○椎名素夫君 大変どぎつく申しました。杞憂に終わればいいんですが。
一つだけ申し上げますけれ
ども、戦前と比べても大分様子が違うので、戦前の
日本の資本
市場なんというのは大変貧乏で、
余り人が来る魅力もなかった。しかし、今はもう宝の山というようなことで、現に今、郵貯のあの定額貯金の満期がことしは来て、利息が下がっちゃう。あれをねらってこっちへこっちへというのは、
日本の銀行もそうですけれ
ども、世界じゅうがねらうような話になっております。悪いやつにとっては大変にざくざく宝の山というところであり、また我々がきちっと
経済をこれから運営していけば、ますますそうであり続けるというところが非常に違うところじゃないかと思います。杞憂に終わればと思いますので、ぜひぜひよろしくお願いを申し上げます。
それで、それに
関連してなんですが、
取引所というところだけでなしに、
日本の全体のお金の
取引あるいは実物
経済、それまで全部合わせたところがうまくいっていないということだけは確かですね、消費者まで入れて。そういうもの全体を非常に精密機械のように経営していくというのが大きく広い
意味で
経済政策というものだと思うんです。
私は昔、原子力をやりまして、みんな輸入してしまったのでおもしろくなくなったんですが、原子炉の設計というのを最初やっておりまして、幻のものを二つ三つかきましたけれ
ども、ああいうものをやるときに、昔のボイラーと大変違うんです。ボイラーの計算というのは、例えば油を使うにしても石炭を使うにしてもまきをくべるにしても危険がないんですね。爆発さえしなきゃいいんです、ほっておけば燃料がなくなって消えてしまいますから。
ところが、原子炉というのは、連鎖反応というのを起こし始めると、うまくやらないと制御ができなくなって暴走して、ですからチェルノブイリみたいなことが起こる。それを考えると、中性子というのがウランなりプルトニウムをたたいて、それで連鎖反応が起こってという、どういう形でそれをやらせるかというまず理論がある。それに従って実際の設計をやる。
それから、設計だけやったんではちゃんと動くかどうかわかりませんから、小さな実験炉をつくって、それからもう少し大きな実証炉というのをまたつくって、それで初めて建設になるわけですね、実用炉の。それをつくるに当たっては、どうやってきちっと内在的な安全性を確保するかというようなことを考えながら運転保守ということを設計しなきゃいかぬ。しかし、万一何か起こったときには事故の対処をやらなきゃいかぬ。
この一連が全部ないときちっとした仕事はできないというふうになっておりまして、人間社会のことですから機械のようにはいかないと言ってしまえばそれっきりですけれ
ども、なるべくそれに近いようなことを考えたらどうかということをかねがね思っておりました。
それで、バブルの後いろんなところで、税制がどうしたとか、財政はどうだとか、銀行はどうなった、証券会社がおかしくなったとか、いろんな話を聞いていると、やっぱりこれは少し総合的にお金の流れを全部考えなきゃいかぬのじゃないか、そういうのはないのかなと思っておりましたら、それはもう
アメリカはやっているんだという話を聞きまして、何を勉強したらいいんだといったら、あのくだらない
経済学の本はやめて、
アメリカの証券
取引所法、一九三四年の、それに関しての本を読めばいいんだと言われまして、さきおととしになりますが手に入れましたら、こんなに厚い本で、ちょぼちょぼ読み始めたんですが、これはまあ大変なことで、まだ全部読んでいるわけじゃない。しかし、それで何となしにわかってきたような気がいたしました。こんなことは、私は素人ですから、素人が生かじりを始めただけの話だったんですが。
一つ体験を申しますと、おととし、まだ橋本内閣のときに、名前は申しませんけれ
ども、ある大きな銀行の会長、頭取、何とかという人たちと大口
取引先の社長、会長が集まるサロンがあって、そこに来て話をしてくれと言われました。行政改革の話をしろと。いいかげんなことを言っておけばいいんだろうと思って行ったんですが、四十人ぐらいおりましたか、偉そうな顔をしておりましたけれ
ども。
それで、少ししゃべり始めたんですが、既に
金融についてはいろんな問題が噴き出たときですけれ
ども、皆さん自信に満ちた顔をしておられるんですね。それを見ているうちに、これはちょっと危ないなと思ったものですから、持っていったメモをみんな捨てて、非常に乱暴なことを申しました。
何を言ったかというと、冷戦のときには
アメリカのような国が
日本は敵の敵だから味方だということで随分
日本も甘やかしてもらった、その間に
日本は
経済成長を遂げたんだけれ
ども、冷戦の間に起こったこと、起こらなかったこと、いろいろあったけれ
ども、起こらなかったことで一番大事だと思うことがありますので、ぜひ皆さん方にお願いしたいと言ったんです。
何を言ったかと申しますと、何が起こらなかったかというと、
日本の経営者の方々は資本主義、自由
経済の基本をきちっと勉強なさらなかったことだと。それが
一つ。それからもう
一つは、西欧的
市場経済とか自由
経済というのはあいつらのものであって、アジアにはアジアのやり方がある、
日本には
日本のやり方がある、あるいは
市場の失敗ということもあるというようなことで、必要なことをやらないで済まそうという向きがあるけれ
ども、
アメリカが一九二〇年代からの恐慌の中でそこから何をやってきたか。悪いやつがあらわれては、ああ、こんなのがあったということで新しい法律をつくり、インスティチューションをつくりして、いまだに戦っている。その歴史というのを、この二つを勉強していただきたいと言ったら、大変不愉快な顔をされました。
それで、私は申したんですが、なぜこういうことを言うかというと、その三年ぐらい前でしょうか、信用組合が二つぐらいはじけましたね。そうしたら、
日本の銀行にジャパン・プレミアムというのがかかって、普通の平均
金利から〇・五%ぐらい上に乗っけられたりした。
アメリカの例えばネブラスカのローカルバンクがはじけたからといって
アメリカの大銀行に
アメリカ・プレミアムなんかつかぬでしょう、ウェールズでローカルバンクがはじけたってブリティッシュ・プレミアムはないし、それから何とかシュタットというような
ドイツのローカルバンクがつぶれたって何もそういうことは起こらないでしょうと。
なぜかといえば、手のひらにおできができたら、向こうは全体のシステムに信用があるから、外科に行ってちょっと取ってもらった、はい治りました、ばんそうこうを張っておしまい。ところが、
日本は非常に猜疑の眼で見られているから、おできがちょっとできたら、ああ、あいつの内臓は相当いかれたに違いないと思うから、あなた方のような立派な銀行にもプレミアムがかかるということを自覚してやっていただかないと、行政改革なんて幾らやったって
日本はよくならぬと言ったんです。そうしましたら、少しだんだんまじめになって聞いてくれましたけれ
ども。
そこで私が申したのは、まだ初めの十分の一ぐらいしか読んでおりませんでしたけれ
ども、こういう本があるのをもちろん御勉強なさっているでしょうねと言ったら、知らなかったと。何という本ですかと言って、私が申したら、メモをしました、銀行の人は。これはいかぬと私は思った。それ以来、私は今の
日本の経営者というのは
余り信用しないことにしておりますが、大蔵省は信用してもいいのかな。
そういうものがあって、
アメリカのやり方は、もう
余り申しませんけれ
ども、あらゆる税制、財政、
金融、銀行、それから
株式会社、マフィア、そういう
アメリカの社会の中でどういう
取引が行われてどこにインチキがあって、これをきちっとやらないことには
アメリカの
経済というものがきちっと運営できないというのを調べ上げたのがペコラ
委員会です。これは皆さんよく引用なさる。
そして、それに基づいて銀行法をつくり、
証券取引法をつくり、証券
取引所法をつくって、三四年までにできて、そしてその当時の公正
取引委員会からSECを独立させて、ここに物すごい警察権を与えた。ですから、SECというのは、独立しているだけでなしに、CIAも
一緒になるし、IRSも
一緒になるし、沿岸警備隊からFBIから何から全部巻き込んで、そして場合によっては民事訴訟にまで、
市場の弱者が
市場の強者に負けてはいけないということで
介入している例も随分ある。それを改良しながら今に至っている。そこで鍛えられたような連中が
アメリカの財務省の高官になって出てきているから、あいつらがインチキを言うのも知っているし、どこに
自分たちの強さがあるか知っている。その目をくぐりながらもうけてきたような連中がこのあたりにうろうろと乗り込んでくるというようなことはやっぱりお考えになっておいた方がいいんじゃないかと私は思います。
私が申し上げたいのは、演説して申しわけないけれ
ども、ペコラ
委員会というのをよく引用されますが、あのときに起こった不祥事に対処するためにいろいろ調べ上げて、責任者を摘発してきちっとやったというような
お話になっておりますね。そういうふうにとっている向きが多い。そうではなくて、さっき私が原子炉について言ったようなメカニズムをつくったんです。それがあるからいろんな実験ができる。
アメリカの証券
取引所のナスダックなんというのが
株式会社をやってごらんというようなことが平気でできるのは、その周りに先ほど言いました機構から土台から何からがしっかりしているから実験ができるゆとりがある。それがないところでその先のことだけやってみても、私は直らないんじゃないかという気がするんです。
先ほどから、各国で
日本はまだデフレの危険があるというようなことを言ったと。どうもそうらしいんですが、何が悪いかといったら、株が少しぐらい二万円超えたどうのこうのということは
経済の一方であって、バブルがつぶれました、整理がつきましたと言えればいいんだけれ
ども、終わっていない。まだ地価はどこまで下がるか実際のところわからない。事実、GDP比にしてみたら
日本の土地資産というのはまだ高過ぎますでしょう。それがまともなところまで下がるまでは覚悟しなきゃと思うと、何が起こるかというと、せっかく勤労者、技術者、科学者、みんな一生懸命
日本の勤勉さでもって働いても、それで積み上げたものがそこにみんな吸い取られてしまう。それで、くたびれた銀行は安く外国の銀行に買われるというような話が下手をすると起きてくる。
だから、もう今少し遅いかもしれないけれ
ども、本当の
意味でのペコラ
委員会というのをつくって、
日本では一体どうなっているのか。幸いに
アメリカの当時のマフィアみたいなめちゃくちゃなやつに比べればまだ子供みたいな者しかいないし、とにかく何をやれば
日本の
市場というものが本当に安心できるか。単に消費者保護、投資者保護というようなことだけじゃないんだと、これは。その間違いによって税金まで取れないというのが実情なんですから、そこをぜひ、これは大臣に申し上げるよりも、向こうでもあのときは上院でつくったんですから、こっちは六年間選挙がないんだから、参議院で本気になってやってみたらどうかということをきょうは提案したかったんです。
そういうことを言えばこれで私の話は終わりでありますので、御感想があればぜひ伺わせていただきたい。