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1999-05-20 第145回国会 参議院 労働・社会政策委員会 第8号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年五月二十日(木曜日)    午後一時開会     ─────────────    委員異動  五月十四日     辞任         補欠選任      菅川 健二君     高橋紀世子君  五月十七日     辞任         補欠選任      但馬 久美君     日笠 勝之君  五月十八日     辞任         補欠選任      斉藤 滋宣君     阿部 正俊君      高橋紀世子君     菅川 健二君  五月十九日     辞任         補欠選任      阿部 正俊君     斉藤 滋宣君      日笠 勝之君     但馬 久美君     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         吉岡 吉典君     理 事                 田浦  直君                 溝手 顕正君                 足立 良平君                 谷林 正昭君                 菅川 健二君     委 員                 大島 慶久君                 斉藤 滋宣君                 鈴木 政二君                 中島 眞人君                 山崎 正昭君                 今泉  昭君                 但馬 久美君                 山本  保君                 市田 忠義君                 大脇 雅子君                 鶴保 庸介君    事務局側        常任委員会専門        員        山岸 完治君    参考人        早稲田大学商学        部教授      鈴木 宏昌君        慶應義塾大学商        学部教授     樋口 美雄君        株式会社三和総        合研究所主任        研究員      鹿野 達史君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事辞任及び補欠選任の件 ○参考人出席要求に関する件 ○労働問題及び社会政策に関する調査  (現下雇用失業情勢雇用対策に関する件)     ─────────────
  2. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) ただいまから労働社会政策委員会を開会いたします。  理事辞任についてお諮りいたします。  笹野貞子君から、文書をもって、都合により理事辞任したい旨の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  3. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  理事補欠選任についてお諮りいたします。  理事辞任及び委員異動に伴い現在理事が二名欠員となっておりますので、その補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、委員長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事足立良平君及び菅川健二君を指名いたします。     ─────────────
  5. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  労働問題及び社会政策に関する調査のうち、現下雇用失業情勢雇用対策に関する件について、本日の委員会参考人として、早稲田大学商学部教授鈴木宏昌君、慶應義塾大学商学部教授樋口美雄君及び株式会社三和総合研究所主任研究員鹿野達史君の出席を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  6. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  7. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) 労働問題及び社会政策に関する調査のうち、現下雇用失業情勢雇用対策に関する件を議題といたします。  この際、参考人方々に一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙のところ本委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。参考人方々から忌憚のない御意見を承りまして、調査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いいたします。  本日の議事の進め方でございますが、鈴木参考人樋口参考人鹿野参考人の順にお一人二十分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、御発言の際は、その都度委員長の許可を得ることになっております。また、各委員質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。  なお、参考人からの意見陳述、各委員からの質疑及びこれに対する答弁とも着席のままで結構でございます。  それでは、まず鈴木参考人からお願いいたします。鈴木参考人
  8. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 鈴木でございます。着席したまま話させていただきます。  私は、急にこちらに呼ばれましたものですから、果たして皆様の御要求に沿えるような形でお話しできるかどうか大変に心配しております。  それから、話をする前にちょっとだけ自己紹介をさせていただきまして、私は現在早稲田大学労働経済論を教えておりますが、私のバックといたしまして、一九七〇年から一九八六年までILO本部、ジュネーブの方で勤めておりまして、労使関係、それから賃金問題をやっておりました。それから、日本に戻りまして、労働時間、賃金労使関係国際比較、特に日欧比較を中心として研究活動をやっております。最近では、ことしの春、雇用形態多様化というので日本と欧州とのシンポジウムなんかを打っております。  それで、今回テーマを何にしようかなと思ったんですけれどもヨーロッパ雇用失業の問題、その中でも一番私自身関心のありますワークシェアリングの問題を取り上げてお話をできるんではないかと思ったわけです。そこで、まずいレジュメといろいろな資料を添えてまいりました。  本題に入りまして、二十分ということですので少し急いでお話ししたいと思うんですけれども、一番最初のところで、「ヨーロッパ失業問題と雇用政策」、ここのところで大まかな動向というのをつかんでおきたいと思ったわけです。それで、ここの図1は、非常に読みにくい表で申しわけありませんが、カラーですとはっきり出たかと思うんですが、ここで、この表自体はよく知られている表なものですから、それほど大きな何か新しいことを得られるというよりも確認をするという意味で持ってまいりました。  そしてここでは、一つ失業率が、一番下の棒線になっておりますが、日本が圧倒的に一九九五年、六年のところまでは低い数値で推移していた。それに対しましてアメリカの場合は、左上のところですけれども、高失業率、しかし一九八〇年代の後半より低下の傾向が見られ、現在では日本アメリカとの間で失業率日本の方が低下するという現象が起こっているということでございます。  それから、ヨーロッパの方で申しますと、一番下の方にございますドイツが一九九〇年代になりまして非常に失業率が急上昇しております。それからフランスにつきましても、一九八〇年代以降、一一%、一二%という悪い状況のまま現在まで推移してきております。それに比べますと、オランダイギリスにつきましては、一九九〇年代の後半あたりからかなり低い失業率になってきている。こういうのがこの表から読み取れることではないかと思います。  それで、なぜこの表を出したかといいますと、実を言いますと、二つばかりのポイントがあるんではないかと考えたわけです。一つは、一九七〇年代前半までヨーロッパというのは完全雇用であった、それが一九八〇年から大量の失業の時代に入っていって既にもう二十年近くも続いている、この点が第一点かと思います。それと付随いたしまして、この高い失業率というのは、短期的にはなかなか失業率は低下しない、つまり構造的な要因というのが相当大きなものとしてあるのではないか。この二つの点だけのためにこの表を持ってまいりました。  それから次のOECDからとりました「経済成長率雇用成長率」ですけれども、ここではやはりアメリカ日本経済成長率と同時に雇用成長率というのが少なくともこの九七年の段階までは順調に推移していたと認められると思います。それに対しましてヨーロッパ雇用成長率は極端に低く、例えばスウェーデンの場合ですと、一九八五年から九五年の間、経済成長は実質で成長したにもかかわらず雇用の面ではマイナス成長であったということでございます。これがある意味ヨーロッパ一つのバックグラウンドになるのではないかと考えております。  それから、少し飛びまして、レジュメの方の二番目のところでいきますと、「失業雇用政策」ということで、これについては細かくお話しすることできませんが、大体私の考えでは五つ、六つの大きな対策がとられているというふうに考えております。一つは、失業者所得保障失業保険というものがある。これは日本と同じでございます。それから、bといたしまして賃金助成。これも非常に各国でとられておりまして、特にターゲットである長期失業者あるいは若年労働者雇用に対しまして賃金助成を行う、あるいは衰退産業を持つ地域の雇用創出に対して賃金助成を行う、こういうことが行われております。それから、職業訓練も当然行われております。それから、早期退職などの労働供給制限、ただ、これは非常にポピュラーな政策なんですけれどもコストが非常に高いものですから最近では余りとられておりません。それから、eのところでワークシェアリング、これについては次のところでより長くお話しいたします。その他のところでいきますと、例えば失業者にお金を与えまして、起業家資金というのを与える、こういうことすら試みられております。  そんなところですけれども、お配りしました一番最後のところの表をちょっと見ていただきたいんですけれども、これはOECDの「エンプロイメント・アウトルック」というものから手元にあったものを取り出してきたんですが、フランス、特にドイツ日本イギリスアメリカあたりが対象になるかと思いますが、これは雇用失業対策支出GDP比です。  それで、OECDの統計なんですけれども、これで見ますと、トータルのところをごらんいただきますと、フランスの場合ですと、GDP比で一九九二年に三・〇七、それから一九九五年には三・〇九。それからドイツの場合ですと、九三年に四・二〇、それから九六年につきましては三・八〇、こういう数字になっております。これと日本を対比いたしますと、日本の場合は一九九五年から九六年にかけまして〇・五二という数字です。ですから、フランスドイツの場合ですと、日本の六倍から七倍の失業手当ですとか雇用関係支出というのが既に支払われている、こういう現状でございます。ちなみにアメリカの方を見ますと、大体日本と同じ程度支出になっております。  これは九六年でございますので、もしも日本失業率が現在のように四・八%、しかも長期化する場合ですと、この雇用関係失業関係支出というのはふえざるを得ない、あるいはヨーロッパ並みになる日も近いのではないかと私は考えております。  そこで、これまで日本で割合と議論されてこなかったワークシェアリングについて、少しお話を申し上げたい。  こういうヨーロッパの中で、財政支出につきまして制限があるところでどういう雇用政策があるのだろうか。御存じのように、通貨統合のときの縛りがありまして、財政赤字につきましては三%という縛りがございますので、そういう中でヨーロッパが最大の問題である失業率を解決するための一つの方策としてワークシェアリングを考えているのではないかと思います。  そして、ワークシェアリングにつきましては、理論的にいきますと、多分、総労働コスト労働者数掛ける労働時間掛ける賃金ということで、労働時間の短縮はもしもアウトプットが一定ならば労働者数増加につながるであろう、こういう想定で出発いたしました。ただ実際には、産業、工業あるいはサービス業によっていろいろな賃金労働時間、特に労働者数の間の関係一定ではないということになろうかと思います。  それで、ワークシェアリングの基本的な考え方というのは、労働時間の短縮を通じての仕事の分かち合いということになろうかと思います。  ただ、ワークシェアリングの主な形態といたしまして、実際には三つ四つございまして、一つは、一番単純な、あるいはイメージが先行するかもわかりませんが、週四十時間から三十五時間への時短。あるいはそれ以外にはパートタイム増加によっても雇用増加するというふうに考えられております。それから有給休暇、これは長期有給休暇増加することによりまして労働時間の短縮を図る、例えば一年二年の有給休暇によりましてその間に代替労働をふやす、こういう考え方でございます。それからキャリアの中断、これは無給で三年五年、例えば育児なんかのためにキャリアを中断し、その間にパートタイムあるいは新しい雇用を創出するという考え方で、これにつきましては北欧などでかなり事例がございます。  ワークシェアリング事例といたしまして、細かなことを申し上げる時間がございませんが、三カ国につきまして代表的な例といたしまして申し上げますと、一番最初IGメタル金属産業におきます労働時間の短縮、これは金属産業労働協約によりまして、これはもともとは一九八四年ぐらいに大きな時短闘争がありまして、それ以降現在では週三十五時間まで下がってきております。それから、それと重なるような形ですけれども、かなり有名なものといたしましてフォルクスワーゲン社ワークシェアリングがございます。これは非常にフォルクスワーゲン社景気が悪く雇用削減リストラの計画を出したときに、週三十六時間を二十八・八時間、一日ばかり労働時間を短縮したということでございます。これは時短にいたしまして約二〇%、この場合の賃金補てんは約二五%ということでございます。それで、一九九五年あたりからフォルクスワーゲン社景気が戻りまして、この事例は成功した事例と言われておりますが、現在でも二十八・八時間が続いているということのようです。  それから、フランスにおきましては、最近一番有名なものといたしまして、現在、オーブリ法というのがございますが、これは現在進行中で二〇〇〇年までに週三十五時間へと移行することをねらっております。この中では一〇%の時短とそれから六%の雇用創出、それを実現する会社につきましては特に社会保険料免除ということを計画しております。これは実際には前例がございまして、ロビアン法という法がございまして、これはかなり成功したケースで、一〇%の時短に対しまして一〇%の新規雇用を約束する、それに対しまして一年目につきましては四〇%の社会保険料免除を行う、こういう形でございますけれども、これは労使協定が必要なんですけれども、約三千件ございまして、約一万五千の雇用創出が行われたと言われております。  それからあと、オランダにつきましてはちょっと時間的にお話しすることができませんが、一九八二年のワッセナーの合意以降、非常にパートタイム労働政労使が重視いたしまして、それで雇用情勢が非常に上向きになってきたということで、ダッチ・ミラクルということで現在注目されているところでございます。  最後のところで、結論的に申しますと、留意点としまして、ワークシェアリングが成功するためには三つ四つポイントがあるのではないかと考えております。  一つは、政労使合意の形成というのが非常に重要なポイントになってくるだろう。そして、政労使ともに、労働者にとりましては賃金、それから使用者につきましては労働時間の短縮という犠牲を払うわけですし、政府につきましては社会保険料削減という形で犠牲を払う。この三つ犠牲をうまく調整するという、そういう合意がなければなかなか難しいだろう。  それから二番目といたしましては、チェックの機構というのを整備する必要があるだろう。協約の締結というのがほとんどの条件になっておりますし、組合代表従業員代表、行政のチェック、こういうチェック機能も必要だろう。  それから、ワークシェアリングの場合ですと、必ずしも時短のみではなくて、時短とその他、例えばパートタイム、あるいは職業能力の開発というものと組み合わせることが可能ではないかと思います。そういう意味では、これはギブ・アンド・テークのものではなくてギブ・アンド・ギブ、ギビング・アンド・ギビングの関係にならなければならないというふうに考えております。  今後、私はワークシェアリングの問題はかなり大きな課題になるのではないかというふうに考えております。特に、中高年の雇用などを保障するときに、こういう時短あるいはワークシェアリングという考え方を使いながら何とか雇用保障の一部を行うことが可能ではないかとも考えております。ですから、短期的な側面と中期的な側面、両方を持っているのがワークシェアリングではないかというふうに考えてこのワークシェアリングの大筋のところをお話し申し上げました。  大体ちょうど二十分だと思いますので、失礼します。
  9. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) ありがとうございました。  次に、樋口参考人にお願いいたします。樋口参考人
  10. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 慶應大学樋口と申します。どうぞよろしくお願いいたします。  鈴木参考人の方から、ヨーロッパにおける失業現状について、その対策等々につきまして今御説明がありましたので、私は日本の現在の失業率をどう見ているかということ、そしてそれに対する対策としてどんなことが考えられるかということについてお話をさせていただきたいというふうに考えております。  御存じのとおり、失業率がことしになりまして再び急速に上昇してきたわけであります。三月の値で失業率四・八%というようなことになってきたわけでありますが、片方景気との関連で考えますと、経済企画庁を初め、景気については底入り底打ちをしたんじゃないかという見方が出ているかと思います。景気は多少なりとも少しずつ明るさを取り戻しているにもかかわらず、失業率が一方的に上がっている。これはどういうことなのかということで、一部の人たちは、この失業率上昇というのはそう懸念することではないんじゃないか、中長期的には解決する問題じゃないかというふうに見ている方もいらっしゃるかと思います。私は必ずしもそういう立場はとっておりませんで、やはり現状失業率というのはかなり厳しいものがあるというふうに受けとめております。  この問題を考える上で、日本における失業率失業者というのはどのように定義されているんだろうか、調査上どうなっているんだろうかというようなことについて若干触れておく必要があるかと思います。  主に二つ条件が課されているかと思います。日本では労働力調査というものによって失業率をとらえているわけでありますが、月末に調査員が各世帯を訪問しまして、そこでアンケート調査のようなものに答えてもらう、調査票に答えてもらうというようなことをやっているわけであります。そして、二つ条件を満たしている人たち失業者であるというふうに定義しております。一つ条件は、過去一週間に所得に直接つながるような仕事をしなかったというようなこと、そして二番目の条件としまして、過去一週間に求職活動、職探しを積極的に行ったというような条件、この二つ条件を満たしている人たち失業者であるというふうに呼んでいるわけであります。  今度の、四・八%に失業率が上がった段階で、実は今まで景気が悪くて雇用機会がなかったために例えば専業主婦になっていた人たち、その人たちが新たに職探しを始めたんだ、そのために二番目の条件を満たす人たちがふえた結果失業率が上がっているんですというような見方をする方もいらっしゃいます。あるいは、今までは、本当は今勤めている企業に対していろいろ不満を持っていたわけでありますが、雇用機会がないというようなことで離職をしなかった。その結果として失業率が低かったわけでありますが、離職がふえることによって求職活動をするような人たちがふえた、その結果が失業率上昇なんだというふうに受けとめている方もいらっしゃるかと思います。  こういう受けとめ方ですと、景気がよくなってきたからどうしても失業率が若干上がってくるということはこれまでにもしばしば経験しましたし、日本では失業率というのは遅行指標です、おくれて現象があらわれてくる、失業率が変化するというような特徴を持っているんだということから、今回もそれがおくれているだけですというふうにとらえる方がいらっしゃるかと思います。  ところが、私が見ますのは、非常に懸念しておりますのは、失業率が上がっているという問題と同時に、雇用者数企業に勤める人たちの数が減ってしまっているということでありまして、必ずしも雇用機会はそうふえていないんじゃないか、そのもとにおける失業率上昇じゃないかというふうに思うわけであります。  こう話しますと、懸念されますのがヨーロッパにおけるジョブレスリカバリーという言葉で示されます現象であります。ジョブレス、仕事がない、雇用機会がないにもかかわらず景気は回復している。人によっては雇用なき景気回復が起こっているんだというような表現をなさる方がいるわけであります。景気はよくなっているのに片方ではリストラがどんどん進んでいく、その結果雇用が失われていくというようなことが起こっているんじゃないかということでありますが、日本でもそういう傾向が少しずつ出てきている可能性があるんではないだろうかというふうに思っているわけであります。  こう考えていったときに、今回の不況の中で失業率が急速に上昇する、こういう現象はなぜ起こっているんだろうかということについて、少し背景的なものを、労働需要側、そして労働供給側、それぞれから見ていきたいと思います。  一つは、短期的に、労働需要側の変化、これはどういうことが起こっているんだろうかということでございますが、景気が悪化して、例えば企業生産量を縮小する、そうしますとどうしても過剰雇用を抱えるわけでありますが、この過剰雇用を解消するまでに一体どれぐらいの期間がかかるんでしょうかというようなことを私ども計量経済学の手法を用いまして計算しました。それに基づきますと、例えば一九七四年から八四年まで、ですから第一次オイルショックからこの間のプラザ合意の前の年までの期間、この年につきまして過剰雇用の解消が三・八年ぐらいで解消していたものが、今回、八五年から九七年になりますと二・六年に短縮してきているというようなことがございます。その分だけ、日本企業では過剰雇用がなかなか解消できないんだといいながらも、全体の日本経済の体質としましてこの過剰雇用を短期間のうちに解消するというようなものが徐々にできつつあるというふうに考えております。  これは一部には、企業倒産というようなことによって、雇用主は何とか雇用を守りたいと思っても守り切れなかった、その結果過剰雇用が排出されてくるというようなこともございます。しかし、私どもが考えておりますのは、どうも正社員について、少なくとも経営が成り立っているような企業においてこれまでのところはまだ雇用を排出する、過剰雇用を解雇するというような形では行ってこなかったのではないかというふうに考えております。  今回いろんなところで企業リストラを発表しておりますが、これについても、例えば二年間とか三年間で従業員を一〇%減少させるというようなことを発表しているわけでありまして、これは既に雇っている人たちを解雇しますというよりも、従来と同じように、例えば定年退職であるとか早期退職であるとか、あるいは出向というような形で、片方でやめてもらう、そしてそれを新規補てんしないという形での縮小、削減を考えているんではないだろうかというふうに思います。  その一方で、なぜこれほどこの過剰雇用を解消するまでの期間短縮しているのかといいますと、どうも正社員の数が減少して、その一方で、従来、非正規社員、日本で正しくない社員がいるのかどうかわかりませんが、非正規社員と呼ばれている人たちの数がふえているというようなことがあるかと思います。  これは今回の不況の中で明らかになってきているわけでありまして、皆様にお配りしましたハンドアウト、図表1というのが二ページ目に載っているかと思います。これは、八七年から九六年までは年次の数字でありますが、九七年からは月次の数字が出ております。黒い棒、白い棒、それぞれあるわけでありますが、黒いところが前の年に比べて有期契約、期限つきの契約を行っている臨時雇用者あるいは日雇い労働者、これがどういうふうに変化したのか、白いところは常用雇用者、これが前の年に比べてどう変化したのかというものを見ているわけであります。  これを見ますと、九八年以降、明らかに白い棒がゼロの水準を下回っている、前の年に比べて大きく常用雇用者が減少していくというようなことが起こる一方で、まだ黒い棒はゼロの水準を上回っているということで、若干なりともこの臨時・日雇い労働者の数がふえているということが日本経済の中では起こってきているということではないかと思うわけであります。その分だけ離職率がもともと臨時・日雇いの人たちは高いですし、あるいは期限つきの契約ということになっていますので、解雇はしないんだけれども再契約をストップしますというような形での雇用調整というものがかなり進展してきているということだろうと思います。  このことは短期的な景気循環の中で今何が起こっているかということでありますが、私が懸念していますもう一つの要因というのは、今回の失業上昇というものが必ずしも短期的な景気循環だけの要因ではないのではないか、むしろ構造的に日本経済の中で抱えている問題というものがこれを生み出している可能性があるというふうに考えているわけであります。  それを判断します指標でございますが、その下の方に図表2ということで「日本の開廃業率の推移」というのが出ております。  例えば、百の事業所があるうちこの一年間に幾つの事業所が新たに設けられたのか、これが開業率であります。廃業率の方は百ある事業所のうち幾つが廃業したのか、倒産していったのかということを示しているものであります。下の方に昭和四十一年から四十四年ということで、高度成長期におきましてはごらんのとおり開業率の方が廃業率をはるかに上回っていた、その結果、日本全体で事業所の数がふえていったということがあります。  ところが、平成になりましてこの比率が逆転してきている、廃業率の方が開業率を上回ってしまうというようなことによって、日本全体における事業所の数が減ってしまっているんだという問題が起こってきています。そこで、開業率を何とか上げなければいけないということが問題になってくるかと思います。それに対する対策をどういうふうに打つのかというのも、これも議論されているところかと思います。  さらに、この雇用保障の問題というのが、最近過剰雇用の解消をいち早く進めるようなシステムに日本も変えていくべきではないか、言うならば過剰設備を抱えている問題と同じように過剰雇用の問題も考えるべきではないかということが指摘されているかと思います。  企業によってはリストラ策を発表した途端に株価が上がるというようなことが起こっているわけでありまして、私はどうもこの過剰雇用の問題というのも今後議論するべき重要な問題だと思いますが、個々の企業雇用責任というのは重大な問題である、今まで雇っていた企業で排出した労働者を新たに雇おうとする事業所がどれぐらいあるのかということについては疑問視せざるを得ないというのが現状じゃないかと思います。  長期的に新規開業がどんどん出てくる、新しい雇用機会が生まれてくる、その段階で議論するべきであって、今、もし仮に過剰雇用を排出するというようなことになれば、それは転職ではなく、あくまでも失業者増加につながるというふうに考えておりますので、この点についてはやはりいろいろ留意して考えていかなければいけないのではないかと思います。  その一方で、今度は働く側の意識、これも大きく変わってきておりまして、従来ですと、日本失業率が低位で安定しているといった理由として、今の企業雇用保障とともに、今度は働く側が、例えば景気が悪化しますとなかなかいい雇用機会がないということでそのまま専業主婦になってしまうとか、あるいは労働市場を離れて非労働力化してしまうというようなことがありました。この人たちは先ほどの失業者の二番目の定義を満たしておりませんので、失業者としてもカウントされないということで、ある意味では失業者上昇するのを抑制するバッファーの役割を果たしてきたということがあると思います。  ところが、今回どうもそういったことが特に女性において起こっていないというのが特徴かと思います。多少、労働力率といいますか、労働参加率は下がっているわけでありますが、それにしても従来の下がり方に比べて非常に小さいというようなことでバッファーの機能が薄れている。  これはなぜなんだろうかということを考えてみますと、やはり家庭の生活が苦しいというようなことによって、共働きで働いて初めて必要な生活費を稼ぐことができるんだというような状況が日本でも生まれつつあるのかもしれないという状況になってきたかと思います。アメリカですと既に六〇年代から七〇年代にかけて女性の社会進出が起こりましたが、その過程では日本が今抱えているのと同じようなことがありました。このことによって、どうも従来の失業率を抑えるバッファーの役割というのが今回はほとんど働いていない。世帯所得の低下というものが、何とか所得を稼がなければ生活費を維持できないんだということから、供給圧力という形で働いているのではないかと思います。  こういう二つの要因が需要と供給それぞれで起こってきている結果が今回の失業率上昇というふうに見てとれるわけであります。  これに対して、ではどのような対策が考えられるのだろうかということでありますが、例えば競争が激しくなればどうしても片方で勝ち残っていくような企業がある一方、やはり敗れて負けていくような企業も存在してくる。そういう勝つ企業におきましては雇用者数を伸ばすと言いながら、片方、負けた企業では雇用者を排出せざるを得ないというような状況がどうしても出てくる。個々の企業における雇用保障に限界が出てくる。私は雇用保障をするということは重要だとは思うんですが、どうしてもそうすることができないような企業も生まれてくる可能性があるわけであります。  そうなってきますと、余っている企業から足りない企業に人が移ればいいじゃないかというような話になるわけでありますが、それに伴って、日本では今まで転職コストというものが非常に高い、この転職コストが高いことがある意味ではミスマッチを生み出しているんだということが議論されているかと思います。  これを解消する対策として、転職コストをどういうふうに引き下げるかということで、制度的な変更というものが今いろいろ議論されているかと思います。  例えば有料職業紹介の職種の拡大でありますとか、あるいは派遣労働についても今衆議院で議論されているところであります。あるいは退職金につきましても、今までの長期勤続者、長期継続就業者が有利に扱われるような退職金税制といったものがあったのではないか、その点についてやはり中立的にするべきではないかというような議論もあります。さらには、企業の年金につきましても、ポータブル化を図っていく、ほかの企業に転職しても前の企業で積み立てたものをそのまま持って移っていくことができるというような制度を変えるべきではないかということも議論されています。  さらには、ミスマッチということを考えますと、今までと同じ仕事を続けることが難しくなってくるわけでありまして、能力転換が必要だということから、能力の転換のための資金援助を政府がどういうふうにするのかということ、あるいはカウンセリングをどういうふうにするのかということも議論になってくるかと思います。  さらには、雇用保険制度で、失業期間が長くなっているんだから、その分だけ給付期間を延ばせというような話も出てくるわけであります。  特に私は最後のこの給付期間につきましては、ヨーロッパの経験は我々に何を教えているんだろうかということを考えてみますと、ヨーロッパ、先ほど鈴木参考人が御説明なさいましたように、失業者が多くなる、失業期間が延びる過程において失業給付というものもかなり充実してきた。一度景気対策としてこれをやってしまった結果として、今度は多少なりとも景気が回復しても自立しようという人たちがなかなかあらわれてこない、むしろ失業という職業を選択するというような人も、全部の人ではございませんが、中には一部生まれてくるんだというようなことを言っているわけであります。  そうなりますと、景気が回復しても失業率といったものがやはり高どまりしてしまうという危険性があるわけでありまして、単純に失業期間を延ばせばそれでいいというものではないだろうと。私は、失業給付の問題を考える上では、所得保障の問題と同時に、再挑戦をどういうふうにすることができるかというシステムづくりといった視点からこの失業給付の問題は考えていった方がよろしいのではないだろうかと思います。再挑戦をするといった場合に、能力開発といった問題が出てくるわけでありますから、能力開発をしている間については失業給付期間を延ばしましょうとかという形で条件をつけた上での対策というものが必要になってくるのではないだろうかというふうに思います。  こういう形で転職コストが引き下げられるというようなことが起こった場合に、果たして労働市場は流動化し、転職コストが下がってくるんだろうか、失業なき円滑な労働移動というのは達成可能なんでしょうかということを考えてみますと、私は転職コストの引き下げというのはあくまでも労働市場が流動化するための必要条件にすぎないというふうに思っているわけであります。必要条件にすぎないわけでありますから、十分条件がなければこれは現実化してこない。そこでいう十分条件というのは一体何だろうかというふうに考えますと、やはり雇用機会がどれだけ用意されているのかということが基本的に重要な問題である。  過去の転職率を見ますと、労働市場は流動化しているんだというようなことが言われる一方で、正社員についての転職率を見ますと、必ずしもそうなっていない。高度成長期の方が圧倒的に高かったわけでありますし、バブル期の方が高かった。このことは、労働市場が流動化するためにはどれだけ人手不足の状況ができるのか、雇用機会が用意されるのかということが重要であるわけでありまして、雇用創出の力を回復するような施策というものが必要なんだろう。そのためにはベンチャー支援ということも必要ですし、私は、こういう景気対策というような短期的な視点だけでこの問題は考えるべきではなくて、むしろ日本の中長期的な視点に合った、ニーズに合ったような景気対策というのを考えていくべきだろうというふうに思っております。  その中長期的な視点というのは、言うまでもなく少子高齢化が進展するということであるわけでありますから、その少子高齢化対策を後々とらなければいけないとするのだったら、今のうちにそれを前倒しして景気対策として利用することができないのだろうかというようなことを考えております。介護の問題あるいは保育、こういったものを充実させることによって働きながらかつ育児をすることができるような環境を整えていく、そういったものも景気対策としても有効な方策ではないかというふうに思っているわけであります。  さらには、今、鈴木参考人がおっしゃいましたワークシェアリングの問題、これもどうしても考えていかなければならない。これにつきましては、労使でどういうふうにするのかといった議論をしていくということが必要になってくるかと思います。  そして最後に、政府の役割として、自由競争の社会における政府が何を目指すべきなのか、労働行政が何を目指すべきなのかということでございますが、私は、何でも自由競争をすればいいわけではない、ジャングルにおける自由競争というのは経済学で言う自由競争、自由経済社会とは違うというふうに考えております。あくまでも、一定のルールにのっとった上での自由な競争、これによって自由競争の効率性、公平性というものは維持することができるのだというふうに考えておりますので、政府は今までのような事前規制というような立場から、むしろ事後的にちゃんとルールが守られているのかどうか、そして、そのルールは適切なものであるのかどうかということについて、事後的な監視機能を強化していくということが必要になってくるのではないだろうかと思います。  そういった視点からも、この景気対策といったところで今いろいろなところで不公平の問題が出てきているわけでありまして、そういったところに目をつぶっていくということは適切ではないだろう、監視機能の強化というものはどうしても政府の役割として考えるべきことではないかというふうに思っているわけであります。  ちょっと一分ほど時間がオーバーしてしまいました。御静聴どうもありがとうございました。
  11. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) ありがとうございました。  次に、鹿野参考人にお願いいたします。鹿野参考人
  12. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 三和総合研究所鹿野と申します。本日はよろしくお願いいたします。  私の方からは、現状雇用情勢の悪化について説明させていただきまして、私の考えますその背景、並びに幾つかの前提を設けまして、雇用調整につきまして先行きどうなるかといった試算を行いましたので、そちらの方を簡単にですが説明させていただきます。  まずは、雇用情勢悪化の現状でございますが、一ページをごらんください。図表1では代表的な雇用関連指標でございます失業率並びに有効求人倍率の推移を示してございます。太い実線が失業率になっておりまして、ごらんのとおり八〇年以降上昇基調にはありますが、九〇年代、特に後半の上昇が顕著になっているというのが見てとれるかと思います。対しまして、点線が有効求人倍率になっておりますが、こちらは失業率に合わせまして逆目盛りで上に行くほど雇用情勢悪化を示す推移になっております。こちらの方もごらんのとおり過去最悪といった水準にまで来ております。こうした状況を考えますと、過去見ない雇用情勢の悪化ということが言えるかと思います。戦後だけ見ましても、七〇年代、オイルショック後の雇用調整は戦後最大と言われてきておりましたが、現状ではオイルショック後の雇用調整を上回ってきているというところかと思います。  そうした形で七〇年代の調整と九〇年代の調整を比べましたのが図表2の二つのグラフになります。  まず、一ページ目下段のグラフをごらんいただきますと、こちらの方は就業者数の推移ということで、こちらは製造業の推移を示してございます。太い実線が七〇年代、点線の方が九〇年代の動きになっておりますが、ごらんのとおり、期間、落ち込み幅ともに七〇年代を上回る調整になってきているというのが見てとれるかと思います。  同様に失業者数について見ましたのが二ページ目の上段のグラフになります。同様に、太い実線の方が七〇年代、細い実線の方が九〇年代の推移を示してございますが、失業者増加をごらんいただきましても、レベル的にも七〇年代を上回っておりますし、期間も既に七〇年代を大きく超えてきているということで、戦後最大の雇用調整といった評価がやはり揺るぎないというところかと思います。  今回の雇用調整につきましては、内容的にもかなり深刻なものになってきております。特に、失業者増加につきまして理由別に見ましたのが図表3になります。ここで注目していただきたいのは、黒点で示しました非自発的離職、これは表題にもございますとおりリストラによります失業者増大と考えることができるかと思いますが、ごらんのとおり、棒グラフ、こちらは前年比になっておりますけれども、いわゆる黒点の部分、特に八〇年代後半以降高水準ということで、今回内容的にもリストラにより強制的に失業者として押し出されているという姿が見てとれるかと思います。さらに、年齢階層別に見ましても、いわゆる家計の中核であります壮年層、熟年層、こちらの方にも失業が及んできているという状況がございます。  三ページ目をごらんください。こちらの方は年齢階層別に失業率を示したものになっております。上段が失業率の推移になっておりまして、九〇年代に入りまして急上昇してきているという状況が見てとれるかと思います。問題は、この傾きになっておりまして、下段の二つのグラフをごらんいただきますと、それぞれ各年代におきます失業率の前年比をとってございます。  これまでどちらかといいますと、いわゆる年齢の高い層、中段にございます点線でございますが、五十五歳から六十四歳、あるいは若年層、十五歳から二十四歳、ここら辺での失業率上昇というのがこれまでも見られましたし、九〇年代、九三年以降のところをごらんいただきましても、ここら辺が中心になっていたという形があったわけなんですけれども現状、足元を見ますと、一番下のグラフをごらんいただきたいんですけれども、いわゆる家計の中核となります壮年層、熟年層、ここでは例えば太い実線、四十五歳から五十四歳のところの推移をごらんいただきますと、直近のところでは急上昇してきているという形が見てとれるかと思います。先ほどのグラフとあわせて考えますと、リストラがついに壮年層、熟年層に及んできたというところかと思います。こうした状況、いわゆるこれまで雇用の受け皿と言われる業種なり機関があったわけなんですが、これも現状では失われつつあるという形でございます。  四ページ上段の図表5をごらんください。これは業種ごとの就業者数の前年比を示した推移になっております。これまで見ていきますと、ごらんいただきたいのは、やはり黒点のサービス業になっておりまして、九〇年代を通じましてこちらの方が企業としては上の方に出ているのが見てとれるかと思います。ただ、直近のところの四半期をごらんいただきますと、わずかながら下に出ているという状況になっております。  そのサービス業の推移を取り出しましたのが下段のグラフになります。これは前年比のグラフになっておりますが、ごらんのとおり、九〇年代、バブル崩壊後も前年比では雇用増加という状況は続いていたわけなんですけれども、直近をごらんいただきますと、点線のところですが、前年比で八万人減少ということで、いわゆる雇用吸収、雇用の受け皿と言われておりましたサービス業、こちらにおきましても雇用削減リストラの進行が始まっているという状況でございます。  失業の状況を見ますと、リストラによります中高年層、特に壮年、熟年層まで失業が及んでいるということでかなり深刻化している。日本全体を見ましても、雇用の受け皿と言われておりましたサービス業がむしろリストラの先頭に立っているということで、九〇年代、特に足元につきましては雇用が総崩れになってきているという認識でいいかと思います。  こうした動きの背景でございますが、私は大きくは二つ考えております。  一つは、企業が先行きに対しまして自信を持てない状態が続いている。当然足元の景気が若干悪くなりましても再び成長軌道に戻るという認識のもとでは、雇用のカットを行わずにいわゆる雇用保蔵といった行動をとるわけですが、その前提が崩れている。言いかえますと、企業は先行きに対しまして成長率がどんどん落ちていくという想定のもとに、雇用調整を逆に言えば景気が回復しても続けざるを得ないのではないかという状況かと思います。  もう一つは、企業収益の水準がかなり下がってきている。もちろん成長軌道に戻るといたしましても、雇用保蔵に関しましては、コストがかかるわけですので、ある程度の収益がなければできないという状況がございます。現状では、収益の水準が下がってきている、端的に言えば赤字企業もふえてきているということで雇用調整が早まっているのではないかという認識でございます。  まず、企業の先行きに対する見方ですが、五ページ目をごらんください。図表6では、企画庁の方のアンケートで毎年行っております今後三年間の予想成長率の推移を示してございます。ごらんのとおり、白い四角が今後三年間の予想成長率になっておりますが、直近では何と〇・八%まで下がってきているという状況でございます。下段では同様に足元の収益状況から企業がどの程度の成長を見込んでいるかといったものを試算したものが実線になります。こちらの方、昨年末〇・八%からこの三月末には〇・五まで下がってきているという状況でございます。こうした期待成長率の低下にあわせまして企業の方のリストラが進行しているというふうに考えております。  この二つ関係を見ましたのが六ページ上段の図表7になります。こちらの点線では先ほど御説明いたしました期待成長率の前年との差を示してございます。ですから、直近ですとマイナス一ぐらいということで、前年に比べて期待成長率が一%程度下がっているという状況でございます。実線が就業者数の前年比になっておりまして、期待成長率の低下にあわせましてこちらの方もマイナスになってきているという状況が見てとれるかと思います。ただ、点線の方を見ますと、九〇年代前半のところでも現状よりもかなり大幅な期待成長率の低下があったわけですけれども、ごらんのとおり就業者数の落ち込みに関しては今回ほどではないという状況がございます。これが先ほど言いました第二の理由、これが現状絡んできているのではないかというふうに考えております。  具体的には、収益水準が落ちてしまっているために調整速度を速めざるを得なくなっているという認識でございます。その収益水準を見ましたのが図表8になります。ここでは太い実線で経常利益を示してございますが、過去を見ますと経常利益が過去最高益を更新した後景気後退という動きが見てとれるかと思いますが、前回を見ますとこの更新なく景気後退に入ってしまったという状況がございます。レベル的にもかなり低いところまで下がってきているということで、企業雇用保蔵に耐え切れなくなっているというところかと思います。  端的には、先ほど申し上げましたとおり赤字企業がかなりふえてきているというのも影響として大きいのではないかというふうに考えております。と申しますのは、債権者あるいは株主からのリストラ要求が強まりますし、企業サイドから見ましても特にファイナンス面での制約を受けるという状況がございますのでリストラを早めざるを得ないという状況かと思います。  その赤字企業の比率を見ましたのが七ページ目の上段のグラフになります。こちらの実線の方が、開銀の財務統計をもとにいたしまして、東証一部、二部上場ベースですけれども、赤字企業の比率を示したものになっております。直近を見ますと、赤字企業の比率、八〇年代後半のレベルまで下がらないまま再び景気後退、点線の方が実質成長率、逆目盛りになっておりますけれども景気後退に入ったということで、この比率が急上昇、レベル的にも九〇年代前半を大きく上回ってきているという状況が見てとれるかと思います。  こうした形で、企業の先行きに対する不安感が強まっているということ、さらには足元の問題といたしまして収益のレベル、ミクロベースでは赤字企業がふえているというところで雇用調整が早まってきているというのが現状の姿かと思います。  さらに、この二つに加えまして、いわゆる構造的な要因、労働需給のミスマッチ等の要因、これによります失業もふえているという認識でございます。これにつきましては八ページ目の図表11をごらんください。細い実線の方が先ほどごらんいただきました実際の失業率の推移になっております。このうち、いわゆる需給のミスマッチ等構造的な要因によって失業が出てきているのはどの程度かというのを試算いたしましたのが太い実線になります。  現状ではレベル四・六%の失業率のうち三%はいわゆる構造的要因ではないかというふうに考えておりますが、ごらんのとおり注目していただきたいのはこの動きでございまして、九二、三年のところをボトムにこれがやはり上がってきている。端的には景気の落ち込み等企業の先行きに対する不安感の増大といった形が失業増加に結びついているというところかと思いますが、さらに加えまして、こうした構造的な要因も加わっているというのが現状の姿ではないかというふうに言えるかと思います。  問題は、足元、このような形で企業雇用調整を早めている。その結果、失業者増加しているわけなんですが、企業にとりまして依然として雇用過剰感が全く払拭されていない、方向としては過剰感が増しているという状況がございます。  こうした状況を見ましたのが下段の図表12になります。こちらの日銀短観の雇用判断、雇用が過剰と考える企業から不足と考える企業の割合を引いたものになっておりまして、上に行くほど過剰感が強いというグラフになっております。ここでは全体と製造業、非製造業別に示してございますが、ごらんのとおり各業種過剰感が増している。当然のことながら全体も雇用過剰感が増しているという状況がございます。  こうした中で、いわゆる過剰雇用がどの程度かといった形で疑問として上がってくるかと思うんですけれども、この数値を試算いたしました九ページ目の上段の図表13をごらんください。こちら、私どもで試算いたしました過剰雇用の試算値になっております。動きといたしましては、先ほどと同様に雇用調整を早めてはいるんですが、過剰感は増してきている。レベル的にもこの三月末で私どもの試算では二百万人強といった数字が出てまいります。レベル的にも九〇年代前半を上回るような形での過剰感が出てきているという状況があるかと思います。  問題は、こうした中、企業としては先行き、リストラをさらに加速せざるを得ないのではないかというところかと思います。  ここでは雇用調整の行方につきまして幾つか仮定を設けまして試算いたしましたのが図表14になります。  まず、ケース1でございますが、企業が今後二年間で雇用調整を行う、過剰雇用の払拭を目指すという行動に出る場合、もちろん経済成長との絡みということになりますが、ケース1の場合は、この四—六月以降ゼロ成長が続いた場合、これはげた等の関係もございますので、今年度の成長率はマイナス〇・八%になります。この場合、今年度どれだけ雇用者が削減されるかという数値が雇用削減ペースのところの数値になっておりまして、大まかに言いまして百万人ペースで減らさなければならないという形になります。この際の失業率ですが、グラフをごらんいただきますと今年度末には六%まで上がるという数値になります。  ケース2といたしましては、今後二%強の成長軌道に戻るといった想定でございます。この場合、年度ベースではプラス成長が維持されるといった形になりますが、それでもやはり六十万人程度雇用削減企業としては考えざるを得ないという状況になってまいります。この場合、今年度前半、失業率に関しましては、点線の推移をごらんいただきますと、若干上昇いたしますが、下期にかけては横ばい圏に入ってくるという状況になってまいります。  ケース3ですけれども、こちらは逆に雇用削減を行わずに景気拡大だけで過剰雇用を吸収するにはどれだけ成長が必要かという試算でございます。ですから、雇用削減ペースにつきましては、表のところをごらんいただきますと、ゼロといったぐあいになっております。どれだけ成長が必要かということになりますと、ケース3のところで五・四%、年度ベースにいたしますと、げた等の関係もございまして二・五%成長といった形になってまいります。この場合ですと、失業率につきましては若干年度末に改善といった姿が出てまいります。  ただ、いずれにしましても、現実的なケースといたしましてはケース2あるいはケース1といったところが考えられるのかと思います。  ただ、問題は、企業の期待成長率が下がらないという前提があるということでございます。過去を見ますと、十ページをごらんいただきたいんですけれども、上段の細い実線は先ほど見ました企業の予想成長率になっております。グラフの点線につきましては、予想成長率と実際の成長率を比べたものになっております。点線が下に出ているということは、企業の予想よりも実際の成長率が低かったということを示してございます。  これを見ますと、九七年以降はこうした状況が続いているわけですけれども、問題は、太い実線をごらんいただきたいんですが、これが期待成長率の上がり下がりの推移を示したものになります。端的に言いますと、点線、すなわち企業の予想に比べまして実際の成長率が下に出ている場合、企業の期待成長率についても下がってきてしまう。ですから、現状レベルでの雇用調整を続けたといたしましても、実際の景気企業の予想よりも下がってしまうという状況がありますと、そうした動きがさらに期待成長率を下げてしまう。その結果、さらなるリストラという形が見えてくるかと思います。  その流れを示しましたのが最後のフローチャートになっておりまして、現状雇用削減を続けるわけですが、結果として所得なりマインドを冷やすということで消費が出ない。その結果、売上高が落ちまして企業の収益率が下がる。それがもう一段の期待成長率の低下をもたらし、もう一段のリストラを強化させる。いわゆるマイナスのスパイラルが働いてくるという状況が十分考えられるというのが問題かと思います。  ですから、こうした負のスパイラルを断ち切るために、現状では景気の悪化に歯どめをかけて雇用機会を創出する、さらには、そうした動きをスムーズにするために労働市場の整備を進めていくというのが喫緊の課題ではないかというところかと思います。  簡単ですが、以上になります。
  13. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) ありがとうございました。  以上で参考人意見の陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑に入ります。  質疑のある方は順次御発言願います。
  14. 斉藤滋宣

    斉藤滋宣君 自民党の斉藤でございます。  きょうは大変お忙しいところ、短時間にコンパクトにまとめていただきお話しいただきまして、大変勉強になりました。三人の参考人の先生方に心から厚く御礼申し上げる次第であります。  今、いろいろお話を伺っておりました中で、もう少しお話を詳しくお聞かせ願いたいと思いまして、若干質問させていただきたいと思うんです。  まず、鈴木先生にお伺いしたいと思います。  ワークシェアリングに対するお考え方、こういう言い方をしていいのかどうかわかりませんけれども、先生の積極論、お話を聞きましてなるほどと思っておるわけでありますけれども、また逆に、そのワークシェアリングにつきましてはまだ時期尚早という御意見もあるのも確かだと思います。これは積極的に進めるべきだという意見と、さらに時期尚早という意見、いろいろあろうかと思います。  そこのところ二つ比較して考えてみますと、日本経済の先行きに対する見通し、景気回復というものがある程度短期的に行われるのか、もしくは長期的なものとなるのか、その判断でやはり考え方が大分違うんではなかろうかと思っております。ですから、その辺の、日本経済に対する鈴木先生の先行きの見通し、これをまず第一点、お伺いしたいと思います。  それからもう一つは、先ほど先生の御説明の中にも付表を使って御説明いただいたんですけれども、先生の論文等も読ませていただきましたが、いわゆる雇用増加の観点から考えたときに、今までどちらかといいますと、我々もそうですけれども、経済が成長すれば雇用増加するんだという意識があったわけであります。  先生のお話を聞いておりますと、EU全体で二%の経済成長率があったときに〇・四%の雇用増加がある。しかし、その中でスウェーデンとドイツにおいては、この表にも書いてあるように、経済成長が高まったにもかかわらず、大した高さではないというのはあるかもしれませんが、経済成長が伸びているにもかかわらず雇用の面ではマイナスになっている。  この辺の理由といいますか、それぞれのお国でどういう現象があって経済成長雇用増加につながっていかなかったのか、その辺のところの先生のお考えをお聞かせ願いたいと思います。  そしてもう一つは、先生のお話の中にもありましたけれども有給休暇というものをうまく職業訓練とか職業教育の中に活用していったらどうだという御提言をされておりますけれども、そこのところをもう少し詳しくお話を伺いたいと思います。  この三点について御質問したいと思います。
  15. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 質問ありがとうございました。  一番最初ワークシェアリング、経済の見通しにつきましてですけれども最初に申し上げましたように、今度の失業率増加というのは構造的な要因が非常に大きく、ちょうどヨーロッパで一九八〇年代に起こったようなことが日本に起こってきているんではないかなというふうに私は考えております。  ヨーロッパの場合でも、八〇年代から九〇年代にかけまして絶えず、経済成長がもとに戻れば雇用問題も回復するであろう、そうした考えを引きずりながらもう二十年も実際には過ぎている、こういうことが非常に大きな問題ではないか、そういう意味では私はかなりペシミスティック、悲観的な見通しを持っております。  それから経済成長雇用率、特にドイツの場合、私細かくは調べてはおりませんけれどもドイツの場合ですと旧東ドイツを合併したということ、それからEUの中での競争の激化というのがやはりきいてきているんではないか。  ある意味日本企業も同じことになるのかと思いますが、使い古された言葉で余り使いたくないんですけれども、グローバルな競争の激化という中でこれまでの企業経営では成り立たなくなって、そこでリストラという雇用削減あるいは技術革新という形で企業の競争力を補ってきた、こういうのが実情ではないかと思います。  スウェーデンについても同じようなことかなと。スウェーデンについては私余り研究したことはございません。  それから、最後有給休暇につきましては、私、病気休暇のことなんかもちょっとやっておりまして、御存じのように大体二十日ぐらい年次有給休暇が付与されまして、そのうち五〇%ぐらいが消化されるというのが現状でございますが、失効する有給休暇をためまして、それで病気のときに使える、こういう制度が幾つかの企業では出てきております。ですから、この失効する有給休暇みたいなものをまとめまして、そして節目節目のときに、三カ月あるいはもう少し大きな、長期間休暇がとれるような制度にすべきではないかということをちょっと考えているわけです。
  16. 斉藤滋宣

    斉藤滋宣君 それともう一つ、先ほど先生のお話の中に、各国のいわゆるGDPに対する雇用対策予算というお話がありまして、アメリカ日本イギリス失業給付中心のところは大変比率が低いわけであります。それ以外、EU諸国を中心とする、先ほど先生その他まで入れますと六点指摘されましたけれども、そういうところについては非常に比率が高くなっている。  そこで、言いづらいのかもしれませんけれども、GDPに対するいわゆる雇用対策費の比率ということに対して、とる政策が違えばそれは当然予算が違うわけでありますけれども鈴木先生の中で、例えば今の日本雇用対策費というのはもっとあってもいいじゃないか、もっとふやせというお考え方なのか、それとも失業給付を中心にやっているというところが妥当なのかなということなのか、その辺のところの少し突っ込みましたお考え方をお聞かせいただきたいと思います。
  17. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) ありがとうございます。  このOECD雇用失業対策に対する表で、内訳なんかがございますが、一つの点は私、先ほどの両先生のお話などから、雇用情勢が、特に失業率が上がったといたしますと、この〇・五二ではとても済まず、今後どんどん膨れ上がっていかざるを得ないだろう、こういうふうに見ております。それからの後は政策的な選択肢が二つぐらいあるのかなと。  一つは、アメリカ型の割合と国が政策的な介入をしない場合ですと、なるべく労働市場の市場原理に任せるということになりますとミニマムな雇用失業支出ということになろうかなと。それに対しましてヨーロッパの場合ですと、職業訓練などを含めましてかなり積極的に雇用失業対策を行っている。こういう二つの選択肢があろうかなというふうに思っております。  ただ、アメリカ型の選択肢というのは日本については本当にあり得るのかなというのが私の個人的な疑問で、樋口先生がよく御存じだと思いますけれどもアメリカというのはもう既に非常に流動的な労働市場であり、二回、三回と、何回となく個人にとって挑戦するチャンスがある国なんです。  それに対しまして日本の場合は、各企業の中に入ったときに転職するコストが非常に高い。こういう構造的なものを持っておりますので、ある日突然アメリカ型に移るということは私は不可能ではないか。特に中高年の人たちにつきまして、これから訓練しなさいと言いましても、四十五歳以上の人に幾ら訓練いたしましても結果として出てくるものは非常に少ないですから、この人たちは私は企業雇用を保障する義務がある、こういうふうに考えております。
  18. 斉藤滋宣

    斉藤滋宣君 ありがとうございます。  そこで、今のお話に関連しまして樋口先生にちょっとお伺いしたいと思うんですけれども現下の完全失業率四・八%という大変厳しい状況の中にあって、先ほど鹿野先生からの御説明にもありましたように、この四・八%の中で構造的なミスマッチによる失業というのが三%を超えている、こういう状況にあるわけであります。  先生のお書きになったものを読みますと、ここでも御説明がありましたけれども、能力開発とか能力転換の資金援助とカウンセリングということも書かれておりました。これは転職コストの引き下げの中に入っている中では、こういった施策をやることによってミスマッチの解消策につながっていき、いわゆる構造的な失業というものを減らしていくということにつながっていくと思うんです。  先生のお言葉をかりますと、いわゆる公共消費から公共投資の時代だという言い方をされているわけですけれども、そういう考え方を含めまして、先生はいわゆる教育投資減税制度ですとか職業能力開発奨学金制度ということも提唱されているわけですけれども、その辺を含めましてもう少し詳しくお話をお伺いしたいことと、さらにこのミスマッチの解消策につきまして、先ほど説明があった以上に先生の方でもしお考えがありますれば、一緒に御説明いただければありがたいと思います。
  19. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 私の考え方を述べさせていただきたいというふうに思います。  今お話がありました能力援助についてでありますが、私は、能力、特に職業能力につきましては、基本的には自己の責任、自己啓発というものが基本にあるんだろうというふうに思っております。どんなに政府が援助しまた企業が援助しても、本人が必要性を感じなければなかなかこの能力開発というのは行うことができない。であるがゆえに、主体はやはり個人にあるんだというふうに思っているわけであります。  今まで日本における職業能力の開発というのは、どうも主に企業が主体になってやってきたのだろう。政府のいろんな助成金につきましても、企業を通じてそこに働く人たちの能力を開発していくというようなことであったわけでありますが、こういう時代においては、自分の能力を開発したいという人たちに対してどういうふうにサポートしていくのかというようなことで、あくまでも主役はやはり本人なんだというふうに思っているわけであります。  そうした場合に、本人の責任と言いながらも、実はお金の面あるいは時間の面で能力開発をすることができないというような人たちがいるわけでありまして、その人たちに対して企業やあるいは行政がどういうふうにサポートしていくのかという視点からこの能力開発についても考えるべきだと。そうなってきますと、従来の、企業に援助を出してというようなスタイルではなくて、あくまでも本人に対して、そのやりたいという人たちに対して出していくということであります。  そういった視点から、例えば奨学金制度も、大学における奨学金というのは今まであるわけでありますが、職業能力の開発についての奨学金、これは奨学金でありますから、基本は後で、能力を開発して例えば仕事につくことができましたとか給与が上がりましたというような場合には還付してもらうということでありますから、自己責任といった視点からもこれは一致する、その方向性に合っているのだろうというふうに思っております。そういったものからしていくべきではないかというふうに思っておるわけであります。  資金的なサポートはそういう形でできるわけでありますが、失業者になれば時間的な余裕というのはいろいろ出てくるかと思いますので能力開発の時間もできますが、既に就業している人たちの中でも過剰雇用ということに対して雇用不安を持っている人たちがいる。だとすれば、その人たちに例えば能力開発する時間を企業の方で融通するとか、そういうようなサポートがあってもいいんじゃないかというふうに思っているわけであります。  もう一つ、ミスマッチについての御質問でございますが、このミスマッチというのは現在の四・八%のうち何%がミスマッチで何%が需要不足失業なのかということにつきましては、これは統計的な手法を私も使ってやったことがありますが、どうもはっきりしないというところがございます。  といいますのも、例えばミスマッチといった場合に、一つの例が年齢によるミスマッチということで、企業は若い人たちを求めているんだけれども片方で年をとっている方で職を探すということが起こってくる。そうしますと、労働市場が例えばタイトになって人手不足だというような場合に、企業としては今までは三十歳以上でなければ困るんだといったようなところがだんだん緩んできて、四十歳でもいいです、五十歳でもいいですということで条件自身が変わってくる。こういうような条件自身が変わることによって実はミスマッチの内容も変わってくるわけでありまして、基本的に今回起こっている問題は、ミスマッチ以上に私は需要不足失業というのが問題の根源にあるんじゃないかというふうに考えているわけであります。  ヨーロッパとの対比で考えますと、ヨーロッパはかなり高い失業率になったわけでありますが、これも基本的にはミスマッチという問題もございますが、どうも二つの要因、一つ失業手当の問題をヨーロッパがどういうふうにとってきたのかということ、もう一つはフレキシビリティーといいますか、柔軟性の問題があるんじゃないかというふうに思うわけであります。  日本の場合には、雇用調整をする、例えば不要になった過剰雇用人たちを調整するということについては経営側が柔軟性を持っていない。むしろ完全雇用を、雇用維持を余儀なくされるというところで硬直的なところがあるわけでありますが、企業の内部における配置転換でありますとかあるいは給与の決め方、こういったことにつきましてはむしろ労働組合側が、雇用保障をしてくれるんだったらいろんなところで代償を払いますよというような形で柔軟に対応してくるということがあるわけであります。  ところが、ヨーロッパの方はそれがなかったということが基本的には失業率を高めざるを得ない、ジョブレスリカバリーという問題として起こってきたのじゃないかというふうに思います。  それともう一つは、長期的に考えて、日本では皮肉にも少子高齢化というようなことで若年人口が減少してくる、これによって労働力人口の伸びといったものがそう高い伸びがない、あるいは二〇〇〇年代、二〇〇五年以降というふうによく言われますが、についてはマイナスになってくるというようなことから、これもまた失業率を抑制するということになってきますので、ミスマッチによって失業率ヨーロッパのようになるというふうには私は考えていません。  むしろ危惧していますのは、それがゆえにといいますか、逆に雇用条件が悪化するというような問題は起こってくる可能性があるのではないか、柔軟に対応するがゆえに起こってくる問題というのがまたあるのではないかというふうに思っております。
  20. 斉藤滋宣

    斉藤滋宣君 ありがとうございます。  鹿野先生にちょっとお伺いしたいと思うんですけれども、先ほど来大変わかりやすい説明で、私どもも大変今の雇用情勢について厳しい認識は持っているつもりでしたけれども、先生の説明を聞きましてさらに深刻な度合いがよくわかったわけであります。  特に、最後のところで先生が御説明いただきました、六〇年代、七〇年代、八〇年代というのは消費と所得というものが、消費の方が先行して悪くなって、それに所得が追っかけていってという循環のお話をされているわけですけれども、九〇年代になるとそれが同時に起こってきて、先生のお話を聞いていますと非常に先行き暗いなという、言葉が適切じゃないかもしれませんけれども、そういう気持ちになって今お話を聞いておったんです。  そういう中で鹿野先生が考えられる、こういう今の現状をどう脱却していくか、そういう対策面で先生のお考えがあれば、御教示いただければありがたいと思います。
  21. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 確かに九〇年代につきましては、これまで遅行指標と言われておりました雇用関連ですけれども、むしろ雇用削減あるいは失業増加が消費を抑制することを通じまして、失業が主導する形での景気後退というところまで来ているのではないかという認識でございます。  ですから、先ほど説明いたしましたいわゆる失業の負のスパイラルを断ち切るためには、前提としては景気の悪化に歯どめをかけ、さらには企業の先行きに対する不安感を取り除くといったところが、抽象的な形になりますが、基調としては出さなければいけないのではないかなと。端的には、雇用機会を提供するという形での対策が出てこないと、家計、企業の不安というのが相乗効果を引き起こしているような状況ですので、やはりこうした動きに歯どめがかからないのではないかなというふうに思います。
  22. 斉藤滋宣

    斉藤滋宣君 時間がなくなりましたので簡単で結構でございますけれども、三人の先生方からそれぞれ簡単にお答えいただきたいと思うんです。  昨日十八日、経団連が産業競争力会議に過剰設備の廃棄、供給構造改革、そして雇用対策の提言をされました。過剰な設備だとかそういう雇用を削ってそれぞれの企業の体力を高めていこう、そして競争力を高めていくということは、今の時世にとっては大変緊急課題だとは思いますし、私も評価するものではあるんですけれども、何かあの話を聞いていますと削る話ばかりで、積極的に何か企業がやっていこうという姿勢が見てとれない。それと、何でもかんでもとは言いませんけれども、要するに保護政策的な、政府にこれをやってもらいたいというところが見えてしまいまして、企業がもっと積極的に勇気を持って前進していく姿勢なんというのは今の時代だからこそ必要ではないのかなという感想を私は持ったわけであります。  もし三人の先生方であの提言に対する感想がございますれば、時間がありませんけれども、簡単にお話しいただければありがたいと思います。
  23. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) きのうの経団連の報告を読んでいないものですから、ちょっとコメントはできないんですけれども、確かに、企業労働市場の流動化というようなことですか、労働市場の規制緩和ということのみを言い出しているのは、少々弱音を吐いているような気がいたします。  私、実を言いますと、四、五年前まで日本的経営というようなことを信奉していたとは言いませんけれども、かなり批判的には見ていましたけれども、終身雇用制で日本企業雇用を確保しているんだと、そういうことを言っていたのが、がらっと変わってしまった。ここらあたりが危ないなというふうに考えて、私自身も終身雇用制のことを少し信じ過ぎたかなと反省しているところです。
  24. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) お配りしましたハンドアウトの三ページ目に図表4というのがございます。これは上場企業の社齢別、企業の年齢別の従業員の変化について書いたものであります。左側に九年以下ということですから創設してまだ間もない企業、そして右側の方に行くに従って古い企業というものが出ております。  これを見ますと、どうも社齢の長い企業、言うなればしにせの企業といったものがここのところずっと雇用を減らしているということでありまして、新しい企業の方が雇用を伸ばしている。新しい企業といいますと両極端で、片方は倒産するというようなところもありますし、その一方で急成長を遂げるというようなことがあるわけでありますが、今まで日本の、完全雇用を達成するのは個々の企業雇用努力に任せるというような形で、どうも新しい企業を生み出してくるという努力を怠ったんじゃないかというふうに思うわけであります。  経団連がどうかはわかりませんが、上場企業で三十五年以上たっているところでは雇用が減っているというような数字で見てとれるわけでありまして、実は日本の上場企業において社齢の長い企業が非常に多くなってきている。逆に若い企業が出てこないというようなことによって、会社の間の世代交代というものが起こってこないという問題があるわけであります。そのために、今回におきましても大企業において特に過剰雇用感というのが非常に強くあらわれている。その一方で、中小企業の中ではやる気を出しているような成長の著しい企業というものが中にはあるわけでありまして、そういったところになかなか人が行かないというような問題が起こっているわけであります。まさに経団連の御指摘に出てくるような過剰雇用の問題というのは、確かにこれを見ますと大企業で強いんだなと。しかも、しにせの企業で強いんだなというようなことがわかるわけであります。  では、こういったところで過剰雇用を排出したらどうなるんだろうかというようなことを考えますと、先ほど鹿野参考人お話しになりましたように、私は、雇用不安というのはやはり起こってくる、その結果、マクロのレベルとしまして消費需要を停滞させて景気悪化ということにつながりかねないということを懸念するところでございます。
  25. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 個別企業の対応としてはリストラを進めざるを得ないという状況はあるかと思いますが、マクロ的には、そうした状況がもう一段の景気の悪化を招き、もう一段リストラを強いるという状況は十分想定し得ると思いますので、個別企業の対応とマクロの経済運営のバランスというのがこれからは求められてくるのではないかなというふうに思います。  設備廃棄の問題でいいますと、旧来型の設備を廃棄することによって、新規分野、特に取りざたされますのは情報通信分野への新規投資が出てくるような制度というのができれば、そうした面でも雇用吸収といったところが出てくるかと思いますので、そうした形でのフレームなり枠組みといったところをつくるのが喫緊の課題になってくるのではないかなというふうに思います。
  26. 斉藤滋宣

    斉藤滋宣君 どうもありがとうございました。
  27. 谷林正昭

    谷林正昭君 民主党・新緑風会の谷林正昭と申します。  きょうはお忙しい中、御苦労さまでございます。先ほどから大変貴重なお話を聞かせていただきまして、大変深刻な状況だということを改めて認識させていただきました。  まず、三名の方に、大変失礼なお聞きの仕方になるかもわかりませんけれどもお許しいただいて、独断で結構でございますのでお聞かせいただきたいのは、小渕総理はコップの水を例えて、まだ半分あるじゃないか、こういうことで楽観的にいこうよ、こういうような発想も大事だぞというふうにおっしゃいました。私もそれを否定するわけではございませんけれども、いざこの失業率あるいは失業ということに関しては、まだこれだけだというのはちょっと乱暴な言い方ではないかなと私は思います。  したがいまして、今後の見通しといいますか、鹿野先生のデータでいきますと五・四%の成長を遂げないと失業率はとまらない、こういうような数字も出ておるわけでございますが、各先生方に、どれぐらいまで失業率が高くなったら社会問題が起きるか、あるいはいつごろまでに三%ぐらいにあるいは四%ぐらいに戻さないと社会問題が起きるか、こういうようなことを独断で結構でございますのでわかりやすく簡単にひとつお願いしたいと思います。  鈴木先生からよろしくお願いします。
  28. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) どうもありがとうございます。  直接お答えになるかどうかはわからないんですけれども、私自身考えておりますことは、経済成長があれば雇用失業の問題は解決するだろうというのは右肩上がりのときの発想ではないかなと。私は何回か言ったんですけれども、どうも今度の雇用失業の問題というのは構造的な需要不足ということで、そう簡単には経済成長によっては解決できないだろう。  そうしますと、経済成長とは別の形で、雇用政策自体として構造的な中長期的な見解で取り組んでいかなければいけないのではないか。その中に、多分労働市場の流動化というのはこれからいや応なしに出てくると思うんですけれども、そのときに職業能力アップあるいは教育のバックアップというものがあって初めて労働市場の流動化ということが本当の意味で機能してくるんだろうと。  ですから、今がある意味雇用失業問題を本当に考えるいいチャンスじゃないかなというふうに考えております。
  29. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 将来の日本失業率がどうなるかというような御質問でございますが、残念ながら私ども条件予測というのはできないわけでございまして、政府がどういうような政策をとるのか、あるいは企業がどういうような政策をとるのか、さらには個々人がどういうような対策を自分で打とうとするのか、それによって大きく変わってくるだろうというふうに思うわけであります。したがいまして、まさに今政策としてどんなことがとられるのかが将来を決めてくる、二十一世紀を決めてくるんだろうというふうに私は思っておりまして、そのとり方次第だというふうに思うわけであります。  ただ、重要なことは、八〇年代末のバブル期におきまして、二十一世紀は日本は人手不足の社会なんだというようなことが繰り返し言われてきました。少子高齢化によって労働力の供給が減少するんだ、したがって人手不足なんだというようなことであったわけでありますが、実態としましてはむしろ人手余りというようなことで、空洞化の問題を懸念せざるを得ないような状況が出てきています。  これまでは、恐らく政府の政策としまして、雇用対策というのは失業者に対する事後的な所得保障をどうするのかというような問題で社会問題というものを回避するということを主にやってきたんだろうと思います。その点は、成長というものがあったがゆえに逆に雇用をつくり出してくれた、その結果、意図的に雇用の場というものを戦略としてつくり出す必要はなかったということがあったと思います。  ところが、二十一世紀になった場合に労働力人口は減少するんですが、場合によってはそれ以上に採用意欲の方が停滞してしまう可能性もあるということでありまして、日本経済が縮小均衡あるいは縮小経済に陥る可能性もあるわけでありまして、それに陥らないためにはどのような戦略を政治としてあるいは企業も含めまして考えていくのかというようなところが重要になってくるのではないかというふうに思います。  今の社会問題ということでありますが、一つは社会的な暴動がいつ起こるのかというような社会問題もあるかと思いますが、私が懸念する同時の問題といいますのは、むしろ現代の雇用不安がこれによって人々のやる意欲を失わせてしまうんじゃないか、社会的な沈滞が起こってくるんじゃないかということであります。自己責任と言いながらも自己の選択ができないと、それによって責任は追及されるだけであって、自分で何かをやろうというような余地が出てこないというような場合にはまさにやる気を失ってしまう、あきらめだけが先行するというような社会になってしまうわけでありまして、それこそが社会問題ではないかというふうに思っております。  それをさせないためには、能力開発であるとか、自分で歩いていこうと考えている人たちをどういうふうにサポートしていくのか、そういう社会政策があってしかるべきではないかというふうに考えております。
  30. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 失業率につきましての先行きの見通しですが、先ほど申し上げましたとおり、むしろ足元におきましては雇用問題が景気の先行きを左右するという状況がありますので、先行きに対しましていわゆる大きな意味での景気対策、これによりまして日本経済が向かっていく方向というのが前提としてかなりの条件になってくるのではないか。足元いい方向に向かうという形の前提を置きますと、目先的には失業率上昇というのは十分考えられますが、二〇〇〇年度にかけては頭打ちという状況が出てくるのではないかというふうに見ております。ただ、レベル的にはどの程度までというのはちょっとこの場では申し上げられませんが。  第二点の社会問題化についてですが、短期的に見てさらに失業率上昇が見られるということで、その間にどうなのかということもあるかと思いますけれども、基本的には労働市場の枠組み、いわゆる現在取りざたされておりますセーフティーネット等の問題あるいは能力開発等の問題、これまでにない中で現状ではほうり出されるという状況があったわけですけれども、こうした状況、整備までには時間がかかるというところがございますが、方向として打ち出すことができる。雇用者あるいは家計サイドを見ましても、そうしたある種の安心感というのが出てくればそうした問題にまでは結びつかないのではないかなというふうに考えております。
  31. 谷林正昭

    谷林正昭君 ありがとうございました。まさに政治の役割がこの後非常に大きいということを認識させられました。  続いて、鹿野先生が提起をされておりますいわゆる失業の負のスパイラル、こういうことが非常に懸念をされる、こういう状況であるということをおっしゃっておいでになります。  そこで、今企業の中に、企業失業あるいは失業予備軍、こういう言葉を使いながら、二百万とも三百万とも八百万ともいるというふうなことも樋口先生の新聞の投稿にも出ておったような気がいたします。「競うように雇用調整 失業予備軍八百五十三万人も」というのが、九九年四月十五日の読売新聞でありますけれども、ここに載っておりました。  そういうようなことを考えましたときに、今急激なリストラ、やるべきでないということと、やらなきゃ産業がもたないということと、こういうことがあるわけであります。いわゆる企業失業者をプッシュアウトさせる政策を国の責任でやるべきか、あるいはその企業、その産業で技術者、有能な技術者も含めて我慢して抱えさせる政策が必要か、これも政治、政策という問題になってくると思いますけれども、経済のいわゆる道筋を立てるためには、別に二者選択ではないんですけれども参考になれば聞かせていただきたいと思います。  これも大変恐縮ですが、三名の先生方にお願いしたい。今度は鹿野参考人の方からぜひ。
  32. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 企業内の過剰雇用の問題、排出するべきかするべきでないかということは、過剰設備の問題とも同様の問題かと思いますけれども、結論的に言いますと、やはり雇用維持と流動化というのを同時に推し進めていくべきではないかというふうに考えております。  端的には、労働能力開発あるいは労働市場の流動化に対します整備づくりといったところが進まない中で、すべての雇用者が押し出されるという形では、先ほどの御質問にもありましたが、社会的な問題にもなりかねないというところかと思います。  ですから、器づくりと同時にそうした流動化を進めていくという形で、ある程度一部は雇用維持という政策も図らざるを得ないのではないかなと。ですから、端的に言いますと、この二、三年に関しましては両にらみの政策というのが望ましいのではないかというふうに考えております。
  33. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 私の考えを述べさせていただきます。  私は、企業失業についてプッシュアウトを積極的にするような施策、個々の企業がどうするかは別としまして、行政といいますか政府の政策としてそれを行うのかどうかということにはちょっと懐疑的であります。やはりやるべきではないだろうというふうに思います。  その一方で、では積極的に過剰雇用を抱えていくような企業をサポートするのかどうかというような施策はどう考えるかということでありますが、そのときに何か基準が必要になってくるのではないだろうか。例えば、構造的に衰退産業であるというにもかかわらず、そこでいつまでも頑張って過剰雇用を抱えてくださいというようなことになりますと、どうしても過剰雇用の先送りをしてしまう。本来であれば市場に任せて調整されていくというようなところを先送りするだけの問題になってしまう。ある意味では日本経済産業構造の転換というものをおくらせるというような可能性があるわけであります。その一方で、一時的な景気問題としまして需要が停滞している、将来的には復活してくることが見込まれるんだというような企業あるいは産業に対してはサポートしていくというようなことが重要ではないかというふうに思っているわけであります。  そういった視点から基準をはっきりさせて、一つの基準は、長期的な構造転換に即したような流れというものは一体何であるのかというようなことを基準に考えていくべきではないか。  今回のほかの雇用対策につきましても、景気対策でいろんな提言がなされているわけでありますが、その景気対策というものが長期的あるいは中長期的な構造転換との関連でどういうふうに考えていくのか、そういった流れに即した景気対策であるのかというようなことが議論されるべきであって、長期的なものは無視して、短期的にさえ雇用が守られればいいとか、あるいは片方雇用が逆に排出されればいいというような問題ではないのではないだろうかというふうに考えております。
  34. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 私の立場は、今回の話でワークシェアリングということを選んだことでおわかりだと思うんですけれども、私は、過剰雇用を外にプッシュアウトするのではなくて、内部である程度雇用を確保するシステムをつくらなければいけないだろう、特に外の転職の非常に難しい層につきましては、企業がこれまで長年企業のために尽くしてくれた労働者たちを保護していく必要があるんだろうと。ただそのときに、保護しろと言うだけではもちろん難しいものですから、社会保険料免除削減、あるいは税制上の優遇措置みたいなものを行いながら、ヨーロッパの場合ですとワークシェアリングを行っている、こういうことだろうと思います。  それから、私は、年齢階層みたいなものもかなり考慮しなきゃいけないだろうと。現在のところ、私の考え方としては、日本を含めまして先進国の経済というのは次第にサービス産業化しておりますので、製造業を中心とした、樋口先生の言葉で言うとしにせの企業ということをイメージするのではなくて、もっと新しい産業サービス業の方に若年層の人たちを再訓練していく、こういうのをシステム化する必要があるのではないかというふうに考えております。
  35. 谷林正昭

    谷林正昭君 ありがとうございました。  時間の都合もございますので、最後樋口先生にお願いいたします。  樋口先生の本なども読ませていただきましたけれども、今はまさに雇用総崩れ、その中でも特に日本の経済も支えてきたいわゆる中間所得者、中流階級意識の皆さんが非常に厳しい状況にある。そういうことを考えたときに、いわゆる賃金労働者、サラリーマンといいますか、こういう方々の生活水準というものがどうなっていくのかということが今後のいわゆる負のスパイラルにもつながろうかというふうに思いますので、生活水準の格差につながらないような政策、これは政治の責任だというふうに私は思います。  したがいまして、中間所得者の崩壊に対する政策があれば、樋口先生のお考えをぜひお聞かせいただきたいというふうに思います。
  36. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 中間所得層の崩壊という表現が日本よりもむしろアメリカでありますとかヨーロッパでありますとかそういったところでよく取り上げられるわけであります。特にアメリカがそうでありまして、所得格差が拡大するという問題として取り上げられます。  これに対する対策、理由は何なんだということに関しましては幾つか理由は考えられるわけでありますが、一つは、発展途上国との競争、これが視野に入れられて、そういった技術、特に先進国で高い技術を持っている人たちについては技術によって守られるわけでありますが、そうではない人たちが徐々に発展途上国との賃金の引き下げ競争というものにさいなまれているのではないかというようなことが指摘されます。あるいは、ハイテク化が進むことによって、特にコンピューター化が進むことによってそういう技能についていけないような人たち、そういった人たちが職を失っていくということ、これによってもまた中間所得層が失われていくということだろうと思います。  その一方、移民の問題がアメリカあたりではあるわけでありまして、これは合法的移民というよりも、むしろ不法移民を通じまして南米から入ってくる。その人たち増加というものが仕事の奪い合いというふうな競争、それによって賃金の引き下げをしているんじゃないかというような議論があるわけであります。  日本を考えた場合、将来どうなるんだろうかということでございますが、まず、コンピューター化、そういったハイテク化をやはり進めていかないとどうしても日本産業構造が立ちおくれてしまうというようなことで、これはぜひ必要だ。その場合には、アメリカと違いますのは、日本の場合には技能的に転換する、例えば一度学校を卒業して就職しても、本人の努力もありますし、さらには会社の援助もあり、それによってコンピューターを使いこなしていくという、職業能力の転換というものが行われるわけであります。そういうことが進む限りにおいては、コンピューター化が進んでも、それにキャッチアップしていくというようなことによって低所得層というのはなかなか出てこないのではないだろうかというふうに期待します。  その一方、ではグローバライゼーションの影響はどうなるのかということは、まさにそういうことが起こってくるわけでありまして、日本企業はどんどん海外直接投資というような形で、特に簡単な作業については海外に移転していくというようなことが起こっています。そうしますと、日本に残っていく上ではどうしても職業能力で勝負していかざるを得ないんだというようなことから、こういったところをサポートしていくことが必要ではないだろうかというふうに考えているわけであります。  それともう一点、よくアメリカではレイオフ制度というのがあるんだ、一時解雇制度があるがゆえに雇用主側が、例えば過剰雇用が発生した場合に、この人たちを排出することができる、一時解雇することができる、その分だけ雇用調整がやりやすいというようなことが言われるわけでありますが、少なくともだれをその対象にするのかということについて組合のあるところではルールが決まっているわけであります。先任権制度というようなことによって、勤続年数の短い人たち最初に解雇の対象になる。日本で今問題になっていますのはむしろ中高年層の過剰雇用というようなところでありまして、この点は日米で全く逆転しているというようなところがあります。  こういったところを考えた場合に、賃金体系はどうしても手をつけざるを得ないんじゃないだろうか。特に年功的なところについてはなるべく修正していこうというような力が少なくとも企業の中で働いてくるんじゃないかと思うわけでありまして、その点は今まで中間所得層という実態を、だれがそうだったんだろうかというようなことを考えたときに、やはり中高年層というようなところにそれが従っていたわけでありまして、そこをどういうふうにサポートしていくのか。しかも、ここでも能力開発というものが社会の変化が激しくなってきますと必要になってくるわけでありまして、そこをサポートしていく必要があるのではないだろうかというふうに考えております。
  37. 谷林正昭

    谷林正昭君 ありがとうございました。終わります。
  38. 但馬久美

    但馬久美君 公明党の但馬久美でございます。  きょうは、三人の参考人の先生方、お忙しいところ本当にありがとうございます。  先ほどから貴重なお話を伺わせていただきまして、日本雇用問題というのは構造的にこれから本当に考えていかなくてはならないというような感じがいたしております。  そういう中で、鈴木先生にお伺いいたします。  鈴木先生は、このジュリストの中で、今ヨーロッパそしてアメリカ、いろいろ海外の雇用失業情勢について書いていらっしゃいますけれども、その中で特にアメリカの状況の変化は非常に驚異的な感じを受けます。我が国の失業状況を改善する一つの方途として、アメリカ雇用創出に努力の兆しがあるものですから、その路線とか施策のどこかにポイントがあるんじゃないかな、そういうような気がいたすんですけれども、一九八〇年代の構造不況に悩んでいたアメリカが一九九〇年代に入りまして数年のうちに雇用創出を千四百万人も達成しております。  この辺、好転した原因がどこにあるのか、もし日本が学ぶとすれば、アメリカの何を参考にすればいいのか、鈴木先生のお考えを聞かせていただきたいと思います。
  39. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) どうもありがとうございます。実際にはこのお答えは樋口参考人の方が適当ではないかと私は思うんですけれども。  確かにアメリカは、ヨーロッパと比べまして雇用創出力が非常に高いというのがやはり驚異的だろう。それと同時に、アメリカ御存じのとおり非常に規制の緩やかな国ですので、例えば派遣労働にいたしましても非常に緩やかな形で雇用がどんどん出てくる。そして、サービス業の方においては特に個人経営のコンサルタント的な人たちなどが創業できるというのが非常にうらやましいなと。これはアメリカのものを即ヨーロッパあるいは日本に移入しようとしてもなかなか無理な部分があるのではないか。それはある意味で、例えばキャリア一つとりましても、アメリカ人の学生たちと対応していますと、個人がキャリアをつくるんだと、ですから企業をどんどん変えていく、そして大学を選ぶという形でもう既に社会の仕組みがそうできているんだろう。  ところが、日本の場合ですと、会社に入ってから二十年、三十年と同じ会社の中でキャリアを積む、こういう社会の仕組みそのものが全然違うものですから、なかなかすぐにアメリカ型に行くのは非常に危険ではないかというふうに私は思っているんですけれども
  40. 但馬久美

    但馬久美君 では、樋口先生、いかがでしょうか。
  41. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) アメリカ社会といいますと、自由競争社会の権化であるというようなことで何でも自由に任されているんだというようなイメージでよく語られるわけでありますが、私は必ずしもそうではないだろうというふうに思っているわけであります。  特に、ルールといったものに対して、ルールをちゃんと守るんだというような、しかもそれを守らない場合にはペナルティーが用意されていますというようなことで、例えばアファーマティブアクションというふうに言われますような差別に対する積極的な是正策、こういったものを強化するというようなことが自由社会であるあのアメリカで行われているということで、必ずしも何でもやっていい社会がアメリカ社会ではない、一定のルールを守ってその上でやっていくんだというようなことになっているかと思います。  今の雇用創出の問題につきましても、では政府は一切タッチしなかったんだろうかというようなことを考えてみますと、必ずしもそうではなかった。むしろ、雇用創出に関してある意味では戦略的な対策アメリカ政府がとってきたのではないか、特に八〇年代にとっていたのではないかというふうに私自身は受けとめております。  具体的にどこをどういうふうにしたのかということでございますが、一つは科学技術に対するサポートというものを大変やりました。特にこれは軍需の問題とも関連しましてやったわけでありまして、それを今度民間に普及させていくというようなことで、インフラとしての科学技術の発展は政府がサポートしていく、そしてそのもとに民間との交流というものを高めながら技術開発を行っていくというようなところで技術的な進歩がかなりあったというふうに思います。  もう一つは、やはり日系企業の果たした役割というのは私は大きかったんじゃないかというふうに思います。日本企業が製造業を中心に自動車産業、電機で特にアメリカに進出していきました。アメリカの製造業、特に今の電機でありますとか製造業といったものが日本企業に技術的に劣るんだというようなことがあったわけでありますが、日本でどういうことが行われているのかというのは、アメリカの日系企業でありますとかあるいは日本に存在する日本企業調査団を派遣しましていろんなことを調査したわけであります。  例えばトヨタのかんばん方式でありますとかそういったことについても学ぶべきものがあるんじゃないかという形で、新しいもの、いいものはどんどん取り入れるんだというような柔軟性があったんだろうと思います。その柔軟性があったがゆえに、製造業におきましても欠陥率が下がってくるとかあるいは生産性を引き上げることができるというようなことで、西海岸のベンチャー、シリコンバレーのところがアメリカの発展の原動力だというようなことがよく言われているわけでありますが、それだけではなくて、やはり東海岸におけるこういう製造業の復活であるとかそういったものも起こってきたんじゃないかというふうに思っています。  そういったものに対して政府がサポートする、戦略としてどう考えていくのかというようなことを、民間と一体になってこの雇用創出については取り組んでいった。それが八〇年代の取り組みでありまして、それが九〇年代になって花を咲かせてきたというようなことがあったのではないだろうかというふうに思っております。
  42. 但馬久美

    但馬久美君 大変貴重なお話をありがとうございました。  それでは、時間が余りありませんので、鈴木先生、樋口先生それから鹿野先生、お三方にひとつ伺います。  不況は、構造不況とも言われておりますように、規制によって守られた企業の経営の落ち込みと、また多くの失業者を受け入れる新事業の会社ができにくいという状況が重なり合って起きるとも言われていると思うんです。そういう規制緩和という言葉は相当以前から使われておりますけれども、これは一向に改善されるということがありません。この規制緩和と構造改革についてどういう御意見をお持ちか、お三方の先生にお伺いして、私の質問とさせていただきます。まず、鈴木先生からよろしくお願いいたします。
  43. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 直接お答えになるかどうかわかりませんけれども、私、能力開発ということで日ごろ考えていることをちょっと言わせていただきますと、能力開発が重要であるのは非常に皆さん指摘されるんですが、これがどういうふうな形で具体的に労働者あるいは労働市場の機能化、流動化というものにつながるのか、ここの点については割合と具体的な提案が少ないように思うんです。  それで、これまで職業教育、能力開発というのは、何となく職業学校をつくる、そしてあとは企業に任せる、こういう形で今までほとんど顧みられなかった政策分野じゃないかなと。これを急に全部変えるというわけにはいかないと思いますけれども、ここのところが間違いなく大きな政策課題であろうというふうに思うんです。能力開発をより具体的に、より労働市場の流動化と結びつけるものは何だろうか、そういうことをもっと議論すべきではないかなというふうに思っております。
  44. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 規制緩和の問題ですが、私は規制緩和という言葉は好きではございません。むしろ規制改革だろうというふうに思っているわけでありまして、規制緩和といいますと、政府はなければいい、なければないにこしたことはないんだというような受けとめ方をされることがあるわけでありますが、私はむしろ政府の役割が変わったんだろう、あるいは変える必要があるのではないだろうかというふうに思っているわけであります。  そのために規制改革という言葉を使いたいわけでありますが、従来はやはり事前規制が非常に多かった。あれをしてはだめだ、これをしてはだめだというような形で政府がいろんなことに規制をしてきた。それは、競争力といったものを考えた上でも、あるいは場合によっては個々の能力を発揮するというようなことを考えた上でもやめた方がいいというふうに思うわけであります。  では、なければいいのかといいますと、これも先ほどからの繰り返しになるわけでありますが、やはりルールがちゃんと守られなければ自由競争ということ自身が崩壊してしまうというふうに思うわけでありまして、政府は事後的に、やはりルールの確立と、それと同時にルールが守られているかどうかの監視機能、これを強化していくべきだというふうに思っているわけであります。  均等法につきましても、小さな政府の流れの中で均等法の強化というのはおかしいじゃないかというような議論がよく出るわけでありますが、私はそうは思っておりません。やはり自由競争をする上では、男女にとらわれず能力発揮のチャンスがちゃんと公平に与えられること、これがあくまでも個々人の能力を発揮し、意欲を現実化していく上で必要なんだということでありますから、自由競争を達成する上でも、こういった意味でのルールづくり、さらにはそのルールがちゃんと守られているかどうかというものを監視していくということが必要なのではないだろうかというふうに思います。  雇用創出の関連からこの規制緩和をどう考えるかということになりますが、私は先ほど、例えば新規開業のところの話としまして、どうも外国の企業はなかなか日本にやってきてくれないというようなことがあるわけであります。日本企業はどんどん海外直接投資をしているわけですが、外国の企業が最近ですと金融業でありますとかそういったところで一部起こってきていますが、なかなか入ってきてくれない。こういったところに一つは規制の問題がいろいろあるのではないだろうか、手続上の問題というのもあるのではないだろうかと思います。  さらには、先ほど介護、少子高齢化に対する対策として雇用創出といったものも考えられるんじゃないでしょうかということを申し上げたわけでありますが、これも、現在の制度をそのまま維持して、ただ政府がお金を出せばそれによって雇用がつくられるのかというと、必ずしもそうではないのではないだろうか。こういったところで規制を緩和する、そういったものを伴いながら政府が助成をしていくというようなことによって一部雇用をつくり出すことが可能なのではないだろうか。この雇用をつくり出す上での規制緩和というのは一体どういうものなんでしょうかということ、あるいは規制改革とはいかなるものであるのかということにつきましても、もう一度検討していくということが必要になっているのではないだろうかというふうに思います。  以上でございます。
  45. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 規制緩和につきましては、八〇年代以降のアメリカの動きを見るということで、経済の構造変革あるいは活性化には不可欠というふうに判断しております。アメリカにつきましては、やはり規制緩和とともにそれを背景とした情報革命、これが経済あるいは雇用の拡大といったところに大きく寄与したということで評価が定着しておりますので、こうした点は推し進めざるを得ないのではないかなというふうに考えております。  ただ、先ほどの問題とも絡んできますが、端的に言いますと、短期的には先にデフレ効果が出てくるということがございますので、こうした点、現状で規制緩和の推進が景気回復の決め手になるかといえばそうではないのではないかというふうに考えております。ただ、方向としては進めざるを得ないという状況と、政府が長期的な観点を持って道筋を示すと同時に、足元につきましては先ほどの雇用保蔵の問題とも絡んできますが、需要創出という点で、負のスパイラルを防ぐと同時に長期的な道筋をつけるという形での両建ての進め方というのが現状では必要なのではないかなというふうに考えております。
  46. 但馬久美

    但馬久美君 どうもありがとうございました。
  47. 市田忠義

    ○市田忠義君 日本共産党の市田忠義です。  きょうは、大変貴重な興味深いお話を聞かせていただきまして、ありがとうございました。  最初に、鈴木先生にお伺いしたいんですが、時間短縮による雇用の維持拡大というのは大変私も興味、関心がございまして、大事な課題ではないかというふうに思うんです。  日本の場合、三百時間とも言われるサービス残業とかヨーロッパと比べてもう大変長時間労働、この短縮によって雇用の維持拡大を図るというのは大事な課題だと思うんですが、先生がお書きになっている中で、労使の合意ができるならば一、二割ぐらいの賃金カットは許容範囲ではないかということもお書きになっているわけですが、ヨーロッパの場合、ドイツフランスなんかの労働時間短縮は賃下げを伴ったものなのか、そのあたりは労使の合意がどんなふうにやられているのか。  それから、もし時間が許したら、フォルクスワーゲンの例なんかをもう少し詳しくお聞かせ願えたら、その場合労使の合意なんかはどんなふうに形成されていったのか。  それから、時短による雇用の拡大が国民経済全体にどんな影響、例えば不況とか景気の回復とかいうふうな問題とどうつながっているのか。ヨーロッパの例なんかでもしありましたら少しお話しいただけないかということです。
  48. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 労働時間短縮をした場合の賃金の取り扱いというのは、確かに非常に重要な部分だろうと思います。そして、これは結局のところは労使の間の交渉事項にゆだねざるを得ないんだろうと。  ドイツのケースでまいりますと、一九八四年から九五年までの金属産業を中心としました労使交渉の中では、賃金上昇率というのを下げるかわりに労働時間を短縮する、あるいは変形労働を導入する傍らで労働時間を短縮するという賃金労働時間との間の一種のトレードオフというのが行われたというふうに私は考えております。  フォルクスワーゲンの場合ですと、ちょっと申し上げたと思いますけれども、個人的にどう配分されたか詳しくはよく調べておりませんが、大体短縮された労働時間の二五%が賃金の保障という形で払われた、こういうのがフォルクスワーゲンのケースと言われております。  これに対しまして、フランスのケースですと、最近のオーブリ法の場合は、二〇〇〇年あるいは二〇〇二年までに三十五時間、これを労使協定で進めなさい、そして二〇〇〇年からは二十人以上の企業につきましては強制的に三十五時間にと、こういう法律なんですけれども賃金については何も語っておりません。これは、要するに労使の間で交渉してほしいということだろうと思います。  ただ、この場合、具体的にどれだけの雇用が確保あるいは創出されるか。こういうメカニズムが、単に労使協定ということで預けるのではなくて、賃金保障あるいは社会保障の免除をするときにももう一度チェックが加わる、こういう形で雇用の確保がチェックされている。そして、例えば二年間あるいは三年間という長期の間雇用を確保する、雇用を創出する、こういうのが条件になっております。  それから、マクロ的なレベル、雇用創出効果というのでしょうか、これはいろいろな計測がありまして、結局条件をどう入れるかによりまして非常に大きく予測値が変わってまいります。例えば今度のオーブリ法ですと、十万人ぐらいから果ては八十万人雇用が創出されるだろう、こういうことなんですけれども、全体的にはある程度雇用が創出されるというのはほとんどの計測結果が出ているのではないかと思います。
  49. 市田忠義

    ○市田忠義君 鈴木先生ばかりで申しわけないんですが、先ほどの質問でお答えがあったのかもしれないので、私聞き漏らしたのかもしれませんが、ワークシェアリングという考え方は、ドイツなどヨーロッパの特殊事情に基づくもので日本にはなじまないというふうな意見が一方ではある。それに対して鈴木先生はそうではないというお考え方だと思うんですが、ドイツヨーロッパの特殊事情に基づく発想だという論者の根拠、それと先生のお考えをちょっと簡潔に済みません、もう一度。
  50. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) どうもありがとうございます。  この仕事の分かち合い、あるいは労働時間短縮により雇用を創出しようということは、決してヨーロッパで初めて起こってきたことではなくて、歴史的に見ますと、もう第一次世界大戦と第二次世界大戦の間のころ、あの大不況のときに、例えばアメリカ労働組合なんかが主に提案いたしまして、一九三六年だったと思いますけれども、ILOの中で四十時間への労働時間短縮というのが、条約だったと思いますけれどもできております。これは、やっぱり雇用創出をしよう、労働時間で分かち合いましょうと、こういう考え方があったんだろうと。  日本ではなじまないというよりは、私はまだ議論されていないというふうに思うんです。今から三、四年前にフランスの人を招きまして会議を開いたときに、後で私ちょっと個人的な感想で、もしかしたらば日本もそのうちに大量の失業者が出る時代が来るかもわからないと言ったときに、私自身も半信半疑だったんですけれども、だれも相手にしなかった。  失業という問題が出てきたときに、いろいろな解決案を考えると、ほとんど同じことは日本でもうされておりますので、そうするとあと残るのは何だろうかと考えたときに、私、個人的にはワークシェアリングということにつながったと、こういうことでございます。
  51. 市田忠義

    ○市田忠義君 次に、三人の参考人の方にそれぞれお聞きしたいんです。  同じ質問なんですけれども、先日総務庁が発表した労働力の特別調査で、完全失業者三百十三万人で、そのうち非自発的失業者が百二万人、人員整理、会社倒産による非自発的失業者が三十万人という数字が出ておりましたけれども、今のグローバルな競争に勝ち抜いていくためには人減らしや労働条件の切り下げというのはやむを得ないと。私は企業の論理からすればある意味では当然の論理でもあるかと思うんですけれども、ただ、そういう立場に立つと、競争のある限り人減らしや労働条件の切り下げは永遠に続くということにもなるわけです。先ほどどなたかが企業雇用責任、社会的責任ということをおっしゃいましたけれども、例えば内部留保をふやしながら人減らしをやっているような大企業もありますし、そういう点で、企業、とりわけ大企業雇用責任、社会的責任というふうな点についてどういうふうにお考えかということ。  もう一つ、それぞれの企業の個別努力だけでは、いかに効率的にどのようにもうけを上げるかというのがやっぱり企業の論理であるわけですから、自分のところだけがリストラをやらないでおこうというのはそれは無理があると私は思うんです。そこにはやはり何らかの社会的、法的な規制が必要じゃないかなというふうに思うんです。解雇の法的規制についてはいろいろ意見もあり、功罪いろんな意見があるかと思うんですが、果たして野放しでいいのか、何らかの法的規制がヨーロッパなどのように必要ではないかなというように私自身は思うんですけれども、そういう解雇の社会的、法的な規制の問題と大企業なんかの雇用責任、社会的な責任の問題について、それぞれ三人の参考人の方がどのようなお考えをお持ちか、簡潔に述べていただければありがたいと思います。  以上で時間が大体来そうですから、それで終わります。
  52. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) まず企業雇用責任についてですけれども、恐らくは、大企業ベースでということで考えた場合に、ただ、現状を見ますと大企業でもかなり苦しいところまで来ているという状況がございますし、これまでと違って、大企業は倒れないというところ、全く九〇年代後半の動きを見て、雇用者サイドから見ましても、そうしたある種神話が崩れたという状況にあるかと思います。ただ、そうした状況で、やはりぎりぎりのところまで来ているというところでは企業としてもリストラを進めざるを得ないというのが現状ではないかなというふうに思います。  あと、個別に関しましてはルールづくりというのがやはり肝要になってくるのではないかなと。もう一方で言うと、労働市場の整備とともに、そこにほうり出された場合に、ある種のセーフティーネットがあることによって雇用意欲、あるいは雇用者サイドからしても就職の意欲というのを失わせないという枠組みが必要になってくるのではないかなというふうに思います。
  53. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 先ほどの御指摘の非自発的離職による失業者が急増している、この問題をどういうふうに考えるかということだろうと思いますが、自発的離職者も含めまして、離職者自身、合計としては必ずしもふえていない。むしろその人たち失業期間が延びている。新しく受け入れてくれるところがないために離職者がそのまま転職者にならないで失業者になっているというようなことが、実は二月、三月の数字でこういう非自発的離職者がふえている主な理由じゃないかというふうに思っているわけであります。それだけ受け皿がないというようなところが問題になっているのではないかというふうに思います。  御指摘の解雇の法的規制を日本で導入する必要があるのかどうかというようなところでございますが、これは労働法においては、法律には書いていないわけでありますが、過去の判例において解雇権乱用規制というのがいろいろなされてきました。解雇する以前にやるべきいろんな例えば経営側の努力でありますとかそういったことを考える。それをした上でもどうしても解雇せざるを得ないというような状況においてそれをしろというような判例があるわけでありまして、これはかなり強いものではないかというふうに私は思っています。  これをさらに強化するというようなことになった場合、どういうことが起こってくるんだろうか。確かに既に雇った人については解雇しなくなるわけでありますから、その効果はあるだろうというふうに思うわけでありますが、その結果は、むしろ企業側が、一度雇ってしまうともう雇用といったものが、人件費が硬直化してしまうんだ、固定化してしまうんだというような懸念を持つことによって採用自身をとめてしまうということが起こってくる危険性があるのではないだろうかというふうに思うわけであります。  先ほどのヨーロッパのジョブレスリカバリーといったところでもどうもそういった動きが見られるわけでありまして、一度雇っちゃうと大変だよというような認識が強い。そのために、例えば人手不足ということであれば、簡単に解雇といいますか雇用調整をできるような人たちを対象として採用を行うというようなことが行われているのが実態ではないだろうかと思うわけであります。  ですから、目の前にいるもう既に雇った人たち雇用を守るということが、逆にこれから新規に採用されよう、新しく働こうというような人たちをシャットアウトしてしまうというような危険性があるんだとするならば、この解雇の法的規制を強化するということをいろいろ留保条件をつけて考えていく必要があるんじゃないかというふうに思っています。
  54. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 企業雇用責任ということについては当然あると考えております。そして、私、頭に浮かべますのは、今から例えば三年前、四年前の日本の経営者の人たちの発言を考えてみますとほとんどの場合、日本的な企業というのは、雇用を守る、従業員は企業の最大の資産である、こういうことを言っていた企業が最近になって逆転してしまった。この考え方が余りにもぶれが大きいというのが私にとっては非常に心配なところです。  それから、解雇規制につきましては私はちょっと樋口参考人と違う感触を持っておりまして、解雇乱用の規制につきまして、これはまだ判例法であり、しかもほとんどのケースが一九五〇年代から六〇年代につくられたものである、こういうことを考えますと、法律は私の専門ではありませんけれども、非常に危ないなという気持ちがしております。  それで、それを補うものとしまして日本的慣行というのがあったと私は考えているんですけれども、その日本的慣行の基盤が今崩れつつある。そうしますと、一番私が心配しているのは、社会的な弱者であるところの中高年の人たちを排出してしまう。それに対する一種の歯どめが何もないのではないか、ここを非常に心配しておりまして、必ずしも行政が厳しい形で規制するという形のみではなくて、もっと従業員の声を聞く、それから解雇のときに相当の予告期間を置く、こういう形での規制というんですか、解雇の手続みたいなものをもう少ししっかりと見据える必要があるのではないか、こういうふうに私は考えております。
  55. 市田忠義

    ○市田忠義君 どうもありがとうございました。
  56. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 社会民主党の大脇でございます。  鈴木参考人にお尋ねしたいんですが、我が国におけるワークシェアリングの導入のための障害というものをどのように考えていらっしゃるかについてお尋ねしたいと思います。  先般、雇用サミットに出かけられた労働大臣が、欧州の方のワークシェアリングの状況を見て、生産性ということを全く考えていないんじゃないかというような発言をなさったわけです。先ほどの御説明でも、ワークシェアリングというのは雇用創出に力点があり、政労使の適正な犠牲の負担が施行の条件というようなことをおっしゃったわけですが、我が国ではそのワークシェアリングをするよりも安いパートとか派遣とかアルバイトを導入した方がいいというのが企業傾向だと思いますが、その点どのようにお考えでしょうか。
  57. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 前提条件一つございまして、私は日本の輸出産業の競争力というのはまだまだ非常に強いというふうに考えております。  それで、ワークシェアリング時短が進みますと、ある程度コスト上昇というのは否めないだろうと思うんですけれども、そのときに、それでは日本企業がそれによって競争力が弱まるかというと、それで初めてほとんど対等な立場になるんではないか。輸出関連の産業のケースですけれども。  それから、ワークシェアリング導入の問題点といたしまして、一番最初にはやはり社会的な合意といいますか社会的な関心がまだ全然ないというのが一番大きな点かなと思います。  それから、二番目といたしまして、企業の中におきまして、私は、組合、従業員の声というのが次第に聞こえなくなってきているのかなと。特に、弱い立場にある労働者の声を反映するような仕組みになっていないのかなと。そこのところが非常に危惧しているところであり、逆に言いますと、もしもワークシェアリングが進むといたしますと、そういうものが仕組みとして出てこなければワークシェアリングが実現できないというふうに考えております。
  58. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 ありがとうございました。  樋口参考人にお尋ねしたいんですが、アメリカなどでは自由競争にもルール化があるというふうに言われるわけですが、日本における規制緩和を見ておりますと、なかなかそうしたルール化が見えてこないという点があると思います。  それで、失業率のミスマッチといいましても、やはり年齢とか性による差別というものが今までの我が国の構造的な要因としてあったと思いますので、この性別あるいは年齢の差別というものに対する我が国の規制というものが必要ではないかというふうに思います。  性別には雇用機会均等法がございますが、年齢についてはまだ見当たらないんですが、それはどのような方向を目指していったらいいのか、お考えをお聞きしたいと思います。
  59. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 性差別の問題は、御指摘のとおり、日本では男女雇用機会均等法が改正され、それを強化するというような流れがあったわけでありますが、年齢に関しましてはほとんど法的な問題というのはないんではないかと。むしろ、定年制というのが年齢に関して雇用をどういうふうにするのかといったような一種のルールになっているわけであります。  例えば、六十歳の定年制というものをどういうふうに考えるのかということでありますが、それには二つ意味がある。六十歳までは雇用を保障しなさいという意味と六十歳になったら今度は保障しなくてもいいよというような意味二つ持っているわけであります。長期的に考えたときに、この年齢による差別、あるいは年齢によって雇用管理をしていくというようなことに対しては、やはり考え直す必要があるんではないだろうかというふうに私は思っております。  ジェンダーフリーの社会と同じように、エイジフリーの社会ということでありまして、年齢という理由によって例えば解雇することができるとかということはむしろおかしいんじゃないかというようなことでありまして、やはり本人の能力と意欲、これに基づいて雇用管理というのは考えていく必要があるんではないだろうかというふうに思います。  アメリカにおきましても従来は定年制を設けていたわけでありますが、この定年制を憲法違反ですというような判断を下しまして、今、法的にこの定年制を持っているものはなくなっているかと思います。むしろ、やめる時期というのは本人が選ぶんだと。しかし、企業としましてもいつまでいられても困るというようなことから、企業年金制度を使いまして、何歳でやめるのが一番あなたにとっては得になるのかというようなことを提示し、そして本人がやめていく引退年齢を選択するというような方向になってきているというのが実態だろうと思います。  しかし、かといって、すぐにこのエイジフリーの社会をつくる、目指すのは目指すんですが、では今そういった定年制はもうやめましょうといった場合、これだけ中高年層に対する過剰雇用感が強い中でそれをやった場合に、場合によってはそれが悪用されて、逆に失業者が大量に発生してくるというような可能性があるわけでありまして、徐々にそれを展開していく必要があるんではないだろうかというふうに思っております。  それともう一つワークシェアリングとの関連で一つだけ申し上げたいんですが、日本ではワークシェアリングが行われてこなかったんだろうかということにつきましては、これは必ずしも意見が学者の間でも一致しているとは思いません。むしろ、景気のよしあしに応じて総実労働時間というのはかなり日本の場合には調整するというようなことをやってきたわけであります。特に、それが残業時間というような形で、景気が悪くなれば一番最初雇用調整の対象、そのストラテジーとして残業時間が使われるということでありますので、その点については、見方は違いますがワークシェアリングをやってきた。ワークシェアリングというのが一体どういうような定義が与えられるんだろうかというようなことを考えていかないと難しいんではないだろうかと思います。  それと、日本でなぜ残業時間を調整することができたのかといいますと、やはりそれに応じて給与が変わるということがあったと思います。ヨーロッパあたりで考えれば、時間給で支払われているというような人たちが多いわけでありますから、そういった場合に時間が半減すれば給与の方も半減してくる。その半減する部分をどういうふうに保障していくのかというようなところであるわけでありますが、日本の場合、月給制をとっているような場合には、必ずしも労働時間が短縮されたからといって月給を引き下げるのかどうか。労働時間が半分になったときに、月給は半分でいいよというようなスタイルになるのかどうかというようなところで、いろんな労使の間での意見合意といったものを得にくいというようなところが実態としてあるかと思います。  ただ、私は、鈴木参考人と同じように、ワークシェアリング労働時間を短縮するというようなことも今や日本雇用創出を考える上では検討しなければならない時期に差しかかってきているというふうに思っております。
  60. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 鹿野参考人にお尋ねしたいんですが、先生の予測によりますと、失業率が増大をして負のスパイラルというものが見込まれる中で、望まれる雇用機会の創出ということですが、我が国の雇用創出力が弱いという弱点をどういう戦略でもって克服していったらいいか、お考えがあればお聞かせいただきたいと思います。
  61. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 基本的にはやはり景気運営と一体となってという形が望ましいんではないかなというふうに思います。  ですから、現状、経済全体を考えた上で、特に雇用という面が、かなり雇用調整が先導する形での景気後退というのが現状の姿かと思いますので、全体の景気悪化に歯どめをかけるといったところをまず前提として、その上での労働市場の整備といった形で、全体として経済を立ち上げていく中で雇用機会を創出していくという形が望ましいんではないかというふうに考えております。
  62. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 三人の参考人の方にお尋ねをしたいんですが、今まで労働組合の運動なども右肩上がりの成長を前提としてさまざまな運動を起こしてきましたし、企業も政府もまた同じようなものであったわけです。しかし、規制緩和が進行していく中で、賃金所得の格差が拡大をしていくということの危険が言われているわけです。経済戦略会議でも、我が国ではセーフティーネットをきっかり張っていくことを特色とするんだというようなことを言っているわけです。  今、働く人たちのために最も必要なセーフティーネットというものは一体何なんだろうかということですが、それについてちょっと御意見を伺いたいと思います。鈴木先生からお願いします。
  63. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) ありがとうございました。  私は、個人個人の労働者にとりまして一番必要なものは、市場で自分の能力を売れるような、そういう能力を持つことだろう。ただし、その能力を持つというのは、現在すぐに持てと言われてもとてもできませんので、これは中長期的な目標になるんだろう。特に、私は職業能力に関するこれまでの仕組みというのが非常に欠陥が多かったというふうに認識しております。  ですから、最後的にはセーフティーネットというのは個人の能力をいかにしてふやしていくか、そして現在のところは雇用をいかにして確保していくか、こういう両面かなと考えております。
  64. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 私が考えます最も必要なセーフティーネットということでございますが、セーフティーネットにはやはり二つ意味があるんではないかというふうに思っております。  一つは、やはり所得保障をすることによって安心を国民に与えるというようなこと。このことは、ある意味では失敗してもある程度の保障がされるんだというようなことで、やはりリスクの高いものに再チャレンジするというようなことを可能にする。ただ安心してそこにそのままとどまってしまうというようなことでは実は困るわけでありまして、二つ目のセーフティーネットの意味というのはまさに再挑戦を可能にするというような役割をセーフティーネットは持っているんではないか。  そういった視点から、自由競争の社会においては必ずこのセーフティーネットがなければ競争自身が機能しない、セーフティーネットのない社会においてはみんなが萎縮してしまって、挑戦しようというような人たちがだれも出てこないわけでありますから、自由競争をする上ではどうしてもセーフティーネットの充実といったものが必要になってくるんだろうというふうに思います。  そうなった場合、今の二つの目的を達成することができる最大のセーフティーネットは何だろうかというふうに考えれば、やはり本人がやる気、意欲を持っている場合にそういったチャンスをつくり出すというようなことであります。例えば、勤め人として会社に勤めようということであれば、そのときには雇用創出が最大のセーフティーネットだと。本人がやる意欲があった場合に、それを雇いましょうというような企業があれば、これは財政支出をしなくてもある意味ではセーフティーネットとして機能するものでありますから、これが最大ではないだろうか。そうした場合に、企業としてはどういう能力を持っている人というようなことが条件として出てくるわけでありますから、それに対してその能力開発を自分でしていく、それに対して行政としてやはりセーティーネットとしてそれをサポートしていくというようなことが必要なのではないかというふうに考えております。
  65. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) まず、右肩上がりの経済成長、この全体が崩れた中ではやはりかぎとなりますのは個々人の能力といったところで言えるかと思います。そうした点では、能力開発といった点が一つの大きなかぎになるのではないかというふうに考えております。  アメリカにおきましても、確かに能力別の所得格差が広がっているわけですが、全体的な学歴なり能力の向上によりまして、その格差の拡大にはようやく歯どめがかかってくるという状況が出てきておりますので、そうした方向を目指すべきではないかなというふうに考えております。  そうした点では、労働市場におきましては、所得の補てんとその期間の長期化、その間に能力開発ができるような制度並びにその枠組みをつくっていくべきではないかなというふうに思います。
  66. 大脇雅子

    ○大脇雅子君 ありがとうございました。
  67. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 自由党の鶴保です。  先ほどの大脇委員お話の続きを聞きたいなという気がちょっとしましたものですから、急遽そのことでお願いをしたいんです。  所得保障、私は今お話を全体お伺いしておりまして、非常にこれは大変なことだなと。言ってみれば、景気が回復しても失業者は全然減らないということをおっしゃっている、お三方はいろいろ立場、ちょっとニュアンスは違うのかもしれませんけれども。  では、セーフティーネットがあればいいのかということを今聞いてみましたら、それは失業してからの話ですから、ではどうすればいいんだということをまず聞きたいんです。これは政治家が考えることだと言われてしまえばもうそれまでなんですけれども、特に鹿野参考人のものを読ませていただきますと、その最大のポイントは、企業が引き続き先行きに対して不安を持っている。その先行きに対する不安ということの本質みたいなものはどんなものだということがもしあれば、ちょっと教えていただけますか。
  68. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 先ほど説明させていただきました先行きに対する不安といたしまして、企業の期待成長率というのを御披露したと思うんですけれども、これを見ますと、実は端的には足元の収益率にかなり左右されていると。ただ、実際の潜在的な企業成長率というのはもっとあるはずなんですが、足元の収益の悪化によってかなり悲観的に見ている。ただ、これが結果として雇用調整なり設備の調整を招いてしまうという状況がございますので、そうした点をまず一つ解決していかなければならないということかと思います。  そうした点で、雇用コストも含めたコスト削減というのは、企業単体としてはやらざるを得ないという状況はあるかと思うんですが、端的には政府が、短期的にということにはなりますが、需要創出といった道筋をつけていく、そうしたところが必要になってくるんではないかなと。  もちろん、通常の経済状態であればそうした方策は必要ないということかと思いますけれども、まさに負のスパイラルに入ってきてしまっているという状況のもとでは、それに関して何か歯どめをかけなければいけないというのが足元のとるべき政策ではないかなというふうに考えております。
  69. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 私は、実はそれに対しては非常に疑問を感じるといいますか、立場が違うのかもしれません。だから、教えてほしいんです。  立場が違う中から聞きたいのは、例えば需給ギャップ論というのがあります。いわゆる景気を回復させるための公共投資あるいは施策、それが前提ですべて、真水を十兆円にするか三十兆円にするかというような話が今出てきております。  これについて、特にまた鹿野さんにお願いをしたいのは、御社の三和総研はいろいろその中での調査も含めてされておられると思います。その辺について、需給ギャップ論という論議とのかかわりの中でどういうふうにこのことを考えていらっしゃるのか、ちょっとお伺いできますか。
  70. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 需給ギャップに関しましてはさまざまな試算がございまして、私どもは四十四兆円程度あるのではないかというふうに試算しておりますけれども、やはり問題となるのはその方向感ではないかなというふうに思います。  ですから、需給ギャップ、現状ですとデフレギャップが四十四兆円あるという私どもの試算でございますが、それがさらに拡大していくのか、あるいは横ばい圏に入ってくるのか、あるいは逆に縮小に向かっていくのか、この方向感というのが一番重要ではないかなというふうに思います。  それに応じまして、個別企業の対応としては、設備投資をふやすか、雇用をふやすかという状況になってくるかと思いますので、ギャップを埋めるための事業規模ということではなくて、方向感といたしまして、日本経済の潜在的な成長力、これに見合っただけの需要創出というのができるのかどうかというところの議論になってくるのかと思います。
  71. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 わかりやすく言えば、そうすると投資する先といいますか、これから広げていく産業分野ということなんでしょうか。鹿野参考人、ちょっとお伺いいたします。
  72. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 過剰雇用の試算でも業種別のばらつきが見られるということがございましたので、中長期的ないわゆる構造改革の道筋にのっとった形での公的部門あるいは民間部門での投資がなされていかなければ、日本経済の潜在的な成長率自体が下がってしまうという状況が十分想定し得るんではないかなというふうに思います。  ですから、やはり分野としては八〇年代以降のアメリカに倣うという形ではございませんけれども、情報通信、こちらの社会資本整備といった形が方向としてはまず一つとして考えられるんではないかなというふうに思います。
  73. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 わかりました。  その先行き不安感というものがそういうことなのかなというふうに、ちょっと私もわからない部分がありますが、先ほども言いましたが、ジョブレスリカバリーですか、樋口先生、景気は回復しているが失業率の悪化はそのままであるというお話、本当にこれはもう目からうろこが落ちると言ったらあれですけれども、もしそうであれば非常にこれは危機的な状況であろうというふうに思うんです。  そうすると、これは少々危ない質問かもしれませんけれども、派遣労働者法が今度当委員会にも付託されてまいるという状況になっておりますが、このことについては先生はどういうお立場でお考えでいらっしゃいますか。
  74. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 派遣労働者の問題について、例えば従来の派遣労働者というのはあくまでも技能を持っている、そういった特定の職種についてそれを認めましょうというようなことであったわけです。今、案として出ておりますのは、むしろそれをさらに一般職についても広げていこうというようなことで、そうした場合に、先ほど冒頭に申し上げました雇用の変化が常用労働者のところで起こってきているのか、それとも非正規社員と呼ばれている人たち雇用が変化するのかというようなところで、ここのところ景気の低迷の中で正社員がまさに減ってきている、その一方で非正規社員の数というのは多少なりともまだプラスであるというようなことがあるかと思います。  なぜこうなっているんだろうかということを考えますと、やはり企業が右肩上がりが期待できないというようなことから、人件費が硬直化しては困るんだというような意識によってそれを回避したい、そういった意味で有期の雇用をふやしたいというようなことでそれがふえてきているんではないだろうかというふうに思います。  派遣労働者につきましても、ある意味では派遣を受け入れる側としましては典型的な有期雇用というようなことになりますので、そういった形で今後も需要は高まっていくでしょうというふうに思います。  ただ、派遣労働といったものをただ単にそういう有期雇用の対象であるというふうに考えるのがよろしいのかどうかということでありまして、私はやはり職業紹介の一環であるというふうにこの派遣労働者というのを受けとめています。  ですから、一定期間雇う、そこでは職業紹介といった意味で働いてもらって、その人がその企業に合うのかどうか、また働く側から見てもその企業が自分にとって適職であるのかどうかというようなことを考え、一定期間がたった後には正社員、普通の雇用形態に変わっていくというようなこと、これを推し進めていく方が望ましいんではないだろうかというふうに思うわけであります。企業としましては、初めて会った人、初めて採用した人が自分の企業に合うのかどうかわからないまま雇用保障しろというようなことに対してかなりの抵抗感があるわけでありますので、こういったところをちゃんと守っていく。  ただ、それが野放しになってしまう可能性があるわけですね。一定期間を雇った後についてはもうここで雇用をとめますというような形でなってくる可能性があるわけでありまして、そこについては、先ほど申しました規制改革といったところが、ちゃんとそのルールが守られているのかどうかということについては行政としてチェックしていく必要があるのではないだろうかというふうに考えております。
  75. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 そうしますと、簡単に、日本の長期雇用というか終身雇用は崩れつつあるというお立場なんでしょうか。また、それがもしそうであるならば、終身雇用制度と、これから二十一世紀に向けて日本がどうなっていくかわかりませんが、産業別分野間での労働力移動というのは好むと好まざるとにかかわらず進んでいくと思いますが、そのこととの両立。同じ質問を大臣に前に当委員会でさせていただいたら、それを両立させながら進めていくというお答えでしたものですから、その辺についてはどういうふうにお考えでいらっしゃいますか。
  76. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 私は、長期的雇用が崩れていくのかどうか、あるいは終身雇用慣行といったものが崩れていくのかどうかということに関しましては、平均値では議論できないというような立場に立っております。  むしろ、恐らく職種であるとかあるいは企業における役割、そういったものの違いによって、あるものについては内部昇進的なもの、これが主流を占めていく、これについては変化はないだろうと。その一方で、簡単な仕事については外注化でありますとか、あるいは今のある意味では給与的に劣るような人たちを雇うというようなことで企業は対応していくのではないだろうか。  そこで問題になってきますのは、専門的な能力を必要とするような職種でどうなっていくのだろうかということでありまして、これが先ほどの日本全体で終身雇用、長期雇用の比率がどうなるのかということを決める上では非常に重要な問題になってくるのではないか。  そうした場合に、私はただ単にA社にいた人がB社に移れば専門的仕事でも能力を発揮できますよというようなことではないだろうというふうに思うわけであります。その能力開発のところから、A社、B社がそれぞれ自分の企業に合った能力だけを開発していくというようなことを続ける限りにおいては、こういったところで転職がふえてくるというふうには必ずしも思わないわけであります。  そこをどういうふうにするのかというのはまさに企業が問われている。表面的に転職がどうなるかということではなくて、人材の開発でありますとかあるいは処遇でありますとか、そういったところを企業が全体として、トータルプランとしてどういうふうに進めていこうとするのかということでそこは決まってくるのではないかというふうに思っております。  ですから、最初の方の御質問であります長期雇用は崩れていくのかどうかということについてはイエス・オア・ノーというようなところで、職種によって違うのではないか、企業の期待している人材によって違うのではないかというふうに考えております。
  77. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 私も同意見なんです。確かに、企業内の職種というか体制というか、そういうものに恐らく左右されるんじゃないか。その中で、鈴木先生がずっと言っておられることは、今我々、政府の方は失業してからの職業教育というようなことが主になっておりますが、鈴木先生は休暇の連続取得をすることなど、つまり失業していないうちから職業教育をどんどんやっていったらどうかというようなお話をされておられました。  ただ、ちょっと技術的な議論をふっかけるようで本当に申しわけないんですけれども、職業教育というものは、教習所へ運転免許を取りに行くぐらいだったら一月休んで行くというくらいのことはできるでしょうけれども、自分の技術、スキルアップをしていくというのは継続的にやっていかなきゃいけないという面があると思うんです。その意味で、休暇を連続取得して、その休暇をためて職業教育に使えるように制度化すればいいという先生のお立場はどういったお考えというか、その辺どういうふうに考えていいのか、お伺いしたいんです。
  78. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) どうもありがとうございます。  有給休暇をためまして、三カ月ぐらいの教育訓練期間で立派な職業能力がつくとは私は考えておりません。むしろありとあらゆる手段を講じながら職業能力を開発する機会を提供すべきだろう。その中には教育休暇というようなものも考えるべきだろうし、あるいは一番最初にありましたようなキャリアのブレークアップみたいなものですとか、より長期的な休暇あるいは機会というものを考えております。  それから、職業教育そのものについては、私は専門ではございませんけれども、確かに職業教育といいますと職業訓練大学校みたいなものをつくりまして、そしてコストベネフィットを考えてみますと、実に乏しいものになってくると思いますので、そうではなくてもっと新しい意味でこれから考えていかなきゃいけない問題だろう。  教育産業でいきますと、一番民営化の進んでおります塾というのが一番効率的なんだろうと。そういう意味では国がすべてを行うのではなくて相当の部分は民間の企業に任せるような形で職業教育みたいなものができるのではないかなというふうに思っております。  その中で、一つだけつけ加えて言いますと、今考えているのは、労働市場の流動化を少し本格的に進めるためには、もしかすると職業資格みたいなものをもっと考えていく必要があるのかなと。現在、必ずしもこれが一つの選択肢とは言いませんけれども企業の中で閉じ込められておりますと、外に出されたときに、必ず転職のときに所得が減る、それから失業期間が長くなりますので、そのときまでに何らかの認められた資格みたいなものがあれば、流動化、転職がより容易になるのではないかなと最近考えております。
  79. 鶴保庸介

    鶴保庸介君 時間が参りましたので、終わります。
  80. 菅川健二

    菅川健二君 参議院の会の菅川健二です。  お三人の先生方には長時間どうも御苦労さまでございます。最後でございますので、若干の時間を我慢していただきたいと思います。  今までお聞きしておりました点につきまして、雇用情勢につきましてはさらにより深刻になるなというふうな印象を持ったわけでございますが、その中にあって雇用維持対策プラス雇用流動化対策、それから積極的な雇用創出対策、それぞれが重要であるというお話を伺ったかと思うわけでございます。  そこで、雇用維持対策あるいは雇用創出におきますワークシェアリングの問題でございますけれども鈴木先生にちょっとお聞きいたしたいのでございます。  私の全くこれは独断と偏見でございますけれどもヨーロッパワークシェアリングの導入がかなり普及したという背景には、失業率が一けた台の高い水準から、あるいは二けた台に至っておるという背景が大きく影響しておるのではないかという感じがいたしておるわけでございます。我が国もそれにだんだん近づいてきておる。ただ、近づいたといいましても今のところ四%台だと。それで、しばらくはやや悪くなるけれども産業転換、構造転換によりさらに失業率は改善に向かうであろうという期待もあるわけでございます。  そういった流れの中で、ワークシェアリングにつきましても定義がいろいろあると言われたわけでございますが、私は、ワークシェアリングによりまして一人当たりの賃金が抑制されたりあるいは引き下げられたりする状況、賃金との連携のもとのワークシェアリングというのが問題ではあろうかと思うわけでございまして、この点につきましては我が国ではもう少し我慢して、そういった面で雇用政策を進めることによって失業情勢をさらに好転させていく、そういう中でワークシェアリングの全面的な導入につきましてはやや慎重に考えたらいいのかなという感じもいたすわけでございますが、その点についてのお考えはいかがでございましょうか。
  81. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 繰り返すことを避けたいと思います。これは長期的に雇用がどう動くかということの認識の差だと思うんですね。私はかなり深刻に雇用問題を受けとめておりまして、そして二、三年ではとてももとの水準に回復しないだろう、中期的に考えてむしろ深刻化するだろうから、そのときに何か施策があるだろうかと考えたときに、やはり現在まで議論されていなかったものがワークシェアリングではないかなと。  それで、ワークシェアリング一つの組み合わせとしまして、例えばパートタイム時短とを組み合わせる、それから能力開発と組み合わせる、いろいろな形でワークシェアリングという考え方はまだ検討できる課題ではないかなと思って、きょう来たわけです。
  82. 菅川健二

    菅川健二君 その点につきましては、課題として大いに検討すべきことは同感でございます。  次に、雇用流動化対策につきましては職業訓練が極めて重要であるという御指摘でございまして、この点については私も全く同感でございます。  経済戦略会議におきまして、雇用開発のためのバウチャー制度の導入について提言がございますけれども、これにつきまして樋口先生はどのようにお考えでございましょうか。
  83. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) バウチャー制度について、このプログラムを使うことによってどこまで個々人が責任を持って自分の能力を開発できるんだろうか、そのために果たしてバウチャー制度が利用可能なのかどうかということについて考えていかなければいけないんではないかというふうに思います。私は政府がこの能力開発に資金を援助するといったことは必要であるという判断に立った上で、さらに、ではバウチャー制度がいいのかどうかというようなことに関してどうかということであります。  といいますのも、商品券のようなものであれば、そこで物を消費するということでそれには有効であるということになるかと思いますが、教育サービスに関しましては、一日、二日そこの学校に通ってすぐあきらめてしまうというようなことが発生し得るわけであります。特に、自分がコストを負担しないというような場合に関しましては、例えばある学校にただで通えますというふうになった場合に、本人のやる意欲を引き出すといった上で果たしてどうなんだろうか。  ですから、むしろ、事後的なチェックかもしれませんが、ある能力開発のために学校へ通った、そしてその証明書が出ました、証明書が出たならばそこで本人が負担したコストを国が何とかしますというようなスタイル、そういうチェックといったものがどうしても必要になってくるんではないだろうかというふうに思っております。
  84. 菅川健二

    菅川健二君 確かに、その支払うやり方、結果を見て支払うということは非常に重要だと思います。  それからもう一つ、引き続き樋口先生にお聞きしたいんですが、雇用創出におきまして問題なのは、もちろん雇用者がどんどんふえるということは非常に重要なわけでございますが、その前提として、やはり業を起こす人がどんどんふえていくということが重要ではないかと思うわけでございます。アメリカの社会においてはそういったことがどんどん行われたことが景気拡大の一つの大きなポイントになっておるんじゃないかと思うわけでございます。日本の場合は、今のところ開業率よりも廃業率の方が高いというような資料も見せていただいておるわけでございまして、そういった面で、業を起こすという点におきます何か妙案はございませんですか。
  85. 樋口美雄

    参考人樋口美雄君) 妙案は残念ながら持っていないんですが、科学技術庁がかつてMIT、マサチューセッツ工科大学の卒業生と東大、東工大の卒業生について、将来どういうような人になりたいのかというようなアンケート調査をやったことがございます。そのとき、日本では大企業の管理職になりたいというような人たちの比率がかなり高かったのに対して、MITは自分の会社を持ちたいというような人たちが多かった。それだけ、まさにアントレプレナーシップといいますか、そういったものに富んでいるというようなことなわけであります。  私は、これはアメリカ人の気質によって生まれてきたものなのかどうか、あるいは逆に日本人の気質によって生まれてきたものなのかどうかということについては懐疑的でありまして、こういう考え方というのは社会環境の変化でどうも変わってくるんじゃないかというふうに思っているわけであります。  アメリカのMITの卒業生がなぜ自分の企業を持ちたいかということを考えてみますと、大企業に入ったからといって雇用保障がない、やはり雇用を保障するのは自分自身なんだというような意識が強いわけであります。そのために、大企業に入ったからといってリスクが取り除かれるわけじゃない、リスクをコントロールできるような立場に立ちたいというようなことが多かったわけであります。  日本の場合、これまでは、大企業でありますから大企業に入れば雇用が保障されるということでリスクが取り除かれてきた。ところが、ここのところそのリスクが非常に高まっているというようなところから、若い人たちの中でもぼちぼち、ほんのわずかですが、自分で会社をやりたいというような意識が高まってきているんではないかと思います。  そうなったときに、私は会社に勤めることによるリスクをもっと高めろと言っているわけではなくて、むしろ自営業、起業をしたときのリスクを何とか下げることはできないんでしょうかということです。  日本現状におきましては、撤退することを想定せずにただ起業化を進めようというようなことをやっているわけでありますが、撤退する場合に、多額な負債を抱えて初めて破産宣告ができるというようなこと、これがやはり逆に言えばリスクを高めてしまっているんではないだろうか。もう少し、ある程度のところで撤退をするということが許されるような破産法でありますとかそういうものも必要になってくるだろう。さらには、税制につきましても、例えばある年多額の負債を出したといった場合に、それが繰り延べされてくるというような形によって、その業を起こす人たちのリスクを下げるというようなことが必要になってくるんではないだろうかというふうに思っております。  やはりリスクを嫌うというのはこれは日米共通でありまして、みんな嫌いであるということは間違いないことだというふうに思います。
  86. 菅川健二

    菅川健二君 今の点につきまして鈴木先生、それから鹿野さんにお伺いして、私の質問は終わらせていただきたいと思います。
  87. 鈴木宏昌

    参考人鈴木宏昌君) 私は長期雇用の問題につきまして昔から非常に興味を持っておりまして、この長期雇用というのは明らかに日本の大企業においてこれから継続できないだろう。それは、一つは、企業そのものが一種新しい分野にどんどん進出していかなければ生き延びられない。それから、サービス業、情報化がどんどん進展してくるであろう。そういたしますと、雇用を保障するものは各人の自己責任でなければならない、こういうことになるかと思うんです。  そうなりますと、そこで重要視されてくるものが教育であり職業訓練である、こういうふうに考えているわけなんですけれども、そのときにキーワードとして産業ですとか地域ですとか、今まで忘れられている、余り顧みられないものに私は一番の期待を寄せております。今までは企業及び国、この二つで区切られていたかなと。それに対しまして、地方自治体ですとか地域あるいは産業というレベルでもっと職業訓練も行わなきゃいけない、それから教育も行うこともできるんではないか。そういうある意味で発想の転換が必要なんではないかというのが私の考え方です。
  88. 鹿野達史

    参考人鹿野達史君) 開業率の低さに関しましては、やはり制度的な面というのもかなり大きいんではないかなというふうに考えております。一つは教育的な面といったところもありますが、あとはやはり金融的な面というのもかなり企業としては大きいんではないかなと。いわゆるベンチャーキャピタルという点では日米に格差がありますし、あるいは税制といった面、こうした点を整えていく必要があるんではないかなというふうに思います。  あと、直接的な開業率の上昇ということには結びつかないかもしれませんが、雇用という点ではやはり直接投資、対内直接投資、端的には外資の導入等といった形がこれからも推進されていくべきなのではないかなというふうに思います。
  89. 吉岡吉典

    委員長吉岡吉典君) 以上をもちまして参考人に対する質疑は終了いたしました。  参考人方々に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は長時間にわたり、大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。委員会を代表いたしまして厚く御礼を申し上げます。  本日はこれにて散会いたします。    午後四時一分散会