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参考人(
国分良成君) ありがとうございます。
ただいま御紹介をいただきました慶応大学の
国分でございます。本日は、このような貴重な機会をお与えくださいまして厚く感謝を申し上げたいというふうに思います。
現在、東
アジアは非常にさまざまな問題で大きく揺れているわけであります。特に、
中国、
台湾をめぐる問題というのは、これは我が国にとっても非常に重大な問題であり、どのような分析をするのか、そしてどのような
政策をとるのかというのがやはり決定的に重要なそういう
状況、
段階に来ているというふうにまず申し上げたいと思います。
そこで、まず私なりの
台湾の今回の
総統選挙についての評価を申し上げたいというふうに思いますが、次の三点に簡単にまとめてございます。
まず第一点目は、今回のこの
民進党への
政権交代というのがやはり
民主化の
一つの
台湾における
到達点であるということだろうと思います。約八三%近くの
投票率というまさに
選挙に燃えた
台湾でございましたけれども、結果としては
政権交代が起こったという、恐らくこれは
李登輝総統が一貫して追求されてきたある種の
民主化の
一つの
到達点でもあるということが言えるのだろうと思いますが。
その結果でもありますが、第二番目には、これはやや言い方が強いかもしれませんが、
国民党時代が
一つの終えんを迎えたということだろうと思います。
第三番目に、その結果でまさに言えるわけでありますけれども、従来、
中台関係というものは、これは共産党と
国民党の
関係として
中国自身が
かなり強く認識をしてきたわけでありますが、この
政権交代が起こったことによってまさに
文字どおり中国と
台湾の
関係になってきたということが言えるのではないかというふうに思うわけであります。
そこで、第二番目の点といたしまして、それでは私
自身が現在の
台湾の
状況をどういうふうに理解しているのか、そして今後どういうふうにこれが推移していくのかということについて簡単に御
意見を申し上げたいというふうに思います。
まず第一に申し上げたいのは、今回
陳水扁、新たな
総統という形で当選をしたわけでありますけれども、実はまだ
かなりの困難を抱えていることは間違いないということであります。
まず第一には、
立法院という
議会でございますけれども、ここで依然として
民進党は
少数派であるということ、そして多数は
国民党であるということ、その中での
議会運営をどうするのかという問題。
それから第二には、依然として官僚あるいは軍、そうした
指導部を見てみますと
国民党系の人々がほとんどであります。そうした
人たちをどういうふうにこれから説得していくのか、動かしていくのか、これが大きな問題であります。
それから第三には、
宋楚瑜氏が非常に得票を伸ばしたという事実があるわけであります。同時に、この新しい
政党を結成するということになってまいりますと、この
対抗勢力として
かなり強くこれから出てくる
可能性があるわけであります。それから第五番目には、
陳水扁氏そのものが
国際経験に乏しいという問題があるわけであります。それから、もう
一つつけ加えて申し上げますと、これからも
中国の強い
警戒心と強い主張というものが出てくると思います。これもやはり
陳水扁新総統にとっては
一つの困難であろうかと思います。
それを踏まえて、一体
陳水扁総統はどういう形で
政局を運営していくんだろうかということを考えてみますと、まず第一に考えられるのは、今
お話にございました李遠哲氏、つまりノーベル化学賞として非常に著名な方でございますが、国政
顧問団の最高の地位につかれるということが決まっていますが、非常に
台湾の中で人気のあるこの李遠哲氏を恐らく
かなり活用するだろうということは間違いない。
それから、第二に考えられるのは、やはり
李登輝総統への接近といいますか、恐らく依然として
李登輝総統の影響力というのは退任後も
かなり強く維持されるということになるわけでありますから、そういう
意味ではこれをやはり
陳水扁氏も活用したいということにならざるを得ない。その
意味では、
国民党との連立というような形もあるいは部分的な連立ということも恐らく射程に入れて考えていくだろうというふうに思うわけであります。
同時に、
陳水扁氏は
中国からの強い主張がございますので、現在
台湾の中で
住民の不安というのも
かなりあるわけでありますから、その
意味ではやはり
台湾が
中国と
対話を行っていくという、この点についての前向きの姿勢も示していくだろうと。
それでは、一体
李登輝総統そのものは退任後どういう影響力を持ち得るのかということでありますが、
選挙結果そのものは、
李登輝総統にとっては私はセカンドベストであったというふうに考えております。私は、
李登輝総統のこれまでの
発言その他を考慮してまいりますと、最終的には
政権交代というのが
民主化の完成であるというふうにやはり考えていたのではないかというふうに思うわけで、そういう点では予定より若干早過ぎたというところは
李登輝総統にはあったかもしれませんが、恐らく第二の選択肢としては
陳水扁氏であったろうというふうに思うわけであります。
ただ、
選挙結果、
連戦氏がこれほど票をとれなかったというところから見て、影響力が相対的に低下していくことはやはり否めない面があるかもしれないということであります。現に、現在
国民党主席の責任論というものが浮上しております。そして、今回早目に
辞任されるということがもう本日の
新聞等で
報道されております。
ただ、私は、多分そのことによって影響力をどういう形で保持するかというのは恐らく考えておられるんだと思いますが、その点では多分民間人に下った方が逆に影響力をとりやすいという側面も考えているのかもしれない。よく民間
外交であるとかNGO
外交であるということが
台湾でも強調されています。それは
台湾自体が国際的な
外交関係を多く持っていないという現実から来るわけでありますが、そういう形で影響力を保持するんだろうというふうに思います。
同時に、
李登輝総統は恐らく
宋楚瑜氏が
国民党に復活、あるいは
国民党の中で影響力を持ち得る、そういうことをとにかく阻止したいということは今後もさまざまな形で行動をとるだろうと思われます。
以上のことを踏まえて、それでは
中国側は一体どういうふうに今回の事態を考え、そして対応しているのかということを客観的に申し上げたいというふうに思います。
まず第一に申し上げたいのは、いわゆる
台湾白書、同時に
朱鎔基首相が非常に強硬な
発言を行いました。つまり、統一交渉を引き延ばすような行為をした場合は武力行使を辞さないというような
発言をもこの
台湾白書の中で
中国は明らかにし、そして
朱鎔基首相もこれに合わせるかのように非常に強硬な
発言をいたしました。
中国の
原則はやはり武力行使を絶対に放棄できないということであろうかと思います。それはなぜかと言えば、放棄をすれば
台湾が恐らく
中国からますます離れて独自の行動をとるということ、そういう判断に基づいているわけでありますが、同時に、もう
一つ重要なことは、
中国共産党にとってこの五十年間の
政権の正統性そのものに
関係しているということであります。みずからの
政権の正統性として
台湾の統一ということを五十年間繰り返し言ってきたということになりますと、国内的な正統性の裏づけという点からも、今後も恐らく
台湾問題については断固たる姿勢を最後までとるというふうに思うわけであります。
ただ、私は今回の
台湾の
総統選挙に関しては、武力での威嚇は実はなかなかしにくい
状況に
中国は落ちついていたということも事実であります。それは、前回九六年の
総統選挙の際に
かなり強い国際非難を浴びたという
経験があるからでございますし、同時にその結果が
李登輝総統の
勝利ということをもたらしてしまったということがございます。つまり、前回の
経験ということもございますし、それからもう
一つは、やはり
中国の今置かれている
状況というものが非常に厳しい
状況であるということはやはり認識しているかと思います。
最も大きな問題は、国内の経済
状況であります。これはWTOの加盟の問題もございますし、同時に日本を含めた西側諸国からの直接投資も
かなり激減してきているという
状況があるわけで、
中国の経済的な活性というのが
政権の安定性の基礎になりますから、そういう点ではやはり国際的な協調
路線をとらざるを得ないという側面はあるわけであります。
そういう点では、今回もし武力を使って威嚇するということをやれば、それがたちまち国際非難を浴びるということはほぼわかっているわけでありますから、そういう
意味で国内のさまざまな軍の
反発もあるというところから今回は文書という形で強硬な
発言を提示したということになろうかと思います。
私は、今回の事態の推移を見てまいりますと、
台湾問題というのが
中国の中では、ある
意味ではこれまで
中国の中で
かなり凝集力を欠いてきた
状況があるわけでありますが、そういう点では民族主義を喚起する
一つのよい材料にも確かになったということでありまして、つまり不況であるとか、あるいは失業である、あるいは
政治不安というようなことが
中国の中で非常によく言われていた、そういう
状況の中で、共産党の信頼感というものが低下している中でこれだけ凝集力を持ったというのもある
意味では珍しいわけでありまして、そういう
意味では国内に凝集力を持たせる、こういう形で
中国が使ったということも言えるんだろうと思います。
同時に、江沢民主席にとってやはり
自分の将来的な成果、業績という点もあろうかと思いますが、それは毛沢東氏あるいは故
トウ小平氏に比べてみると一体
自分が何をするかということもあるかと思いますが、そういう点ではやはり
台湾問題というのをどうにかしたいというのが
かなり強いんだろうというふうに思います。
今回のこの強い行動によってマイナスと実はプラスの効果があったというふうに私は判断しております。マイナスの効果は何かと申しますと、白書が出る前は
台湾における
総統選挙の争点は、これはただ
一つ金権
政治の打破ということでありました。つまりは、
台湾内部のお金にまつわる金権支配ということ、ここに焦点が集中していた。ところが、白書が出たことによって
中台関係に焦点が移行したということであります。
同時に、
台湾人かあるいは
中国人かといういわゆる省籍矛盾というものも焦点になったということが実は
陳水扁氏に票が集まった
一つの背景になっているということだろうと思いますし、それからもう
一つは、この白書の発表というのは、恐らくやはり
陳水扁氏を崩す、
陳水扁氏を落とすということが目標だったと思いますけれども、結果としてはこれは失敗したということになるわけであります。
これが
中国にとっての誤算であったかというふうに思いますけれども、実はマイナス効果だけでもなかったかもしれないというのが少し出てきているということであります。それはどういうことかと申しますと、
陳水扁氏が当選するという場合も十分に想定できたわけであります。これは特に最後の
段階においてはそのようなことが想像できた。その
段階ではできるだけ強硬な
立場で
陳水扁氏を牽制するということであったんだろうと思います。
それで、一体
陳水扁氏がどうなったかといいますと、現実に彼の
発言が非常に穏健化していったという事実があるわけであります。
総統になれば
民進党という党の
立場から離れるであるとか、独立宣言はしないとか、あるいは国名の変更はないとか、
対話を推進したいとか、あるいは訪中希望があるとか、あるいは最近では
民進党の独立という綱領を放棄したいということが
動きとしてあるわけであります。
そういう点で見てまいりますと、
中国としては、やや
言葉が、余りいい
言葉ではありませんけれども、
李登輝総統よりも
陳水扁氏の方が若干御しやすいという側面はあるかもしれないという感覚を持っても不思議ではないという感じがこれまでのところはするわけであります。
そこで、
中国のこれからの対応ということでありますけれども、やはり
中国は今後も徹底的に独立という傾向をとにかく阻止したいということで強硬に訴え続けるだろうと思います。これが国内的な実はコンセンサスをある
意味では持っているわけでありますし、同時にそれをやらない限りはみずからの正当性も危ない。同時に柔軟な策として、
陳水扁氏に対して
対話の促進をこれから促していくだろう。つまり接近策をも説くだろうということであります。
そういうことによって何をねらうかというと、恐らく最大の目標は、ずっと
総統選以前からの
中国の対応を見てまいりますと、やはり
李登輝総統の影響力の低下、これをねらうということだろうと思います。やはり
李登輝総統に対する物すごい
中国の内部での
警戒心というものがあるわけでありますから、これを今後できるだけ排除したいというのが恐らく
中国側のねらいだろうというふうに思います。その
意味では、
中国側は
宋楚瑜氏にどういう形で接近できるかということを模索するでしょうし、
陳水扁氏と
李登輝総統の間をどうにか離間できないだろうかというようなことも恐らく考えるんだろうと思います。
訪日の問題が出てきております。
李登輝総統の訪日の問題、退任後でありますけれども、これに対して物すごい
中国は反対を示しておりますけれども、これもやはり影響力がそういう形で保持されていくということに対する懸念であるということが考えられるわけであります。
同時に、
アメリカに対しても、
中国は、独立の傾向をとにかく阻止してほしいということと、それから
対話の促進をとにかく仲介してほしいということを積極的に依頼するんだろうと思います。
いずれにいたしましても、五月の正式の
総統就任までパイプをいろんな形で模索して、そして新たな
陳水扁政権に対していろんな形の接触攻勢に出ていくだろうというふうに思うわけであります。
最後に、日台
関係ということ、日本と
台湾の
関係ということでありますが、実はこれ
自身、私
自身がまだ考え方がまとまっておりませんで、最後までこの部分は消すか消さないか迷ったのでありますが、やはりこのような機会でございますので、私
自身の考えもまだ未熟でございますけれども、私なりの考えを申し上げたいと思います。
これまでの日本と
台湾のパイプというのは、これはもちろん国家
関係はないわけでございますから民間を中心としたものであった。しかし、民間を中心としたものであるけれども、やはり
国民党中心であり、同時に
李登輝総統を中心としたものであった。これは別の言い方をすれば、日本語世代というものを中心に交流してきたということになろうかと思います。その
意味では、
民進党あるいは
陳水扁氏とのつながりというものはまだ新しいし、同時に限定的なものであろうかと思います。
台湾の世代交代ということの中で、
台湾は恐らくこれから日本語世代にかわって英語世代というのが圧倒的な多数を占めていくということになろうかと思いますので、そういう
意味では
台湾と
アメリカの
関係というのはますます今後太くなっていくだろうということが予想されるわけであります。
その点からいいますと、日本との
関係というものが、民間を中心としてでありますが、若干弱まることもあり得るわけでありますが、ただ、
台湾の中にある日本ブーム、また日本を受け入れるということの社会的な基盤はもう
かなりでき上がっておりますので、そういう点での日本と
台湾の民間の交流というのは今後も
かなり強く続くだろうというふうに思います。
問題は、
李登輝総統の退任後の訪日の問題であります。これは現在でも非常に論争を巻き起こしておりますし、既に
中国側から強い
反発を呼んでいるわけであります。ただ、論理的に考えてみますと、それから、ある
意味では感情的あるいは道義的に考えてみても、
李登輝総統の退任後、同時に党主席もやめられるということでございますので、そういう点では訪日は可能であるという条件は整ってきたということだろうと思います。
ただ、問題はそれをどういう形で行うのかという問題であります。
一つは
状況の問題、二つ目はタイミングの問題、それから第三番目は方法の問題であります。つまり、
中国にも
中国のメンツと
原則というのがあるわけでありますし、やはり我が国としては
中国との
外交関係ということが前提でございます。
そういう点を考えてまいりますと、
状況としては、余り問題を公にし過ぎる、あるいはこの問題について大きく取り上げ過ぎるという
状況の中では
中国は
反発せざるを得ないというのが当然の
中国の
政策になろうかと思いますし、タイミングという点で考えますと、例えば日本は間もなくサミットを迎えようとしておりますけれども、その直前であるとか、つまり日中間というものをできるだけ険悪にさせたくないという
状況下、また
関係がある
程度安定しているという判断の中でこうしたことが行われないとだめでしょうし、それから第三番目には、方法という点では、もちろん公人として訪日いただくということにはいかないでしょうし、それは民間の
関係しかないわけでありますから、私人、民間人という形。
それから同時に、どういう場所に、あるいはどういう人と交流するかという、そうした点も含めてこれはいろんな形でセットできちんと話を詰めていかないと
かなりお互いにしこりを残すということになりかねないということで、私
自身もまだ煮え切らない
結論でございますけれども、やはりこれは十分に水面下で議論していく話ではないかというふうに考えております。
いずれにしても、日本と
台湾の
関係、あるいは同時に、
外交関係を持っております
中国との
関係というのは、どちらもやはりこれはある
意味では重要な
関係であります。その均衡点がどこにあるのかという点を考えてみますと、これはやはり
中台の平和的な統一であるという以外にあり得ないだろうと思います。そのための
対話の推進ということも、我が国としては基本的に前向きに推進することを主張すべきだろうというふうに思います。
同時に、独立と統一ということの間には、実はこの二つの選択肢だけではない無限の恐らくシナリオというのがあり得るんだろうというふうに思います。そうした柔軟な思考というものが我々にも求められているということだろうと思います。東
アジアの安定のためにも我が国にとってこの問題はやはり今後も積極的に議論していく、そうした重要な課題であるというふうに考えております。
以上で
発言を終わらせていただきます。ありがとうございました。