○
参考人(
岡澤憲芙君)
意見を表明する場をお与えくださいましてありがとうございます。恐らく時間不足になると思いますので、
最初の二十分では大きな枠組みだけを
お話しさせていただき、
あと質疑応答で答えさせていただければと思います。
実は、この
テーマをいただきましたときに、私はこう考えました。
レジュメの一ページですが、主な
論点は、
女性の
意思決定過程への
参画を阻止している、そして阻止してきた要因、
ハードルは何なのか。なぜ今
女性の
参加なのか。
女性の
意思決定過程への
参加は
社会や
政治をどう変えたか、またどう変えるのか。
女性にとって
意思決定ポストの獲得、維持は魅力的なビジネスか。どうして
参画阻止ハードルをクリアしていけばいいのか。こういうふうに
論点を整理できるんではないかと思いました。
それとともに、
意思決定への
ポストと簡単に言いますけれども、これをもう少し分析してみたらどうかということで、
意思決定過程への空間を三層
構造に考えてみました。
国際レベルの
意思決定過程、
国内レベルで
全国レベルの
意思決定過程、そしてもう
一つが
地方レベルの
意思決定過程、この三層
構造で
意思決定の
ポストはあるんだと考えました。
そして、
意思決定の
内容によって
意思決定の
ポストにはどういう
カテゴリーがあるかというと、分析しますと大体一から九ありました。
カテゴリー一は
立法部もしくは
議会の
レベルで、
国際議会の
議員、例えば
ヨーロッパでいうと
EU議会の
議員とか
国会議員、
県議会議員、
市町村議会議員。
カテゴリーの二としては
行政部、
政府の
レベルで、
首相、大統領、
大臣、政務次官、
知事、副
知事、
市町村長、助役、
収入役、官僚、
管理職、大使、公使、
国際機構の職員、
管理職、
審議会委員。
カテゴリー三としては
政党で、
政党の党首、
政党幹部、
国際政党組織の
幹部。
カテゴリー四としては
利益団体。例えば
巨大利益団体の
幹部や
リーダー。具体的には、
労働組合の
幹部、
経営者団体の
幹部、
医師会、生活協同組合、
消費者団体。先ほどの
五十嵐さんの
お話だと、ここに
PTAも入るのかなという気がいたしますが。
カテゴリーの五、
市民運動。大
規模市民運動の
リーダーやNGOの
リーダー。
カテゴリーの六、マスメディアの
レベル。
巨大メディアの
経営者、
幹部、
論説委員。
カテゴリーの七にはルールの判定、裁判所なんですが、
弁護士や裁判官や検事やオンブズマンにどれだけの
女性がいるか。
カテゴリーの八、
宗教界。例えば牧師や僧侶、司祭、
管区長、枢機卿の
女性の
占有率はどうなっているのか。
カテゴリーの九が
学術の
世界、
研究団体の
世界ですが、大学の学長、
理事、
学会会長、
学術会議の
委員。例えば外国でいうと
科学アカデミーの会員等々において
女性の
比率はどうなっているのか。
恐らく、簡単に
意思決定過程の
ポストといったって、その
ポストがどこにあるかによって大きく三層
構造に分け、そして三層
構造に分けた上で
意思決定の
内容によって
カテゴリーはもう少し多様化してくる。その三掛ける九の
カテゴリー、合計二十七のマトリックスの中で
意思決定の
ポストというのを
議論するのは非常に広範な
議論になるんですが、個人の私としてはそこまではできかねますので、限定的な
テーマで
お話をさせていただきたいと思います。
きょう私に
発言の場が与えられたのは恐らく二番目の
論点だろうと思うんですが、現時点で、
世界に多くの国々がありますけれども、その中で
意思決定過程への
女性の
進出度という点では
スウェーデンが非常に高うございます。その
スウェーデンのことで
意見を述べるということだろうと思います。
実際問題として、
スウェーデンは最も
男女機会均等の国というふうなことは、どうも
国家自身が認めているようでございまして、お
手元の
資料の十二ページ、「スヴェリエ・エ・メスト・イエムステルト」ということで、
スウェーデンは最も
機会均等の国だというふうな表現を、これは
政府の官報で表現しております。
具体的に言いますと、
内閣が、
女性閣僚が今二十名中十一名でございます。
資料の十ページです。
議院内閣制をやっている国で
女性大臣が過半数を超えている国は、恐らく
最初の国の
最初の事例だと思います。
女性の最も
過剰代表になっている
政府の例が二十名の
大臣のうち十一名が
女性だという、この
スウェーデンかと思います。そして、
国会議員でいいますと、七ページなんですが、これがずっと下、時系列的な分析なんですが、大体現在四三%でございます。大体五人に二人。
県会議員が大体四八%。
コミューン議会、これは
市町村議会に当たるんですが、大体四人に一人。ざっと考えて、
大臣で二人に一人、
国会議員で五人に二人、
県会議員で二人に一人、
市会議員で五人に二人が
女性議員というふうに考えればいいかと思います。
あと行政の、
国家公務員の場合、
女性管理職の
比率が大体四四%でございまして、
地方公務員になると、これはいわゆる
女性職場でありまして、
市町村、
地方公務員の
レベルでの
政府というのはもう圧倒的に
女性管理職の
世界になっているというふうに考えていいかと思います。
その次の
民間企業なんですが、今度は、これが非常に
スウェーデン的といいますか、はたから見ると
スウェーデンは
女性の
社会参加が非常に激しい国だというふうに表現されますが、それは
一つ限定をきちっと分析しておく必要があると思うんです。
パブリックセクターでは圧倒的に
女性なんですが、
民間企業ではまだまだごく例外的で、今後の
課題になっているということであります。これが比較的誤解を生みやすいところなんですが、
女性の
社会進出が激しいと言ったのはあくまでも
パブリックセクターに重心を置いた話であって、プライベートセクターはまだ
女性の
進出度がそれほど高くはない。例えば、大企業の社長に
女性が、もちろんいますけれども、
パブリックセクターの
女性管理職ほどは多くないというふうに考えていいと思いまして、今後の
課題だろうと思います。
そういうことはよく言われることなんですけれども、お
手元の十八ページですが、これは、
女性の働きやすさを比較すると大体こういう北欧の三カ国、四カ国が上位に来るというのが
一つの大きな特徴かと思われます。
次いで要因なんですが、こうした
国会議員でいうと五人に二人までの
女性議員を輩出するようになった背景は一体なんだろうかといったときに、背景は私は
カテゴリーに分ければ大きく二つあると思うんです。伝統的に
女性が
意思決定過程に
参加することを阻止していた要因を排除することと、もう
一つは
女性が
意思決定過程に
参加することを促進する要素の二つ、
ハードルを取り去るという発想と新しく促進するという、そのためのメカニズムは何かという二つの視点で考えておく必要があろうかと思います。
二ページに書いておきましたが、
女性の
意思決定過程への
進出を阻止していた伝統的な
ハードルがあるはずであると。それは何か、それをどのように突破したのか。
選挙デモクラシーの
世界で、
選挙公職を獲得、維持するためには膨大な
政治資源が必要である。合法的権威、公的
ポスト、
政府内
ポスト、
議会内
ポスト、党内
ポスト、マネー、知名度、名声、
組織、数、団結、連帯感、情報、
知識、専門
知識、マンパワー、情熱、体力、執念などであると。このような
政治キャリアに必要な
政治資源の多くは
社会生活を通じて獲得、蓄積される。そこで、
女性の
社会参画そのものが難しい
環境では資源獲得、蓄積が難しく、どうしても不利になるのではないかと。こうした
社会参画が難しくなっているような要素をどのような形で小さくしていくか、排除していくかという作業とともに、伝統的には
参加阻止の
ハードルが幾つかあるだろうと。
ざっと整理してみますと、
ハードル一、
女性の選択ミス。
ハードル二、
社会的偏見または
女性の成功恐怖症。これが基本的には候補者擁立難になっていると思うのですが。
ハードル三、伝統的な
価値観の支配力。
ハードル四、
女性の連帯感の欠如。
ハードル五、
選挙制度の
ハードル。
比例代表制対小
選挙区制度。
ハードル六、
男性の既得権維持志向。これはよく言われることですが、男は男を後継者に選びたがるという。
ハードル七、仕事と家事、育児を両立できる
環境の未整備。これは、結婚
ハードル、出産
ハードル、育児
ハードル、高齢者介護
ハードルということだろうと思うのですが。
ハードル八、政界イコール
男性支配
社会の伝統。
女性の参政権の導入がおくれ、それだけ
女性職場としての歴史が浅いということが指摘できるだろうと。
ハードル九、
学校教育における
政治教育の制限。
ハードル十、
女性リーダー育成
環境の未整備。
幹部候補研修
機会は圧倒的に
男性中心に配分されているということであります。そして、
ハードル十一、新規参入者のための特別措置の欠如。例えば、
クオータ制度。
こうした
ハードル一から十一までは多くの国々で見られる、
女性が
意思決定過程に
参加しようとするときに
ハードルになってきた伝統的な阻止要因。
こうした要因を取り去る一方で、積極的にそれを進めていくという装置もあるかもしれないと。それが、三の二で書いておきました加速装置。
スウェーデンで加速装置になったのは一体何だろうかということですが、一は、
議会政治の長い伝統。これは実は、
スウェーデンはイギリスに次いで古い
議会政治の伝統を持っておりまして、アルボーガメーテという、大体一四〇〇年に
議会が招集されたのですが、そういう
意味では
議会政治の長い歴史を持っていたということ。
二番目が、
選挙、
議会政治を活用して
社会改革をしたいという伝統が古かったと。スタートは遅いが到達が早く高いという、これはよく
スウェーデン・デモクラシーについて言われること、そういう
意味では
日本と非常によく似ているんですけれども、
女性参政権が
最初に導入されたのは別に
スウェーデンではありませんし、むしろフィンランドであります。ところが、スタートは遅いのですが、到達の速度が速くて高いという
一つの特徴を持っているようであります。
一八八四年にフレデリカ・ブレメル協会が結成されまして、結局、
議会制民主主義というのは、
男性も
女性も望ましい制度と容認している以上ごく自然なありふれた手段を通じて
意思決定過程に到達するのが一番確実な方法であるという発想をしまして、このフレデリカ・ブレメル協会を
中心として
女性議員を多くふやそうという
運動に着手したわけです。そして、一九二一年に第一号の
女性議員が誕生し、一九四七年に第一号
女性閣僚が誕生しました。決して時系列的に見ると早い国ではないんですね。遅く始まるんだけれども、到達
レベルが高く、到達速度が速い国という特徴だろうと思います。そして、六〇年代の
参加デモクラシー論がばねになって大きく
進出したと。
三番目が、高負担・高
福祉政策が国家の
中心政策になって、その負担が非常に高いために、間接税だけで二五%なんですが、無関心ではいられないということで、これが一九六〇年に四・二%で間接税が導入されたんですが、その間接税につきましては二十ページに書いておきました。
一九六〇年に四・二%で導入したんですが、その六年後、六六年に一〇%になり、一九九〇年には二五%、とても無関心でおられる
比率ではないと。これが当然
政治意識を高めたということとともに、その
参加意欲を高めたし、投票率が非常に高い国になっていると言っていいかと思います。
そして四番目が、先ほど
五十嵐さんの御指摘があったように、
比例代表制がどちらかといえば非常に
女性の
意思決定過程への
進出を促進した要素になったのではないか。
そして五番目が、インフォーマルな
クオータ制。
スウェーデンというのは基本的にはインフォーマルな
クオータ制を採用しているわけで、余り厳格なことではございません。つまり、党派によって全く違っております。だから、党によってそれを採用している党もあれば、そんなことは初めから無視している
政党もあります。保守
政党はハンディをつけることは自由競争の理念に反すると、そして、ともに事前に上限を設定してしまうことになるということで、
クオータ制そのものについてはある
意味でのもろ刃の剣になっている可能性もあります。
それは、十一ページの
二つ目の図がそうなんですが、一番右端の
数字ですが、五一という、これは社民党はもう
議員の過半数が
女性議員ですね。緑の党もやはり六一%が
女性議員という既に
議員の過半数が
女性議員の
政党もあれば、
女性議員の
比率が少ない
政党、二九%、三三%という
政党もある。
そういう形で、やはりそれぞれの党が
自分たちの個性を表明する手段としてこの
女性占有率を選択しているのであって、強制的なフォーマル、クオータというよりも、それぞれの党の判断で確実に考えていると。そして、実際問題として比較的強目のクオータを採用している国よりも、もう既に過半数を超えているところもあるんですから、四〇%のクオータをやるよりも、実はもう五一%の党もあるわけですから、上限を設定するということは実はもっと伸びる力があるのに上限を決めてしまうという問題にもなるし、今低いところはもう少し上げるという、ばねになるという、もろ刃の剣になるという性格は持っているということは分析の対象になっていくだろうと思います。
そして六番目が、候補者指名そして投票用紙に工夫をしていくと。これは
男女交互リストと女男交互リストを組み合わせていくということですね。これは
スウェーデンが比較的早目にやった方法でありまして、
男女男女とやっていくと上位三名が当選というと全部二対一で決まってしまいますので、
一つの
選挙区が
男女男でいけば隣の
選挙区は女
男女とやると、上位三人になるとちょうど五〇、五〇になっていくという、
男女交互リストと女男交互リストをつくっていくというやり方であります。
そして七番目が、
女性の方が平均寿命が長い、そして
女性の方が投票率が高い。そして、超党派で
女性問題に取り組んだら競合的協同が可能ではないかという発想が非常に強かったんですね。
これは、
日本のように
女性と
男性の平均寿命が六歳も長くはないんですよ、実は。それでも多くの国々、つい最近でいいますとバングラデシュ、もう最近はバングラデシュも
女性の方が長くなったんですが、ほとんどの国で
女性の方が平均寿命が長いんですね。
日本は
女性の方が六歳長いんですが、北欧が大体三歳ぐらい長いんですね。それでも総人口でも有権者でも
女性が過半数ですし、投票率は
女性が高うございますので、問題は
女性が党派を超えた共通の問題点があったときには、
政党間の連携が非常に可能であったということが言えると思います。
そして八番目、
政治がペイしないと。つまり
ポスト維持に全力投球するほどの
ポストではないのかという、つまり
政治の場合、情報公開が非常に進んでいて政界業としてのうまみが余りないという
一つの特徴があろうかと思います。だから、
政治という
意思決定の
ポストにそれほどいわゆる役得というものが余りついて回らない。情報公開がもう徹底的に進んでおりまして、その
意味では野心的な
男性はどちらかというとビジネスの方に進むようになっているというふうに言えるかと思います。
そして、ちょっと時間ですので項目だけ述べますと、九番目、柔軟な
議会開会時間と開会場所で、仕事が終わった夕方、
学校の体育館で地方自治の
議会は開かれることがある。そして、できるだけ市民に
参加してもらおうという動きだろうと思います。
それと、十番目が
参加促進型の
選挙制度。
選挙権年齢は十八歳ですし、被
選挙権年齢も十八歳です。高校生の
議員がいたりします。郵便投票制があって全国の郵便局が投票場になっております。また、投票期間が長期設定されており、在外
選挙権がある。
選挙というと低くて八一%、大体八五から九〇%と、投票が義務制度でも罰金制度でも強制制度でもない国でほっておいても投票率が八五%前後を確保している非常に珍しい
選挙制度と言われております。
それと、十一番目の特徴は
政治の
世界と日常生活に大きな乖離がないということ。日常生活の論理が
政治でも通用していくという、無理なく
政治参加ができる
社会ということであります。
そして十二番、早期の
社会教育とオン・ザ・ジョブ・トレーニング型の
政治教育が比較的早いということであります。
十三番目が、
女性環境が整備されていて、男は仕事、女は家庭という伝統的、固定的な性
役割二元論から離脱して出産、育児、家事と仕事が両立する
環境を整備する。そして、
女性の
社会参加が進み、その
社会参加をばねにして問題解決のために
意思決定過程の
ポストに
女性がふえ、たくさん
進出していった、そういうふうに阻止の要因についてはまとめることができると思うんです。
一つの現象があったから、
一つの原因だけで何かがあったと考えるよりも、むしろ
一つの現象は、複数のときには相矛盾する要素が絡み合いながら
一つの現象が起こっているというふうに分析する方がいいのではないかというふうに私は考えて、ちょっと煩瑣になりましたけれども、すべての変数を述べると大体今のように整理できるのではないかと思います。
以上です。