○
円より子君
日本国内の凶悪
犯罪の発生
状況は、欧米諸国と比較して極めて低い水準で推移していることは
政府も認めています。
人口十万人当たりの発生率では、
日本は、殺人ではアメリカの約九分の一です。強盗では何と百十三分の一にしかすぎません。銃器を使用した
犯罪も増加していません。オウム事件に対する
捜査が
盗聴法やマネーロンダリングの規制がなかったため十分でなかったという主張は全く論外であります。
つまり、このような
与党側の
質疑と
政府の
答弁からもわかるように、必要性のための根拠が全く明確ではないのです。このような説明で幾ら
法律の必要性を説かれても、良識ある市民ならとても納得がいくはずがありません。これは、この
法案がまともな
法律ではないことを示しています。本当に必要な
法律なら、偏った数字を出して脅迫めいたことをせず、普通に事例を出して普通に
審議をすれば、必要性が自然に理解できるはずだからです。
通信傍受法案の成立を急ぐ理由として、国際的な
要請があるということも言われてきました。しかし、いわゆる国際
組織犯罪条約はまだ金融活動作業部会、いわゆるFATFですが、ここで
審議中であり、採択はされていません。条約の
内容がまだ確定していないのに国内法を整備するなどということは大変おかしなことです。採択された条約を批准するために、必要があれば国内法を整備するというのがこれまで我が国の通常の順序でした。特に
日本は、人権関係条約の批准にはこの通常の手順すら踏まず、大変消極的で、長い時間をかけて渋々国内法を整えるという
状態でありました。それなのに、なぜこのいわゆる
盗聴法案の成立だけはこんなに急ぐのでしょうか。不思議でなりません。
そもそも、国際
組織犯罪条約の原案では各国の
状況に応じた
組織犯罪対処策を広く認めており、つまり各国に任せているわけですが、私どもの
日本に
盗聴法の制定を義務づけているわけでは決してないのです。そのような
捜査手法の国際化などより、
日本においては
刑事手続の改革の方が先決ではないでしょうか。例えば、
捜査段階における
弁護士の立ち会いや証拠の全面開示など、
捜査の可視化が急務です。それをしないで、なぜ
通信傍受法案の成立にだけこのように執拗にこだわるんでしょうか。全く理解できません。
盗聴
捜査はサミット参加国からの
要請というなら、一九九八年十月に国連規約人権
委員会から出された
警察での取り調べの改善や死刑廃止等の勧告を無視しているのはどうしてなんでしょうか。権力を拡大するときだけ国際
社会の
要請を持ち出しても、
国民は決して納得しません。
通信傍受法案は、憲法二十一条に定める
通信の秘密を侵すものであり、
国民のプライバシーの権利を脅かすものであることもこれまでの
審議の中で広く
指摘されてきました。
政府は、公共の福祉のため必要やむを得ず市民の基本的権利を制約する
法律であると言いますが、とてもこの
通信傍受が公共の福祉に当たるとは、また必要やむを得ずのものであるとは思えません。
法務省は報道
関係者に
盗聴法と呼ぶなと指示したそうですが、後で、いやお願いしただけだと
答弁なさっていますが、人々はこの
通信傍受法を
盗聴法としか思えない不安を持っています。そして、盗聴は個人の内心の秘密に対する著しい侵害性を持つにもかかわらず、既に存在している
犯罪の証拠物件を
対象とするのではなく、これから話される
会話を
対象とするため、強制処分の
範囲が全く特定されないという特質が盗聴
捜査にはあるという危惧を
専門家が訴えていますが、
国民もまたその不安を本能的に察知しており、その危惧は
審議過程で全く払拭されてはおりません。
通信傍受法案は、このように憲法に違反する疑義があるだけでなく、
刑事訴訟法の根本概念をも変えてしまうものであることも多くの
弁護士や刑法学者によって
指摘されました。
通信傍受法案は、従来の
刑事訴訟法の概念である、
犯罪から犯人を求めるを犯人から
犯罪を求めるものに変えてしまうものだからです。
また、この
通信傍受法案は
固定電話を想定してつくられたものであって、
インターネット通信の
傍受についてはほとんど想定されておりません。
参考人質疑や
公聴会でも、この
法案のままでは不特定多数のメールが
警察に捕捉され、産業に悪影響を与えることが
指摘されました。
インターネットを初めとする
情報通信産業はこれからの
日本の
経済にとって大変重要であり、今後ますます隆盛になるべき産業分野でありますのに、
通信傍受法案はそれに逆行し、
情報通信産業を萎縮させるものでしかありません。この点にもっと気づき、産業界はもっとこの
法案に
反対してもよかったのではないでしょうか。
この点に関しても、失業率が五%にならんとする雇用不安を抱え、貸し渋りも決して解消せず、多くの人々がボーナスももらえず苦しんでいるこのときに、従来どおりの
経済政策しかできず、将来の産業である
インターネットをつぶすようなこの
盗聴法を数の力で押し通しては将来に禍根を残すことになるでしょう。
さらに、
インターネットを使っている市民やその業者から出ている懸念として、今回の
盗聴法では
通信事業者内部の
情報の漏えいが発生しないようにする技術的な歯どめが規定されていないことへの憂慮や、盗聴への協力にかかるコストのこと、顧客からの法的な損害賠償などのトラブルへの対処等も全く解決しておりません。
さて、
国民の
警察に対する不信感も
審議の中では払拭することができませんでした。
小渕総理は、
警察を
信頼する、
通信傍受の乱用はあり得ないとおっしゃいましたが、
国民はこれまでの
政府側の
答弁では決して
警察を信用することはできないのではないでしょうか。
ことし三月二日の
参議院予算
委員会で、共産党の緒方元国際部長宅の
電話を現職
警察官が盗聴していた事件について、野党の議員がこれは
警察の
違法捜査ではないかと追及したのに対し、
警察庁長官はついにイエスとは言いませんでしたし、この
法務委員会でも
警察組織の犯行とは認めませんでした。
現職
警察官が盗聴
行為を行ったんです。東京地裁も、上司の命令なしに
警察官が実行したとは到底認められないと
指摘しているんです。それにもかかわらず、このように組織としての非を認めない
警察がこの
盗聴法ができた
段階で絶対に乱用しないという保証が、ただ単に
総理の信用しているという
言葉だけで担保できるものでしょうか。そんなことを
国民が信じられるわけがありません。
制度的に歯どめをかけてそのようなことが起きないようにするというのが人間の知恵というものでありますし、
総理のリーダーとしての
責任ではないでしょうか。
私
たちは、
総理を呼んでの
総括質疑を何度も要求してまいりましたが、
総括質疑が開かれず、もしこのままこの
法案が継続せず、きょう
委員長が
強行採決をして打ち切られるならば、全く
総理にこの点を追及できないわけで、これは非常に残念です。
国民としても心残りであり、ますます
警察に対する不信だけではなく、政治に対し、
小渕総理に対し不信感が募ると思います。
さて、令状できちんとチェックするとの説明も
政府側からなされました。これまでも裁判所が令状請求を却下したのは〇・一%以下です。
審議では、逆に令状では歯どめにならないことも明らかになりました。
立会人についてもさまざまな
問題点が挙げられました。立会人に切断権を認めるべきであることや、
通信事業者ではなく裁判所職員に立ち会わせることも私
たち民主党は主張してきました。そうすれば、裁判官も令状
審査を慎重にせざるを得なくなるからです。
傍受した
通信のうち、
捜査に関係のない
通信の当事者には当該
通信を
傍受した旨の通知が行かないこともプライバシー保護の
観点から非常に問題です。
政府は、通知すると逆にプライバシーの侵害になるなどという説明をしましたが、全くおかしな論理です。何がプライバシーなのかということを全くわかっていらっしゃらないのではないでしょうか。
傍受されたことは重大なプライバシーの侵害でありますが、
傍受されたことさえわからないということはさらなるプライバシーの侵害ではありませんか。このような
事態がまかり通れば、
日本は間違いなく互いが互いを監視する監視
社会となってしまうでしょう。
通信傍受にかかるコストが膨大であることも
指摘されました。特に、
携帯電話の
傍受を可能にするためのコスト、開発費は巨額になることが参考人の
質疑等で明らかになりました。
このように、まだまだ挙げれば切りがないほどさまざまな
問題点が出てきますが、まとめますと、このいわゆる
盗聴法、
通信傍受法にはその必要性、実効性、有効性、そして妥当性が全くなく、
国民の影響を考えた場合、百害あって一利なしということが言えます。確かに
犯罪を取り締まることは必要です。しかし、
犯罪を取り締まるためにはもっと根本的な解決策が必要です。例えば、オウムの問題を解決するには脱会者の
社会復帰を進める政策を打ち出すなど、さまざまな
社会改革が必要ではないでしょうか。また、国際的
犯罪については、
日本がターゲットとなる根本的原因を解決し、縦割りではなく横のネットワークを重視した総合的な解決策が必要です。
つまり、結局のところ、
犯罪をなくすためには
捜査方法を強化するのではなく、
国民が安心して暮らせる公正な
社会をあらゆる側面から構築していくことこそが必要なのです。それこそが根本的な解決策だと私は思います。そのためには、いわゆる
盗聴法の制定などという拙速な対応ではなく、省庁横断的、そしてそこに
専門家や一般市民をも交えたプロジェクトチームなどを設置し、
国民的議論を巻き起こしていくことが必要です。
以上が、本日議了できない最大の理由であり、先週金曜日の
理事懇で本日の議了に私どもが
反対した理由です。そして、きょうまたこのような時間に、大勢の人に御迷惑をかけながら
委員会を開催し、そしてこれから議了、
採決しようという暴挙に対し、私
たちは大きな
反対をいたしますが、これは
委員長の
職権の乱用であり、強引に
委員会を開催するとは、数の論理ですべてを押し通そうという考えであり、そのような数の横暴を
国民は決して許さないでしょう。(発言する者多し)
委員長、聞いてください。後ろで
お話なさらず聞いていただけますか。