○諸
澤参考人 ただいま御
紹介いただきました
常磐大学の諸澤でございます。
被害者保護に関する
法律の
改正及び制定の
審議にかかわる
法務委員会において
発言の
機会を与えられましたことを大変光栄と存じております。
といいますのは、実は私は、長年
被害者の
権利に取り組んでおりまして、一九七五年に初めて
被害者の
権利に関する論文を書き、以来四半世紀にわたってこの問題に取り組んでまいりました。しかし、その間、まことに残念ながら、この
被害者の
権利ということについては、特に
日本国内では強い反論を受けてまいりました。その間、諸
外国ではかなり
被害者の
権利についての
確立が進み、もはや諸
外国で常識であることが
我が国においては非常識であるという
事態がつい最近までございました。そういう中での御
審議でございますので、
大変期待をして本日参っております。
御承知のとおり、
欧米では一九六〇年代から、既に
被害者運動が起こって
補償制度をつくったという歴史がございますし、七〇年代には、
民間の
被害者支援が始まっております。そして、八〇年代になりますと、
国連における
取り組みと、それから
各国が
被害者関連法の
整備を進めております。そして、一九九〇年代、すなわちこの十年間の様子でありますが、ほとんどの国が
被害者関連の
法案の
整備を終え、
実績を得て、その
実績に基づいた
点検評価を行っているということと、それからさらに、
グローバルスタンダードづくりが行われているということがございます。
ところで、
国連におきましては、一九八〇年に
被害者問題に取り組むということを決めまして、次の
会議であります一九八五年の
会議のテーマとして、この
被害者の
人権を取り上げました。その間五年間、各地域のいわゆるディビジョンレベルでの
会議を重ねていったわけであります。そして、本日お配りいたしました、
要約だけではございますが、一九八五年のミラノの第七回
国連犯罪防止会議において、
犯罪及び
パワー濫用の
被害者のための
司法の
基本原則宣言、これを
通称国連被害者人権宣言と称しておりますが、これが
決議され、十一月の
国連総会で採択されたという
経緯でございます。
八五年のこの
宣言以来、実は現在に至るまでさまざまな形で
国連を中心として
取り組みが行われているわけであります。特に、一九九〇年の第八回の
国連犯罪防止会議においては、
各国の
政府に
被害者保護のための
法整備を促進するということを促す
決議をしております。さらに、一九九三年のスペインのオニャティにおける
ワークショップでは、それを実施するためのマニュアル及び
ガイドづくりを行うということを
決議し、その後、
被害者問題専門家会議というものを組織いたしました。
実は、この
被害者問題専門家会議は、一九九五年の十二月から九八年の四月までの間に
世界各国から八十二名の
専門家が集まり、数度の
会議を経て
ハンドブック及び
ガイドづくりを行ったわけでありますが、私は、その
議論を煮詰め、
ハンドブックの
原稿案を作成する数名の幹事の一人として選ばれ、この数年間この問題に取り組んでまいりました。その成果につきましては、昨年こういう形でもって、
日本語版を印刷し、全訳をつくりまして、
警察庁で印刷をしていただいたという
経緯がございます。
これを見ていただくと、詳細についてはかなりわかるわけでございますけれども、八五年の
基準が
現時点ではもはや古いものであるということをひとつ十分御認識いただきたいと思うわけであります。しかし、今回の上程もそうでございますが、現在
我が国の
被害者関係の
議論の中では、八五年の
国連宣言が
一つの
目標値といいますか、
理想像だという形で理解されていて、それはすぐにそういう
状態はできない、しかし、将来的にはそれを目指すべきだというようなかなり腰を引いた
議論になっているという点が非常に重大な問題だと私は認識しております。
八〇年という
時代は、実は、
世界的にもやはり
犯罪者の
人権についての
配慮が非常に強く求められた
時代でありまして、つまり
犯罪者の
人権対
被害者の
人権という非常に厳しい
議論の中でたどり着いた
結論がこの八五年でございますけれども、
現時点におきましては、実は、これよりかなり踏み込んだ、すなわち
被害者の
権利性を明確にうたったそういうものが
各国で
法律化されており、また、
国連会議あるいは
世界被害者学会等においてもそれを前提とした
議論がかなり活発に行われているということでございますので、この
機会に、ややニュアンス的なことではございますけれども、その背景というものをぜひ御理解いただきたいと考えております。
そういうことで、昨今、
被害者の
権利につきましては、せめて
被害者の
権利を
加害者側の
権利と同等にというニュアンスで語られることが多いわけでございますけれども、これは正確に言いますと、
加害者の
権利をせめて
被害者の
権利に近づけることはできないかといったような形で近い将来語られるべきでありますし、既に諸
外国においてはもうそういう
状態ができているということでございます。
こういうことで、
我が国は約二十年のおくれをつくったわけでございますので、今回が
被害者保護に向けての第一弾というふうに私は理解しておりますけれども、今後引き続いてこういう検討が十分になされ、
法整備が行われることを期待しております。
次に、
国連被害者人権宣言の概要でございますが、時間がございませんので、
要約ということで資料で配付させていただきました。もし御質問がございましたら、後ほどお答えしたいと思いますが、詳しくは避けたいと思っております。
ただ、この
国連被害者人権宣言の中で
三つの大きなポイントがございます。それは、
被害者の
権利については、知る
権利、
司法制度に参加する
権利、
被害から回復する
権利という、この
三つの
権利があるというふうに
一般的には言われております。
今回の
法案の中にもその一部が反映しているように理解しておりますが、まず知る
権利でありますけれども、知る
権利については、実は、知る
権利があるということを知らせてもらえる
権利があるという
部分が非常に大事かと思っております。すなわち、これは入り口の
権利あるいは発端の
権利と言われておりますが、
一つの例で言いますと、
被疑者等が逮捕され、取り調べを受ける段において、
黙秘権があるということが告げられずに行われた場合には、そのことの
違法性が問題になるという
程度に非常に大事なことでございますが、それと同じように、
被害者もやはり
被害者の
権利についての
説明を受ける
権利がある。したがって、その
説明を行政が
責任を持って行わなければいけないという
部分がございまして、これは近い将来の問題ではなかろうかと考えております。
それから、知る
権利につきましては、既に警察における
連絡、それから
検察における
被害者等通知制度までこぎつけたわけでございますが、今後の問題として、
裁判レベルでの
情報の
開示、そして刑の
執行段階での
開示、すなわち、捜査から出所に至るまでの
一連の
情報について知る
権利を持っており、しかも、その知る
権利が
リレー式につながっていく。この
リレー式という点も、
国連の
専門家会議で繰り返し確認し合われている点でございます。すなわち、
被害者の側がそれぞれの
機関に
連絡をとりながら
情報をたどっていくということであってはいけない、
刑事司法機関が
責任を持って
リレー式に
情報を提供するという流れができなければいけないということであります。
それから三番目としては、
優先傍聴権でございますが、これは今回入っておりまして、大変うれしく存じております。
それから四番目といたしましては、
少年事件と
精神障害者事件も例外ではないということでございます。この際、ぜひ強調しておきたいこととして、公開ということと
開示ということをはっきり使い分けるべきであろう。例えば、
少年事件は
非公開である、したがって
被害者は
傍聴できないという論理は、やはり私から見ますとおかしいと思います。
非公開であるということは、
一般社会に向かって
非公開でありますが、
被害者は、当事者として当然
情報を得る
権利がありますので、
傍聴する
権利がある。
少年事件において
被害者が
傍聴できないというのは、
世界的にも極めて珍しい
法体系だと認識しております。
二番目に、
司法制度に参加する
権利でございますけれども、これも非常に大きな
議論がありますので、今後の
一連の
議論の中で実現していただければと思っておりますけれども、大事なこととしまして、
被害者の参加の仕方はその国の
司法制度によりますから、
世界の統一した、
スタンダードといいますか
基準というものはございません。
幾つかの、五つ、六つぐらいの標準的なものはございますけれども、
我が国がどういう
制度をとるかということは
我が国が決めることで当然いいのだろうと思いますが、ただ、
一つだけ言えることは、起訴とか求刑とか
執行猶予、仮釈放といったようなそれぞれの
段階において、
被害者の気持ちを反映できるような
制度になっていなければいけないということは最低限言われるだろうと思っております。
三番目の、
被害から回復する
権利でございますけれども、これも既に
法務省でも取り組まれていることでございますが、
損害賠償が機能していないということがございます。それを機能させるためには、やはり
裁判制度に何らかの手をつける必要があるだろうと思います。
今回は和解について手がけたわけでございますけれども、でき得れば、その
損害賠償を
刑事裁判の中で実現するといった、例えば附帯私訴を
制度化する、あるいは、最近
世界的には、レスティチューションといいまして、
被害弁償と訳しますが、
刑事裁判に関連して
弁償についての
命令を言い渡すという形、そしてさらには、
命令でございますので、
弁償が確実に行われたかどうかを国が
責任を持って追跡するということがございます。しかし、そうはいいましても、
加害者側が十分に
弁償できるということは余り期待できないわけでありまして、その間を
補償制度によって埋めざるを得ない。したがいまして、その
補償制度を充実するということもございます。
それからもう
一つは、
民間の活力を利用する。これは、
政府ができないのでやるということよりも、むしろ、
被害者支援とか
被害者の
権利確立というのは、国と
民間がいわば車の両輪のような形でもって相補いながら行われるということが言われております。そういう
意味で、
民間の活動が行われるような環境をつくる、
法制度をつくる、あるいは
補助金の
制度を充実するなどが期待されるところでございます。
さて、時間が限られておりますので、今回の
法案に関連いたしまして若干申し上げたいと思っております。
今回のものについては、これだけの限られた期間の中でこのような案がまとめられたということにつきまして、私も、それに当たりました
事務局に敬意を表したいと思っております。そして、できるだけ、一日も早くこの
法案を成立させていただきたいと考えております。しかし、そうはいいましても、若干気になる点がありますので、でき得ればということで触れさせていただきます。
その一は、
傍聴に関する件でございます。
被害者等の
優先傍聴権の中に、心身に重大な故障がある場合の
親族等が入っているという点は高く評価したいと思います。しかし、
裁判長は何々に
配慮しなければならないという形になっております。これは一見
権利をうたっているようでありますけれども、私どもの目から通しますと、必ずしも
権利になっていないような気がいたすわけでございます。それは、
傍聴席とか
傍聴を希望する者の数その他の事情を考慮してということが、当然ではございますけれども条件がついてまいります。したがって、かなえられないことがあるということがあります。
その際、どうしても気になることは、
被害者の
傍聴と、
一般の人、あるいは
マスコミ関係者の
傍聴といいますか
取材との間に明らかな差をつける必要があるだろうと考えております。特に
マスコミ関係者については、
共同取材を検討してもらうべき時期に来ているのではなかろうかと思っております。有名な
事件においては、
傍聴席を
マスコミ関係者が占めてしまうという非常に嘆かわしい
事態がございます。
取材というのは非常に重要なことでございますが、それは
共同取材ででき得るのではなかろうかと考えております。
次に、二番目でございますが、
刑事訴訟法の一部
改正法の第一条
関係でございます。
刑事訴訟法の第百五十七条の二に関連して、
裁判所は証人に
付添人を認めております。しかし、この
付添人につきましては、
付添人の
優先傍聴といいますか、
被害者が
傍聴する際にその
付添人があわせて優先的に
傍聴できる
制度になっておりません。これは非常に重大な問題だと考えております。
実際に、日々
被害者、遺族の方と接しておりまして、初
公判においてぜひ
傍聴したいと思っている、しかし、
事件が騒がれていれば騒がれているほど
傍聴がしにくいという
現実がございます。そういうときに
付添人を強く求めている。私も、水戸の
被害者援助センターで法廷の
付き添いサービスを昨年から実施しておりますけれども、
現実にはまだ
付添人が
傍聴席に入れないという
事態は出ておりませんけれども、
取材が多数ある
事件においては既にいろいろ出ておりまして、そういう
意味で、
付添人が
被害者の
傍聴にあわせて一緒に入れる、優先的に入れるということがぜひとも必要だと考えております。
次に、今回新設されることになりました
被害者のための
条文の中に、裁判官が
訴訟関係人の
意見を聞いて認めることになっている
部分がございます。これもやや気になるところではございます。
ただ、百五十七条の三のつい立てとか百五十七条の四の
ビデオリンクあるいは百五十七条の二の
付き添いなどにつきましては、これは
被害者の
保護のための
制度でありますのでやむを得ないかなと考えておりますけれども、刑訴二百九十二条の二のいわゆる
意見陳述、
心情等の
陳述の件と、それから
保護法関係の三条の
公判記録の
閲覧、
謄写について
訴訟関係人に
意見を聞くという
部分については、果たしてどうなんだろうかと大いに疑問に感じております。
ただ、もしこのまま
法案が成立するという場合であっても、この
審議の過程において実務上そこに十分な
配慮をするということの確認がなされ、
運用上、
被害者に不利な
運用がなされないような
制度になることを期待しております。
最後に、今後これを踏まえてのぜひお願いしたいことを
幾つか申し上げて、終わりたいと思います。
まずは、今
国会中に、
被害者の
保護についての国の
取り組みについて
国会決議をぜひともお願いしたいと考えております。
今、ようやく
日本はこの意識が非常に高まってまいりました。しかし、これからやるべき問題は非常に多数ございます。やや乱暴な言い方をしますと、やるべきことを一〇とした場合には、今回の
法改正で一
程度しか実現しないのだろうと思っております。そうしますと、これから五年、十年という
取り組みが少なくとも必要となるわけでございまして、そういう
意味で、
国会で
決議をし、
被害者保護に国が真剣になって取り組むんだという
意思表示をぜひともお願いしたいと思っております。
今後の問題としては、憲法の中に
被害者に関する
条文を新設すること。
それから、今回民主党から提案されているようでございますけれども、
被害者に関する
基本法をできるだけ早い時期に成立させること。
欧米はすべてでございますけれども、それ以外の国をとらえましても、この
基本法に相当する
被害者憲章、
被害者の
権利章典、
犯罪被害者権利法、
犯罪被害者法のような
基本法を持っていない国はございません。したがって、できるだけ近い将来に
基本法に当たるものをぜひとも制定していただきたいと考えております。
それから、そのほか、国を挙げて取り組んでいただくという
意味で、それに当たる
審議会のようなものをぜひともお願いしたいと思います。
関係省庁連絡会議に
出席して、
ワークショップだったかと思いますが、
意見を述べさせていただく
機会がございましたけれども、現在では、残念ながら、
法務省と
警察庁は非常によく取り組んでおりますけれども、それ以外の
省庁に対してはまことに失望をいたしました。そういう
意味で、国を挙げた態勢をぜひともとっていただきたいと考えております。
それから、
被害者支援につきましては、
地方公共団体のそれなりの
責任というものはありますので、それについても明確にしていただきたいと思います。
さらには、経済的な
支援を考えた場合に、アメリカそのほかの国がやっておりますように、
犯罪被害者に関する基金を設置して、罰金、科料、過料、
交通反則金、
刑務作業の収益、没収された
保釈金などといったものを財源として、
被害者支援に使えるような
制度をつくるべきではなかろうかと考えております。
さらには、
学校教育の中における
被害者教育がぜひとも必要でありまして、
いじめが大変大きな問題になっておりますけれども、私の長年の研究の中では、
いじめ対策で最も効果的なのは
被害者教育を行うことであるというふうに考えております。
そのほか、
犯給制度の
改正をする必要がありますけれども、特に
少年事件や
精神障害者事件については、いろいろな制約があることは承知しております。しかし、それであるからこそ、
補償金を含めるところのその他の手厚い
保護を、
一般の
被害者よりもより手厚い
保護をぜひともお願いしたいと考えております。
最後に、公務員を初めとしていろいろな
方々が
被害者にかかわる部門に携わるわけでありますけれども、それらの
採用試験とか
昇格試験、
昇任試験その他においても
被害者の理解のための
教育や
試験を実施する、これも
国連の
専門会議で確認し合ったことでございます。
そういう形で、いろいろな形、いろいろなシステムをつくることによって国全体としてのレベルアップをし、最終的には
我が国も
被害者に優しい国の
一つになれるようになることを期待して、
陳述を終わりたいと思います。(拍手)