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1999-11-24 第146回国会 衆議院 建設委員会 第6号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年十一月二十四日(水曜日)     午前九時三十分開議  出席委員    委員長 平田 米男君    理事 佐田玄一郎君 理事 佐藤 静雄君    理事 原田 義昭君 理事 宮路 和明君    理事 田中 慶秋君 理事 吉田 公一君    理事 井上 義久君 理事 青木 宏之君       加藤 卓二君    亀井 久興君       岸田 文雄君    小林 多門君       佐藤  勉君    桜田 義孝君       西川 公也君    野田 聖子君       蓮実  進君    林田  彪君       増田 敏男君    松本 和那君       樽床 伸二君    平野 博文君       前原 誠司君    渡辺  周君       久保 哲司君    西野  陽君       辻  第一君    中島 武敏君       中西 績介君    保坂 展人君     …………………………………    議員           保岡 興治君    建設大臣         中山 正暉君    国土政務次官       増田 敏男君    建設政務次官       加藤 卓二君    建設政務次官       岸田 文雄君    参考人    (法政大学社会学部教授) 福井 秀夫君    参考人    (日本大学経済学部教授) 田中 啓一君    参考人    (全国借地借家人組合連合    会会長)         酒井金太郎君    参考人    (弁護士)    (不動産鑑定士)     澤野 順彦君    建設委員会専門員     福田 秀文君     ————————————— 委員の異動 十一月二十四日  辞任         補欠選任   宮腰 光寛君     佐藤  勉君   長内 順一君     久保 哲司君   中西 績介君     保坂 展人君 同日  辞任         補欠選任   佐藤  勉君     宮腰 光寛君   久保 哲司君     長内 順一君   保坂 展人君     中西 績介君     ————————————— 本日の会議に付した案件  良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案保岡興治君外十名提出、第百四十五回国会衆法第三五号)     午前九時三十分開議      ————◇—————
  2. 平田米男

    平田委員長 これより会議を開きます。  第百四十五回国会保岡興治君外十名提出、良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案を議題といたします。  本日は、本案審査のため、参考人として、法政大学社会学部教授福井秀夫君、日本大学経済学部教授田中啓一君、全国借地借家人組合連合会会長酒井金太郎君及び弁護士不動産鑑定士澤野順彦君、以上四名の方々に御出席いただいております。  この際、参考人方々に一言ごあいさつ申し上げます。  本日は、大変御多用中のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。本案及び修正案につきまして、それぞれのお立場から忌憚のない御意見をお述べいただきたいと存じます。  議事順序でございますが、福井参考人田中参考人酒井参考人澤野参考人順序で御意見をそれぞれ十五分程度お述べいただき、その後、委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため参考人方々に申し上げますが、御発言の際にはその都度委員長の許可を得て御発言くださるようお願い申し上げます。また、参考人委員に対し質疑をすることはできないことになっておりますので、よろしくお願いを申し上げます。  それでは、福井参考人お願いをいたします。
  3. 福井秀夫

    福井参考人 福井でございます。  この場で意見を述べさせていただく機会をいただきましたことを光栄に存じます。  私は、法案に賛成いたします。  まず、大きな一点目でございますが、借地借家法のもたらしたものについてお話しいたします。  第一は、正当事由制度であります。  この制度がなければ借家の返還を求めることができないという条項は、一九四一年に戦時立法として、住宅の絶対的窮乏に対処するために導入されたものです。当初は、みずからや家族の居住老朽化は無条件正当事由であり、立ち退き料も一切不要でした。ところが、戦後、成長のもとで住宅事情が好転するにつれてかえってこれが強化されて、今や極端かつ不透明な解約制限立法として確立してしまっております。  第二は、継続賃料抑制主義であります。  賃料は、継続するごとに市場賃料よりも低く抑えられることが判例法上確立しています。借り手が自発的に退去しない限り、正当事由制度によりまして期間が超長期であり、抑制分家賃の現在価値合計額、すなわち、借り得分が借家権価格として発生いたします。これが相当の額に上ることを法と判例自身が保証しているわけであります。  第三に、特徴であります。  一つ目は、貸し手借り手事情を総合衡量するということ、二つ目は、客観基準が存在せず、事件ごとの裁判官の心証と世界観によって裁かれるのが実情であるということ、三つ目は、極端な額の立ち退き料を判例が認めるようになったことです。受け取り賃料合計額の数倍から数十倍の立ち退き料が一般化し、二百倍の例すらあります。もらった賃料から必要経費を差し引いた金額の一倍を超えるかもしれない金額を後で返さないといけないということがわかったら、最初から貸さなくなるだけのことであります。およそ経営を否定する常軌を逸した判例が集積し、常態化しました。  これに対して、開発利益があるから立ち退き料を支払えるのだとして正当化する議論がありますが、誤りです。予想が甘くて貸してしまった者にとっては、立ち退き訴訟の時点での立ち退き料の支払いセカンドベストになるだけのことです。ファーストベストは、予想を的確にして最初から貸さないままにしておくということにほかなりません。これは借り手利用機会がその分奪われることと等しいわけです。  また、和解では、千五百年分の家賃の立ち退き料を支払った例があります。このような算定に対処するためには、もし現在、今西暦二〇〇〇年ですが、今から貸し始めて、西暦三五〇〇年よりも、すなわち法隆寺よりも建物をさらに長持ちさせて、かつ、さらに、それまでの千五百年分の受け取り家賃を全部返してなお借家経営が成り立つように諸条件を設定しなければなりません。  四つ目は、日本借家法新規家賃を一切コントロールしていないため、自発的に退去する借家人は、どんなに弱者でも家賃規制や高額な立ち退き料の恩恵とは無縁であります。これに対して、一たん借家権が発生し、自発退去しない者は、どのように強者であろうとも強力な保護を受けることになる。こういうアンバランスがあります。入居保護必要性や真実の困窮度と現実の借家権保護とは何の関係もありません。最も公正から遠い制度と言わざるを得ません。  第四は、効果です。  日本正当事由制度導入以前は広い借家が多く流通して、夏目漱石森鴎外も生涯を借家で過ごしました。正当事由制度は、回転率が低く供給コストの高くなる広い借家市場から奪い去って、借家狭小化借家率の極端な低下をもたらしました。  日本持ち家平均面積は百二十二平米とアメリカを除く先進諸国よりも既に広く、ウサギ小屋とかつて非難されましたが、その状態を脱しております。これに対して、借家平均面積は四十五平米と、アメリカイギリスドイツフランスの三分の一から二分の一程度にとどまっています。民間借家に占める四十平米未満住宅は、日本四八%、ドイツ三%、フランス〇・六%と、日本に限って借家の極端な小規模化が進展していますが、この主要因を借家法以外に求めることができるという分析は一切ございません。  大きな二点目、諸外国借家制度です。  第一は、解約制限は例外であるということです。  全米の九九・二%の市町村ではそもそも正当事由制度は一切禁止されております。マサチューセッツ州では、ボストンを含む三市で残っていた正当事由制度が九四年に住民投票によって否決され、九七年以降、既存契約を含めてすべての借家について解約制限家賃規制を行うことが禁じられました。これはアメリカの趨勢であります。  イギリスでは、八八年に本法案とほぼ同様の選択的定期借家権導入され、九七年にかけて住宅ストックが約一〇%増加しています。現在の労働党政権も、定期借家制度には弊害がなく、有益なものとしてこれを堅持する旨明言しております。  第二は、貸し手事情だけで正当事由を判断するということです。  諸外国とも原則として、正当事由借家であっても、その判断の際、借り手病気失業などの事情を一切しんしゃくしてはならないこととされています。貸し手事情、例えば自分で使う、建てかえるなどという事情だけが考慮されます。さらに、フランスでは、第三者に転売するというのも正当事由です。日本のように、貸し手借り手両者事情を考慮するために事前の予測が不可能となるという国はほかには存在いたしません。  第三は、立ち退き料は非合法だということです。  諸外国とも、立ち退き料の支払い原則として非合法です。日本では、法にない立ち退き料の請求権を裁判所がつくり出してしまいました。正義をお金で買える唯一の国であります。  第四、悪徳家主報告はないということです。  アメリカイギリス定期借家は、居住用については多くは一年です。しかし、日本で取りざたされるように、家主家賃のつり上げや追い出しを図ることで借家人の地位が不安定になるということは報告されておりません。定期借家が定着しているために家主間の競争が激しく、家賃をきちんと払い、丁寧に使う借家人を追い出せば、悪評が立って借り手がいなくなる、そんな愚かな家主はいないというのが両国の政府担当者の見解です。日本でだけもし悪徳家主が頻発するとすれば、日本に限っては家主が格別に愚かであるという仮説が成り立たなければならないはずであります。  第五に、高齢者母子家庭入居差別はないということです。  定期借家の定着した英米では、高齢者などは静かで住居を丁寧に使うとしてむしろ歓迎される借家人であります。入居差別はございません。日本正当事由制度こそ、居住期間が長くなり、所得上昇期待が小さいと見込まれる高齢者などが入り口段階で差別されるという弱者差別の元凶にほかならないわけであります。  第六、行政庁審議会立法当事者ではないということです。  アメリカイギリスでは、立法立案も含めて議会が行います。日本の法務省に相当する組織立案に当たることは想定されていません。まして、人選の根拠議事録さえ公開されず、政治的責任を負わないにもかかわらず、白地から立法をゆだねられる日本法制審議会に当たるような組織はそもそも存在いたしません。  私の知る限り、本法案検討に当たっては、日本でも、各政党とも、提出資料審議内容とも公開し、透明で民主的な立法府主導検討が積み重ねられてきたと理解しております。敬意を表したいと思います。  第七に、家賃原則として市場並みであります。  アメリカイギリスとも、市場家賃家賃規制額は連動して、極端な格差はございません。アメリカで最も強力と言われるニューヨークでは、正当事由借家定期借家戸当たり月額家賃の差額は二十九ドル、三千数百円にすぎません。  第八に、日本は要するに極端ということであります。  世界に類例を見ない極端、不透明かつ不公正な借家制度を温存してきた国であることに疑いはありません。  大きな三点目、定期借家効果です。  第一に、借家人利益が増大します。  まず、空き家や遊休持ち家供給がふえて、次いで、郊外を中心に広目の借家新築が増大いたします。私どもの試算では、東京の通勤一時間圏内では定期借家導入で八・七%家賃が低下すると見込んでおります。  第二に、高齢者住宅が流動化します。  全国の六十五歳以上の夫婦または単身の世帯で百平米を超える住宅に現在百五十万世帯が住んでいらっしゃいます。借家法のために貸すに貸せず、無理をして不便を我慢しているわけです。アメリカイギリスでは資産形成した住宅定期借家で運用して、その収益でケアつき住宅費用を賄うというのが高齢者の極めて一般的なライフスタイルであります。  第三に、持ち家の売買が活性化します。  現在は、売りも買いも瞬間風速で行う必要があります。アメリカイギリスでは、売りのとき、市況がよくなるまで自分の家を定期借家で運用し、また、買いのときも試し入居をすることが非常に多く行われております。日本借家法持ち家取引コストをも極端に高めております。  第四に、土地利用のバリエーションが無数にふえるということです。  貸し家前提としたあらゆる利用を想定できるため、土地付加価値を競い合い、豊かで活力ある都市像がより身近なものになると思われます。  第五に、持ち家借家が相対化いたします。  これまでのように、借家は狭く安普請という類型化必然性は一切消滅します。建築ストックの質は向上して、質の高い賃貸住宅がさまざまな形態供給されます。共同住宅も分譲から賃貸に大きくシフトすると見込めます。賃貸共同住宅は、本来、震災による建てかえの困難やキャピタルロスローン破産とも無縁で、フレキシビリティーの高い居住形態です。  これらのメリットを奪ってきた借家法の足かせが外れることの意義ははかり知れません。  大きな四点目、日本病理現象あるいは反対論の破綻であります。  第一に、貸し金との違いです。  日本でも、貸し金については利子を安くしたり返済を先送りするという判決は出ません。借り手がどれほど病気失業で困窮していてもこの事情に変わりはないわけです。もし徳政令を出すなら貸し手がいなくなって金融秩序が崩壊するために、厳格に契約の履行を求めることが当然視されております。これに対して、借家では常に徳政令が発布され続けてきたために、賃貸市場が崩壊に瀕しています。両者を区別して借家法のみを正当化する論拠はあり得ないと思われます。  第二に、守られるのはだれかということです。  たまたま借家権が発生したら強者でも極端に守られる今の正当事由制度は、およそ正当たり得ない不公正なものであります。定期借家は、既得権に手をつけずに新たなメリット借り手にもたらします。中堅勤労者向け住宅予算に多くが割かれている公共財源を、困窮度に応じて弱者に手厚く分配していくことも可能になります。定期借家は、むしろ福祉施策充実前提条件であります。  第三に、定期借地支持論の矛盾です。  定期借家反対論者の方の多くは定期借地を礼賛していますが、矛盾しています。定期借地上の居住用建物は、五十年後に確実に取り壊されます。そこに借家人居住していてどのように住宅に困窮する事情があったとしても一切考慮されないのが、もう既に施行されている借地借家法前提であります。なぜ、五十年後の借家人は何の保護も受けずに更新の余地すら一切なく追い出してもよくて、数年後の借家人には事情を問わず極端な保護を強制しようとするのか、つじつまの合う説明を聞いたことがございません。  第四に、正当事由制度家主参入規制競争制限であるということです。  極端な借り手保護は、結局のところ貸し手間の競争を抑制します。貸し手競争が抑制されて価格、サービス、物件不足で最も不利益をこうむるのは、消費者である借家人であります。  第五に、先例を直視していただきたいということです。  定期借家の定着したアメリカイギリス、オーストラリア、シンガポール、香港などでは反対論の主張するような弊害は一切報告がございません。ほかの国でうまく動いている制度日本でだけうまく動かないと主張するのであれば、その論拠を示すべきでありますが、これまでにその試みが成功した例を承知していません。  一部では、イギリス定期借家家賃が上昇したから日本でも同じことが起きると主張する向きがありますが、根拠がありません。イギリスは、かつて新規契約家賃規制をしていました。その家賃規制を取り払うなら、その分だけ確実に家賃が上昇するのは余りにも当然であります。日本は、現在でも新規契約について家賃は全く自由であります。新規に限って定期借家選択できることとするならば、供給増家賃が低下しても上がることがあり得ないのもまた当然であります。制度前提の理解すら欠く粗雑な議論と言わざるを得ません。  六〇年代のドイツ定期借家導入で混乱が起こったという指摘も的外れであります。ドイツでは、新規のみならず既存正当事由借家も、強制的に本人の意思を無視して定期借家に切りかえております。家賃が上がって紛争がふえるのも余りにも当然であります。日本のこの法案前提と全く違います。  第六に、潜在的市民の声を吸い上げるべきであるということです。  普通の市民の声は薄く広がっておりまして、政治的にこれを結集するのは至難のわざであります。組織化された利益団体業界団体の要望や活動は、いわゆる世論とは多くの場合一致しないと考えるべきであります。陳情書の数や集会の回数とかかわりなく、普通の市民の普通の声なき声をきちんと思いやる感受性こそ政治立法に最も望まれることではないでしょうか。  五点目に、総括であります。  定期借家権は、民事法の基本に関して超党派で政策論が交わされて議員立法法案に結実した、日本法制史上初めての快挙であります。立法府立法を行うという、余りにも当然だけれどもこれまで困難であったプロセスの復権につながる試金石が今回の試みであると理解しております。  本法案は、現時点で考え得る最良の法案一つと理解しています。速やかに可決、成立、施行を行うことを、潜在的市民の声を代弁する立場から強くお願いしたいと思います。
  4. 平田米男

    平田委員長 ありがとうございました。  次に、田中参考人お願いいたします。
  5. 田中啓一

    田中参考人 田中でございます。  まず、このような機会をいただきましたことを心から感謝申し上げたいと思っております。  単に定期建物賃貸借を新設するという画期的なことのみならず、本案賃貸住宅政策全般についてを視座に入れており、また、賃借人賃貸人の間のバランスのとれた本法案を全般的には高く評価するものであります。  本法案につきましては、第一に、国と地方公共団体が良質な賃貸住宅などの供給促進に努める義務を明記しております。この点も評価したいと思っております。  また、期間終了後の日数にかかわらず、通知した日から六カ月が経過しなければ契約は終了しないこと、そして、定期借家権でも、居住用でも床面積が二百平米未満の場合には借り主のやむを得ない事情を認め、一カ月前の通知で途中解約ができるようにしたこと、この面積は六十坪に相当しますので、九〇%以上がこの恩恵を受けるものと考えられます。さらに、この規定に反する特約で建物賃借人に不利なものは無効として、賃借人保護を図っていること、そしてさらに、既存契約からの切りかえについては当分の間適用しないという厳しい条件が付されていることなどを内容とする本法案は、また、以下の点でも特徴が見られると評価しているところであります。  第一に、定期借家権創設によって、供給側賃貸人も、需要側賃借人選択の幅が拡大すること。これは国際化に対応するためには少なくとも最低の必要条件であり、少子高齢化を初めとする我が国の時代の変化住宅事情のニーズに合致していることが考えられるわけであります。  そしてさらに、質のよい賃貸住宅供給促進の有力な手段となり得ること。  さらに、本法案は第二条から第四条を初めとして借家人保護十分国地方公共団体の責務を明らかにしていること。  本法案実行可能性社会的合理性、公正、公平、経済効率などをあわせ持っているバランスのとれた法案であるということであります。  さらに、先ほど申しましたように、賃借人賃貸人側との妥当なバランスのとれた内容になっていること。さらに、グローバルスタンダードに合致した法案であるということであります。欧米では、先ほど福井先生からお話がありましたように、定期借家権導入する国が圧倒的多数であり、そのほとんどがプラス効果をもたらしているわけであります。  さらに、高齢者住宅利活用が可能となるということであります。これは、将来、リバースモーゲージ的な応用の可能性を秘めていると考えるところであります。  さらに、最近、地方の地域を含めて商店街空き店舗などが非常に大きな課題となっております。この際にも解消策として活用できるということが考えられるわけであります。  そしてさらに、定期借地権が既に導入されておりますが、これから定期借家権創設と相まって、良質な住環境を形成することに役立つと考えるわけでございます。  次に、以下では経済的側面から本法案を検証したいと思っております。  戦前は、御案内のとおり、民間人自分退職金借家経営をするというのが通常でありました。大体退職金で一戸ないし二戸を借家として提供するわけであります。この戸建ての平均値というのは、調べてみますと、大学卒初任給の大体一年、二年分で購入が可能でありました。しかし、これは課長クラスだったら十分に買えるわけであります。それでも、そういう人たち借家生活を楽しんだわけであります。供給が非常に多いため、競争原理によりまして、質のよい賃貸住宅が圧倒的に多かったわけであります。このため、新築の七、八割が借家であったわけであります。車を一台、大学初任給で買うのは大変でありましたけれども、住宅は買えたことが指摘されているわけであります。  これが一転してきましたのが、御案内のとおりの、昭和十六年の政治立法特殊事情のもとでの借地借家法正当事由が設置されたからでございます。この条項は、これまで否定することなく必要な要項であったと考えております。しかし、その後、役割が終わったにもかかわらず、それが残ってきた。そのために健全な賃貸市場を育成することができなかったと考えております。一世帯住宅が達成した昭和四十八年に定期借家権導入されていたならば、かなり日本賃貸市場も望ましい変化があったはずと考えておるところであります。  以下、経済的視点中心にして、数点についてさらにコメントを申し上げたいと思います。  定期借家権導入必要性についてでありますけれども、国民の多くが経済大国でありながら生活大国であるという認識が低いのは、大都市中心とした住環境、とりわけ借家水準が低レベルにとどまっていることが大きな理由であることは御案内のとおりであります。我が国住宅ストックの形成は、その後、終戦直後には四百二十万戸の住宅が不足していたところでありますけれども、今や六百万戸の住宅が余っております。全国ベースでは、全世帯数四千七十七万世帯のうち、実に三八・五%の千五百六十九万世帯借家世帯であります。京阪大都市圏では四六・四%が借家世帯であり、大都市圏ほど借家比率が高いのは御案内のとおりであります。  そして、借家平均床面積は、持ち家のそれの三分の一にとどまっており、ストックの半数が四〇%未満の非常に狭小な住宅であります。平均床面積欧米諸国と比較した場合、持ち家が百二十二平米とほぼ同水準以上になったのに対し、借家は四五%と著しく低水準にとどまっており、改善の見通しはなかなか立てられておらないわけであります。欧米では、借家持ち家との平均床面積比率はほぼ七割から八割でございます。これに対し、日本借家は、百二十平米以上という持ち家水準に達している借家はわずか一・三%でありまして、アメリカの同水準の四七・五%と比べると、持ち家賃貸住宅とでは大きな差が見られるわけであります。  さらに、全国ベースでは、借家世帯のうち約八割が誘導居住水準に達しておらず、しかも最低居住水準未満世帯のうち半数以上が民営借家住宅であり、その約三分の二は三大都市圏に集中しております。フーペイ・フーレシーブという見地からいえば、税の多くを負担している大都市住民の居住環境がいかに悪いか、このことが大都市住民の大きな不満の要因になっていると考えられるわけであります。  今後の住宅需要を考えてみますと、持ち家志向はこれまでと違いまして、将来への先行き不透明、そして資産デフレ傾向が続いているということもありまして、急速に低下しております。逆に、本格的な居住の場としての賃貸住宅ニーズの高まりが見られるのは皆様御案内のとおりであります。  一方、前述のように、床面積を初めとして賃貸住宅水準は低く、賃貸住宅居住者の住宅に対する不満率が高いのは、いろいろな統計からも明らかであります。このような強い不満を解消するためには、定期借家権導入されれば、まず第一に市場供給促進によって活性化され、良質で低廉な賃貸住宅に対する需要に十分こたえることが可能となることが考えられるわけであります。  さらに、現行の借家制度の問題点につきましては、正当事由による社会的公正を欠く強力な解約条件がいまだにとどまっている、残っているということであります。この制度は、先ほど申しましたように戦時下の異常時立法であり、地代家賃統制令の実効性を担保するために、御案内のとおり昭和十六年に導入されたものであります。ところが、同統制令が既に廃止され、しかも住宅が六百万戸も余った今日まで存続しているわけであります。このため、以下のような問題点が発生しているわけであります。  契約で定めた期間が満了しても、賃貸人正当事由が認められない場合は契約が更新されるため、契約時において契約期間の不確実性が存在すること。このことは、契約という法遵守を破り、このようなシステムは、世界の中、国際間でも通用しないと指摘されているところであります。  さらに、多額な立ち退き料の支払い条件とするケースが多々あり、契約時において事後的経済的負担の可能性が存在するわけであります。これは世界では見られない慣行であり、グローバルスタンダードの視点からは不合理であるという指摘が強いところであります。  さらに、この立ち退き料が相対的に高くなる条件の、質のよい住宅供給を避ける傾向がありまして、これがいまだに低水準賃貸住宅中心となっていることは、経済原理、市場メカニズムに対する当然の帰結でもあろうと思います。  さらに、供給促進、増大による家賃の低下が阻まれているという現実がございます。グローバルスタンダードの時代に合致しない、健全な投資が期待できないということも指摘されるわけであります。健全な自由競争による市場メカニズムが不可能な市場をあえて形成している側面があることは、否定できないと思います。  さらに、定期借家権創設の必要が問われている背景は、先ほど申しましたように、成熟社会への移行に伴い、そしてグローバルスタンダードが求められている中で、居住ニーズの多様化に応じた多様な選択肢の提供、そして良質な住宅供給する賃貸住宅市場や中古住宅市場の活性化が求められているわけであります。このような時代のニーズを背景にして、定期借家権創設が国民の大多数の支持を受けて、修正案を含めて四党によって提案されていると私は理解するところであります。  さらに、米国においてもREITというシステムが存在し、これは定期借家権前提としているわけでございます。賃貸住宅市場への多額な投資が行われ、これが結果的には良質な賃貸住宅の形成促進に役立っているわけであります。これを扱う企業の株価時価は今十五兆円と言われておりまして、これがアメリカ国民の資産形成に大きなプラスになっているということも指摘されているわけであります。  現在、外国定期借家権制度につきましては、イギリス、米国につきましてはただいま福井先生から御指摘がありましたので割愛したいと思っておりますが、ロシアはもちろんのこと、最近の中国も規制緩和と市場家賃導入を積極的に、持ち家に対する払い下げというようなこともありますし、また、市場家賃前提として値上げということも現実に行われている動向も我々は注視したいと考えているところであります。  そして、経済効果につきましては、いろいろな視点がございますけれども、まず、このような賃貸住宅経営における不確実性が正当事由の排除のためになくなってまいります。そのために規模の大きい良質な賃貸住宅の着工に結びつくのみならず、賃貸住宅市場自体が活性化し、内需拡大につながり、不動産の証券化が欧米と同様に可能となる。これによって、都心部の低未利用地が良質な賃貸住宅や商業ビル用地として利用促進され、不良債権処理や貴重な土地資源が有効利用されてくるということが考えられるわけであります。このような市場原理、供給促進競争ということによりまして、当然、需要供給原則から家賃も低下してくるということが十分に期待されるわけであります。  経企庁は過日、この定期借家権導入による経済効果は年間八千億円、二十年間で十六兆円に達するとしております。また、学者の一部では、その初期家賃は大体八・七%から一〇%近く低下するということを指摘しておりまして、供給促進効果によってマイナスとなるようなデータは私はほとんど関知しないところであります。  そしてまた、この定期借家権は、借り主に対しても大きなメリットをもたらすと考えられるわけであります。すなわち、賃貸人のみならず、借り主も次のようなメリットが生ずるわけであります。  良質な新築借家がふえるだけでなく、これは固定資産税によっての増大が非常に今活発になっておりまして、持ち主、地主あたりもこのような固定資産税のアップに伴いまして借家経営というのに積極的にならざるを得ないわけでございます。持ち家ストックのミスマッチの改善などによりまして、良質かつ多様な借家供給促進が期待できるということ。さらに、ニーズに応じた賃貸住宅選択肢の拡大が図られるということ。さらにまた、良質な住宅供給が、ただいま申しましたようないろいろな圧力によりまして、あるいは競争原理によりまして、市場家賃が低下するということが考えられるわけであります。この点は、マスコミなどの調査によっても明らかになっているところであります。  さらに、建物返還時期、収益見通し等の不確実性が欧米に見られるように改善されますので、これらの不確実性に対するリスクプレミアムのために相対的に家賃が低下し、さらに、現状ではまだ一般的になっております礼金、権利金等の一時金が不要になることが十分に期待できるわけでございます。これはまた、借家人に対してプラス効果になることは確実であろうと思います。  市場家賃の低下についての実現でございます。  定期借家権創設によって、契約期間の不確実性、収益見通しの不確実性、高額な立ち退き料などの将来的な経済負担の不確実性が、可能性が減少するために、この分のリスクが市場家賃に反映して低下することは、経済原理からいっても当然であろうと思います。  第二に、供給促進の圧力による低下。  さらに、先ほど申しましたように、礼金、権利金の一時金の不要に伴う低下。  さらにまた、既存のように、通常は二年契約が多いわけですが、五年、十年という長期契約も想定されるわけであります。これによって、家賃のディスカウントが市場原理からも当然に考えられるわけであります。この点につきましては、いろいろな調査からも明らかになっているところであろうと思います。  そして、不動産の証券化、流動化への効果についても期待できるのは、先ほども申し上げたところであります。この動向は世界の潮流であります。日本経済の再生と、国民の健全な資産形成にとっては不可避であるわけであります。これには定期借家権創設は、アメリカ同様に必要最低条件であるということも指摘できるわけであります。  住宅市場原理にゆだねる懸念についての指摘がございます。  これにつきましては、住宅の絶対不足や世界的視野からの判断の必要性、あるいはまた、地価の右肩上がりを前提とした正当事由の存在意義は大きな変革を余儀なくされていると考えられるわけであります。今や、質のよい住宅に住みたいという国民の多様な居住ニーズにこたえていくことが必要不可欠であり、そのためにも、定期借家権の一日も早い創設が望まれていると言っても過言ではないと思います。  このためには、セーフティーネットの整備等、必要な措置を講じた上で、自由な市場機能を活用することによって、世界の趨勢でもありますけれども、このような市場競争原理によって家賃や何かを下げていくという機能が期待されるわけであります。本法は、この点にも配慮しており、評価できると考えているところであります。  さらに、居住の安定にも、六カ月前の事前通知を前提としたり、定期借家権導入後も従来型の借家権を併存しており、借家人はその時々のみずからの住宅ニーズに応じて、市場において二つの制度選択でき、賃借人居住の安定性が担保されていると考えられるわけであります。  また、不当な家賃値上げの懸念につきましても、不当な家賃市場において淘汰されることが市場のメカニズムであり、それを国や自治体はこれまで以上に支援していく措置が必要であろうと考えます。  契約の拒絶による賃貸人の追い出し多発の懸念につきましても、非常識な家主は、市場原理によりまして当然のことながら賃貸空き家を抱えることになってしまいまして、市場において大きな制裁を受けることが必至であります。  このためにも、迅速かつ適正な家賃水準等の市場情報が得られるような情報提供サービスシステムを官民挙げてつくっていくということが、そのサポートシステムとして必要であろうと考えております。  以上により、定期借家権創設は、借家人にも十分配慮しており、一日も早い実現が望まれている、これは国民の大多数の支持を得ている修正案を含めた四党共同提案となっていると、一エコノミストとして、一国民として理解しているところであります。  また、万一運用上などで不都合な点が生じた点は速やかに、四年後としておりますけれども、四年後には改善していく必要があることは、言うまでもありません。  このような勇気を持って、世界でもすばらしい住環境をつくっていくという責務が、次の世代への責任も含めて、我々にはあるような気がいたすわけであります。その一つのきっかけが定期借家権創設であると考えているところであります。  以上、ありがとうございました。
  6. 平田米男

    平田委員長 ありがとうございました。  次に、酒井参考人お願いいたします。
  7. 酒井金太郎

    酒井参考人 全国借地借家人組合連合会会長の酒井でございます。  本日、こういう発言の機会をいただきまして、ありがたく、お礼を申し上げます。  私は、まず冒頭に申し上げておきたいのですが、この法案の根本的な欠陥でございます。これは、賃貸住宅供給促進ということは努力目標にしているだけであって、一方で、追い出される借家人立場を無視した冷酷な法案であるということを、まず冒頭に申し上げておきたいと思います。  したがって、私は、借地借家人立場から考えて、今回の法案の根本的なねらいが、借家人の住む権利を奪い、無条件で追い出すことにあるという点で、絶対に反対であることを表明いたします。  そこで、借家人の置かれている現在の実態と、この定期借家制度導入されると借家人がいかに悲惨な状態に陥るかということを明らかにしたいと思います。  第一に、圧倒的多数の借家人は、法的な知識が不十分なのが現状でございます。そのために、貸し主側からいろいろ請求をされたり、いろいろなことを言われますと、そのこと自体で心を痛め、非常に不安な状態に陥ります。例えば、家賃の値上げをしたい、あるいはそのほかいろいろ言われますが、そういうことを言われると、大体例外なくどうしたらいいかということがわからない状態に陥ってしまうというのが、現在の借家人の置かれている状況でございます。  第二に、家賃問題では、民間借家家賃が高いのです。この不況の中で、支払いが困難になっているのが現状でございます。企業のリストラで失業者が増大をし、そして、その影響で営業収入が極端に減ってきているという状態。さらに、年金収入だけに頼っている高齢者などは、家賃支払いに四苦八苦をしているというのが現在の姿でございます。  バブル崩壊後、新規契約家賃は下がりぎみではありますけれども、その以前のものについては、バブル当時に相当高い家賃を押しつけられています。その後も、上がることはあっても家賃は下がらない、こういうことがほとんどでございます。したがって、家賃を下げてほしいという要求が非常に強くなってきているというのが、今の借家人の置かれている実態でございます。  ほかに、家賃が払えなくなってやむなく滞納して、立ち退かざるを得ない事例もかなり出てきているのが現状でございます。  また、家主からの嫌がらせや横暴な請求に遭って、煩わしさから解放されたいばかりに、高い家賃を払うくらいなら、持ち家に希望を託す人もかなり出ております。その結果、悲惨なローン地獄に陥るという状況も珍しくありません。現に今、ローンの焦げつきが非常にふえているというのも事実でございます。  第三に、契約の更新のとき、例外なく家賃値上げと更新料を貸し主から請求されるということが慣例のように一般的になっておりますが、借り手の方は、困ったなというふうに思っても、もし断れば、立ち退けというふうに言われたり冷たく扱われる心配から、どうしたらよいか深刻に悩む借家人が多い。  現実に、区役所や市役所、あるいは消費生活センターなどの窓口に相談に行く借家人もかなりおります。そこでは多くの場合解決の糸口が見えずに、私たちの組合に回されてきているというのが実態でございます。中には、貸し主側から訴訟問題にされて、それから私たちの組合に深刻な表情で相談に来られる方がかなりあるということも事実でございます。  第四に、明け渡し問題の発生です。家主が建てかえを口実にしたものや地上げによる立ち退き問題が、東京、大阪を初め各地であらわれています。中には、マンションなどで、オーナーが融資を受けた建設資金の返済不能から建物が競売物件となって、借家人が追い出される事例がふえてきております。これらがほとんど訴訟問題になっていることが、多くの借家人にとって生活と営業の根拠を失う深刻な問題になってきております。  第五に、最近とみにふえ、全国的に広がっているのが、敷金が返ってこないという問題でございます。この問題は私たちの組合の中での相談で一番多くなっておりますが、ほとんどの借家人は、家賃を滞納していないのに、あるいは自分で部屋を傷めていないのに、敷金を返してくれないだけでなく、原状回復あるいはリフォーム代として敷金だけでは不足をするということで数十万円も追加の請求をされるという不当な事例が非常に多いということです。借家人にとって、敷金は移転するとき返ってくるものというふうに思っておりますが、それが返ってこないわけですから全く納得できない、こういう現状でございます。その他、権利金あるいは礼金、修繕問題など、借家人にとって余計な負担を強要されている。  またもう一つ、これは問題になりますが、契約時に連帯保証人、その保証人に印鑑証明を出させるというようなことが強要されて、新しく家を借りるにも借りられなくなってしまうということで立ち往生しているということが近年ふえているのが特徴でございます。これらが例外なく、不動産業者や管理会社が貸し主側の立場で介入をしてくる。そうしますと、借家人は必ずしも法的知識が十分でありません、極めて不足をしているということから、泣き寝入りせざるを得なくなってしまうという状況が生まれております。  このように、借家人は社会的弱者であり、住宅弱者でもあります。にもかかわらず、定期借家制度導入して、契約期限が来たら無条件で追い出すということは、余りにも弱い者をいじめると言わざるを得ません。借家人の生存と営業の権利を奪う、人権を侵害するものではないでしょうか。  次に、定期借家制度導入で一体借家人はどうなるのかということで、いろいろ危惧がございます。それを申し上げたいと思います。  第一に、定期借家制度によって、追い出される借家人は、次から次に移転を余儀なくされるということが当然出てまいります。したがって、住み続けること、あるいは業者は営業できなくなってしまうということが当然生まれてくるように思います。結果として、町に住宅難民がふえ、社会不安が広がってしまうということになりかねません。  事実、東京の足立のアパートに住む七十三歳の女性の高齢者でございますが、この人はこの間私の方の事務所に相談に来られました。それを聞きますと、四年間家賃を供託しているそうですが、今度定期借家制度国会で通ったらもう私は自殺をするしかない、こういうことを言って涙を流しておりました。こうした犠牲者が今後続くことが心配をされます。  また、自営業者の中には、商売ができなくなると深刻に悩んでいる人たちがかなりおります。特に、生鮮食料品を扱う商人の場合は、どんな店でもいいということにはならないのです。間口が南口では物が腐ってしまってこれは商売になりません。したがって、一定の規模の、しかも北向きの店舗でなければ商売はできないということでございますから、その辺も非常にこれから深刻な問題にならざるを得ない。法案内容を知れば知るほど、こういう人たちが広がっていくことは明らかではないでしょうか。  第二に、これまでの契約には適用しないとされていますが、平成十二年三月一日施行となれば、わずか三カ月か四カ月しかございません。周知徹底に不十分さが生じ、借家人が極めて不利な状況を押しつけられて、場合によってはトラブルが多発するということを私は懸念しております。  第三に、二百平米以上の住宅と営業用の建物は、いかなる事情があっても中途解約を認めない、残存期間家賃支払いを義務づけるというのは、余りにも貸し主側の利益を保障する一方で、借り手に過酷な負担を強要するということになりはしないか。したがって、何でこんな法律がつくられたのかという不満と怒りが大きく広がることは明らかでございましょう。  第四に、定期借家契約は、公正証書でなくても市販の契約書でも、契約期限、更新がないことを明記してあればよいということが明らかにされました。これは、この前の十九日のこの委員会の審議の中でそういうことになりましたが、法的知識に疎い借家人が多いことを考えると、家主にだまされて不利な結果を招くことが懸念をされます。したがって、厳正な規制が求められるというふうに思います。  第五に、定期借家制度導入は、民事の根幹にかかわる重大問題。国民にその内容を十分知らされないまま国会で短時間で決めるのでなく、慎重な審議をされるようにお願いいたしたいと思います。昨日、十二チャンネルで午後十一時から放映をされておりましたが、ちまたでマイクを向けますと、定期借家制度を知らない人が圧倒的に多い、そういうのが実態でございますから、なぜもっと事前に広く国民に知らせるという努力がなされなかったのか。なされないままで国会で短時間で決めるということについては非常に遺憾だというふうに私は思います。  第六に、法案の第一条から第四条までは、賃貸住宅供給促進する住宅政策の問題であります。第五条以下は、民事の基本にかかわる借地借家法改正です。これを一緒に扱うことは立法上整合性がないというふうに私は言わざるを得ない。賃貸住宅供給促進は、借家人の切実な要求でございます。安くて良質な公共賃貸住宅の大量供給が確実に実現をする、そういう方向で当委員会が審議し、決定すべきではないでしょうか。そして、第五条からの定期借家制度問題は、法務委員会で慎重審議すべきではないでしょうか。このことを強く要請をいたしたいと思います。これは冒頭に申し上げたことでございます。  第七に、十九日の委員会審議では、まだ解明すべき多くの問題があるように思います。十分審議を尽くしたとは考えられないことを指摘しておきたいというふうに思います。  第八に、施行日を平成十二年三月一日としたことは、周知徹底の期間が短過ぎて混乱が生じるということを私は指摘しておきたいというふうに思います。  最後になりますが、第九に、政府の規制緩和、土地の流動化、都市再開発を促進する政策上の観点から借家人を無条件で追い出す定期借家制度導入することには、一貫して借家人の生活と権利を守るために取り組んできた私たちは強く反対をいたします。  現実に、賃貸住宅の大量供給と言われても、政府のこれまでの住宅政策では公共賃貸住宅を縮小してくる政策がとられております。東京都は来年度の新規契約はゼロです。大阪も同じです。そういう状況の中で果たして大量供給に結びつくのかということを考えますと、そうは言えないということを、私は最後に申し上げて、私の意見といたします。  この法案の廃案を強く求めて、私の意見を終わります。
  8. 平田米男

    平田委員長 ありがとうございました。  次に、澤野参考人お願いいたします。
  9. 澤野順彦

    澤野参考人 澤野です。  私は、三十数年にわたって弁護士不動産鑑定士の実務に携わってまいりました。また、本日は本法案につきまして参考人として意見を述べる機会を与えてくださいまして、大変感謝しております。借地借家の実務に携わる者として、現場の声をきょうはお届けいたしたいと思います。  まず、本法案は大別して二つの部分から成っております。  一つは、良質な公共賃貸住宅や良質な借家供給促進するため、国及び地方公共団体に必要な措置をとるべき努力義務を課したことです。他の一つは、借地借家法の一部改正に当たる部分です。  前者につきましては、このような法律がなくとも国及び地方公共団体がみずから率先して行うべき責務と考えております。絵にかいたもちとならないよう、本国会でも強力に推進していただきたいと考えております。これに対し、借地借家法の一部改正、特に定期借家制度導入につきましては、非常に多くの問題点を含んでおり、国民のコンセンサスを得られない今日、かかる改正を行うことは極めて問題であると考えております。  そこで、以下におきまして幾つかの問題点を指摘させていただきたいと思います。  まず、定期借家制度導入促進に関する主張の問題点について四点ほど申し上げたいと思います。  まず一点目は、正当事由と立ち退き料に関してであります。現在の正当事由制度のもとでは借家の明け渡しに時間と金がかかる、このような制度のもとでは借家の明け渡しに高額な立ち退き料を支払わなければならない、このことが良質な賃貸住宅供給を阻害しているという議論があります。そこで、その供給促進するためには、正当事由制度を廃止して立ち退き料を支払わないで借家人を追い出す、そういう制度をつくるのが最善ではないかということになるわけです。  しかし、立ち退き料が本当に高いかどうかについては、一九八九年から九八年の十年間の判例集に登載された立ち退き料が問題となりました全判例、これは全国で七十六件ございますが、このうちで立ち退き料が認められたのは五十一件です。そのうち居住用借家は十九件、立ち退き料の平均は三百二十三万円です。  これが高いか安いかですが、居住の経過年数は平均して三十二年、それから家賃の平均は二万六千円、借家人の属性は高齢で病弱で貧困、普通、生活保護を受けた八十歳代のおじいさん、お年寄り、それで病院に通っているという方がほとんどです。他方、家主側の理由は、建てかえ、有効利用がほとんどです。これで立ち退き料が高いとは、決して私は思っておりません。  一般に立ち退き料が高かったと言われるケースは、バブル期において都心部のビル建設のために一部地上げ屋が札束で借家人を追い出したというような例外的なケースであると考えております。このような立ち退き料に関する悪いイメージというのは、借地借家関係の利害調整機能を果たしてきた立ち退き料の性格を誤解しているものと考えております。  それでは、定期借家になると立ち退き料支払いの慣行はなくなるかというと、正当事由を補強するという意味での立ち退き料は要らなくなります。しかし、造作の買い取りだとか裁判をしないで早期に明け渡してもらうとか、紛争解決のための和解金としての立ち退き料は今後もなくならないと思います。むしろ、定期借家となった場合、契約の終了、明け渡しをめぐって今以上紛争が多くなることも予想されますので、立ち退き料の慣行は別の意味で展開すると思われます。  これに関連して、定期借家期間満了時の紛争を減少させるかという問題があります。期間満了により契約は確定的に終了するので、正当事由をめぐる紛争はなくなります。したがって、借家に関する紛争も相対的に減少するとも思われます。しかし、私は逆に定期借家では契約終了時の紛争は多くなるのではないか、そのように危惧をしております。  第二の問題は、良質の賃貸住宅供給促進についてであります。  法案は、良質な賃貸住宅供給促進するため定期借家制度導入すると言っております。良質な賃貸住宅とはどのような住宅をいうのか必ずしも明らかではありませんが、定期借家導入により良質な賃貸住宅供給促進されるとは、少なくとも私の経験則上は考えられません。良質な賃貸住宅供給促進定期借家制度導入との間には何ら論理必然性はないと考えております。  すなわち、定期借家は一般的には借家人にとって不利な契約です。もし定期借家で借りるとしても、よほど家賃が安く、権利金、礼金が要らない、また間取りも広いというようなものでないと、わざわざ借家人定期借家として借りることはしないと思います。また、定期借家制度ができますと、恐らく借家人は団結して定期借家の不借運動、不買運動ではありませんが、そういう定期借家は借りないようにしましょうという運動を起こすかもしれません。家主はこんな割の悪い借家供給することは一般的にはしないと思います。もっとも、この法律に基づいて国や地方公共団体が、家賃が安く規模の大きい住宅定期借家で大量に供給するというのであれば話は別だと思います。  三つ目の問題ですが、定期借家制度導入と国の政策上の位置づけの問題です。  今回の定期借家制度導入は、景気対策、不動産関連産業の活性化を意図したものであることは衆目の一致するところと思います。しかし、住宅、特に借家は、一般の庶民や零細な中小企業にとって、生活し、生きていくための最も重要な基盤の一つであることは言うまでもありません。すなわち、住宅は憲法二十五条が規定する生存権の保障が端的に妥当する領域です。  高齢化社会を迎えると同時にリストラが進行する今日の経済社会にあって、経済対策のみに目を奪われたような借地借家法の改正、改悪ですけれども、これは断固として阻止しなければならないと思っております。このような改正が行われますと、我が国住宅政策史上に汚点を残すことになるのではないかというふうにも考えております。  四つ目の問題ですが、国民のコンセンサスが得られているかどうかです。  今回の定期借家制度導入について、既に国民の間で十分論議され、そのコンセンサスを得たと理解をされている方たちも少なくないように思います。ただ、これは全くの事実に反する誤解と考えております。  私の友人の弁護士、裁判官、全国大学に勤務する民法学者、法学部の学生、さらには不動産業界の人々など、少なくとも借地借家法の改正に興味を持っている人たちでさえ、今回の法案内容はほとんど知りません。恐らく多くの国会議員の先生方も同様ではないかと思います。参考人として発言の機会を与えられた私でさえ、公式的には、今回の呼び出し状をいただいた数日前に初めて法案を拝見した次第です。  このように、国民の生活に重大な影響を及ぼす法律案の審議に当たっては、その内容を国民に周知徹底し、十分論議を尽くすべきと考えております。  この法案に反対しているのは一部の人々とか団体に限られているというようなことも言われているようですが、その認識も私は間違っているのではないかと思います。恐らく、民法学者、弁護士の多くは反対の立場をとると思われます。また、何よりも、千五百七十万世帯居住用借家人、一世帯三人とすれば四、五千万人の人たちがこの法案に反対しているということを肝に銘ずべきだと思います。  次に、法案の各条の問題点について幾つか申し上げたいと思います。特に、借地借家法三十八条の改正部分でございます。  まず、契約時の問題です。法案の建前は、契約自由の原則をもとに、定期借家も普通借家も自由に選択できることになっております。しかし現実には、借りる側にとって選択の自由はないと思います。なぜなら、家主定期借家の申し出に対し、借りる側が普通借家の申し入れをしても断られるだけだからです。  また法案は、定期借家契約は、更新がなく、期間の満了により契約は終了する旨記載した書面を交付して説明しないときは、契約の更新がないこととする旨の定めは無効とすると規定しております。  しかし、まず一つ目、今日の借家契約のほとんどは宅建業者を通じて契約書が作成されております。書面によるという規定は、定期借家の要件というよりも、単なる確認規定にすぎないと思います。  また、説明義務を課しておりますが、説明自体は、通常、契約書を朗読するということで終わってしまいます。これで説明義務が果たされるとすれば、更新がないということの意味を正しく理解できる国民は少ないのではないかと思います。ましてや、定期借家契約の締結に際し、家主から、何もなければ引き続きお貸ししますよなどという再契約可能性を示唆することもありましょう。そうすると、後日、本当に定期借家契約を結んだかどうかの問題が起き、少なくとも契約終了時に紛争の種が残ることになります。  次に、中途解約に関する問題です。中途解約で最も重要かつ看過できない問題は、営業用借家人に中途解約権が保障されていないことです。居住用借家については一定の要件のもとに中途解約権が認められていますが、営業用借家についてはそのような規定はありません。もしこのまま法案が通過すると、営業用借家人は極めて大きな不安にさらされることになります。  すなわち、本法案では、営業用借家については、既存借家であっても合意解約して定期借家とすることは禁止されておりません。他方、途中で経営が思わしくなくなった場合でも、営業用借家の場合には中途解約することができないわけです。  このことは、居住用の場合、定期借家であるゆえに中途解約権が保障されたのと比べ、バランスが失しているように思います。我が国の営業用借家の多くは零細な中小企業や小売店舗などであることを考えますと、営業用借家についても、一定の理由がある場合には中途解約を認める旨の規定を設けるべきだと思います。このことが、昨今政府の経済対策で言われている中小企業に対する思いやりのある施策でもあると考えております。  次に、期間満了時における問題です。これは三点ございます。  一つは、法案は、期間満了に当たり、終了の通知さえすれば、借家人にどのような事情があっても、また、家主側において契約を終了させる何らの理由がなくても、契約は確定的に終了するとしています。  しかし、例えば生活保護を受けている身寄りのないお年寄りが借家している場合に、家主に特段の必要がないのにかかわらず、期間の満了したことのみを理由として明け渡しを求めることは、恐らく権利の乱用として許されないと思います。そうかといって、これらの住宅弱者が容易に公共住宅、福祉住宅によって救済されるとは考えられません。仮にそのような住宅に救済することが可能であっても、借家人の意思に反してまで収容されるべきではないと思います。高齢者等の住宅弱者は近隣の人々の支えがあって初めて人間的な暮らしができるのであって、これらの人々を強制的に社会から隔離するような政策は、近代国家としてはとるべきではないと思います。  要するに、定期借家であっても、特別の事情がある場合には解約の制限をするという条項を設けるべきだと思います、これは正当事由とは異なりますが。これが世界住宅法制の趨勢だと思います。  契約終了時の二つ目の問題です。  これは修正案の方ですが、三十八条四項ただし書きの規定の趣旨があいまいだということです。定期借家契約は、期間満了の一年前から六カ月前までに賃貸借が終了する旨の通知をしたときに、借家人契約の終了をもって対抗できるとしています。そして、この通知期間が過ぎても、家主賃貸借終了の通知をすれば、その通知の日から六カ月を経過した後は定期借家の終了を借家人に主張できるとされています。  問題は、この通知期間の経過後の通知はいつまですればよいかについて期間の限定がないことです。例えば、極端に言えば、定期借家期間が満了後も再契約をしないで家賃だけ受け取って、明け渡しをしてもらいたいときは、六カ月前に通知をすればいつでも、例えば十年先でも契約が終了するということになります。  この解釈はいかにも不当です。期間満了までに通知がないときは普通借家となると解することもできますが、そのように解釈して絶対に問題はないとまで言い切れません。その点で、余計な紛争の種を残すという点では、この部分については立法上の欠陥だと考えております。  次に、契約終了時の三つ目の問題であります。  これは再契約のことです。定期借家契約を結んでも、期間満了後明け渡しを要求するのは極めてまれではないかと思います。ほとんどは再契約を結ぶか、契約更改の手続をとらないで、従来どおり賃料を受け取っているというケースが多いのではないかと思います。  問題は、再契約に当たって、家主借家人に酷な条件で、例えば非常に高額な賃料を要求するなど、再契約を要求し、借家人は立ち退くわけにもいかず、やむを得ずこれに応じなければならない場合です。当初の契約設定時の契約条件については基本的に当事者の自由にゆだねてよいと思いますが、再契約契約条件については、ある程度の制限を付すべきと考えております。  最後に、既存借家に対する適用関係です。居住用、営業用を問わず、定期借家への変更は認めるべきではないと考えております。  附則五条に居住用借家については四年後に見直すという規定が入っておりますが、この規定は、当然削除されるべきと考えております。もっとも、平成三年の借地借家法の制定に当たって、既存の借地を定期借地に改めることを禁止するという規定はありませんでしたけれども、その後のいろいろな解釈、借地人の知恵で、そのようなケースはほとんどなかったようですから、定期借家についても心配することはないとも思います。  このようないろいろな問題がございますので、十分御審議の上、慎重な御検討をいただきたいと思います。  以上です。
  10. 平田米男

    平田委員長 ありがとうございました。  以上で参考人意見の開陳は終わりました。     —————————————
  11. 平田米男

    平田委員長 これより参考人に対する質疑に入ります。  本案及び修正案を一括して質疑を行います。  質疑の申し出がありますので、順次これを許します。佐藤静雄君。
  12. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 自民党の佐藤静雄です。  きょうは、参考人の先生方、本当にお忙しい中をありがとうございました。  時間がございませんから、簡単にお伺いしたいと思っています。  今度のこの良質な賃貸住宅等供給促進ということで、現在の借地借家法では時代に合った借家住宅がなかなか供給できない、そのために、何とかして多くの皆さんの期待にこたえられるような住宅をつくっていきたい、そんなことも一つの大きな理由であります。  最初澤野参考人にお聞きしたいと思いますけれども、もしも澤野参考人賃貸住宅経営者だとしましたら、現在の法律の中での方がかえって貸しやすい、貸す気になれる、それとも、我々が今つくろうとしている新しい定期借家法のもとではかえって貸しやすい、どっちが経営者としてやりやすいでしょうか。もしも今御自分経営者だとしたら、ちょっとお考えをお聞かせいただきたいと思います。
  13. 澤野順彦

    澤野参考人 私も、家主側からの代理人として対応するときもございますので、貸し主の立場としてお答えしますと、定期借家で完全に借家人がたくさん借りてくれるという状況があり、かつ家賃がそれほど下がらなくても済むという状況ができれば、定期借家でもやりたいとは思っております。ただ、そういうふうになるかどうか、ちょっと今のところはわかりません。
  14. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 やはり経営者というのは、よい借り手がいるならばどんどん貸したいわけですね。たくさんのお金を入れていいものをつくるわけですから、ますますこれからは私たちもそういうことを期待してこの法律をつくっているわけですね。日本は狭くて古い貸し家が非常に多いわけでありますから、やはり時代にこたえて、もう少し広い、家族でも住める、そういうところをひとつぜひとも供給してほしいものだ、そういうことで私たちは期待をしているわけです。  しかし、今借りている方々に迷惑がかからないように今の借地借家法も残しながら進めようとしているわけでありますけれども、経営者というのは、今積極的によい住宅供給してほしい、そしてよいものに住んでほしい、そういう気持ちでもってやってほしいということでありますから、多分、現在の方がなかなか貸しにくい面があるわけでありますから、澤野参考人がもしも貸し手だとしましたら、定期借家制度の方が絶対に貸し手としてはよいものを供給できるんじゃないかと私は思います。  それはそれとしまして、福井参考人にお伺いしたいと思いますけれども、特定の理由については解約を制限すべきであるという御意見もありますけれども、それについて福井参考人はどういう見解をお持ちでございますか。これはほかの参考人の方がおっしゃった意見でありますけれども、それについて福井参考人はどういうお考えでございますか。
  15. 福井秀夫

    福井参考人 一切そのようなことをなすべきではないと思います。貸し手必要性とか借り手の落ち度とか、いろいろ個別判断はあり得るわけですが、それを事後的な司法判断にゆだねて、あらかじめ当事者が行った意思を事後的にほごにするという発想自体が法治主義的精神に反すると思います。
  16. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 もう一つ、一定面積以下を定期借家から除外すべきだという御意見もありました。この意見も前回の委員会のときに随分出されたんです。私たちは、そうすることは今度の新しい定期借家制度をつくる意味の根幹を揺るがすものですからそれはまずいと思っているのでありますけれども、意見も随分ありましたけれども、福井参考人、この見解はいかがですか。
  17. 福井秀夫

    福井参考人 おっしゃるとおり、小規模住宅を適用除外するといった限定は一切行うべきではないと思います。なぜならば、ある規模以上のものすべてに借家法供給抑制が及んでいて、それ未満は一切影響がないというように截然と効果が分かれるような性質のものではありません。一定程度、もちろん小規模なものほど供給抑制の程度は小さいということは実証されておりますけれども、すべてに悪影響が及んでいる以上、ゆがみを完全に取るのが筋であります。  また、小規模なものを適用除外すると、そういった物件がかえって少なくなる。小規模なものほど母子家庭高齢者や社会的な弱者の方が住んでいらっしゃいますが、彼らのための住宅が世の中からなくなって家賃が高どまりする、このようなばかげたことを行う必要性は一切ないと思います。
  18. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 非常に明快に福井参考人におっしゃっていただきまして、私も全くそうだと思います。  それと、私は、この間の委員会でいろいろな意見が出たことを一つお伺いしたいんですけれども、定期借家権導入居住権の侵害になるという御意見もあったのでございますけれども、これについていかがですか。
  19. 福井秀夫

    福井参考人 居住権の侵害は、通常、公法上の概念では、財産権を侵害する、例えば憲法二十九条に財産権の保障がありますが、正当な保障なくして居住権を剥奪する、侵害する、こういった場合には居住権の侵害の概念に該当するかと存じますが、定期借家という当事者の意思を前提とした新たな選択肢を導入するという法制度居住権の侵害に該当するという議論は私は聞いたことがございませんし、成り立ちようがない見解だと思います。
  20. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 先ほど外国の例も福井参考人から御説明をいただきましたけれども、これもやはり委員会意見があったんですけれども、外国でも定期借家制の導入で混乱が生じた事例がある、そんな御意見もありました。  そこで、外国制度日本制度を比べまして、もう少しわかりやすく、なぜ混乱が生じたのか、日本では混乱が生じない、その辺をひとつお聞かせいただきたいと思います。
  21. 福井秀夫

    福井参考人 私も外国で混乱が生じたという見解は承知しておりますが、一つイギリスの例であります。ある論者によりますと、イギリスでは、一九八八年の選択的定期借家権導入した後、家賃が上昇したりあるいは家賃補助額が増大した、だから日本でも同様の混乱が起こるだろうからやるべきではない、こういう議論があるのは承知しております。しかし、この見解は誤りだと思います。  なぜならば、イギリスでは、一九八八年以前は、日本と異なり、新規契約についても既存契約についても同様に家賃規制、レントコントロールを行っておりました。ところが、八八年の定期借家導入によって、定期借家権については家賃規制を撤廃して、完全に市場家賃での自由契約という制度にいたしましたので、今まで人為的に法令で抑制されていた家賃定期借家の部分が自由になったことによって市場家賃に復活するというのは余りにも当然のことであります。  これに対して、日本では、現在の法案は、新規家賃については従来同様、市場家賃であります。すなわち、従来の、現在の借地借家法でも新規については市場家賃でありますし、今度の法案定期借家権導入されれば、新規定期借家権部分について少なくとも供給がふえる方向に行くわけですから、下がることはあっても上がることはない、このように考えます。  イギリスの場合、家賃補助額が増大したという議論もありますが、イギリスではむしろ公営住宅の直接供給から家賃補助へのシフトが行われてきたわけであります。家賃補助額は趨勢的にむしろそれを意図してふやす方向にあった。しかも、今申し上げたような事情で、新規についての家賃規制の人為的なものが取り払われた、こういう事情があるわけですから、金額が増大するのもある意味では当然、日本ではそのような事情は当てはまりようがないということでございます。  もう一つドイツの例がございますが、ドイツで一九六〇年代に定期借家権導入して、紛争が多発したり家賃が上がったり大混乱があったという指摘があるのは承知しておりますが、これも間違いだと思います。日本でそれを適用するのは間違いだと思います。  なぜならば、ドイツの六〇年代の定期借家権導入は、現在審議されております法案前提と全く異なり、既存契約についても本人の意思に反して強制的に定期借家に切りかえたわけであります。これで紛争が生じなかったり、家賃が上がらない方が不思議であります。日本は、その点は完全に既存のものについては現状秩序どおりということでありますので、全く前提が異なると思います。
  22. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 先ほど参考人の御意見をずっと聞いていますと、今度の定期借家法が成立するとたくさんの弊害が想定されるといういろいろな御意見がございましたけれども、その弊害が想定されることも考え、私たちも、この法案は現在の借り手方々を守るためにもいろいろなことを考えてやっているわけであります。  福井参考人、そういうような御意見に対して、先ほどたくさん御意見が出ましたけれども、現在、定期借家法においてもどういう弊害が想定されるのか、その辺をお聞かせいただきたいと思います。
  23. 福井秀夫

    福井参考人 現在の定期借家法によって、現在、例えば社会的弱者であられる借家人の方が何かお困りになることが生じるというようなことは一切想定できません。あくまでも今回の法案は、新規の追加的選択肢を拡大する、しかも当事者の完全な合意が前提となっており、そのための法案上の数々の工夫も凝らされておりまして、新たな弱者が発生するという見解は私には全く理解できません。  ただ、一点申し上げますと、解約権の話が先ほど来御議論もありましたが、中途解約権については、むしろ私は、法案の改善事項として将来の課題ではありますけれども、中途解約権がないような特約も、居住用についても認めるべきだと考えています。  その理由は、アメリカイギリスでは、居住用のREIT、これもお話がございましたが、不動産証券化などに当たって、長期で解約ができないかわりに総額の家賃を大幅にディスカウントするという契約が、借り手貸し手双方に利益のある契約としてかなり活用されております。これはむしろ借り手選択肢を制限するものでありますので、将来の見直しの一つの課題だと考えます。
  24. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 最後に、この施行期日を今私たちは十二年の三月一日からいたしたいと考えています。と申しますのは、三月、四月というのは非常に転勤も多いですし、新しく契約を結ぶ方もたくさんおるわけでありますから、できるだけ早くしていきたいと思っており、そういった方々に対しまして期待にこたえていきたいと思っておるわけでありますけれども、それでは早過ぎるのではないのか、極めて不当なものだ、一年後にすべきだという御意見もありますけれども、福井先生はどういうお考えでおられますか。
  25. 福井秀夫

    福井参考人 私は、来年三月一日施行は極めて妥当だと考えます。その理由は、三月、四月というのは転勤や引っ越し、あるいは事務所移転のピークを迎える年間のシーズンであります。このような時期に定期借家権導入されることは、引っ越される方にとっても極めてメリットがございます。  それから、これで何かデメリットがあるかということでございますが、定期借家権というのは基本的な要素は二つしかございません。期間家賃でございます。このような単純な事項について、三カ月かかってもまだわからないというような方が日本国民にいらっしゃると私には想定できません。しかも新規でございますので、全く既得権に影響しない。こういうことでございますので、三月一日の施行で何か支障が生じるということは一切想定できないと思います。
  26. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 終わります。
  27. 平田米男

  28. 田中慶秋

    田中(慶)委員 私は、民主党の立場から参考人の皆さん方にそれぞれ質問をさせていただきたいと思います。その前に、参考人の皆さん方については大変お忙しいところ、この法案のより内容のこれから最終段階に入る前に皆さん方の御意見を聞く機会を、出席していただきましてありがとうございました。  そこで、まず最初田中参考人に質問をさせていただきたいと存じます。  確かに、今時代は少子高齢化、こういう時代で、特に借家人の皆さん方がこれからのいろいろな生活不安等々があるということをよく言われますけれども、全体の収入と家賃バランスの問題等々においてでありますが、先ほど先生は、この家賃の動向、そしてこの法案導入されることによって、やがては家賃のディスカウントにつながるのではないかという趣旨の御説明をいただいたような気がしますが、その辺をもう少しわかりやすく説明していただけませんか。
  29. 田中啓一

    田中参考人 まず、供給促進が当然のことながら行われるということであります。そしてまた、選択の余地が、既存のものと新規導入されるというものがあります。そして、もう一つの背景としましては、やはり今固定資産税の問題が、御案内のとおり非常に自治体の中の、今市町村税で考えますと十七、八の税があると思いますが、これまで高度成長期までは住民税が一番多くの税収を得たところでありますけれども、最近では押しなべて、全都道府県と言ってもいいと思いますが、固定資産税のウエートが非常に上がってきております。いわば地価が下がりながらも重課の方向にあるわけでありまして、大体固定資産税と都市計画税を入れますと、半分以上が自治体の収入になっている。極端な場合、この関東圏の中では六三%という市もございます。  こういうような中で、当然にそれは今後の状況から考えますと、私は、どんどん固定資産税のウエートが残念ながらといいましょうか、高まっていかざるを得ないような財政的な視点の背景があるような感じがいたします。アングロサクソン税制みたいにストック課税が日本の場合に余り望ましくないと、私個人的には財政学の立場からは考えるところでありますが、そういう方向に行って供給促進という、借家人あるいは地主の方は何らかの形で選択利用を図らざるを得ないということになって、その一つ定期借家権導入しながら供給していこうという考えに相当強くなってくると考えております。
  30. 田中慶秋

    田中(慶)委員 そこで、酒井参考人にお伺いいたしますが、先ほどの御説明の中で、この法案導入されることによって借家人の不利益になる、あるいは、民間の家賃が高い上においてさらにこの今度の法案は、それらについて借家人立場からするとこの法案はある面では決して有利な法案ではないという意味のお話をされておりますけれども、その辺について、需要と供給の問題や、あるいはまた今の住環境既存人たちはこの対応をされていないわけでありますから、新しく契約をされる人たちのことも考えながら、先生が言われたことが若干、民間の家賃も高い、その他のことも含めながらでありますけれども、その理由をもう少し詳しく説明していただけませんか。
  31. 酒井金太郎

    酒井参考人 まず第一に、既存契約に適用しないというふうに言われましても、現在の借家人の置かれている状況からしますと、今度の定期借家制度導入されることによって貸し主側の力が非常に大きくなってくる、つまり貸し手市場になってしまうということを一つ懸念をしております。そうすると、貸し主の方の側からすれば、仮に今度は、つまり定期借家制度導入する方向での契約書を提示されたときに、借家人がどれだけ知っていてこれが拒否できるかということになりますと、もし拒否した場合に、非常に不都合な事態が起きるということを借家人人たちは心配をいたします。  したがって、もし仮にこのまま、そうじゃなくて従来の契約のままでいきたいというふうに思っても、家主さんの方から今の契約の更新の時期ですね、今現在二年契約ですが、不思議なことに、契約の更新のときに家賃の値上げと更新料請求が出てくるというのが今の通例なんです。だから、家主立場が強くなれば、当然そこで値上げ問題が出てきたり、更新料請求が出てくる。そしてそれになかなか拒否できない。こういう弱い借家人方々が、法律知識が非常に薄いためにそういう状況が生まれてくるということになりますので、むしろ定期借家制度導入されることによって、いつその方向に自分たちが、何といいますか、押しつけられるかわからないということも伴って、非常に困難な心配事が非常にふえるということになるという意味で、私は借家人が非常に不利益な状態に陥れられるというふうに思っております。
  32. 田中慶秋

    田中(慶)委員 福井先生にお伺いしますが、この法案借家人の皆さんが不利益をこうむる、あるいはまたこの制度が、先ほどの説明の中で、欠陥が多い法律だという趣旨のお話が参考人の中から出ておりますけれども、先生が述べられているような形の中で、もしこの法案の中で欠陥だとするならば、どの部分が欠陥ですか。
  33. 福井秀夫

    福井参考人 私は、基本的には考え得る最良の案であると考えていることは先ほども申し上げましたが、一点だけ、これも先ほど申し上げましたように、中途解約権の問題でございます。これはむしろ借家人利益を損なう。一カ月前に一定の事情があれば事後的に当然解約できるというのは、むしろ、借家人が長期借りるかわりにディスカウントを受ける権利を奪われることになりますので、この点だけは将来の重要な改善事項の一つだと思います。あとはすべて考え得る最良の案だと考えます。
  34. 田中慶秋

    田中(慶)委員 澤野先生にお伺いいたしますけれども、日本の現状を外国から見たときに、賃貸住宅そのものが、ある面ではウサギ小屋とかいろいろなことを言われて、環境も悪いと言われているわけですけれども、今度の法案でより良質な賃貸住宅促進するという前提からこれらの問題を考えたときに、ウサギ小屋とかあるいはまた劣悪な環境だと言われている現の住宅環境、これを、この法案によって一歩でも二歩でも改善の方向を見出すことはできないかどうか。  私は、何か先生の先ほどの説明では制度の欠陥が指摘をされたように伺っておりますので、むしろ、欠陥ということもあるかもわかりませんけれども、この法案のある面では評価できるようなところがあるとすれば、先生の考え方をお聞かせいただきたいと思います。
  35. 澤野順彦

    澤野参考人 私個人としましても、良質な賃貸住宅供給促進されることについては大賛成です。  この法案の中にもありますように、賃貸住宅について、品質の保証だとかそういう制度づけをしようという意図が見えております。ただ、法律に書いてありましても、そのとおり各省庁が実行していただけるかどうかわかりませんが、その点の賃貸住宅、例えば定期借家の場合にはせめてこのぐらいの品質は確保してほしいというような指導が徹底できれば、供給促進によって賃料も安くて広い良質な住宅が多くなると思います。  外国の例を申すまでもなく、日本外国はいろいろ自然環境とか違いますから一概に申し上げられませんけれども、日本日本なりに、現在よりもよりよい賃貸住宅供給促進されることは大賛成です。ただ、今回の法案最初制度的な保障のあたりが十分今後確保されることを期待するほかないと思います。
  36. 田中慶秋

    田中(慶)委員 田中参考人にお伺いしますが、実は今度の法案の中で、ディスカウントを含めて、私は、一番懸念をされるのは、高齢化社会におけるこれからの住宅のあり方だと思うんです。高齢化社会における住宅のあり方は、すなわちこの対象になる人たちは、収入その他のことを考えてみますと、収入がふえるということは予想されないわけでありますから、むしろ住宅費の割合がだんだんふえてくる。  こういうことを考えたときに、良質なりこういうことは担保されることはいいわけですけれども、ディスカウントという話をお聞きしましたけれども、むしろ家賃そのもの、市場そのものが、新しい住宅、新たに契約される住環境のいいところになると家賃が上がってくる可能性が、今までの日本の現状からすると大体そういう方向が多かったわけですけれども、家賃がディスカウントということは、ディスカウントをキープできるのかどうかということを含めて、先生の考え方をお伺いしたいと思います。
  37. 田中啓一

    田中参考人 先ほど澤野参考人がおっしゃったように、定期借家権導入に伴いましては、二条から四条のところをぜひ推進していただきたいということであろうと思います。  それと、住宅に対する助成というものが今のところ非常に我が国はおくれているという感じがいたします。特に高齢者に対する対応というのがおくれているような感じがいたしますので、その辺は、今、公営住宅関係でもいろいろな御努力をされているということもよく存じておりますけれども、さらに一層の充実が必要になってくるという感じがいたします。  とりわけ、大都市の住民の皆さんが一番、これまで働いて、先ほどもフーペイ・フーレシーブと申し上げましたけれども、そういう段階があるわけでございますので、その還元といいましょうか、財政支出の点でも、とりわけ大都市における高齢者所得の、特に賃貸に限らないわけですけれども、持ち家方々もローンの問題を非常に抱えているわけでございます。そういう点から、日本経済の再興、再生が何よりも望まれることは大前提でございますが、それと同時に、今申し上げましたような点。  あるいはまた、持ち家をうまく使うような、持ち家に限りますと、リバースモーゲージというような制度もこれから積極的にお考えいただきたいと思いますし、今のような賃貸住宅に対しては、公営住宅の充実を図ると同時に、民営借家の質のレベルを改善するためにそういうような助成ということも、今までどちらかというと地方に行っていた財源をこういうようなところに積極的に投入していくという、財政配分の点にも御配慮をいただきたいということを希望いたしております。  そしてまた、税制の場合でも、高齢者の場合には、アメリカのように、サーキットブレーカーといって、高齢者住宅に対しては非常に固定資産税を初め低減するというシステムの導入も同時に考える必要があるかと思います。そういうようなシステムをつくりながら、バリアフリー、安心、安全な高齢者の皆様が住める町をつくっていただきたいという考え方を持っております。
  38. 田中慶秋

    田中(慶)委員 終わります。
  39. 平田米男

    平田委員長 井上義久君。
  40. 井上義久

    ○井上(義)委員 公明党・改革クラブの井上義久でございます。  参考人の皆様には、きょう、大変御多忙の中、私どもの委員会のために御出席を賜りまして、まず心から御礼申し上げる次第でございます。  私どもは、今回の法案につきまして、日本住宅政策は、どちらかといえば戦後、持ち家というところに軸足があって、賃貸住宅ということがやはりどちらかというとなおざりにされてきたんじゃないか、こういう感じを持ってきておりまして、この賃貸住宅の問題については一貫して取り組んできたわけでございますけれども、今回の法案を契機にいたしまして、日本住宅政策、これからライフスタイルの多様化でありますとか、あるいは少子高齢化ということを踏まえて、賃貸住宅政策にやはり軸足をどちらかというと移していくべきじゃないか。  こういう基本認識に立って、今回、この法律の中で、国、地方自治体の責務として、良質な賃貸住宅供給するという努力義務を規定し、そしてさらに、特に住宅弱者と言われる皆さんのセーフティーネットというものをやはり国、地方自治体の責任できちっとすべきだ、こういう観点で、一方で、賃貸住宅が、特に良質な賃貸住宅供給されるような市場というものをやはり育てなければいけないという観点から、定期借家権導入というものをこの法案の中で盛り込んだわけでございます。  そういう意味で、まず田中先生に、日本の戦後住宅政策、やはり持ち家から借家というところに軸足を移していくという流れの中で、この法案が果たす役割といいますか、効果といいますか、そういうことについて、先生のお立場でどのように御認識されているか、まずお伺いしたいと思います。
  41. 田中啓一

    田中参考人 持ち家の政策もある程度両面が、プラス・マイナス効果があったかと思います。  プラス効果としては、かなりの勤労意欲が起こってきて、そしてまた、それが資産ストック形成として非常に役立ってきたという一面もあると同時に、また非常にマイナス点も御案内のとおりあるわけであります。  こういう中で、高度成長期が終わり、非常な変化が出てきている日本の場合、住宅ストックも今かなりあるわけでございますから、軸足がだんだんと賃貸の方向に行くということは必要であると思っております。  そういう中で、定期借家権創設は、賃貸住宅が今まで非常におくれていた、特に面積や何かで豊かな生活大国にならない、そういう分野を、新規定期借家権競争原理導入することによって、供給側の増大によりまして競争原理によって家賃を下げるという原理が生きまして、しかもそれが良質な住宅につながるシステムをぜひ構築していただきたい。  そういうことで、賃貸住宅に軸足を置く方向としての定期借家権は、その一つの大きなキーワードになると考えております。
  42. 井上義久

    ○井上(義)委員 澤野参考人にお伺いいたしますけれども、澤野参考人から今回の法律の問題点のいろいろ御指摘がございました。その中で、先ほども申し上げました、良質な賃貸住宅を国及び地方公共団体供給する義務をこの法律の中で規定したわけでございますけれども、澤野参考人は、具体的な施策が不明確で、十分な予算措置の裏づけも期待できない、明け渡しを余儀なくされる、住宅弱者保護の実効性に欠ける、こういう御指摘でございます。  私どもは、国会立法府でございますから法律をつくるわけでございますけれども、あわせて、議院内閣制でございますから、法律をつくるということは、我々がその責務を負って住宅政策をきちっとやるということがもちろん前提になっているわけでございます。そういう観点からこれまでも努力してきましたし、これからも、この法律ができればそれは一層促進されるんじゃないかと思うし、またしなければいけない、こういうふうに思っているわけでございます。  そういう観点で、先生が期待できないとおっしゃっていることについて、もう一度御意見を伺えればと思うのです。
  43. 澤野順彦

    澤野参考人 期待できないというよりも、先ほど申しましたように、この法案の趣旨に沿った、絵にかいたもちとならないように、ぜひともこの点に力を注いでいただきたいと申し上げたと思います。  むしろ、現在、地方公共団体も国と同様にかなり緊縮財政を行っております。ある地方公共団体等にこの法案についての意見を個人的に求めたこともあります。かなり戸惑っているというのが現実だと思います。国の方で何らの施策、財政的な援助とか、そういう問題がもっと骨が見えてこないとなかなか動きにくい。  例えば、そのような定期借家ですとかいろいろな住宅困窮者の問題が起こったときに、直接具体的に相談できる場が本当に確保できるのか。私たちがよく訴訟で、先ほど申しました高齢者で、本当に家賃も払えなくて出ていけないんだけれども、ほかに老人ホームも公営住宅もどこも引き取ってくれないのです。いろいろ社会福祉事務所も歩き回りましたけれども、結局引き取ってくれないで、大家さんがそのまま生前中ずっと面倒を見てお葬式まで挙げてやったというふうなこともございます。それが現実だと思うのです。  私は、本当に、制度がどうこうというよりも、最終的に弱者となる人たちがどのように救われるか、これをぜひ国会の先生方の目で、細かいところまできめの細かい政策をしていただきたいというのが私の本心です。
  44. 井上義久

    ○井上(義)委員 法律の中にもそういう相談窓口の設置等体制の強化を盛り込んだところでございますし、先生の御指摘を重く受けとめてしっかり取り組んでいきたい、こう思います。  それから、先ほど酒井参考人は、借家人立場から、今借家人の置かれている現状についてるるお話がございました。  私も御指摘のような状況の相談を受けたりすることももちろんあるわけでございますけれども、その中で、特に定期借家制度導入借家人はどうなるかということで、全体的に九点にわたって御指摘があるのですね。それを見させていただきますと、定期借家導入そのものの問題点というのは第一ということで、あと第二以降は、適用になった場合にどうなるかということと、あるいは国会審議のあり方について御指摘があるということで、法案そのものについて言いますと、この定期借家制度によって何が問題かというと、結局、追い出される借家人は次々に移転を余儀なくされ、業者は営業できなくなってしまいます、結果として町に住宅難民がふえて社会不安が広がる、こういう御指摘なんですね。  それはまた後ほどお伺いしますけれども、その中で私が大変気になりましたのは、事実東京で足立のアパートに住む七十三歳の女性が、既に四年間家賃を供託されている、事情があって供託されているんだと思いますけれども、定期借家国会で通ったら自殺するしかないとおっしゃっている、こういう犠牲者が続くという御指摘をされているのですね。それから、自営業者の中には商売ができなくなると深刻に悩んでいるという御指摘があるのですけれども、この方は既に既存契約で、正当事由契約されているわけですから、この法案ができたから定期借家に切りかわるということは、これは法律で禁止されておりますからないわけですし、私はこういう心配はない、こう思っているわけでございます。  こういう御相談を受けられたときに、なぜそういうふうになってしまうのか、また、どういうふうにその相談を受けられたときにお話をされたのか、そこをちょっと聞いておきたいのです。
  45. 酒井金太郎

    酒井参考人 今先生が御質問された点ですが、一般的に言いますと、つまり、定期借家制度導入されると、借家人はそれを押しつけられる危険性を非常に強く感じるということは事実でございます。  七十三歳のその女性がこちらの方に相談に来られたときに、実は激励したのですよ。死ぬなんということは考えないでください、とにかく、いずれにしても、私たちが今これについて、絶対にこれを許さないために反対運動をうんとうんと繰り広げていますと。もし定期借家制度が仮に導入されて、そしてそのことが既存契約には及ぼさないといいながらも、向こう側がつくった契約書によってそれを強制的に仮に判を押させられるということはこれはあり得ることなんです、拒否できませんから。先ほども私も指摘しましたが、今度の法案について、広く国民に知らされていないのですね。知らされないままでこれが強行されるわけですから、そうしますと、大半の借家人方々は、この法律は一体どういうことになっているんだということで、当然疑問が出てくるはずですね。知らないままで結局やられますから。だから、そういうことのないようにあなたもひとつ勉強して、そして自分の命を縮めるみたいなことはやらないように、私たちも応援しますからということで激励して帰しました。  それからもう一つ、店舗の場合ですと、先ほどもちょっと申し上げましたが、ある肉屋さんを営んでいる商人の方のお話を聞きましたが、肉というのは間口が北向きでないと全部腐っちゃうというのですね。つまり、品物のもちが悪くて商売にならなくなってしまう。今の店舗を借りるときに相当な資本を投下しているのですね。例えばウインドーとか、あるいはそのほかの設備、冷蔵庫も相当大きな冷蔵庫を用意するということで資本を投下しておりますが、もしこれが定期借家でやられた場合には立ち退かざるを得ない。そうすると、新たにそういう店舗を探すのに非常に困難が伴うということを言われておりました。だから、非常に極めて深刻なんですね。ですから、私はこういう法案は絶対にやめていただきたいというふうに思っています。  冒頭に申し上げましたけれども、賃貸住宅供給についてはあくまでも努力目標ですね。この前の十九日のこの委員会での審議でも、必ず供給しますというふうにはついに聞かれなかったのです。それで、一方で追い出す方だけは強制的に追い出すように、片方は努力義務で、片方はそれを実効あるものにしていくということを考えますと、私たちは非常に不安を感じております。  以上です。
  46. 井上義久

    ○井上(義)委員 日ごろからいろいろ相談に応じられていると思いますので、こういうケースの場合は心配ないということをぜひ明確に言ってあげていただきたいというふうに思いますので、よろしくお願いしたいと思います。  それで、福井参考人にお伺いしますけれども、今おっしゃったことが、いわゆる定期借家制度で追い出される借家人が次々に移転を余儀なくされて、町に住宅難民ができるのではないかというのが一番の御指摘なんだと思うのですけれども、それについて福井参考人、御意見がありましたら。
  47. 福井秀夫

    福井参考人 先ほども申し上げましたように、世界的にはかなりの国が定期借家権制度しか持っていません。アメリカの九九・二%の市町村、オーストラリアやニュージーランドももともとそうです。シンガポールもそうです。しかし、これらの国で、立ち退きを次々に強いられて引っ越し難民が発生するとか、家主の横暴で苦しんでいるという事例は、少なくとも私は一切報告を承知しておりません。  なぜならば、定期借家というのは、当事者間の対等性や個人の意思を尊重することで、むしろ大家が競争して、貸し手間の競争によって貸し手の横暴がなくなる方向で作用する制度だからであります。  現実に、老人の入居差別の問題につきましても、住宅生産団体連合会のアンケート調査では、定期借家ができればかえって貸しやすくなるということを六割の家主が答えています。ドイツアメリカなどでは、高齢者はむしろ歓迎される借家人です。ところが日本では、高齢者の方は、残念ながら、所得の上昇が見込めない、それから居住期間が長くなるということで、借家法の制約を一番バイパスしにくい借家人類型として位置づけられてしまい、入り口段階でかえって差別を受けるという弊害が起こっているわけです。  定期借家権制度がかえってそのような弊害を助長するということはあり得ない、むしろ貸し手間のサービスと価格での競争を促す作用しか持ち得ないと考えます。
  48. 井上義久

    ○井上(義)委員 以上です。
  49. 平田米男

    平田委員長 青木宏之君。
  50. 青木宏之

    ○青木委員 自由党の青木宏之でございます。  参考人の先生方には、大変貴重なお話、御意見を賜りまして、ありがとうございました。  非常に時間が限られておりますし、また、今までにもう既にいろいろお尋ねをされ、また御意見を拝聴いたしまして、論点がかなり明確にはなってきたのかなというふうには思いますが、ただ一方、何か賛成の御意見、反対の御意見、やや水かけ論みたいな印象も受けておるわけであります。そこで、もう少し賛成反対、それぞれの先生方の御意見につきまして、私の立場で御確認をさせていただきたいと思うわけでございます。  それで、まず酒井参考人にお尋ねをさせていただきますが、今も井上議員の方からお話がありましたが、さっき申されました東京の女性の例、何か殊さら挙げてみえましたので、ちょっと気になってお尋ねするわけであります。今、井上議員に対するお答えでほぼ理解はしたところでございますけれども、これはそうしますと、今のお答えからしますと、誤解ということだと思いますので、酒井参考人の連合会等々、御関係のところが周知徹底をしていただけば、この問題は余り生じないと思うのでありますが、まずその点はいかがでございましょうか。
  51. 酒井金太郎

    酒井参考人 今、先生は、私たちの方の組合で、つまりこの法律の趣旨徹底をされたらというお話ですが、当然私たちは、借りている人たち立場を守るために、この法案にはこういうところがあって、これは全く我々は不本意だけれども、しかし追い出されないために、それを守るためにいろいろお話しすることはもちろん必要なんです、それは。必要ですけれども、これは、やはり行政機関なり公的にもっと大きく趣旨徹底を図っていただきたいというのが私たちの御要望でございます。  問題は、私たちのような民間の機関に対して、それをやってほしいというふうに言われても、これは限度があるんです。ですから、そういう意味で、趣旨徹底を図るという点では、公的機関で十分ひとつやっていただきたいということをお願いしておきたいと思います。  それからもう一つは、高齢者の場合、つまり年齢的には大体六十歳近くになると、立ち退けと言われると行くところがなくなるんです。  これも私が前に相談に乗ったことがありましたけれども、都営住宅で、わずかに収入がふえたために立ち退けというふうに言われて、やられた女性がございました。ひとり暮らしです。まだ五十八歳ぐらいでしたが、そうすると、それでもう立ち退かなきゃならないと思って不動産屋さんへ行ったら、もうあなた、貸してくれるところありませんよということで断られたというんですね。そうすると完全に行くところを失ってしまうんです。こういう事態にならないようにするために、先生方にもぜひ御努力を願いたいし、私たちもそういう人たちの相談に乗りながら問題の解決を図っていくということが必要だと思いますから、こういういわゆる救済するための住宅が不足しているにもかかわらず、追い出す方の法律だけはここで簡単に決めてしまうということはぜひやめていただきたいというのが私たちの本心でございます。
  52. 青木宏之

    ○青木委員 大変申しわけないのでありますが、時間が限られておりますので、お尋ねしたことだけについてお答えがいただければと思います。  続きます。私は、基本的には本法案修正案、賛成という立場でございますので、反対の御意見を表明された先生にお尋ねさせていただくわけであります。したがいまして、酒井参考人澤野参考人、お二方にお尋ねするわけであります。  一つは、現在の借家法には何ら問題点がない、全く今のままでいいというふうにお考えかどうか、その点だけ、ひとつ手短にお二方からお答えをいただきたいと思います。
  53. 酒井金太郎

    酒井参考人 現在の借地借家法そのものは、借り手貸し手の権利関係を調整するということで、私は、現行法でそれぞれの立場を考慮しながら、そして均衡が保たれているというふうに理解をしております。
  54. 澤野順彦

    澤野参考人 現在の借地借家法は、平成三年に本国会でもって成立したものです。当時私も携わりましたけれども、法律の内容自身は現在のところ特に問題はない。それはどういう意味かと申しますと、定期借家導入することによって生ずる問題よりも、現在の借地借家法のままの方が問題が少ないのではないかと考えております。
  55. 青木宏之

    ○青木委員 もう一点、本法の目的であります、良質な賃貸住宅供給促進ということについてでありますが、現状、その必要性について、ありやなしや、今のお二方、御参考人からお答えはいただきたいと思います。
  56. 酒井金太郎

    酒井参考人 良質な賃貸住宅供給促進ということは、私たちの方の団体としても今まで、つまり安くて住みよい公共住宅を大量に供給をしてほしいというのは切実な要求として、私たちの団体を結成して以来要求をし続けてきました。  ですから、これ自体は別に否定をしているわけでも何でもございません。むしろ、法案の前半部分で単なる努力目標にするんではなくて、これが確実に実現できる、そういうところを明記していただきたい、またそのための施策を講じていただきたいというのが私たちの要望でございます。
  57. 澤野順彦

    澤野参考人 良質なという意味がありますけれども、これは物理的に品質がよいというだけではなくて、借家人が引き続き安心して住める状態の質を保った借家、そういうものであれば、ぜひとも良質な賃貸住宅は今後幾らでも供給促進していただきたいと思っております。
  58. 青木宏之

    ○青木委員 必要性についてはお二方ともお認めをいただいたようでありますが、本法が、先ほど来の参考人の先生方のお話のように、その促進効果ありという立場の御発言があったわけでありますけれども、それについては、今の酒井参考人澤野参考人効果ありということについてはいかがお考えでしょうか。
  59. 酒井金太郎

    酒井参考人 非常に大きな疑問を持っております。というのは、三、四年前ですか、公営住宅法が改正されまして、そして市場原理に基づいて民間任せの住宅政策が施行されました。  現状を申し上げますと、例えば、公営住宅入居する対象をうんと縮めましたね。それが一つございます。それから、家賃については民間並み家賃にするということで、そのために公営住宅政策、施策としては、先ほども申し上げましたが、東京都の場合は、各地方自治体が財政が非常に逼迫をしているというところで、結局東京都は来年度の予算で新規住宅建設はゼロ、大阪も同様です。  それからもう一つは、住宅・都市整備公団が、これが住宅というのがなくなってしまいまして都市基盤整備公団というふうにされました。それもまた住宅の建設から後退をする、こういう状況のもとで、実効性があるかないかと言われれば、単なる努力目標である以上は、これは実効性には非常に乏しいということを危惧しております。  したがって、実効性あるような施策をぜひ講じていただきたいというのが私たちの希望でございます。
  60. 澤野順彦

    澤野参考人 三つの点から申し上げます。  一つは、生活の本拠として利用していない広い住宅について供給促進される可能性はあると思います。  それから、新規賃貸借ですが、良質な、これもある程度行政指導によって行われて、これ以上のものについては一定の補助金ないし家賃補助があるというような制度が並立されるとすれば、そのような住宅供給促進されるでしょうし、またそれによって定期借家をする人たちもふえると思います。  それからもう一つですが、農家の方たちが民間の賃貸住宅定期借家で、しかも質がよくて広いのを提供するかというと、これは先ほど述べましたように需給関係によって必ずしも明確ではない、私は今のところちょっとクエスチョンマークではないかなと思っております。
  61. 青木宏之

    ○青木委員 酒井参考人だけにお尋ねします。  今お答えありましたが、お聞きしておりますと、公共住宅の点をおっしゃって、それはまあわかりますが、いわゆる民間における良質な借家がふえるという部分についてお触れになってみえないわけですし、現状のいわゆる正当事由というものが存在する借家法では、なかなか民間借家が、しかも良質なものがふえないという点を我々は問題にして今回立法しておるわけでありますから、その点についてもう一度お答えをいただければと思います。効果ありやなしやですね。
  62. 酒井金太郎

    酒井参考人 公共住宅の建設については、先ほど私の方からはこういうことをぜひしてほしいということで申し上げましたが、民間の場合、民間で良質な賃貸住宅が大量に供給できるというふうには私は結びつくとは思わないんですね。なぜならば、民間の場合は当然、つまりもうけを考えて建設するわけですから、家賃が安くなるということはあり得ない。  昨日も、夜十一時からのテレビの十二チャンネルのあれを見ていますと、例えば四DK、三DK、この建物が今建てられて、一体これどのぐらい家賃するんだろうということで見ておりましたら、二十何万円。二DKあるいは三DKでも、宇都宮あたりで十二、三万円、こういう建物なんですね。  家賃が高ければ、当然一般の借家人には入れないんです。それなりの収入がなければ絶対に入りませんから、仮に供給されても空き家になってしまうという危険性を私は感じております。ですから、そういう意味では、これが供給上プラスになるかマイナスになるかということであれば、むしろ、建てても、供給してみても空き家がふえるだろうというふうに思っております。
  63. 青木宏之

    ○青木委員 時間がもうありませんが、いろいろと御意見を拝聴させていただきました。どうも、今の酒井参考人のお話、なかなか私としては理解ができなくて、納得がなかなかできないところであります。最初福井参考人田中参考人の方から御意見を述べられた点に多々理解がし得る感じを強くした次第でございます。  いずれにしても、ただ、これから施行される場合に、現実、人間のなせるわざでありますから、いろいろな諸問題が惹起することはあり得ると思います。この附則の第四条にも四年後見直しという項目が入っておりますように、私どもとしては、これからそういう現実の諸問題、いろいろな大きな問題としては本法で支障がないと考えておりますけれども、予期せざる諸点が起こった場合には、速やかにかつ謙虚にこれはとらえて、今後改正するなりあるいは見直しするなり、それはしていく、していこうと思っておるつもりでありますが、現状として、本法並びに修正案が的確であるというふうなことをいま一度申し上げまして、質問を終わらせていただきます。  ありがとうございました。
  64. 平田米男

    平田委員長 辻第一君。
  65. 辻第一

    ○辻(第)委員 私は、日本共産党の辻第一です。  参考人の皆さんは、お忙しい中御出席をいただきまして、ありがとうございます。  本法案については、十九日の本委員会質疑におきまして、良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法という法案の名称とは裏腹に、多くの問題点を持っていることがいろいろ明らかになりました。きょう、先ほど来参考人方々の御意見をお聞きいたしまして、この法案の問題点がますます明らかになってまいりました。  そこで、まず酒井参考人にお伺いをいたします。  この法案が本当に安くて良質な賃貸住宅供給につながるのかどうかについて、今日の賃貸住宅の現状、市場の現状との関係も踏まえて、お考えをお尋ねいたします。
  66. 酒井金太郎

    酒井参考人 先ほどからお答えをしておりますように、つまり、これは大量供給には結びつかないというふうに私は理解をしております。なぜならば、今、井上先生に申し上げたとおり、民間の賃貸住宅が仮にこれでもって供給されていったとしても、家賃は高くなってしまうだろう。それから同時に、そのこと自体が、現在の収入状況、リストラでもって失業者がふえる、そして営業も成り立たない、こういう状況の中でそんな高い家賃を払えるわけではありませんから、空き家がふえてしまう。だから、そういう意味でいくと、だからこそ公共賃貸住宅で良質なものを、あるいは設備のいいものを、あるいは家賃の安いものを大量に供給すべきだというのが私たちの基本的な考え方であり、要求でございます。
  67. 辻第一

    ○辻(第)委員 先ほど酒井参考人は、この定期借家制度が、生活と営業を脅かす重大な問題である、このようにお述べになりました。営業の店舗の問題は、十九日の質疑でも、我が党の木島議員が中途解約の問題などいろいろ取り上げてまいりましたが、私もこの点は非常に重要な問題だと考えています。今日、商売をやっておられる方で店舗を借りておられる方が少なくありません。  酒井参考人にお尋ねをいたしますが、居住用借家だけではなく営業用の借家を脅かすことになるという問題について、具体的な御意見をお聞きしたいと思います。
  68. 酒井金太郎

    酒井参考人 先ほど来申し上げておりますように、営業用の借家というのは、営業されている方が今度の定期借家制度導入に伴って立ち退きを迫られる事態が必ず起きるだろうというふうに理解をしております。  営業するには、その場で長い間営業を続けてそれなりの顧客を持っているのですね。ところが、そこから立ち退かされるということになりますと、新しいところに物件を求めなければなりません。また、求めたとしても、仮にそこに営業できる店舗が確保されたとしても、それは新たな契約で、定期借家制度で、一定の年限でまた立ち退きを迫られるということになりますから。商売をやるには、昔から言われますが、石の上にも三年というのですね。ですから、一定の年限がなければそこで商売が成り立たない。だから、長い間の営業の関係でお得意先もあり、そのことで営業ができてきたりするのですね。それが壊されますから、そういう意味で言えば、高い金をかけて改造しながらあれしても営業ができなくなってしまうということは、当然起こり得るというふうに私は思っております。そういう意味で、営業用の借家の場合には相当深刻な問題になり、営業によってそこで得た利益で生活をすることができなくなってしまうということになりますから、これは絶対に認めてもらっては困るというふうに私は思っております。
  69. 辻第一

    ○辻(第)委員 そこで、福井参考人にお尋ねをいたします。  今、企業のリストラが荒れ狂っております。そういう中で、工場の閉鎖というような状況、これもふえてきております。そうなりますと、その下請の業者の方、あるいは関連の業者の方、あるいはその地域の御商店を営業されている方が深刻な打撃を受けることは明らかであります。そういう中で、店舗といいますかお店を閉めなくてはならないという事態になられる方がたくさんあろうかと思います。現実にそういう方も私存じております。そういう方が、中途解約ができない、期限のある間賃料を払わなくてはならない、これは相当深刻な問題であります。このような問題についてどのようにお考えなのか、お尋ねいたします。
  70. 福井秀夫

    福井参考人 前提として整理しておくべき重要な論点が一つあります。現在の、正当事由保護された借家権しか認められていない民法と借地借家法のもとでも、長期の契約をした場合に、特約を入れなければ二十年でも三十年でも、まあ二十年は超えるものがないですね、二十年以下、例えば十五年とか二十年の場合でも借り続けなければいけないというのは、現行法の正当事由制度のもとでも既にある制度であります。そういう意味で、今回の法案は、定期借家について、むしろそれを、居住権を保護する方にかえって強化しているというのが、前提として極めて重要な情報だと思います。  その上で申し上げますが、営業用の場合につきまして、中途解約がないことによって、かえって借家人の方にメリットがあるというケースは、先ほど申し上げましたように、アメリカイギリスで非常に多くございます。といいますのは、解約をしないかわりに、総額の賃料についてかなりのディスカウントをする、貸し手にとってみればずっと居続けてもらえるし、借り手にとってみれば家賃支払い総額が少ないということで、お互いメリットのある契約としてかなり定着しているわけであります。  そのような可能性を完全に納得した上で選択するのであれば、それはむしろ本人にとって、借家人にとってもメリットであると考えてもよいかと思います。  なお、アメリカでは、借り続けるというと一見大変なように思われますけれども、実際にはサブリースで処理するという場合が、そういった場合の、要するに自分が住めなくなった、あるいは営業できなくなった場合の一般的な処理の仕方であることを申し添えます。
  71. 辻第一

    ○辻(第)委員 日本の現状ではこれは深刻な問題、アメリカの問題ではありませんので、私は考えるわけでございます。  次に、澤野参考人にお伺いをいたします。  十九日に日弁連が、良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案に関する会長声明を出されております。この中でも、本法と法制審議会関係について述べておられますが、この点についての御意見をお聞きいたします。
  72. 澤野順彦

    澤野参考人 日弁連におきましても、今回のいわゆる借地借家法の一部改正部分につきましては以前からかなり問題視されております。連合会の中でも委員会において検討されておりますが、私が先ほど述べたような種々の問題点があることが指摘されております。  やはり本法案の一番の問題というのは、まず立法上の問題です。今回の立法が極めて、新しい時代を先取りしたような立法であるというような御趣旨の発言もあったようにお聞きしましたが、私はむしろ、このような生活関連立法については、現在の借地借家法法制審議会で慎重に審議され、かつ国民の意見を十分しんしゃくしてでき上がったと同じような過程をとって審議され、立法されるべきだと考えております。
  73. 辻第一

    ○辻(第)委員 さらに澤野参考人にお尋ねをいたします。  この法案を、借家人の生活権や営業権あるいは居住や営業の安定性、この権利を守るという観点から見ますと、とりわけ借地借家法による社会的な保護を必要とする方々にとって、どういう問題があるのか、また住宅だけでなく営業用の店舗などの借家にとってどういう問題があるのか、お尋ねをいたします。
  74. 澤野順彦

    澤野参考人 借家人の生活権とか居住権というのは、借家関係においては、借地借家をした間接的な、反射的な効果として一応存在します。しかし、人間は生活し、また仕事をしなければなりません。それは、地域に根づいて、いろいろな近所の人たちとつき合い、助け合って、そして商売を行っているわけです。  そういう意味では、借家人といえども、特に家主が犠牲になるわけではなくて、その地域において生活し、仕事をする、そういう権利があると思います。それは広い意味で、憲法が保障している生活権の保障の範疇に属するということは先ほど述べたとおりです。  そういう点では、今度の改正法案につきましてはかなり配慮が欠けているのではないか。特に、具体的には、居住用の場合にどうしても出られない人が出た場合どうなるかというと、これは例えば、身寄りがなくて病気で寝たきりの人を、明け渡しの判決をもらって強制執行できるかというと、それはできません。これは執行不能になると思います。  そういう事態をどうするのかという問題もありますし、それから営業用借家の場合にも、安心して商売ができるからこそその地域の発展にもいろいろ貢献できる。要するに、そういう心理的な不安がどうしても今回の法案にはつきまとってしまうのではないかと考えております。
  75. 辻第一

    ○辻(第)委員 また澤野参考人にお尋ねをいたします。  私ども日本共産党はこの法案に反対であります。  この法案についてのこれまでの経過から見てまいりましても、また借家人に対する重大な影響から見てまいりましても、あるいは営業に対する問題からも、その成立を許すことができない法案と考えています。  それだけでなく、この法律は運用上大きな問題を持っているのではないか。もしこの法律が制定された場合、その法運用あるいは法解釈上どのような問題があるとお考えか、お尋ねをいたします。
  76. 澤野順彦

    澤野参考人 もし法案が成立すれば、これは国民としてそれを遵守する義務があることは十分承知しております。  ただ、この問題は、居住用借家人だけでも千五百七十万世帯あります。既存借家には適用がないといいますが、現在の借家人が永久に同じ家に住み続けるということはあり得ません。二、三年後、四、五年後に引っ越すことが考えられます。また、新しい世代も初めのうちは借家をするでしょう。そういう人たちに十分今回の、既に数十年にわたる日本借家慣行とは違ったそういう制度ができ上がったわけですから、来年の引っ越し間際に駆け込んで施行するというようなことをする必要は全くないと思います。  従来の借地借家法は既に六十有余年過ぎております。これが日本借家関係、要するに良好な借家関係を築いてきたと私は思っております。それを一部でも異なるような制度にするためには、関係の各省庁、これは建設省だけではございません、厚生省もそうだと思いますけれども、各省それぞれの事態に応じた対策を十分講じて、かつ都道府県においてもその施策を十分にできるような状態にしてからスタートすべきだと思っております。
  77. 辻第一

    ○辻(第)委員 時間が参りました。終わります。  ありがとうございました。
  78. 平田米男

  79. 中西績介

    中西(績)委員 福井参考人にお聞きをしたいと思います。  その前に、各参考人の皆さん、大変お忙しい中、こうして御意見を拝聴いたしまして勉強させていただきましたこと、ありがたくお礼を申し上げたいと存じます。  そこで、先ほどの論議の過程の中におきましても外国の例等が一、二出ておりましたので、一、二の点についてお聞きをしたいと思っています。  一つドイツの例でありますけれども、先ほどのお答えの中では、一九六〇年に既存のものだけすべて新しい定期借家制度で規制をしたという言い方をされておったようでありますけれども、私たちが聞いておるところでは、この定期借家制度は、合意により切りかえを認めただけであって、日本と同じようだということを今まで聞いてきたわけでありますが、この点はどうなんでしょう。
  80. 福井秀夫

    福井参考人 私の理解では、既存のものについても適用されたというふうに聞いております。
  81. 中西績介

    中西(績)委員 今もございましたように、既存のものについてもすべて新法で規制をするという、こういう説明のようでありますけれども、この点については、また後で私たち勉強したいと思いますけれども、私たちが知っておる限りにおきましては、導入したこの制度というのは、合意による切りかえを認めただけで日本と変わらない、こういうことでございますので、この点についてはまた後ほどにしていきたいと思っています。  そういうことになってまいりますと、この定期借家制度家賃が高騰し、そしてさらに紛争が拡大して、一九七〇年代に至りまして正当事由制度に復帰をしたということになっておりますけれども、こうした問題があり変更したと思いますけれども、一九七〇年代から以降におきましては、既に二十年近くたっておるわけでありますけれども、これらが今まで御指摘のありましたように、問題がまた再び出ておるのかどうか。またあるいはドイツのそうした体制がおくれていったかどうかが一つの問題になろうと思っています。この点どうだろうと思いますが、お聞かせください。
  82. 福井秀夫

    福井参考人 ドイツで現在適用されています借家法制ですけれども、俗に正当事由制度と呼ばれておりますが、実質的には日本正当事由制度とは全く異なるものであります。  ドイツの場合は、原則として貸し手事情正当事由を判断いたしますので、事前の予測可能性が極めて高い。それから、継続賃料について、日本では市場賃料に比べますと、上昇分の約二分の一ずつ大家さんと借り手とで分けるという差額配分方式という方式が一般的でありますが、ドイツについては市場賃料家賃規制額とはほとんど差がないということが言われています。そういう意味で、日本制度ドイツ制度とはかなり違う、こういう前提があるかと思います。
  83. 中西績介

    中西(績)委員 またもとに返りますけれども、福島大学の阿部成治先生が言われておるのは、やはり先ほどの話でありますけれども、正当事由を外しただけで定借に切りかえたものではないということが、それを専門にやられている方から言われておるということをここで申し添えておきます。  時間がありませんので、そこでお二方、福井そして田中参考人の方が立ち退き料が大変高いということを言われております。しかし、先ほどの澤野参考人の御意見にもございましたように、いろいろございますが、イギリスにおきましても、営業用テナントの立ち退きには大きな損害を与えるために保護されておる、フランスにおきましては、営業用テナントの立ち退きについては多額の立ち退き補償が必要とされておるというようなことが言われまして、この立ち退き料問題については、やはり日本制度がこういう制度があるから高くなったということだけではなしに、その時代における、特別な時期におけるものを取り上げて考えるべきでなしに、何年間かの平均されたものによってこれを判断すべきと私たちは思っておりますけれども、この点はどのようにお考えでしょうか。福井参考人にお聞かせいただきたいと思います。
  84. 福井秀夫

    福井参考人 日本の立ち退き料の特徴は、先ほども申し上げましたとおり、事前の予測可能性が全くないという点であります。単なる金額の多寡の問題ではございません。日本の立ち退き料につきましては、先ほど申し上げましたように、受け取った賃料のすべてを返して、なお何倍も上乗せするという判例が現実にございます。これらがその後の貸し手に対して与える影響を考えれば、それが供給抑制として働かざるを得なかったということもまた当然のことだと考えます。
  85. 中西績介

    中西(績)委員 時間がありませんからこれについての意見は差し控えますけれども、もう一つだけ、福井参考人にお聞かせいただきたいと思います。  フランスドイツにおきましては、正当事由制度があるのに、借家は広うございます。ですから、先ほどから言われておるようなこととのかかわりがどうなのかということ、そして、イギリスにおきましても、この制度導入前は借家は狭かったかといいますと、余り変わりはなかったということが言われておりますだけに、この点どのようにお考えでしょうか。
  86. 福井秀夫

    福井参考人 繰り返し申し上げますが、これらのイギリスドイツフランスにおける解約制限日本正当事由制度とは全く異質なものであります。貸し手事情原則として判断される、事前の予測可能性が高い、また、借家権価格前提となる市場賃料と規制賃料との乖離がほとんどない、したがって立ち退き料についても発生しようがない。こういった全く異なる事情前提にしておりますので、これを比較することはできないと思います。
  87. 中西績介

    中西(績)委員 先ほどからお話をお聞きしておったときに外国の例が出ましたので、この点についてお聞かせいただきましたけれども、これらについては比較のしようがないと言わんばかりのことであります。これはこの点でおいておきます。  そこで、田中参考人にお聞かせいただきたいと思います。  私たちのところに、定期借家法案の迅速な審議と早期成立を実現せよという文書が参っております。これは定期借家研究会、田中先生、関係があったのではないかと思っております。会長をされておりますね。  そういうことを考えてまいりますと、この文について、良質で適切な家賃住宅供給促進するといいますけれども、そういうことの表現、定期借家権導入市民生活の豊かさの実現を大きく促進するということがこの文章の中に出ておりますけれども、この点は具体的にどういう点を指されておられるのか。時間がございませんので簡単で結構ですが、お答えいただきたいと存じます。
  88. 田中啓一

    田中参考人 まず、会長ではございませんが、一応主査という形になっております。これは我々若手の方々中心として、いろいろな学者が四十人ぐらいで、四年ぐらい前から研究会を開いて、たまたま年の割ということでならせていただいたところであります。澤野先生にもいろいろ御参加をいただいたり、あるいはまた御指導を受けたところでございます。そんな形で提言をさせていただいたのが、ほぼ今おっしゃるとおりでございます。  私どもは、いろいろ研究した結果、やはり、既存のものを守りながらも新たな住宅に対する質のよいものをつくっていくためには、欧米国が既にやっているように、こういうものが必要だ、定期借家権創設が必要であるということを前提として結論を得た結果、こういうような提案をさせていただいているところであります。  以上でございます。
  89. 中西績介

    中西(績)委員 この点についても、もう時間が迫っておりますので、割愛させていただきます。  そこで、澤野参考人にお聞かせいただきたいと思いますけれども、今までの論議の過程の中におきまして、いろいろありましたけれども、この法案を作成するに当たって、定期借家制度導入によって経済的なものもある程度効果があるというようなことで取りかかったということを私はお聞きしています。さらにまた、福祉政策等についてのセーフティーネットが十分保護されるんだというようなこともお聞きしております。  この二点について、定期借家制度導入による経済的な効果が果たしてあるかどうか、私は非常に疑問視しておるところであります。また、セーフティーネットが奪われるのではないかということを危惧いたしておりますけれども、この点についての御見解をお伺いしたいと思います。
  90. 澤野順彦

    澤野参考人 まず、景気浮揚効果ですけれども、結論からいいますと、余り期待はできないと思います。ある特定の企業が、この定期借家導入して、そのような住宅をたくさん供給するということはあっても、国家として景気浮揚の効果が起きることは余り考えられないと思っております。  それから、セーフティーネットの破壊についてですが、この点は、本法案のところでも考慮はされておりますが、私から見ますと、やはり絵にかいたもちで、余り実現性はないと心配しております。
  91. 中西績介

    中西(績)委員 もう一問だけお聞きしたいと思います。  今回のこの法案につきましては、先ほどからるる主張なさっておられますように、既存借家関係を激変させまして、社会的あつれきを増大させる可能性があると思いますけれども、この点についての御見解をお伺いしたいと思います。
  92. 澤野順彦

    澤野参考人 既存借家人に対しては直ちには適用されませんが、恐らく、四年後に見直しということは、四年後には既存借家関係についても合意の上定期借家に変更することができるということにもしなるとしたら、皆さん、それを一番心配していると思います。  それから、既存借家でも、営業用につきましてはその制限がございませんから、直ちに更新の時期に更新料を払うか、それとも定期借家にするか、定期借家にすると、当然、賃料についての特約が結ばれます。そして、期間が設定されて、再契約がなければ、営業用資産もそこで取り壊して、そして明け渡さなければならない。営業用のいろいろな資産だとか顧客も失うことになります。そういう不安が今の国民にはたくさんあるということです。その点を十分国会でも御配慮いただきたいと思っております。
  93. 中西績介

    中西(績)委員 酒井参考人にお聞きをしますけれども、先ほどからの御意見、拝聴いたしましたが、定期借家権につきましては、メリットありデメリットありということがそれぞれ主張されました。その中で、借家人側から考えるデメリットの方は大きいということを私は考えるわけでありますけれども、端的に、この種の問題について、例を挙げて御説明いただければと思っています。
  94. 酒井金太郎

    酒井参考人 先ほど御質問に答えて幾つか申し上げましたが、現在の企業のリストラで、失業者がどんどんふえている。例えば、東村山の日産の例を見てもそうですね。あそこは、労働者が職場を失うだけじゃなくて、その周辺の、その労働者の人たちを相手にして商売をされていた商店の皆さんが今大変な事態になっているのですね。そういう状況の中で、これがもしやられるとしますと、そういう事態があちこちに広がっていくだろうというふうに私は思っております。  ですから、こういう不況で、しかもリストラが横行し、そして収入がどんどん目減りをしていくという状況のもとで、こういうふうな、私の方から言わせればこういう悪法は絶対に通してはいただきたくないということを申し上げておきたいと思います。
  95. 中西績介

    中西(績)委員 以上で終わります。
  96. 平田米男

    平田委員長 これにて参考人に対する質疑は終了いたしました。  この際、参考人各位に一言御礼を申し上げます。  本日は、貴重な御意見を賜りまして、まことにありがとうございました。委員会を代表して、厚く御礼を申し上げます。  これにて本案及び修正案に対する質疑は終局いたしました。     —————————————
  97. 平田米男

    平田委員長 これより本案及び修正案を一括して討論に入ります。  討論の申し出がありますので、順次これを許します。中島武敏君。
  98. 中島武敏

    ○中島委員 私は、日本共産党を代表して、ただいま議題となりました良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案に対して反対討論を行うものであります。  最初に指摘しておきたいことは、この法案が、不動産業界や推進勢力の年来の要望にこたえて、国会のルールも踏みにじって短時日で成立させようとしていることであります。  もともと、本法案の主目的である定期借家制度導入は、借地借家法改正案として九八年六月に提出されて以来、法務委員会で審議されるべきものでありました。それは、借地借家法が民事の基本法であり、国民の権利に関するものだからであります。  しかし、提出されて以来、一度も審議されずに廃案となったのは、世論の強い批判と、我が党はもちろん民主、公明、社民党の議員からも反対意見があったからであります。それを今回、本委員会に突然付託し、法務委員会との連合審査も開催されなかったことは、まことに遺憾であります。  次に、反対する理由を述べます。  その第一は、本法案によって、居住用、営業用、床面積を問わず、すべての建物に対して定期借家制度導入されるからであります。期限が来れば、借家人にいかなる事情があっても遠慮会釈なく退去を強要する、あるいは家主の示す家賃値上げなどの条件を受け入れて再契約しなければならない事態になる。これは、一九九三年に日本政府も参加して国連人権委員会で採択された強制立ち退きに関する決議にも反することであります。  提出者は、既存借家人には適用しないとしていますが、借家人に新法が周知徹底されていないことにつけ込み、定期借家制度に切りかえられることは想像にかたくありません。しかも、事業用建物には適用され、立ち退きを迫られることは、営業の自由を奪うことにもなりかねません。しかも、この適用除外も、当分の間というあいまいな表現で糊塗しようとしているのであります。これでは、安心して住み、営業を続けることはできないことは明白であります。  法案の目的が、不動産流動化という名目でこれを証券化し、都市再開発を促進するために借家人を追い出すことにあることは、この点でも明らかであります。  第二の理由は、良質な賃貸住宅供給促進をにしきの御旗にしていますが、それは努力義務にすぎず、何の保証もないことが私の質問で明らかになったことであります。  建設省は、現在の住宅建設五カ年計画を変える考えがないことを表明し、また、二〇〇一年から始まる予定の五カ年計画で、提出者の一部政党が言う五カ年で百万戸の公共住宅を建設する保証は何らないことは明白であります。これは、定期借家制度導入するためのまやかしにすぎません。  我が党は、公共住宅の大量建設を強く要求するものでありますが、このようなまやかしの単なる努力義務ではなく、実効ある公共住宅供給中心とした住宅政策への転換を政府に改めて要求するものであります。  第三に、一たん定期借家契約をすれば、事業用建物と二百平米以上の居住用建物賃借人は中途解約ができないこと、中途解約後は残存期間賃料支払い義務が生じることが明らかになったことであります。  今、企業のリストラが日本列島を覆っています。最近の日産の工場閉鎖に見られるように、下請企業や関連企業は壊滅的打撃を受けています。事業をやめて他に転出しなければならない賃借人には余りにも非道な仕打ちであります。  以上、反対の理由を述べました。  本法案は、正当な理由がないと借家人の退去を要求することができないという半世紀以上にわたって続けてきた正当事由制度を根底から突き崩すものであり、二十一世紀を前にした一大歴史的汚点であることを指摘するとともに、四党共同修正案は、原案の定期借家制度導入をいささかもよく修正するものではないどころか、周知徹底期間を原案より後退してわずか三カ月にするなどの改悪であり、反対であることを述べて、私の反対討論を終わります。
  99. 平田米男

  100. 保坂展人

    保坂委員 私は、社会民主党を代表して、本法律案そして四会派提出修正案、いずれも反対の立場で討論を行います。  私は、旧自社さ三党の協議の中で、この法律案の担当者として、また法務委員会委員として、十分な審議をしたいとこの法案を待ち受けていたところ、表紙だけが変わった本法律案が前回の国会で同一の内容を持ちながら提出をされたことに驚き、かつ怒りを禁じ得ないものであります。とりわけ、最大多数の自民党の皆さんには、表紙を変えて同一の内容議員立法国会提出するということの意味をもう一度かみしめていただきたいと思います。  法務委員会では、確かに重要法案質疑が相次いで、渋滞がありました。しかし、最初に法務委員会に付託されるという内容の法律案であれば、この建設委員会で最低限連合審査などは絶対にすべきだったと思います。そして、国民の四割が借家を生活基盤としているという現状、この法律案が極めて国民生活に密着しているものであるにもかかわらず、提案議員に対する質疑はわずか三時間余り、そして参考人の皆さんの意見を聴取してじっくり考えようというやさきに採決ということは、これは一体どういうことか。  民主党を加えた四党から提出された修正案は、さらに施行日を三月一日としております。三月一日で新規だから混乱はないと言いますけれども、例えば、地方からこの不況の中で子供を大学や専門学校に進学させて、この春、例えばワンルームマンションだとかアパートを借りようという親御さんが、二年で自動消滅するという新しい制度ができたことをどれだけ理解しているのかどうか、大変な混乱が起きることは間違いないと考えます。  住宅問題というのは人間の生活の基本であります。健康で穏やかで、そして安心して暮らせる、ここに暮らせるんだという安心感があってこそ、くつろぎがあり、豊かな家庭生活があるというのは、これは与野党すべての皆さんの一致するところだと思います。しかも、子供にとっては成長過程で家、住環境の影響が大きいですね。さらに、お年寄り、高齢者に至っては、長年住みなれた家屋をいろいろな理由で追い出される、変わってしまうことで、これは単なる愛着の問題だけじゃなくて、健康上の被害もあるということが医学的に証明されています。  なお、ファミリー向けの優良住宅供給するというのが本法案立法目的であるということを保岡先生初め、議論の一番中軸はそれだったのですね。にもかかわらず、五十平米以下の小規模住宅については適用しないというのは、これはどう考えても理屈が通らないのではないかと思います。  定期借家権問題の研究会の方から、九九年の十一月十六日、つい最近ですけれども、要望書の中で、既存借家人は全面的に保護をされ、万が一にも切りかえによる不測の不利益をこうむることがないようにという表現があるのですけれども、不測の不利益ということが推進の側からも出てこざるを得ないような、住まいの根底を脅かすこの法案提出と、そして修正案に反対ということを申し上げて、私の反対理由の討論といたします。
  101. 平田米男

    平田委員長 これにて討論は終局いたしました。     —————————————
  102. 平田米男

    平田委員長 これより採決に入ります。  第百四十五回国会保岡興治君外十名提出、良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案及びこれに対する佐田玄一郎君外三名提出修正案について採決いたします。  まず、佐田玄一郎君外三名提出修正案について採決いたします。  本修正案に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  103. 平田米男

    平田委員長 起立多数。よって、本修正案は可決されました。  次に、ただいま可決されました修正部分を除く原案について採決いたします。  これに賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  104. 平田米男

    平田委員長 起立多数。よって、本案は修正議決すべきものと決しました。     —————————————
  105. 平田米男

    平田委員長 次に、ただいま議決いたしました法律案に対し、佐藤静雄君外三名から、自由民主党、民主党、公明党・改革クラブ及び自由党の四派共同提案による附帯決議を付すべしとの動議が提出されております。  提出者より趣旨の説明を求めます。佐藤静雄君。
  106. 佐藤静雄

    佐藤(静)委員 ただいま議題となりました良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案に対する附帯決議案につきまして、自由民主党、民主党、公明党・改革クラブ及び自由党を代表して、その趣旨を御説明申し上げます。  案文はお手元に配付してありますが、その内容につきましては、既に質疑の過程において委員各位におかれましては十分御承知のところでありますので、この際、案文の朗読をもって趣旨の説明にかえることといたします。     良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案に対する附帯決議(案)   政府は、本法の施行に当たっては、次の点に留意し、その運用に遺憾なきを期すべきである。  一 住宅は国民生活を支える基本的な基盤であり、ゆとりある住宅に安心して住むことが生活の真の豊かさを確保する上で重要であることに鑑み、国民の価値観や家族形態の多様化等に対応した良好で多様な居住を実現する住宅政策を通じて国民生活の安定と福祉の増進に寄与できるよう努めること。  二 高齢者その他の住宅に困窮する者をはじめ国民の居住の安定が図られるよう、公営住宅、公団住宅等公共賃貸住宅の計画的整備、高齢者向け賃貸住宅供給促進のための制度の整備等により、国民の住宅セーフティネットの構築に努めること。  三 良質な賃貸住宅供給促進に必要な措置をとるとともに、住宅居住性等に関する指針となる水準と目標を定め、その達成に努めること。  四 住宅性能表示については、その普及を図るとともに、性能表示に関する業務の公正かつ適確な実施を確保するため、万全の施策を講ずること。  五 賃貸住宅等に関する情報提供体制の充実及び相談体制の整備を図るため、地方公共団体における公共賃貸住宅の事業主体間での連携が図られるよう努めるとともに、民間賃貸住宅管理業界との連携を密にすること。  六 賃借人賃貸住宅に関する情報入手の円滑化を図るため、地方公共団体において、公共賃貸住宅の募集情報の総合的提供体制の整備を図るとともに、民間賃貸住宅情報提供機関等の紹介等が行われるよう努めること。  七 賃貸人及び賃借人双方に対する相談・調整体制及び紛争処理体制の一層の充実を図るため、国民生活センター、地方公共団体住宅相談窓口、法律相談窓口、消費者センター等における対応の強化について指導するとともに、借家相談マニュアル等の参考資料を作成し、相談機能の充実及び紛争処理の円滑化を図ること。  八 借家制度が国民の多くの世帯と関連を持ち、かつ、生活基盤たる住宅や事業所にかかわる重要な制度であることに鑑み、借地借家法の改正についての国民の理解を深めるため、借地借家法及び今回の改正内容の周知徹底を図ること。    特に、今回の改正は既存建物賃貸契約の更新には適用されないこと、また、定期建物賃貸借制度は、居住の用に供する建物に関し既になされた賃貸借に対しては、当該賃貸借を合意終了したとしても、当分の間、適用されないことを、あらゆる方法を通じて周知徹底させ、国民の住宅に対する不安の解消に努力すること。  九 賃借人居住の安定化の観点から、当該賃貸住宅を取得しやすくするため、賃貸人による賃借人に対する当該住宅の売却情報の優先的提供に関する契約の在り方について検討すること。 以上であります。  委員各位の御賛同をよろしくお願い申し上げます。
  107. 平田米男

    平田委員長 これにて趣旨の説明は終わりました。  採決いたします。  佐藤静雄君外三名提出の動議に賛成の諸君の起立を求めます。     〔賛成者起立〕
  108. 平田米男

    平田委員長 起立多数。よって、本動議のとおり附帯決議を付することに決しました。  この際、中山建設大臣から発言を求められておりますので、これを許します。建設大臣中山正暉君。
  109. 中山正暉

    ○中山国務大臣 ただいまの良質な賃貸住宅等供給促進に関する特別措置法案の附帯決議において提起されました、住宅セーフティーネットの構築、賃貸住宅等に関する情報提供体制の充実及び相談体制の整備、借地借家法及び今回の改正内容の周知徹底等の課題につきましては、政府といたしましても、御趣旨を踏まえまして配慮をしてまいりたいと考えております。  よろしくお願いいたします。     —————————————
  110. 平田米男

    平田委員長 お諮りいたします。  ただいま議決いたしました法律案に関する委員会報告書の作成につきましては、委員長に御一任願いたいと存じますが、御異議ありませんか。     〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  111. 平田米男

    平田委員長 御異議なしと認めます。よって、そのように決しました。     —————————————     〔報告書は附録に掲載〕     —————————————
  112. 平田米男

    平田委員長 次回は、公報をもってお知らせすることとし、本日は、これにて散会いたします。     午後零時二十八分散会