運営者 Bitlet 姉妹サービス
使い方 FAQ このサイトについて | login

2000-05-18 第147回国会 衆議院 科学技術委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十二年五月十八日(木曜日)     午前九時十分開議  出席委員    委員長 田端 正広君    理事 稲葉 大和君 理事 小野 晋也君    理事 河本 三郎君 理事 山口 俊一君    理事 辻  一彦君 理事 平野 博文君    理事 近江巳記夫君 理事 吉井 英勝君       大石 秀政君    木村 隆秀君       戸井田 徹君    古屋 圭司君      三ッ林弥太郎君    望月 義夫君       近藤 昭一君    藤村  修君       斉藤 鉄夫君    松浪健四郎君       菅原喜重郎君    辻元 清美君     …………………………………    科学技術政務次官     斉藤 鉄夫君    参考人    (財団法人千里ライフサイ    エンス振興財団理事長)    (科学技術会議生命倫理委    員会クローン小委員会委員    長)           岡田 善雄君    参考人    (弁護士)        光石 忠敬君    参考人    (京都大学大学院法学研究    科教授)    (ユネスコ国際生命倫理委    員会委員長)       位田 隆一君    参考人    (三菱化学生命科学研究所    科学技術文明研究部長)  米本 昌平君    科学技術委員会専門員   宮武 太郎君     ————————————— 委員の異動 五月十八日  辞任         補欠選任   岩下 栄一君     戸井田 徹君   江渡 聡徳君     大石 秀政君   吉田  治君     藤村  修君   中西 啓介君     松浪健四郎君 同日  辞任         補欠選任   大石 秀政君     江渡 聡徳君   戸井田 徹君     岩下 栄一君   藤村  修君     吉田  治君   松浪健四郎君     中西 啓介君     ————————————— 五月十七日  脱原発への政策転換に関する請願(中西績介紹介)(第一七二一号)  同(木島日出夫紹介)(第一八一五号)  同(佐々木陸海紹介)(第一八一六号) は本委員会に付託された。     ————————————— 本日の会議に付した案件  生命科学に関する件(クローン問題)     午前九時十分開議      ————◇—————
  2. 田端正広

    田端委員長 これより会議を開きます。  生命科学に関する件、特にクローン問題について調査を進めます。  本日は、本件調査のため、参考人として、財団法人千里ライフサイエンス振興財団理事長科学技術会議生命倫理委員会クローン小委員会委員長岡田善雄君、弁護士光石忠敬君、京都大学大学院法学研究科教授ユネスコ国際生命倫理委員会委員長位田隆一君及び三菱化学生命科学研究所科学技術文明研究部長米本昌平君、以上四名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人各位に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用中のところ本委員会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。本件につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、調査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。  なお、議事の順序でございますが、岡田参考人光石参考人位田参考人米本参考人の順に、お一人十五分程度で御意見をお述べいただき、その後、委員からの質疑に対してお答えいただきたいと存じます。  また、念のため申し上げますが、御発言はすべてその都度委員長の許可を得てお願いいたします。なお、参考人委員に対し質疑ができないことになっておりますので、あらかじめ御了承願います。  それでは、まず岡田参考人にお願いいたします。
  3. 岡田善雄

    岡田参考人 おはようございます。  この問題では、一度この委員会参考人で参らせていただいたことがありまして、今回が二回目ということになります。きょうはクローン問題のクローン技術規制というものの全体につきまして、できるだけ全体像がわかるような格好でお話しさせていただきたいと思います。お手元にお配りしてあると思いますが、私の「クローン技術規制について」というものを見ながら話を聞いていただけるとありがたいと思います。  この問題は、皆さん御存じのように、一九九七年二月にクローン羊ドリーが発表されたということに端を発した問題であります。その技術といいますのは、この一ページに書いてありますが、これは皆さん多分御存じと思うけれども、もう一度復習をいたします。  我々の体をつくっている細胞、これを体細胞といいます。この体細胞というのは、その個体一代限りの、個体との運命共同体というものでありまして、これと対応する言葉生殖細胞だと理解してください。  我々の体をつくっている体細胞個体から取り出してきて培養すると、どんどん細胞がふえていきます。これを培養しておきまして、一方では、強制排卵した未受精卵というものを取り出しましてその核を取り除いて、そのかわりに、培養した体細胞の核を移植するという形をとります。現実的には細胞融合であります。ですから、体細胞そのものを未受精卵細胞融合で融合させます。当然、体細胞の方の細胞質というような中に入るのですが、卵の方が圧倒的に体積が大きくて何千倍もあります。  そういうことで、未受精卵の中に入った体細胞の核というのは、未受精卵の方の細胞質のいろいろなファクターの影響を全面的に受けます。それで、その核が、受精直後の核といいますか、核の中には染色体があって、染色体の中にはDNAが入っていますが、そのDNA制御機構というのが受精した直後のような形のコントロールシステムの方に動いてきてくれるわけであります。これを我々は初期化といいます。フロッピーディスクの初期化との対応で、そういうことで呼んでおります。  それがそういう形になってきますと、これを培養していきますと卵割が始まります。それで、ここの図の中で点線に書いてあるような形のところが培養系で進んでまいりますと、このクローン胚をホルモンで疑似妊娠という形をとった雌の、女性子宮に着床させるということで、体細胞染色体遺伝子と全く同じコピーの生物ができる、人間なら人間ができるというものであります。  この技術はもともと畜産分野として工夫されたものでありまして、これによって、優良品種を生産するという自由度が非常に大きく上がったわけであります。その意味でいいますれば、クローン技術というのは極めて有効性が高くて、倫理的にも畜産関係ではそれほど抵抗を受けるような技術ではないわけであります。  問題は、ヒトにも応用が可能であるということであります。この技術といいますのは、卵と精子受精というステップを経ないで個体生産をするという方法でありますので、畜産分野と違いまして、ヒトの場合には大変な危惧だけが存在するというものであります。  これを一応学問的といいますか科学的な見地から考えてみますと、人類というものの非常に長いスパンでこの方法論を考えてみますと、これは相当大変なことを意味しています。といいますのは、生物というのは数十億年かけて進化という、その進化の中で受精という一つの大きなステップを獲得してきたわけであります。それによって生物多様性、それから生物種の中の遺伝的な多様性というものを確保することによって生物種を大きく長らえさせてくる、それで発展させてくるということができたわけでありまして、生物進化というのは、その出発点は、この受精というステップを踏まえて子供をつくる、子孫をつくるという、唯一このステップにかかっているものなのであります。  受精を経ない無性生殖というものは、生物が獲得してきたこのすばらしいステップを人為的に捨ててしまうものなのです。捨ててしまうということはどういうことかといいますと、長いスパンでいいますと、これは人類が消滅していくというステップに必ず入っていくべき方法論なのであります。そういう意味におきましては、これは相当大変なものであります。そういうことでは、生殖技術ということとはほとんど違う次元の問題点をはらんでいるということになります。  では、短いスパンということで、今の状況下でということを考えてみましても、いいことは余りありません。それは三ページに一応簡単に書いてありますけれども、「科学的な意味」というところで、無性生殖であって、遺伝子体細胞提供者と同一であって、生み出される人の表現形質が予測可能である、特定の遺伝形質を有する人を意図的に複数産生することも可能であるということが科学的には言えることであります。  さらに、倫理の面からいいますれば、その次に書いてありますように、これはもう非常に大きな問題がありますが、人の尊厳の侵害、それから家族秩序の混乱等社会的な弊害というものが当然起こってくるわけであります。  次に書いてあります安全性の問題というのも非常に大きなファクターでありまして、今、日本ではクローン牛というのは非常にたくさんつくられています。その中で、クローン牛最初日本でやられた私の友達のデータを見てみましても、クローン牛が生まれた後、死亡するパーセンテージというのは非常に高いんですね。これはちょっと予測できないぐらいの高さのものがあります。これは、体細胞からつくったものだということとの対応の中で理解できるぐらいの大きな、受精から生まれた子供との差でありまして、安全性の問題では非常に気になるデータを牛のクローンというところでその人たちは出してくれています。これはアメリカの雑誌にも投稿して、そういう意味で発表してあるわけであります。  もう一つ安全性ということでいえば、細胞には寿命があるということがこのごろ盛んに言われています。その寿命というところで説明があるのは、染色体の中にテロメアという構造がありまして、このテロメアというのがちょうど電車に乗るときの回数券みたいな格好なんですね。一回乗るとちょっと短うなるわけです。それで、ずっと短くなってしまうと分裂ができなくなって寿命が終わるというふうなことがあるらしいというのが近ごろ非常に言われています。  それとの対応の中で、最初クローン羊ドリーというのは多分寿命の点では問題があろうという話が出ていまして、これはどうなるか、これから先見ていかにゃなりませんが、ドリーができた体細胞というのはもう成熟した大人の羊から体細胞をとっています。ということは、当然ながらテロメアの長さは短くなっているわけです。それで、生殖細胞との関係なしにつくり上げておりますから、そういう意味では、それからできた個体というのは、体をつくっている細胞みんなテロメアが短いもので個体ができ上がっているかもしれぬというふうな話もあります。非常にいろいろな問題点というのがここから派生してくることがあるわけであります。  そういうふうなことで、こういう問題に関しての審議がどういう流れで行われてきたかと申しますと、これまた一ページに戻っていただきたいのですけれども、一九九七年の二月にクローン羊の発表があって、もうすぐにその三月には、科学技術会議において政府資金をこういう研究には支出しないということを決定いたしましたし、それからその年の六月には、デンバー・サミットにおきましてヒトクローン個体禁止するために各国が適当な国内措置をとることを決定しております。  それを受けて、一九九七年の、同じ年の九月に、当時の橋本総理のイニシアチブによりまして科学技術会議の中に生命倫理委員会が設置されたわけであります。そして、生命倫理委員会の中に、その次の年の一月、クローン技術ヒトへの適用の問題を集中的に審議するクローン委員会というのがつくられました。六月には中間報告が取りまとめられまして、ここで広く一般意見を公募するという作業がありました。  また、有識者アンケートの結果、九割以上がクローン技術ヒトへの適用を好ましくないと考えておりまして、七割以上が法律による規制が必要であると回答いたしました。  それから少したちまして、今度はまた一つ問題が出てまいりました。それは、ある米国人日本記者を集めて、日本クローン関係する研究所をつくる、お金はアメリカベンチャーキャピタルから取ってくる、最初はペットのクローンをやるけれども、ヒトクローンというのも生殖技術との対応の中で実施したいと思っているということを記者会見で発表いたしたようであります。それに関して少し調べてみますと、その人は北海道にちゃんと土地を持っているというところまでわかってまいりまして、その人が何で日本でやるのか、アメリカでやったらいいじゃないかという感じを瞬間持ったわけですけれども、そういうふうな流れがありまして、それで委員会もそういうファクターも入れて審議を続けてまいりました。  それで、平成十年の十二月になりまして、今度はまた一つ大きな問題が出てまいりました。これは学問的なことでありますけれども、アメリカから、ヒト胚性幹細胞ES細胞、エンブリオニック・ステム・セルというものをヒトからとったという報告がありました。これは、ある意味ではこれからの再生医学というものの対象としては一番有力な材料であろうということが瞬間考えられましたし、一方では、ヒトの卵を生殖医学以外の分野で使うということに対する生命倫理的な問題というものとの兼ね合いのところでどういう形がとれるかという問題が出てまいりまして、また別の委員会としてヒト胚小委員会、これはクローン委員会とメンバーが半分ぐらいダブっておりますけれども、そういうふうなものがスタートいたします。  年がかわりまして、クローン委員会報告が上部の生命倫理委員会の方に提出されまして、それを採択するという形が平成十一年の十二月にはできまして、最終的に平成十二年の三月に生命倫理委員会においてヒト胚研究小委員会報告を了承して、その報告を踏まえて、ヒトクローン胚等に関する規制の枠組みについて、ヒトクローン個体等産生禁止する法律に位置づけして早急に整備するということを決定したわけであります。  そういうことで、その禁止ということに関しては、三ページの「クローン人間産生禁止」、それから次のページに書いてあります「キメラ、ハイブリッド個体産生禁止」、それから次のページの「クローン胚等研究規制」ということがその中に盛られた形のまとめ方ということになったわけであります。そういう格好で進んでまいりましたことを御報告しておきます。  最後に、六ページを見てください。「生殖医療との関係」ということがここに書いてあります。クローン技術というのは無性生殖であるということで、生殖医療の延長とはとらえることができないところがあるということであります。それにも増して、生殖医療よりももっと深いところでの、私が最初に申しましたような大きな問題に足を踏み込むということにつながるものでありますので、これは生殖医療というものと同一視してはいけないと私は思っておりまして、クローン人間産生を早期に規制するということが必要であろうということであります。  なお、ヒト胚研究一般につきましては、生命倫理委員会において検討を現在開始したところであるということであります。  以上で、私の最初のお話を終わりたいと思います。ありがとうございました。(拍手)
  4. 田端正広

    田端委員長 ありがとうございました。  次に、光石参考人にお願いいたします。
  5. 光石忠敬

    光石参考人 弁護士光石忠敬です。  発言の機会をいただきましたことに感謝いたします。  私は易者でも千里眼でもありませんが、クローン法案は、組み合わせパズルの得意な頭のいい人が書いた、立法の前提となる社会的、経済的事実にはさほど強い関心がないけれども政治的嗅覚はなかなかある人がこさえた、そういうふうに感じます。だからこそ、クローンという言葉定義クローン定義を操作することで、一方で先進諸国一般国民には、クローン法律禁止しました、他方で国内科学者たち産業界には、指針研究ができる道を開いておきましたと言って、どちらにも御安心くださいと言い繕うことのできる、そういうぬえのような法案になったのではないか、こういうふうに思います。私にとってこの法案は、ベストセラーではないですけれども、脳を鍛えるどころか、読むのも難儀な法案でした。  起草者は、片仮名ヒト漢字の人の間をさまよった末、片仮名ヒトにいかりをおろしたように感じられます。片仮名ヒト科学用語漢字の人はこれは社会的存在として人格を中心に考えた人間ですから、事は科学技術社会がどのように制御するべきかという問題の一部です。  私は、クローン技術中心とする科学技術社会的存在としての人間の方へ引き寄せながら、人間固有尊厳とそれに由来する人権のプリズムを通して、懸念される四点についてお話ししたいと思います。  第一は余剰胚とそれが生み出される生殖医療について、第二はクローン定義との関係禁止実質的根拠について、第三は医科学研究提供者同意について、第四はルール形成過程不透明性についてであります。国家は、人権を尊重するのみならず、保護し充足、促進するという義務があるというふうに考えられますから、人間尊厳というものはお題目に終わらせてはならない、こういうふうに信じるからであります。  第一の懸念余剰胚のことです。体外受精などの生殖医療に何ら法規制がないことと関係します。  法案は、体外受精余剰胚クローン研究に使うことを当然の前提としています。この余剰胚が生み出される実態はよくわかっていません。文献などによりますと、患者の希望があれば凍結保存するなどと説明されておりますけれども、意図的に余剰胚がつくられないという保証はないのであります。  また、法案は、胚を女性の胎内に移植する行為を扱います。これはまさしく生殖医学生殖医療そのものです。  精子卵子受精して、受精卵が着床して胚になって、胎盤がつくられ始めて胎児へと成長していく、この生命の始まりの過程は、自然生殖では一人の女性の体内で起こります。ところが、一九七八年に体外受精がイギリスで行われて、体外のシャーレで、試験管でとも言いますが、受精が可能になって、精子卵子受精卵のそれぞれの提供者や、果ては子宮の貸し主までがあらわれて、生殖医療を利用する男女カップルとの関係が複雑になってまいりました。本来の不妊治療目的があいまいになりました。さまざまな人為操作が可能になっています。生まれてくる子供にとってだれが父でだれが母か、その法的地位が不安定になって、子どもの権利条約に基づく父母を知る権利父母に育てられる権利、それが尊重されない、保護されない事態が起こってきました。  日本では、生殖医療に対して何ら法規制がありません。医師には、専門職業規範プロフェッショナルコードとして日本産科婦人科学会会告がありますけれども、長野県のケースではこの会告が余り効力がないことを示しています。  医師会学会は、先進諸国と異なって任意加入団体で、強制加入団体ではないですから、たとえ会告違反で除名されても診療を続けていくことができるわけです。多くの体外受精などが比較的小規模の診療所等で行われるということもあって、生まれてくる子供権利のみならず、生殖医療を利用する女性権利もまた必ずしも尊重され保護されているとは言えないと思います。  私の所属する日弁連、日本弁護士連合会は、この三月に生殖医療技術の利用に対する法的規制に関する提言をまとめて公表しました。お手元にその概要だけお配りしましたけれども、本文も事務局の方にお渡ししてありますので、ぜひお目通しいただいて、審議の御参考にしていただければ幸いです。  クローン技術前提である余剰胚、それが生み出される体外受精など生殖医療といういわば上流における人権状況をそのままにしておいて、クローンといういわば下流の問題のみを扱う法律をつくる、そういうことは、上流汚染をそのままにして下流汚染を扱う、あるいはマネーロンダリングにも似て、倫理的根拠の怪しげな余剰胚、それが格上げされることになるのではないか。もちろん法体系整合性の問題も起こってまいります。  第二の懸念は、クローン定義との関係クローン禁止の実質的な根拠があいまいなことです。  クローン禁止の実質的な根拠は、人間存在独自性、一回性、非決定性他者によってあらかじめ決定されていない、これを保証する有性生殖男女遺伝子が無作為にまぜ合わされる、そして技術有効性安全性の未確立、それで人間尊厳に反するということが若い研究者のぬで島さんなどによってまとめられております。今の点は大方のコンセンサスが得られていると思います。  法案第一条は、人間尊厳保持とか生命身体の安全の確保、社会秩序の維持を目的として宣言するのですから、同じ遺伝情報を持つ人間の胚が生まれる事態を人為的に引き起こす行為禁止しなければならないことになるだろうと思います。  ところが、クローン法案クローンに類似する胚を母胎に戻すことを法律禁止しませんでした。初期胚核移植初期胚の分割によるクローン、これは、有用性への期待がある一方で、先ほど説明があったような、体細胞クローンほどの弊害はないからという考え方に基づいているようであります。そうだとすると、人間尊厳保持云々をうたう法の目的は見せかけにすぎないことになります。なぜなら、国際人権規約が明記する人間固有尊厳、これは人権がそこから由来するわけですけれども、そういう人間尊厳有用性が期待されるくらいの理由で覆されるほど軽いものではないと思うからであります。  クローン定義と関連して、クローン禁止する実質的根拠が徹底的に検討されるべきであると私は思います。  法規制のあり方として、どうしても指針及び個別審査のメカニズムが必要になるかもしれません。しかし、その場合でも、法律で原則禁止し、そして禁止を解除する要件を法律で定めて、その上で法律に基づく指針に沿う個別審査禁止を解除していくということは一つ考え方としてあり得ると思います。この場合、個別審査が成功するか否かは、審査機構生命科学の非専門家外部委員相当数を選ぶ場合、行政側の指名ではなくて団体推薦に限るということにすることだと思います。そうすることによって、いわゆるなれ合いではない、真に多角的でそれこそ火花を散らすような審査検討が可能になる。もちろん、審査は徹底的な情報公開のもとで行う必要があります。  第三の懸念は、提供者同意のことです。  クローン技術を含む人間患者に対する医科学研究、これについては国際人権自由権規約七条「何人も、その自由な同意なしに医学的又は科学的実験を受けない。」という包括的な規範はありますけれども、治験についてのGCPを除きますと、研究科学性倫理性を確保する、つまり研究のインテグリティーを確保するための医科学研究対象となる人間医科学研究対象となる患者を保護する法律というものがないのです。そのことと関連します。  例えば、近ごろの幾つかの先端医科学研究に関するルールづくりに共通に見られる欠陥だと私は思いますが、それはこの医科学研究コントロールにおける同意原則への安易な寄りかかりだと思います。  法案は、余剰胚提供者同意前提研究を成り立たせようとしています。しかし、申すまでもなく、同意原則というのは、同意する能力と、公正で十分な説明患者理解、そして同意自発性がなければ無効です。特に患者本人に直接の医学的な益のない医科学研究への同意ということになりますと、通常の診療行為に対するものより格段に厳格な同意能力説明理解同意、そして自発性が求められます。  医科学研究における研究者医師研究対象の人、患者との間の情報の著しい非対称、落差、それからよく見られる依存関係、これらのことを考えますと、同意原則で処理し得るための基盤、この基盤をよほど整備してかからないと、かえって同意人権侵害の問題を覆い隠してしまいます。また、この基盤整備こそ憲法十三条に基づく自己決定権を実質的に保障するかぎになるだろう、こういうふうに思います。  この基盤整備の一つとして、無償提供の原則、胚とかヒト組織、遺伝子解析用の血液とか、そういった無償提供の原則と企業への知的財産の帰属、これを前提にするのであるならばの話ですけれども、これは研究成果の公開ルール、それから生じる利益の適正な社会還元システムを具体的に構築しておかなければなりません。  また、近ごろのルールづくりを見ますと、同意能力を欠く場合に、代諾方式がいわば無原則に採用されています。同意能力を欠く本人に直接の益のない臓器であるとか組織であるとか、そういったものの提供を本人でない代諾者の同意によって可能にしようとしています。しかし、本人に直接の医学的な益がない場合に、本人同意でない、代諾者の同意方式を採用できるのは、本人同意が可能な者からの提供では研究目的が達成されないという要件が少なくとも必要です。代諾者の同意方式が使えるかどうかの吟味が厳しくなされなければ同意能力を欠く本人が搾取されることになる、これは代行判断の法理の歴史が教えてくれるところです。  第四の懸念は、ルール形成過程の不透明さです。  クローン法案では、法律による禁止指針による規制という方法の区分けは極めて重要な意味を持っています。ところが、法案の公開がおくれましたし、指針案はその骨子すらいまだ公開されていません。法案公開前の説明資料には幾つものバージョンがありまして、説明する相手によって、「指針で抑制(当面禁止)」それから「指針規制(当面禁止)」「指針禁止」など、今わかっているだけでもこういったようなバージョンが器用に使い分けられています。法案を準備した人たちは一体何を考えていたのかいなかったのか、私には不可解です。  もともとクローン定義については、小委員会で類似のクローンの容認を前提とする考え方が出てきたのですが、それが退けられたという経過があるようです。にもかかわらず、再び小委員会の議論を経ることなしに法案となってこの考え方が復活してきた。これは公正な審議からはほど遠いものと批判せざるを得ません。  クローン法案の母体となった小委員会報告は二〇〇〇年二月、ことしの二月の時点でわずか四週間弱という期間のパブリックコメントが設けられました。ヒト組織の指針に至ってはたった二週間の期間でした。これでは、本気で国民各界各層の意見をくみ上げようとする意思がないのではないか、一種のアリバイとしての儀式をやっているのではないかと言わざるを得ません。団体での意見を集約する期間がどのくらいかかるのか。こういう重要法案になってくればせめて半年というような期間は最低限必要だと思いますが、こういうパブリックコメントの期間を求めるべきではないでしょうか。  これもお手元に資料としてお配りしてあると思いますが、日弁連がこの四月二十八日にこの法案審議についての会長談話というものを出しました。それは「徹底した情報公開の下に社会の十分な理解と合意が得られるよう、多角的な検討を尽くす必要がある。」こういうふうに述べていますけれども、今後、この種の不透明さないしは不公正さ、そういったものが繰り返されないということを願っての、国民の立場からの要望であるということを御理解いただきたいと思います。  御清聴ありがとうございました。(拍手)
  6. 田端正広

    田端委員長 ありがとうございました。  次に、位田参考人にお願いいたします。
  7. 位田隆一

    位田参考人 京都大学の位田でございます。おはようございます。よろしくお願いいたします。  先ほど岡田参考人生物学的及び科学的な観点からヒトに関するクローン技術等の規制についてお話しされましたけれども、私の方は、もともと国際法を専門とする法律屋でございますので、法律及び生命倫理の観点からお話をし、同時に、私は、そこのレジュメに書いておりますように、現在ユネスコ国際生命倫理委員会の委員長をしております観点で、そういう立場から、国際的な観点も交えまして御説明を申し上げたいと思います。  私が御説明申し上げたい点は二つございます。一つは、クローン人間禁止するということの意味、これはどういうふうに考えるかという問題、それから第二に、クローン規制するという場合の規制のあり方についてお話を申し上げます。  まず、クローン人間禁止することがどういうことであるかということでございますが、クローン人間をつくるもしくはクローン問題を考えるということの前提生命倫理であるというふうに考えます。  生命倫理というのは、よく言われるように、例えば宗教道徳であるとか、もしくは絶対的な倫理であるとか、そういったものと必ずしも同じではないというふうに考えます。そういった、例えば宗教観がベースにはなっておりますけれども、一言で言えば、それぞれの社会が持っている行動規範、もう少し言い方を変えれば、やっていいことと悪いこと、もしやっていいとすれば、どういうルールに従ってやっていいのか、もしくはやっていけないのかということが生命倫理であると思います。  もちろん、それは生命に関連すること、ここでは特に人間生命に関連してそういうやっていいことと悪いことを判断する基準、これが生命倫理ということでございます。生命倫理の最も中心になる基準が人間尊厳で、より法律的な方に近づけますと人権ということでございます。人間尊厳人権を基準にして、それぞれ具体的なケースで、具体的な倫理ルールもしくは倫理的な判断を行っていくというのが生命倫理考え方だと思います。  他方で、しばしば科学研究の自由ということが主張されます。確かに、科学研究の自由というのは、人権におけるいわゆる思想の自由の一つとして認められております。しかし、科学も自由もそれぞれ社会の中で存在するものでございますので、社会のルールの制限を受けない研究の自由というのはございません。  ここで議論をいたしますのは生命科学という科学の一分野でございますので、生命科学を取り上げれば、生命倫理によって制限を受ける、つまり生命倫理という社会規範によって制限を受けるということになります。具体的には、クローン人間をつくるということがここでは中心的な問題になっておりますので、クローン人間をつくるということが、それが仮に科学研究の中身であっても、生命倫理の観点から見て許されるかということでございます。  例えば、私が関係いたしました、一九九七年十一月にユネスコ総会で採択をされたヒトゲノム及び人権に関する世界宣言の中では、人間尊厳に反する行為として、クローン個体の作製、つまりクローン人間をつくることを禁止しております。この考え方は、また後にも申し上げますが、国際的に統一された考え方であろうと思われます。  それでは、こういう生命倫理という社会規範と法との関係はどういうことかと申しますと、生命倫理というのは、御承知のように法律ではありませんので、ある意味では精神的な拘束力はございますが、法的な拘束力はない。つまり、倫理に反する行為をいたしましても、当然、刑務所に入るわけではないし、警察に捕まるわけでもないということになります。したがって、その社会の中である行為を確実に禁止しようとすると、最後は法律に行き着くということでございます。そのために国会という立法機関があるというのはもちろんのことでございます。  クローンの問題につきましては、クローン人間は絶対にやっていけないことである、いかなる社会であってもそれを認めるべきではないというのが、我が国でもコンセンサスがあると思いますし、国際的にもコンセンサスがあることでございまして、したがって、クローン法律禁止するという理由が十分にあることになります。  しかし、それでは、なぜそれを法律規制するのかということでございますが、クローン委員会で議論いたしました結果としましては、人間尊厳に反するという問題、そして、生まれてくるクローンクローン人間と申し上げますが、の安全性に問題があるという大きく分けて二つの理由でございます。  もっとも、人間尊厳とは何かというのは余りよくわからないということもございますので、クローン委員会での議論では、そこに書いております、クローン人間をつくるということは、まず第一に、人間の育種もしくは道具化、手段化につながる、だからだめなんだということが一つ。  それから第二に、生まれてくるクローン人間のことを考えれば、そのクローン人間は個人としての尊重がないがしろにされる危険性が極めて高い、そのことは憲法のうたう個人としての尊重ということに反する、したがって、著しい人権侵害につながるということになります。  また、科学的に見ますと、これは無性生殖ということでございますので、人間の生殖という基本認識からは逸脱しているということになります。  この三つをあわせて人間尊厳に反する行為である、したがって、これを法で規制するというのがクローン委員会での議論でございます。  その上に、生まれてくる子供が本当に十分に育つかどうかわからないという安全性の問題がつけ加わることになります。  これらを総合して考えますと、クローン人間をつくるということは反社会行為である、とりわけ我が国にとっては反社会行為であって、したがって、これを刑罰で禁止することが妥当であるという結論がクローン委員会での結論でございます。  クローン委員会では、単にクローン人間をつくるということだけではなくて、それに関連して、その個体をつくること、つまりクローン人間をつくること、もしくはヒトの胚を研究目的で操作することにつながることもやはり人間尊厳に反するというふうに考えました。したがって、クローン人間づくりとクローン胚等の利用を、いずれも今回出ております法案規制するという考え方が結論でございました。  ただし、クローン胚等につきましては、クローン人間をつくるということと比べると、医学的な有用性、言い方を変えれば、人命を救助する、例えば免疫の拒絶反応のない医療ができる可能性がある、もしくはミトコンドリア異常症という病気を治す可能性がある。このことは人命を救助することにつながる、そういう重要な有用性があるので、その道はやはり開いておきたい、しかし、それ以外は原則として禁止するという立場をとりました。  したがって、指針クローン胚等の利用については規制をいたしますが、その基盤は法律に基づかせる。その指針に違反をすれば、最後は法に戻ってきて、これで刑罰が科される可能性があるという形をとられているわけでございます。  それでは、規制の話に入りましたので、具体的にどういうふうな規制のあり方があるかということを次にお話しいたします。  国際的には、クローン人間禁止するというコンセンサスがございます。各国の動向を見ましても、イギリス、ドイツ、フランスなどでは、既に生命倫理等に関連する国内法がございましたので、九七年の二月にドリーが誕生して直後に、既にクローン人間をつくるのは国内法に反するんだという結論を出しておりますし、その他国内法を持っていない国は、それぞれ国内法をつくる。とりわけ、最近は、クローン禁止するという目的法律をつくる国が出てきております。できている国と、我が国と同じように、現在国会で審議中という国もございますが、一般的に見ますと、クローン人間禁止するというのは国際的に統一した方向である。しかも、それを法律禁止するというのが統一した方向であるというふうに考えられます。  国際機関におきましても、先ほど申し上げたユネスコのほかに、WHO(世界保健機関)それから国連総会の人権委員会、さらにヨーロッパにあります欧州審議会等では、宣言でありますとか決議でクローン禁止する、もしくは条約で禁止するということをやってきております。  禁止の手段としては、法律によるという傾向が出ていると申し上げましたが、法律をもしつくらなければ、我が国ではクローン人間づくりを効果的には禁止をしないんだということを世界的に宣言することにつながります。人間尊厳に反すると考えながら、しかし禁止をしないという、非常に中途半端な立場をとることになります。そのことは、日本がそういう中途半端な立場をとるということにつながりますので、これについては早急に対処する必要がございます。先ほど岡田参考人もおっしゃいましたが、平成十年の末にはアメリカ人の研究者が、日本クローン人間をつくる可能性があるんだということも発表したわけでございます。  もっとも、その規制の方式は各国の文化的、社会的、法的な状況に合わせて行われてきておりまして、必ずしもどの国も生命倫理もしくは生殖医療関連法によっているわけではございません。  例えば、フランスは生命倫理法という一般法をつくりました。必ずしも生殖医療法ではございません。イギリスは、確かに生殖医療に関連する法律がございました。ドイツは、生殖医療ということではなくて、むしろ受精の瞬間から人間生命が発生するという考え方から、胚保護法という法律をつくっております。その他各国では特別法としてクローン禁止法をつくる傾向がありますし、アメリカなどでは大統領命令で、クローン人間をつくることについては政府の資金は提供しないという決定をしております。さらに、さまざまな国の生命倫理委員会国内生命倫理委員会等ではクローン人間禁止するというのが一貫して出てきておりまして、可能なところからそれぞれ立法作業を行っているというのが現状だと思います。  我が国の立法の仕方は、従来から、一般法をつくるということよりも、むしろ具体的な問題が生じた場合に、適切な対応をするために個別法をつくる、特別法をつくるという方式をとってまいりましたし、そのことは従来から非常に実効的な規制をすることに役立ってきております。  先ほど申しましたように、クローン問題につきましては、必ずしも生殖医療と完全に同じ枠組みとはどの国も考えているわけではございません。特に、クローン個体無性生殖であるという点は、例えばフランスの生命倫理委員会報告では、クローン個体を作製するということは無性生殖であるので、有性生殖という通常の生殖からは逸脱をするという考え方を明らかに示しております。  また、クローン胚等につきましても、ヒト以外、もしくは自然の人と人との関係から生まれてくるような生殖から外れる部分がございますので、これを生殖もしくは生殖医療という枠内で考えることには無理がございますし、もしクローン人間が生殖ということであれば、クローン人間をつくるということが人の生殖であるということを認めることにつながりますので、これは認めるべきではないというふうに思います。  それでは最後に、実効性のある禁止規制についてはどういうふうに考えるかということでございます。  今回の法案では、クローン人間をつくると懲役五年以下もしくは五百万円以下の罰金ということになります。例えばフランスでは、これに反しますと、二十年の懲役という極めて重たい刑が科されております。  私自身は、懲役五年というのは軽いという印象がございます。というのは、クローン人間というのは、人間を生み出すということと同時に、その生み出した人間を道具として使う、とりわけ臓器移植に使うということを考えておりますので、いわば人を殺すために人間をつくるということから考えると、五年というのは少し軽いかなというのが私の印象でございます。もっとも、五年であっても実刑になる可能性がありますから、医師免許を剥奪する理由には当然なります。  それから、クローン胚等禁止につきましては、これも先ほど申し上げましたように、人間尊厳を害する可能性が高い。ただし、クローン人間をつくることよりは若干低い。すなわち、胚の段階でとどまることにすれば、人間が生まれてくるということには必ずしもつながらない可能性がありますから、これは、基礎は法律で定めることにしても、具体的な内容は、それぞれの胚研究の進展の度合いに合わせて具体的なルールをつくる必要がございますので、そういう場合には指針が妥当であるというふうに思います。  我が国ではもともと、従来から科学研究法律で細かく規制するということはやってきておりませんので、最終的な基盤は法律に求めるとしても、具体的な規制のルールはやはり指針で適切な形で定めていくというのが、従来からの我が国のやり方にも合致するのではないかと思います。  最後に一言申し上げますが、クローン人間問題というのは生命倫理にかかわる問題でございまして、これを生殖医療という枠の中に入れて議論をすることに私はむしろ危惧感を覚えております。本当に必要なのは、生命科学の発展によって生じてくる具体的な問題に対して、どういうふうに生命倫理の立場から議論をし、かつ解決していくかということでございまして、個別の問題にそれぞれの生命倫理のルールを適用して適切に対処していく中から、我が国の生命倫理が確立していくように思います。  残念ながら、我が国では生命倫理の議論というのはこれまで余り行われてきませんでした。そういう観点からいたしましても、このクローン問題をきっかけにして、生命倫理がこれから醸成されていくということを私は期待しておりまして、そのことが日本生命科学及び生命倫理における国際的な立場をも上昇させるものであるというふうに信じております。  御清聴どうもありがとうございました。(拍手)
  8. 田端正広

    田端委員長 ありがとうございました。  次に、米本参考人にお願いいたします。
  9. 米本昌平

    米本参考人 三菱化学生命科学研究所米本でございます。よろしくお願いいたします。  私は、科学技術規制の比較研究をやっておりますので、これまでのお三方の参考人のお話を、もう一度技術規制の国際比較という点から申し上げたいと思います。  米本資料となっております幾つかの表がありますので、これを見ていただくと幸いでございます。  これまでの参考人の方々がおっしゃいましたように、諸外国といいますか、ヨーロッパの先進諸国では、既にクローンというのは幾つかの国では規制をしておりました。それは、一九八〇年代を通して、一体人間はどこから始まるかという、極めて哲学的といいますか、今日で言う生命倫理の問題に対して社会が非常に深く関与しておりまして、その結果、九〇年代に入りまして、ヨーロッパでは、体の外に出た人間受精卵を保護するというような視点、これは典型的なのはイギリス、ドイツでございますけれども、そういう視点から、生殖技術を包括的に規制するという立場の法律をつくりました。  この法律をつくる過程で、幾つかの国は、この表1をごらんいただきますと、既にこの生殖技術規制法の中でヒトのキメラ、ハイブリッド、クローン禁止を言及しておりまして、そのために、九七年にドリーが生まれたときには直ちに、法がいかに有効に規制しているかという法の解釈問題に移行できたわけでございます。  二枚目を見ていただきますと、最も典型的なものはイギリスの規制システムでありまして、これは、特別の厚生省の外郭官庁ができてしまいまして、生殖技術一般、具体的には体外受精、第三者の人工授精及びヒト受精卵の実験研究その他につきましてここが一元的に管理をする。具体的には、主として体外受精を行う医療施設を個別認定いたしまして、年ごとに報告をさせるということになっております。原則、ヒトクローン禁止ですけれども、先ほどのお話にもありましたように、ヒトES細胞その他が非常に大きな可能性が出てきておりますので、法に規定されていない周辺部分については実施要綱を固めているというのが現状でございます。  イギリスは、この結果、体外受精、人工授精及び人間受精卵の実験的扱いについて非常に体系的なデータが出ておる例外的な国でございまして、その反対の極は日本アメリカということになります。具体的に申しますと、体外受精の認可を受けているのが七十三施設でありまして、日本は、生殖技術の現場というのは、極端なことを言いますとアナーキーな状態になっておりまして、四百施設以上が、要するに手を挙げればやってよろしいという状態になっております。  三枚目を見ていただきますと、これまでのお話にもありましたように、基本的には生命倫理のほとんどの問題、具体的に言いますと、新しい医療技術社会的な価値との調整は、強制参加の身分組織である医療職能集団がありまして、そこが専門家集団としての新しい技術の使い方を自信を持ってコントロールする、そのコントロールするについて社会的な価値との調整が必要な場合には、それぞれ特別委員会をつくりまして調整に入るということをやっております。  ですから、生命倫理の最も基本的な問題は、日本にはなぜか強制参加の身分組織としての医師会が存在しない。ちょうど弁護士法に規定されました弁護士会がありまして、弁護士会に所属しないと弁護士業が開業できない、そのかわりに非常に厳しい弁護士倫理に従うという制度的な担保がありませんので、日本の医の倫理というのが非常に不安定になっているというのが現状でございます。  四枚目を見ていただきますと、そういう意味では、先端医療技術が非常に進みまして、これまでほとんど操作できなかった生まれてくる部分あるいは死ぬ部分というのが操作の対象になりまして、これをどううまく調整していくかということについて世界じゅうが主として八〇年代後半からいろいろ試行錯誤してまいりまして、ヨーロッパではあるスタイルが確立しつつあるということだろうと思います。  それで、五枚目を見ていただきますと、この問題の特徴として、日本以外の先進国は偶然のことに旧キリスト教圏でございまして、欧米の論文を見ておりますと、その問題の設定がファクトとバリューという二分法をまず置きます。ファクトというのは、あくまで事実でありまして、この領域は自然科学が対応する。それがどういう意味を持つかというのは、基本的には、宗教教義、もしくは西洋の場合はキリスト教教義を脱色した西洋哲学がそれを意味づけするということになっております。  ところで、ヨーロッパではなぜ受精卵の保護というのが国民的合意になったかと申しますと、ヨーロッパではそれぞれの国が、フランスはカトリック、イギリスはアングリカン、ドイツはプロテスタントという、曲がりなりにも主たる宗派が安定してありますので、ヨーロッパでは一元的な価値が社会的な合意として安定的にある。そのために、どこから人間が始まるか、どこから魂が吹き込まれるかということが非常に深刻な社会的な問題になりまして、それで八〇年代に、体外受精中心生殖技術規制法の合意ができたということになります。  一方、アメリカの方は、アメリカの自由というのは宗教自由のことでありまして、ヨーロッパで抑圧されておりました小セクトがアメリカに渡りまして、自分たちの宗教生活を実現するもともと多元的な国家形成でありますので、非常にラジカルな個人主義を前提にしております。それから、価値観が並立することが前提になっております。そういう意味で、手続の正当性が国家を統御する正当性の根拠になる。クローンの問題に重ねますと、これはプライバシー権の変形である生殖の自決権ということと、国家がクローン人間をつくってはいけないということの衝突現象、拮抗現象になっております。  このプライバシー権というのは、憲法の修正条項第五条、十四条、これはデュープロセスの根拠でありまして、要するに正当な手続を踏まないで個人の生命財産、尊厳規制されない、そういう憲法を根拠に延々と裁判で確立されてきたものがプライバシー権でございまして、その結果、第三者に迷惑をかけない限りは、原則的に何をやってもいい。  そのために、アメリカでは、個人が仮にクローンをつくりたいと決心したときに、大統領命令、あるいは、もし法律ができたとしても、それが裁判所に持ち込まれたときには、国家の規制と個人の自決権がかなり微妙なバランスになる。その結果、アメリカでは、すべての価値観が込められております連邦研究費の停止のみが唯一行政府が選択できる構造になっているということになります。  以上のことを前提に、日本の現在国会に提案されておりますクローン法案の私の印象を申し上げますと、やはりこれはクローンだけを特権的に禁止するものでありまして、短期的にはこれでいいかもわかりませんけれども、中期的には——何度も繰り返しますけれども、一見統治機構があるような期待を込められながらも実際には強制力がない学会が、これまで産科婦人科学会が何とかやってまいりましたけれども、確信犯的にこれを破っても特段の罰則は受けない。そういう意味では、日本生殖技術及び余剰卵の不妊治療のための研究が非常に不徹底な管理状態になっておりますので、受精卵のオリジンということを考えれば、いきなり生殖技術全般の規制は不可能だといたしましても、やはり何らかの生殖技術全般の規制及び受精卵の法的保護を視野に入れたプロセスの最初の一歩としてクローン禁止法を社会が選択するのは妥当なことではないかと思います。  それから、もう一つ申し上げますと、今回のクローン法案というのは大変にテクニックに走り過ぎておりまして、法案説明資料と実際にでき上がっている法律案の非常に細かい規定がとても対応しているというふうには私には思えない。そういう意味では、現在進行している科学技術の現場を効果的に規制するという意味社会的な目的と立法プロセスがかなり遊離してしまったような印象を持っております。  結論を申し上げますと、クローンのみを規制するというのは、いいんですけれども、その次のステップ、より一般的な生殖技術及び受精卵の保護に対する次のプログラムの一部にはなっていない。それから、余りにもテクニックに走り過ぎまして、私の周りの研究者に見せたところ、これはまるで、クローン禁止するんだけれども、クローン関連研究促進法のような印象があるということを率直に言っております。旧来型の古い法律が解釈がしにくいというのはしようがないと思いますけれども、これからつくる、これからできるかもしれない法律の内容が非常にわかりにくいというのは、それ自体問題ではないかというふうに思っております。  そういう意味で、基本的にはクローン禁止をして、科学的、倫理的に妥当と思われるものについては慎重に解除していくという光石参考人の御意見に私も賛成いたします。(拍手)
  10. 田端正広

    田端委員長 ありがとうございました。  以上で参考人からの意見の開陳は終わりました。     —————————————
  11. 田端正広

    田端委員長 これより参考人に対する質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。松浪健四郎君。
  12. 松浪健四郎

    ○松浪委員 おはようございます。保守党の松浪健四郎でございます。  四人の先生方におかれましては、御多忙の中、こうして御説明をいただきました。私たちにとりましては大変参考になる御意見でございました。心からお礼を申し上げたいと思います。  そして、委員長を初め当委員会の皆様方には、法案審議される前に、ヒトクローン規制について勉強しようということで、このように委員会が開催されましたことの御協力に対しても感謝を申し上げたい、こういうふうに思います。  私たちは、この法律は一日も早く審議をし、国民の皆さんにこの重要性、重大性について明確な答えを出さなければならない、このように考えてまいりましたけれども、諸般の事情でなかなか法案審議ができなかったということを国民の皆さんにまずおわびを申し上げなければならない、こういうふうに私は思うものであります。  そこで、時間がそれほど長くございませんのでお尋ねをしたいわけでございますが、一九九七年の二月にドリーが誕生いたしました。これは、我々からすれば大変恐ろしいというか、あるいは科学の技術が急進展しているということに目からうろこを落としたわけでありますけれども、やがてクローン人間が誕生するのではないのかという危惧を私たちは持ちました。  そこで、まずお尋ねしたいんですけれども、クローン人間をつくる、これには大きな施設が要らないし、それほどの資金も必要としないだろう、そして、今日のように大変技術が進展していることから、比較的容易にクローン人間をつくることができるのではないのかという危惧を私は持っておりますけれども、それはどうなんでしょうか。まず、岡田参考人にお尋ねしたいと思います。
  13. 岡田善雄

    岡田参考人 お答えいたします。  今の御説明のとおりでありまして、いろいろな科学技術の中で非常に困る問題として、一つは原子爆弾というのがございますね。これと比べますと、原子爆弾というのは非常にたくさんの費用と時間と人が要るという形で、ちょっとやそっとではつくれないものだろうと思いますけれども、今お話がありましたことはそのとおりでありまして、生物的なものというのは相当簡単にできることがたくさんあります。少なくとも私どもぐらいのところのテクニシャンですと、大体六カ月ぐらいあれば小さな組織でつくろうと思えばつくれるということがあると思います。  このクローン技術というのは、今バイオの方で非常に若い人たちの人気がありまして、牛のクローンをつくっている私の友達のところには随分たくさんテクノロジーを習いに来ておられるそうですから、そういうふうな流れが世界じゅう、日本でもあるということで、そういう意味では、相当簡単につくれるし、技術としても相当な技術皆さんのところに広がっていると考えていいのじゃないかと思いますが、それでよろしゅうございますでしょうか。
  14. 松浪健四郎

    ○松浪委員 次に、位田参考人にお尋ねしたいと思うんですけれども、法律によって規制する場合には、法律により規制することについての国民のコンセンサスが必要であると思いますが、一部の方が提唱される生殖医療全体の規制についてはまだまだ明確な国民的なコンセンサスはないように私は思います。他方、クローン人間産生禁止については、国際的、国内的に見て十分にコンセンサスがあると私は考えますが、位田参考人はいかがでしょう。
  15. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  クローン人間をつくるということに関しましては、先ほど私が御説明したように、国際的には禁止に何ら反対というか異論はございませんし、国内的に見ましても、政府の行われましたアンケート、それから私が個人的に研究目的で行いましたアンケートを見ましても、クローン人間禁止するということに極めて高いコンセンサスがございます。政府のアンケートの数値では九十数%、やはりクローン人間禁止するということでコンセンサスがあると思います。かつ、法律禁止するということには七割以上のコンセンサスがあるというふうに理解しております。  他方、生殖医療に関しましては、現実に体外受精が年に一万人程度の出生があるという事実がございますので、こういう状況の中で、生殖医療全体について法律で定めるというコンセンサスは余り高くはないのではないか。完全にないという証拠もございませんので、私もそれ以上は申し上げられないと思いますが、クローン人間づくりに関するコンセンサスと比べますと、生殖医療については極めて低いというふうに思っております。
  16. 松浪健四郎

    ○松浪委員 イギリスでも、生殖医療に関する包括的な枠組みができる前にいろいろな禁止が出されました。個別の問題に対応したわけなんですけれども、生殖医療に関する規制のない我が国において、まず早期に対応する必要があるクローン問題のみを規定することが僕は現実的だというふうに思うわけです。  これについては、クローン技術規制生殖医療全体を規制する中で行うべきであり、クローン技術のみを規制することとしたのは役所の縦割りの弊害だというような意見がございますけれども、岡田参考人はどのようにお考えでいらっしゃいますか。
  17. 岡田善雄

    岡田参考人 お答えいたします。  このクローン委員会というのは、総理大臣の諮問という格好で進んでおります科学技術会議というところの中に入っているものでありまして、役所の縦割り行政というものに縛られるものではないものであります。実際上、クローン委員会におきましても、生殖医療全般を規制する中で議論すべきとの意見も出されましたけれども、これを含めて議論した上で、クローン人間禁止のみを法律により行うべきという結論に達したということであります。  これは、今さっきも私が申しましたように、クローン人間は他の生命誕生にかかわる技術とは全く質的に異なっているというか、土俵が違っているというか、そういうものでありまして、人間社会全体に与える影響というのははかり知れないぐらいのものがあろうかと思っております。そういう意味では、生殖技術と分けて規制するのがやはり現実的であって、緊急であろう。それが安全性日本で保つ一番いい方法ではなかろうかということで、委員会としてはまとめたということでございます。よろしゅうございますでしょうか。
  18. 松浪健四郎

    ○松浪委員 はい。  同じ問いでございますけれども、光石参考人にお尋ねしたいと思います。
  19. 光石忠敬

    光石参考人 生殖医療全般ということよりも、やはりこの余剰胚ということが大変気になっていると先ほど申し上げました。やはり法的に、このままこの生殖技術についてのコントロールでいっていいとは思いません。それで、この秋に厚生省の生命倫理、ちょっと名前を今失念しましたが、厚生省の所轄の審議会が何らかの案を出すというふうに聞いておりますので、あれかこれかではなくて、あれもこれもということでやっていっていいのではないか。  それから、諸外国ですけれども、やはり先進諸外国は、生殖医療の特に体外受精等の規制から入っていって、その中で当然、キメラ、クローン、ハイブリッド等の規制に入っていった。ただし、現在でも、先ほど私が申し上げましたような、クローンの周辺にある、体細胞クローンでないその周辺にあるものについて検討中だというふうに聞いておりますので、その辺は、日本がもしこの法案がこのまま成立しますと、恐らく日本が世界一早い、しかし生殖医療については何の規制もないという、非常にぎったんばっこんの法体系ということになるのではないか、そういう危惧をしております。
  20. 松浪健四郎

    ○松浪委員 いま一度光石参考人にお尋ねしたいと思うわけでございますけれども、具体的にどういうふうな生殖医療規制を考えていらっしゃるのか。これは厚生省の動きをそのまま見守るのか。このクローン技術禁止、そして生殖医療技術全体を見るとか、いろいろな考えがあると思いますけれども、これで国民全体のコンセンサスが得られる、こういうふうにお考えでいらっしゃいますか。私は、クローン技術規制、これを優先すべきだというふうに思っているわけですけれども。
  21. 光石忠敬

    光石参考人 お手元にお配りしました、日弁連がこの三月に出しました生殖医療法的規制に関する提言があります。これは概要ですけれども、この一番最後の「提言」というところをごらんいただくと、これは法律規制するといってもごくごくミニマム、生まれてくる子供権利ないしは利用する女性権利を保護するために必要最低限のものであるということを提言しております。  それで、もしクローンをどんどん急ぐのであれば、先ほど私が申し上げた、クローン定義との関連で、クローン禁止する実質的根拠は何なのか。例えば、同じ遺伝情報を持つ人間の胚が生まれる事態を人為的に引き起こす行為禁止するのだというのかどうか。それではなくて、今の法案を見ますと、三条と四条でしたか、つまり法律禁止することと、そうでない指針でやっていくということが何かパズルのように分けられていまして、それで、その実質的根拠、何で禁止するのという論点とそこでかみ合ってないように私には思えます。  もちろん、クローン禁止をどんどん進めていく、法案審議していっていただきたいと私も思います。それは生殖医療とあわせてやっていただきたいと思いますけれども、それがあわせてできないということになると、縦割りの問題というふうに言わざるを得ない、こういうことでございます。
  22. 松浪健四郎

    ○松浪委員 政府の提出している法案生命倫理委員会の議論を逸脱しているというような御意見もございます。生命倫理委員会における議論は法案にどのように反映されているとお考えでいらっしゃるのか、岡田参考人にお尋ねしたいと思います。
  23. 岡田善雄

    岡田参考人 お答えいたします。  小委員会の基本的な考え方というものを非常にしっかりと踏まえた形で法制化をしていただいていると思います。法制化の段階では、我々が委員会でやった基本的なものをしっかりと法制化していくために、さまざまな検討がこれに加えられているわけですけれども、これはすべて私どもの委員会での基本的な立場というものから全く逸脱しているものではございません。これは、法制化というところでどうしても必要な一つのテクノロジーの中に入るものだと思っておりますが、よろしゅうございますか。
  24. 松浪健四郎

    ○松浪委員 はい。  それで、日弁連の久保井会長の出されました談話の後段に、「クローン法案については、関連分野法規制、なかんずく生殖医療技術および人間受精研究規制等と整合させ、社会との調和の取れた二十一世紀の生命科学の発展に資するものにするよう、かつ徹底した情報公開の下に社会の十分な理解と合意が得られるよう、多角的な検討を尽くす必要がある。」なかなかもっともらしく読めるわけですけれども、これでは、アウトサイダーがいて、慎重に慎重に、そして多角的な面からの検討というようなことを言っておったのでは大変なことになるという思いを私は持つものでございますけれども、岡田参考人、いかがでしょうか。
  25. 岡田善雄

    岡田参考人 多分、緊急性の問題というところのことだろうと思いますけれども、これは一たんできるとえらいことになる。これはもう、いろいろなところにいろいろな影響があります。その可能性としては、既にさっきお話ししましたようなバックグラウンドは全部整っているという状況がありますので、日本全体としても、その中のだれかがやってしまうとこれはえらいことになる、できたら大変なことになるということだと実は思っています。  今の状況下でいきますと、例えばアメリカあたりでは女性の卵の銀行をつくるとか、そういうふうな形のものも随分具体的に動いているかと思います。そうしますと、そういうクローン人間ができる素地というものが相当備わりつつあるなというところがあります。  これは、最初に申しましたように、無性生殖という言葉を使いますけれども、生殖ではないのです。クローン人間は生殖ではございません。生物を、個体をつくるということであって、これは進化で神様がつくってくれたと思ったらいいと思いますけれども、その多様性を保つための非常に大きな財産を生物は持っているわけです、雄と雌があるということで。そのところを全部人為的に捨ててしまうという形に当たることであって、これは生殖と同じレベルのものではないのです。これをもしも生殖というレベルの中の一つであると考えたら、これは相当大変なことになると思います。一たんだれかができて、それが雪崩的に生殖技術の中の一つとして流れていく可能性というのは、はっきりと持っていると私は理解しています。
  26. 松浪健四郎

    ○松浪委員 今のお話をお聞きして、ヒトに関するクローン技術等の規制に関する法律、これが一日も早くできるように願うものでありますし、そのために、微力でありますが協力をさせていただきたい、こういうふうに思います。  時間が参りましたので、これで質問を終わります。どうもありがとうございました。
  27. 田端正広

    田端委員長 近藤昭一君。
  28. 近藤昭一

    ○近藤委員 民主党の近藤昭一でございます。  本日は、参考人各位におかれましては、本当にお忙しい中、貴重な御意見を賜りましたことをまずお礼を申し上げたいと思います。  このヒトクローン規制に関して私も大変に危惧を抱いているわけでありまして、まさしくクローン人間という、全く同じような人間が、ある種将来がこういう人間になるだろうと想像できる人間が生まれてくること、本当に恐ろしいと考えるわけでありまして、その意味では規制は一日も早くすべきだ。  しかしながら、その規制はやはりしっかりと十分なものでなければならない。そして、ヒトクローンと絡んでさまざまな生殖医療、また胚を使った実験等々、関連することがあるわけでありますから、そういう意味で、私は、規制前提にしても、慎重にも慎重な議論をしていく必要がある、まさしく国民の皆さんのコンセンサスを得ていく必要があるのだと思うわけであります。  そういう中で、幾つか質問させていただきたいわけでありますが、先ほども、松浪委員の質問の中にもありました。さまざまな胚を使っての実験というのは、非常に簡単な施設ですることができる。私が聞いたところによりますと、面積的にも大体五、六坪の面積があればいい。また、施設の値段といたしましても、大体一千万円ほどの設備が備わっていれば、今回提出が予定されておりました法案禁止するような各種の胚の実験がすべてできてしまうというように聞いております。そういう意味では、大変簡単に実験ができるようでありますが、どうなのでありましょう。  岡田参考人にちょっとお伺いをしたいわけでありますが、私は、冒頭申し上げましたように、ヒトクローンについてはまず禁止すべきだというふうに考えるわけであります。しかしながら、同時に、その他の胚の実験につきましても同様にまず禁止をすべき。そして、参考人の方の意見の中にもありました、その中で、特定の実験については、きちっとした審査会を設け、厳しく審査をしていって許可制にすべきではないかというような意見がありました。つまり、私は、同時にこれを規制していく、こう考えるわけでありますが、いかがでありましょうか。
  29. 岡田善雄

    岡田参考人 今の御質問の中には、ESの話も入っているわけですか。(近藤委員「はい、ESも含めてでございます」と呼ぶ)きょうは、ESのところは問題点としては入っていないと私は思っております。ESに関しての話はまた次の機会にでもやらせていただいた方がいいと思うけれども、このクローン問題に関しての胚の問題は、これは位田参考人も言いましたように、二つの問題しかありません。  一つは、ミトコンドリア症という病気がありまして、この場合にはそういう操作を使うと何とかなるかもしれぬという科学的な根拠があるわけです。これはイギリスも多分認めていると思いますけれども、そういうものは規制の中で、一つの可能性があるかないかの審査対象として取り上げる余地を残しておこうというものであります。それから、あとの問題、胚というのは、これはキメラとかいろいろな形のものでして、これはもう全部抑えてしまうというものなのですね。  ですから、今ここで言っているクローン問題の中での胚の問題というのはそこら辺のところでありまして、これは個体レベルに流していく形のものに関しての非常にウエートの高い問題点として抽出してきてあって、それで、ES関係のところの問題というのは、これは培養系に限るという格好のことでの非常に狭い、これは倫理的な問題もいっぱいありますので、その中で可能性のありそうな道を一生懸命探したというところが委員会の討論の場であったということでありまして、これはちゃんとここでは説明する時間がありませんので、省かせていただきます。     〔委員長退席、河本委員長代理着席〕
  30. 近藤昭一

    ○近藤委員 ありがとうございました。  ちょっと範囲を広げ過ぎましたことをおわび申し上げたいと思います。今岡田参考人に御回答いただきましたようなことでございまして、先ほど位田参考人の方からもお話があったことと関連するわけでありますけれども、今ミトコンドリアの話が岡田参考人から出ました。それに関連するのではないかなと思うわけでありますが、位田参考人の方からも、医学的有用性についての可能性を広げておくべきだというようなことがあったのでありますが、位田参考人がおっしゃられたことは、やはり今のミトコンドリアに関してのことでありましょうか。  それと同時に、ちょっとお聞きしたいのですが、前回も私、クローンについての質問をさせていただきました。岡田参考人にも御出席いただいたことを覚えているわけでありますが、その委員会で質問させていただきましたときには、例えば、臓器移植のために特定の臓器をつくること、あるいは、移植をするために腕とか足とかそういったものをつくることは、たしか、当時ではまず不可能だというような御返答が委員会の中であったと思うのです。今はどうも、聞くところによりますと、そういうことさえ可能ではないかというふうにお聞きしております。そして、そのことにつきましては、先ほど位田参考人もおっしゃったような医学的有用性一つの道とお考えなのでありましょうか。
  31. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  今の御質問、二つあるかと思いますが、一つクローン胚等研究について、許される部分はどこかということかと思います。これにつきましては、先ほど岡田参考人もおっしゃいましたように、生命倫理委員会及びその下のクローン委員会、それからヒト胚小委員会での議論では、クローン胚等研究については原則として禁止をする。ただし、先ほどミトコンドリア異常症のことを申し上げましたが、ミトコンドリア異常症の治療に使う可能性、治療に道を開くということ、それから同時に、免疫上の拒絶反応が起こらないような医療を研究するということの可能性、この二つにつながる部分は道をあけておく、それ以外については原則として禁止をする。その禁止の仕方が、最終的には法律に基盤を持つ指針という形になりますので、従来のように法律に基盤のない指針ではございません。最終的には、法律に基づいて処罰が行われる可能性が定められているということになると思います。  ただ、二つ目の御質問、臓器移植等の関連についてですが、これは、私は必ずしも科学に強いわけではございませんけれども、今非常に発展してきている分野として再生医学という分野がございます。これで、先日、たしか四歳の子供の血管細胞を使って血管を再生してそれを移植したという新聞、ニュース等出ておりましたので、それにつながるかと思いますけれども、確かに再生医学というのはかなり今では発達しているということが言われております。  ただし、それではその再生医学ですべての組織、臓器の移植ができるかというと、これは必ずしもまだ証明されていない。できるようになれば、クローン等は場合によっては要らなくなるかもしれません。したがって、胚を使うということは要らなくなるかもしれませんけれども、現状では、再生医学の発達ももちろん見通しながら、しかし、できるだけ早く拒絶反応のない医療、もしくはミトコンドリア異常症の治療ということにつなげていきたい。  そういう意味では、人命を助けるということについて道を開いておく、それ以外は禁止するということでございます。
  32. 近藤昭一

    ○近藤委員 医学的見地から、人を救うため、私も大変に重要なことだと思うのです。しかしながら、やはりその実験の過程受精卵ヒトの胚を使うわけで、そういう意味では非常に生命倫理的にはまだまだ議論しなくてはならない、まだ国民的なコンセンサスを得られていないと思うのです。  もう一度位田参考人にお聞きをしたいのですが、今、再生医学の面のお話がちょっと出ました。そうしますと、特定の臓器をつくるという再生医学と、先ほど位田参考人の方からおやという発言があったので確認をしたいのですが、クローン人間をつくる一つ目的が、拒絶反応を起こさない臓器の移植のための、何か殺すことを前提のような発言があったのですが、それはどういう意味でありましょうか。
  33. 位田隆一

    位田参考人 ある意味では過激な言葉を使いましたので、ひょっとしたら誤解を生じたかもしれません。もしそうでありましたら、おわび申し上げます。  クローンをつくることの一つの大きな目的として議論をされておりましたのが、臓器移植用に使うためにクローン人間をつくっていく。つまり、自分の体細胞、自分の遺伝子と同じ遺伝的形質を持つ人間をつくっておけば、例えば自分の肝臓が悪くなって移植をするというときに、現在のように自分以外の人間からの移植をする場合には極めて高い拒絶反応が起こります。しかし、同じ遺伝的形質を持つ人間から臓器移植をするという場合には、拒絶反応が多分ないか、極めて少ないであろう。したがって、クローン人間をつくっておくということについては臓器移植には非常に便利だという議論が当初からございました。  そのことから考えますと、もしそのためにクローン人間をつくるのであれば、それはクローン人間から移植用の臓器をとるという目的でつくることになる。したがって、それが人間の道具化であって、一たんクローン人間として生まれた人間を殺すということにつながるという趣旨のことを私は申し上げたのでございます。
  34. 近藤昭一

    ○近藤委員 わかりました。自動車でいえば、例えはよくないかもしれませんが、同じ形の自動車をもう一台買っておいてというようなことに使われたら、とてもじゃないけれども困るということで、まずクローン人間禁止していくべきだというお考えだということはよくわかりました。  ただ、もう一度関連してお伺いしたいのですが、医療的可能性のために残しておく、そのために人間の胚あるいは動物の胚を使って実験をするということでありますが、私はやはり、私の読みました資料では、人の生命がどこから、いつ始まるかということのコンセンサスがまだまだできていないのかなと。あるいは、まだまだできていないけれども、漠然と、受精をした段階でもう人ではないか、人であろう、生命の始まりだと思っていらっしゃる方がかなり多いという資料を読んだことがあるのです。  そういったことで考えますと、日本でも不妊治療で体外受精をして産まれた子供さんが全国で三万人ですかに達したというお話を聞きました。そして、先般、新聞報道で読みますと、受精卵を戻すときに他人の体に戻してしまった、そんな大変な事件が起きたようであります。この間、この法案に関連して私もいろいろと勉強しておりまして、体外受精のときに生まれました余剰胚の、管理という言葉が適当なのかどうかわかりませんけれども、どうもその余剰胚等の対応が随分ずさんではないかなという気がいたします。  それで、私は、ヒトクローンはまず禁止すべきですが、同時に、そういったヒトの胚を使っての実験はやはりもっと厳しく禁止をして、その中で、先ほどミトコンドリアの話もありました、また臓器移植の話、そういったものに有用性があるんだ、そういうことについてはもっと厳しい中で、もしそういう有用性があるということがわかっているならば、もっとコンセンサスも得られて、このことについては実験はいいよというようなことになるのではないかと思うのです。  光石参考人、そしてまた米本参考人にお聞きをしたいわけでありますが、そういう規制の仕方の方が私はいいのではないかと思いますが、余剰胚対応等についても同時にお話しいただいて、ちょっと御意見をいただきたいと思います。
  35. 光石忠敬

    光石参考人 今の法案は、四条を見ますと研究についても扱っていると思います。ですから、もちろんES細胞の問題は別にありますけれども、この法案でも、先ほどから議論されておる、狭い意味でのクローンの周辺にある、ここで特定胚という言葉があります。この特定胚という言葉は小委員会の議論の段階では出ていなかったと聞いております。要するに、特定胚という、狭い意味でのクローンの周辺にあるいろいろな胚をつくっていろいろ実験する、研究するということがこの四条で出てきていると思うのですね。  ですから、こういう法案をつくる以上は、その周辺で、先生が御指摘のような受精卵研究に限らず、こういう先端的な医科学研究についての、細かいものをつくれというのは不可能なことですけれども、ごくごく大枠の法規制というものが必要であって、そういうことが、逆に規制を守るところにはちゃんと国家が助成をするとか、そういう形での、言葉は悪いですけれどもあめとむちという形で、これはアメリカの国家研究法がそういう法律でしょうけれども、あるいはフランス的な被験者保護法という、研究対象になる患者さんや人間同意についての権利とかいろいろなことを保障する法体系、それをやはり同時に進めていくということが可能ではないかというふうに思います。     〔河本委員長代理退席、委員長着席〕
  36. 米本昌平

    米本参考人 私も、原則としては光石参考人と同じ意見でございまして、原則禁止で、科学的、医学的及び道徳的に妥当と思われるものについて非常に厳しい審査のもとで順次認めていくというのが最も妥当なところだろうと思います。  私、実は脳死臨調の参与をやらせていただきまして、そのときにこの種の問題に関連して一つだけ申し上げたことは、脳死臨調は時限立法で二年間でしたけれども、脳死臨調がどんな結論を出そうが、いわゆる先端医療と社会的な価値観との調整が必要な問題については、次々出てくるはずですので、政府が研究予算を持って、ことしはこのテーマ、来年はこのテーマということで、体系的な調査レポートを政府の責任で、立法の参考になるような、そういう組織をポスト臨調としてつくったらいかがでしょうかということは申し上げておりました。  それで、比較的日本は世論調査とかアンケート調査というのに重きを置かれますけれども、先ほど申し上げなかったのですが、結局、ヨーロッパで、男女が両性の平等にかかわらない無性生殖は通常の不妊治療の範囲を逸脱する、あるいは人間の一回成立性は有性生殖による根拠であるというのは、実はこれこそ、キリスト教の神の秘跡として個人の一回性あるいは結婚の秘跡というのがありまして、それを脱色したものがクローンをつくらない正当性になっております。  そういう意味では、非キリスト教圏においてはまだ理論的な準備ができておりませんので、むしろ、世論調査とあわせて、一体、我々の社会がどういう共通感情あるいはどういう論理を持ち得るのかということについて、体系的な研究を政策立案あるいは立法プロセスのためにもするのが妥当ではないかと思います。
  37. 近藤昭一

    ○近藤委員 質疑時間が参りましたが、本当に、ヒトクローンについては禁止すべきだと私も思います。しかしながら、医学の有用性、胚の研究、それはわかるのでありますが、そうでありますならば、私はやはり、生命倫理ということから考えますと、同時に厳しく規制をする中で、本当に厳しい審査、公開された審査の中で、このことについては認めよう、そういう方向であるべきではないかなというふうに思います。  きょうはありがとうございました。
  38. 田端正広

  39. 近江巳記夫

    ○近江委員 参考人の先生方には、本当にどうも御苦労さまでございます。ありがとうございました。  一昨年の当委員会におきまして、岡田先生初め参考人の先生方に来ていただいて、貴重な御意見をお伺いしたわけでございます。その後、科学技術会議におきまして、生命倫理委員会、またその下にクローン委員会が設置されて、そうした中で、政府から先月やっとこの法案が提出された。少し遅い感がするわけでございますが、今日までの取り組みに対して敬意を表したい、このように思うわけでございます。  クローンの産出につきましては、私も、一昨年の参考人の先生方の質疑でも、一日も早い法の規制が必要であると、強く私個人の意見として申し上げたような次第でございます。クローン人間ができるということが、岡田先生からもいろいろお話ございましたが、人間の育種あるいは手段化、道具化、大変なことが起きるわけでありまして、その安全性なり、あるいは人権侵害というものは著しいわけですし、憲法違反ということははっきりしておるわけでございまして、これは絶対に許してはならない行為であると思います。  科学技術庁、総務庁からも最近アンケートをとっておりますが、九十何%の国民の皆さんが、これは早く禁止すべきである、そういうデータが出ておるわけですね。私たち国会におきましても、やはりそういう国民の不安感にこたえて、早くこれをやらなきゃならない。しかし、残念ながらまだ当委員会にもおりていないというような状況である。これは一日も早い成立を図るべきだと思うんですね。そういう点で、きょうは参考人の先生方からも貴重な御意見を賜りたい、このように思うわけです。  そこで、ヒトクローン個体産生の早期規制、これは絶対早くやらなきゃならないと私は思っております。データをいろいろ私も見ておりますが、フランス、イギリス、ドイツは当然禁止でございますが、ドリーが誕生して以降、WHO、デンバー・サミット、ユネスコ、欧州評議会、いずれにおきましてもこの規制を決議しておりまして、国際的に早く規制をするようにと迫っているわけですね。  しかも、こういうような状況の中で、海外におきましても、産生をもくろむ団体、先生方はよく御存じだと思いますが、出てきておりますし、学者も出てきておる。一日も早い規制をしないと、現実にそういうことが出てくると思うんですよ。  その辺につきまして、岡田先生、それから位田先生から続いてお伺いしたいと思います。
  40. 岡田善雄

    岡田参考人 今のお話のところで、やはり非常に早くこれはやっていただかないと、もしも一人できるという状況があると大変だということを思っています。そういうふうなことが起こりかねないなというものの一つの例としたら、米国人のシードという人ですが、この人が日本で生殖補助技術の一端としてクローン人間をつくる計画を持っているということを言ったわけですけれども、生殖補助技術というカテゴリーの中に、クローン人間のつくり方というのが入ってくるような枠組みができ上がるとしたら、これは相当大変なことになります。  まずは、とにかく、最初クローン人間日本でつくらせないということが非常に大切なことだと思います。  それからもう一つは、この法案を提出してきたわけですけれども、この法案との流れの中で、もう一つの私どものやっておりますヒト胚小委員会というところでの、いわゆる再生医学対応する非常にすばらしい対象物であろうと理解していて、臓器移植に取ってかわるものかもしれぬと思っているES細胞というものを、倫理面も含めてどうやって動かしていけるかという検討をやってまいりましたけれども、その検討流れが、クローン問題のこの法案というものとある意味で関連した形として持っていった方が全体像としてはバランスがとれる問題がございます。  それで、この法案が先送りになるとすると、研究者としては相当有用であろう。外国との競争も非常に激しくなるであろうと思われる。そのあたりのところで、日本がどうも全く動きがとれないという状況も出てくるかもしれません。そういう二つの意味があると思います。  ウエートからすれば、私自身は、前の方の、やはりつくること自体の大変さというのがウエートが高いんですけれども、現実面としては、科学技術立国ということからいたしますと、後の方の問題も非常にあるということだと思います。
  41. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  先ほど岡田参考人がおっしゃったことに加えまして国際的な観点から申し上げますと、ヒトクローン個体産生という問題について、フランス、イギリス、ドイツ等は、既に生命倫理関係法もしくは生殖医療関係法律がございましたのですぐにそれに対処することができました。これらの国の法律は、もともとヒトクローン対象として考えてきたわけでは必ずしもございませんけれども、既にあった法律を使っていち早く禁止を表明したということがございます。  そのほかの、従来からそういった法を持っていなかった国については、その後議論を重ねて、現在、我が国と同じように、クローン人間づくりを禁止する法をつくる方向に動いております。  資料に入っているかと思いますが、イスラエルを少し例としてお話をしたいと思います。  というのは、ユネスコの総会で、ヒトゲノムと人権に関する世界宣言を九七年の末に採択していただきましたけれども、その段階で、イスラエルからの修正案としまして、不妊のカップルが望む場合には、クローンによって人間をつくることを許す、その場合にのみ許すという修正案が出されました。しかしながら、それは他の国の許容するところではございませんで、当然に投票にも付されないで引っ込められたという状況がございます。  かつ、そのイスラエルが、現在は、法律によってヒトクローン個体産生禁止するという方向に動いておりますので、どの国も、クローン人間をつくることについては法律禁止するという方向に動いているのが世界の趨勢だと思います。これは、どの国が早いとか遅いとかという問題ではなくて、それぞれの国がクローン人間をつくることを禁止するのかしないのかということに尽きるというふうに思います。  先ほど岡田参考人もおっしゃいましたように、アメリカ研究者日本ヒトクローンをつくる可能性ということも発表したぐらいでございますので、日本は特に生命科学が発展している関係で、そういう便宜が得られると考えてのことだろうと思いますけれども、そういう状況が現在あるわけですから、やはり早急な対応が必要だと私は考えております。
  42. 近江巳記夫

    ○近江委員 ヨーロッパにおきましては、そういう生殖医療規制を初めとした全般的な法規制というものがあったがゆえに、ヒトクローン規制についてはスムーズにいった、こういう先生の今お話でございますが、ヨーロッパの経過を見てまいりますと、大変な時間をかけているのですね。  例えば宗教的に、キリスト教というものがベースにあるのですけれども、それでも、全般の枠をつくるのに十年以上かかっているのです。御意見の中に、生殖医療全般の規制が伴って、そしてこのクローン規制を行うんだ、そういう御意見があるのですけれども、実際に、これはもう一刻を争うような状況ですよ。とにかくヒトクローンだけは禁止をする。そういうような包括した、生殖医療全般も含めて論議をやっているから、ヨーロッパでも十年かかっているのですよ。そういう考えが非常にあるのですけれども、それに対しては岡田先生はどう思われますか。
  43. 岡田善雄

    岡田参考人 科学技術というのがこれからも進歩していくわけですけれども、その技術人間に無限接近するという事態が現実に起こったのがこれなんですね。そういうのは予測の外にあるもので、これはそれまでの予測の世界から随分飛び離れたところの問題ですね。  ただし、これが動き出すとえらいことになるというふうな判断が世界じゅうですぐに行われたという形の問題、これは多分、これから先の科学技術の、これを進展と言っていいかどうかよくわかりませんけれども、とにかく随分いろいろなテクノロジーが進んでくると思いますけれども、そういうふうなものに対して即刻対応する、このことが一番大切なことなんです。  今も位田参考人が申しましたように、今産婦人科学会でやられている形というのは、いろいろな意味の批判がほかの参考人からありましたけれども、現実的には相当がっちりした自主規制の中でやっているんです。例えば、体外受精子供さんが一万人からという格好で出ていますけれども、そこのところで医療訴訟に入ったようなケースが過去どれくらいあったかということを思うと、それほど新聞ざたに出ていないところを見ますと、非常に危ないかもしれぬというのは科学者としては思うことになりますけれども、現実的には、非常に長い体外受精の歴史が世界的にあって、そこの流れの中で、産婦人科学会規制して、それでやっていることなんですね。そういう意味では、野方図という格好でこういう問題を話しすること自体は相当無理があると私は思っています。  ただ、今、ヒト胚という問題に関しては、できるだけ我々の生命倫理委員会というところで包括的な一つ考え方というのをつくり上げようという形の努力はしておりますので、この法案は早く通してほしい。その後の問題のことに関しては、今から、そういう全体像を見越した審議がその場で行われる、行われつつあるという格好で考えていただけるとありがたいと思っています。
  44. 近江巳記夫

    ○近江委員 またこれは重ねてお聞きしますけれども、ヒトクローン規制だけを行いますと、他の生殖医療につきまして野放しになるんじゃないか、そういう声が出ているんですけれども、これに対してはどう思われますか、野放しということに対して。
  45. 岡田善雄

    岡田参考人 いや、野放しにはならぬわけで、これはもう既に、今の我々の小委員会とか生命倫理委員会よりずっと前から、産婦人科学会で、倫理委員会もつくり、非常な努力をしてくれています。  これを積み重ねていくというあたりのところから、全体像がそれぞれ出てくるところで合致してくると思いますので、それを全部なしにして、無視するという形での全体の生殖医療というものへの倫理的な問題という形のことは、相当抽象的過ぎて、その抽象論をどこに集結させていくのか、これは相当難しいことだと思っています。
  46. 近江巳記夫

    ○近江委員 今私が重ねて聞いたのは、非常に大事なところでございますので、重ねてお聞きしたわけです。  このクローン産生について、実際に、技術的にそんなに難しくないんだという声もあるのですね。特殊なものじゃない。そうしますと、今の状況では、法規制がおくれていく一方ですよ。そうなった場合に、日本で実施される可能性、そういう不安が物すごく出てきているのです。そういう可能性についてどう思われますか。岡田先生と位田先生、率直にお伺いしたいと思う。
  47. 岡田善雄

    岡田参考人 危険性を非常に思っているから、委員会をつくり、結論を出してきたということなんです。現実的に、日本でどうかと言われると、例えば、私が関係しているような研究者のグループ、ここからつくりたいという人は多分出てきません。ここはそうだと思うのです。  それ以外のところの、非常に幅広い分野というのがありますけれども、そこがこういうことでどういう状況になるかと言われると、これはわからないんだけれども、とにかく可能性のあるものは動くということをやはり予測してやらねばならない。動いても大したことがないものに関してはいいでしょうけれども、一つ動くとたがが完全に外れた違う世界をつくってしまうんだという問題ですから、生殖というものの土俵から、もっと基本的な問題としてこのクローンという問題を考えてもらわぬといかぬと私自身は非常に強く思っています。
  48. 位田隆一

    位田参考人 補足してお答えをさせていただきたいと思います。  日本人は一般に、ルールを定めればそれに従うという傾向が強いと思います。したがって、倫理的なルールをつくれば、日本人に関しては多分クローンをつくろうという人はないと思われますけれども、しかし、例えば外国から、先ほどからの話にありましたように、アメリカ研究者日本にやってくる場合には、日本人ではないからというのは少し差別的になるので避けますが、そういういわゆるアウトサイダーが日本クローン人間をつくるということについては、日本人だからという縛りがかからない。そういうアウトサイダーを規制するのは、やはり法律しかございません。  そういう意味で、法律による規制が必要だと思いますし、かつ、私は以前に、インターネットでゲノムとかクローン関係のサイトを見ておりますと、あるサイトでクローン人間のつくり方というページが出てきたのを見て、非常にショックを受けました。  現実にそういうことが、先ほどからの御説明にもございましたが、非常に小さな施設で、かつ比較的容易につくれる技術でございますので、これは、一人の人がやってやろうと思えば、ある意味ではすぐにつくれる問題だと思います。そういう状況を目の前にしているのに、それを法で規制できないということの方が、私にとっては非常に大きな問題であるというふうに思います。
  49. 近江巳記夫

    ○近江委員 時間ですから、終わります。ありがとうございました。
  50. 田端正広

    田端委員長 吉井英勝君。
  51. 吉井英勝

    ○吉井委員 日本共産党の吉井英勝でございます。  二年前の九月にも岡田参考人には来ていただきましたけれども、本日は、大変お忙しい中、四人の参考人皆さん方には大変貴重な御意見を賜りまして、どうもありがとうございます。  私は、ヒトクローンというものについては禁止をするべきだというふうに考えております。同時に、ただ、それをどういうふうに進めていくかということについては、うんと時間をかけて、いろいろな角度からよく研究もすれば議論もして、そして法律につくり上げていく、そういうことが大事だろうというふうに考えているものでございます。  そこで、最初位田参考人米本参考人にお伺いしたいと思いますが、生殖医療全般の研究からクローン技術研究規制までに至る議論が、諸外国でどのように進められてきたのか。イギリスの九〇年のヒト受精研究法とか、ドイツでは、八五年にガイドライン、九〇年に胚保護法、フランスでは九四年の生命倫理法、オーストラリアでは生殖医療法とか、ノルウェーの九四年のバイオテクノロジー医療法とか、いろいろな取り組みがありますけれども、それは各国さまざまだと思うのですが、要するに、どういう議論、どういう検討が尽くされてこういうものがつくられていったのか、この点について最初に伺いたいと思います。
  52. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  私は、すべての国について、どういう議論が行われて、そしてそれぞれの法律ができてきたかということは、申しわけございませんが、必ずしもよく了知しているわけではございません。ただ、フランスとドイツにつきましては少しわかっている部分がございます。  まず第一に、ドイツですが、やはり第二次大戦中のユダヤ人虐殺という、ある意味では歴史の重みがございます。その歴史的な教訓から、人間生命をどのように大切にするかということで、ある意味では第二次大戦直後から議論が始まっているというふうに考えるべきではないかと思います。その行き着いた点が、ある意味では人間生命出発点である胚の部分から保護しようというのがドイツの意向であったというふうに理解しております。もちろん、細かな議論はさまざまにドイツの国内であったわけですけれども、基本的な方向としてはそういうことだろうと思います。  それから、フランスに関しましては、これは必ずしも生殖医療だけではなくて、生命倫理にかかわる問題全体について一般法をつくるという議論を、何年からやり始めたかという具体的な資料を私は今持っているわけではございませんけれども、少なくとも十年以上前から議論を始めております。それは、政府レベルでの議論及びフランスの国会内での議論がずっと続いた結果、最終的に九四年に法律としてでき上がったということでございます。  生殖医療だけではないと申し上げたのは、生殖医療の部分ももちろん生命倫理法の中には入っておりますけれども、それ以外に、より一般的な部分として、人体の尊重という部分がまずございます。クローン人間づくりについては、人体の尊重に関する部分の条文にまず反するんだという判断がございます。  そういうふうに、先ほど米本参考人の方から、キリスト教的な価値観があるからという御説明が若干ございましたけれども、私もその部分は同じだと思いますが、しかし、単に宗教的な背景だけではなくて、人間生命そのものについて研究をする生命科学の発展にフランスの社会がどういうふうに対応していくかということをかなり以前から十分に議論をして、最終的にここにたどり着いたというふうに考えております。
  53. 米本昌平

    米本参考人 ただいまの位田参考人に重ならないようなお話にとどめたいと思いますけれども、確かに、今位田参考人がおっしゃいましたように、フランスの場合は、人権という概念で、人権、人格、人体三位一体説というような考えに立ちまして、国家が肉体の処分あるいは人体実験について、直接人権の擁護という国是で管理をする。それは表面的には見えておりませんけれども、アメリカのような自己決定社会にしておきますと、本人同意であれば、極端なことを申し上げますと、何でもありということが出現してしまいますので、フランスとしては、そういう肉体部品の市場化というアメリカ的な世界が実現しないようにということで、立法官僚の方が体系的に民法典、刑法典すべてを変えたということだと思います。  それは、位田参考人がおっしゃったとおり、フランスは一切宗教色を出さないというような国家ですけれども、むしろ八〇年代を通して諸外国で行われましたのは、どこから人間が始まるかという議論でありまして、もとをたどりますと、一九七三年のアメリカの連邦裁の中絶自由化判決、これが三カ月以内の女性の中絶は全くの個人の肉体のコントロール権であるという非常にラジカルな論理構成をもちまして中絶の自由化を認めたために、かえって中絶論争に火がつきまして、現在でも、アメリカでは中絶クリニックが爆破されるというようなことまで起こっておる。  それくらい諸外国では、どこから人間が始まるかということについて非常に切実な社会的な関心が向きまして、八〇年代、その中で日本は、一体どこで人間が終わるのかという脳死論をやっていたというような形だと思います。  ですから、それの枠組みの中で、本来女性の肉体の中にしかなかった受精卵体外受精行為によって外に飛び出してしまいますので、伝統的には受胎の瞬間と思われていた、そういう解釈であったキリスト教的解釈が、体の外に飛び出した受精卵も準人間的に扱う方がより倫理的には慎重だという意見になりまして、ヨーロッパでは、八〇年代を通してそういった社会的合意がなされたということだろうと思います。
  54. 吉井英勝

    ○吉井委員 今、位田参考人のドイツの話を伺っておりまして、日本の医学界を中心として、本来、七三一部隊の人体実験などの厳しい反省の中から、生命倫理の問題なんか、戦後早い時期からの取り組みが必要ではなかったか、そういう感を強くしました。  次に、岡田参考人光石参考人位田参考人に伺いたいんですが、密室で研究が行われた場合、それをやめさせる法案の実効性、これはどういうところに持たせてあるのかということと、別な角度から見ますと、実効性を持たせるにはどういう法律制度の体系が全体の体系として必要になってくるのかという点についてのお考えを、三人の参考人の方から伺いたいと思います。
  55. 岡田善雄

    岡田参考人 お答えしたいけれども、これに関しては私は専門家じゃないから、そういうときには非常に困るなということは思っています。  ただ、泥棒を取り締まる法案があったとして、それで全部抑えられるかというと、そういうことはないわけですね。ですから、やはり法律があるということが非常に大切なことであって、それで全部が抑え切れないというときは、これはそういうことはあり得るんだろうなと思いますね。  ただし、だから法案意味がないということとは全く違うことだろうと思っております。
  56. 光石忠敬

    光石参考人 お答えいたします。  やめさせる実効性の話ですけれども、余剰胚というものがどこからか来るわけです。これがどういうふうにコントロールされているか。  本来望ましいのは、メディカルプロフェッションがもう少しきっちりとした制裁を含んだ責任を追及してくれるということが望ましいわけですけれども、それが私は余り行われていないと思っています。  そこへこういうふうになってきているわけですから、やはり、この余剰胚をどうするということは最低限決めなくちゃいけない。そして、その先に、胚の研究というものをもう少し医科学研究に広げて最低限規制する。生殖医療全般についてということになれば、それは、先ほども質問者にもありましたように、出生前診断の問題とかさまざまなことがありますので、全部を今すぐというのは難しいかもしれませんけれども、もしクローンを、そしてまた狭い意味でのクローンのみでなく、その周辺にある広いクローン、これらも全部、研究も含めて、そして母胎に戻すということも含めて考えるのであれば、最低限、今言った余剰胚体外受精のコントロール、そして研究規制、これが必要ではないか、こういうふうに思っております。
  57. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  この法案では余剰胚というのは特に中心になっているとは思いませんので、そこは外してお答え申し上げたいと思いますが、法律というのは、特に刑法関連の法律、この法案では刑罰が科されるということになっておりますので、刑法関連の法律というのは、例えばこの法案であれば、クローン人間をつくった者については懲役五年もしくは五百万の罰金という形で、法で罰則を決めることによってそういうことをやろうと思っている人間を抑制するという、法律の抑止力ということが前提になっていると思います。  その観点から、例えばだれかが、おれは五年間刑務所に入ってもいいからやりたいという人が出てくれば、これは確かに事前にとめるということはできません。しかし、それがもし見つかれば、当然その人は五年以下もしくは五百万以下の罰金ということになりますので、これは法律に抑止力を認めるかどうかという議論でございます。刑法というのは、もともと法に抑止力があるんだということを前提にしてつくられているものでございます。  例えば、人を殺した者は三年以上の懲役云々ということにつきましても、それでは、人を殺すということについて、殺人罪について、事前にとめることができないのではないかというのと実は同じことでございまして、そういう重い刑が科されるんだという抑止の効果を期待して法律はでき上がっている。もし、実際にそれに違反した者については、それがわかった場合には、当然その刑罰が科されるというのが法制度の意図であるというふうに思っております。
  58. 吉井英勝

    ○吉井委員 次に、岡田参考人米本参考人に伺っておきたいのですが、再生医療、ES細胞とのかかわりでの研究とともに、そういう分野にはかかわりあるんだけれども、バイオテクノロジー産業に突っ走っていく中で起こり得る問題、それをどういうふうに規制するのか。市場競争だ、企業間競争だということで走っていく、それがさまざまなひずみをもたらす場合があり得ることですから、これをどう規制するのかという点についてのお考えを、両参考人から伺いたいと思います。
  59. 岡田善雄

    岡田参考人 きょうはESの問題ではないと実は思って参りましたけれども、余剰卵とかいろいろな話も出ましたけれども、ここら辺のところは我々の小委員会では相当がっちりした組み立ての計画案をつくっておりまして、生命倫理委員会の方に提出してあって、ESに関しては、研究者にとっては相当しんどい制限を設けております。  だけれども、それだけの制限を設けることで、最初は規則立った、あるコントロールが可能な仕組みの中で、しんどいけれども研究してもらう。それで、その研究の成果というのはどれくらい上がるかという格好のことで、非常にきつい制限条件がありますけれども、そこの中で緩めてもいいものがどこにあるかというふうなことを検討していく形をとっていくことに多分なると思います。  一般論で言いますと、非常にすばらしいものとか、技術とか、方法とか、手術とか、いろいろなことがあったとして、それが長く残るか、瞬間花火で消えるかという時間の問題というのは、私の経験からしまして、非常にファクターとしては大きなものでありまして、残ってくるものというのは、医療に関しては、より温和なもの、さらにそれに加えて有効であるというものであって、線香花火みたいに、そのときだけびっくりさせて、すごいと言えるようなものは大体寿命の短いものです。  ですから、時間というのは、ある意味で、人間のコントロールというよりも、むしろもっと大きなファクターの中で、あるものが残り、あるものは消えるという形がこれからもとられていくと思いますけれども、技術というのはどんどん進んでしまいますから、一つ一つ技術に関しての問題点というのはやはりそのたびに我々が考えていかにゃいかぬ問題だろうと思います。
  60. 米本昌平

    米本参考人 確かに、これから世界的に、ただでさえ研究水準が、相当なお金が中へ入っている上に、これから相当な研究費が投入されて、主として人間の肉体の利用といいますか、産業化の可能性を指摘される方が多い現状はおっしゃるとおりでして、これをどう道徳的、倫理的に規制していくかというのは大問題です。ですから、お話し合いというよりは、どこかで体系的な研究、蓄積が要るだろうというふうに思います。  ただ、そういう意味では、一たん産業化になれば、サービスのクオリティーコントロールとして業界の自己規制がきくのだろうというふうに私はむしろ楽観的に期待しております。それ以前の研究分野での規制という方が難しいし、研究者としては全く善意でありながら、知らなかったということで、本来やってはならない研究もやりかねないという危険はやはり考えておいた方がいいということだと思います。  ES細胞だけに限りますと、アメリカが、公的なお金を使わない、完全に私的なお金でES細胞のオリジンをつくって、ES細胞ヒト受精卵ではないから公的なお金をつけてもよろしいと。要するに、そのオリジンのところは公的なお金をつけない、しかもそれは不妊治療で完全に余った、要するに実験のためにつくったヒト胚ではないという倫理的な確認が行われたオリジンの胚だけのES細胞について公的なお金をつけようという提案をやっております。  ただ、こういう倫理的なある種の切断が日本で有効かどうかということと、この議論の中に完全に外れておりますのは、南北問題だろうと思います。そういう意味でも、相当体系的な議論をやる必要がある段階に来ているとは思います。
  61. 吉井英勝

    ○吉井委員 時間が参りましたので、終わります。どうもありがとうございました。
  62. 田端正広

  63. 小野晋也

    ○小野委員 各参考人には大変有益な御意見を御披瀝いただいてありがとうございました。もう既に、随分多くの委員からの質問、またそれに対するお答えもちょうだいしながらの議論が進行している中でございますが、まず基本問題でございますが、一点、全参考人に御確認をとらせていただきたいと思います。  それは何かといえば、今、ヒトクローン産生について、これを規制するための法律の必要性ということについて、この範囲がどうだとか内容がどうだ、こういう問題はいろいろな議論があるとお見受けをいたしておりますが、法的規制の必要性ということについて、これを否定される参考人がおられましたら御発言をお願いしたいと思います。——特によろしいでしょうか。  先ほど位田参考人からは、法律がつくられたからといってそれで必ずしも殺人事件がなくなるとは言い切れないというような形の御発言がございまして、その話を聞かせていただきながら、私は実は、先日起こりましたバスジャック事件を頭の中に思い浮かべておりました。  それはどういうことかというと、倫理的に言うならば、人が人を殺すということは何にしてもよくないことであって、公共交通機関の中に刃物を持ち込んで、それを振り回しておどすということもよくないことはみんながわかっている。しかしながら、実際には、そういう事件を想定して法規制を行っているということが一つの非常に大きな担保になってきたというのも事実であります。  こういう議論をやりますと、今私ども青少年問題を扱っているところにおりますものですから、よく起こる議論は、こんなものは法律規制しただけではだめじゃないか、社会全体が青少年をうまくはぐくむ環境をつくり上げないことにはこういう問題はなくならないんだから、法的規制の前にその全体像をまずつくらなきゃだめだよ、こういう議論も出てくるわけでありますが、それは恐らく、バスジャック事件のこういう問題が起こってみると、多くの国民には非常に違和感のある議論なんだろうと思うのですね。  やはり悪は悪として、きちんと法律的にそれを明記し、それを示した上で、その後で広く議論をして、青少年をはぐくむ環境問題等を扱っていくという考え方になるのが妥当な考え方のような気持ちがいたします。  そんな観点から、参考人の御意見を聴取する中で、光石参考人からは、今回提出された法律がぬえ的であり、組み合わせパズル的な法律であるというような御指摘がございました。さらに、米本参考人からは、説明資料と法律案がうまく対応できていないのではないだろうかというような御指摘もありました。ちょっと、このあたり、もし参考人の方でつけ加える説明がございましたら、御説明をお願いいたします。
  64. 光石忠敬

    光石参考人 ぬえ的と申し上げるのは、クローン定義関係があります。  体細胞由来のクローンは刑罰で禁止しました。確かに三条はそうなっています。ところが、四条を見ますと、その周辺の、特定胚という定義になっておりますが、これは法律で刑罰をもって禁止していないのです、いわゆる指針でいこうということで。これは逆に言うと、研究社会にとっては大変ありがたいことで、つまり指針で、ケース・バイ・ケースでこれは認めましょうということが出てくるわけです。だから、そういう意味でぬえ的と申し上げました。  それから、組み合わせパズルと申し上げたのは、これは、実際に日本及び世界で具体的に起こってきたいろいろなものは無視して、無視してとは言いません、幾つかは確かに起こっています。しかし、ヒト性とか、要するに言葉をずっとパズルのように組み合わせて、それを全部コントロールしよう、それでクローンだけではなくてリクローンもトリクローンもやろう、そういうことを考えるものですから、これを読むときに、私はパズルに弱いものですから大変難儀をした、こういうことを申し上げたのです。
  65. 米本昌平

    米本参考人 私は大体既に申し上げたとおりでして、基本的には、原則禁止で、非常に慎重に個別認可というようなことがクローン委員会の内容だったと思いますけれども、少なくとも、その法案本文を読む限りは、確かにクローン禁止しているけれども、一見研究者が考えなかったような組み合わせまでも本文の中に入り込んでいるために、ああこんな研究もできるのか、こういう研究を申請して、認可が出たら公的なお金もつくのかというような感じで、小委員会の精神といいますか意図が正確に反映されていないのではないか。  それから、もう一つは、先ほど申し上げましたけれども、そもそもこの法律で近未来縛られるかもしれない研究者にとって大変にわかりにくい。それはかなり問題ではないかというふうに申し上げました。
  66. 小野晋也

    ○小野委員 法文の表現問題につきましては、それはいろいろな御見解がある点だろうと私も思います。  そこで、ちょっと表現を越えて、法律の構成としての問題として御意見をお伺いさせていただきたいのです。  まず、光石参考人には、法律というものが、いろいろな立場立場で権利関係がそれぞれにあって、その調整的なものを求めていかねばならないような法律をつくる場合には、ある意味でその共有部分だけをまず法律化しておいて、それ以外の、調整がさらに法律に明文化できない、しかしそれを現実的には動かしていかねばならないという場合には、何らかの執行機関等でその場その場での調整を図る、ないしは、先ほど指針という議論も随分ありましたが、指針という形でその時代対応を的確に行うというようなやり方は、決して特別なやり方ではなくて、むしろ一般的なやり方ではないだろうかというような気持ちがいたしますが、この点についてお尋ねします。  そして、さらに、米本参考人に対しましては、科学技術研究者のお立場からの御意見をお伺いしたいのです。  新しい技術というのは常に展開されてくるわけでありますが、新しい技術が生まれれば、当然その技術対応する環境も変化してまいります。そうすると、その環境変化に対応して、法的な取り組みも変わらざるを得ないというようなケースが起こるわけでございまして、その点について、指針等で適宜的確にその状況を把握しながら、技術進歩に対応することを行えるような法体系をつくっておくというのは、これもまたいいやり方ではないかというような気持ちがして私はこの法律を見ているわけでございますけれども、お二人の御見解をお伺いさせていただきます。
  67. 光石忠敬

    光石参考人 お答えいたします。  先生のおっしゃるように、法律の世界はまさに各利害関係の調整だと思います。  ただ、この法案人間尊厳、これはいわば人権がそこから由来するものですから、その人間尊厳を守るんだということを目的でうたっているんですね。人間尊厳を守るのであれば、少し有用な研究であるというぐらいのことで簡単に覆されるということは、それは背理ではないか。何が人間尊厳に反するのかというところの議論がまだ尽きていない。  要するに、ある人はそれは無性生殖であるからだ、こういうふうにおっしゃるし、また他の人は同じ遺伝子を持つものを人為的につくり出すというようなことを言うし、結局は、先ほどの、私が言います広い意味でのクローンというところで、小委員会検討が実ははっきりしないところにこの法案ができてきたというふうに私は理解しております。したがって、法律一般と少しこの法案は違うのではないか、こういうふうに考えます。
  68. 米本昌平

    米本参考人 議員の御指摘のとおりでございまして、これまでは、科学というのは最大限の自由、ましてや真理追求の場としては、国とか権力が介入してはいけない、最大限の自由が保障されないといけない。それが戦後長い間の社会的な最高の価値だと思いますけれども、現時点では、特定の社会的な価値と鋭く対立するかもしれない研究もしくは技術開発については何らかの規制、あるいは研究の自由も保障しながら、何らかの規制というよりは、むしろ、公的な研究費を出しているタックスペイヤーの側から、研究者の自由を認めながらも、何らかの科学研究のシビリアンコントロールみたいな理念の基本的な法律、要するに、研究プログラムと社会的な価値観の調整を理念的にも実現するような仕組みをかなり具体的に考えないといけない事態にあるかとは思います。
  69. 小野晋也

    ○小野委員 両参考人から、この法律の持つ枠組みの部分について根本的な議論が必要だという形の御指摘があったわけであります。  これは、これからの議論の中で必ず展開もしていかなきゃならないし、クローンだけの問題じゃなくて、科学技術全体の問題としても議論をすべきテーマだと思いますが、とりあえず、今回このヒトクローン法案が提案された内容というのは、人間尊厳という指摘が光石さんからございましたけれども、現実にヒトクローンによって子供が生まれたらどうなんだ、またはキメラのような形で、人間だか動物だかわからないような変な形態の生物がこの世に現実に生誕したら一体どうするんだ。  そういうときに、これを禁止する法体系をきちんと持っていなかった場合に、この生誕したということに対する責任関係が非常にあいまいにならざるを得ないと思うんですね。  光石参考人は、これが現実の問題として、生命が生まれたという状態が生まれた場合に、この問題が発してきたところの責任関係をどういうふうに分析されながら今の御議論を展開されているのでございましょうか。
  70. 光石忠敬

    光石参考人 私も同じ心配を共有しているつもりです。ですから法規制が必要だと思っております。ただ、その方法として、先ほどからいろいろなことを申し上げているつもりです。  ですから、生まれてきた子供にもちろん何の罪もありませんし、その方を人間として尊重して保護していかなきゃいけないことはそのとおりだと思います。ただ、そういう事態が起こらないようにということで早急に何らかの法を整備する、これは全面的に賛成です。
  71. 小野晋也

    ○小野委員 それから、ちょっとこれも先走った話になるのかもしれませんが、この研究が、簡単な施設、少額の資金、多少の知識で、恐らく現実のものとして展開される可能性があるということを参考人皆さん方からの御議論の中で今まで行ってこられたわけでございますが、そうなりますと、この事態が起こることの想定という問題が当然に必要になってくると思うんですね。  この法律が成立したということを前提にして、それにもかかわらずその取り組みをやる人があらわれた、そして母胎の中で受胎をして生育されている状態が確認された。こういうふうな状態が生じた場合に、果たしてどういう対処を行うのかというようなことについて、科学技術会議クローン委員会の中では議論が行われているのかどうか、これは岡田参考人にお尋ねしたいと思いますし、ユネスコ国際生命倫理委員会の方ではどうなのかというのを位田さんにお伺いさせていただきたいと思います。
  72. 岡田善雄

    岡田参考人 問題になるのは、クローン人間をつくろうという意思と、そういうことを手がけたということが問題でありまして、それで、もしも妊娠ということがあって、クローン子供さんがそこにいるという格好になったときの問題点というのは、少し場が違ってくるでしょうね。今度は、一個の人間の取り扱いという形になってくるものだろうと思います。
  73. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  ユネスコで、具体的にクローンが生まれたらどうするかという議論まで立ち入ってしたわけではございませんが、基本的にみんなの了解としては、クローンをつくるという行為をする者がいけないのであって、生まれてくるクローン人間にはある意味では罪はないと申しますか、人間として生まれてくれば、それは当然人間として尊重される、そういう社会をつくらなければいけないということでございます。  だからといって、どんどんクローン人間をつくれということではなくて、クローン人間をつくること自体はいけない。しかし、もし万一そういう人が生まれてきた場合には、それは人間として尊重せざるを得ない。尊重するような社会をつくらなければいけない。  そういう意味で、胚の段階、つまり、クローン技術を使って体細胞を未受精卵に入れるということ、そしてそこからでき上がった胚を母胎内に入れるということをそこで禁止しなければ、その後、もし母胎内に入れてしまって着床してしまうと、ある意味では中絶ということにつながりますので、まず一番最初の段階で禁止をする。もしそこから先へ行ってしまえば、それはそういうクローン技術を使って胚をつくる、もしくは母胎内に入れたということが一番問題であるので、それ以降はやはり人間として扱うということになろうかと思います。
  74. 小野晋也

    ○小野委員 両参考人の御意見は、これはごもっともな御意見として拝聴はさせていただいているわけでありますが、そうはいいながら、現実問題としてはやはり起こり得る話なわけでございますからちょっと御示唆をちょうだいしたいと思いますけれども、この種の議論というのは、先ほど御答弁いただいた両参考人の目からごらんをいただきますと、どういう機関で取り扱って議論を進めるべき問題だというふうにお考えでございましょうか。
  75. 岡田善雄

    岡田参考人 今のお話は、クローンの胎児がちゃんとおるという状況下の問題ですね。
  76. 小野晋也

    ○小野委員 ええ。例えば、胎内にいて、じゃ、それを今堕胎するのかどうかというような議論もあれば、もう外へ出て実に生命体になった段階でどうするのかという問題もですね。
  77. 岡田善雄

    岡田参考人 私は自然科学者ですから、そういう意味のところでは、実際上、民事とかなんとかでどういうふうなことが行われるのかというのは、ちょっとよくわからない。非常に困ったことになるだろうというあたりのことですね。  どこで取り扱うかということになれば、これは国会で考えていただいてということになりましょうか。ちょっとお答えできません。
  78. 位田隆一

    位田参考人 先ほど申しましたように、もし生まれてきたとするならば、それは人として扱う。これは、要するに人権を尊重するということでございまして、その人が、あいつはクローン人間だからといって差別をされるということが一番大きな問題になります。  その議論をするのはどこかというと、まず第一に、人権を保護するというのは憲法の問題でございますので、当然、国会が国民を代表する機関として責任を持って議論していただかないといけませんし、その国会の議論によって、日本社会全体の、人権を尊重するという認識をもう一度再確認していただく、これが必要ではないかと思います。  ただし、私は、そういう形でクローン人間が生まれてくることについては全く想像しておりませんし、もちろん期待しているものでもない。そういう事態が起こらないことを大いに期待しております。
  79. 小野晋也

    ○小野委員 もう時間でございますから質問は以上にしたいと思いますけれども、この問題はかなり大きな課題をはらんでいるのは事実でございまして、かなり広範で、しかも深い議論が必要な問題になるだろうと思います。  ただし、目の前に起こってきている課題、先ほど、クローン人間は生まれない、同じ人間の形をしていればまだ結構だけれども、キメラのような形で、猿だか人間だかわからないようなものが生まれてきて、それでもこれは人間だなんてことを強弁してやれるのかとなれば、これはまたいろいろな問題もそこに生まれてくる課題でございまして、とりあえずのところは、緊急避難的に、最低限これだけは合意ができる、これは決して許してはならない、この部分だけについては早急に法律を制定して、明らかに社会の責任においてその部分を禁止するという宣言を行うことが必要だというのが私どもの見解でございます。  また、参考人それぞれの皆さん方の御理解、御協力も賜りたいとお願いを申し上げまして、質問を終了させていただきます。ありがとうございました。
  80. 田端正広

  81. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 自由党の菅原喜重郎でございます。  きょうは、四参考人の方々には御意見を陳述いただきまして、ありがとうございました。それでは、これから私も皆さん方に質問をさせていただきたいと思います。  ヒトクローン個体産生につきましては、フランス、イギリス、ドイツも一九九〇年にヒトクローン個体産生禁止法律がありました。また、一九九七年二月に英国でクローン羊ドリーが誕生してからも、アメリカ、韓国、イスラエル、ロシアその他でヒトクローン個体産生禁止法案化されております。  そこで、四参考人の方々に、端的に、簡単に御質問させていただきますが、ヒトクローン個体産生については賛成なのかどうなのか、このことを、まず岡田参考人の方から、順次、光石参考人位田参考人米本参考人にお聞きいたします。
  82. 岡田善雄

    岡田参考人 クローン個体産生をよしとするかだめとするかというお話ですが、これはもうとてもじゃない、抑えないといけないと思っています。
  83. 光石忠敬

    光石参考人 同様です。
  84. 位田隆一

    位田参考人 私も、ノーでございます。
  85. 米本昌平

    米本参考人 私も絶対反対でございまして、例えばミトコンドリア異常の場合をというような限定をつける場合がありますが、これは、実は非常に初期からアメリカ生命倫理学者が言っておった何か抜け穴の正当化みたいな話でして、大原則禁止をすべき問題だろうと思います。  ただ、万一生まれてきた人間というのは、たかが、たかがというふうな言葉は不謹慎かもわかりませんけれども、年が大幅に違う一卵性双生児でございますので、これは全く対等な個人だと思います。
  86. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 先ほどからいろいろ陳述を聞かせていただきまして、光石参考人におかれましては、広い意味での人間尊厳の論議が行われていない日本の現状に対する不満、あるいは米本参考人からは、生命倫理規制に対する論議が少ない、法対応も十分でない、そういう論議の中で、ヒトクローン個体産生については反対だという御意見をお伺いいたしまして、どうもありがとうございました。  そこで、岡田参考人にお聞きしますが、一九九七年の二月、これは全く私たち政治家にとって、いろいろな意味で法整備を迫ってきたドリーの誕生だと思っております。同様の核移植の手法で、日本ではクローン牛が、またハワイではクローンマウスが誕生しております。  そこで、現在の技術水準でクローン人間が誕生する危険性がどの程度差し迫った問題なのか。こういう、私たちとして、技術内容について、先ほどは何か六カ月ぐらいという期間のお話もありましたが、詳しく、この差し迫った問題をお聞かせいただければ幸いだと思います。
  87. 岡田善雄

    岡田参考人 差し迫った問題かどうかということで、今六カ月というお話がちょっと出ましたけれども、これは、もしも意識してそれをつくろうとすれば六カ月ぐらいでできるであろうと、基礎研究をやっている僕の友達がそう言うたわけなんですね。計画すれば大体そういう格好でできるものだろうと思います。今まで話がありましたように、そんなにお金も設備もかからずに多分できるであろう。その技術を持つ人も今は随分たくさん存在しているぞという現実は確かなものであります。  それで、いつ生まれるのかということですけれども、これはだれも知りません。わかるはずがないんですね。それとの対応の中で、例えば一年ぐらいは余裕があるよということがあったら、この法律はまだそんなに急ぐことはないじゃないのというふうな形のものかどうかと言われると、これは不特定多数という形のところで起こり得るものであって、予測がつかないけれども可能性はあるとした場合に、現実的にそれが出現することが非常に大変なことになる。一人生まれた格好のことが、相当大変なことになると思います。  だから、それを抑えるというのはできるだけ早い方がいい。できた後ではちょっと抑えようがないぞというものだと私は思っておりまして、そういう意味では、早くやってもらうことが実効性があるんだということだと思っております。
  88. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 さらに岡田参考人にお聞きしますが、クローン胚研究について、生命倫理委員会クローン委員会において、クローン技術について、なぜ研究段階であれば許容する余地があるとの結論となったのか、その辺の論議はどのようなものだったのか。また、もし研究を行う余地があるとしても、種々の問題を抱える技術である以上、そこには何らかの歯どめが必要と考えますが、同委員会においてはどのような結論を得たのか、お聞きいたします。
  89. 岡田善雄

    岡田参考人 原則的なことでいいますと、子宮に着床させて個体をつくる側の流れに入るような研究は一切だめということであります。  それで、試験管の中だけで、培養系の中だけでやる仕事に関しては、いろいろな問題点があるが、その中で非常に狭い可能性を持たせてありますけれども、試験管の中では個体ができる条件は全くないという判断のもとで、将来像として非常に有効であろうと思うものを、倫理との対応の中で、狭くても何とか研究ができる道が探せないかという形のことはずっとやってまいりました。現在報告をしている形というのは、それの審査委員会を二重にするとか、それから、今までの話に出ていました卵の保管をどうするかとか、そういうふうな形の非常に細かい難しい規則というのを提案していることになります。野放しでは絶対にありません。
  90. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 次に、位田参考人にお聞きしますが、現在、ライフサイエンス、バイオテクノロジーの急速な進展に伴い、生殖医療を初めとするさまざまな分野において生命倫理に関する問題が顕在化しております。このような技術的な進歩に伴い、生命倫理委員会ではこれまでどのような検討をしてきたのか。そして、どのような対応をとろうとしているのか。  また、我が国では、技術的な進歩に伴う新たな問題が顕在化したときには、例えばダイオキシン対策特別措置法のように、一般的な規制をするよりは個別の問題に応じた対策をしてきました。しかし今後は、技術的な進歩に伴う個別的な対応だけじゃなく、生命に関する普遍的かつ根本的な問題についても徐々に検討を重ねていくべきときが到来していると考えますので、生命倫理問題にこのような検討を行っていく予定があるのかどうか、お聞きしたいと思います、位田さん。
  91. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  生命倫理委員会の方でどういうふうな議論をしているかということでございますが、まず第一に、我が国で生命倫理委員会科学技術会議の下に設けられましたのは、一九九七年二月に、先ほど先生御指摘のようにドリーができて、そのことをきっかけにして、デンバー・サミットにおきまして各国がクローン人間禁止するための対応措置をとろうということが合意されました。それを受けて、当時の橋本総理が、我が国においても生命倫理委員会というものをつくって、具体的にはクローン問題、より一般的には生命倫理の問題を議論する場をつくることを決定されたということでございます。  現在まで、生命倫理委員会で議論をしてまいりましたのは、まず第一に、先ほど申しましたような経過から、クローン問題について小委員会を設けまして議論をいたしました。それから二つ目は、先ほどから何度か話が出ておりますが、ヒト胚の研究について議論をするためにヒト胚研究小委員会というのをつくって議論をしてまいりました。先ほどから少し話が出ておりますES細胞の問題でありますとか、もしくはそのための余剰胚の利用という問題については、こちらのヒト胚研究小委員会で議論をいたしまして報告書が出、もしくはパブリックコメントも終えております。  それから、現在議論をしておりますのは、ゲノム研究についての基本原則をつくるための議論をしております。御承知のように、遺伝子解析の研究というのは将来の医学的な利用に供する可能性が極めて高いですし、それから、そのことは同時にバイオテクノロジーにもつながる問題でございますので、我が国としてゲノム研究についてどういう倫理的な基本原則が要るか、ある意味では憲法的な文書をつくる作業を現在やっております。  今後どういう問題を取り扱うかということに関しましては、まだ具体的には決まっておりませんけれども、しかし、これは生命倫理委員会という名前がついている場でございますので、今後具体的に生起する生命倫理の問題を一つずつ議論をするということになるでしょうし、もし必要があれば、生命倫理一般についての基本原則を議論することもできるのだろうと思います。  そういう意味で、先ほど先生の方から、従来は個別法でやってきたけれども、今後一般法が必要ではないかというのはまさに御指摘のとおりでございます。私自身も、本来なら生命倫理に関する一般法があって、例えばフランスのような形で生命倫理に関する一般法があって、いわばその応用問題として例えばクローンの問題を処理するというのが理想ではありますけれども、しかし、現実には一般法はつくられておりませんし、我が国では生命倫理の議論そのものも行われておりませんので、そういう問題は今後例えば生命倫理委員会で議論をしていただくとしても、現在生じている生命倫理の問題をそれまで待つという筋合いのものではないというふうに理解しております。
  92. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 次に、光石参考人米本参考人にお聞きしますが、今回御指導いただきました四参考人には、ヒトクローン個体産生に対する禁止、これは皆さん同一意見でございます。それでは今申し上げました二参考人にお聞きしますが、もしヒトクローン個体産生禁止を早急になさんとする場合、皆さん方は、どのような法なりあるいは規制なりを付加したらいいのか。単独にヒトクローン禁止だけの法案だったら即座に進めてもいいのかどうか、この点をお聞きいたしたいと思います。
  93. 光石忠敬

    光石参考人 お答えいたします。  今の法案は、例えば二条の六号を見ますと、ヒト受精胚という用語が出てまいります。それから四条を見ますと、胚または細胞提供者同意というようなことが出ております。これらは、先ほど来申し上げております体外受精余剰胚ではないかと私は思っております。  そうしますと、その余剰胚というものが研究前提になるわけです。それを例えば、あってはならないことですけれども、体外受精で意図的に研究用につくるということが行われても実は体外受精の利用者にはわからないだろう、こういうことが考えられます。ですから、早急にやる場合でも、この余剰胚の問題を何らかの形で公的なコントロールのもとに置くということ。  それから、同意ということが出てまいりますから、提供者がどういうことについて理解したというようなことをどうやって確保するか。先ほど申し上げたような、例えば研究の成果の公開であるとか、あるいは、研究の結果、知的財産は全部産業に帰属するというようなことが起こってまいりますから、それは当然社会還元をしていただく。無償でそういった胚を提供するということが前提になっているようですから、そうしましたら、それはそうしないとやはり均衡がとれない。その他さまざまな問題はありますけれども、最低限、この法律案が言っているような用語その他は全部、日本の今の法体系の中でコントロールされているということが必要ではないか、こういうふうに思います。
  94. 米本昌平

    米本参考人 私の個人的な意見は、生殖技術一般のスキームの中で規制すべきだと思いますけれども、とりあえず単独法をするとすれば、もう少しシンプルな形でヒトクローン禁止する、それで罰則。それから、それに付加するとすれば、受精卵の何らかの理念的な保護を付加して、今の生殖技術がかなりコントロール不可能になっておりますので、それに対する抑止力みたいなものがあって、かつ、もう少し単純なものであるべきだろうと思います。
  95. 菅原喜重郎

    ○菅原委員 今までの説明を踏まえますと、我が国ではクローン問題について個体産生禁止するとともに、真に必要な研究についてはその進展を阻害しないような法律による規制を早急に行うべきであるという私の考えを申し述べまして、質問を終わります。  どうもありがとうございました。
  96. 田端正広

    田端委員長 辻元清美さん。
  97. 辻元清美

    辻元委員 社民党の辻元清美です。  きょうは四名の皆さん、お越しいただきましてありがとうございました。  幾つか質問をさせていただきたいと思うんですが、クローン人間をつくることは禁止すべきである、私もそう思いますし、皆さんもそのようなお話をきょうはずっとされているかと思います。クローン胚なども含めて、それ以外の部分の取り扱いについて、全面的に禁止をして、厳しい規制のもとでそれぞれ判断したものをオーケーとしていくのか、それともガイドラインで禁止をしようというようにしていくのか、幾つか意見が分かれているように私は思います。  そこで質問をさせていただきたいんですが、まず位田参考人にお願いします。  位田参考人のお話の中に、クローン胚等禁止ということにつきまして、指針が妥当というようにお話しされました。これはどのような指針をお考えなのかということが一点目。それからもう一つ、医学的有用性の高いときのみ許可というお話でしたが、許可を与えるのはだれが判断するのが妥当とお考えか。この二点、お願いします。
  98. 位田隆一

    位田参考人 お答え申し上げます。  指針の内容につきましては、まだつくられていないと思いますので、今後どの場でつくるかというのはこれから御議論いただく問題かと思いますが、国の方で適切な形で議論をし、そして具体的な指針の内容をつくっていただくことになろうかと思います。もっとも、その指針の内容のある意味では骨格になるようなものはクローン委員会の方で議論をいたしましたし、またヒト胚小委員会でも議論をした内容がございますので、それを御参考にしていただいて具体的な指針をつくっていっていただけるものと思っております。  他方で、医学的な有用性をだれが判断するかということにつきましても、これは指針の中で何らかの機関をつくっていただいて、そして、例えば具体的なある研究計画が届け出されたときに、これは医学的に有用ではないという判断が下されれば当然それは認められない研究になると思いますし、もしこれは将来的に非常に医学的に有用であるという判断が出ればそこは研究を進めていただく、そういう形で、研究者が勝手に判断するという制度はもちろんとってはならないことだと思いますので、国の方で具体的なきちっとした制度をつくって有用性の判断をしていただくというのが望ましいと思っております。
  99. 辻元清美

    辻元委員 今のお話に関連して、位田参考人にもう一点、そこの部分で、法律によらず指針が妥当と位田参考人が判断された根拠は何でしょうか。
  100. 位田隆一

    位田参考人 申しわけありません。お答えするのを抜かしておりました。  必ずしも全く法律にはかかわらないというつもりで申し上げたわけではございませんで、指針の基盤は法律にある。この法案では、法律指針をつくるということが書いてありますので、その指針にもし違反した場合には法の定める罰則がかかる、そういう意味での指針をつくっていただくということになります。  それで、ではなぜ法律じゃなくて指針かという点に関しましては、指針 であれば、ある意味では、先ほど来問題になっております生命科学の非常 な速い進展というのがございますので、それに対してそのときそのときに 適切な対応ができる。法律の議論をいたしますと、やはりかなり議論に時 間がかかる問題でございまして、その適切な時期を失って、もう既に事が 進んでいるのに法律が後追いしてしまうという可能性がございますので、 もし実効的な禁止をし、もしくは非常に医学的に有用な研究を進めるとい うことであれば、指針に基づいて適切なルールをつくって進めていただく、 もしそれに違反をすれば最後は法律に戻ってきて処罰をする、そういう形 になろうかと思います。
  101. 辻元清美

    辻元委員 次は、光石参考人米本参考人にお伺いしたいんです。  トータルな、範囲を広げた法律をつくって、その中でヒトクローンについての規制をするか、ヒトクローンだけを先つくるかというところは意見が分かれていますが、どちらにしても、ヒトクローンについての規制をする際の罰則についてなんですが、今は懲役五年以下の罰則というふうに私は聞いております、法案はまだ提出されておりませんのでその審議はしておりませんが。これは妥当かどうか、いかがお考えでしょうか。
  102. 光石忠敬

    光石参考人 これは、私の感じでは、もし人間尊厳に反すると言うのであれば、五年以下というのはいかにも軽いという感じがいたします。それで、まして、今の法案ですと、先ほど来申し上げているように、広い意味でのクローンの母胎への移植を法律禁止していませんから、そして、何か届け出に関するいろいろな、一年以下の懲役とか、そういうもう少し軽い規定しかかかってきませんから、母胎に移植するという行為をやった場合に一年以下とかそんなのはとんでもない話で、私は、やはり法律ではもう少し再考されるべきではないかなというふうに思います。
  103. 米本昌平

    米本参考人 何ともお答えのしようがないんですけれども、たしかこれは移植法の違反、規制とあわせたような解釈を私はしておりまして、そういう意味では、そういう論拠があったのではないかと推測しております。  ただこれは、懲役五年が重いか軽いかということになりますと、私はちょっと何とも申し上げようがない。感じとしてはこんな感じかなという雰囲気というか、私としてはもうちょっときつくてもいいのかなと思いますけれども、まあこんなところかなというふうには感じております。
  104. 辻元清美

    辻元委員 失礼いたしました。法案は提出されておりますが、審議に入っていないということはちょっと訂正させていただきます。  次に、米本参考人光石参考人にもう一点お伺いしたいのですが、先ほどの米本参考人のお話の中に、この提出された法案についてはクローン関連の推進法であるような誤解を与えかねないというか、そういう御発言がありましたので、その真意をお聞きしたいことと、それから光石参考人には、ぬえのような法律であるというお話が冒頭にございましたので、もう少し詳しくその点を参考のために聞かせてください。
  105. 米本昌平

    米本参考人 お答えいたします。  少なくともそういう印象だということでして、例えば私から見た問題点は、もう少しシンプルなクローン禁止法であればいいのですけれども、さまざまな組み合わせを定義上やってしまっておりますので、全く研究者は考えなかったような組み合わせが文書として出てきております。それは読む側にとっては、ああ、こういう研究もあるのかという印象を少なくとも素直に読めば与えかねない。  それから、説明図の中に、禁止条項の中に、核を抜いたヒトの卵の中に動物の核を入れる、これが個別規制というような説明図になっておりまして、極めて貴重なヒトの未受精卵に動物の核を入れるようなことは絶対研究者は考えませんので、もしそれならほかの動物の核を例えばサルの未受精卵に入れればいいわけですから、どうもそこのところで、何か法文を作成する過程で、どなたかが頑張り過ぎて、あれもこれもというふうに定義をされて、その結果の印象が、研究者から見るとさまざまな示唆を与えかねないというような感じになっております。
  106. 光石忠敬

    光石参考人 ありがとうございます。  ぬえと申し上げましたのは、クローンを狭くも広くも定義して、母胎に移植する行為禁止されたクローンというのは狭いもの。広いものは禁止しない。そして一方では、クローン禁止しました、日本も先進国です、こういうことが言えるし、一般の人々にも、私も新聞を読んでいた限りでは、クローン禁止ということで、ああ、結構なことだな、こう思っておりました。ところが、法案となってあらわれてくると、その実、この四条という、要するに指針個別審査をしていくということですから、これは研究者にとってみれば大変ありがたいことです。道が開かれました。こういうふうに、両方に対して都合がいいという意味で、ぬえ的と申し上げました。
  107. 辻元清美

    辻元委員 それでは、米本参考人にもう一点お伺いしたいのです。  米本さんがお書きになりました幾つかのクローン人間などの禁止に関するものを私は読ませていただいたのですが、一方で、このクローン人間だけではなく、先ほどからES細胞の話も出てきておりますけれども、トータルに、先ほど米本さんのお話の中にも肉体部品の市場化という言葉がありましたけれども、私たちの科学技術人間の共存であったり、それから倫理科学技術の問題、これは私は、もちろんクローン人間禁止するというのは何人もほぼ賛成すると思いますが、それ以外の部分についても深く考える時期だと思います。  米本さんは、歴史上こういう事態に直面するのはそうそうあることではない、かなり大きな事態であるということを主張されている中で、特に今政府の方では、バイオテクノロジー産業の創造に向けた基本方針というのをまとめ、そして二〇一〇年での市場規模を二十五兆円にしよう、そしてさらにバイオ産業の再強化ということを一方でうたっています。その中で、発生工学研究所構想などというものが幾つも提起されてきているわけですね。  そうしますと、ES細胞のことも含めまして、一方で産業、バイオ、バイオというのは随分国会の中でも議論が進められていく、そして一方で規制もしていかないと、それこそ市場の原理に任せて、倫理的にもそれから人間と自然科学との共存という意味でも、大きな問題をはらみかねない、その岐路に立たされているような気がするのですね。  そこで、米本さんはこういうことをおっしゃっています。「われわれの内的自然をどこまで、どういう形での産業化を認めるのかという重大な価値規範の選択を迫るものである。海山川という外的自然の利用で反省をしたはずのわれわれが、内的自然と産業が結びつくかもしれない時代を前に、これに拮抗しうる何物かを打ち立てられるのか。」という大きな視点からこの問題を論じようというようなことを主張されていますが、この点についてちょっと補足説明していただきたい。  もう一つは、先ほどこれに関連しまして、南北問題の議論が抜けているのではないかという視点がありました。一国での規制と同時に、今先進国が、これは南北問題は途上国問題のことなのかどうかも含めてお聞きしたいのですが、さまざまな経済格差による人間の肉体部品の市場化による人権侵害ということが一方で語られていますので、国際的な視野に立って議論すべきだと思うんですが、この点をちょっとお聞きしたいと思います。
  108. 米本昌平

    米本参考人 私のつまらないものを引用していただいて大変に恐縮なんですけれども、私自身が技術利用の基礎研究をする研究所人間でありまして、非常に難しいというのか、中期的に何をどう考えていいのか、非常に苦しんでいる立場でございます。  そういう意味で、今議員おっしゃったように、先ほど何度もキリスト教のお話をしましたけれども、結局、我々は、出生技術を含めて、その部分に対してこれから技術開発をする場合に、一体我々の生命とか肉体というのは何物であるかということについてキリスト教社会のようにテキストを持っておりませんので、ですから何度も申し上げますけれども、世論調査とかアンケート調査とは別に、現時点で我々が何を最も妥当と考えるのかということについて、どこかで集中的に言語化しないといけない。そうすれば、非キリスト教圏の社会がバイオテクノロジーを応用するについての、それとは別の参照軸を提出できると思います。  そういう意味では、ちょっと時間がありませんので、あと、これまでの私の、例えば科学のシビリアンコントロールとか、脳死臨調の後に別の科学技術等諸問題の研究セクターを、脳死臨調は二年間で一億六千万使いましたけれども、その三分の一ぐらいでもいいから、毎年研究費を持っていって、ことしは例えば生殖技術規制の現状とか、来年は死の告知の問題とかという問題について、それぞれ国全体の立場から調査レポートを上げるような、それで議論の参考にするような何らかの調査機関が要るのではないかというふうに申し上げておりますので、そういったことで答えにかえさせていただきたいと思います。  南北問題につきましては、生命倫理の問題が自己決定とか本人同意という原則で一応議論が完結しているように見えますけれども、日本と東南アジアのことを考えますと、これは国外ですので、日本人が生体腎移植をツアーで、東南アジアに行っているのはそれほど珍しくもないというか、少数ですけれども具体的にあるわけです。  そういう意味では、たまたま体の外に出た受精卵を、不妊治療のためにつくったんだけれども、もう治療が終わったから、それだけを根拠にしてES細胞を確立するという論理構成にはなっておりますけれども、当然第三世界で、お金をくれるんだったら未受精卵をあげてもいいという方は潜在的にいらっしゃると思いますので、そういう視点で、第三世界の人たち人権をどう守るのかということは、先進国間で今のうちから視野に入れておいた方がいいという意味で申し上げました。
  109. 辻元清美

    辻元委員 どうも、きょうはありがとうございました。時間が参りましたので、これで終了させていただきます。
  110. 田端正広

    田端委員長 以上で参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。  参考人の皆様には、貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。  クローン問題に関しては、何らかの規制が必要であるということについては共通した意見であったように思いますが、規制のあり方等を含め、今後、科学技術委員会審議参考にさせていただきたいと存じます。  ここに委員会を代表いたしまして、厚く御礼を申し上げます。(拍手)  次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時四十一分散会