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参考人(
椋野美智子君)
日本社会事業大学の
椋野でございます。きょうはこのような
機会を与えてくださいまして、本当にありがとうございます。
昨年八月にこの
調査会でまとめられた
報告も拝読いたしまして、非常に幅広くかつ深い分析をなさっているというふうに思いました。その
調査をさらに深めるに当たって何らかの
参考になれば大変幸いに存じます。
お
手元に
資料をお配りいただいております。
一番目に、
五つポイントを書いております。これは実は、
少子化をテーマにした
白書をまとめた後、いろいろなところでいろいろな方々と
少子化について
お話をする
機会がございました。その中で特に強調しておいた方がいいと思った点を五つまとめたものでございます。
まず一番目は、今、
岩男先生もおっしゃったとおり、やはり
少子化という問題は、性、
男性か
女性か、あるいは
年齢、あるいは
世代ととらえた方がいいかもしれませんが、それによって受けとめ方が大分違うようでございます。
対応を考えるに当たっては、まずその点を
十分留意し、
当事者である若い
世代、特に
女性の
意見を十分聞くことが重要ではなかろうかというふうに思います。
二点目でございますけれども、「
結婚・
出産などについての個人の
生き方の
多様性を制約する
対応をとってはならない。」と。
当然のことでございますけれども、つい
少子化を
懸念する余りに
DINKS税だとか
独身税だとかという御
意見をおっしゃる方もおられますけれども、やはり、
独身であるから、共働きで
子供がいないからということで懲罰的な発想で税を課そうということになると、これは大変問題であろうと思います。もちろん
子供を育てている御
家庭の負担の重さに着目して公平を図るということは当然ですけれども、
生き方の
多様性を損ねるというふうな受けとめられ方をしますと、やはり非常に
対応を進めていく上で問題が起きるというふうに考えます。
と申しますのは、現在の
出生率の低下が始まってもう二十数年たっているわけですけれども、
少子化を
正面から取り上げることには
大変ちゅうちょがございました。それは、
平成九年の
人口問題審議会で初めて
少子化を
正面から取り上げる
議論ができたわけでございます。なぜそんなにも
ちゅうちょがあったかというと、やはり一・五七ショックのときもそうなんですけれども、
少子化を問題として取り上げようとした途端にまた産めよふやせよになるのではないか、
女性の
生き方の
多様性を損ねるのではないかという
懸念が非常にあってなかなか取り上げづらかった。
現に、つい最近の、
平成七年まで
少子化の評価は、望ましくないとどちらとも言えないというのが四十数%で拮抗していたわけでございます。恐らくこのどちらとも言えないというのは、問題だと言うとその
対応が産めよふやせよになるんじゃないかという
懸念があったのではないかと推測されるわけでございまして、この点はやはり
十分留意が必要だと思っております。
それから、三番目でございますけれども、「特効薬はない。
社会の
体質改善が必要。」というふうに書いております。
これも、
少子化を
懸念する余りに、では何をすればいいんだというふうな御質問を受けることがよくあるわけでございますけれども、これをやれば大丈夫ですというようなものではなく、やはり
社会全体のいわば
体質改善、
性別役割分業型社会から
男女共同参画型社会へ変えていくということが
少子化への一番の
対応であろうと思います。
特にその場合に、
女性の職場への
参画は進んでまいりましたけれども、
男性の
家庭や
地域への
参画がまだまだ十分ではございませんので、このことに
十分留意した
対応が必要であろうと考えます。
それから、それを進めるに当たってかぎは、
男性の働き方を変えることだというふうに考えております。
少子化といいますとどうしても
子育て支援、いわば女、
子供への問題の
対応というふうに受けとめられがちですけれども、女、
子供への
対応では済まない、
社会全体を変えていくこと。そして、そこのかぎはやはり
男性の働き方を変えること。これは後ほど少しデータに即して詳しく御
説明をしたいと思います。
最後に、もちろん総合的な
子育て支援は重要でございます。保育サービスですとか
育児休業ですとか、もちろん重要でございます。しかしながら、もっと大きな
社会全体の
体質改善が必要で、その上に立ってこそさまざまな
子育て支援が本当に効果を発揮できるのであろうというふうに思います。
と申しますのも、延長保育や夜間保育は大切だけれども、それは本当に
子供にとっていいんだろうかというような声がやはりございます。育休を
女性はとって当然なんだけれども、でも企業にしてみればお荷物なんじゃないのという声もやはりございます。
そういう
議論を乗り越えるのは、際限のない残業とか夜間労働をしなくても済むような、これはもちろん
女性だけではなく
男性も含めてそういう
社会の変革が必要でしょうし、
男性も
育児休業をとり、
男性も家事、
育児、
家庭責任を負って働く、
女性だけではなく。そういう変革があって初めて
子育て支援も本当に効果が出るんだろうと、そういうふうに思います。
以上五つ、特に強調しておきたいポイントをまず申し上げました。
では、なぜ
男女共同参画型社会をつくること、特に
男性の働き方を変えることがかぎなのかというあたりについてこれからちょっと
お話を申し上げたいと思います。
一枚めくっていただきまして、ちょっと拡大をしていただいた概念図がございます。これは
平成十年版の
厚生白書の「少子
社会を考える」というところをあえて一枚の図にあらわしてみたものでございますけれども、真ん中のあたりに、「今後我々はどのような
社会をつくろうとするのか」というところのすぐ下、現状がまとめてございます。
ごらんいただきますと、職場から矢印が出て、その矢印が
最後はすべて家族のところに帰着しております。職場優先、つまりいつでもどこでも職場の都合最優先で働くというような
男性中心の職場の
あり方が当然家族の方にしわ寄せを来し、母親に
子育て負担を集中させておりますし、それから、
家庭にも十分帰れない状況ですから、
地域社会にも参加できない。そうすると、
地域社会が厚みのないものになっていって、
地域の
子育てへの支援というような力も失っていき、それがまた母親に
子育て負担を集中させている。
あるいは職場のところで、新卒・正規職員中心の就業環境が、いわば新卒時にどこの会社に就職するかで職業人生が決まってしまうというようなことから、いわゆる過度の受験競争をもたらし、それがまた矢印は家族に戻り、母親が
子供をよい学校に入れることがまるで
子育ての成功であるかのような負担を及ぼすというような形で、職場からすべての矢印が発し家族に帰着している。この
男性中心、職場優先のここを変えていくことがかぎだというふうに考えます。
実際、さまざまな場で
変化の動きや兆し、それは多様化、流動化の動きですけれども、が見られ始めております。これをどううまく生かしていくかということが一番下にある「
男女がともに暮らし、子どもを産み育てることに「夢」を持てる
社会を」つくる、
社会全体の
体質改善ということにつながるのではないかと思います。
もう一枚めくっていただきますと、あとデータ的なものを特につけております。
少子化への
対応を考える上で、なぜ
少子化が進んでいるか、もう既に御承知のことかとは思いますが、それについて少し簡単に見ていただきたいと思います。
よく見ていただく
出生率の推移のグラフが二ページの上にあります。ベビーブームの後、急速に
出生率が低下しておりますが、ここは一組の夫婦の産む
子供の数が減ったからでございまして、
社会の発展に伴いどこの国でも起きる人口の転換でございます。特に問題視する必要はないところでございます。
その後、昭和三十年代、四十年代、ひのえうまの前後を除いてほぼ二を少し上回ったところで横ばいでございまして、その後、昭和五十年ごろから下がり始めて、今や一・三八。これを問題として要因分析する必要があろうかと。よく言われるように原因は未婚率の上昇でございます。
この未婚率の上昇、
少子化が始まった昭和五十年ごろというのは、では一体どういう
社会だったのかということで、その下に
社会の
あり方を見る
社会経済指標の推移をつけております。
一番大きく動いておりますのが
経済成長率で、まさに昭和五十年ごろを境に高度成長から安定成長時代に入った。一番上の八二・一%まで行っているこれが就業者に占める雇用者割合、いわばサラリーマン化の度合いでございます。次の右肩上がりのが人口集中地区人口割合で、これはいわば都市化の割合でございます。次に、最初五十年まで下がり、その後上がっているのが有配偶女子の就業率で共働きの度合いでございます。逆に言えば、専業主婦が昭和五十年まで増加していって、昭和五十年を過ぎて専業主婦は少なくなっていく。その次の右肩上がりのものは、これは
大学、短大への進学率、高学歴化の度合いでございます。
以上、見ていただきますように、高度
経済成長の時代、昭和三十年代、四十年代、サラリーマン化が進み、人口が都市に集中し、高学歴化が進み、当然
経済成長が進んでいく。五十年を境にそれらはすべて傾きは緩やかになりますが、同じ方向にさらに進んでいきます。ところが、トレンドが、傾きが変わったのは唯一有配偶女子の就業率でございます。
この五十年を境にもう
一つ変わったのが未婚率でございまして、三ページを見ていただきますと
年齢別未婚率の推移がございます。上が女子でございまして、一番上のグラフは二十歳代前半の
女性でございます。昭和三十年代、四十年代、七割前後だったのが九割近くまで未婚率が上がっています。二十代後半で二割前後でしたのが今は五割近くまで、三十代前半の
女性でも一割弱だったのがもう二割に未婚率が上がっている。
その下のグラフを見ていただきますと、これは夫婦の産んだ
子供の数でございまして、平均出生児数は昭和五十年を過ぎても二を少し上回る二・二ぐらいで安定しております。つまり、昭和五十年を過ぎた
少子化の原因は、夫婦の産む
子供の数が減ったからではなくて、未婚率が上昇したからだということでございます。
このように、昭和五十年を過ぎたところで専業主婦だった人が働き始め、まだ
結婚していない
女性たちは
結婚を先延ばしにし始めたということは、高度
経済成長の中で形づくられた
家庭の姿、それは、夫はサラリーマン、妻は専業主婦、住んでいるところは都市化ですから郊外の新興住宅地、核家族、
子供は二人で、女の子は短大、男の子は
大学までできればやらしたい、受験勉強している、こういう典型的な家族の姿というのがどうも余り魅力的に見えなくなってしまったのではないか。だから、未婚の
女性は
結婚を先延ばしにし、既に
家庭に入っていた
女性たちも外に働きに出始めた。これが
厚生白書で問いかけた問題提起でございます。
この昭和五十年ごろから
女性の自立というようなことが声高に叫ばれ始めたわけでございますけれども、時代によって未婚率上昇の原因はもう少し細かく見れば少しずつ違ってまいりますが、そこは時間の関係で飛ばしまして、では、今なぜこのように未婚率が上がっているのか、
独身の理由でございますけれども、これは先ほど
岩男先生もおっしゃいましたように、適当な
相手にめぐり会わないというのが一番多うございます。それから、いずれ
結婚するつもりという方は九割近くいらっしゃいますが、その半分は理想的な
相手が見つかるまで
結婚しないと言っています。
つまり、どんな
相手なら
結婚するのか、
相手を選んで晩婚化が進んでいるということでございまして、四ページをめくっていただきますと、「
結婚相手の条件
項目別、考慮・重視する未婚者の割合」というのがございます。一番は
男女ともに八割から九割、
相手の人柄なわけですけれども、二番目は
男女ともに
自分の
仕事に対する理解と協力、三番目、家事、
育児に対する
相手の役割というふうに続いております。つまり、
女性も夫に対して、妻の
仕事を理解し、夫が家事、
育児に協力してくれることを求めている。三高ということが言われていたこともございますけれども、
相手の
経済力は四番目で三三・五%ぐらい重視をしています。
相手の学歴とか
相手の容姿というのはもう一割前後ということで、実は家事への協力であり、
自分の
仕事への理解を
女性は夫となる人への条件として重視しているということがこれからわかります。
次のページにつけておりますのは、そうはいっても最近の若い
世代の
女性には専業主婦志向がふえているではないか、継続就業を望んでいるのは必ずしも多数派ではないという声がございます。それで、やったヒアリング
調査でございます。確かに専業主婦志向は見られるわけでございます。そういう専業主婦志向の
女性が求めている条件というのは、三Cというふうに呼ぶようでございますけれども、十分な給料と家事への協力、それから理解し合えるというようなことのようでございまして、専業主婦志向の
女性でも家事への協力というようなことは
相手となる夫に求めている。
ところが、六ページ、よく出る数字でございますけれども、現実はなかなか
男性は家事にも
育児にも協力できていないという状況がございますし、それから六ページの下につけておりますのは、じゃ
意識はどうかというと、
男女とも若い
世代の方が性別役割分業に反対が多いですけれども、
男性は全
年齢で賛成が反対を上回っております。ところが、
女性は四十代までは逆に反対が賛成を上回っております。先ほど
岩男先生がおっしゃいましたギャップというのがここで明らかに見られるわけでございます。これが
男女の
結婚の条件がうまく合わない
一つの理由でもあろうかと思います。
しかし、
男性の中には家事、
育児も行うべきだというふうに
意識としては考えておられる方もある。けれども実際はなかなかできない。その原因は何かといえば、やはり職場の問題に行き着くわけでございまして、七ページにつけております「郊外に居住するビジネスマンの生活時間」、夫の帰宅時間、八時前に帰宅する方は一割、十時以降に帰宅するのが六割というと、夕食を一緒にすることはできないのはもちろんのこと、小さい
子供の間は起きている間にうちに戻れないというような状況が出てくるわけでございます。その原因の
一つはもちろん残業でございますし、もう
一つはやはり通勤時間でございます。大都市圏では通勤時間平均約一時間、首都圏では一時間半以上二割あるという、この状況を変えなければいけないだろう。変えるためにはどうするかというのは、やはり
男性の働き方を変えるということですし、もう
一つは町づくりを変えるということではないかと思います。
町づくりも郊外の新興住宅地をどんどんつくっていったというのは、これは
男女の性別役割分業を前提にした町づくりでございます。つまり職住を分離し、都心は
若者と
男性の町、郊外はいわば女、
子供と最近では年寄りの町というふうな役割分業を前提とした町づくりをしてきてしまったのがこの長時間通勤に端的に
あらわれてきたのではないか。
どうしたらいいのかということですけれども、八ページに、どこにモデルがあるわけでもございませんが、ヒントとなるものとして、働き方としては
一つオランダの例を、町づくりの例としてはアメリカで最近提唱され始めているサステーナブルコミュニティーの例をつけております。
オランダの働き方の例としては、労働者のモデルを夫が働き妻子を養うという生計維持労働者モデルから二人で働いて一・五人分稼ごうという稼働者モデルへの変更、
男性が一、
女性が〇・五でもいいし、その逆でもいいし、
男女ともに〇・七五ずつ働くのでもいいのではないかというようなこういう働き方のモデルが
一つのヒントになろうかと思います。
もう
一つ、
地域の方は、その下にありますアメリカの例ですけれども、自動車への依存、石油資源の大量消費というような従来の都市づくりを反省して、住民が誇れる共同体
意識を保有する、職住近接の小さくまとまったコンパクトな町づくり。つまり働く場と暮らす場を包摂した生活圏に合った町づくりにすることによって、もちろん通勤時間が短くなることもそうですけれども、
地域社会に対する帰属
意識、参加
意識を高めていくことにもつながるのではないかというふうに考えます。
最後につけております九ページの上のグラフは、
男女によって、また
子供がいるかいないか、働き方がどうか、核家族か三
世代かということで
子育て支援策に対する要望はかなり違うということをこれで見ていただければと思います。時間の関係で
説明は省略いたします。
それから、その下につけておりますのは、よく
子育ての
経済的負担の軽減ということが言われますけれども、その場合に直接的な
経済的負担というのは教育費を初めとしてよく見えるわけですけれども、もう
一つ忘れてはいけないのは、やはり
出産、
育児に伴って就業を中断することによる利益の損失、
機会費用ではないかというふうに考えます。そこに
経済企画庁の推計で短大卒の平均的なケースで、
出産、
子育て後、正規職員として再就職してどうかというものですが、それでも六千三百万の利益の損失となる。もうそのままやめてしまったり、パートでしか就職しなかったりということであればもっとこれは大きくなるわけでございまして、
子育ての
経済的負担の軽減ということを考えるときに、この
機会費用の軽減、つまりやはり
子育てと
仕事を
両立できるような施策ということがその
意味からも重要ではないかということでつけております。
以上、申し上げましたけれども、個別の
子育て支援策については、お
手元にも配られております
有識者会議の
報告にいろいろと詳しく載っておりますので、これはまた御質問があれば後でお答えをさせていただこうと思いますが、ただ一点つけ加えますと、
子供が欲しくても恵まれない人のために、不妊治療ということをこの
調査会でも大分御
調査なさったようでございますけれども、それとあわせまして養子の支援ということも力を入れていく、養子の支援ということも
子供に恵まれないけれども
子育てをしたいという方に対しては必要ではないかというふうに考えます。
一つだけつけ加えさせていただきます。
以上で御
説明を終わらせていただきます。