○佐々木秀典君 私は、
民主党を代表して、ただいま
議題となりました
少年法等の一部を改正する
法律案について、森総理及び
関係大臣に質問をいたします。
なお、質問に先立ち、さきの
愛知、佐賀などの、少年による犯罪
事件でとうとい命を奪われた被害者の御遺族に対し心からお悔やみを申し上げますとともに、心身に傷害を受けられた皆さんの一日も早い御回復をお祈り申し上げます。
また、
民主党の少年法小
委員会の座長としてこの問題に全精力を傾けておられた福岡宗也
議員が、去る四月十一日に逝去されました。心より
哀悼の意を表するとともに、先ほどの
杉浦正健議員のお心のこもった
追悼演説に対して心から御礼を申し上げます。ありがとうございました。(
拍手)
福岡先生は、だれよりも少年たちの置かれた現状に心を痛め、少年犯罪の
防止とはかけ離れた方向にこの少年法の改正論議が進むことに強い危惧を抱いておられました。そして、座長メモとして、
政府の少年法改正案に対する詳細な見解を残されておられます。私は、
福岡先生のこの思いを引き継いでこの質問を行いたいと存じます。
まず、総理にお伺いをいたします。近年、相次いで起きている不幸な少年による凶悪犯罪の
原因は何なのか、これについての総理のお考えをお聞かせください。
私は、現在の少年による犯罪について本来検討さるべきは、少年法を刑罰法として見直すのではなく、現代
社会の中で多くの青少年が現実にどのような問題を抱えているか、これをあらゆる角度から検証し、その病根が少年たちをして犯罪に向かうことを
防止する対策を
社会全体として真剣に考え施すことであると考えております。
日本精神病院協会の仙波
会長は、新聞紙面で、近年、精神障害に起因したと思われる若い人の凶悪
事件が多発するのは、初期の段階で彼らが発したシグナルを周囲が見逃し、症状が悪化するまで放置してしまっているからではないかと述べておられます。心を病んだ子供たちについては、偏差値や学習成績だけでなく、子供のすべてを見るようにすることが大切なのではないでしょうか。総理のお考えはいかがでしょうか。
また、少年による犯罪に限らず、あらゆる犯罪により傷つけられた被害者について、その
権利を確立し、国として
支援する体制づくりをすることが重要であることは言うまでもありません。かかる見地から、
民主党は、本院に犯罪被害者基本法案を提出しております。今こそ、この
法律の
必要性が真に問われていると考え、その成立につき
議員各位の御協力をお願いする次第です。この犯罪被害者の
権利を確立する基本法の制定について、森総理の見解をお聞かせいただきます。
次に、法務大臣にお伺いいたします。臼井法務大臣は少年法の理念をどのように考えておられるのか、改めてお答えをいただきたく存じます。
国連の市民的及び
政治的
権利に関する国際規約、
人権規約は、
刑事裁判手続における
人権保障の条項の中で、子供に対しては、教育的、福祉的視点に立つ対応を求めています。子どもの
権利条約ではこの
人権規約をさらに発展させています。
今回の改正は、この
条約の精神に背馳する改正にならないか、法務大臣及び文部大臣の見解を求めます。
少年
事件の捜査
経過における警察の対応にも重大な問題が指摘されております。九七年に制定された少年非行総合対策
推進要綱は、
基本方針として、少年の健全育成を図るために、少年を非行から守り、これを保護するための諸対策の積極的な
推進をするという理念をうたっています。
しかし、先日の
愛知での少年による五千万円恐喝
事件という驚くべき
事件を見ても、警察の対応については大いに疑問とせざるを得ません。同
事件では、加害者の両親が警察に出頭し、いわば自首してきたにもかかわらず、警察は、被害届が出ていないから
事件にならないとこれを追い返したというのであります。
警察官の職業意識の欠如、要綱はあってもその
趣旨内容が現場の警官に徹底していないという事実を保利国家公安
委員長はどのように考えておられるのか、お伺いいたします。
そこで、改正案の具体的
内容に即して臼井法務大臣に伺います。
まず、第十七条の観護
措置期間の延長についてでありますが、本改正案では、
措置期間を最長十二週間としています。どのような
理由からこの期間延長を是とされたのか、お伺いをいたします。
従来も事案の事実認定が争われる
事件については在宅審判が行われており、それによって何らの問題はありませんでした。長期の身柄の拘束は、その処遇が長期にわたり、不確定になることで、少年の人格に対して悪い影響を及ぼすことも考えられ、更生を目的とする少年法の理念に大きく反するのではないかと思いますが、いかがお考えですか。
次に、本改正案では、少年審判について裁定合議制を導入することとしています。この合議制の導入は、すべての
事件に導入すべきものとされているのでありましょうか。事実認定手続の明確化と合議制の導入とはどのような関連があると考えておられるのか、お尋ねをいたします。
合議制を導入することで、従来以上に慎重な結論が出るということにならないと私は思います。裁判官が複数で少年と対峙することにより、少年を萎縮、緊張させることは、弾力的な審判により少年の更生を促すという少年法の理念に反する結果になるのではないかと恐れますが、いかがでしょうか。
次に、少年
事件の事実認定のための審判手続における検察官の関与については、いかなる範囲で検察官を関与させようとするのかについてお伺いをいたします。
現在の審判においては、保護観察官、保護司及び少年鑑別所に勤務する法務教官、法務技官などが裁判所の許可を得て
意見を述べることが可能です。成人より防御力の弱い少年に
人権保障手続を外したまま検察官の弾劾を認めることは、子どもの
権利条約にも反し、憲法の保障する公正な裁判を受ける
権利をも侵害するのではないかと危惧するのですが、いかがでしょうか。
続いて、検察官に対する事実認定及び法令の適用に関する抗告権の付与についてお伺いいたします。
検察官の抗告権を認め、裁判所の手続が繰り返されることは、憲法三十九条にある二重処罰の禁止に反するおそれがあり、また処分の早期確定を求める少年法の保護主義の理念に反するのではないかと考えますが、いかがですか。
ところで、去る五月二日、山口最高裁判所長官が、本少年法改正案の早期成立を求めるかのごとき発言をしたと報道されております。
司法の長である長官が、みずからの役職を超えた極めて
政治的な発言をされたことに私はむしろ大きな憤りを覚えます。今回の改正点である事実認定の問題にしても、裁判官の能力が大きな問題となっており、それは家庭裁判所を軽視してきたこれまでの
司法行政によってもたらされたものではないでしょうか。裁判官の配置の
あり方、家庭裁判所調査官や少年保護の
社会的バックアップ体制を充実させることにより、
改善できることは幾つもある。それによって少年法の目的の実を上げることが、真の
司法の使命と役割ではないのでしょうか。(
拍手)
元最高裁判事として高名な団藤重光氏は、保護手続における
人権の保障は、どこまでも少年の健全育成の熱意に出るのでなければならない、それは、高い次元において、少年法の初心に立ち返ることであると述べておられます。少年法論議が、昨今の少年による凶悪犯罪の続発している事象に目を奪われ、その厳重処罰を求める世論に迎合し、法の中に脈打つ理想と熱意を忘れ、単なる手続論議に陥るとき、私たちは次世代に対し大きな誤りを犯すことになるのではないでしょうか。
現在、この少年法の改正により、多くの少年犯罪が抑止されるかのような誤った論議が一部に起きています。しかし、見せしめあるいは応報の刑罰法として少年法を改正しても、それは少年犯罪
防止の抜本的解決に何ら有効な手段となり得ません。少年が、自分及び他の人々の生命と
権利をとうとび、未来に希望を持ち、犯罪に手を染めることのない
社会をつくることは大人の
責任であり、
社会全体の問題であり、国の
責任であることは言うまでもありません。わけても
政治の
責任は極めて重いことを私たちは肝に銘じなければなりません。
民主党は、党を挙げ、少年犯罪を根絶するため、多くの視点から総合的な青少年対策を検討し、
提案をしていく
決意であることを表明して、私の質問を終わります。ありがとうございました。(
拍手)
〔内閣総理大臣森喜朗君
登壇〕