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紺谷参考人 おはようございます。
日本証券経済研究所の
紺谷でございます。
中小企業政策についてお話しさせていただきたいと思うのですけれども、今回のこの
不況というのは、やはり
中小企業が置かれている
状況というのをとても明らかにしたと思うのですね。
中小企業はもう強くなったとか
自立だというふうに言われるのですけれども、それももちろん正しいのですけれども、やはりこういうふうに
経済が悪くなってくると、
中小企業が傷むんだな、
中小企業ってやはり弱いんだなということがよくわかったかなと思うのですね。
それから、最近の
アンケート調査でも明らかなんですけれども、
中小企業が何にお困りかということを考えてみますと、やはり
金融と税なんですね。圧倒的に
金融問題と税だということでありまして、この
不況でも
金融と税で非常に苦しめられちゃったなという観点で、この九〇年代の大
不況が、
中小企業が置かれている
状況を極めてはっきりと示したんではないかと思っているわけでございます。
つまり、今、
市場メカニズムのあらしみたいなことになっておりまして、ですから、通産省があるいは
中小企業庁が、今までは言ってみたら
保護、指導だったんだけれども、これからは
自立支援だとおっしゃっていて、それは、
市場メカニズムの導入が必要、
競争性の増進が必要という
意味で極めて正しいのですけれども、ただ、それだけじゃ困るという
部分があるということなんですね。そういう点から考えますと、
市場メカニズム論の横行というのが今回の
不況をひどくした一因でもあるのではないかと思っているのでございます。
どうしてかと申しますと、
市場メカニズムというのは、やはり弱肉強食、優勝劣敗なんですね。ですから、
アメリカなんかもそうなんですけれども、一方で
市場メカニズムによる
効率性を非常に強く志向しながら、
他方で
市場の
メカニズムからはじき飛ばされてしまうような
弱者に対する手当てとか、それから一方で
独禁法が非常に厳しいとか、そういう、
市場の
失敗の
部分に関して十分な
補完策をとっているということを学ばなくちゃいけないと思うのですね。
その点、
日本の
経済学者の
皆さんは、極めて短絡的にと言ったら申しわけないんですけれども、
市場メカニズムさえ導入すれば、自由な
競争さえ導入すれば万事がうまくいくみたいな極めて幼稚な
市場メカニズム論を展開なさって、そのことが今日の
不況にどれほど大きな痛手を与えたかというふうに思っているわけでございます。
例えば
金融破綻に関しても、
金融ビッグバンというのが行われたわけなんですけれども、こんな
不況の真っ最中に、こんな
金融不安のただ中で
金融機関に
競争させたら何が起きるかということでございます。
やはり
自分が生き残りたいわけですから、
競争に負けたらば
自分が敗退せざるを得ないわけですから、
自分が生き残るために、率のいいお客だけを手に入れようとするわけですね。これ以上不良債権ふやしてなるものかということで、
中小企業だというだけでもう貸さないというような貸し渋りに走ったり、あるいは詐欺同然の
融資引き揚げまであったと言われているわけでございますけれども、そういう形で、
金融の面で非常に
中小企業が苦しい
立場に置かれたというわけでございます。
しかも、
競争だ、
自由化だとか、
市場メカニズムだというふうにおっしゃっていたわけなんですけれども、でも、そういう中で、こういう
弱者に対する
保護ということを何も考えていなかったんですよ。
だけれども、
アメリカでは、例えば
クレジットユニオンのように、
互助会方式だということで税を免除されているような、そういう、
地域金融を守ったり
業者金融を守ったりというような
組織だってきちんとあるわけですね。それから、コミュニティー・リインベストメント・アクトというようなものがありまして、
地域金融を守るとか、
中小企業への
融資の比率を
一定量義務を課すとか、そういうような
法律だってきちんとあるわけでございます。
ところが、
日本で行われた
金融ビッグバン構想の中では、
中小企業金融というのはほとんど顧みられなかったということがあるんですね。これからは
中小企業を育てるのが何より大事だということは多くの国民の
皆さんの一致した
意見だろうと思うにもかかわらず、これから
金融サービスを向上させます、
金融市場改革をやりますという
金融ビッグバン構想の中に、
中小企業金融というのがほとんど論じられなかったという問題があるわけです。
のみならず、むしろ今まで
中小企業を育ててきた
信用金庫とか
信用組合というような
組織が、
組合方式であるということの利点をなお明らかにするような
方向で
改正が行われたかというと、全然逆でございまして、どうせ小さいんだから、もたないんだから、くっつけてしまえというような、とても乱暴な
再編策がとられたわけでございます。
ところが、
信用金庫、
信用組合というのは、大
銀行のようにコンピューターも動かしていないかもしれないし、あるいはテレビに出るようなエコノミストもいないかもしれないし、海外の支店から毎日のように時々刻々の情報を集めているということもないかもしれないんですけれども、毎日毎日
商店街を歩きまして、足で稼ぐ
融資審査ということをやってきたわけです。あそこの御主人は怠け者だけれども奥さんはしっかりしているから貸そうとか、あのおやじさんの頭は
センスが古くて何か先細りに見えたけれども、
息子はいい
センスをしていて、近々
息子に代がかわるらしいとか、そういうことで
融資審査をしてきているというのが
信用金庫、
信用組合なんですね。
どうしてそれが可能かというと、
特定の
地域、狭い
地域に特化する、あるいは
特定の業種に特化するということで、
専門性を限ることによって大
金融機関も及ばないようなきめ細かな
融資審査が可能であったということです。
むしろそういうものをこれから育てましょう、
中小企業活性化が大事だと言うんだったらそういう
議論の
方向であるべきにもかかわらず、そうならなかったということです。
信用金庫や
信用組合は
日本では
中小企業並みの税金を課されておりまして、それは
アメリカと全く違うんでございますけれども、それをさらに普通
銀行化させるというような
方向の
金融ビッグバンであったかなと思うわけでございます。
それから、
金融学者とかあるいはマスコミ、識者の
方たちが、だめな
銀行はつぶしてしまえ、だめな
銀行をつぶして
効率的な
銀行を残すことが
日本の
金融サービスを向上させるんだというふうにおっしゃっていたわけなんですけれども、でも、
銀行をつぶしたら
借り手が困るということへの配慮がほとんどなかったんですね。
預金者については随分論じられましたし、当面は
預金は全額
保護するという
施策もとられたわけなんですけれども、
銀行には
借り手がついているということに関する御
議論はほとんどなかったわけでございます。
それで、
金融学者の
方たちは、
銀行がつぶれると
借り手はどうするんですかなんて聞かれると、
資本市場の
育成が必要だなんておっしゃるんですね。間に合わないんですよ。確かに、中長期的に見て、
資本市場の
育成とかすそ野を広げるということは非常に大切なことだと思います。やるべきことだと思います。ですけれども、現状で
日本の
企業の
資金調達といったら、大
企業を除きますと、やはり
金融機関からの借り入れしかないんですよね。そこで貸し渋られたらどうするんだということで、貸し渋りによって、詐欺同然の
融資引き揚げによって、黒字の
企業まで倒産するということが起きちゃったじゃないですか。それなのに
銀行をつぶせばいいんだという非常に安易な
議論になったということです。
それから、
銀行であれ
証券会社であれ、破綻したところは
市場がノーと言ったんだ、
市場が選別して非
効率な
金融機関の
存在を許さなかったんだと言うんです。
皆さん、
市場が
市場がとおっしゃるんですね。
株価が下がったということは
市場が判断したんだ、
判定を下したんだとおっしゃるんですけれども、そういうふうにおっしゃる一方で、かつては、
日本の
株価なんかでたらめだ、
市場なんというのはわかっていないんだ、そういうことをさんざんおっしゃってきたわけです。いつから
市場がそんな神様のように
企業の選別をする能力ができたんだとお聞きしたいぐらいなんです。
実は、最近の
日本の
市場というのは
外資系が暗躍しておりまして、
日本の
株価決定は
外資だと言ってもよろしいぐらいなんですね。もちろんその半分以上は
日本人の
投資家だったわけですけれども、非常に自信をなくしてしまいまして、
外資が売るんだったら一緒に売る、買うんだったら買うというような付和雷同型になってしまったものですから、
外国の思うがままの
株価操作みたいな形になってしまったわけでございます。
それで、どんどん売り浴びせということでありまして、なぜ
長銀が日債銀より先につぶれたのかということを考えますと、
長銀の
株価の方が高かったからですよ。百円を十円にして九十円もうかるよりは、三百円を十円にして二百九十円もうかった方がいいという、ただただそれだけのことなんですね。だから、危ないといううわさのある中で最も優良なところからねらい撃ちするというようなことだって
市場では起きたわけでございます。
それなのに、
市場が
判定を下したとか、
市場がその
存在を許さなかったというような、
市場の暴力を許すような、そういう
議論ばかりしてきたということだろうと思うんです。
また、
ペイオフについてもそうなんですけれども、
ペイオフをやることによって
利用者の
自立を促すというんでしょうか、
銀行を判断するようにしないといけないと。やはり
消費者であろうとも
銀行を選んで、それでしないと、いつまでも
預金保護をしているということでは
利用者の
モラルハザードを招くというようなことも言われたわけなんですけれども、
公認会計士がだまされるような
銀行の
会計報告を読んで、どうやって
中小企業とかあるいは一般の
預金者が
銀行を判断できるというんでしょうか。これから財務の
勉強、
会計の
勉強をしろというんでしょうか。そんなの不便きわまりないですよ。そのことに使う国民的なエネルギーということを考えますと、壮大なむだとしか言いようがないんですね。どこが
効率化なんだと思うわけでございます。
そんな
ビッグバンだったらやめてくれと言いたいぐらいなんでございますけれども、極めて安易に、ディスクロージャーさえすればいいんだみたいな感じになっているわけでございますね。
ペイオフなんというのは
自己責任だと言うんですけれども、そのために必要な啓蒙とか
教育とかあるいはさまざまな
インフラ整備、
格付機関をもっと充実させるとかそういうことを一切しないまま、いきなり
自己責任ということを突きつけられているのが
日本の
中小企業であったり
預金者であったり
投資家であるわけでございます。しかも、
金融サービス法をつくるのをやめちゃおうかななんという御
議論まで今ごろになって出ているという、とんでもない状態なんでございます。そういう
金融の問題というのが極めて重要なんですね。
今度の
中小企業基本法の
改正案の中にも、例えば
資金供給の
円滑化ということで、
金融の
重要性ということはきちんと御指摘いただいているわけでございます。ですけれども、ただ
円滑化と、まあ
基本法なんだから仕方がないんですけれども、具体的にどうするのかということをやはりお考えいただきたいと思うわけでございます。
それから、自己資本の充実ということをおっしゃっていまして、これは証券
市場の問題と税の問題であろうと思うんですけれども、税金の問題というのも非常に厳しいですね。
もう既に言い古された相続税の問題というのもあるわけでございますけれども、農業に関しては事業の継承を
重視して、税の繰り延べとかそういう措置がとられているわけでございますね。だとしたら、
中小企業に対してもそういう配慮があってしかるべきと思うのでございます。
さらには、固定資産税など不動産の税金なんでございますけれども、
日本では固定資産税の実質税率が非常に低い。
外国に比べて非常に低いんだから、これをもうちょっと
外国並みにしなくてはいけないんだということで、
不況の真っ最中に土地、不動産の
評価額を上げるというようなことをやってしまったわけでございます。ですから、
不況の最中に固定資産税の負担額もふえるということになっているわけなんです。
そこで非常に重要なことは、税率という観点で国際比較をいたしますと、
日本の実質税率が低いのは事実でございます。ですけれども、税額という点から見たらどうなのかな。
私は、二十年ぐらい前から各国の
企業の資産の比較や何かをやってきているわけでございますけれども、それでわかりますことは、
日本の
企業資産の中で土地のウエートが物すごく高いということなんです。それは地価が高いからなんでございますけれども、同じ事業をやるんだったらば海外の何十倍の土地の価格を負担しないと事業が始められないし、継続できないということなんですね。そのための金利負担だって重いわけでございます。つまり、一時期、
日本の土地の値段は
アメリカの百倍だと言われたわけなんですけれども、同じ面積の工場や支店をつくったとしたら、それだけの土地の資産を持たなきゃいけないということです。そうしますと、同じ税率をかけていたら大変な税額負担になるわけでございます。
税額負担という形ではどうなのかという国際比較をぜひ大蔵省にはおやりいただきたいと思うわけでございますけれども、そういう御
議論も余り学者はなさらなかったということがあるわけですね。
最近、外形標準課税の導入というようなことでありまして、かなり前から、赤字法人というのがある、働いてもいない家族にお給料を払っているとか、あるいは
自分たちの個人生活に使った費用を会社のコストとして落としているじゃないかとか、けしからぬというような
議論がずっとあったわけです。
確かにそういう
企業がないとは言えないと思います。ですけれども、一方で、お給料ももらわずに家族ぐるみで一生懸命事業を行っている町工場とか
中小企業というのも非常に多いわけですね。個人業種も多いわけでございます。それなのにそういうマイナスの
イメージばかり振りまかれているということでありまして、外形標準課税というのがいずれは導入されるものであろうというふうに思いますし、絶対だめということは言えないんですけれども、なぜこの
不況の最中にそういうことを
議論するんですかということなんですよ。
やるべきことの順序が違うんじゃないですかということです。そのために
中小企業がとことん傷んできたということでありまして、税と
金融というのは非常に大事かなと思うんですね。
それで、
中小企業ということでいいますと、かつてはみんなが弱かったわけですけれども、これからは
中小企業こそ大事という時代がやってくると思うんです。
どうしてかというと、昔は、大きいことはいいことだという時代だったんですよ。大
企業が規模に物を言わせて大規模生産をして、そのことによってコストを下げて少しでも安くすることによって、一軒でも多くの御家庭が欲しいものを手に入れていくという、そういう高度
成長の時代があったわけですけれども、今は必要最低限のものはもう手に入れちゃった、ちょっと欲しいかなと思うものも全部手に入れちゃった、今はぜいたく品の時代なんですね。
人によってぜいたくする場所が違いますから、マーケットはかつてのように大きくはないかもしれないです。だけれども、高くてもいいよ、スポーツシューズだって三万円でも買うよというような人たちがそろっているわけでございますから、これからは、マーケット
一つ一つは小さいんだけれども、
消費者が欲しがるものをつくれば高くてもちゃんと売れる、高付加価値でも売れる、そういう消費パターンになってきているわけでございます。それはまさしく
中小企業の時代でもあるのかなということであります。
比較的に御指摘が少ない点を中心にお話しさせていただきました。もう時間になっちゃったので途中で残念なんですけれども、後ほどまたお話しさせていただけるチャンスがあるとうれしいなと思っております。どうも御清聴ありがとうございました。(拍手)