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田中参考人 田中でございます。
まず、このような
機会をいただきましたことを心から感謝申し上げたいと思っております。
単に
定期建物賃貸借を新設するという画期的なことのみならず、
本案は
賃貸住宅政策全般についてを視座に入れており、また、
賃借人、
賃貸人の間の
バランスのとれた本
法案を全般的には高く評価するものであります。
本
法案につきましては、第一に、国と
地方公共団体が良質な
賃貸住宅などの
供給促進に努める義務を明記しております。この点も評価したいと思っております。
また、
期間終了後の日数にかかわらず、通知した日から六カ月が経過しなければ
契約は終了しないこと、そして、
定期借家権でも、
居住用でも
床面積が二百平米
未満の場合には借り主のやむを得ない
事情を認め、一カ月前の通知で途中解約ができるようにしたこと、この
面積は六十坪に相当しますので、九〇%以上がこの
恩恵を受けるものと考えられます。さらに、この規定に反する特約で
建物の
賃借人に不利なものは無効として、
賃借人の
保護を図っていること、そしてさらに、
既存契約からの切りかえについては当分の間適用しないという厳しい
条件が付されていることなどを
内容とする本
法案は、また、以下の点でも
特徴が見られると評価しているところであります。
第一に、
定期借家権の創設によって、
供給側、
賃貸人も、
需要側、
賃借人も選択の幅が拡大すること。これは
国際化に対応するためには少なくとも最低の
必要条件であり、
少子高齢化を初めとする
我が国の時代の変化と
住宅事情のニーズに合致していることが考えられるわけであります。
そしてさらに、質のよい
賃貸住宅の
供給促進の有力な手段となり得ること。
さらに、本
法案は第二条から第四条を初めとして
借家人保護に
十分国、
地方公共団体の責務を明らかにしていること。
本
法案は
実行可能性と
社会的合理性、公正、公平、
経済効率などをあわせ持っている
バランスのとれた
法案であるということであります。
さらに、先ほど申しましたように、
賃借人と
賃貸人側との妥当な
バランスのとれた
内容になっていること。さらに、
グローバルスタンダードに合致した
法案であるということであります。
欧米では、先ほど
福井先生からお話がありましたように、
定期借家権を導入する国が圧倒的多数であり、そのほとんどが
プラス効果をもたらしているわけであります。
さらに、
高齢者住宅の
利活用が可能となるということであります。これは、将来、リバースモーゲージ的な応用の
可能性を秘めていると考えるところであります。
さらに、最近、地方の地域を含めて
商店街の
空き店舗などが非常に大きな課題となっております。この際にも
解消策として活用できるということが考えられるわけであります。
そしてさらに、
定期借地権が既に導入されておりますが、これから
定期借家権の創設と相まって、良質な
住環境を形成することに役立つと考えるわけでございます。
次に、以下では
経済的側面から本
法案を検証したいと思っております。
戦前は、御
案内のとおり、
民間人は
自分の
退職金で
借家経営をするというのが通常でありました。大体
退職金で一戸ないし二戸を
借家として提供するわけであります。この戸建ての
平均値というのは、調べてみますと、
大学卒初任給の大体一年、二年分で購入が可能でありました。しかし、これは
課長クラスだったら十分に買えるわけであります。それでも、そういう
人たちは
借家生活を楽しんだわけであります。
供給が非常に多いため、
競争原理によりまして、質のよい
賃貸住宅が圧倒的に多かったわけであります。このため、新築の七、八割が
借家であったわけであります。車を一台、
大学の
初任給で買うのは大変でありましたけれども、
住宅は買えたことが指摘されているわけであります。
これが一転してきましたのが、御
案内のとおりの、昭和十六年の
政治立法の
特殊事情のもとでの
借地借家法の
正当事由が設置されたからでございます。この
条項は、これまで否定することなく必要な要項であったと考えております。しかし、その後、役割が終わったにもかかわらず、それが残ってきた。そのために健全な
賃貸市場を育成することができなかったと考えております。一
世帯一
住宅が達成した昭和四十八年に
定期借家権が導入されていたならば、かなり
日本の
賃貸市場も望ましい変化があったはずと考えておるところであります。
以下、
経済的視点を
中心にして、数点についてさらにコメントを申し上げたいと思います。
定期借家権導入の
必要性についてでありますけれども、国民の多くが
経済大国でありながら
生活大国であるという認識が低いのは、
大都市を
中心とした
住環境、とりわけ
借家水準が低レベルにとどまっていることが大きな理由であることは御
案内のとおりであります。
我が国の
住宅ストックの形成は、その後、終戦直後には四百二十万戸の
住宅が不足していたところでありますけれども、今や六百万戸の
住宅が余っております。
全国ベースでは、全
世帯数四千七十七万
世帯のうち、実に三八・五%の千五百六十九万
世帯が
借家世帯であります。
京阪大都市圏では四六・四%が
借家世帯であり、
大都市圏ほど
借家の比率が高いのは御
案内のとおりであります。
そして、
借家の
平均床面積は、
持ち家のそれの三分の一にとどまっており、
ストックの半数が四〇%
未満の非常に狭小な
住宅であります。
平均床面積を
欧米諸国と比較した場合、
持ち家が百二十二平米とほぼ同
水準以上になったのに対し、
借家は四五%と著しく低
水準にとどまっており、改善の見通しはなかなか立てられておらないわけであります。
欧米では、
借家と
持ち家との
平均床面積比率はほぼ七割から八割でございます。これに対し、
日本の
借家は、百二十平米以上という
持ち家の
水準に達している
借家はわずか一・三%でありまして、
アメリカの同
水準の四七・五%と比べると、
持ち家と
賃貸住宅とでは大きな差が見られるわけであります。
さらに、
全国ベースでは、
借家世帯のうち約八割が
誘導居住水準に達しておらず、しかも最低
居住水準未満世帯のうち半数以上が民営
借家住宅であり、その約三分の二は三
大都市圏に集中しております。フーペイ・フーレシーブという見地からいえば、税の多くを負担している
大都市住民の居
住環境がいかに悪いか、このことが
大都市住民の大きな不満の要因になっていると考えられるわけであります。
今後の
住宅需要を考えてみますと、
持ち家志向はこれまでと違いまして、将来への先行き不透明、そして資産デフレ傾向が続いているということもありまして、急速に低下しております。逆に、本格的な
居住の場としての
賃貸住宅ニーズの高まりが見られるのは皆様御
案内のとおりであります。
一方、前述のように、
床面積を初めとして
賃貸住宅の
水準は低く、
賃貸住宅居住者の
住宅に対する不満率が高いのは、いろいろな統計からも明らかであります。このような強い不満を解消するためには、
定期借家権が導入されれば、まず第一に
市場が
供給促進によって活性化され、良質で低廉な
賃貸住宅に対する需要に十分こたえることが可能となることが考えられるわけであります。
さらに、現行の
借家制度の問題点につきましては、
正当事由による社会的公正を欠く強力な解約
条件がいまだにとどまっている、残っているということであります。この
制度は、先ほど申しましたように戦時下の異常時
立法であり、地代
家賃統制令の実効性を担保するために、御
案内のとおり昭和十六年に導入されたものであります。ところが、同統制令が既に廃止され、しかも
住宅が六百万戸も余った今日まで存続しているわけであります。このため、以下のような問題点が発生しているわけであります。
契約で定めた
期間が満了しても、
賃貸人に
正当事由が認められない場合は
契約が更新されるため、
契約時において
契約期間の不確実性が存在すること。このことは、
契約という法遵守を破り、このようなシステムは、世界の中、国際間でも通用しないと指摘されているところであります。
さらに、多額な立ち退き料の
支払いを
条件とするケースが多々あり、
契約時において事後的経済的負担の
可能性が存在するわけであります。これは世界では見られない慣行であり、
グローバルスタンダードの視点からは不合理であるという指摘が強いところであります。
さらに、この立ち退き料が相対的に高くなる
条件の、質のよい
住宅供給を避ける傾向がありまして、これがいまだに低
水準の
賃貸住宅の
中心となっていることは、経済原理、
市場メカニズムに対する当然の帰結でもあろうと思います。
さらに、
供給促進、増大による
家賃の低下が阻まれているという現実がございます。
グローバルスタンダードの時代に合致しない、健全な投資が期待できないということも指摘されるわけであります。健全な自由
競争による
市場メカニズムが不可能な
市場をあえて形成している側面があることは、否定できないと思います。
さらに、
定期借家権の創設の必要が問われている背景は、先ほど申しましたように、成熟社会への移行に伴い、そして
グローバルスタンダードが求められている中で、
居住ニーズの多様化に応じた多様な選択肢の提供、そして良質な
住宅を
供給する
賃貸住宅市場や中古
住宅市場の活性化が求められているわけであります。このような時代のニーズを背景にして、
定期借家権の創設が国民の大多数の支持を受けて、
修正案を含めて四党によって提案されていると私は理解するところであります。
さらに、米国においてもREITというシステムが存在し、これは
定期借家権を
前提としているわけでございます。
賃貸住宅市場への多額な投資が行われ、これが結果的には良質な
賃貸住宅の形成
促進に役立っているわけであります。これを扱う企業の株価時価は今十五兆円と言われておりまして、これが
アメリカ国民の資産形成に大きなプラスになっているということも指摘されているわけであります。
現在、
外国の
定期借家権制度につきましては、
イギリス、米国につきましてはただいま
福井先生から御指摘がありましたので割愛したいと思っておりますが、ロシアはもちろんのこと、最近の中国も規制緩和と
市場家賃の導入を積極的に、
持ち家に対する払い下げというようなこともありますし、また、
市場家賃を
前提として値上げということも現実に行われている動向も我々は注視したいと考えているところであります。
そして、経済
効果につきましては、いろいろな視点がございますけれども、まず、このような
賃貸住宅経営における不確実性が
正当事由の排除のためになくなってまいります。そのために規模の大きい良質な
賃貸住宅の着工に結びつくのみならず、
賃貸住宅市場自体が活性化し、内需拡大につながり、不動産の証券化が
欧米と同様に可能となる。これによって、都心部の低未
利用地が良質な
賃貸住宅や商業ビル用地として
利用が
促進され、不良債権処理や貴重な土地資源が有効
利用されてくるということが考えられるわけであります。このような
市場原理、
供給促進、
競争ということによりまして、当然、需要
供給原則から
家賃も低下してくるということが十分に期待されるわけであります。
経企庁は過日、この
定期借家権導入による経済
効果は年間八千億円、二十年間で十六兆円に達するとしております。また、学者の一部では、その初期
家賃は大体八・七%から一〇%近く低下するということを指摘しておりまして、
供給促進効果によってマイナスとなるようなデータは私はほとんど関知しないところであります。
そしてまた、この
定期借家権は、借り主に対しても大きな
メリットをもたらすと考えられるわけであります。すなわち、
賃貸人のみならず、借り主も次のような
メリットが生ずるわけであります。
良質な新築
借家がふえるだけでなく、これは固定資産税によっての増大が非常に今活発になっておりまして、持ち主、地主あたりもこのような固定資産税のアップに伴いまして
借家経営というのに積極的にならざるを得ないわけでございます。
持ち家ストックのミスマッチの改善などによりまして、良質かつ多様な
借家の
供給促進が期待できるということ。さらに、ニーズに応じた
賃貸住宅の選択肢の拡大が図られるということ。さらにまた、良質な
住宅供給が、ただいま申しましたようないろいろな圧力によりまして、あるいは
競争原理によりまして、
市場家賃が低下するということが考えられるわけであります。この点は、マスコミなどの調査によっても明らかになっているところであります。
さらに、
建物返還時期、収益見通し等の不確実性が
欧米に見られるように改善されますので、これらの不確実性に対するリスクプレミアムのために相対的に
家賃が低下し、さらに、現状ではまだ一般的になっております礼金、権利金等の一時金が不要になることが十分に期待できるわけでございます。これはまた、
借家人に対して
プラス効果になることは確実であろうと思います。
市場家賃の低下についての実現でございます。
定期借家権の創設によって、
契約期間の不確実性、収益見通しの不確実性、高額な立ち退き料などの将来的な経済負担の不確実性が、
可能性が減少するために、この分のリスクが
市場家賃に反映して低下することは、経済原理からいっても当然であろうと思います。
第二に、
供給促進の圧力による低下。
さらに、先ほど申しましたように、礼金、権利金の一時金の不要に伴う低下。
さらにまた、既存のように、通常は二年
契約が多いわけですが、五年、十年という長期
契約も想定されるわけであります。これによって、
家賃のディスカウントが
市場原理からも当然に考えられるわけであります。この点につきましては、いろいろな調査からも明らかになっているところであろうと思います。
そして、不動産の証券化、流動化への
効果についても期待できるのは、先ほども申し上げたところであります。この動向は世界の潮流であります。
日本経済の再生と、国民の健全な資産形成にとっては不可避であるわけであります。これには
定期借家権の創設は、
アメリカ同様に必要最低
条件であるということも指摘できるわけであります。
住宅を
市場原理にゆだねる懸念についての指摘がございます。
これにつきましては、
住宅の絶対不足や世界的視野からの判断の
必要性、あるいはまた、地価の右肩上がりを
前提とした
正当事由の存在意義は大きな変革を余儀なくされていると考えられるわけであります。今や、質のよい
住宅に住みたいという国民の多様な
居住ニーズにこたえていくことが必要不可欠であり、そのためにも、
定期借家権の一日も早い創設が望まれていると言っても過言ではないと思います。
このためには、セーフティーネットの整備等、必要な措置を講じた上で、自由な
市場機能を活用することによって、世界の趨勢でもありますけれども、このような
市場競争原理によって
家賃や何かを下げていくという機能が期待されるわけであります。本法は、この点にも配慮しており、評価できると考えているところであります。
さらに、
居住の安定にも、六カ月前の事前通知を
前提としたり、
定期借家権導入後も従来型の
借家権を併存しており、
借家人はその時々のみずからの
住宅ニーズに応じて、
市場において二つの
制度を選択でき、
賃借人の
居住の安定性が担保されていると考えられるわけであります。
また、不当な
家賃値上げの懸念につきましても、不当な
家賃は
市場において淘汰されることが
市場のメカニズムであり、それを国や自治体はこれまで以上に支援していく措置が必要であろうと考えます。
契約の拒絶による
賃貸人の追い出し多発の懸念につきましても、非常識な
家主は、
市場原理によりまして当然のことながら
賃貸空き家を抱えることになってしまいまして、
市場において大きな制裁を受けることが必至であります。
このためにも、迅速かつ適正な
家賃水準等の
市場情報が得られるような情報提供サービスシステムを官民挙げてつくっていくということが、そのサポートシステムとして必要であろうと考えております。
以上により、
定期借家権の創設は、
借家人にも十分配慮しており、一日も早い実現が望まれている、これは国民の大多数の支持を得ている
修正案を含めた四党共同提案となっていると、一エコノミストとして、一国民として理解しているところであります。
また、万一運用上などで不都合な点が生じた点は速やかに、四年後としておりますけれども、四年後には改善していく必要があることは、言うまでもありません。
このような勇気を持って、世界でもすばらしい
住環境をつくっていくという責務が、次の世代への責任も含めて、我々にはあるような気がいたすわけであります。その一つのきっかけが
定期借家権の創設であると考えているところであります。
以上、ありがとうございました。