけでございまして、この中には長い歴史の中で複数の子
会社が同じ
ような研究をしておりましたり、同じ
ような事業を行ったりといった重複が生じてきております。この
ような場合に、人的
分割型の吸収
分割、これを活用すれば重複している研究開発でありますとか事業を、A
会社にはA′関連、B
会社にはB′関連といった具合に、キャッシュを伴うことなく選択と集中による子
会社群の並列化、これが可能となるわけであります。
現行
制度のもとでは、この
ような
再編成というのは人的
分割制度が存在しておりませんのでそもそもできないのでございます。また、前田
参考人からるる御
説明のあったところでございますけれ
ども、現行法上は
会社の債務を他の
会社に移転するには債権者の個別の同意を得なければならない。しかしながら、
会社分割法制が利用できる
ようになりますればこの個別の同意は不要となります。
企業にとっての事務負担が大幅に軽減されることとなるということでございます。
日本興業銀行、第一勧業銀行、そして富士銀行が、統合により、みずほフィナンシャル・グループを構成し
ようとしておりますけれ
ども、まず
株式移転によって三行の親
会社として純粋
持ち株会社を設立し、その後に部門ごとに事業を機能的に再構築するということでございます。この場合にこの
会社分割法制が活用されることとなると
考えているのでございますけれ
ども、万が一
商法改正法の成立がおくれることとなりますと、かかる金融
再編がおくれ、
ようやくその兆しが見え始めた我が国の景気回復にも大きな影響を与えかねないと危惧するところでございます。
第二番目の利用でございますけれ
ども、経営効率を高めるためにある事業部門を切り出して子
会社を設立するといういわゆる分社化、これが物的
分割型の新設
分割の利用によりまして簡便にできる
ようになるということでございます。すべての事業部門を切り出すことによる純粋
持ち株会社化も容易にできる
ようになるということであります。
現状の現物出資、事後設立または財産引き受けといった分社化の手続では、
先ほど申し上げました
ように、債務を個別に移転する手続が必要であることに加えまして、現物出資による
会社設立の手続が完了するまでの間営業を停止しなければならない、また裁判所の
選任する検査役の調査が必要とされており、時間がかかり過ぎる、あるいはどのくらいの時間がかかるのかわからない、スケジューリングができない、こういった問題があるわけでございます。今回御審議中の
会社分割法制では、営業を停止する必要がない、検査役による調査が不要となる、そういうことからこの問題が解消されることとなるわけであります。
法案が成立、
施行されれば、現行の手続で行われております分社化の多くは
会社分割の手続で行われることになるものと思います。特に、
分割の規模が小さい場合には、株主総会に付議することなく
分割が可能となる簡易
分割制度も採用されておりますので、この傾向が強まるものと
考えます。
第三番目の利用でございますけれ
ども、他社からある事業部門の営業を譲り受ける場合に、物的
分割型の吸収
分割、これを活用することによりまして、現行の営業譲渡法制に比べまして、現金の支出が不要であり、また債務の移転手続が簡便になることから、この方式も多く経済界において利用されることとなると思われます。
最後に、第四番目でありますけれ
ども、既存
会社がみずからを
分割して相互に資本
関係のない状態にするものでございます。
先ほど申し上げました
ように、これは現行法上不可能でありますけれ
ども、このたびの法案にあります人的
分割型の新設
分割、これを活用すればこれが可能となるのでございます。
多数の事業部門を抱えている
企業の中には、優良部門がその他の部門に埋没して
企業価値が低く評価される、いわゆるコングロマリットディスカウントなるものが生じているという
ようなところがある、こういうふうに言われております。市場の選別にさらされ、株主重視の経営が定着する中で、相互にシナジー効果のない事業部門にあっては、成熟産業を切り離し、将来性のある事業を継続させる、またはその逆を行うということでコングロマリットディスカウントを解消し
ようという
企業が今後あらわれてくるものと思います。
また、同族経営の
企業でございますけれ
ども、特定の親族の独立を円滑に行う、また場合によっては同族株主間の紛争を解決するため、あなたはこの事業を行う
会社の株主に、私はその他の事業を行う
会社の株主になるといったぐあいに
会社分割を行うことも
考えられます。こうしたケースは比較的小規模な
会社において
考えられるわけでございますけれ
ども、
商法改正法案では有限
会社の
分割法制の手当てもなされており、この
ような中小
企業のニーズにも十分配慮したものとなっているところでございます。
先ほどから
参考人の方々からいろいろ意見が出ているところでありますけれ
ども、労働者保護法制につきまして一言申し上げたいと思います。
現在御審議中の法案は、
衆議院におきまして労働者保護の観点からの修正がなされました。すなわち、
会社分割に伴う労働契約の承継に関しては、
分割をする
会社は労働者と協議をすることが義務づけられたことでございます。
会社分割に当たりましてこうした協議を行うということは、
雇用を含めた
社会的責任のある
企業としてむしろ当然のことであり、それを
法律で明確化することについては異存のないところでございます。
協議の時期でございますけれ
ども、
取締役会で
分割を決議する前にこれを実施する、これは不可能でございますけれ
ども、修正案は、
分割計画書または
分割契約書を本店に備え置くべき日までに、すなわち株主総会の二週間前までということでございますけれ
ども、となっていることから、実務上の対応も十分に可能である、こういうふうに
考えております。この協議は労働者の同意までをも必要とするものではないとのことでございますけれ
ども、経営としては、従業員の
理解と協力を得る
よう誠実に努める、それは申すまでもないことでございます。
以上、
会社分割法制の導入につきまして賛成意見を述べさせていただきましたけれ
ども、今回の
商法改正法案のその他の二点につきましても賛成でございます。簡易営業譲り受け
制度、この導入につきましては経済界のかねてよりの要望でございましたし、子
会社の計算による利益供与禁止規定についても当然のことと受けとめております。
ここで、
会社分割につきまして、この場をおかりして、
商法以外の分野における幾つかの今後の課題について若干申し上げたいと思います。
商法のみを手当てしていただくだけでは円滑に
会社分割を行うことは困難なのでございます。税制、上場規則といった関連諸
制度の
整備が不可欠でございます。
まず、税制でございますけれ
ども、
会社分割を行いますと資産の譲渡益課税等の問題が生ずる可能性があります。しかしながら、
企業の組織形態の選択に対する税制の中立性を確保する、こういう観点から、
会社分割法制を活用した場合には、課税の繰り延べをしていただきたく、税制上の手当て、すなわち資産の簿価譲渡の許容でありますとか、引当金、準備金の承継の許容でありますとか、株主への課税繰り延べでありますとか、登録免許税、不動産取得税の減免等、これをお願いいたしたいと思います。
また、今回の
商法改正法案におきましては、経済界が要望してまいったスプリットオフ、スピンオフといった米国型の間接
分割方式についての規定が設けられておりませんけれ
ども、これは立法措置をとるまでもなく、解釈上これを認め得る余地がある等の理由によるものであるとされておるところであります。しかし、既存の子
会社の
株式を株主に分配するといったこの間接
分割につきましても、課税繰り延べ等の税法上の手当てが整いませんと現実にこれを実行することはできないのでございまして、かかる措置を講じていただければと思っているところでございます。
さらに、税制の問題では連結納税
制度の早期の
整備が求められております。先進諸外国の大部分は、何らかの形で
企業グループが一体として納税する
制度を
整備しているのでございまして、
先ほど申し上げましたとおり、
企業組織選択への税制の中立性、これを確保する観点から、また国際システム間競争という観点からも、ぜひとも連結納税
制度を早期に
整備していただきたく、この場をかりてお願い申し上げます。
また、上場規則に関しましても、株主段階からの人的
分割を行った場合には、株主は既存の
会社の株と新しい
会社の株、これを持つことになるわけですけれ
ども、この新しい
会社の
株式が売買できなければ
会社分割の実効性というのは大きく損なわれることとなるわけであります。人的
分割によっても、
分割前に公開
企業であった
会社はその公開が維持できる、また
分割によって新設された
企業はその公開が迅速にできる
よう証券取引所等の規則の
見直しが必要となるわけでございます。
さて、
会社分割法制が
整備されますれば、組織
再編法制は一応完了すると言われております。しかし、グループ経営の充実の観点から
商法でさらに手直しをお願いしたいものがございます。
例えば、子
会社の
取締役、従業員に対して親
会社の
株式のストックオプションを与えること、それから事業部門や子
会社の業績に連動する
株式、いわゆるトラッキングストックと言われていますけれ
ども、これをお認めいただきたいこと、キャッシュ・アウト・マージャー
制度の導入、あるいは有限
責任事業組合
制度、米国ではLLP、LLCと言われておりますけれ
ども、といった新しい事業遂行組織の導入でございます。こうしたグループ経営を充実させる諸
制度につきましても、今後の課題として御検討いただければと存じます。
また、
会社分割もそうなのでありますけれ
ども、
合併、
株式交換、
株式移転といった組織変更を行うためには、簡易な案件を除きましては株主総会の特別決議が必要でございます。しかしながら、
株式持ち合いの減少、外国人株主の増加、年金による
株式の保有、そういう事情によりましてその定足数の確保が極めて困難な
状況になってきております。この特別決議に関する定足数のあり方につきましても、諸外国の法制等を研究しつつ、その
見直しを早期に御検討いただきたく、この場をかりましてお願い申し上げるところでございます。
以上、
商法改正法案の一刻も早い成立を切に希望いたしますとともに、関連諸課題の達成に向けたお取り組みをお願い申し上げ、私の意見陳述を終わらせていただきます。
どうもありがとうございました。