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参考人(藤川忠宏君) 藤川でございます。本日は、
民事法律扶助法について意見を述べる機会を与えてくださいまして、大変ありがとうございました。
既に、
山本先生から学問的な
見地からの御意見、それから小寺
弁護士からは、これまで
法律扶助を進めてこられた実務経験に基づいて御意見の開陳がありました。私は新聞記者でございますので、今までの新聞記者の取材を通じてこの今の
日本の
法律扶助についてどう感じたか、あるいは海外取材の経験もございますのでどう感じたか、それらについて意見を述べさせていただいて、御
参考にしていただけたらと思います。
実は、
法律扶助について関心といいますか持ちましたのは、たまたま今から六年前、一九九四年にイギリスに
司法制度の取材で伺いまして、そのときにリーガルエードボードという、
日本でいいますと特殊法人になるんですか、そこへ取材に伺いました。それで、イギリスでなぜ世界で一番トップクラスと言われているリーガルエードの
仕組みができたのかなということを知りたいものですから取材に行きました。
向こうの方が言っておられてなるほどなと思ったんですけれども、きっかけは実は戦争だということを言っておりました。戦争でだんなさんが戦地に行く、奥さんが内地に戻る、そういう形で家庭崩壊が非常に起きた。これに対して、今大分イギリスの離婚
制度は変わってきたようですけれども、当時はイギリスは
裁判でないと離婚できないという
仕組みだったんだそうです。その離婚問題がたくさん起きた、ところが
弁護士を雇えない女性の方がたくさんいる、それを何とかせにゃいかぬというようなことがきっかけだと言っておられました。
一九四九年にリーガルエード・アンド・アドバイス・アクトという
法律ができて、それから後に有名な一九八八年のリーガルエード・アクトという
法律ができて、これによってこのリーガルエードボードというのができたんだそうですけれども、そのときに向こうの方が言うには、あなた、病気になってお金がない、医者にかかれない、これは不幸だろう。そうすると、金がなくて医者にかかれなければ死ぬしかないでしょう。実は社会的
紛争というのも、これは社会
生活上の病気ですよと。どんなに例えば行儀正しい人でもあるいは社会的な
紛争に巻き込まれるかもしれない。それはどんなにジェントルマンであっても、がんになったりインフルエンザにかかるのと同じですと。金がなくても医者にかかれるためにメディカルエードというのができました。同じように、金がなくても
弁護士を頼んで自分の社会的な
紛争を
解決してもらう、そのために
法律扶助というのができたんだ、これは極めて重要なものだという話をして、ああなるほどそうかなという感じを持ちました。
社会
生活上の病気、それはだれでもかかるんだ。それが、金がないからそれに対して適切なリーガルサービスが受けられないというのはおかしいじゃないかということを伺ってきまして、ああ、いいお話を聞いたなと思っていましたら、実は昨年、今進んでいます
司法制度改革審議会の論点整理というのが出されまして、その中でこういうことを言っているんですね。
司法(
法曹)はと言っていますが、要するに
弁護士ということでいいと思いますけれども、いわば社会
生活上の医師の役割を果たすべき存在であると。ああ同じようなことを
日本もやっておる、何周かおくれで言い始めたなと。ただ、社会
生活上の医師である
法曹あるいは
司法制度も
法律扶助が
充実していなければ使えない。まさにイギリスのリーガルエードボードの担当者が言っておったようなことじゃないかなということを、まずそのイギリス取材で非常に強く感じました。
それからもう一つ、私がこれは何とかせにゃいかぬなと思っておったのは、多重債務者問題でございます。
二枚目に、昨年、一九九九年四月十九日付の
日本経済新聞の社説を載せさせていただいております。一昨年ぐらいから、リストラによって、いわゆる遊興型の多重債務ではなくて本当に首を切られたりなんかして、経済苦に伴う多重債務というのが非常にふえてきました。それが社会問題になりまして、私は一昨年、九八年暮れから九九年にかけてこの取材をしておりました。そのときに感じていたのが、法的なサービスの谷間があるんじゃないか、この国には。そこを埋めなきゃいけないなという感じは非常に強く持ちました。
御存じのように、九八年には個人の自己破産というのが十万件を超えました。自己破産だけが非常に目立つんですけれども、実は同じような自己破産に近い機能を果たしています債務弁済調停というのがございます。これは少しお金のある方が調停を申し立てて、このぐらいでもう示談にしてくれ、あるいは利息制限法に基づいて引き直し計算をして、これで何とかしてくれ、それが十八万件ございます。このほかに、
弁護士先生に頼んで親族から金を集めて、それで内整理をするのが十万とか十五万とか言われています。
そういうふうな形で、多重債務者、借金地獄の中でどうして逃れたらいいのか、そのすべを知らない多重債務者が全部で百五十万人ぐらいいるだろうと言われています。こういう人々は、破産なりあるいは債務弁済調停なりをすれば一たんそこで債務をチャラに、チャラとは言いませんけれども、清算をしてもう一度人生の再出発ができる。ところが、そういうすべを知らない人がたくさんいる。
余談になりますけれども、多重債務者の取材をしていまして、彼らは三つのことを知らないなという感じを持ったんです。一つは、変な話ですけれども自分が幾ら借りているのか、これ本当に知らないんです。というのは、利息制限法に引き直して本当の債務はどのくらいなのか、どれだけ本当に返しているのか、それを知らないんです。その次、どこに相談に行ったらいいのか、これを知らない。最後に、どうしたら
生活再建ができるのか、これも知らない。そういう人がたくさんいる。こういう人に何らかの公的な手当てが必要だなという感じを非常に強く持ちました。
その一つの手段が自己破産なんですけれども、自己破産するにも金がかかります。そこに書きましたように、大体着手金と実費で十三万から十五万、
裁判所の予納金が二万から三万、大体二十万かかります。皆さん二十万って大した金じゃないと思うんですけれども、多重債務になっている人はあちらこちらから金を借りまくってもうにっちもさっちもいかない人、そういう人にとっては非常に二十万というのは大きな金なんです。
そういう人がどこへ行ったかというと、
法律扶助のところへ押しかけまして、それで九八年はとうとう
予算がパンクしてしまいまして、たしか一部の
支部では九月ぐらいからもう窓口を閉めちゃったんです。九九年ももっと続いていまして、これは大変だというのでさすがに
法務省が
予算の補正をしまして、三億三千万臨時に出しました。
それで何とか息を、しのいだんですが、これでも
生活保護受給が資格になっていました。それよりちょっと出ている、あるいは人によっては自分は
生活保護を受けるのが嫌だという、潔しとしないという人は
対象にならないというふうなことが続いていました。このような一時しのぎの補正
予算で三億三千万出してやるというのではとてもじゃないけれどもだめだと。
同じようなものは、実は多重債務だけでなくて、リストラの問題もある。それから、さまざまなもっといろいろな問題がある。そういう人々にもっと法のサービスを与えなきゃいけないなという感じを非常に強く持ちました。そういう
意味で、今度
民事法律扶助法が出てきたというのは非常にいいことだと私は思います。そこに書きましたように、速やかに
法律扶助法の
制定をお願いしたいというのが私の立場でございます。
理由というのは、そこに挙げましたように三点でございます。繰り返しますので、前の二人の先生の意見とダブりますので言いません。
ただ、一言申し上げたいのは、僕はこれをいい
法律であると思っていますのは、和解交渉であるとか書類作成だとか
法律相談、今までどうも
法律扶助というのは
裁判手続に傾斜し過ぎているんじゃないかなという気がしますけれども、ここまで前広に取り上げたというのは僕は非常にいい
法律だなと。
社会的コストを考えましても、
裁判にするよりも前に示談で済めば示談で済ませる、
法律相談で話し合いがつけばそれでいい、私はそう思うんです。そういう
意味で、そこまで
対象に入れたということは非常にいい
法律であると思います。
それから、
運営主体を
指定法人にした、これについても、小寺先生はおっしゃらなかったけれども、かつて日弁連の中では
認可法人にしろという
議論がありました。しかし、僕はこれでいいと思うんです。要するに、民間の自由度あるいは自主性を尊重するという
意味では
指定法人で十分ではないかなという感じがいたします。
そういう点で、ぜひ速やかにこれを
制定していただきたいと私は思うんですが、実施上の
問題点としてこの辺に少し気を配っていただきたいと思います。
一つは、
補助対象をなるべく広くとってほしい。今度の
予算は二十二億の
予算がついています。これは一応所得階層からいって、下から二割ということで家族三人
世帯で年収四百万ということでラインを引いています。大体
生活保護水準の一・三倍から一・七倍ということになっています。もう少し広くとっていいんじゃないかなという気がいたします。
それから、
償還主義、
法律を読ませていただきますと、立てかえ立てかえとなっております。今の実態を見ていますと、まだ
裁判の行方がわからないうちに早くも
償還しろ、金を返せということをやっています。これは幾ら何でもひどいなという気がします。高齢者など定期収入のない方あるいは被告側が支払ってくれないような人もあり得るわけですから、もう少し弾力的にやってほしいという気がいたします。
それから、これを読ませていただいて、
指定法人の書きぶりの問題なんですが、かなりがちがちな監督をかませています。特に役員の選任、解任を
大臣の
認可としている。
指定法人を僕は少し調べたんですが、こういう書きぶりの
指定法人もありますけれども、ここまでがちがちにする必要があるかなという気がいたします。
僕の考え方としては、自由度を高めて、むしろ公正さというのは行政によって監視するんじゃなくて、
国民によって監視すべきだ。例えば情報公開、あるいは
国民が何らかの形で監査に加わるというような形で、
国民の監督によって透明性や公正さを担保すればいいんじゃないかなという気がいたします。
それから、これが最大の問題です。
このような
制度をつくった場合、全国でひとしくこのサービスが受けられなければ、同じ税金を使った
制度としては非常に不公平なものになると思います。そういう
意味で、
弁護士過疎の問題。あの広い島根県で
弁護士が二十四人しかいません。そういう中でどうするのか。
弁護士過疎の問題、これは
弁護士会だけで
解決がつく問題ではございません。過疎過密というのは、これはまさに国政全体の問題なんですけれども、そういう中でやっぱり
弁護士会も頑張ってほしい。
もう一つ重要なのは、
地方公共団体の役割です。
この
法律を読みますと、国の
責務それから
弁護士会の
責務の間に三条の二項で「
地方公共団体は、」と書いてあります。「必要な協力をすることができる。」、これは義務づけ規定じゃなくて関与規定だと思うんですけれども、本当は一番重要なのは
地方公共団体だと思うんです。皆さんも困ったときにどこへ行くかというと、消費
生活センターや困り事相談所、それは行政がやっています。それといかに
弁護士会なりあるいは
法律扶助協会とのネットワークをつくるか。
一昨年になりますが、私は浜田にあります石見
法律相談センターというところにお邪魔しましていろいろ話を聞きましたけれども、あれが非常にうまくいっているのは、実は浜田市とか浜田を中心とする地元の市町村が非常に熱心なんです。全国的にそれによって浜田市が非常に名前が売れたという点もあるんでしょうけれども、非常に自治体が熱心である。場所を提供して各市町村から分担金を取って
運営するという形でやっています。実質はあれは日弁連が金を出しているんですけれども、そういう形で協力しているという、自治体の協力というのが非常に重要じゃないかなという気がいたします。
それから、そこには書きませんでしたけれども、
法律扶助の単価です。
弁護士先生に払う単価を適正水準にすべきだと思います。
と申しますのは、今、同じような形で国選弁護というのをやっていますけれども、一件七万六千円前後です。この間、ある死
刑事件の
弁護士さんと話をしていましたけれども、その先生が死
刑事件で十七回公判をやって、本当に一生懸命やったんですけれども、それで
裁判官が言うには、特別な例ですと。幾らつけたかというと、三十五万円だと。先生、それじゃ割に合わないでしょう、合いませんと。一メートル半ぐらいの一件書類、供述書類の謄本をとるんですけれども、それで四十万を自分で立てかえていると。後で
裁判所が払ってくれると言っていましたけれども、余りにも国選弁護の
費用が低過ぎる。同じようなことを今度は
法律扶助でやりましたら、やっぱりそういうような個人の犠牲の上に成り立っている
制度というのは、僕は社会にとって不健全だと思うのです。
私は大学で経済学をやりましたから経済学的に言いますと、大きなことを言いますと、資源の配分がゆがんでくるということはその
制度にとってもよくない不健全なことなんです。だから、それによってきちんと対コストの割の合う
費用を払うべきだと。だから、国選弁護の二の舞をしてはいけない。きっちりした、逆に言うと、国選弁護も引き上げる必要があると思うんですけれども、そういう
制度をつくっていただきたい。これは運用の問題でございます。
最後に、そういうことで、これは僕は第一歩だと思います。より総合的な
法律扶助制度をつくるべきだと思います。この
制度は二つの制限、制約がある。一つは
民事に限ったことです。だから将来的には
刑事及び
少年事件に
対象を広げるということ。
それからもう一つは、
償還主義をとっているということだと思います。先ほど、
償還主義について御意見がありまして全くそのとおりだと思いますけれども、やっぱり将来的には、払えない人は本当に払えないということで、ある程度給付主義も入れざるを得ないんじゃないかなという気がいたします。
そういう
意味で、最近自民党が出しました総合的
法律扶助制度のグランドデザイン、これを読んでこれはおもしろいなと思いまして、私と考えが違うところがございます。ただ、こういうものを各党がお出しになってまさに競争されるとよろしいんじゃないかなと。そういう
意味で一日も早く、ここに書きましたように、
法律扶助の
充実を
実現していただきたいということでございます。
以上でございます。