○
参考人(
桝本純君)
桝本でございます。
本日は
意見を表明する
機会をお与えいただきましてありがとうございました。
委員長初め当
委員会の
先生方に冒頭まずお礼申し上げたいと思います。
さて、今回の
年金改正法案でございますが、総括的な
評価をいたしますと、私どもは、これは現在の
我が国の
公的年金が必要としている
改革を避けて通り、そしてその
給付の
水準を引き下げるという非常に狭い
財政論的な観点に終始している。その結果については、これから
年金を受け取る
世代、特に若い
世代に対して国の
年金に対する
信頼感を損なう結果を呼ぶのではないか。端的に申しますれば、これは
改革というよりは改悪の
内容であろうというふうに考えるところでございます。
年金は
年金だけで単独に存在しているわけではありませんで、
高齢者の
生活を支えるという意味から申しますと、医療や
介護あるいは
雇用といったようなさまざまな条件と相まって、
一つのセーフティーネットと申しますか、
生活の支えを構成する、その中の重要な柱が
年金だというふうに思います。したがって、
年金の
制度を手直しするという場合にはその全体像を示すことが特に重要だろうと思います。
現在、政府は
年金、医療、
介護、少子化対策、こういった
社会保障制度全般の
改革に向けた有識者会議というものを設けて提言を取りまとめる作業を既に始めておられるわけで、そうであるとすれば、その提言を受けた上で、あるべき
年金の姿、
年金の役割というものを総合的に
検討するのが筋ではないか、そのように考えるところでございます。
年金をめぐる条件は確かに今お二方の先生からるる指摘されましたように大変厳しいものがございますけれども、同時に、暮らしの将来像や
見通しがないまま、
負担と
給付の
財政論の枠内だけで、結論から出てくるのが
給付抑制というだけでは、この現在の厳しい環境の中で本当に
国民合意と呼べるものにはならないのではないか。私どもは、
社会保障制度というのは、イデオロギーやあるいは政党の立場の対立のテーマというよりも、
国民生活のあるべき姿という点で本当の合意をつくっていただきたいというふうに考える。その点から、以下、幾つかの点について申し述べたいと思います。
現在の
公的年金制度の危機というのは、実は
財政上の危機というよりも、その
制度に対する
信頼の危機だというふうに思います。このことを端的に示しておりますのが、しばしば指摘されております基礎
年金制度の空洞化という現象で、先月下旬に
社会保険庁が発表いたしました九八年度の数字で見ますと、最近では払うべき人の半数近くが
保険料を納めない。この状態はますます急速に深まっているわけで、それは納めない人の問題もありますけれども、
制度に対する
信頼が急速に弱まっているということをよく示しているのではないだろうか、このように思います。
こういう
方々は将来無
年金者になるか、あるいは出ても極めてわずかな
年金しか受け取ることができない。その意味で、既に
国民皆
年金という
我が国が掲げてきた
政策目標は事実上空語になっている、これが現在の
我が国の
公的年金制度の本当の危機だろう、そのように考えます。
二十一
世紀に向かって
我が国の
公的年金が直面している最も大きな
選択は、この
国民年金の空洞化という事態に対してどういう
方向をとるのか、つまりそれは
国民皆
年金という
政策的な目標を本当に実現するために
制度の抜本的な
見直しを図るのか、あるいはそうではなくて
現行の
制度の延長上で
国民皆
年金というスローガンをおろすのか、この
選択だろうと思います。冒頭、今回の
改正法案が必要な
改革を避けて通っていると申しましたのは、まさにこの
選択について
一つも明らかな態度をとっていない点であります。
私どもは、
国民皆
年金という理念を本当に実現するために、基礎
年金制度は近い将来保険
方式ではなくて税を財源にするシステムに改めるべきだ、このように考えます。それに向かっての
一つの非常に大きなステップとして、現在の
基礎年金の
給付額に対する公費
負担割合を
現状の三分の一から二分の一へ直ちに
引き上げるべきだというふうに思います。これは前回
改正のときに国会御自身が合意をされた
内容だったはずでございまして、これを次回
改正までというふうに言えば十年先送りの話になってしまう。この点、ぜひとも
先生方に御留意をちょうだいしたい、そのように思うところでございます。
次に、冒頭申しました二番目の点、非常に大きな
水準の引き下げであるということでございますが、これは今お話しのありましたお二方のお話と若干というか、かなり違うかもしれません。
お
手元にこういうリーフレットを、私どもが組織内で議論するためにつくりましたものを配っていただいておりますので、ちょっと中をおあけいただきたいと思います。開いていただきますと、内側の左半分に昭和六十年
改正以降今日までたどってきた経過と、それから今回の政府案が示している将来像というものを図で示してございます。幾つか私どもが置いた仮定もございますので、すべてが厳密なものというふうには申し上げませんが、一応のめどをつけることができるのではないかというふうに思います。
政府案では、将来とも現役労働者の賃金の約六割を保障する、こういうふうに言っておりますし、厚生省
資料ではもう少し詳しく、
現状は六二%であるものを五九%保障するんだ、このように説明をして、今回の
改正案が
給付水準の切り下げといってもさほど大きなものではないという印象を世間に振りまいているわけですが、しかしこれは現実からはかなりかけ離れた数字だというふうに申し上げなければいけません。
まず、
現状の
水準でございます。
現在の
制度が将来に約束している
水準はどの辺にあるのか。これは厚生省の公的な数字ではしばしば二十三万円ということが言われてまいりました。これは九四年の価格
水準で、現在国会に
提出されている
法案の
内容では九九年度価格で二十四万二千円というふうに表示をされているかと思いますが、私どもの
資料ではあえて広く使われてまいりました九四年度価格で数字をお示ししてございます。それが左から二番目です。
しかし、実は前回
改正で
賃金スライドの
方式が賃金総額スライドから手取り
賃金スライドに切りかえられまして、将来の
賃金スライドのスライド率は低くなることが見込まれております。その低くなるスライド率を適用した場合にどうなるか。これは
年金審議会の
資料にも、それから最初の
年金白書にも収録をされている厚生省自身がはじいた数字ですが、二十一万一千円というのが現在の
制度が将来に保障している本当の
水準です。これは十一年度価格に直すと二十一万八千円
程度、三・一%の
引き上げでありますから二十一万八千円
程度になるかと思います。
二十一万八千円というとかなり潤沢なように見えますが、ここには条件が幾つかございます。
一つは、これは
年金の総額であって、
年金生活者はここから税、
社会保険料を
負担しなければならないということです。
所得税の
負担がかかる人はかなり少ないと思いますが、一番大きいのは
国民年金の
保険料です。現在でも
高齢者の人たちは約一〇%の公租公課の
負担をしております。しかし、例えば今度の四月から
介護保険
制度が始まりますというと、
年金受給者は
年金からその
保険料を差し引かれる、こういうことになるわけで、二〇二五年という今回の
改正ターゲットを見ますと、これは一〇%ではおさまらないだろう。先ほど私どもの勝手な仮定もあると申しましたが、仮に一五%にこれが膨らんでいくというふうにいたしますと、現在の
制度のままでも将来の
世代の手取り額は二十一万一千円ではなくて十八万円、こういうことに相なるわけでございます。
もう
一つ問題なのは、ここで言われている数字というのは、夫婦とも六十五歳を超えて、そして夫婦とも一カ月も休むことなく二十歳から六十歳までの四十年間
保険料を払い続けた、こういう理想的なケース、つまりモデルケースでございます。実際にはそんなことはないので、例えば途中で転職をすることがあればその間失業状態もあり、いろいろな事情で
保険料を納められないような時期が長い人生ですから挟まることは当然でございまして、
雇用の流動化というような議論があるとすればそういう傾向はむしろ強まっていくかもしれません。
そういう意味で、
平均的な
水準というのはこのモデルよりも一割
程度ぐらい低いというふうに理解をしていいのではないか。それが下の方に書いた数字でございまして、それを当てはめますと、将来の二〇二五年段階での
年金額というのは、九四年価格で申しますと総額でも十九万円ぐらい、手取りでは十六万円
程度、これが現在の
制度が将来の
世代に約束している実際の
水準です。
これを高いから引き下げろという根拠はないのではないかと私どもは考えました。しかし、今回厚生省が出している、政府が提案している
内容は、この高さをさらに約一割
程度削減しようという
内容でございます。
どのような形で約一割かと申しますと、それが一番右側の絵でございますけれども、まず一番上の老齢
厚生年金という
部分を五%削減する、これは法規定そのものに入っている数字です。しかし、これは二階だけの五%ですから、下に本人の
基礎年金と配偶者の
基礎年金、これを合わせたもの、全体でいいますと五%ではなくて二%
程度にすぎません。
しかし、重要なことは、これはもらい始めた
時点の
水準だということです。受け取り始めてから後、これは法律で決められているものではありませんが、今回の政府提案の中に重要な項目として、非常に大きな項目としてありますのが
賃金スライドの停止です。この
賃金スライドの停止を厚生省当局は
財政効果の面で七%
程度というふうに見ているそうで、したがって出発点における二%ダウンと、それからもらい始めてから生涯を通じての
水準がそれに対応して下がるとすれば約七%ぐらい、足して九%
程度、本当は掛け算ですから、精度を若干犠牲にいたしますと約一割、こういうことになるわけでございまして、結果、出てくる数字はそこにあるようなものです。
したがって、モデルではなくて
平均的な
給付水準ということになると、下にありますように総額で十七万円
程度、手取り額では十四万五千円ぐらい、これは九九年価格に直しても十五万円弱ぐらいでございます。これは、全国六段階に分かれております現在の
生活保護基準と比べた場合に、東京や大阪のような大都市圏ではほぼそれに見合う数字にすぎません。しかも、
生活保護の場合には一切の公租公課から解放されているわけですから、実質的には一銭も
自分では
負担する必要のない
生活保護基準よりも四十年間営々と
保険料を納めて受け取る
年金の方が低いという逆転した状況になるわけで、このようなことが実現するのであれば、一体だれがこういう
年金を
保険料を払って支えようという気になるでしょうか。
私どもは、単に
水準が千円下がったとか二千円下がったとかという額を問題にしているのではなくて、
年金制度に対する
信頼そのものを根本から損なう、既に損なわれつつあるものが一層ひどいことになる、こういうことでこの
内容に反対しているわけでございます。
それではどうしたらいいのかということでございますが、私どもは
公的年金というのは基本的には
現役世代から親の
世代への
一つの仕送りのシステムだと思っております。仕送りという観点から考えますと、現役の
世代の
所得と
年金水準との間に一定の
割合を将来とも
維持する、こういうことが必要なのではないか。
現状の
制度は、
所得代替率などというふうに申しますが、右から二番目の数字の上にありますように約五五%というふうに推計されます。これはドイツが約六〇%ぐらいということに比べますと決して高いものではありませんが、
我が国の状況にかんがみて、これを
引き上げるという要求をする必要があるとは思いませんが、少なくともこれは将来にわたって
維持をする、このことを約束するのが政治の責任ではないだろうか、そのように思います。
この
年金の
水準の問題はぜひとも私ども共通に念頭に置いておきたいと思いますが、二〇二五年及びそれ以後の
年金です。私自身は多分そのころは生きていないと思うんですが、
年金審議会なんかでも大抵の人は生きていないような
年齢の人がこの問題を議論してまいりました。これを受け取るのは現在の三十代から若い層の人たちです。私どもは、そういう人たちの将来に対してせめて
現行制度程度のものを約束すべきではないか、そのように考えます。
その場合の
負担が大きくなり過ぎるというのが厚生省の主張でございますが、このパンフレットの一番後ろを見ていただきますと、将来の
保険料水準は厚生省が言うような過大なものにはならない。二〇二五年段階で完全な、いわゆる
賦課方式だと考えますと、
基礎年金の国庫
負担を二分の一へ
引き上げることを前提にしてみますと、月例ベースでいうと
保険料二五・四%ぐらい、小数点以下のところはほとんど有効ではないと思いますが。それから、総
報酬制にしてみれば二〇%ぐらい。それから、将来、
基礎年金を完全な税
方式に切りかえるとすれば、二階建て
部分のところだけですから、月例
方式にしても一八%、総
報酬制にすれば一四%
程度でおさまるというのが私どもの計算でございます。
もちろん、
現状よりは高くなります。しかし、これだけの
負担を若い
世代にお願いすること、それから将来の
水準について約束をすること、これの組み合わせで全体としての
年金制度をみんなで支え合っていく、こういうことが必要なのではないだろうかというふうに考えます。
そのほか幾つか申し上げたい点がございますが、時間が参りましたのでこれで終わらせていただきます。あとは御質問をいただいて補足させていただきたいと思います。
ありがとうございました。