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及川参考人 国民生活センター顧問の
及川でございます。
私も、
国民生活審議会委員として、この六年間、
消費者契約法の審議に参画をしてまいりました。民主党から提案されている案、非常によい
一つの考え方であると思いますが、そのような考え方も含めて、六年間非常に激しい議論をし、その結果、最終の報告を取りまとめさせていただきました。いろいろな対立する
意見のある中で、多くの人の合意を得た案が生活審議会の報告であったろうかなと思っております。そういう意味で、生活審議会の報告を忠実に反映していると考えられる政府の
消費者契約法案を、
消費者保護のために、
消費者の利益擁護のために、できるだけ早く、一日も早く成立させていただきたいと心から期待をしているものであります。
重複しないようにごく簡単に申し上げたいと思いますが、なぜ今
消費者契約法がそれほど必要なのかというと、私は三点考えております。
何といっても、
契約関係の
トラブルが非常に多いということです。
国民生活センターは
全国の集計をしておりますが、この五年間に
契約関係の
トラブルは倍増いたしました。五年前といいますか、統計上は平成五年度に十六万件であった件数が、平成十年度は三十二万件を超えるようになりました。非常に多くなっています。何としてもこれを早く、法制を含めて
対応策をとっていくことが緊急であります。
二番目に、そういう
トラブルに今までどういうふうに
対応してきたかというと、個別に
対応してきました。ネズミ講が問題になるとネズミ講の禁止法をつくりました。豊田商事が問題になると預託法をつくりました。預託法をつくったら、金の取り締まりをしたのですが、牛が預託されるということになって、牛をまた追加する。どんどん
規制法をやってきました。だけれども、個別
規制では抜け穴がいっぱいあります。
規制緩和の時代にもなりました。早く抜け穴のないような、全体を包括する
ルールを決めることが必要だと私は痛感をしております。
そして、そのような包括法で
消費者を守るということは世界の潮流です、グローバルスタンダードになりました。ECは全部
法律をつくりました。アメリカでも判例が確立されています。お隣の韓国でも、約款法は既に随分早くできております。
日本は非常に立ちおくれました。そういう意味で、包括的な
契約法を
日本でつくることが
消費者保護のために非常に大事だと思います。
政府案では、その第二条で、
事業者と
消費者との
取引に全部これを
適用するというふうに
規定し、包括法であることを非常にはっきり定めております。審議の過程では個別の業者から
適用除外の話もいっぱいありましたけれども、それを克服して包括法という原案ができたこと、私はその点については高く評価したいと思います。
第二に、
消費者問題の発生の根本的な
原因は、御存じのとおり、
消費者と
事業者との間の
情報力の
格差、
交渉力の
格差から生じます。
政府案の第一条の「
目的」では、
情報力
格差、
交渉力格差という
現状にかんがみということを明記していただきました。その明記のもとでこういうことを考えるんだという基本的な
目的、第一条に、
日本の
法律では初めて
情報力
格差、
交渉力格差ということが明記されたということも、高く評価したいと私は思っております。
それでは、そういう
情報力
格差ということをどういうことで是正しながら
消費者トラブルを解消するかということについては、まさしく、
専門家である
事業者が知っている
情報を
消費者に知らせてくれ、
消費者の権利のトップに出てくる知らされる権利をどう保障するかということが、この
消費者契約法でも本質的には大事なことであったろうと思います。
この
法律案では、知らされる権利ということは明記はいたしておりませんけれども、
一定の重要事項を知らされなかったならば
消費者はその
契約を取り消せるということは、裏返せば、
消費者に
一定の範囲で知らされる権利を保障したということになると思います。
一定の範囲をどうするかということは、当然議論があります。ただ、権利がなかった
消費者が権利を持つようになるということが
法律の役割でありますから、そういう意味では、この
法律が、
日本の
消費者行政の歴史の中では、ルビコン川を渡るような大きな意味を持つ
法律になると私は考えております。
取り消し権を与える重要事項の範囲については、非常に強い
効果でありますから、ある程度限定せざるを得ないと思います。この
法律では、重要
情報の
提供全体については、第三条で、
事業者の努力義務、
努力規定としました。全体は
努力規定、
法律上の
効果がすぐ及ばない
努力規定としました。第二番目に、不利益
情報を故意に隠したならば、故意という条件をつけましたけれども取り消せるというふうにしました。第三段階として、故意や過失を問わずに取り消せるということは、不実の告知、うそを言った、断定的
判断をした、そういうことをやったら故意や過失を問わずに取り消せるという、
情報提供について三段階の
規定をいたしております。現段階ではそれは妥当な決め方であろうと私は思っております。
そして、
困惑行為についても取り消せることにしました。不
退去、
監禁、その範囲は狭いじゃないかという議論がありましたけれども、いろいろ議論をした結果、合意を得たところがその点であります。合意を得たところを早急に
ルールとして法定をしていただきたいというふうに思います。
二番目、第三章になりますけれども、
交渉力格差の是正の方策であります。
交渉力が劣っておる結果、
契約条項に非常に
消費者に不平等な
条項が入っている。その不平等な
契約条項、一方的に
消費者に不利な
契約条項は無効とするというのが第三章の
規定であります。
その無効とする不利益
条項、
不当条項というものを、個別に、具体的に制限して列挙しようという
意見がいろいろありました。
明確性、
予見可能性ということから具体的な事例を列挙しようじゃないか。七項目、八項目列挙しようじゃないかという
意見もありましたけれども、しかし、それでは抜け穴が多くて非常に問題のある
法律であろうかと私は考えておりました。いろいろ議論があった結果、
政府案でも、制限して列挙するだけではなくて、いわゆる
一般条項として、
不当条項、
消費者に一方的に不利益な
条項は無効にするというような
条項が最終的に入ることになりました。
この
一般条項が入ったことによって、
政府案の
消費者契約法案は、世界の
契約法に見劣りをしない
法案になったと私は評価しております。このような
消費者契約法というのは、製造物責任法と並んで、実は、
日本の
消費者保護、
消費者行政の中ではエポックメーキングな役割を果たすと私は考えております。
国際的には、
消費者の権利というのは、一九六二年のケネディの
消費者保護教書以来、安全である権利、知らされる権利、選ぶ権利、
意見が反映される権利、これが
消費者の四つの権利と既に確定しておりました。そして、弱い
消費者を保護するのではなくて、この
消費者の権利を守るのが連邦政府の責任だとケネディの
消費者保護教書は言っているわけであります。そしてさらに、最近では、救済される権利とか対等である権利とかいうことが国際的には権利として確立されてきております。
しかし、
我が国の
消費者行政では、
消費者に必ずしもそのような権利をしっかりと確認するということではなくて、弱い
消費者を保護するというやり方で、個別に問題が起こったら
規制法を使ってかわいそうだから
消費者を保護するというやり方で
行政を進めてまいりました。
そういうことではなくて、
消費者に権利を与えて、権利のある
消費者として、そしてその権利を擁護するということに、世界の先進国並みの
消費者行政に
日本も転換すべきときに来ていると思いますけれども、そういう意味で、
消費者の権利の確立と、権利の上に
消費者が自立する、自己責任を持つという意味で、製造物責任法と
消費者契約法は大きな二つの柱になると私は考えております。
すなわち、製造物責任法が
制定されて初めて、安全の権利が侵害されたら
消費者はそれを完全に救済されるという権利が確立いたしましたし、
消費者契約法が成立いたしますと、重要事項を、
一定の範囲ではありますが、知らされなかったならば、それについて救済される、うそを言われたら救済されるというような権利が、そういう意味で確立することになるわけであります。製造物責任法と
消費者契約法が、これからの
日本の
消費者保護の車の両輪としてしっかり働いていってもらいたいと私は思っておる次第であります。
契約法ができたらそれで万々歳ということではございません。皆さんからも御
意見があったように、残された
課題というものがあります。
契約法についてもPL法についても、一般的、包括的な
民事ルールとして決められるものであります。権利義務を
消費者と
事業者の間で配分を変更する重大な
民事ルールでありますけれども、それは
裁判規範であります。
裁判規範であるからには、
裁判が
消費者にとってやりやすい、使いやすいものでなければならないと思います。現実には、
裁判所は
消費者にとっては非常に近寄りがたいものになっています。今、司法改革がやっと緒につきました。ぜひこの司法改革をしっかりと進めて、
裁判所を
消費者にとって使いやすいものにしていただきたい、
消費者契約法やPL法が
裁判の場でしっかりと使えるようなものにしていただきたいと思います。
これらの
法律は、
裁判規範であるとともに、
裁判外の
紛争処理の規範にもなります。
裁判外の
紛争処理、だからわかりやすいものでなければなりませんが、
消費者契約に関して
裁判外の
紛争処理をしている最大の機関は、
全国四百カ所の消費生活センターであります。消費生活センターのあり方については多くの方から議論がありましたように、今、都道府県段階で相談業務を中心に縮小の動きが出てきたりして、全体としては懸念される方向にあります。むしろ、今このような
法律が出たときに、他の
規制行政分野は整理するとしても、このような公正
取引の分野とか
消費者のためのチェック機関とかいうことは、まさしく
規制緩和時代には強化すべき分野であろうかと思います。経費もそうかかるものではありません。
ぜひ、消費生活センター、
国民生活センター等を含めて、それらの事後チェック機関というもの、
消費者情報提供機関、
裁判外紛争処理機関というものを
充実するようにしていただきたいと思いますし、
消費者の自立ということのための
消費者教育とか
事業者への周知徹底等も図っていただかなければならないと思いますし、
法律施行後どのように施行されるかということを、しっかりと施行
状況のフォローアップも
国会はもとより
行政府においても行っておく必要があろうかと思います。
そのようなことで、この
法律の施行後、実効性を確保していかなければならないと思いますが、いずれにしましても、個別の
規制法によって弱い
消費者を助けるということではなくて、新しい
ルール、透明な
ルールを定めて、
消費者と
事業者との間に信頼
関係のあるマーケットができ上がり、それによって
消費者の利益が確保され、国民生活が向上し経済が活性化していくということを私は望みたいと思います。そういう意味では、この
法律というのは、
日本の
消費者行政についても新しい展開を求めていくものになろうかと思います。
最後の一行に
一つだけ書いてありますが、従来、権利を持たない
消費者を個別に家父長的に保護するということをやってまいりましたけれども、保護から自立へ、権利を持った
消費者として自立し自己
判断していく
消費者、それで
消費者の利益が守れるような方向に転換していかなければならないと思います。
消費者の保護から
消費者の自立へといいますと、国際的には、世界の
消費者行政の人たちからは、外国ではアメリカでもヨーロッパでも
消費者の保護こそやっているのに
日本は何を言っているんだと実は批判を受けたこともありました。
そのときに私が説明いたしましたのは、
日本では、PL法もなかった、
契約法もなかった、
消費者には何も権利がなかったから、権利の擁護ということができないから、弱い
消費者を保護するという家父長的保護をやってきた。だから、保護から自立へと変えるときに初めて
日本は
消費者の権利を持たせるような法制をつくり、そして権利を擁護する、すなわち自立した
消費者という
行政に転換していくためにスローガン的に保護から自立へと言っているんだと言いましたら、諸外国の
消費者行政の担当者、
消費者団体の方たちも非常によく納得してくださいました。まさしくそのような画期的な
法律をPL法や
消費者契約法は中に含んでいると私は考えております。
そういう意味で、自立する
消費者づくりということがこれで進んでいくと思いますし、さらには、そのような自立した
消費者が
社会における最大の形成者として
社会に積極的に参画していく、そのような
行政に
消費者行政が展開していくことを心から期待しているものであります。
そういう意味においては、三十年前につくられました
消費者保護基本法についても、
消費者の権利やその他はなくて、完全な訓示
規定になっているわけであります。基本法の見直しがいろいろなところで、各面で
国会において行われているわけでございますけれども、
消費者基本法の再点検ということも、当然のことながら、PL法と
消費者契約法の成立後は議題、テーマになってくるものと考えているわけであります。
国権の最高機関としての立法府の皆様方がしかるべく御審議をいただければ大変幸せに存じ、それを心から期待するものでございます。ありがとうございました。(
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