○北村哲男君 私は、
民主党を代表して、ただいま提案されました無
差別大量殺人行為を行った団体の
規制に関する
法律案に対し、
質問をいたします。
昨日、すなわち十一月四日は、坂本堤弁護士一家がオウム真理教幹部に殺害されてちょうど十年目に当たります。
当時、
国会内においても超党派による坂本弁護士一家捜索に関する
議員団
会議が結成され、私どもも警察庁など
関係機関に捜索の
強化を強く申し入れました。しかし、当時の
関係機関の
対応はいかにも緩慢で、打つべき手がないという状態で、オウム真理教に対する危機意識が感じられなかったとの印象でありました。
その五年後の一九九四年六月、松本市でのサリン散布による七人の犠牲者、そして一九九五年三月二十日、まさにこの
国会議事堂のおひざ元、営団地下鉄霞ヶ関駅などでのサリン散布による事件は、世間を震撼せしめました。これらは、
我が国だけでなく、世界にも例を見ない前代未聞の無差別大量殺傷事件で、思い出すだけでもおぞましいものであります。
しかし、これは過去の事件ではなく、現在も継続しておるのです。すなわち、多くの犠牲者の方々やその家族の方々が、今なお心身ともに深刻な後遺症に悩まされており、一方、その首謀者松本智津夫らの裁判は、遅々として進んでおりません。
また、
被害者の方々への損害賠償は、極めて不十分であるのです。
私どもは、昨年四月、オウム真理教に係る破産手続における国の債権に関する
特例に関する
法律を超党派で成立させました。これは、オウム真理教への破産債権として国が届け出た、労働者災害補償保険法などに基づいて国が有する債権を、犠牲者の債権に劣後させるというものであります。これによって約一億二千万円の破産債権が確保され、一定の評価を得たものの、
被害者の債権額約三十八億円を満たすにはいかにも不十分であり、その後の
対策が今でもとられておりません。
さらに問題なのは、宗教法人オウム真理教は解散命令を受け、法人としては破産宣告を受けるに至っておりますが、その教団の主たる構成員らが、過去を反省することもなく、依然として同一の教義に基づく宗教活動を行っていることです。しかも、その
実態は、事件前と同じように、修行と称して信者を監禁し、いわゆるマインドコントロールをするなどを繰り返しながら、露骨に勢力の
拡大を図っております。
そればかりか、かの上祐、すなわち、ああ言えば上祐、こう言えば上祐と言われたオウム真理教の大幹部上祐史浩が、この十二月には出獄し、再び活動を始めようとしております。
このように、十年前から始まったオウム教団の関連の事件が今なお一向に解決していないばかりか、新たな進展すら予想させる姿を見て、世間は一層の不安と恐れを募らせているのです。
また、一般的な不安や恐れではなくて、
全国各地では、オウム教団の活動拠点での
住民登録と子弟の就学拒否、転入の実力阻止、あるいは信徒の監禁などをめぐり、
現実のトラブルも絶えず起こっており、
地域住民の不安を一層高めているのも
現実であります。
しかしながら、これらの諸問題に対し、
政府の
対応はいかにも鈍い。私は、一日も早い
対応策が必要であるとの立場に立ちます。
問題は、いつまた同じことを起こすかもしれないという一触即発の雰囲気の中でのオウム教団に対する
対応であります。
しかしながら、今回の
政府提出のこの法案には幾つかの問題があります。すなわち、この法案がその第二条、第三条でみずから規定しているように、この
法律は
国民の基本的人権に重大な
関係を有するもので、必要最小限度において
適用すべきで、いやしくも拡張して解釈してはならない、あるいは、
規制及び
規制のための調査は必要最小限度において行うべきで、いやしくも権限を逸脱して、思想、信条、集会、結社、表現及び学問の自由並びに勤労者の団結し、及び団体行動をする権利、その他の
日本国憲法の保障する
国民の自由と権利を不当に制限することがあってはならないなど規定をしております。
この条文は、まさにこの法案の性格をそのままあらわしているものであります。
この法案が直接
関係する
国民の基本的権利にかかわる憲法条文を検討してみますと、既に法案にあらわれている五つの基本的人権に加えて、二十九条、十四条、二十二条、二十六条、三十一条、三十二条、三十五条など、憲法に定めるほとんどの基本的人権が直接問題になり、
現実に制約されることになる極めて重大な法案であります。
これら
国民の基本的人権が制約され得る法理として、一般に公共の福祉による制約があることは学説、判例も認めるところでありますが、この法案による制約は、一般法としては、公共の福祉という法理では到底認めることのできない、その限界を超えていると言わざるを得ないのであります。もし、一般
国民が公共の福祉の名のもとにこれほどの基本的人権の制約を受けるのであれば、憲法はないに等しいと言わざるを得ません。
したがって、
法律の運用に慎重であることは言うまでもありませんけれども、罪刑法定主義や法の正当手続などの観点から慎重に吟味しなければならないのであります。
そこで、以下の点について法務
大臣に
質問します。
第一に、この法案はオウム教団のみが
対象とされており、そうであれば、一般法ではなくオウム教団に限定した特別立法とする措置が必要ではないでしょうか。そうすることによって、多くの
国民が、いつこの一般法によって
自分たちの
社会的活動が
対象とされ、制約が加わってくるかわからない不安から解消されるということができます。そのためにも、オウム教団を把握できる
範囲で、過去及び未来についての限定立法にすべきであります。
すなわち、オウム教団の犯罪行為が開始された現在よりもさかのぼること十年前からの団体のみを
規制の
対象とすることにより、過去、無制限にさかのぼらせることを制限し、いたずらな不安感を解消できます。
さらに、施行後五年程度で終結する時限立法とすることにより、オウム教団問題解消後も
法律だけが生き残り、ひとり歩きする危険性を排除することができるのです。それだけでなく、オウム問題を五年以内に解決するという決意を内外に表明するという
意味もあります。
大臣、いかがでしょうか。
第二に、この法案が
国民の基本的人権に直接影響を持つ
法律であるがゆえに、乱用に対し厳格な目を有する司法機関に、要所要所の判断を任せる必要があります。
この法案は、観察処分を受けた団体に対する立入検査を規定し、また
再発防止処分として、
対象団体の不動産の使用を禁止するなどの処分を規定しているのですが、このような権利を制限する処分には、公安審査委員会ではなく裁判所の判断を介在させ、法の厳格
適用、人権の保障に
配慮した措置をとるべきだと思いますが、いかがでしょうか。
第三に、公安調査庁と公安審査委員会による団体
規制の仕組みは、
平成九年のオウム真理教に対する破防法による
規制請求において十分に機能しませんでした。にもかかわらず、この
法律においてもこれら二つの組織に
規制の
中心的役割を与える理由は一体何なんでしょうか。また、これらの組織によって、実際にオウム教団に対する実効性のある
規制ができるのでしょうか。法務
大臣の
見解を伺うものであります。
第四に、この法案の第五条第一項第五号は、観察処分の要件の
一つとして、「前各号に掲げるもののほか、当該団体に無
差別大量殺人行為に及ぶ危険性があると認めるに足りる事情があること。」と規定し、さらに第八条第一項第八号は、
再発防止処分の要件の
一つとして、「前各号に掲げるもののほか、当該団体の無
差別大量殺人行為に及ぶ危険性の増大を防止する必要があるとき。」と規定しておりますけれども、このようにあいまいな要件は、
関係当局の恣意による
拡大解釈のおそれがあるのではないか、この点について法務
大臣の
見解を伺います。
第五に、
再発防止処分を試みても、なお団体としての活動を行っている場合、団体に対する解散権を行使することも
考えなければ法の目的は貫徹されないと
考えますが、この点についてはどのように
考えるのでしょうか。
最後に、法三十三条に不服申し立ての制限の規定があります。すなわち、行政不服審査法に基づく申し立てができないようになっておる。一方、団体に関しては、この三十四条で取り消し訴訟を求めることができることになっております。そうなりますと、観察処分や
再発防止処分によってプライバシーを侵害された善意の信者や、あるいは土地取引を禁止されるなどして取引の安全を具体的に制限された個人が、その行政処分に対し不服申し立てをする道は閉ざされていることになります。この点について、個人の不服申し立てについてはどのようにすればよいのか、その点について法務
大臣のお
考えをお聞きしたいと思います。
以上六点、この法案に対しての疑問を呈し、迅速性、実効性そして限定性を明確にした
法律として成立させることを願い、
民主党を代表しての私の
質問を終わります。(
拍手)
〔
国務大臣臼井日出男君
登壇〕