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参考人(
武井共
夫君)
弁護士の
武井でございます。
私は、当時私と同じ
法律事務所に所属しておりました故
坂本堤弁護士が殺害される、当時わからなかったわけですけれ
ども、殺害される、いなくなるという
事件があって以来、もう十年以上になりますけれ
ども、
オウム真理教と闘ってまいりました。私
自身は、
オウム真理教被害対策弁護団の
中心メンバーでもあり、また
坂本弁護士事件の事実
調査の
責任者でもあり、そういう
立場で
オウムのいろいろな
犯行、違法の
実態について、
警察が
捜査を始める前から
調査をしてまいりました。また、
警察の
強制捜査後には、
地下鉄サリン事件の
被害救済という
意味で
弁護団の副団長を務めたり、あるいは現在も
オウム真理教の
横浜支部の
明け渡し訴訟などを行っております。
そういう
立場から
意見を申し上げますが、まずこの
法案提出までの経過について若干申し上げたいと思います。
先ほど申し上げたように、私
どもは一九八九年以来、
オウム真理教の
実態の究明に力を注ぎ、特に九四年以後は、
弁護団から
警察当局を初め
関係当局に対して、
オウム真理教が
サリンなどを有している、非常に危険な
実態があるということを指摘してまいりました。私
どもとしては、何とか今回の
地下鉄サリン事件のような悲惨な
事件は防ぎたいというふうに思っていたわけですけれ
ども、残念ながら私
どもの力及ばず、そして当時全く何もしていなかった
公安調査庁、また
警察当局も非常に不十分な
対応だったということから、このような
事件になってしまった。その
意味で、国家の
責任というものはこの
オウム事件に関して非常に重大であるということを指摘したいと思います。
私
ども弁護団は、九五年の十二月十一日に教団の
破産申し立て手続を行いました。そして、十四日には各施設、各物品の差し押さえを行い、教団の危険な
活動の封じ込めに一応成功したわけですけれ
ども、その日に
破防法適用の動きが明らかになっております。
この
破防法に対しては、
弁護団としては、
破防法の
適用が教団を消滅させる役には立たない、むしろ
活動を禁止していくということによってかえって
信者の信仰をいたずらに強固、過激なものにしていく危険がある、また
破防法適用の
法律的な
要件である、例えば
政治目的、あるいは「継続又は反覆して将来さらに
団体の
活動として
暴力主義的破壊活動を行う明らかなおそれがあると認めるに足りる十分な
理由がある」という、この
要件について満たしているとは言えないということで反対いたしました。
その後、解散指定の
請求は棄却されたわけですけれ
ども、今日まで
オウム真理教の側はそれをいいことに
一連の凶悪
事件に対する反省、謝罪をすることなく、また
被害者への弁償もしておりません。そして、松本智津夫被告への帰依を続け危険な教義を維持している、そして非常に活発な
活動を行っている。私
どもは、現在の教団は
破防法適用の
法律的な
要件を満たすという
意味での
危険性を有するとは現在も思っておりません。しかしながら、
被害者、
市民に与える
危険性についての不安、これは無視できるようなものではない。そのような
危険性というものはやっぱり否定できないんだということを申し上げたいと思います。また、
被害救済の実情も極めて不十分である。
こういうことから、本来、特別な立法がなければ、もちろんそれなしで解決できることが望ましいと思いますけれ
ども、このような立法措置を招いたということは教団
自身の
責任でもあり、立法自体はやむを得ないのではないかというふうに考えております。
ただし、一言申し上げておきますけれ
ども、
規制立法によって教団の
危険性というものを一定抑制することは十分可能だと思います。しかしながら、教団や
信者を消滅させることは絶対にできない。教団、
信者消滅という
目的にとっては、かえって場合によってはマイナスになることもあるんだ。すなわち、一部
信者の信仰を強固、過激にしてしまう
可能性もありますし、また元
信者の
社会復帰が妨げられる、そういう事態が生ずることもあるんだというマイナス面、副作用があるということを十分御理解いただきたいと思います。
それでは次に、今さらと思うかもしれませんけれ
ども、なぜこのような立法が必要になってくるのか、その原点とも言うべき
オウムによる凶悪
事件はどのようにして起こったのかについて、ここには
資料の
意味も込めまして長く書いてありますが、簡単に触れたいと思います。
まず、どのような人がどうして
オウム真理教に入るのでしょうか。私
どもが接している限り決して特別な人が入信するのではなく、多くは普通の人、むしろ場合によっては普通以上にまじめと言われているような人、こういう方が多いのではないか。もちろんこういう人だというふうにパターン化することはできませんけれ
ども、多くの場合、まじめな例えばお医者さんだったり看護婦さんだったり、あるいは科学者だったりという方が現状に飽き足らずについ引かれてしまうということがあったと思います。
私は、このような理想に燃えたまじめな人々が行き詰まるところに現在の教育や科学の問題点というものがあると思います。これについてもやはり
国会でぜひ御論議いただきたいと思いますし、また学校や
社会における教育、カルト対策という
意味での教育の問題もやはりぜひ御検討いただく必要があるだろうと思います。
そして、このようなまじめな青年がどうやって
犯罪に加担させられていったか。これがいわゆるマインドコントロールと言われているものですけれ
ども、一番大きいのは、やはり
オウム真理教の教義を繰り返し繰り返したたき込むというシステムのもとで、特に三ページの方に書いてありますけれ
ども、例えばLSDを使ったりあるいはLSDと覚せい剤を使ったり、これはキリストのイニシエーションとかルドラチャクリンのイニシエーションと呼ばれているものですけれ
ども、このようなことが行われるようになって凶悪化が一層進んでおります。
また、多くの出家
信者は、直接
犯罪者になったかどうか、いわゆる凶悪
事件を起こしたかどうかにかかわらずこのようなイニシエーションが行われている、その中で
オウム真理教の教義というものをたたき込まれているということを忘れてはいけないんだろうと思います。ほかにもいろいろなイニシエーションがありますけれ
ども、これらのイニシエーションによって、例えば自白剤を打たれても
オウムでたたき込まれたことをしゃべるというところまでコントロールされてしまうんだということを指摘したいと思います。
そしてまた、一方では、
オウム真理教においてはリンチ、懲罰が非常に盛んでありまして、逆らえない。上の者に逆らうと懲罰を受けるということから逆らえない、そういうシステムもございました。これらが
オウム真理教の中でのいわゆるハルマゲドンという思想、そしてヴァジラヤーナの教え、そういう教義と合わさって、すべての凶悪
犯罪を正当化し行わせしめたということを、今さらと思うかもしれませんけれ
ども、改めて強調したいと思います。
私は、この
オウム真理教の
信者が行った数々の
犯行、これは決してその
信者個々がみずから意図して起こした
犯罪ではなく、松本智津夫被告以下
幹部の指示に基づいて組織的に行われたものであるということを強調する必要があると思います。これは、
犯行においてもそうですし、あるいは
捜査を妨害する方面でも青山元
弁護士を中心にして徹底的に行っているということを指摘しておきたいと思います。
このようなことから何が言えるのか。私は、刑事被告人となった
信者たち、この
信者たちが
オウム真理教において決して特殊な
信者ではないということを指摘したいと思います。彼らももともとは純粋、まじめな青年であったことがほとんどですし、またその彼らが結局は凶悪
犯罪の実行者になってしまった。これはたまたま彼らが松本智津夫被告らによって凶悪
犯罪の実行者に指名された、指示されたということが
決定的な分かれ目になったのであります。
したがって、例えば、現在刑事被告人は危険だけれ
ども、捕まっているじゃないか、残りの一般
信者は安全な存在なんですよというふうには決して単純に言えないんだということも残念ながら指摘せざるを得ないというふうに考えております。もちろん、加害者としての刑事被告人が
責任を負うのは当然ですけれ
ども、そうでない一般
信者もまた彼らの
犯行をいろいろな
意味で支えてきた、そういう支えてきた
責任、いわば道義的な
責任というものもありますし、また、もし万一、何らかの形で松本智津夫被告なりほかの
幹部から指示があればいつ
犯行があっても決して教義上おかしくはないんだという存在だということは、残念ながら指摘せざるを得ないというふうに思います。
ただ、現状で、当時指示にかかわった多くの
幹部、そして松本智津夫被告
自身が拘禁されているというもとで、その
危険性は極めて明らかというような、一見明らかなようなそういう高い
段階ではないとただ全く否定することはできないんだということを指摘しておきたいと思います。
彼らのいわゆるマインドコントロールを解くにはいろいろなカウンセリング等が必要なんですが、その過程については、私
自身が経験したことなどを若干まとめておきましたので、これはお読みいただきたいと思います。
次に、
被害者の対策の
状況なんですけれ
ども、残念ながら
被害者のケアというものは非常に不十分であります。
財産的損害については、
国会議員の
皆さんのお力や破産管財人団のお力、いろいろな特別立法や管財人団の御尽力によって、現在可能な最大限のことはやっていただいたと思いますけれ
ども、それでも破産債権届け出額のわずか二二・五九%しか配当されておりません。
私
どもは民事訴訟を幾つも起こしましたけれ
ども、その中で
被害が完全に
回復されたという例はほとんどありません。多くの例は差し押さえしてもごく一部しか
回復できない、あるいは全く空振りに終わってしまうということで、
被害救済の見通しというものは
財産面においても非常に乏しいということを指摘します。
また、
被害者の現状、これは
財産面だけじゃなくて、心身の傷というものが非常に大きいんだということを申し上げたいと思います。
最後の方に
被害者のアンケートをつけておきましたけれ
ども、例えば、四年が過ぎた現在でも治療体制が進んでいないのはなぜか。
被害者がどんな思いでいるのかも知ろうとしないのはなぜか。迅速に治療体制を整えてほしい。四年を過ぎた今も、後遺症が解明されないまま、レントゲンを撮ってもCTを撮っても異常ありませんで片づけられ、投薬といえば安定剤と睡眠薬だけ何種類も持たされ、日常生活は精神不安で眠れない日が続いている。
オウム事件と
被害者、そして国との
関係など、なぜ私
どもが
被害者にならなければならなかったのか。国はどんな
責任をとったのか、またとろうとしているのか。現在の
被害者はどのような
状況にあるのかを
自分の目で確かめてほしい。少なくとも
被害者の治療費はすべて負担してほしい。なぜなら国の身がわりになったのだからということで、非常に心の傷、体の傷は大きく残っておりますし、また、
被害者の国に対する要望、国に対する
責任を追及する気持ちというものは非常に強いんだということを御承知おきいただきたいと思います。
したがって、受傷者に対する健康診断、ケア等を国家で
責任を持つということもぜひ御論議いただきたいと思います。
具体的な
法案について幾つか申し上げます。
まず、
団体規制法案につきましては、極めて強力な
規制を可能とする
法律案となっております。したがって、
憲法の定める
国民の
基本的人権に最大限配慮し、その
適用対象を現実の教団の
危険性に対処するために必要不可欠なものに限定するということを求めたいと思います。そのためには、
オウム以外の
団体への乱用のおそれをなくしていただくこと、そして適正
手続の理念に沿った
手続の整備をすることをお願いしたいと思います。
具体的には、
無差別大量殺人行為の定義について、
破防法の引用という形で行われていますけれ
ども、これによってかえって
オウム以外の
団体への乱用の
危険性を懸念させるものでありますから、これはやはり
破防法と切り離していただきたいと思います。
また、特に
政治目的の
関係におきましては、
事件が松本智津夫被告の指示に基づいて行われたという
関係で、彼の供述がまだ正確に得られないという中で、
政治目的が果たしてはっきりとあると言えるのかどうか。かえって、定義規定において
破防法を引用することによって、
オウム真理教への
適用の
可能性を狭めることにならないのかということも懸念されるところであります。
また、この
法案の定義規定によりますと、
未遂も含まれることになっておりますけれ
ども、
オウムは既遂を行ったことは明らかでありますので、
未遂を
要件に加えることは、またこれも
オウム以外の
団体への
適用の余地を残すんではないかという心配をしております。
次に、適正
手続についてですけれ
ども、特に
観察処分後の立入検査について、
衆議院での修正によって、立入検査先を特定する書面の提出ということが
法案に追加されたようですけれ
ども、やはりそれでは不十分だと思います。少なくとも
委員会による事前、あるいはどうしても緊急やむを得ない場合には事後に速やかにということでやむを得ないかもしれませんが、承認を必要とするというような
令状主義的なチェックが可能になるようなシステムというものが必要だと思います。
また、
再発防止処分に関しては、より強力な
規制内容だけに、より厳格な適正
手続、厳密な
法律要件の
適用を要望したいと思います。
また、
サリン被害防止法
改正案については、この
無差別大量殺人行為の定義について
破防法の引用をしていないという点、また立入検査について国家公安
委員会の承認を必要としている点、さらに職権乱用罪の法定刑を重くする点など、評価できる点は多くあるというふうに考えます。
さらに、
特定破産法人の
特別措置法案ですけれ
ども、これは特別
関係者の有する
財産に関する推定とか、特別
関係者に対する否認権の行使に関する推定と否認権行使の時効の特例、さらには破産管財人の
公安調査庁長官に対する
資料提供
請求権などが主な内容ですけれ
ども、私
どもとしては、かねて要望してきたことからすれば決して満足というふうに言い切れるものではありませんけれ
ども、ただ、現行
法体系の枠組みの中でその整合性を保ちつつ、合理的な
法案として実効性を持ち得るのではないかというふうに期待したいというふうに考えております。
被害者側としてはこれは最低限の要求でありまして、当然の立法内容であるというふうに考えます。
財産権の侵害ではないかという疑問もあり得るかもしれませんけれ
ども、私
ども被害者側から見ればあくまでも推定規定にとどまっているのでありまして、反証が許されるのだから現行
法体系の中でも許容される範囲だというふうに考えます。
最後に、
事件の再発
防止と教団の消滅、そして元
信者の
社会復帰のために一言申し上げたいと思います。
第一に、国政
調査権によるこの問題に関する
調査を徹底的にお願いしたいと思います。
国会は、この
規制立法だけで終わりにするのではなく、国政
調査権の行使によって、国家が
地下鉄サリン事件まで何もせず、そして多くの
被害者を出してしまったこと、
オウム問題について、
事件前はもちろんのこと
事件後も
被害者対策、元
信者の
社会復帰対策等に国家として必ずしもきちんと取り組んではこなかったのではないかということを
調査、把握し、国家として反省していただきたいと思います。その上で、政府、自治体は一体何ができたのかあるいはできなかったのか、これを明らかにし、カルト対策を含めた今後の対策の体制をとっていただきたいと思います。
具体的にはカウンセリング体制について一言申し上げますけれ
ども、先ほど申し上げましたように、立法で
オウムの
信者や教団をなくすことはできません。
オウムの
信者や教団をなくしていくためには、やはりこれまでカウンセリングを実施してきた民間
団体やボランティアがありますので、そういうボランティア、民間
団体、
個人に対する援助、これは研修とか資金の提供とかあると思いますけれ
ども、こういうものが必要だろうと思います。カウンセリング体制をとるということが一番大事だと思いますけれ
ども、ただ、必ずしも公共の窓口にそういう看板を出すということによっては解決しない、むしろ民間の力を活用するということが必要ではないかというふうに考えております。
さらに、今回成立するであろう
法律について、その存在や運用が
オウムをなくしていくという上でマイナスにならないような運用を最大限配慮していただくようにお願いしたいと思います。
第一に、元
信者の
社会復帰との
関係では、本当にやめた元
信者とやめたふりをした元
信者、これはあり得るわけですけれ
ども、現在でも元
信者に対して
公安調査庁や
警察が接触して
社会復帰を困難にしてしまうという例は間々ございます。やめたふりをした元
信者を監視することはもちろん必要だと思いますけれ
ども、それだからといって本当にやめた元
信者の
社会復帰を阻害することのないように配慮をお願いしたい。そのためにも、立入検査に際しては適正
手続の厳正な実施というものを最低限求めたいと思います。
さらに、この
規制によって、場合によっては一部
信者の信仰をかえって強固、過激にするおそれもあります。彼らは、もし仮に違法な運用あるいは拡張的な運用など、彼らを正当化できる運用がされれば、それを声高に言い立て、そしてかえって
自分たちの存在、教義を正当化する、そういう
目的に使われかねません。したがいまして、適正
手続も含めて、
人権等には最大限の配慮をすることが
オウムを利さないためにも必要だということを一言申しておきたいと思います。
今回の立法で決して終わりとすることなく、今後も
国会として
オウムの問題に取り組んでいただく第一歩としていただくようにお願いして、私の
意見を終わります。