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上條参考人 日本バス協の
都市交通
委員会の
委員長を務めております、東急
バスの
上條でございます。本日は、いわゆる
交通バリアフリー化法案の審議に当たりまして、私
どもバス事業者の
バリアフリーに対する考え方等を申し述べさせていただく機会をいただきまして、まことにありがとうございます。
先生方御承知のとおり、乗り合い
バス事業は、輸送人員が一貫して減少する中で、大変に厳しい経営
状況が続いてきております。私
どもバス事業者といたしましても、利用者の
方々の
日常生活を支える
公共交通機関といたしましての役割を果たすべく、さまざまな努力をしてきているところであります。
バス車両に関する
バリアフリー化につきましても、二十一世紀には国民の四人に一人が
高齢者になり、
バスを利用される
方々もますます
高齢者の
方々が
中心になっていく、こういった
状況の中で、また、身体
障害者の
方々の御利用の
促進という面からも積極的に取り組んでいかなければならない
課題である、かように考えているわけでございます。
バス車両の
バリアフリー化につきましては、
バリアフリーというふうな言葉が使われる以前から、私
どもバス事業者としても、
行政あるいは自動車メーカーの
方々と手を携えながら努力してまいったところでございます。
当初は、
昭和五十年代の前半に、
高齢者の
方々を
中心といたしました利用者の
方々に乗りおりがしやすい
バスというふうなことで、一般の
バス車両よりも床の低い
バスの導入を始めました。
平成の
時代に入りますと、通常は二段とされております乗降口の階段を一段としてワンステップ
バスが
開発されまして、より利用者の
方々の乗りおりのしやすい形でサービスの向上に努めてきたわけでございます。その後、
車いすの
方々にも乗りおりしやすい
バスというふうなことから、リフトつきの
バス、さらには、より安価な低床のスロープつきの
バスが
開発されまして、導入が進んでいったところでございます。
さらに、
平成八年には、我が国でも現在のスタイルのノンステップ
バスが
開発され、導入が開始されたわけであります。このノンステップ
バスは、通常の
バスと比べますと非常に高価なものでございますが、国が助成
措置を新設されたこともありまして、まだ全国の乗り合い
バスの台数、約六万台あるわけですが、それに比べますとわずかな台数ではございますけれ
ども、着実に台数も増加してきているところでございます。
昨年三月末のデータでございますが、リフトつきの
バス、スロープつきの
バス、ノンステップ
バスを合わせまして、全国の導入台数は約千七百台で、うちノンステップ
バスは四百三十三台となっております。このうち、私
ども東急
バスでも
平成九年度から導入を始めておりまして、台数は三十四台と、手前みそではございますが、
東京都の交通局さんに次いで二番目、民鉄
関係では最多の導入台数と心得ておりますが、十一年度でもさらに七台を導入しておりますので、現在の我が社のノンステップ
バスの導入台数は四十一台、こういうことになっております。
このように、私
どもバス車両の
バリアフリー化については最大限の努力をしてまいったところでございますが、このたび、交通の
バリアフリー化に関する
法律案というものが、
政府並びに民主党からそれぞれ御
提出されているということでございますので、実際の
バス事業の運営に携わっている
立場から、全国の
バス事業者のお仲間などからも伺っているお話等々も含めまして、私
どもとしての考え方を述べさせていただきたいと思います。
初めに、車両の
バリアフリー化に関する義務づけの内容でございますが、私
どもでも、先ほど申し上げたとおり、ノンステップ
バスの導入については積極的に進めているところでございますが、義務づけということになりますと、いろいろと問題点もございます。
まず、車両の価格でございますが、通常の
バス車両の価格は約一千五百万円でございますが、ノンステップ
バスについては、約二千三百万円から、物によっては二千五百万円ほどといったところでございます。通常の
バス車両の価格の約五割増しということが定説でして、
バス事業者の唯一不可欠な
設備の価格というものが五割増しということになってしまいますと、
バス事業者にとりましては大変な
負担になってくるわけでございます。
このため、私
ども、国や
地方自治体に
補助をお願いしながら何とか導入しているわけでございます。今後の
高齢化社会をにらんで国も自治体も積極的に
対応し、予算の増額などの
措置を講じていただいていると考えておりますが、何分にも国、自治体とも
財政状況が逼迫しておる折でございまして、ノンステップ
バスを義務づけるということにしてしまった場合には、それに見合った
補助というものがなかなか難しいのではないか、かように考えているわけでございます。
また、ノンステップ
バスは、人間でいえばまだ赤ん坊のような
バスでございまして、乗りおりは大変便利にはなったわけですが、車内を見ますと段差あるいはスロープができ、スペースや座席数が若干少なくなっているというようなことで、かえって
高齢者や
身障者の
方々には不便をおかけする場合や、例えば混雑時の
対応上問題が出てくる場合もあろうかと思います。
実は、
昭和六十年ごろにノンステップ
バスというものが一部の
事業者によって導入されたことがあるわけですが、こういった問題から増備が見送られたという経緯がございます。今のノンステップ
バスは当時よりはよくなっているとはいうものの、無理に大人扱いをするということではなく、もう少し改良を重ねながら立派な成人に育て上げていくということが必要であり、現時点の義務づけといたしましては、ワンステップ
バス並み以下の床高でスロープのついた車両というところが妥当ではなかろうかと考えております。
なお、この点につきましては現在、
運輸省で音頭をとられてノンステップ
バスの仕様の標準化ということに取りかかられているところでありますので、安くて使い勝手のいいノンステップ
バスが一日も早く普及されることを願っているわけでございます。
さらに、
バスは床が低くなればなるほど急な坂道あるいは雪道などで走りづらくなります。ワンステップ
バスぐらいの床の高さですとそのような場合は限られていますが、ノンステップ
バスになってきますと山間部などでは
対応が大変難しいのではないかというふうに考えております。そういった箇所が多くなるんじゃないかということでございます。
このほか、
運輸省の通達の改正によりまして、
車いすの
方々について介護人の同伴については一律には必要としないということとなりましたけれ
ども、スロープ板の出し入れや
車いすスペースへの御
移動にどうしても時間がかかる場合もございますし、また、
道路の
状況によってはノンステップ
バスを導入しても乗務員以外の人手をおかりしなければならない場合もございます。
私
ども、公共交通
事業者の責務として、乗務員教育を徹底し、適切な
対応に努めてまいりたいとは考えておりますが、やはりほかの利用者の
方々の御
理解、御
協力も必要でございますので、この交通
バリアフリー法の制定をきっかけといたしまして、車内のお客様、
地域の
方々あるいは通行人の
方々などの御
協力が積極的に得られるような、国民の共助と
社会的な連帯の精神について積極的に啓発活動などを行っていただきたく、
関係閣僚
会議な
ども設置されたと伺っておりますので、交通だけではなく各分野にわたる
バリアフリーに関する国民的なコンセンサスの形成に努めていただくよう切にお願い申し上げます。
次に、
バリアフリー化の進め方についてでございます。
私
ども、
バス車両の
バリアフリー化を進めていく場合には、
高齢者の
方々や身体
障害者の
方々の御利用の多い路線を優先的にかつ
計画的に
整備していくことを考えております。
しかしながら、
バス事業者の
取り組みだけでは効果が上がらないこともあります。すなわち、せっかく
バリアフリー化をした
バスを駅に乗り入れても、駅の
バリアフリー化が行われていない、あるいはノンステップ
バスで直接あるいはスロープ板を利用して乗りおりのできるような歩道が
整備されていない、あるいは違法駐車、違法駐輪がされているといった
状況ですと、せっかく
バス車両は
バリアフリー化してもその
投資がむだになってしまうわけでございます。また、
道路の縁石の配置、交差点、歩道の
構造などちょっとした手直しをするだけでも、あるいは雪の降るところでは除雪を優先的にしていただく、そういった工夫をしていただくだけでもノンステップ
バスが走れるようになる場合があるわけでございます。
これらの点について、
鉄道事業者、
道路管理者、警察といった
方々にいろいろお願いしなければならないことも多々あるわけでございますが、私
どもバス事業者におきましても
民間事業者としての
投資計画に基づいて車両を
整備していかなければならないのと同じように、
鉄道事業者の
方々にもそれぞれの
投資計画というものがありますし、また、
道路整備その他
行政の
取り組みについても
優先順位といったさまざまな事情があろうかと思いますから、このあたりをうまく交通整理していかないと
バリアフリー化について効果が半減してしまうのではないか、かように思っております。つまり、
バリアフリー化というものは総合的にコーディネートされたものでなければ効果を発揮しないだろうということでございます。
したがいまして、国に
バリアフリー化について一定の方向づけをしていただきながら、あとは地元の自治体に旗を振っていただいて、
関係者がそれぞれ納得いくような形で
整備の順番などについて整合性のある
計画をつくっていただき、効果的な助成
措置を講じていただく、こういうことが効果的な
バリアフリー化のためにはぜひとも必要であると思いますし、私
ども、
民間事業者としてできる限りの
協力はしていきたいと思っております。
以上、私
どもバス事業者の
バリアフリーに関する考え方の一端を申し述べさせていただきました。
私
ども、
バリアフリー化については、公共交通の一翼を担う者として積極的に取り組んでいく所存でございますが、現場にはさまざまな事情がございますので、この辺御賢察の上、
法律をおまとめいただければと思っております。
最後に、繰り返しになりますが、本日はこのような機会を設けていただきまして、大変ありがとうございました。(
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