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円より子君(続) はい、申しわけありません。なるべく早く話したいと思います。
しかし、本当になぜこの
法律が必要なのでしょうか。なぜ
強行採決を企ててまで急がねばならなかったのでしょうか。
陣内
法務大臣は、
趣旨説明の中でその
理由を、急増する
組織犯罪に対処するためということを言い、その最大の具体例として、一連のオウム事件を挙げてまいりました。大臣は、某
テレビ番組の中で、
通信傍受法、つまりこれは
盗聴法のことですね、これがあればオウム事件は防げたという
趣旨の
発言をなさいました。しかし、この
法律があってもオウム事件は未然には全く防げなかったということは
審議の中で明らかとなりました。大臣は後になって
テレビ番組での
発言を撤回なさいましたが、
テレビ番組であのような
発言をしたということで
国民に大きな影響を及ぼしたことは間違いありません。
また、
与党の
委員は
審議の中で、暴力団、オウムなど昔とは
犯罪の形態が変わってきており、
通信傍受法があればいかにもサリン事件は起きなかった、つまりこれも
盗聴法のことですが、これがあればいかにもサリン事件は起きなかったというような言い回しで
質問をしております。
盗聴法があってもオウム事件は未然には防げないのに防げるかのような言い回しをすることは、これは明らかに
国民を惑わすものではないですか。そして、
国民の不安をあおることによって
盗聴法の必要性を印象づけようとする卑劣なやり方ではないかと私は思います。
さらに、
組織犯罪の大ボスを捕まえるには携帯
電話の傍受が必要だ、だから
盗聴法がどうしても必要なのだということもたくさん言われてまいりました。ところが、携帯
電話の傍受は現在の技術では非常に困難であることが、ほとんど不可能に近いということが
審議の中で明らかになりました。そうすると、今度は、
法案が成立すれば補助金を出して技術開発をするからいいんだと、そういう
答弁をなさったわけです。
不可能なことをできると言い、できないことがわかれば今度はこれからやります、そうおっしゃる。これでは全く詐欺と同じではないでしょうか。
これと同じような
答弁が傍受対象に報道機関を含めるかどうかという点についてもありました。
政府は当初、報道機関は基本的に
通信傍受の対象になるという
答弁をしておりました。ところが、つい先週になりまして、基本的に傍受対象にはしないというふうに
答弁内容を百八十度変えられたわけです。しかも、それは
法律に書くのではなくて運用で対応するとおっしゃる。つまり、
法案に書かない限り後でいかようにも対応を変えられる、抜け道はあるというわけです。
このように、政府がころころと
答弁の内容を変え、妥協してくるというのは、この
法案が理にかなっていなくても、何が何でもこの
法案を通したいという傲慢な
態度のあらわれかと私は思います。
また、ある
与党の
委員は、覚せい剤があたかも一般市民へ蔓延しているかのように印象づけるため、細かな数字を使って次のような説明をしました。ことし半年で押収された覚せい剤の量は千百三十二・八キロであり、これは約三千七百七十六万回分の使用量に当たる。そして、これがもしも十トンであれば約三億三千万回分となり、全
国民が一年に一回以上使う計算になるとおっしゃったわけです。どうも私にはこうした数字の使い方はわかりません。
このような仮定に基づいた説明をして、いかにもすべての
国民が覚せい剤汚染に関係するかもしれないような、そういう言い回しは、私は扇動のような気がいたします。
国民はそんな扇動に乗りはしないとは思いますけれ
ども、
組織犯罪が広がり、日本が覚せい剤によって支配されてしまうかのような宣伝をするなど、
国会議員としては余りおやりにならない方がいい議論ではないかなと思えてなりません。
日本国内の凶悪
犯罪の発生状況は、欧米諸国と比較して極めて低い水準で推移していることは政府も認めています。人口十万人当たりの発生率では、日本は殺人ではアメリカの約九分の一、強盗では約百十三分の一にしかすぎません。銃器を使用した
犯罪も増加してはおりません。オウム事件に対する捜査が
盗聴法やマネーロンダリングの
規制がなかったため十分でなかったという主張は、全く論外です。
つまり、このような
与党側の
質疑と政府の
答弁からもわかりますように、必要性のための根拠が全く明確ではありません。このような説明で幾ら
法律の必要性を説かれても、
良識ある
国民ならとても納得がいくはずがありません。これは、この
法律がまともな
法律ではないことを示しています。本当に必要な
法律なら、偏った数字を出して脅迫めいたことをせず、普通に事例を出して、普通に
審議をすれば必要性が自然に理解できるというものではないでしょうか。携帯
電話の傍受があたかもできるようなことを言うなどということは、本当にやってはならなかったことではないでしょうか。
このいわゆる
盗聴法の成立を急ぐ
理由として、国際的な要請があるということも言われてきました。しかし、いわゆる国際
組織犯罪条約はまだFATF、つまりこれは金融活動作業部会のことですが、ここで
審議中であります。採択はされていないのです。条約の内容がまだ確定しておりませんのに国内法を整備する、そういうことは今まではなかったことです。採択された条約を批准するために、必要があれば国内法を整備するというのがこれまで我が国の通常の順序であったと聞いております。
我が国はこれまで、特に私
ども野党が要求してきた
人権関係条約の批准には大変消極的でありました。長い時間をかけて、私
どもが要求してからしぶしぶ国内法を整えるという、それが今までの
状態でした。それなのに、なぜこの
盗聴法の成立だけはこんなに急ぐのでしょうか。不思議でなりません。
そもそも、国際
組織犯罪条約の原案では、各国の状況に応じた
組織犯罪対処策を広く認めております。各国に
通信傍受法の制定を、つまり
盗聴法の制定を義務づけているわけでは決してないのです。そのような捜査手法の国際化などより、日本においては、刑事手続の
改革の方が先決ではないでしょうか。例えば、捜査段階における弁護士の立ち会いや証拠の全面開示など、捜査の可視化、つまり捜査内容がよく見える、どういうふうに捜査をしているかということが
国民の目に明らかになるようにすることが、まず私
どもがしなければならないことなんです。それをしないで、なぜこのいわゆる
盗聴法を含む
組織犯罪対策三法の成立をこのように執拗にこだわって成立を急ぐのか、全く理解できません。
盗聴捜査は、サミット参加国からの要請だと言われております。でも、それを言うならば、一九九八年十月、国連規約
人権委員会から出されました
警察での取り調べの改善、また、死刑廃止等の勧告をなぜ我が国は無視しているのでしょうか。権力を拡大するときだけ、
国家の権力を拡大するときにだけ国際社会の要請を持ち出しても、決して
国民は納得しないと思います。(
拍手)
この
盗聴法は、憲法二十一条に定める通信の秘密を侵すものであり、
国民のプライバシーの権利を脅かすものであることも広く指摘されてまいりました。政府は、公共の福祉のためには必要やむを得ず市民の基本的権利を制約する、そのための
法律であると言いますが、とても
通信傍受、盗聴が公共の福祉に当たるとは、また必要やむを得ずのものであるとは思えないわけです。
法務省は、報道関係者に
盗聴法とは呼ばないでくれと指示なさった、それはお願いしただけだとおっしゃっておりますが、指示したそうですが、人々はこの
通信傍受を
盗聴法としか考えられないという不安を持っています。そして、この盗聴は、個人の内心の秘密に対する著しい侵害性を持つにもかかわらず、既に存在している
犯罪の、今ある
犯罪の証拠物件を対象とするのではなくて、これから話されようとしている会話を対象とするために、強制処分の範囲が全く特定されないという性質が、そういう特質がこの盗聴捜査にはあるわけです。
こういった本質的な危惧を、これまで
参考人質疑においても、また刑法の学者
たちによってもるる訴えられてまいりましたが、それは
専門家だけではなくて、そうした
法律の細かなことは余りわからない、私も
法律の
専門家ではありませんが、
国民の多くもまたそうした不安を本能的に察知しており、その危惧は私
ども参議院での慎重な
審議過程の中でるる明らかになってはきても、不安は全く払拭されてはおりません。
このいわゆる
盗聴法は、このように憲法に違反する疑義があるだけではなく、
刑事訴訟法の根本概念をも変えてしまうものであることを、多くの弁護士や刑法学者、そういった
方々が指摘なさっております。
このいわゆる
盗聴法案は、従来の
刑事訴訟法の概念、その概念といいますのは、
犯罪から犯人を求める、それが今までの
刑事訴訟法の概念であったわけですが、それを、犯人があってその犯人から
犯罪を求めるという全く違うものに変えてしまうものだからです。
また、このいわゆる
盗聴法案は、固定
電話を想定してつくられたものです。
国民の多くの
方々が
盗聴法と聞いたとき──まず、
通信傍受法なんて言われても、だれも自分の
電話などが盗聴されるかもしれない、そんな
法案だとは思わないと思います。
盗聴法だと聞いたときに多分ほとんどの人が固定
電話が盗聴される、そういうふうにしか思わないのではないでしょうか。
確かにこの
法案は、
国民の
皆さんが思われるように、固定
電話を想定してつくられております。しかし、今この世界は通信の技術はどんどん発達し、インターネット通信が本当にこれから隆起してまいると思います。そうしたインターネット通信の傍受、つまり盗聴についてはほとんど想定されていないのがこの
法案です。このことが、多くのインターネットを使ってさまざまな通信をしていらっしゃる
方々や、またそのインターネットのプロバイダーの
方々や、そして通信業者、そのすべてにかかわっている
方々から問題提起され、不安が訴えられてまいりました。
このインターネット通信の盗聴については、さらなる
審議をお願いしたい、そうした切なる訴えも私
ども野党にはたくさん寄せられておりますし、また、
与党がお呼びになった参考人からもこの
問題点はるる指摘されました。
この
法案のままでは、不特定多数のメールが
警察に捕捉され、これから日本の未来を担うであろう通信産業に悪影響を与えることも指摘されました。インターネットを初めとする情報通信産業は、本当にこれからの日本の経済にとって大変重要であり、今後ますますこの通信産業分野によって不況を打開できるかもしれないという、こういう今、瀬戸際に来ております。
ところが、このいわゆる
盗聴法案はこれに逆行するものでしかありません。情報通信産業を萎縮させるものでしかないのです。失業率が五%にならんとする雇用不安を抱え、貸し渋りも決して解消していない今、多くの人々がボーナスももらえず、またボーナスも払えない人
たちが大変苦しんでおります。そして中高年の男性の自殺もふえておりますし、そうした多くの
国民が、早くこの雇用不安を何とかしてほしい、景気を回復してほしいと切に願っているこのときに、逆に日本の経済を牽引していくに違いない通信産業界を萎縮させ、何十年かこの発展を妨げるようなこの
盗聴法案を通していいものでしょうか。
政府は、従来どおりの経済政策しかできず、それでいて景気は回復しているなどと、ただひとりぬか喜びをしておりますが、将来の産業であるこのインターネットをつぶすようなこの
盗聴法を数の力で押し通しては将来に禍根を残すことになると思います。そしてこの
法案を通すことは、私
たち今
国会議員として本当に恥ずかしいことだと思います。
さて、さらに、インターネットを使っている市民やその業者の
方々から出ている懸念として……