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1999-04-22 第145回国会 参議院 法務委員会 第7号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年四月二十二日(木曜日)    午前十時開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     委員長         荒木 清寛君     理 事                 鈴木 正孝君                 服部三男雄君                 円 より子君                 大森 礼子君                 平野 貞夫君     委 員                 阿部 正俊君                 井上  裕君                 竹山  裕君                 吉川 芳男君                 海野  徹君                 千葉 景子君                 角田 義一君                 藁科 滿治君                 橋本  敦君                 福島 瑞穂君                 中村 敦夫君    事務局側        常任委員会専門        員        吉岡 恒男君    参考人        一橋大学社会学        部教授      田中  宏君        千葉大学法経学        部長       手塚 和彰君        ジャーナリスト  関口 千恵君        ピアニスト    崔  善愛君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○外国人登録法の一部を改正する法律案内閣提  出) ○出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法  律案内閣提出)     ─────────────
  2. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) ただいまから法務委員会を開会いたします。  外国人登録法の一部を改正する法律案及び出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を便宜一括して議題といたします。  本日は、両案の審査のため、お手元に配付の名簿のとおり、四名の参考人方々から御意見を伺います。  まず、午前中御出席をいただいております参考人は、一橋大学社会学部教授田中宏君及び千葉大学法経学部長手塚和彰君でございます。  この際、田中参考人及び手塚参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多用のところ当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、両参考人から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にいたしたいと存じますので、どうぞよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、田中参考人手塚参考人の順に、お一人十五分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。  なお、参考人意見陳述、各委員からの質疑並びにこれに対する答弁とも、着席のままで結構でございます。  それでは、田中参考人からお願いいたします。田中参考人
  3. 田中伸

    参考人田中宏君) 御紹介いただきました田中でございます。こういう機会を設けていただいたことに感謝したいと思います。  お手元にA4一枚のレジュメのようなものとそれからA3一枚の資料のつもりですけれども、二枚用意させていただきましたので、それをごらんいただきながら私の意見を申し上げてみたいと思います。  今回は二つ法律を同時に審査されるということで、かなり重要な法律なので私も準備のときにあれこれ考えたんですけれども、最初に両法に通ずる問題ということで、そこに五項目ほどメモをしました。  実は私は、一九六二年から留学生世話団体で仕事をし始めて以来の、日本における外国人の処遇に関心を持ってきた者の一人です。大学でもそういうことを授業で扱っておるわけですけれども、私はこの外国人に関する問題を議論するときに、どういう出発点に立つのかということを常に念頭に置いています。  やや古証文になることを、例えば、外国人は煮て食おうと焼いて食おうと自由というようなことをかつて入管局の高官が本の中で書いているというのはある意味では非常に有名な話で、多分外国人のことに関心を持って何か勉強したりしているときには必ず出くわす言葉です。国家の立場から見ればこういう発想もあり得るかなという気はしますけれども外国人とともに生きていくということを考える場合に、これをどう克服するかということはかなり大事な問題で、今回の法案審査するときにもその原点というのを踏まえる必要があるのじゃないかというように私は思います。  それから、これも非常に古い話になりますが、かつて国会入管法改正案が四回提出されたけれども、ついにいずれも成立を見なかったという時代があったんです。そのころ私は現場にいましたので留学生の声も随分聞いていましたけれども、四つ出されたうちの実は最後に出された二つ法案は、管理という言葉を題名から外して、法務省みずからが出入国法案という形で出されたことがあるんです。管理というのはいかにも外国人を取り締まるということだけをねらいにしているような印象を与えるので、やはりこれは外そうということを当局御自身もかつては考えられたことがあったというのを一度思い起こす必要があるのじゃないか。  その次の、外国人は国を害する人かというのも、これは今カナダの大学先生になっているベトナムの留学生から聞いた言葉で、これも私はずっと頭の隅に残っている言葉で、外国人の側から見ると、何か外国人というのは日本にとって害になる連中だという認識を持っているのじゃないかというようなことを当時言われたのが非常に私は気になっているんです。  今回、指紋廃止になる改正案が出されていますけれども指紋の問題が大きく取り上げられたころ、府警の外事課長といえば外国人担当現場責任者だと思いますが、そういう人がこれはテレビの中で堂々と発言されたんです。そんなに指紋を押すのが嫌なら日本に帰化するか国へ帰ればいいじゃないかということをあえて発言した。これも私なんかには非常に印象に残っている言葉です。  こういう問題を前提にしながら考えていく必要があるのじゃないかというようなことで、ちょっと前置きとして申し上げました。  次に、外国人登録法について少し私の意見を申し述べますけれども、今回、指紋制度を全廃する、あるいはそれに伴う若干の改正案が出されていて、指紋廃止はある意味では遅過ぎたというのか、本来であれば五年前に一気に廃止しておくべきだったと私は思います。  ただ、外国人登録法を議論するときに、従来必ずしも十分考えられてこなかったことというのをちょっと申し上げてみたいと思います。  それは、御案内のように、地方自治法の十三条の二という条文には、もう一枚の資料の方に切り張りを入れておきましたけれども、右端の方です、「市町村は、別に法律の定めるところにより、その住民につき、住民たる地位に関する正確な記録を常に整備しておかなければならない。」と。問題は、住民に関する正確な記録とは何ぞやということになるわけです。  これは私、たしか有斐の六法か何かからとったんですが、法律の照会のところでは、「法律の定め」というのは住民基本台帳法だとしか書いていないんです。御存じのように、住民基本台帳法というのは、上の方に切り張りをしてあるんですが、左端の方に私がレ点を打っておきましたけれども、三十九条のところに、「この法律は、日本の国籍を有しない者その他政令で定める者については、適用しない。」と。だから、住基法では住基台帳には外国人は載せないということになっていますので、実はそのかわりをするのが外国人登録なんです。  そうすると、市町村住民記録をきちっと用意しておかなきゃいけないということになると、日本人については住基、そして外国人については外国人登録という形で住民記録を持っている。もちろんそれに基づいて住民サービスを実行する。こういう仕組みになっているわけです。そうすると、住民基本台帳法外国人登録法というのを住民記録として考えた場合に、比較検討するということはもっと本来から行われるべきではないか。  私、ちょっと思いつくところをそこに書いたわけですが、住基法の七条に住民票に載せる記載事項というのがずっと一号から十三号までありますけれども、例えば七条一号というのは「氏名」で、下の方に外国人登録法のを入れておきましたけれども外国人登録法では登録事項の第三号が「氏名」になっています。その次が「出生の年月日」。この辺は上と下と呼応するんですけれども、一々申し上げる時間はありません。  特に際立った特徴は、住基法の第十号から十二号のところに傍線を引いておきましたけれども国民健康保険だとか国民年金だとか児童手当だとか、そういうことについての記録をきちっと記載しておく、そういうことのデータをですね、例えば国民年金に加入しているかどうかとか。ところが、外国人登録法を見ると、登録事項の中にそういう住民サービスを受けるための情報源を記載するというものが全くないんです。ところが、インドシナ難民の問題以降、日本政府もようやく社会保障の内外人平等をほぼ実現しましたので、現在では児童手当外国人に支給できるようになっています。  そうすると、当然、外国人登録記録から、この人には児童手当を支給するかどうかというようなことを自治体では事務処理せざるを得ないんです。ところが、そのときに外国人登録というのは全く役に立たないんです。全く役に立たないと言うと語弊があるでしょうけれども外国人登録記載事項の中にそれを求めることはできないんですね、法律が決めていないわけですから。そうすると、自治体は独自にそのものを用意しないと、例えば児童手当の支給が円滑に行われない。  昨今、話題になっています地域振興券外国人に給付するというときに、日本人住基でいきますね、外国人外国人登録でいく、全部二本立てになっているんです。地方分権なんかのことも進んでいるようですけれども、どうも管理の側の外国人登録法というアングルからだけ従来物を考えてきたものですから、やっぱりその問題をどう是正するかということが焦眉の的ではないかというように私は思います。残念ながら、今回の法改正案はそういうものが全く見えてこない。  もう一つ、ちょっと簡単な例でいきますと、例えば住基の二十二条と二十四条に、ごく日常的な、住所を引っ越した場合には転入転出手続をすることと書いてあります。外国人登録には、第八条に居住地変更登録というのがあるんです。どちらも十四日以内というので、これは全く同じなんですが、ところが住基の方は、AからBに引っ越す場合に、Aにまず転出届というのを出すんです。そして、証明書をもらって新しく引っ越す先のBに転入手続をいたします。だから、両方の役場に顔を出すんです。ところが、外国人登録の方は、新しいところにだけ行けばいいんです。  この限りでは外国人の方が負担が軽いんですけれども、これはどうしてこうなっているかといいますと、法務省外国人管理するという立場に立てば、AからBに引っ越したということを法務省は報告を受けますから、それで必要にして十分なんです。ところが、自治体はどうなるかというと、Aという町の自治体自分のところに住んでいる外国人が突然いなくなっても、ほかのところに引っ越しても、当初は何の連絡も受けないんです。引っ越した先から、おたくに住んでいた住民のこういう外国人が今度うちの方に手続をしてきたからと言って、例の外国人登録原票というのを旧居住地市町村役場に請求するんです。そうすると、古い方から新しい方に、役場から役場に送られてくるわけです。送られてくるまではわからないんです。  ところが、今までのように外国人管理だけしているときはいいですが、住民サービスがついていますから、それじゃ今月分の国民健康保険保険料はどっちの市町村が徴収するか、旧居住地なのか新なのか。児童手当の給付はどこまでをこちらがやって、いつから向こうがやるのかというようなことが起きているんです。ところが、それに対応できないんです、現在の外国人登録実務では。例えばそういう問題があるということです。  それから、よく言われる罰則なんかも、御案内のように、住居を引っ越した場合には十四日以内に届け出をしなきゃいけないというのは同じ義務ですね。ところが、この義務を怠った場合に、日本人の場合には、そこのところにありますように四十五条で五千円以下の過料なんです。ところが、外国人登録でその手続を怠った場合には、十八条の二、下の方にありますけれども、これは罰金二十万円以下なんです。  議員の方には釈迦に説法になりますけれども、実は過料罰金というのは全然性質が違うんですけれども、金額だけ比べても四十倍の違いがあるんです。一つの法的な義務を怠った場合に、外国人は同じ義務を怠っても四十倍の刑罰を科せられるというようなことも浮かび上がってくる。  やっぱり従来のように管理だけの時代ではなくなってきているわけです。これは国際人権伸長日本も受け入れて、税金を同じように払っている外国人には同じように社会保障もしようという時代になっているわけですから、それに対応する外国人登録実務を行っていないと、これはよく自治体が黙っているなと私は思うんですけれども自治体言葉の割には中央の言うことを割合素直に聞くようで、私は非常に残念だと実は思っているんです。まず、その点をちょっと申し上げておきたいと思います。  次に、三つ目入管法改正の関係です。  今回は、違法入国の問題に対処するために新しい刑罰をつくるというようなことが趣旨かと思いますけれども入管法の問題について私がいつも感じていることを幾つ審査の御参考にしていただければと思って申し上げますけれども一つは旧植民地出身者の存在というのは日本外国人行政にとって非常に重要なある意味ではかぎになってきたわけです。今日では半数を割るというような状況にはなっていますけれども、まだまだ大きな意味を持っていると思います。  九一年に入管特例法ができて、旧植民地出身者を一括して在留地位を与えるという処理をされたことは、私は非常に高く評価したいと思いますけれども、まだこの資格という言葉に表現されているように、もう私ははっきり権利と、これは過去の日本の営為がもたらしたものですから、自分できちっとそのことについては対応していくということをやるとすれば、やっぱりこれは権利性をきちっと考えるべきだ。今度、再入国期間伸長が若干図られているようですけれども、私はもう永住者については再入国制度そのもの廃止する、これは国連でも指摘を受けているようですし、私はそれなりの合理性がある主張だと思っています。  それから、これは後で手塚先生がおっしゃられると思いますが、外国人労働者問題についてもどうも日本政府のスタンスというのが非常にはっきりしない、不透明だということがいろんな問題の背景にあると思います。  御存じのように、八九年の法改正では、どういういきさつかというのは私も必ずしもよく理解していないんですが、日本人の血の入った外国人日本で自由に働いてよろしいという政策を打ち出したわけですね。ちょうど十年たつわけですが、そこにちょっと数字を挙げておきましたように、法律改正する前年の年末のブラジル人ペルー人登録数は五千二十三人、それが九七年末では二十七万三千人という数になって、そこに書きましたけれども、十年間で五十四倍、これはまさに外国人労働者導入政策が進められつつある。  ところが、どうも日本社会では、いや日本外国人労働者は入れないことにしているんだという建前だけが何かひとり歩きして、現実はさにあらずと。その矛盾の問題をどうするのかということをきちっとやらないと、恐らく外国人労働者問題についての基本的な姿勢、最近経済審議会でいよいよ外国人労働者の導入問題を考えざるを得ないということをようやく言い出したようですけれども、そのことを前提にやっぱり入管法を考えていく必要があるだろう。  これだけ外国人資格外就労が蓄積されてきますと、当然さまざまな問題が起きてきます。そこにちょっとメモしておきましたけれども、ある市民団体、最近はNGOでいろんな外国人支援運動をやっているような団体がふえてきていますけれども、この間あるところで聞いた話では、そこにありますように、親も含めて十六歳未満の子供に聞き取り調査をずっとしているんですが、そのうち六十一人は外国人登録をしていない。何かごく少数は登録はしたけれどもまだ在留資格が決まっていないようですけれども、この子供たちはもちろん医療機関にかかることもできない。それから、一部学齢期に達している人がいるようですけれども、学校にも行けないというような事態が蓄積されつつあるんです。  そのことについてどうするのかということが、調査室からいただいた国会での議論の資料もちょっと見ましたけれども、取り締まるためのいろんな調査はされているようですけれども、こういう無権利状態に置かれている外国人の問題についての調査というのは、これは市民運動が毎週教会に行って集まってこられるわけです。そこでヒアリングするというのは本当に手仕事で集めて、その深刻さをしみじみ感じているという、そういう実態があるわけです。  あと最後に一言申し上げて終わりますけれども指紋の問題は今度ようやく廃止になるわけですが、実は残念ながらその指紋拒否者が出たことによって辛うじて指紋制度がなくなるという不幸な経過をたどったわけですが、その指紋拒否によって不利益を受けた人というのを何人か私も個人的に知っています。ビザが切れたままになっているとかいうケースについては、この際、最終的に日本の歴史上から外国人だけから指紋をとるという制度がなくなるわけですから、原状回復、そういうことがなければ持っていたであろう地位を回復する措置をぜひおとりいただきたいと思います。  ちょっと時間が過ぎましたけれども、以上です。  どうもありがとうございました。
  4. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 次に、手塚参考人にお願いいたします。手塚参考人
  5. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) 手塚でございます。  私は、法律面専門家として外国人と法、これは入管法だけではなく外国人登録法、あるいはその他の例えば労働法社会保障法家族法等法律について研究をしてまいった者でございます。その観点を含めて、あるいは海外幾つかの国でどうなっているかということも含めて、これから私の見解を述べさせていただきたいと思います。  皆様のお手元にA4判の簡単な項目だけのレジュメをお配りしておりますので、それに沿って話をさせていただきます。第一の外国人登録法改正につきましては、長年懸案の問題でありました指紋押捺制度廃止、いろいろな紆余曲折を経たことは今、田中参考人からの話にもあったわけで、ある意味では遅きに失したかなという気もしないでもありません。全く賛成であります。  それから第二に、今回の法改正外国人登録証明書について改正がされるということであります。先生方外国にお出になる際にはパスポートを常時携帯されていると思いますが、それが盗難に遭ったりするという被害が常時あるわけです。最近のパスポートは小さくなりましたけれども、昔のパスポートは非常に大きくて、私は海外生活が長いものですから、それを常時携帯していますと本当にかさばって大変でありますが、それにかわって登録証明書があるわけでありまして、非常に小さな形になっております。  同じようなもので、御案内とは思いますが、EU諸国の中の十数カ国がいわゆるEU内部国境廃止するということでシェンゲン協定というのを締結いたしまして、シェンゲンの一種の登録カードのようなものを発行しております。これは非常に小さいものであります。しかしながら、これはEU諸国国民だけでありまして、私どもには見本はちょうだいできるんですけれども本物はちょうだいできない、こういうことであります。  これは後ほどお話しさせていただきますが、第一に私が申し上げたいことは、今日、外国人登録証明書は、実は外国人の方が日本自治体で例えば子供さんの児童手当をもらう、あるいは市営住宅に入る、そういうようなときに簡単に登録証明書によって、あるいはその写しを交付してもらって、もうそれで何ら問題がないという行政サービス一つプラスの面が出てきている。あるいは銀行口座をつくるときにこれを提示すればよろしい。  こういうことで、ある意味では非常に大事なプラスの、国民権利と同じように、ただ国民自身日本の場合には身分証明書を持っていませんから、そこが若干違うところで、携帯義務という問題が出てまいります。しかし、それにもかかわらずそれで済むということです。私は恐らく国立大学の教官の中でたくさんの外国人留学生を指導している一人だと思いますが、皆さんやっぱりそのメリットというのを非常に強調しております。  ただし、罰則の問題がございまして、田中参考人がおっしゃられたように二十万円というのは高いかもしれない。しかし、そうでもないこともあり得る。罰則が高いか低いかということよりも、身分を証明するものは持っていないと困る。これは、連日のように朝七時から八時まで海外のニュースをやっていますけれどもコソボ難民がアルバニアやマケドニア等々に入るときに身分を証明するものが何もない、そういうようなことで混乱を生ずる。  あるいはEUの中でもそういうものがなくて困るというようなことがありまして、それでEU諸国はこういったものを持つことを間接的に強制をしております。ですから、例えばドイツに外国人法という法律がございますが、罰金は百マルク、約七千円で少ないということがございます。しかし、それにしてもそういうものが必要だと。  シェンゲンカードができる前は、私どもの大きなパスポートビザのスタンプをぽんと押して、例えば留学の方だったら、こちらの先生方でいらっしゃるかもしれませんけれども、就労してはならないということをはっきり書いてあります。アメリカでも同様であります。ですから、そういうことをきちんとすることは何ら間違ったことではない。  ただ、歴史的に、これは先生方も御案内のとおり、戦前からおられる在日永住者方々に対するかつての取り締まりと称する人権侵害があったことは事実であります。しかしながら、私はこのこと自身も必要だと思います。  それから、もう一言つけ加えさせていただきますと、外国人登録証プラスメリットがあるというのを非常に認識しているのは市町村住民課の窓口で、正式に在留資格のない方がどんどん外国人登録にいらっしゃって、登録法上は一応受け付けることに現在までなっているんだと思いますが、そういうことで非常に困っておられる。そうすると、在留資格なしということに登録証の中には書き込まれます。でも、それで就職をされたりあるいは銀行口座をつくられたりいろいろされるわけであります。  御案内のように、一九八六年にアメリカでは外国人がどんどんメキシコ国境を越えて入ってきて不法就労をして、そして例えば建設業は北部と南部の賃金格差が三倍もできたというような状況のときに雇い主の罰則をつくったわけでありますが、グリーンカード等々を調べる方法がなくて、しばらくざる法になった経験がございます。今日では御案内のとおり、アメリカでも常時携帯義務を百ドル以下の罰金で科しているということであります。  それから、入国管理法に対して一言申し上げたいと思います。  まず、不法入国ないしは不法在留に対する罰則の新設というのは、後で質疑等々があると思いますけれども、これはやむを得ない事態かなというぐあいに私は思います。  それから、退去強制者に対する上陸拒否期間を五年に延ばしました。これも立法趣旨を立法案で拝見させていただきますと、リピーター、いわゆるパスポートの偽造をしてまた入ってこられる方がある、そのために五年にされた、こういうことであります。  御案内のとおり、アメリカの場合も五年以上でありまして、今では大分やわらかくなったんですが、それでも要するに退去強制者の中の重大なる犯罪、詐欺だとか売春、麻薬等々の犯罪を犯した人は五年から十年、それから入国拒否をされた者については一年以内、退去強制に遭いますと五年以上ということで、これもすべて法務長官の同意によって受け入れているわけであります。  ですから、確かにその点で五年というのは長いような気がしますけれども、ただ人権団体の方たちのお話を伺いますと、例えば日本人と結婚された外国人がオーバーステイでということで、日本人の配偶者としての在留資格がありますからもちろん入れるわけでありますが、これも裁量にゆだねられているというところがありまして、極めて問題だろうと思います。その点は定型化する必要があるだろうというぐあいに私は思います。  それから、再入国許可については期間が延長されました。これは私は大賛成でありまして、私も多くの永住者等々の友人を持っておりますが、かつては、例えば中華人民共和国の国籍の方と台湾国籍の方が結婚されている、そうしますと、同じように夫婦で外国にいる場合も、期間が違いましたから片方が帰ってこなくちゃいけない。一年ごとの更新をするとかそういうことがありまして、ある意味では日本に定住している方たちについて、将来的には恐らく廃止の方向というのはあるんでしょうけれども、これが延長されたことについては賛意を表したいと思います。  その他、さまざまの問題があると思いますが、先生方の御意見を伺いながらお答えさせていただきたいと思います。  どうもありがとうございました。
  6. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 以上で参考人意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  7. 服部三男雄

    服部三男雄君 自由民主党の服部でございます。両参考人にお尋ねしたいと思います。  まず、外登法関係でございます。田中参考人は常時携帯について余り触れられなかったように思いますが、メモにはあるようでございますのでお伺いしたいんですが、手塚参考人は常時携帯のメリットもあるじゃないかということでございます。  まず、やっぱり国籍の問題ですから、他の国は日本人に対してどういうふうに扱っているかということも考えなきゃいかぬわけであります。レシプロシティー、相互主義ということだろうと思います。そうすると、一昨日の法務大臣の答弁にもございましたが、外国人登録証明書などは合法的な滞在者であることを示す文書であるということで、ほとんどの国では携帯義務を定めて、それに違反する行為に対して罰則を科しているという例がほとんどの国だと言って過言でないと思います。  手塚参考人はその点は非常に賛意を表明していただいたわけでございますが、田中参考人は、諸外国日本と同じような形態をとっている、しかも罰則もほとんど過料、行政罰則でなくて刑事罰則である、その金額の多寡はともかくとしまして、日本よりも高い国もありますが、この点についていかがお考えでございましょうか。
  8. 田中伸

    参考人田中宏君) 私、時間の関係でちょっと述べませんでしたけれども、私が述べた基本的な視点との関係でいいますと、意外とこの議論のときに忘れられているのが日本人身分証明書がないということなんです。  諸外国でどうなっているかというときに、法務省調査もちょっと委員部の方からいただいたのを私も見ましたけれども、それぞれの国が自国民にどのような身分証明書制度をつくっていて、その身分証明書の携帯についてどうなっていて、そしてその国に居住する外国人にどうなっているか、そういうふうに物を考えることがまず基本だろうと私は思うんです。ですから、日本人外国に行ったときに身分証明書の携帯を義務づけられるということもあり得ると思いますけれども、これはその国の国民がどうかというのを、私の素朴な疑問は、なぜ日本では自国民身分証明書制度がないのか、あえて申し上げれば、むしろそちらの方が私は問題だとさえ思っているんです。  ですから、指紋が何で問題になったかというのは、外国人だけから指紋をとるから問題なんです。自国民から指紋をとっている国はたくさんあるわけです。韓国は自国民もとるし、外国人もとっていたんです。ですから、韓国では外国人から指紋をとるということが問題になる余地がないんです。そういう議論を私はきちっとすべきだと思います。  それで、日本の場合には自国民は、私は辛うじて学長の判こを押した身分証明書というのを持っていますけれども、これはあらゆる意味で厳密な身分証明書ではないわけです。外国人登録というのは存在そのもの証明書がくっつくという仕組みですから、そういう中で暮らしている外国人、いろんな人が入ってくるから身分をきちっとすべきだという議論がありますけれども、入ってきた人が、いや私は日本人です、それではおまえ日本人証明書を出せと言われたらないんですから。そこのところをきちっと考えないと、外国人に常時携帯の義務を課すことの理屈というのが私は非常に問題だというのが基本的な考えです。
  9. 服部三男雄

    服部三男雄君 田中参考人が日系人の労働者の問題についてお触れになりました。事実、いわゆる非永住者が現在六十三万人になっております。現行法では、この人たちにも今のところ批判の多い指紋押捺義務が課せられているわけです。今回はそれを外そうということでございます。この点について先生の御意見はいかがでしょうか。  といいますのは、手塚参考人指紋押捺制度全廃について賛意をはっきり表明していただいておるわけですが、田中参考人はこの点についてちょっとお触れになっていないようですが、いかがでしょうか。
  10. 田中伸

    参考人田中宏君) 私も余りきちっと申し上げなかったかもしれませんけれども、本来はもっと早く廃止すべきものだというのが基本的な考えですから、当然廃止することについては賛成です。
  11. 服部三男雄

    服部三男雄君 入管法との関係もあるんですが、両参考人とも余り規約人権委員会のことについてお触れになっていないんですけれども質疑のところでたくさん出ていますので、ちょっと敷衍したいんです。  規約人権委員会は、国連人権規約四十条の規定に基づきまして各国政府の提出する政府報告を検討することになっております。その検討した結果がどのような効力を有するかについては条約上も全く何も規定がないんです。要するに、国際的な拘束力がないということになっているということを御存じかどうか、両参考人。  また、他の国、例えば今の常時携帯義務の問題ですが、永住外国人に対して米国を初めその他の各国では身分証明書の携帯を法律義務づけている国はいっぱいあるんです。それはみんな人権規約加盟国なんです。その規約人権委員会日本に対するのと同じように、米国を初めとする同様の国に廃止勧告をしたというような話は全くないんですが、両参考人はこの点についてどのようにお思いになりますか。
  12. 田中伸

    参考人田中宏君) 規約人権委員会の見解をどういうように考えるのかというのは、厳密な意味での法的拘束力は服部先生がおっしゃるようにないんだろうと思いますね、その意味では。日本は特に選択議定書も批准をしていませんので。  ただ、私は先ほどの身分証明書の問題について、他の国についてどういう報告書が出され、問題の常時携帯についてどういう判断がされたのかというのは、日本のレポートは一応全部目を通していますけれども、ポイントは先ほど私が申し上げたことだろうと思うんです。自国民についてIDカードがある、外国人について同じカードか別のカードかということは国によって違うでしょうけれども、そういう仕組みになっていれば基本的にはそういう問題は起きないだろうと思うんですね。  日本の非常に特徴的なのは、日本人には全く身分証明書制度がなくて、ましてをや携帯がない。ところが、外国人だけは四六時中証明書を持っていろ、それを持っていなかったら刑事罰をかけるという、そこが国連に大変関心を持たれたのではないかというのが私の見方です。
  13. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) 私もその点では同様でありまして、なぜかといいますと、今はわずかに一・一八%の日本における外国人人口の比率であります。恐らく二十一世紀半ばには一〇%を超えると思いますね。それで、これを外国人労働者として受け入れる、いわゆる単純労働者として受け入れるかどうか、一、二の元気のいい、特にアメリカをモデルにしてお考えの方がそういうことをおっしゃっておられますけれども、今後の日本の労働市場を見ますと、失業率が高齢者はもう五十五歳以上が一〇%を超えている状態、それから若者が一〇%を超える状態。ヨーロッパ各国が労働市場の中で若者の失業率がどんどん上がってさまざまな問題を抱えているという状況がある、これに私は日本も行くと思います。  しかしながら、日本は国際的にオープンな国でありますから、オープンにした以上やっぱり内外人平等というのをしなくちゃいけない。  そこで一、二の問題点を申し上げますと、私は十年、二十年後のことまでお考えいただくのが先生方のお仕事だと思います。立法作業も政策もそうでありますが、お説教めいたことを申し上げて大変恐縮です。教師なものですからそういう性癖があるんですけれども、要するに権利を主張する場合にはそういうものは必要だろうけれども義務も同時にということですね。  そうしますと、税法上の問題で、例えば今後国民総背番号制ができるかもしれません。税金をちゃんと払っているという証明ですね。もちろん、ヨーロッパでもアメリカでも税金をちゃんと払っていない外国人はいわゆる永住権は取れない、市民権は取れないというのが原則であります。同じように、日本もそうなるかもしれません。  それから、確かに外国人登録証というものはよくやられておりますが、先ほど市町村における国民健康保険のことを田中先生はおっしゃられましたけれども、私も地方自治体市町村現場調査をすることについては法律学者として人後に落ちないつもりです。例えば日本人の場合は、転出をする場合には住民基本台帳法によってさまざまな家族等々の資料国民健康保険あるいは国民年金の書類を相手先に持ってまいります。ところが、外国人の場合にはそれがうまくいっていないというお話でしたけれども、そうしますと転出先の町では前にどこにいたかわかりませんから、国民健康保険保険料というのは前年度の所得あるいはお持ちになっている資産についてかかってまいります。これは健康保険と違うところであります。ですから、ブラジルにいた方が日本に来たときにはそういうことができませんから、そういう方たちについては収入がなかったという認定で六割減免とか留学生やなんかと同じになっています。  ところが、公開のところで話をしていますと、私などの話を悪質なブローカーの方がよく聞きに来まして、それを利用して届け出しないんですね。A町から次の町に移りますと届け出しない。そうするとまた六割減免になるわけです。あるいは、それでも私は国保に入っていただくべきだと思います。ただ、雇い主が義務があるにもかかわらず、実際には健康保険に入れていないわけです。  これはある日本最大の自動車会社の、しかも中規模程度の下請の企業が外国人は一切健保に入れない。それから、国民健康保険にも入れない、住宅も世話をしない、子供の学校の世話もしない。そして、そういう中で重病の方が数人出まして、その町の国民健保が赤字になって、隣の市がその赤字を肩がわりした、こういうケースすら出てきております。  その他、やっぱり管理という言葉は、私は絶対にしてはいけないと思いますが、権利義務ということを考えていただきたい。それから、こちらに傍聴の方もいらっしゃいますけれども、よく税金をきちんと払っているということをおっしゃいます。しかし、不法就労の場合に使用者は健保にも入れていないし所得税も源泉徴収していないわけであります。これをある時期までは税務署も暇だったものですから、半分くらいは捕捉をできたようでありますが、今ではしていない。しかし、日本で一割、二割ふえていったときに、ドイツではそういう脱税に関する検察庁の送致件数というのは年間二十万件から三十万件です。しかも、さまざまな不法就労助長罪だとかその他がありますが、そういうものでの送検件数も一万件とか二万件あるわけであります。  私は、労働法専門家でありますから、外国人については労働基準法等々を徹底的に適用しなくちゃいけない、オーバータイムも払わなくちゃいけない、税金も払わなくちゃいけない、それから健保にも入れなくちゃいけない、そういうことをきちんとやらないでいる日本はやっぱりおかしいなという気がします。内外人平等というのはそういうこともつきまといます。  以上です。
  14. 服部三男雄

    服部三男雄君 今回の改正で、上陸拒否期間の問題がちょっと報じられました。一年を五年にするということです。この問題ですが、韓国の上陸拒否期間というのは五年で、今回の改正案と全く同じですし、アメリカではケースによっては十年もある。ドイツでは裁量で決めているというような事情がありまして、日本もグローバル化の時代で諸外国との権衡もありますし、退去強制の問題もありますからこのように改正したんですが、その点について手塚先生は賛成をいただいておるようです。田中先生は必ずしもはっきりしないようなんですが、御意見はいかがですか。
  15. 田中伸

    参考人田中宏君) 私も法改正自体はそれでいいだろうと思うんですね。私が一番強調したいのは、そういうことだけやっていていいんですかということを言いたいんですね。ですから、片一方の政策全体をどうするのか、それから確かに長くしておけばその人は五年たたないと幾ら何でもビザの申請ができない、あるいは成田に来てもはじかれるというのはそのとおりですけれども御存じのように、例えばリピーターと言われるような形で来る人は名前を変えて来るんですね。これは五年、間をあけても何の意味もないんですよ。  ですから、そういうことで、もちろんある部分はチェックできるでしょうけれども、今まで一年だったものを五年にしたので外国人の問題は解決するというようにもし思ってやるとすれば、それは入管もよく知っていると思いますけれども。ですから、私はそれは一年よりは五年にしておいた方がいいだろうということは思いますけれども、そのことで今、日本が直面している問題がどうこうできるという問題ではないんじゃないですかということをむしろ言いたいわけです。
  16. 服部三男雄

    服部三男雄君 以上です。
  17. 千葉景子

    ○千葉景子君 きょうは両参考人に大変貴重な御意見を伺いまして本当にありがとうございます。限られた時間でございますけれども、何点かお尋ねをさせていただきたいと思います。  そこで、まず外国人登録証の常時携帯の問題についてお尋ねをさせていただきます。  手塚先生からは、この登録証明書行政サービス意味でも、さまざまなサービスを受ける際のプラスの面、携帯をしてそれを提示することによってメリットもあるというお話がございました。私もそういう面は当然あろうというふうに思います。また、田中先生からは、逆に言えば、むしろ自国民の方に身分証明書というものがないということとの矛盾点の御指摘がございました。  ただ、両先生からお伺いしても、いずれにいたしましても、結局その携帯をする者にとって、行政サービスを受けたり、あるいはみずからの身分権利を証明ができるという意味では、持っていることが権利といいますか、むしろ自分にとってのメリットであるということでございます。  そういうことを考えると、この常時携帯を強制して、それを罰則というんでしょうか、もし持っていなかったら、罰則がつくというのは犯罪でございますから、犯罪と扱うということには両先生の考え方とは矛盾があるというふうに思うんですね。持っていれば便利だよと、だからみんなで持っていた方がいいという意味はわかるんですけれども、じゃそれを持っていなかったから犯罪とするということにはいささか問題があるように思うんですが、その点については田中先生手塚先生、それぞれどうお考えでしょうか。
  18. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) おっしゃられるとおりだと思います。例えば、私などは物をしょっちゅう忘れまして、上着を着がえますと身分証明書の入ったものを忘れたり、もっとも今持っていませんけれども、その他忘れます。私自身一番長い滞在国はドイツでありますが、しょっちゅう忘れたりいたしました。  個別のケースで、非常に今までの行政サイドでやはり人権の問題を生じたケースが、過去十年くらい前あるいは現時点でも起きているのかもしれませんが、今日でも個別の行政の担当者でそういうことが起きているとするならば、例えばちょっとこれ出せというときに出さなかったのでこれは罰則だよと、こういう話であります。  先生は弁護士さんでいらっしゃいますから、登録証明書の携帯提示義務については十三条がございますが、携帯しなかった場合には二十万円、それで見せてくれというときに嫌だよと言って見せなかった場合に一年以下の懲役もしくは罰金と、こういう二段構えになっております。このあたりは、恐らく立法上今後工夫しておく必要があるかもしれません。おっしゃられるとおり、罰金の額を少なくするとか、田中参考人がさっきおっしゃられたように第一段階を過料にするとか、そういうことがあるわけでありまして、例えばの話がシェンゲン身分証明書にはアイテムにしたら何千といういろんな個人のことが入っているんだそうです。  それで、そういうことがありまして、それももちろん人権のために、情報公開の問題はありますけれども、しかしながらそれを見せてほしいという権利を行使するときなんかに、それがノーというときの処罰規定等々については検討の余地があると思います。今後の検討課題だと私は考えております。
  19. 田中伸

    参考人田中宏君) 私が先ほど申し上げましたけれども、もう一つ外国人登録法を考えるときに意外と忘れられている基本的なことを一つ申し上げます。  実は、かつての外国人登録法は、その法律の条文に公正な管理というのが生き残っているわけですが、管理一本やりの法律だったんです。それはどうしてかというと、管理することだけを目的にするためにつくられた法律なんですね。ところが、現在では、先ほども申し上げましたように、例えば外国人登録をしていないと児童手当がもらえないとか、それから外国人登録をしていないと健康保険に入れないとか、そういう登録に伴って具体的なメリットが出てくるようになってきたわけです。  法律の施行というのは、そのことに伴ってメリットがあれば守られるわけですね、理論的に。そうすると、刑罰に託す、そのことを守らせるために罰だけで追い立てていくという必要がそれだけ減るわけです。ところが、その罰則の方はずっとそのまま来ているわけですね。ですから、構造が変わってきているわけです。登録をすることによってメリットが生ずるということになっているわけですから、きちっと登録しておかないと不利益が生ずるということになれば、当然それだけ法自体が内在的に法を守らせる力を持ってきているわけです、今では。それが従前どおりの刑罰にのみ頼って法の遵守を外国人に迫るという構造、これがそのまま残っちゃっているんです。常時携帯や何かは前は自由刑がついていて、それが今は自由刑が外れて罰金刑だけになったとかというので若干手直しはしてありますけれども、基本的な構造が大きく変わっているんです。  ですから、さっき言いましたように、日本人が住居の移転を怠った場合には五千円の過料でいいのに、何で外国人が同じ手続をしなかったら四十倍も、しかも罰金ということは過料ではありませんので、これは実は正確には四十倍にしてはいけないんですね。これは法律専門家によると、それは四十倍にできない、掛け算ができないんです、過料罰金というのは違いますから。そんなに格差をつけておく必要がどこにあるかというその原点に立ち返って、やっぱり罰則というのは住民記録とのバランスを考えながら一遍総ざらいをすべきである。そうすると、常時携帯に刑事罰を科すということがいかにおかしいかということがおのずと見えてくるだろうと思います。
  20. 千葉景子

    ○千葉景子君 手塚参考人にお尋ねをするんですが、先ほどのお話の中で、出入国及び難民認定法に関連して、例えば上陸拒否期間が延長になりました。その間に、例えば結婚して家族ができた、そういうことに対してはどう対応すべきかということで、定型化をすべきだというお話がございました。確かに、現在、そういうケースで特別在留、特在などで多少救済をされるケースはあるんですけれども、これは法務大臣の裁量にゆだねられているわけで、必ずしもそうはいかないあるいは大変な時間がかかるということもございます。  そういうことを踏まえてかと思うんですけれども、この点についてもうちょっと御説明をいただければと思います。
  21. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) おっしゃられるとおり、定型化するというのは非常に難しいかもしれません。しかし、日本の行政庁は行政指導の名人でございますから、いわゆるそういう内部的なものを実際につくられてケースを積み重ねることは可能だというぐあいに私は考えています。  私自身も、例えば東南アジア諸国や南西アジア諸国の現地を調査して、日本人の方と御結婚されている方、かつては不法残留者と結婚される場合には、原則として一年間は退去強制されていて、ウエーティングして、それで戻ってくることが許されたわけでありますが、そこは裁量によって六カ月でやったっていいというぐあいに私は思っておるんです。その上に、要するに特別在留許可で、退去強制者と結婚して子供が生まれてしかも病気になったりというような場合には、それはもうそのまま残るとか、そういうことがあるんですが、それはケースで積み重ねていくということが私は大事だと思います。ここで議論しているのは法律でありまして、法律政策はやっぱり原則と例外をきちんとしておかなくちゃいけないと思います。過去に実際に非常にお気の毒なケースがございます。  それから、罰則のことで申し上げますと、私の友人で、ある南西アジアの非常に優秀な方で日本の中枢の企業に勤めておいでの方がいらっしゃいます。過去、交通違反で罰金刑に科せられた。そうしますと、今まで再入国許可がなかなか出なかったとかそういうこともありまして、先生おっしゃられるように、罰金刑を含む処罰というものについてもやっぱり軽減化していく必要があると思いますし、再入国許可についても、確かに五年というのは長いわけでありますが、それは原則でありまして、私もはっきりした結論を今持っていませんけれども、それをどういう形で積み重ねをしていくか。  日本の場合には、判例法の国じゃありませんから、判例法の国でしかも、あるいはドイツのように大陸法の国は裁判は一回で終わります、大体原則として。一年も二年も三年もかかるようなことはありません。ですから、行政裁判所でも何でも即決でいたします。そうしますと、人権の観点からもケースを積み重ねやすいということがありまして、これは別途の問題ですけれども、同じ法務委員会で他方で論じられている司法制度改革にもかかわる問題です。  やはりこういう問題で何かあったときに訴訟を起こしたりする場合に、もう退去強制されて出ていかざるを得ないという、あるいは特別在留許可を求めた場合に、そっちの方が先行しちゃうというようなことがあり得るわけでして、それらの問題も一緒に考えないといけないというぐあいに考えております。
  22. 千葉景子

    ○千葉景子君 では、田中先生にお尋ねいたします。  先ほど、出入国管理法の関連について、今の上陸拒否期間の延長については、それ自体については評価といいますか肯定的なお答えではございましたけれども、要するに、それだけで何かしようと思うのがそもそも無理だと、問題であるということもございました。今回は、さらに不法滞在罪というものが新設をされる。  こういう罰則を新設する、あるいは管理を強化するという形で外国人の出入国を何とか食いとめようという構造になっているわけですけれども田中先生はそういうことで外国人との適正なおつき合いが本当にできるとお考えでしょうか。それとも、やっぱり総合的なさまざまな施策、あるいはちょっとお触れがありませんでしたけれども、一たんアムネスティのような形で救済をしながら、新たに日本への滞在をきちっと整備していくというようなことも必要なんではないかと思いますが、そのあたり、今度の重罰化との兼ね合いでどうお考えでしょうか。
  23. 田中伸

    参考人田中宏君) これは、国としてどういう政策を打ち出すかという全体の問題にかかわるだろうと私は思うんです。それで、確かに罰則の強化とかそういう形でいろんな手だてをするということも必要だと思いますが、何かそれで問題が解決するというのではなくて、それではどうしようもない問題がいっぱいあるということを私は強調したいんです。  これは、御存じのように、八九年に法改正をして九〇年六月一日から新法に移行したんですが、実はいわゆる超過滞在者の数というのはその後どんどんふえていったんです。たしか法改正の年が十万ぐらいだったのが三十万ぐらいまで伸びているんです。私は大学でも授業で、法改正の仕方が下手だったのか、それとも入管が仕事をちゃんとしていないのかと思うかもしれないけれども、実は事はさにあらずなんだと、要するに需給の問題があるわけです。  日本の側の、日本人の勤労観というのも、私もかなり年寄りですけれども、昔は汗水垂らして働くのが美徳という国だったと思いますけれども、今はどうもそうではないようですから、つらい仕事というのはだれか別の人が、すなわち外国人が担っていっているという実態があるわけです。  去年、おととしでしたか、私のいる一橋大学の私の研究室のある建物の外装工事、ちょうど夏休みで、私は時々研究室に行ったんですが、かんかん照りの中に足場を組んで作業をしているんです。全部外国人なんです、外国語が飛び交っているわけですよ。恐らく、考えてみたら、あのかんかん照りの中で、あの足場の上で、はつりの仕事ですけれども、ああいう仕事をする人は日本人にいないのかもしれないなと。私は非常に複雑な気持ちを持ちながら研究室で仕事をしていました。学生にも授業で話しましたけれども、そういう事態があるわけですね、現実に。  一方では、空港という空港はどんどん拡大しているわけです。関空は二十四時間飛行機が飛ぶことにしたわけです。ところが、金属探知機で入国のところ、飛行機に乗るときにチェックはできますけれども、この人は日本に来たら潜って働くかもしれないという人にランプがつくような方法が発明できるかということなんです。これは恐らく理論的に不可能だと思うんです。そうすると、どんどん空港ができて、あっちからでもこっちからでもどうぞ外国から入ってこれますよといってこの国では窓口を一生懸命広げているわけですから、入り口でチェックするということは基本的に私はできないと考えた方がいいと思います。しかも、需給の問題があるわけですから、日本に来れば仕事があるという。  昔は、日本は人口が多くて貧しかったので外国に働きに行ったわけでしょう。日米移民摩擦のときに、日本からたくさん移民が来過ぎてアメリカでさんざん問題になるわけです。日本から来た学生は登録だけしたら潜って働くばかりして困るといって、アメリカの国務長官から日本の外務大臣はクレームを受けたわけですよ。日本は今立場が逆になっているわけでしょう。そういう構造の問題があるわけです。それをどうするかということをきちっとしないで多少のこういう手当てをしても私は問題の解決にはならないと思うんです。  ですから、もっとアムネスティをやるとか、これは、潜っている人は必ず無権利の状態にずっと放置されているわけです。どこの国でも、アムネスティというのはある意味では非常にメンツにかかわることのように見えますけれども、一方では、そこで生じている人権侵害をどうやって回復するかというときにほかに方法はないわけです。  もうちょっと外国人権利を守るためのアングルというのを、例えば具体的な例で言いますと、暴力団なりなんなりが外国人パスポートを預かるというか没収しているというケースがよくあるんです。私が聞いた話では、これは今、日本法律では取り締まれないらしいですね。結局、パスポートを預かってそれをある種の足どめに使っているわけです。これは物すごく大きな圧力になっているんですね、外国人にとっては。だけれども、それを何とかするための方法というのは今の制度ではないようです。こういうのをまさに法的にやる必要があるんじゃないかという気がいたします。
  24. 大森礼子

    ○大森礼子君 公明党の大森礼子です。本日は大変にありがとうございます。  今回の外国人登録法改正、それから入管法改正で、その中に常時携帯義務がまだ残っているということ、それから再入国許可制度そのものがいわゆる特別永住の方にもあるということについて、規約人権委員会からも勧告を受けている。  先ほど、規約人権委員会のこの検討結果というのはいわゆる勧告であって、法的拘束力はないのだという御発言がありましたけれども、それはもう当たり前のことでして、我々もそういうことを当然の前提として議論しているわけであります。それを言ったら国会の附帯決議も拘束力はないわけで、じゃ、無視していいかということにはならない。そういう勧告を受けた場合に、それを拘束力がないからいいんだというのか、それとも受け入れる努力をしてその実現を図るかという、この姿勢を問われているのだと私は思います。  いずれにしましても、規約人権委員会で二度も同じ勧告を受けていることは、我々はやっぱり深刻に考えなきゃいけないと思っています。  両参考人にお尋ねするのですが、まず田中参考人にお尋ねいたします。  指紋押捺制度が今回で全廃されます。それはそれで評価すべきなのでしょう。遅すぎたという人もありますが、ともかくそれは評価すべきことだろうと思います。ただ、かつて指紋押捺を拒否したことで再入国許可が与えられず、そして特別永住資格が失われてそのままの状態の方が残っておられます。その方はまだ不利益を受けたままということですね。ですから、今回改正にあわせて全廃にするのであるならば、そういう方たちの救済措置もしないとこの問題は完結したことにはならないのではないかと私は思っております。  例えとしていいかどうかわかりませんが、そういう指紋押捺拒否という形で一生懸命井戸を掘った、井戸を掘ったら水が出てきた、この水というのは掘った方たちの運動によって得た成果というふうに例えることができると思います。水が出て飲めるようになったのですが、掘ったその方たちは水が飲めないという形です。今回、この水はみんな飲んでいいですよというふうになるのですが、依然としてみずから掘った人たちはその水が飲めないという、こういう形になっていると思います。  まず田中参考人にお尋ねしますが、この問題についてはどうあるべきか。また、救済措置という場合に、ただ単に救済措置でなくどういう方法があるとお考えか、もし参考になることがあればお尋ねいたします。  この問題は、田中参考人に続いて手塚参考人の方にもお尋ねしたいと思います。
  25. 田中伸

    参考人田中宏君) 私、レジュメにもちょっと書きましたように、原状回復という抽象的な言葉を使いましたけれども指紋制度がなければ起こらなかったわけですから、そのもとの状態に戻すということで、これは法律を執行している立場から見ると法律を破ってけしからぬという気持ちはわからなくはないですけれども、別の見方をすると、法違反を重ねることによって制度が変わったということは、私はある意味では日本の歴史上かつてないことだと思うんですね。  これは、日本人外国人との共存関係というのか、信頼関係という観点から考えると、お互いにそういう努力をして新しい知恵を切り開いたという点で、私はそれ自体を全体として評価するというふうに持っていかないと、法を破った連中だからけしからぬということで、その制裁は永劫に破った者には押しつけるんだというのでは、これは和解にならないわけです。私はそういうことがなければなかったであろう状態に戻すという、ごく常識的な措置を、これは多分私の知っている限り法務省の方はおとりになるだろうと期待をしています。法務省の方もそんなに頭はかたくないと私は思っていますので、むしろ国会の方に御理解をいただきたいと思って私は書いたのが実は本当です。
  26. 大森礼子

    ○大森礼子君 それでは、手塚参考人はこの問題についてどうお考えになるかということと、それから救済措置について、法律専門家から見てこんな方法があるのではないかというのを御教授いただければ幸いです。
  27. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) いろんな試行錯誤をしている国にフランスがあると思います。  御案内のとおり、熾烈なアルジェリア独立戦争を経てアルジェリアが独立いたしました。しかしながら、アルジェリアから大量の人々がフランス本土へ出稼ぎに行って定住をしている。結局、あの独立をした時点までに定住をしていた人々についてはフランス国籍を与えたわけであります。ところが、それ以後入ってきた方についてはアルジェリア人として外国人扱いでありました。  しかしながら、再三にわたっていろんな問題が生じて、結局その点で、国籍を与えるかどうかということは別として、さまざまな問題について権利救済をすることをミッテラン政権等々で行ってきたやに私は伺っております。これはフランス外務省であります。  こういうことが実際に日本でも行われることはさまざまな時点で必要だろうというぐあいに考えます。しかし、今後起こることについて、例えば麻薬犯罪をした方が、よく私は言うんですけれどもアメリカで起きたいいことも悪いことも十年たちますとドイツやヨーロッパに波及します。それが十年たちますと日本に波及いたします。麻薬問題のこの広がりというのは、例えばドイツではもうありとあらゆるところに広がっている。オランダとの国境廃止したにもかかわらず、オランダとの国境をもう一回ヨーロッパ、EUはつくらざるを得ない、要するにロッテルダムやアムステルダムから麻薬が入ってくるからであります。オランダの場合は非常にリベラルに対応して、個人の自由、個人の権利であるということで、そういうものを自分で判断してやったらどうだということで余り取り締まりをしなかった。結局、中継基地ができ、どんどん広がってきたというようなことがございます。  これを今後放置いたしますと、やっぱりその問題というのは現実に出てきているわけでして、十年前に比べて、統計は今持っていませんけれども、どんどん上がっていくというときに、それに携わった人々の人権の重さと、逆に麻薬が広がってくることに対するいわゆる公共の福祉の重さと、どちらが大きいのかということを考える必要がある。  ただし、オーバーステイやその他のものと私は同視するわけではありません。しかしながら、そこには法の適用やいわゆる行政の解釈基準には幾つかの段階があって、同時にやっぱり人権の諸相がその中に入っていなければならないというぐあいに思います。  時間はまだよろしゅうございますか。
  28. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 質疑者の時間は限られておりますので、この辺で。
  29. 大森礼子

    ○大森礼子君 特定の事例の場合に限ってどう救済を考えるかということでの質問でした。  それから、よくこの外国人問題を考えるときに、例えば常時携帯とかそういうことにしても、ほかの国でもやっている、ほかの国でも罰則ある場合があるじゃないか等ありますけれども、じゃ、やっていないところもあったら、そことはどう比較するんだという問題にもなると思うんですね。比較するという場合には、その前提に同じものがないとだめだと私は思うんです。そういう身分証明するものを携帯するとか、それは一般的には必要なんだろうと思います。  それから、出入国管理につきましても、要するに国家主権の作用としてその国は外国人を入れるか入れないか、これはその国が決めることができるんだと、これは国際慣習法上の言われていることです。国際慣習法上といっても、それは前提となる世界といいますか、これが同質である中で生まれてきたものであろうと思うんです。  私が何を言いたいかといいますと、一般外国人、短期の方、長期在留の方おられますが、一般外国人永住者、特別永住者と、実はこの問題を考える上でいつもこの三つに分けて考える必要があるのではないか。そして、とりわけ特別永住の方については格別な考え方をすべきではないのかと思うのですね。  例えば、先ほど外国ではと言いましたけれども、もし外国でもこういう例があるのだ、だから特に今の特別永住の方に日本だけが不利益を負わせているのではないのだともしおっしゃる方があるならば、じゃその引用される外国でも歴史的背景というものは同じですかという、ここを確認しないとその説明には説得力がないと思うわけなのです。  歴史的背景とは、なぜサンフランシスコ条約の発効で日本国籍を喪失することになったか、それはその前提として日韓併合というのが一九一〇年にあるからでございます。それから多くの方が朝鮮半島から来られた。それは、戦時中に国家動員計画とかこういうことで労働者として集められた。国民徴用令による動員、昭和十九年九月から行っておる。こういう背景があって、そして戦争が終結してサンフランシスコ条約が発効してと。その後も、例えば昭和二十六年に出入国管理令というのがありますけれども、これは本来の外国人にのみ適用されて、いわゆる朝鮮の方、台湾の方についてはその外国人に含まれておりません。つまり、別な扱いがされてきたということがございます。  そして、この常時携帯、これにつきましても、時間がなくなりましたので簡単でよろしいのですが、手塚参考人にお尋ねいたします。特別永住者については格別な考え方をすべきではないかと私は思うのですが、先生はいかがお考えでしょうか。
  30. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) 異議ございません。ただ、特別永住者永住者も同様にすべきであろうというぐあいに思います。  ちなみに、こういう事件があったのを御記憶に残っていると思います。ゾーリンゲンというドイツの町、いわゆる双子マークの刃物で有名な町なのですが、あそこで外国人排外運動で、トルコ人の方たちが一つの大きな、あちらは家の中に幾つかの住宅がありまして、その中に十五世帯ぐらい住んでいまして、そこに火炎瓶が投げ込まれて若い女性が三人亡くなられた。裁判も終結したようでありますが、そのときにテレビでお父さんは何と言ったかというと、彼女たちはトルコで生まれたけれども、ここへ来て、ここで教育を受け、ここに住んで、ここを自分の母国、祖国だというぐあいに思っているのだ。自分も十七年間ここで働いてそう思っている。それなのになぜということを言って絶句をしたわけであります。  同じことが実際に日本であってはいけないわけでありまして、こういう強烈な排外運動がドイツやヨーロッパで起きていることはもう皆さん先刻御案内のとおりであります。しかしながら、日本でそういうことが戦前戦後やはりあったということを認識しなければいけないということであります。
  31. 大森礼子

    ○大森礼子君 もう時間が参りましたので終わりますが、先生、一般永住の方も含めるべきだとおっしゃいましたが、実は私もそのとおりなのです。永住者、特別永住者の方と、それからまた一般外国人と区別して考えるべきであろうと思います。しかし、その中でもとりわけ特別永住者の方については格別な配慮が要るということで、先ほどあえて特別永住という言葉に限らせていただきました。  以上で終わります。
  32. 橋本敦

    ○橋本敦君 きょうは、両先生ありがとうございます。  最初に田中先生にお伺いしたいのですが、先生のお話の中で非常に大事な基本的なお考え方ということだと承りましたが、特別在留者の皆さんを中心として、在留資格というのは、資格ということよりもむしろ権利であるというように考えるのが考え方として正しい、そういうことをおっしゃっていただきましたが、そういう考え方がやっぱり基本理念として当然あってよいというふうに私も考えておるのです。そういう考え方からして、レジュメでは例えば再入国許可制度の適用外とすべき、こういうふうにございますので、この点についてもう少し敷衍をしていただければと思います。
  33. 田中伸

    参考人田中宏君) 入管特例法ができて、旧植民地出身者及びその子孫が一括して出身地のいかんを問わず一つのステータスをつくったというのは、私はこれは非常に高く評価できると思うのですが、その人たちの具体的な地位、処遇というのを考えていくと、さっき御指摘いただいたように権利性というのは非常にまだ弱いというのか、資格にすぎないのではないかという受け取り方をされかねないのです。  再入国許可制度の適用外というのは、再入国というのは一たん日本から出て日本に戻ってくるときに、あらかじめ日本に戻ってきていいという許可を持っていないと外に出られない、出ちゃったらもう入れなくなるという制度ですけれども、これは先ほど大森先生が言われたように、入管特例法の対象である特別永住者なり一般永住者というのは、これは外国人管理するときの一つの重要な、道具という言葉をあえて使いますけれども、期間管理というのを放棄している外国人なのです。定期的にその在留をチェックしてその当否を問うということをしないカテゴリーの外国人、あなたたちについては期限はありませんよという、そういう人は限りなく日本国籍を持っている人と同じような、いわゆる内国民待遇を私は考えていくべきだ。それで、あえて例えばと使ったのはそういうことなのです。  ついでですから、永住者とか特別永住者については、例えば外国人登録証制度が残っているわけですから、例えばカードの色を変えて一目してわかるようにするとか、そういう工夫は法務省は多分考えてはいらっしゃるのじゃないかと思いますけれども、要するにこの人たちは違うということをきちっとやっぱりお互いにはっきりわかるようにする。  もう一つは、これも大事なことなのですが、例えばアメリカは御案内のように国籍法が出生地主義なのです。両親とも外国人であろうとアメリカでおぎゃあと生まれたらアメリカの市民なのです。ところが、日本の場合は外国人が永久に再生産される仕組みになるのです。途中で帰化という道をとらない限り再生産されますから。そうすると、さっきお話しのように日本で生まれ育った人も純粋に外国人としてさまざまな制限を受けるということが構造的にあるわけです。そうすると、当然いろんな制度は、国籍法が血統主義をとっていることの問題点を別の形でカバーしているのですね、そのことによって生じる不利益を。  そういう発想を持っていくと、内国民待遇を与える外国人というのをもっとはっきりするという、その一つの例が、例えば日本人は外に出ていつ帰ってこようと別にどうってことないわけです。ですから再入国制度廃止しても、一般外国人の場合は在留期限がありますから、今度三年以内になりまして、三年より長い在留期間というのは日本制度はありませんので、結局在留期間目いっぱいまではいいですよということにしたということですから、では期限のない永住者についてはもう再入国許可制度そのものがなくていいじゃないのという、そういう趣旨です。
  34. 橋本敦

    ○橋本敦君 もう一つの問題として、それに関連するかどうか、これは手塚先生のお話にあったことでお伺いをしたいのですが、内外人平等ということが先生のお話でございました。そういう点からいきますと、先ほどから議論になっておりますけれども住民基本台帳法と外登法との関係で、過料罰金ということの差、しかもそれが、先ほど田中先生のお話ですと金額が四十倍の差があるというお話がございました。確かに、この点は私もアンバランスだというように思っておるのですが、法律家の一人としてこういうアンバランスの是正は必要だなというようにも痛感しておるのですが、その点、手塚先生のお考えはいかがでしょうか。
  35. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) おっしゃられるとおりだと思います。  それから、ちょっと第一番目の御質問の御参考になると思いますが、実はドイツは五年間きちんとした職業についていて、きちんとした住宅を持ち子供も教育しているということがありますと定住権が与えられます。それから、八年間それをしていますと永住権が申請によって与えられます。しかしながら、その裏には極めて厳しい対応が行政にありまして、私も子供を連れて滞在していたことがあるんですが、いわゆる市役所に警察機能を持った内務省の出先が入っています。そこへ用もないのに三回、四回呼び出すんです、夫婦そろって来いと。これはどういうことかというと、学校へ子供をきちんとやっているのか、それから何とかと。それで私も三回目にはしかりまして、それで、おたくの一番トップの人に会いたい、私はちゃんときちんとケルン大学に研究で来ている人間であり、かつまた同僚は証明書を書いてくれた。だから、そのくらいのことをやっているわけです。  ところが、日本はそこまではできないわけであります。ですから、申し上げたいことは、在留資格というのに四つ段階がある、日本語はそういうのを言葉にできない不便な言葉でして、ドイツ語ですと期限つきの在留と、それから今申し上げましたように期限がないやつ、それから学生のように承認を受けてしばらくの間いるというもの、それから隣のオーストリアやオランダから行ったり来たりするようなそういう働き方をするやつとか、四種類くらいある。  ヨーロッパ大陸諸国は大体そういう言葉の問題もありますが、法律上きちんと明確にしていますす。日本の場合は、アメリカ法の伝統がありますので、在留資格ということで、あとは日本国籍を取るかどうかということ、永住権を与えるか、永住権を持っていないか、あるいは中間のカテゴリーとして定住権というのが出てまいりましたけれども、今後はそういうのが、いろいろそれによっての権利や保護というのも違うし、それは当然だというのがやっぱり欧米の一般的な流れじゃないかなというぐあいに思います。
  36. 橋本敦

    ○橋本敦君 次の問題として、不法滞在罪の新設について重ねてお伺いしたいと思うんです。不法入国ということでそれ自体が犯罪として三年の時効がある。それが過ぎますと今度はもう時効になってしまっているので刑事責任を問えないからということで不法滞在罪を新設するというのが法務省の説明です。  不法滞在ということの基本は不法入国ということですから、国の主権の行使として不法入国を適正に管理し、これをとめるというのは当たり前のことで、問題の第一はやっぱり不法入国をどうきちっと管理するかということが基本だろう。  そういう点で蛇頭とかいろんなことがよく言われておるんですけれども、これは外交的努力で、やっぱりそれなりに相手国に対して不法出国をきちんと規制してもらいたいよと、日本としては、そういうようなものはきちっと国際的に合理的な管理をやっていかないとお互いに国際関係がうまくいかないよというようなことを外務省が努力するとかあるいは法務省が努力するとか、蛇頭に対してはそれなりの厳しい摘発をするとか、そういったことが前提にないと、不法滞在罪だけを新設しても、これで本来ならもう時効になっている人を改めて刑罰にかける、こういうことになるわけですから、過重な話になるんですね。  そういう意味で、人権問題にもかかわってこないとはいえない問題も生じてくるので、基本的にここらあたりを両先生はどうお考えになっていらっしゃるか、この点をちょっとお伺いさせていただきたいと思います。
  37. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) おっしゃられる点はごもっともだと思います。  確かに、いわゆる人の移動は、政治的あるいは宗教的な難民を別としますと、三つの要因があるというぐあいに言われております。これは、人口の圧力と経済格差とそれから国のとっている政策という三つの点があります。  しかし、そういう中で、ヨーロッパはああいう状況で、御案内のとおり難民の波というのが物すごい上に、しかも大陸でありますからどんどん国境を越えれば入ることができるというので、内部のコントロールは相当きついわけであります。日本の場合には、どうも入っちゃうとそれでいいということがありまして、実際に不法入国しちゃえばいいというのが広まっているのではないかという気がいたします。  過去、かつて幾つかの国との間で外交努力やその他で法務省、外務省が自国からのそういう不法入国あるいはその他在留資格がないのに働きに行くというのを自制してくれということで、査証免除協定を停止したり査証を義務づけるようなことをいたしましたけれども、実は地球上の五十数億人の人口の五分の一が中華人民共和国にいるわけであります。自由化されれば自由化されるほどたくさんの方が日本に働きに来たい、こういうことでありますから、実際にはあちらでも自分の国内ですらコントロールし切れない状態ですので、日本の国内で、あるいは入り口で、水際でというのは非常に難しい状態であろうかと思います。  しかしながら、こういう罰則がないと、やはり入っちゃえばいいじゃないかという話になりかねないというぐあいに私は危惧しております。そのことで人権侵害も逆に生ずると思います。
  38. 田中伸

    参考人田中宏君) 私は、先ほどちょっと言いましたけれども、この際思い切って一度アムネスティをやるということをぜひお考えいただきたいと思うんです。  その理由は、アムネスティというのは日本では余り行われませんが、アメリカでよく伝えられる司法取引なわけですから、在留を認めるという形で全部表に出てもらう。そうすると、その人たちがどういうルートで日本に入ってきているか、どういう形で日本の中で例えば職を探すとか、いろんな形でピンはねを受けたりしているかというような実態がかなり私は解明できると思うんです。とにかく全部在留できるということになれば、その人たちもそれとの取引でいろんな状況を話してくれるだろう。そうすると、今度は日本の方でもどういう対策を立てなきゃいけないのかということが、何か随分参考になる情報がそこで得られるのではないかということ。それからもう一つは、さっきから言いますように、そのことによって悪質な人権侵害が回避できるということ。  それから、潜っている人がたくさんいると、これがある意味では人の弱みにつけ込んで、蛇頭なりなんなりの活躍の舞台を結果的に保障することになるんです。潜っている人というのは非常に弱いですから、弱みをつかまれていますから、それでいろんな形で陰で動くという、日本社会全体にとって決して好ましいことではないということ。  何か国家のメンツ丸つぶれのように一方で思われるかもしれませんけれども、結局どこの国もそういう手段をとりながら問題を解決しているという、それだけやっているというわけにはいきませんので、それは今度のような法制度をつくって、しかし一方でそういう形でやっていかないと、どうも日本では何かメンツ意識が強いのか、朝鮮半島からの戦後の密航の問題でも結局アムネスティを一度もやらなかった。これは一度思い切ってやってみることを私はぜひ提案したいと思います。
  39. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 きょうはどうもありがとうございます。  初めに、入管法改正についてお聞きいたします。  田中先生の方にまずお聞きします。  指紋押捺が制定されたときは、在日の犯罪が増加しているということが理由でした。今回の一年から五年延長、不法残留罪、両方とも外国人の犯罪防止を目的に掲げております。そもそもこの立法目的は妥当なのか、立法目的と犯罪防止ということと今回の不法残留罪、一年から五年延長は有効なのか、規制手段と立法目的の間に合理的関連性があるのかどうかということをお聞きしたいと思います。  特に、不法残留罪の場合は、ごみの出し方が悪いとか、あの人はちょっと何か変だということで、外国人、特に白人でない外国人は不法者であるという差別意識、ごみの出し方も変だし、アパートから出ていってもらいましょうみたいな、また、あの人は不法残留罪ではないかという形の密告などもよりふえると思うんですけれども、いかがでしょうか。
  40. 田中伸

    参考人田中宏君) なかなかここのところは一言で言えない難しいところがあるだろうと思いますけれども最後におっしゃられた日本人の意識の中にある、白人でない外国人についての独特な偏見なり予断というのがだんだん蓄積していっているという問題は私はかなり深刻だろうというのはいつも感じているんですね。  これはよく伝えられるように、プールなんかでもパチンコ屋、パーマ屋さんの入り口でも外国人お断りとか、その場合の外国人というのは白人を意味することはほとんどあり得ないわけで、そういうのが結構あちこちに広がってきていて、常にそういう偏見と予断をあおるような側面というのが、残念ながら日本社会にはそういうのはまだ非常に根強く残っていますので、そういうことと新しい罰則の新設とが結びつくかもしれないという不安は私もなくはないかなと思います。  ただ、私は今度の法改正で一番大きい問題は、やっぱり国として全体をどうするのかということをきちっと打ち出さないで、割合技術的な法律の末梢的な部分を動かして何とかなるというものでは恐らくないだろうという、そこが一番大きいと思うんですね。この問題を全部入管がひとりしょわなきゃいけなくなっている現状というのがある意味では非常に不幸だと思うんですね。外国人管理のところだけで日本外国人問題を対処しようとする、そこが問題だ。  経済審議会ですか、本格的に考えざるを得ないとようやく言い出したようですから、早急にやっぱり国として全体をどうするのかと、少子化が進む中でどういう形で今後日本社会の、手塚先生はもう割合近い時期に一割になるだろうと言われているわけで、そういうことを踏まえてどうするか。そうすると、外国人に対する偏見の問題も相当深刻な問題がありますから、それをどういうようにクリアしていくかという、これはもう教育の現場からさまざまな行政の現場まで全部はね返ってくるわけで、ちょっと何かこういう罰則の新設でどうかなるという問題ではないというのを私は一番感じますね。
  41. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 先ほどアムネスティの導入をされたらどうか、合法化、恩赦と訳されたりしておりますが、言っていただいて、私もそのとおりだと思うのですが、他方、再入国拒否期間を一年から五年に延長されますと、外国人の人は絶対に外国に一たん出ないだろうというふうに思うんですね。入ってくるときに、五年間は最低入れないわけですから外国に出ない。  例えば事例を申し上げますと、日本人の夫と外国人妻、妻はオーバーステイである、子供日本国籍。妻は在留特別許可を申請中だけれども、一年待ってもビザがもらえない。しかし、フィリピンの母親が病気のため、どうしようもなくなって看病のため帰国をしました。一年後に日本に戻れると思っていたけれども帰国ができない。日本人の夫、日本人子供ですから、在留資格証明書を夫がもらい妻に送ったけれども、大使館がビザを出さず、期限の三カ月が過ぎてしまった。そうしますと、日本人の夫、日本人子供だけれども、一たん帰国すると五年間入ってこれないわけですよね、これが改正されますと。そうしますと、外国自分の家族が病気であっても絶対に出ないだろうというふうに思うんです。  そういう意味では、家族の権利とか、そういうのを侵害すると思いますが、アムネスティの考え方などとの絡みで言いますと、一年を五年に延長することは反するのではないかと思いますが、いかがでしょうか。
  42. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) よくアムネスティという言葉が使われます。恐らく、アムネスティには三つくらいの種類があるんではないか。  例えば、一九八六年法でアメリカが取り入れたアムネスティは次のような形であります。今後二年の間に、不法入国をしていて働いていた人たちは、入管に出頭すれば永住権を与えるとか定住権を与えるというよりも、しばらくの定住権を期限つきで与える。しかも、その後きちんと仕事をし税金を払い、そしてきちんとやっていてくれるようならばシチズンシップ、つまり市民権を与えるという段階的なことをいたしました。そのときに私も調査に参りましたが、八六年法ができた当座は、ほとんどの密入国者は、いわゆるウエットバックというぐあいに言います、リオグランデ川を越えるものですから、背中がぬれるものですからそう言うんですけれども、彼らが出てこなかったんですね。どうしてかというと、出ることによって何かマイナスがあるんじゃないかということを恐れたわけなんです。しかし、最後の二年近くになりますとどんどんどんどん来て大繁盛だったという、大繁盛よりも、もう行政が間に合わないくらい大変だったと、こういうあれがありました。  ところで、日本の場合にそういう措置がとれるかどうかということを逆に考えますと、それを一回やりますと、次から次へとやらなくちゃいけないのではないかという期待感が与えられます。例えば、いわゆる蛇頭により日本に密入国する方たちが成功している数というのは恐らく入管当局でもつかめていないわけでありますが、それがかなりいるということが伝わりますとどんどん行く、どんどん行ってアムネスティになりますという話にしていいかどうかお考えいただきたい。  それから、実際には二番目のカテゴリーとして、日本でもアムネスティをやっているんですね。例えば、不法残留の方が入管に出頭いたします。そうすると、私の知っている限りにおいては、例えばバングラデシュから来て三年ぐらい働きますと、大体国民所得の水準は百分の一以下の国ですから、個人の百年分ぐらいの所得を得て会社をつくったりしている人もたくさんいるわけです。それで、また日本に行きたいと、こういうぐあいに言うんですね。私はそういう人たちに会いましたから申し上げるわけでありますが、その場合にやっぱりある程度の規制ということは必要だろうというぐあいに私は考えます。
  43. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 では、田中先生いかがですか。
  44. 田中伸

    参考人田中宏君) 再入国期間の延長、これは確かに法律で決めてしまうと、その間は全然入れなくなるというのはありますけれども、今のようなケース、私はむしろ在日の状態で事件を解決するということによって解決するしかないと思います。  それから、基本的には、今度の新しい罰則の新設なんかでも、これは当然遡及ということにはならないでしょうから、新しくできて以降のものですから、そういう意味で今までのものについては一遍きちっと掃除をするということで対処していくということを私はむしろやった方が、かえって今までの問題の真相解明にもプラスになるだろうというように思います。
  45. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 外国人登録証の常時携帯義務についてですが、自国民身分証明書の携帯を義務づけず血統主義を採用し、かつ永住者についても、かつ二世、三世についても常時携帯義務を課している外国は果たしてあるのでしょうか。きのうちょっとそれを法務省に聞いて、まだ出てきていないので、先ほどから議論になっておりますが、悪平等を自国民にも課している国があります。  それから、例に出たアメリカはもう御存じのとおり出生地主義ですから、外国人でも子供アメリカ人になります。規約人権委員会の二回、三回、四回の議事録、議事を傍聴したときも思いましたけれども、何を規約人権委員は違和感を感じているかというと、強制連行をして連れてきた人間の二世、三世の人にさえも常時携帯を義務づけているということが強く非難されているわけですが、外国で、先ほど挙げたような国は、つまり日本と同じような国はあるのでしょうか。
  46. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) アジア諸国や中南米は、そういうことはもうほとんど意に介しませんからありません。欧米諸国は、特に西欧はパスポート以外の身分証明書というのを持っています。それから運転免許証も持っているわけですが、両方とも更新なんかなくて、そこに張ってある写真、運転免許証を見ますと三十年前の若かりしきれいな美女がそこに載っているというような、そういうことがございまして、その点ではあれですけれども、アイデンティファイすることは常時必要なんです。  どうしてかといいますと、例を申し上げますと、私の例で恐縮なんですが、私は車を出そうと思って、バックして道に出たら車にぶつかっちゃったんです。そうしたら、その途端に前の電気屋さんのおやじが飛び出してきて、それでぶつかった車はギリシャ人のお医者さんでした。一〇〇%、私の責任です。これはお答えしたことになるかどうかわかりませんけれども、その電気屋さんはうちは大得意で、しょっちゅういろいろ買ったりしているおやじさんです。だけれども、あなたが悪い、こういうぐあいに言うんです。そういうことであります。  それで結局、日本の中に外国人に対するいろいろな問題が生ずる根底的な原因というのは、恐らく外国人日本人、あるいは日本人同士でも友達、仲間と自分たちは違うんだ、だからそこのところのジャスティスや公平さ、公正さというものが日本人はどのくらい入れられるかということであれします。  時間がオーバーしますが、もう一つ申し上げます。  今、外国人労働者を受け入れたらいいという、そういう方がまたぞろ出てまいりました。非常に無責任であります、はっきり申し上げて。  実は御案内のように、銚子事件というのがありまして、銚子の漁業協同組合と称するところが水産加工業者に中国からの技能実習生千数百名を正式に今まで受け入れて、ピンはね、十四万円を業者から入れながら三、四万円しか本人に渡していないという事件があって、千葉地検と労働基準監督署は二人の雇い主を送検したわけであります。その額は六億円と言われておりますが、実際には一億数千万円しか立件できなかった。先生も弁護士さんでありますから、検察の方でも死ぬほどの苦労をされたそうでありますが、しかしながら、正式に受け入れて、しかも技能実習制度というのはきちんとした日本人と同じ扱いをし、同じ賃金を払い、しかもそういう社会保険等々に入れるということになっているにもかかわらず、そういうことがなぜ起きるのかということを申し上げたいと思います。アムネスティも結構です。
  47. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 先ほど大森さんの質問に対して特別永住者永住者の人についての常時携帯義務については考え直すべきだという意見が出ましたけれども、常に身分証明書を持っていなければ、いわゆる前科がつく罰則に処せられるというのは物すごいストレスだというふうに本当に思います。  それで、サービスを自分が得たいときにカードを提示して受けるというのとは全く違って、持っていなければ処罰をされるという緊張感は、私のように忘れっぽい人間にとっては物すごいストレスだというふうに思うんです。その点について再度、田中先生、一言いかがでしょうか。
  48. 田中伸

    参考人田中宏君) おっしゃるとおりで、私が一番こだわるのは、さっきから同じことを言いますけれども、やっぱり日本人が全く経験しないプレッシャーを、いることだけで負わされるわけですから、自動車の免許証というのは車に乗るときに持っていなきゃいけないということなんですが、存在そのものにそういうプレッシャーがあるというのは、これはやっぱり持ったことのない人には多分わからないんだろうと思うんです。そこのところをきちっと押さえて物を考えるかどうかということに尽きると私は思います。
  49. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 いいですか、もうだめですか。
  50. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) もう時間が来ておりますから。
  51. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 はい、わかりました。
  52. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 まず、田中先生にお伺いします。  私は、一九六五年、六年とハワイ大学に留学しておりまして、そのときにたくさんアジアから学生が来ていたわけですけれども、そのちょうど同じ時期にいた学生が、当時アメリカでは反戦デモというのが非常に学生の間で盛んで、大学はもう全部反戦という感じでした。たまたま、台湾から来た留学生が反戦デモにちょっと参加したということだけで本国に帰還命令がおりたわけです。それで、これは蒋経国時代の軍事独裁政権です。途中、日本に立ち寄って、知人に相談して、しばらくちょっとまだ滞在して様子を見た方がいいということだったんですが、入管から書類の手続上の問題で来てくれと言われて行ったら、そこで拘束されて強制送還されたということなんです。それで、軍事裁判で死刑の宣告を受けたという問題がございます。  当時、台湾では、自分のところで高等教育をする機関がなかったので、積極的に外国留学生を送っていた、そのうち十人に一人ぐらいをスパイとして送っていたという事実があるんです。それにひっかかった。この青年を何とか救わなきゃいけないというので、大学先生などから日本に帰ってきた私に対して何かしろと言われたんですが、そのころ日本では人権という言葉も余りメジャーな言葉ではなかったようなときに、どうしていいかわからないということで、いろいろやって、アムネスティ・インターナショナルというものがあると聞いて、日本の支部をつくらなきゃいけないということで、そこの創立に参加したわけなんです。  そのときに感じたのは、その強制送還した裏には、やはり台湾人の実は悪質な麻薬犯とかそういうものがたくさん日本に入り込んできちゃって、逮捕しても台湾政府がもう受け取らない。ほとほと困って、台湾政府の要求で日本で反台湾政府活動をしている活動家たち、これを一人捕まえたら何人かのそういう犯罪犯を受け取る裏の密約があったという、そういう問題で大変注目された事件なんです。陳玉璽事件と呼ばれていますけれども、このとき私は、日本の入管の余りの残酷さにびっくりしたんです。非人間的なそういう措置をするということにびっくりして、この国はこんなことをするのかと驚いた思いがあります。  その後、そういう外国人に対して、人間としての感性で対処するというのではない、かなりもう外国人というだけで悪意を持って対処するという国々の思い出、私は何十カ国も取材旅行をしたり、一人で歩いたりしたものですから、身近に自分の問題として感じるわけです、この国がどう対処しているか。同じような思いをしたのが、今は崩壊してしまった社会主義圏なんです。こういうところで、やっぱり入ってきて物すごい同じような緊張感があって、ああ、日本というのは社会主義なのかなというような感じを受けました。非常に非人間的で悪意に満ちたそういう管理する、監視するという緊迫感を感じたわけです。  田中先生、どうしてこれは日本も同じような感じになってしまうんですか。
  53. 田中伸

    参考人田中宏君) なかなか難しい、陳玉璽君のケースは私もよく知っていますし、かなり近い時期だと思いますが、柳文卿というやっぱり台湾の留学生が強制送還されました。当時は羽田ですから、羽田空港で舌をかみ切って何とか自殺しようとした。結局それは未遂に終わったんですが、送られたという、ちょっとぞっとするような事件も当時は起きています。  私は、どうして日本はそういう国なのかというのはなかなか適切に答えられませんけれども、確かに当時は極端な東西対立の真っ最中で、非常に政治的な問題が外国人管理にもろに出ていた時代です。煮て食おうと焼いて食おうと自由ということをあえて入管の高官が口にするということも、ある意味ではそういう意識で仕事をしていたのではないかと思われてもやむを得ないような状況が私はあったと思いますね。  私は、きょう冒頭でこのメモの中にやや唐突に二、三書いたのは、そのころの意識というのか、そのときの感覚でこの入管行政があっては困る、それをどう返上するか、あるいはその時代とどういう形でたもとを分かつか、そこを強調したくて冒頭のところにああいうメモを書いたんです。  確かに、当時は私も割合現場に近いところにいましたので、中村先生が感じられているようなものを私も感じたことはあります。ただ当時は、今考えるとやっぱり冷戦の中で極端に政治……
  54. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 いや、私もそういうのもあるかと思ったんですけれども、冷戦だったらばアメリカの方は本場なんですからもっときついだろうと思いますが、アメリカは非常に自由だったですよね。非常に役所も人間性という、役人たちのそれが非常に表に出てきたということで、大変不思議に思ったんです。  時間がなくなりますから次の質問で、今度は手塚先生にお聞きしたいんです。  私は、外登証の常時携帯義務は非常にこだわっているんです。これは大変な抑圧感があるし、不自由だし、下手をしたら逮捕されるとか、二十万円以下の罰金だとかという重圧感のあるもので、何か二十四時間、一生、そして子供時代に至るまで続いていってしまうというような、これはそういうふうな義務を課せられていない人間にはわからないものだと思っているんです。  きのうも法務委員会で質問したんですが、要するにそこではやはり常時携帯義務の最大の根拠としては捜査や何かがあったときの利便性であるということであったんです。それで、私は大臣に質問した。捜査の利便性という非常に特殊なケースと、圧倒的多数の在日外国人の日常的に、大変なけた違いの量ですね、量としても捜査の時間とは。そのどちらをてんびんにかけるか、つまり人権と利便性とどっちにかけるかという質問をしたんです。そうしたら、大臣は相変わらずむにゃむにゃ言っていてよくわからなかったんですが、結局はよく判断するところ利便性だと。人権を尊重したいと言っている大臣がやっぱり利便性だというお答えだと思うんですね。  今、先生が常時携帯義務を正当化された理由の中には、行政サービスで便利だとかそういうこともありましたし、あとユーゴの難民の問題でも言われましたけれども、これは二十四時間そうだというような話ではないんですね。これは物すごく特殊なケースで、我々だって、健康保険証を持っている人もいますけれども、普通は病院に行くときしか持っていかない、常時携帯しているわけじゃないわけです。ですから、そういうので便利だという理由は、余りこれを擁護する根拠にはならないじゃないかと思うんです。
  55. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) ただ、先生はハワイ大学におられるときに、パスポートを持っていないときというのはちょっと嫌な感じをされませんでしたでしょうか。私は、外国出張をいたしますとパスポートを、私も非常に忘れっぽい人間なんですが、忘れてはいけないという強迫感を常に持っています。それから、実際に提示義務罰則もあります。  ただ、その罰則の程度と行政の取り締まり、とりわけ警察権の行使が不適切であったということ、それが今日に至っても尾を引いているということです。田中参考人がおっしゃられたように、戦前から三世、四世というぐあいにおられるような方たちについては、簡単な証明ができれば、そのくらいの心証でもういいわけでありまして、そういうことがあるので、やっぱり罰則まではきついかなということで、今後の課題だと私は思います。  ただし、義務づけること、先ほど申し上げましたように、例えば私たちが住所を移したときに、住民基本台帳法で十四日以内に届け出をしないと過料になるわけでして、あれは民事罰というぐあいに呼んでいわゆる前科にはならないわけですから、そういう方向性というのはあると思います。  ただし、他方では、いろんな方たちがいて、例えば麻薬取引をしていたというぐあいに思料されるときに、そういうことが現実に起こり得るかもしれませんが、現場の警察官として現行犯逮捕でないとだめですからということが今もって残っているかもしれない。そういうあたりは払拭していく必要はあるだろうと思います。
  56. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 大学なんかにいるときはパスポートは要らないんですね、学生証を持っていたり。大体、パスポートを見せろ見せろという、それだけの理由でということはないわけです。旅行だとか短期の滞在でパスポートを持っているというのは、逆に言えば利便性で持っているのであって、だから外登証と同じだという話にはならないと思うんです。  それともう一つ、こういう問題があると思うんです。メキシコ人の労働者が不法に物すごい数でアメリカへ入っていますね。私も取材したことがあるんです。あのエルパソの近くで夜中にずっと見ていますと、もう丘の上へ、一日三千人入ってくるんです。パトロール隊と一緒に赤外線望遠鏡で見ると、虫のようにずうっとこういうふうに草むらに潜んでいるんですね、そういう状況。あるいはEUの問題も言われましたけれども。  結局、日本という国は地理的な条件が違うと思うんです。ほとんど国境がつながっている国々のそうした役所側から見た管理の仕方、そういうものと、日本のようになかなか入りにくい国の条件、ここのところの違いをはっきりさせないと、同じような条件で管理するという考え方は私は非科学的だというふうに思っているんですけれども、いかがでしょうか。
  57. 手塚和彰

    参考人手塚和彰君) おっしゃるとおりだと思います。国境を接している国と日本のように島国とは違いますが、ただ今日ではもう海も空路も人の自由化の本当の障害じゃなくなってきているということがあると思います。  ただ、もう一つ申し上げたいのは、やっぱり日本外国と違う、外国でもアジアでもどこでもそうなんですが、日本の田舎に今から二十年か三十年ぐらい前に真っ昼間私が行ったとします。そうすると、先生のような著名人じゃないわけですから、みんな一斉に村の人たちは見るわけです。知らない人が入ってきた、異邦人、エトランゼが入ってきたと、こういうことで見るわけです。こういう意識が日本人の潜在的な中にあって、人は皆同じであるという人権宣言の根底にある考え方が日本人にはまだ植えつけられていないのではないか。  先生が先ほど強調された点については私も全く同感で、今後、日本人の心の中の問題、先ほど私はちょっと内外人平等というのを、法の上での平等ということを申し上げましたけれども、本当に相手の心の中までいたわれるような、あるいは、例えば知らない人が来てもじろじろ見ない、そっと見て、困ったことがあれば、大体どこを歩いていてもメイ・アイ・アスク・ユーと言われますね。そういう状況日本がなることを私は理想としたいし、そういう点では先生の御努力に感謝している次第です。  以上です。
  58. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 ありがとうございました。  質問を終わります。
  59. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 以上で両参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  午前の審査はこの程度にとどめ、午後一時まで休憩いたします。    午後零時十一分休憩      ─────・─────    午後一時一分開会
  60. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) ただいまから法務委員会を再開いたします。  休憩前に引き続き、外国人登録法の一部を改正する法律案及び出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案を便宜一括して議題とし、参考人から御意見を伺います。  午後、御出席をいただいております参考人は、ジャーナリスト関口千恵君及びピアニスト崔善愛君でございます。  この際、関口参考人及び崔参考人に一言ごあいさつを申し上げます。  両参考人におかれましては、御多用のところ当委員会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、両参考人から忌憚のない御意見をお聞かせいただき、審査参考にしていきたいと存じますので、どうかよろしくお願い申し上げます。  議事の進め方でございますが、まず、関口参考人、崔参考人の順に、お一人十五分程度ずつ御意見をお述べいただきまして、その後、各委員からの質疑にお答えいただきたいと存じます。  なお、念のため申し添えますが、御発言の際は、その都度、委員長の許可を得ることとなっております。また、各委員質疑時間が限られておりますので、御答弁は簡潔にお願いしたいと存じます。  なお、参考人意見陳述、各委員からの質疑並びにこれに対する答弁とも、着席のままで結構でございます。  それでは、関口参考人からお願いいたします。関口参考人
  61. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) 呼んでいただきまして、ありがとうございます。  初めまして、関口千恵と申します。ジャーナリストをしております。今、時計が一時五分ぐらいですので、これから二十分ぐらいまで十五分お時間いただきまして、今回の二つ法律案についての意見を述べさせていただきたいと思います。  お手元に簡単に私が作成しました本日の発言要旨及びチャートが二つの計三枚のものをお配りしてあると思うんですが、そちらの方をまずごらんいただきたいと思います。  一番から四番まで、「両法案についての全体的な評価」という一から始まって四番目の「補足事項」まであるわけなんですが、時間も限られておりますので、二番目それから三番目の骨子といいますか主体の部分を中心にお話ししたいと思います。  ちょっとまず前提といたしましてお話し申し上げたいのは、出入国管理及び難民認定法、いわゆる入管法それから外国人登録法、外登法というふうに呼んでおりますが、この二つは当然のことながら直接の対象者を日本人日本国籍を持つ者とはしていないわけで、外国籍者にしているわけです。ということは、ほとんどの日本人、今、日本国籍者のことを日本人と申しますが、日本人には一生関係なくて済む法律であるということ。それはどういうことかといいますと、実際にどういう運用がされているのかという運用実態がほとんどの一般の日本人国民には知らされていないということになると思います。  法律はどんな法律でもそうですが、運用実態ということを見ていきませんと、新しい法律をつくるなりあるいは改正するなり、そういうことが非常に重要だと思うんです。この外登法もそうですし、特に入管法なんですが、私の意見では、その運用を過去十一年ほど見ておりますけれども、行政裁量が極めて著しい分野であるというふうな印象を持っております。  もう一つは、直接の当事者、日本人日本国籍者を対象としておりませんので、なかなか日本国籍者は具体的にそれが自分にかかってきた場合に、どういうふうに適用されるかという外国籍者の立場がやはりわからないというような二つの問題があると思います。その運用実態のことをきょうはなるべく限られたお時間ですけれども、お話をしたいと思っております。  日本国籍者はわからない、わからなくて通常だと申し上げましたが、私自身は例外の一人になるわけですが、例外といいますのは外国籍の者と婚姻をした、そういう日本人はやはり例外になるだろうと思います。準当事者のような、この入管法、外登法が名あてする対象者の準対象者というような立場に私自身はなります。  ちょっと卑近なことですが後で申し上げたい法案のことに絡みますので、私自身の配偶者はバングラデシュ国籍で、昨今いろいろ情報化と言われていますけれども、それで絶対的に足りないと言われておりますコンピューターのネットワークのエンジニアという職についています。ヨーロッパ系の多国籍企業に今働いているんです。  ただ、十一年前に結婚をした、婚姻をしたわけなんですが、今話題のと申しますか、今まさに皆さんのお手元にあるその法案が対象にしております不法残留者と呼ばれる立場でありました。八八年から八九年にかけまして不法残留者でした。その後、八九年に入管法五十条だったと思いますが、法務大臣の特例として在留特別許可というものがございます。実際に不法残留の事実はそのままだったんですが、法務大臣が、なおかつ在留を許可する根拠があるというふうな認定を下してくださったおかげで、その後十一年間、日本在留して現在ネットワークエンジニアという仕事をしているわけです。  ですから、そうでなければ、これから申し上げる私が一番懸念をしている当事者、この法律、特に入管法が実際施行された場合に恐らく一番直接的に被害を、被害と申すとちょっと語弊がありますが、一番影響をこうむる当事者の一人であった可能性というのが非常にございます。  そういう二つ立場、もう一つはもちろん仕事として外国人のさまざまな人権問題を十一年ぐらい追ってきておりますので、その双方の立場から、公的、私的と申しますか、法案について意見を述べさせていただきたいということです。  お手元の「発言要旨」の二と三、まず「外国人登録法の一部を改正する法律案について」という二番目でなんですが、それぞれ両法案につきまして評価できる点それから改善を促したい点ということを簡潔に書かせていただいたつもりですので、そちらをごらんいただけましたらば、どこがいいと思い、どこがちょっと直してほしいと思っているかということはおわかりだろうと思います。  外国人登録法につきましては、これはもう一言、二言でちょっとおさめさせていただきたいと思っているのですが、その一言、二言をまず最初に申し上げます。  外国人登録法、評価できる点、指紋押捺制度全廃というのは当然のことながら賛成といいますか、評価できる点になると思います。  ただ、一方で、常時携帯義務罰則規定が存続しているということは、指紋押捺制度が少しずつ改正されてきまして一回で済むというような形になってきますと、余り実質的に今となっては全廃の効果もないと思います。もちろん、全廃していただくにこしたことはないんですが。常時携帯義務罰則規定の存続のうち、特に罰則規定ですが、不携帯で例えば二十万円と。きょうの午前中も恐らくそういうお話や御指摘が出ただろうと思うんですが、これが生きている限りはやはりちょっと当事者としては怖いと思います。  といいますのは、資料として事前にいただいたものの中で、過去に不携帯で逮捕された八〇年代の例がかなりあったんですが、これは九〇年代のこの十年近くの間でも不携帯で逮捕されている例というのは実際かなりあります。それから、これは、違法といいますか適法かどうかの議論がある別件逮捕について利用されるというようなこともございます。  もしこの罰則規定を当面このまま存続するということであれば、百歩譲ってというふうに言うとまた語弊があるかもしれませんが、これだけちょっと申し上げておきたいんですが、周知徹底をしていないんですね。これを常時携帯義務とか罰則、もし持っていなかったらこれだけの罰則がありますよということを、通常外国人登録証を受け取るのは地方自治体からなんですが、その地方自治体の窓口で、これだけ重い罪になる、要するに投獄される可能性もあるとか禁錮とかそういうものになるというようなことをきちんと周知徹底していない上でこの罰則規定がこれまであったということです。  それを周知徹底していないものですから、これは実際逮捕された中国人の方のケースだったんですけれども、一回ちょっと紛失をしてしまったので紛失するのが嫌だから、大事なものだと言われたからうちに置いていた、うちに置いていて外にアルバイトに出ていったら逮捕されてしまったんです。というようなことがございますので、やはりできるだけ速やかに罰則規定は廃止していただきたい。  一番最後の補足事項のところの国連規約人権委員会による昨年度、九八年度の勧告に沿った法整備をしていただきたいということですが、再三再四、この罰則規定の撤廃については勧告を受けてきております。自由権規約のたしか二十六条だったと思うんですけれども、自由権規約の中の法のもとの平等、それに反するということで直接的に指摘されているわけなんですが、それは法的拘束力が、規約人権委員会からの勧告がないから従わなくてもいいという理由が一つ挙げられているんです。  日本政府が、規約人権委員会が扱う自由権規約ともう一つ社会権規約、この二つの国連人権規約を批准したのはたしか七七年、二十年以上前のことです。実際に人権規約等を批准する場合には、即座に対応できない場合には経過措置、留保ということであれしますけれども、やはり批准してから二十年以上たっていますと、今はまだ国内の状況が整備されていないというような言いわけが国際社会に対して成り立つかどうか、私はちょっと疑問に思ったりもします。  以上、外国人登録法について、短いですけれども、それだけ申し上げます。  もう一つ、三番目の「出入国管理及び難民認定法の一部を改正する法律案について」です。  この法案の報道がなされてから一番懸念をしていた部分というのがその三の二に挙げる部分です。三の一の「評価できる点 再入国許可有効期限の延長」というのは、これは若干有効期限が長くなる。再入国の期間が長ければそれは長いにこしたことはございませんし、将来的には再入国許可制度自体を廃止していくという案も何か法務省の中でもあるようだということも聞いておりますので、これが一つの方向性の上に置かれているものでしたらば、これはこのままお進めいただきたいというふうに思っております。  二つ目の「改善を促したい点」です。このあたりでもう既に三分の二ぐらい時間を使っているので急ぎますが、要するに今回のポイントは、不法残留罪の新設、ここには「在留罪」と書いていますが残留罪です、不法残留罪の新設とそれから退去強制歴がある者の上陸拒否期間の延長、この二つだと思います。そして、これはばらばらではなくて両方セットになっていて意味があることではないかなというふうに私は考えております。もう少し突っ込んだお話は後に質疑応答等でさせていただきたいと思います。  まず、不法残留罪の新設についてです。これが一番疑問のあるところなんですが、立法趣旨それから新聞報道等を見ましても、これを新設する理由、私が一番不可解なのは、要するに密入国というんでしょうか、船舶等で密入国をする不法入国者が非常に多い。その不法入国というのが、不法入国した段階で罪が完了してしまう、公訴時効が何か三年で切れてしまうのでというようなことなんですけれども、これは新聞もほとんどそういうふうに書いているんですが、公訴時効が三年で切れても、不法入国、不法上陸をしてそして不法残留をそのまま引き続きしている場合に、実質的に、それは別に公訴時効が切れたからといってその人がいきなり合法的な存在になりますということでは決してないわけですね。  それで、そもそもこれまでの入管法、先ほど運用実態を見なければわからないというふうに申しましたが、今はちょっと入管法の条文だけ書き抜いておきましたので後で説明をつけ加えたいですが、三条と九条五項の二つ、これは簡単に言いますと不法上陸と不法入国に関しての規定です。日本入管法では上陸と入国を厳密に区別しているそうですのでそれぞれ別なんでしょうが、三条と九条五項、これが不法入国、不法上陸に関する規定。そして、その退去強制事由として入管法の二十四条に挙げられているわけです、不法入国、不法上陸をした者を対象に。そして、入管法七十条では罰則、刑事罰が科されているわけです。ということは、既にこれだけ不法残留というものの条文がありながら、なぜわざわざこういう新しい条文をつくるのかということが私がまず第一に一番不可解に思うことです。  その一方で、不法残留者やその種の入管法違反の摘発を見ておりますと、現実に不法残留罪があるかないかというのは、実際にこの三条、九条五項、二十四条、七十条があればほとんど従来どおりの摘発で十分やっていける。  ですから、先ほどこれは二つでセットと申しましたけれども、この不法残留罪というのは、これから密航等で不法入国してくる人たちを名あてするよりも、これは私の印象ですが、今、国内に二十七万人いると言われています不法残留者、その中には不法就労者とかいろいろ入管法違反者がいるわけですが、その人たちを念頭に置いて、何とか国外に退去強制する方向に持っていくための一つの手段かなという気もいたします。  といいますのは、もう一つの退去強制歴がある者の上陸拒否期間の延長ですが、これは上陸拒否事由というのが入管法の五条にあるんですけれども、その中の四号と九号を見ていただければわかるんですが、従来この運用も、従来といいますか現行は、これもミスリードが非常に新聞報道は多いんですけれども、退去強制された後に一年で入国できるというふうに説明されていますが、運用実態からいきますとそんなことは全くありません。一年で入れる方が珍しいです。今一年で入国の根拠が一番あるのは日本人の配偶者、つまり実際に婚姻が成立している日本人の配偶者で退去強制された者が再入国したい場合です。私が九〇年代の初めから見てきている限りでは、日本に入国できるまで三年から四年ぐらいかかっても不思議ではありません。これが今回五年になったら、実質的にはもう十年ぐらい日本に入国できない。つまり、それだけ夫婦が引き離されるということになっていくのではないかということが私自身も心配なんですが、現に今そういう当事者がたくさんいるんです。一番おびえている当事者がその人たちです、この法律が施行された場合に。  結局、入管法の上陸拒否事由の中で、日本の中で有罪を宣告されて裁判で有罪になった人、有罪と認定された人はそれだけで上陸拒否の事由になるということになっています。そもそも不法残留罪という条文が既にあり、罰則もあり、刑事罰もあり、行政罰もある、こういうようなことにもかかわらず、わざわざこれを設ける。  通常、不法残留でほかに例えば麻薬とかそういう凶悪犯罪の余罪がない場合には、大体執行猶予がついて入管に送られて、そして退去強制に行きます。それで退去強制されるわけですが、その場合に、そうじゃない場合、つまり摘発をされても裁判を経ないで、起訴、公判を経ないでそのまま入管が退去強制をする場合と、二つ種類があります。その段階でまた平等の問題というのが問われてくるわけなんですが、平等の扱いですね。  ただ、そういうようなことになってきますと、要するに有罪歴をつくりたいのであろうなと、私は。この入管六法の解説、これは法務省の入国管理局が逐条解説しておりますが、この解説が九四年ぐらいに変わってきているんです。それはちょっとここで今詳しく申し上げる時間はないですから、やめますが。要するに、有罪をつけてしまうと上陸拒否事由に該当する。でも、不法残留者というのはほとんどが働きに来ているわけですから、犯罪しに来ているわけじゃない人たちが大多数ですから、そういう人たちはなかなか追い出せない。そのためには、有罪をくっつけるために不法残留罪をつければ二十七万人全員カバーできるというようなことではないかなというふうな印象を受けております。  ちょっとオーバーしましたので、一応以上までにとどめておきます。また質疑応答でさせていただきます。
  62. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 次に、崔参考人にお願いいたします。崔参考人
  63. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 私は、大阪で生まれ、北九州で育ち、現在横浜に住む在日三世です。在日三世というふうに申し上げてもぴんとこないかもしれませんけれども、私の場合は、例えば自分の崔善愛というこの名前を正しく韓国語で発音することができません。留学したときに、韓国から来た留学生に私の名前は崔善愛というふうに言ったときに、韓国の学生は崔善愛というふうに、要するに私の名前は通じませんでした。それほどまでに私が日本人になってしまったということをこれからお話ししたいと思います。  私は、指紋押捺拒否を理由に不本意にも協定永住を奪われました。その経過をこの場でお話しすることにより、在日の永住者の脅かされた状況を知っていただき、御理解をいただいた上で、外登法、出入国管理法、再入国制度そのものの必要性を見直していただきたい。そして、できることなら私の持っていた永住権を行政の力で原状回復することができればという願いを持って、きょうここに座っています。  私は、十四歳のとき、初めて外国人登録をするために区役所に行きました。区役所の表の窓口から奥に入り、隠れるように通され、黒いインクを左手人さし指につけ、ゆっくりぐるりと回してと言われながら押しました。そして、わら半紙のようなものを渡され、これでふいて帰ってくださいと言われたとき、今まで朝鮮人という言葉からくるものが何なのか漠然としていましたが、その正体を見たような気がしたのです。  当時、中学二年だった私は、拒否するなどという大それたことは思いもしませんでした。ただ、私はこの国でマイナスの存在なんだということを受け入れ、あきらめることが大人になることだと思っていました。ただ私なりに一生懸命まじめに生きていけば、そのことで認めてもらえるに違いないというふうに思うようにしました。そして、地元の中学、高校では生徒会会長や学級委員長、ボランティア活動を行い、日本人の友人、先生方から信頼され、充実した学生生活を送りました。また、四歳のときから始めたピアノの演奏家になるために、希望の芸術大学に入ることもできました。  二十になったころ、大学のある友人に部落出身であるということを打ち明けられました。だれにも言えず一人悩む姿を見たとき、どうして部落という何百年も前につくられた制度で私よりも若いその人が今も悩み苦しんでいるのか、私は強く憤りを覚えました。それと同時に、私自身、このことについて何もしなかったということが悪い歴史を繰り返すことになっていることに気づき始めました。そのころ、十五歳の妹が初めての外国人登録を前に指紋を押さなければならないことを悩んでいるのを見ました。昔、私たちが生まれる前につくられた法によって、これからも生まれてくる幼い子供たちが傷つき、何世代にもわたってこの苦しみを続けなければならないのでしょうか。  差別されることを受け入れ、あきらめることは、その差別を次の世代に引き継ぐことになり、できないと思い拒否しました。裁判になることをためらっていたとき、ある日本人の人に私たちのために闘ってくださいと言われ、踏み切りました。正直言って、私は人権運動といった闘争的なことは苦手でしたし、専門の音楽にもっと打ち込みたいと考えていた大学時代法律違反をし、裁判で人の前で指紋押捺拒否の崔善愛という看板を背負うことはかなり負担でした。  大学時代、ピアノ演奏家としてこれから立つためにどうしても留学したいと思っていました。専門の音楽は自己表現であり、また私は音楽の持つ力に私自身励まされ、助けられてきました。そして、留学することで私は、日本という小さな鏡の中で常に相反する者として存在する自分のアイデンティティーを世界という大きな鏡で見詰め直したかったんだと思います。同じ種類の鳥の集まる鳥かごから出て空を飛んでみたくなったわけです。  しかし、指紋押捺拒否が広がる中で、拒否者には再入国を許可しないという制裁措置がとられ始めました。留学を望む私に、父はこんなむちゃなことがいつまでも続くはずがないと言い、私はそれから数年間、父に会うと、いつになったら、いつまで待てば私は留学ができるのと父に当たりました。  とりあえず大学院を修了し、大学でピアノを教え始めましたが、二十五歳が過ぎ、私はこのまま留学を断念すべきか、指紋を押して留学すべきか悩みました。そうしながら、TOEFLの試験を受け、世界的なピアニストにピアノのオーディションのテープを送りました。そして、米国インディアナ州立大学アーティストディプロマに入学を許可されました。その通知を受け取ったときの喜びは今も忘れません。  私は、何としても留学したいと思い、指紋を押そうと決意しました。協定永住を失うなんてそんな大それたこと、絶対にできないと思ったからです。しかし、夜一人ベッドに入り、指紋を押す自分の姿を想像すると、私は絶対にできないと思いました。頭ではもう十分にやったと自分に言ってもやっぱりできないと思ったからです。  そうしている中で、再入国不許可でアメリカビザが果たしてとれるんだろうか、そしてそれがかなり難しいことに気づき始めました。再入国不許可の人にビザを出すのはまずあり得ないことでしょう。私はもう泣きそうでした。  再入国が不許可となり、海外に行けないということは、この島に閉じ込められるということであり、出口のない部屋に閉じ込められるようなものなのです。指紋を押すか、永住権をあきらめるかという選択をてんびんにかけさせられ、多くの一世は祖国に住む親兄弟に会うことや墓参りを断念させられました。また、海外との関係の中で仕事を持つ者は仕事ができなくなり、私だけでなく多くの若者が自分の人生の可能性を広げるための留学をあきらめ、そして母の死に目に会えないなど、その人たちの人生に与えた大きな影響を私はこの審議の中で見逃してほしくありません。  私は、入学許可書を持ち、再入国許可のないまま福岡のアメリカ領事館に行きました。そして、領事本人と面接することになりました。領事は、あなたは日本で生まれ育ち、家族も日本にいるのですね、それでは日本に帰れないはずがないと言い、アメリカビザを出してくれました。私は、この領事の言葉を心の中で何度も繰り返す中、新幹線に乗り、緑美しい山々を見ながら、涙がとまりませんでした。それは、留学できるかもしれないという喜び以上に、私はもう日本にどんな形で戻れるかわからないという悲しさでした。そして、友達は、どうしてあなたがそこまで追い詰められるのと言って泣きました。  一九八六年八月、出国する四日前に、福岡の橋本千尋弁護士に再入国不許可処分取り消し訴訟を起こして留学したいと電話すると、驚きと緊張した声で、わかりましたとおっしゃいました。  八月十一日、晴れて手にしたビザを持ち、箱崎バスターミナル内の出国手続のところに行くと、再入国不許可なのにビザを持つ私のパスポートを見て、ここでは対応できないと言われました。成田空港に行くバスの中、私は出国することもできるかどうかわからないと思い始めました。  今まで私の前を何歩も先に歩いていた父の足はいつになく重く、私は彼の盾をいつもより必要としていました。  搭乗手続を済ませ、友人二人と家族四人に別れを告げながらも、出国できないかもしれないと不安の中で出国手続へのエスカレーターをおりるとき、父が私も行くからと言っておりてきました。  イミグレーションの人は、私のパスポートを見るなり、中に入ってくださいと言いました。そして、電話帳くらいの分厚いもので私の名前を探していました。それは恐らく指紋押捺拒否者を含む犯罪者たちの名簿、ブラックリストのようなものと思われ、私の名前は確かにありました。そして、不許可のまま出国すると永住権がなくなりますが、いいですね。そのことを承諾する書類にサインをしてくださいと言いました。私が答える前に父は、承諾もしないし永住権がなくなることも認めない、訴えを起こして出国すると叫ぶわけでもなく答えていましたが、心中は怒りと悲しみと不安がまざっていたに違いありません。私はそんな場面を父の横に立って見ていました。そして、父に手を振り、別れました。  私は、これから言葉のよく通じない国で勉強する不安と、帰国できるかどうかもわからない不安とで何も考えられない状態でした。  シカゴに着き、父に国際電話をかけました。父はこのときの私の声がとてもうれしそうで安心したと言っていました。離れていく人には目的があり前向きだけれども、残された者の寂しさはひとしおだったように思います。父や母、家族にしてみれば、帰る保証のない娘を見送るのはつらかっただろうことが、自分が親になった今ごろよくわかります。あのころは自分を支えるのが精いっぱいでした。それにしても、一体全体どうしてこんなことになってしまったんでしょう。  留学して間もなく、初めてのお正月のとき、父が心筋梗塞で入院し、バイパスの難しい手術を受けると母から電話で聞きました。私は帰りたいと思いました。そう簡単には帰れないと思えば思うほど悲しくなりました。父はこれまで病気で入院したことなど一度もありませんでした。母は、帰りたい、帰るという私を明るい声で大丈夫だからと慰めてくれました。そのとき私には明かされませんでしたが、事態はかなり深刻でした。父は、遺言書を書き、死を覚悟しながら、夢の中で私の名前を呼び、うなされていたと聞きました。手術は無事終わりました。私はますます里心つきました。  出国のとき弁護士さんにお願いした裁判が福岡地裁で開始され、本人である私が不在のまま、私の送った意見陳述を父が泣きながら代読しました。その陳述の中で私は、日本がどんなに私を苦しめても、日本の自然は私の感受性を育て私を育てた、日本を愛することは自分を愛することだと述べました。  日本にいた私は、いつも日本という鏡に自分を映し出し、その姿は醜いものでした。鏡がゆがんでいたことに気づきませんでした。だからこそ、日本ではないところで自分を見てみたかったのです。そして、アメリカで見た自分は、まさに日本を愛し、日本的な感受性を持つ自分でした。  留学して二年たった八八年、帰国のためロサンゼルスからシンガポール・エアラインに搭乗手続しようとしましたが、再入国不許可のため、搭乗を拒否されました。そこで、ニューヨークの日本大使館に行きました。旅行者としてどうぞという大使館の人の言葉に、旅行者としてではなく居住者として帰国できないかと思案し、成田経由ソウル行きの大韓航空に七十二時間のトランジットで成田空港におりる道を選びました。ロサンゼルスから成田に着き、イミグレーションに行きました。窓口に行くと、崔さんですね、お待ちしていました、私たちはあなたのことで昨夜から一睡もしていませんと言われました。私は、確かにさまざまな人を巻き込んでしまいました。  別室での事情聴取は六時間以上にわたりました。そして、法務大臣から百八十日の特別在留を許可するという連絡が届きました。私は生まれ育った日本永住者から一転して新規入国者となってしまいました。私が日本で生まれ育った三十年は消えてしまったのでしょうか。  その後、何度か百八十日から半年、半年から一年の特在を受け、今は三年の特別在留を更新し続けています。更新のときはいつも申請後六カ月ほど待たされ、その間、私の在留資格は申請中という判が押してあり、再入国を申請することもできず、外国に行くこともできない不自由な立場です。  申請するときには身元保証書が必要だと言われます。きょう、資料としてお手元にお配りしました中に、恐らく多くの方が身元保証書というのをごらんになったことがないかなと思い、入れてあります。それと私が以前持っていた永住許可書。それと、百八十日の在留が出たその認定通知書とそれに対する異議申出書というそのコピーを挟んであります。その身元保証書が必要だと言われ、それには「一、滞在費 二、帰国旅費 三、日本国法令の遵守」とあります。新規入国として、日本に滞在する費用や韓国へ帰国する旅費を保証してくれる人がいなければ私は日本にいることはできないことになり、日本国法令を遵守しなければ韓国に強制送還されるかもしれないのでしょうか。  よく、そんなに日本が嫌なら韓国に帰ればと知らない人から手紙をもらいます。私にとって帰る国は韓国ではなく日本なのです。韓国には小学校のときと大学のときそれぞれ二週間ほど行きましたが、そこは私のルーツとも言うべきところですが、もはや私の居場所はどこにもないのです。  昨年、国連人権委員会から、国連人権規約中の自国に戻る権利の自国は国籍国のみでなく居住国を含むという勧告があったと聞きましたが、勧告されるまでもなく、祖父母が住み、親が生き、自分が生まれ育ち、私の子供も暮らしている日本は私にとって自分の国ではないのでしょうか。  それでも私は外国人なのでしょうか。私は、アメリカでホエア・アー・ユー・フロムと聞かれると、アイム・フロム・ジャパンと答えます。そんな私の気持ちや状況とは関係なく、指紋押捺を拒否すれば外国に出さない、出れば永住権は失効し、新規入国者として扱われるというこの事態を私はどう納得すればよいのでしょうか。  八八年六月一日、私が留学からの帰国を予定していたその日に、外登法改正により、十六歳に一回限り指紋を押すとなり、一度押している者には再入国を許可することになりました。その数日後、私は留学から帰国しましたが、その時点で私は新規入国者扱いで、この改正案は私には適用されませんでした。指紋制度がなければ、私は再入国を得て、永住権を失うことはなかったでしょう。これから先、指紋全廃の改正がなされたとしても、私はひとり蚊帳の外に取り残されます。  人権というものは手にとって見えるものではなく、感じ取るものだと思います。傷つけた者には、目の前で血が流れるわけではないのでわかりにくいかもしれません。だからこそ、相手の身に自分を置きかえて考えることが大切なのだと思います。  人が命を与えられ、生まれてみると、日本人であったり韓国人であったりとさまざまな異なる条件を与えられ生まれてきます。また、その多様性は今日ますます複雑になってきています。だからこそ、人としての基本的な権利が保障されることがとても大事なのでしょう。  世界じゅう、どこの国にも差別はあると思います。黒人同士、白人同士、そしてアジアの人もお互いに差別し合い、また差別された者も差別しないとは限りません。それが人の弱さでありネーチャーであるからこそ、法は善を行い平等を約束しなければならず、今こそそのことが必要なのだと痛感します。  もし、あるとき韓国が日本を併合すると言い、あなたの名前が韓国の名前に変えられ韓国語を話すように強要されたとしたら、そして日本の歌も歌えず韓国の歴史教育を強いられ、それが三十五年間続いたとしたら、生まれたばかりの子どもが三十五歳になるまでそんな中で成長したらどうなるでしょうか。一九一〇年から四五年まで三十五年間に及んだ日韓併合とは私などの想像を超えるものだったと思います。日韓の二十世紀最悪の歴史の一つではなかったでしょうか。  私たち戦後生まれの者は、体験していないことを想像することでしかその痛みに気づくことはできません。私もこの歴史の意味がわからず、幼いころ、自分の韓国の名前に誇りが持てず、恥ずかしい劣ったものだと思っていました。在日のほとんどの人が本名ではなく日本名を名乗ろうとするのは、我が子をつらい目に遭わせたくないと思う親心や、日本名にしないと仕事もなく生きていけないという社会だからです。それでも、辛うじて韓国籍を維持することによって、何とか失われたプライドを取り戻そうとしているのだと思います。  象がネズミをかんでも、ネズミが象をかんでも、痛いのはネズミだけと言います。かんでもかまれても痛いなら、かまれて自分を失うより、かんで自分を取り戻したいと思い、多くの人がその人生と夢をかけ、あるいは夢を断念して指紋拒否したのです。私の父も、指紋押捺を拒否したことにより、再入国が不許可になったばかりか在留期間三年が一年に短縮されました。そして、そのまま四年前に亡くなりました。  私も、きょうここでこのような正直な意見を述べることで、三年の在留期間が理由を明らかにされることもなく一年に短縮されるのではないかという恐怖を持ちながら臨んでいます。これらの恐怖は在日すべての人が日常の中で感じているものです。私が自分の人生をかけ指紋拒否しみずからの夢を実現しようとしたことは間違っていたのでしょうか。  最後に、長くなりましたが、私の永住権の原状回復と今回の審議が真実に意味のあるものとなるよう、また過去の歴史を乗り越えられるものになるよう願ってやみません。
  64. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 以上で参考人意見陳述は終わりました。  これより参考人に対する質疑を行います。  質疑のある方は順次御発言願います。
  65. 円より子

    ○円より子君 関口さんと崔さん、きょうはおいでいただきまして貴重なお話を聞かせていただき、本当にありがとうございました。  崔さんからは、涙ぐみながらお話を聞かせていただいた中に、本当に静かな怒り、何世代にもわたる怒りが伝わってきましたし、また関口さんからは今まで勉強なさった中から問題点を激しい怒りを持って理路整然とお話しいただいたように私は思います。  前回、対政府質疑の中で実は法務大臣にこんな質問をいたしました。今回の外登法と入管法改正案はどちらも大変重要な問題でして、本来は一括して審議するような問題ではなかったのかもしれません。いずれにしても、大臣がこの法案の提案理由説明をしたんですけれども、後で関口さんや崔さんにも読んでいただきたいと思いますが、この中には外国人の人権を尊重して改正するというような言葉が全く入っておりませんでした。この改正理由はすべて管理する側の利便のため、手続の簡素化のために改正するんだという趣旨が全面に流れている大変残念な提案理由でございました。このことを大臣に指摘いたしましたら、いや実はそんなつもりではなくて私は外国人の人権を尊重しているつもりですとおっしゃったんですけれども、それだったら官僚がつくった提案理由など読まず御自分言葉で語られたらよかったんじゃないですかと申し上げたんです。  ことほどさように、今までの日本に生活する、在留する外国人方々に対するさまざまな行政のあり方、システム、制度のあり方というものは、人権を尊重する形ではなくて管理というものが本当に色濃く優先されていたと思います。今回のこの二法案改正で全くそこの部分が根底から訂正されていない、直っていないということで、この改正案を私たちはこのまま通すわけにはいかないという思いでいっぱいでございます。  崔さんのことに関しては、今回はすべての外国人の方について指紋押捺制度廃止されることになりましたが、前回、特別永住者永住者についても指紋押捺制度廃止された、こういったことのプロセスの中で、崔さんのように指紋押捺拒否をした人たち、その積み重ねが今回のこの改正、これまでの改正につながったんだと私は思います。いわば功労者であって、その方々の永住権、永住者資格を失わせるということはとんでもないことで、ぜひともこれは救済措置をすべきで、原状回復すべきでないかと聞いたところ、私の質問のときには大臣は四角四面の答弁しかなさらなかったんですが、大変ありがたいことにお昼休みを挟んで隣にいます大森委員が私と同じ質問を繰り返してしていただきましたら、いやこれは何とか救済する方向で考えなきゃいけないというような答弁が出てきたわけです。  これをもう少ししっかりした形で原状回復できるように私たちも努力していきたいと思っておりますが、まずその点について崔さんはどういうふうにお考えでしょうか。
  66. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 私は、ちょうど一年前に最高裁で判決を受けまして、その後どういうふうにこれからやっていけばいいのかわからない、そういう日々を過ごしておりました。まさか、きょうこういう形で、こういう場に来て話すことも想像しませんでした。それはまさに私が指紋押捺拒否をしたその時点もそうでした。  私は、まさかこんなに指紋押捺拒否者が後に続くとは思いもしませんでした。私の行動のすべてが社会運動であるとか法律違反を奨励するようなものだというふうに言われたことがありますし、裁判所の中でも言われました。私はそういう気持ちは本当に全くなかったんです。  ここまで来られたのは、多分このことに共感した在日、そしてそれだけではなく日本人が多かったからではないでしょうか。私はそのことをとてもうれしく思います。
  67. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 速記をとめて。    〔速記中止〕
  68. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 速記を起こして。
  69. 円より子

    ○円より子君 それでは、関口さんにお伺いいたします。  先ほど登録証の常時携帯には反対だとおっしゃっていましたけれども、まず常時携帯義務、こういったことですとか、それからあなたの本も読ませていただきましたが、あなたの配偶者が在留特別許可を取られるまでの手続の本当にエネルギーの要ること、それから時間のかかること、大変なことだなということを本当に、先ほど御意見を述べられたとおり、私たち日本人はなかなかそういったことについて知らないというところがあると思います。  それで、そういったさまざまな不利益を受けていることを変えようとする法改正のときに、永住者の方たちもまたそういった方たちも参政権も持てないし、政策決定の場に全くかかわることができないということは、とても不思議なことじゃないかと思うんです。  このあたりのことと、それから永住資格というのは権利ではないかと私などは思っているんですが、その辺についての御意見を伺わせていただきたいと思います。
  70. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) ありがとうございます。  その参政権と永住権のことについては全くおっしゃるとおりでして、そのとおりですということです。  参政権は、昨年の国会海外在住の日本国籍者に対する不在者投票が採用されたわけですから、当然それは不在でも出すということの照り返しとして、少なくとも地方参政権レベルからはもう外国籍者に、もちろんその外国籍者といってもいろいろな区分けといいますか条件づけはあると思いますが、それを言いましたら、不法残留者も含めてですが、私ども税金は払っておりますし、私の配偶者もかなり少なからぬ額の税金を毎年払わせていただいております。代表なくして課税なしという、直接いろいろな法案を提言するなどということができないところがやはり当人たちにとっては歯がゆいところだと思います。やはり参政権のことも今後ぜひ御検討いただきたいということです。  それから、永住権は、これは私の個人的な意見ですが、基本的に日本人と婚姻した者については原則永住権を即座に、即座といってもいろいろありますが、例えばアメリカでしたらば段階的に二年時限的なものをまず出して、それから三年目と、そういうように状況を見ながら本格的なものに切りかえていくことをまずやっていくというようなことを個人的には提唱しております。
  71. 円より子

    ○円より子君 ありがとうございます。  それでは、また関口さんにお伺いしたいんですが、その在留特別許可の手続外国人でも知らない方が多いのではないかと思うんです。そういった方や、それから手続に時間がかかりますから、できないうちにオーバーステイで捕まってしまった方とか、またはそれで強制退去させられたり、摘発されて起訴されたりとか、また取れた場合でもいろんな状況があると思うんです。先ほどもおっしゃいましたが、そういった方たちというのは、実際に犯罪を起こしたわけではなくて、事情は同じだと思うんですね。ただ、外から、私たちから見るといろいろ起訴されたりとか強制退去させられたりとか、いろんな手続上の違いがあるんです。  こういったものが、今回の改正で上陸拒否期間を一年から五年に伸長することによってますます不利益をこうむる人たちが多くなるのではないかということや、それから婚姻関係にある方、親子関係にある方たちの家族の離散を促し、また統合に対して、愛情関係に対して大変な不利益をこうむるという、そういったことがあるかと思うんですが、いかがですか。
  72. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) そのとおりです。実際問題、この過去十年近く実際に引き離されている日本人の、私が見ていますのは特に妻が多いんですが、妻が日本におりまして、実際に夫が退去強制されて逮捕されて起訴されて、裁判有罪プラス執行猶予で退去強制されたか、あるいはその後退去強制されたかいずれかの形で、米国と違いましてこの国は不法残留者がそのまますっと隠れて出国するということは基本的にできませんので、要するに自分はオーバーステイになったけれども、その記録を消すために入管を通らなければどうしようもないような、最近はちょっと船舶で違うのかもしれませんが、基本的に大多数はそうです。  そのまま引き離されて、その場合に法務省の入国管理局の係員がどういうふうに言うかといいますと、実は私どもも何度も言われたのですが、一年で帰ってこられるから一年ぐらいは我慢しなさい、そしてこれは刑罰ではない、行政処分であると。であるから、婚姻をしても婚姻自体は成立するんです。ただ、一年で戻ってこられるから一年ぐらいは我慢しなさいということで、私も疑り深い性格なものですからいろいろと調べてみますとそれが真っ赤なうそであるということが、真っ赤なうそというのは実際に引き離されて一年たっても入ってこられない人たちが、アジアを私は主に見ているんですが、アジア各国を見ていまして多いんですね。  ですから、入管法五条で従来一年と規定されて、それが五年なんかになりましたら、これはほぼ半永久的にあなたは入れませんよと言っているのに近いなと当事者の感覚からいいますと感じます。
  73. 円より子

    ○円より子君 今妻が日本人で配偶者が外国人の場合に多いというふうなお話がありましたが、入管行政とかそういったものに対して性差別や人種差別等があるんでしょうか。そういうことをかなりお感じになっているんでしょうか。
  74. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) すべてこういうところで発言することもやはり非常に裁量行政、要するに明確な基準が何かにつけて言いにくいというところでございますので、それは私どもがこのように発言するのも同じです。  ただ、今、性差別と人種差別、まず人種差別というのはもう明らかにございます。その人種差別というのは、例えば崔さんが私の隣に座っていらっしゃって在日韓国人の方で、私どもはモンゴル人種と言いますけれども、ではモンゴロイドで人種は同じなんだから差別はないということではないわけです、もう言うまでもなく。人種、民族差別というものが非常にあります。  端的に申しまして、例えば先ほどの外登証の携帯の問題でも、わかりやすく言いますが、六本木でたくさんの白人の人々が飲んだりとか、いわゆる繁華街に遊びに行って、そういう人たちが警官に職務質問をされたことがあるか、要するに見せなさいと、まず聞いたことがないですね。だから、そんなものを持って歩かないのよということを普通に聞きます。ただ、それが例えばアジアほか第三世界から来る人たちは、先ほど申し上げたようなことも含めまして、とてもではありませんがそんなのんきな状況ではございません。  それからもう一つ、性差別なんですが、これは私自身も言われました。まず私はこのように言われたんです。あなたは職業を持っているのだから夫が強制送還されても困らないでしょうと。それはどういうことかというと、要するに結婚は、食べるためのものである、妻は食べさせてもらう存在であるというようなことが露骨なんですね。ですから、同じ状況で、例えば女性側が外国人であった場合にはそれはそれでまた別個の問題がございますが、男性が日本人という場合には、そういうことは間違っても、あなたは妻が強制送還されてもどうのこうのなんて、そんな変な聞き方は男性には絶対しないはずです。  それから、日本人が男性のカップルに比べますと、やはり日本人が女性の場合の方が戻る期間というんでしょうか待たされる期間とかが、私が見ていた範囲では実質的に長いと思います。
  75. 円より子

    ○円より子君 最後の一問にいたします。  崔さんにお伺いします。 一般論として、あなたのお父さんやお母さん、また周りの人たち、御兄弟、そういった方たちが特別永住資格をお持ちになりながら、外登証の常時携帯義務があるがために、それをたまたま忘れたりして、日本に生まれて育っていながら差別されているような思いとか、いろいろな嫌な思いがあったかと思うんです。あなたはそういうのを見ていらしたと思うんですが、この常時携帯義務についてはどう思われますでしょうか。
  76. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 昔、私が小さかったときのことを思い出すのですが、私は小学生ぐらいまでは、こんな差別があるんだよということを親や周りの人から聞かされたときに、そんなはずはない、私の友達は日本人だけれども、みんないい人だよ、どうしてそんなことを言うのかというふうに思っていましたし、今でも半分そう思っています。  そういうふうに思えなくなったのは、十四歳のときに外国人登録証を持たされ、そしてあるとき兄が近くのコンビニに何かを買いに行くために自転車に乗っていきました。買った後、自転車で帰ろうと思ったら自転車がないので、近くの交番に自転車がなくなったことを届けに行きました。名前を聞かれ、彼の名前を知った交番の人は、では外登証を見せてくださいと言って、夜中、夏でしたので彼はとても身軽な格好で行っていて持っていなかったんです。その後一日そこで泊まらされて、その間にかなりひどい尋問等を受けたというふうに聞きました。  彼はその話を私にするときに、絶対に両親にこのことを言っちゃだめだよ、これから絶対に持っていた方がいいよというふうに言いました。多分、兄は、親に言うと親は子供を思う心からすごく騒いで大げさになることをおそれたでしょう。それによってまた彼がどんな目に遭うかわからないということもあったでしょうし、私にはあんなひどい扱いに遭わせたくないと思ってくれたんだと思います。そういうことがいろいろありました。
  77. 円より子

    ○円より子君 ありがとうございました。
  78. 大森礼子

    ○大森礼子君 公明党の大森礼子です。  崔さん、関口さん、きょうは本当にありがとうございます。参考人というとよく学識経験者をお呼びするんですが、午前中はそういう方に来ていただきました。だけど、こういう問題についてはやっぱり現場を知る方、実際に体験された方がとても大事だと思います。  この入管、入管事務所もそうでしょうか、我々はほとんど行ったことがありません、縁のないところですから。実際どういうことが起きているかよくわからないんですね。それで、きょうは本当にありのままのことをお話しいただきたい。先ほど崔さんがこういう場に出席することで三年を一年にされるのではないかと。お気持ちはすごくわかります。あるいは関口さんですと御主人の方に不利益が来ないかと。関口さんの性格だったら心配なさらないんでしょうか。ただ、参考人というのはこちらがお願いして国会に来ていただいて御意見を伺うわけですから、そんなことで不利益をこうむることがあったら日本国会の権威は失墜すると思いますので、この件については御安心いただきたいと思います。  それでは、順番にお聞きしようと思います。  崔さんのお話を伺いまして、お父様が生きておられたら、きょう国会へ行くというあなたにどんなふうに声をかけられたかな、こういう思いをはせながら聞かせていただきました。  先ほど円委員の方から先日の法務委員会の件で、確かに円委員と私も資格回復、不利益回復の質問をいたしました。円委員、今救済する方向で考えるとおっしゃった。ちょっと私は気になるんですね。というのは昔の仕事柄、言葉というのが不正確に伝わってはいけないというのがあるものですから、ちょっとこれを入れさせていただきます。  確かに大臣は、この崔さんの例も含めまして、そういう資格回復されていないままの方のお話を聞いてお気の毒だなという気持ちを私も強く持ったわけでございますと。ここは決して軽い気持ちでなく真摯な態度で言っておられたと私は思います。ただ、現在の法律では回復という手段がないということも述べられて、その上で入管法の枠内でどのように考えていったらいいのか、救済措置としてどんな検討の余地があるのか考えてみる必要があるなという気がいたしておりますと。それから人権の点につきましては、たびたび申しておりますように基本的に一番大事なことで、そういう視点からいろんな問題を考えていかなきゃならないと思いますと。このいろんな問題というのはもちろん私の質問の中の文脈において出てきた問題です。  ですから、この点について、変な言い方ですが、まだ喜ばないでいただきたいということです。私は、その場しのぎで大臣がおっしゃったとは思いません。ただ、現実に大臣がそういう行動をとられたときに一緒に喜び合えたらうれしいなと思っております。  今申し上げたところは私がビデオテープからテープ起こしをした部分でありまして、申しました範囲内については正確でございます。  崔さんにお尋ねいたします。  指紋押捺拒否を続ける中で非常に悩まれたと思います。指紋さえ押せば楽になるのだという誘惑があったのではないかと思うんです。指紋さえ押せばピアノへの自分の道も開ける、海外へはもちろん自由に行ける、それから自分の人生の可能性ももちろん広げられる。特にピアノということですと、留学される時期とかいい先生にめぐり会うかどうかとか、こういうのが非常に大事な要素になってくるから、いつ留学してもいいということではないと思うわけです。  その留学のチャンスとそして一方で指紋押捺拒否、この間に立たれて、もうやめちゃった方がいいのじゃないか、ここで押せばそれで済むじゃないかという、こういう誘惑がなかったか。また、周りからもそんなばかなことをやって、押しちゃったら済むじゃないの、得するのにとか、こういう誘惑というのはございませんでしたか。あったかどうか。それから、もしその誘惑を排除したものがあったとすれば、それは何だったのか、ぜひお聞かせいただきたいと思います。
  79. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) よく周りの日本人の方からは、私のことを再入国不許可のために永住権がなくなったという新聞等の見出しを見たときに、何のことだかわからないというふうに言われます。そして、指紋押捺を拒否した、法律を犯したからあなたは永住権を失うことを覚悟の上で出たんじゃないか、自分でわかって出ていったんだから自分で責任をとるべきである、そういうふうにもとれるかもしれません。  そのためにちょっとお話しさせていただくんですが、私はずっとピアノで身を立てようと思っておりまして、物心ついたころ、小学校のときからピアノのコンクールなどを受けたりとかしていました。そして、高校に入ったときに今の大学を決めたんですが、その大学四年のときに指紋押捺拒否をしたために、まさか押捺拒否をしたということで再入国が不許可になるなんてだれが思ったでしょう。指紋押捺拒否ということと再入国を不許可にするということは余りにもかけ離れていることではないでしょうか。既に裁判所では罰金一万円、そして恩赦になるという刑事処分が出ておりました。それとは別に行政処分を行ったというのは、それは私たちに罰を与えるといったことだったんでしょうか。とにかく、そういう事態になることを私は予測もしていませんでした。  先ほど陳述いたしましたが、大学四年から私は大学を出たら、クラシック音楽ですからいわゆる本場に行って勉強するのがある意味で研究の流れとして自然なわけで、行きたいなとかねてより思っておりました。ところが、不許可になって行けないことになりました。それで、とにかく様子を見よう、いつかこの不許可という制裁措置はなくなるに違いないと思い、私は許可されるのを待とうと思いました。そして、大学院に行くことを決めました。大学院の二年間、まだならない、まだならないと待っていました。大学院二年を修了した後もならないので地元の大学でピアノを教えました。そして一年半、合わせて三年半私はずっとそのことを考えました。  指紋を押して行こうと思ったことがあります。そのとき私はどこの国で勉強しようかと考えていたんですが、普通はヨーロッパに行くんですけれども、なぜアメリカなのかというと、ヨーロッパというのはある意味アメリカより日本に近くて、小さい国の集まりですから、私がもしドイツに行けば今度はドイツという鏡で自分を見なければいけない、アメリカだったらそういうのじゃないもっと広い自分を見ることができるんじゃないかなと思うようになってアメリカを選んだんです。  ちょっと専門的で申しわけないのですが、リスト音楽院というのがありまして、そこの教授をされていた先生がバルトークという人のまな弟子なんですけれども、高齢の方ですが、その方が日本に一度来ました。その方の前で私はピアノを弾き、その方に自分大学に来てもいいというふうに認めてもらいました。その先生がいる大学がインディアナ大学でした。  その先生は演奏家としてもすばらしかったんですが、とても教えるのが上手だということで世界的にも認められている方だったので、その先生につくために多くの人がウエーティングリストで待っていました。私もインディアナ大学に行って、その先生に来てもいいよと言われたんですが、一年間待っていました。それで、あと二年その先生につくような感じで、その先生に習うためには今しかないという、そういうタイミングがありました。  ですから、その入学許可書というのは、ただインディアナ大学に入れましたよというんじゃなくて、その先生のもとで音楽を学べるという意味で、私にとっては逃せないチャンスでした。その中で、私はこのチャンスをあきらめて指紋を押すことはできないと思ったわけです。
  80. 大森礼子

    ○大森礼子君 いろんな葛藤。葛藤という生易しい言葉では表現できないと思うのですが、押そうかどうしようか、いろいろあったと思うんです。非常に悩まれたと思います。その誘惑を排除したものは何だったのかと先ほどお尋ねしましたけれども、実は先ほどの崔さんの言葉の中にそれがあるんです。象がネズミをかんでもネズミが象をかんでも痛いのはネズミだけだと。かまれて自分を失うよりかんで自分を取り戻したい、やっぱりこれが一つの信念を貫かせたという気がいたします。これは非常にいい表現、すばらしい表現だと思います。  それで、今回の改正案の中身が指紋を押す制度全廃ということがありますので、その絡みで、じゃ、かつて指紋押捺拒否した人で不利益をこうむったままの方をほうっておいていいのかという問題は当然出てくると思うんです。井戸を掘った本人が水がわいてきたのにその水も飲めない、先ほどそういう表現をしたんですけれども、こういう状態であると思います。  それから、先ほどの大臣答弁にしましても、法務大臣は、お話を聞いてお気の毒だなという気持ちを私も強く持ったわけでございますと、これは単純な言葉かもしれませんけれども、お気の毒だ、この素朴な気持ちといいますか、ここからすべてがスタートすると私は思います。  ともかく、これはいい方向に向けていきたいと思いますし、私も国会議員としてなすべきことを努力いたしますし、また結果が出るまで努力するということをお約束したいと思います。  関口さん、「在留特別許可」のこの本、実は参考人にお決まりになったのでどういう方かと思って読ませていただいたけれども、おもしろいんです。本当に御本人の性格が出ている。おもしろいけれども、読んだ後にどっと疲労感が出る。本当に大変だったんだなと思いました。  入管の職員の方の態度の悪さというのがいっぱい出てきますけれども、ここで聞いていると時間がなくなりますので、法務大臣の方にこれを入管職員の方の人権教育の参考書にしてくださいと次の委員会で要望しておきます。  それで、関口さんに最後の質問なのですが、退去強制されてからの期間が一年から五年になります。一年から五年に改正をする場合に、関口さんがおっしゃったように、ともかく変な悪さをする外国人、こういうイメージ、こういう人はもう入れないようにしなきゃいけない、こういう発想だと思うんです。  関口さんの本を読みますと、一年たったら帰ってこられる、これが実際にならないというのはだましじゃないかと思うんですが、それはさておき、一年ですら関口さんは非常に不安だったわけです。これが五年になりましたらもうどん底の地獄じゃございませんか、関口さんの立場の方としましたら。  その担保として在留特別許可が頻繁に出るようになれば多少いいのかもしれませんが、結局その兼ね合いの問題だと思うんですけれども、この改正の持つ意味について、体験された関口さんからもう少しお話を伺えればと思います。
  81. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) 一年から五年になることで、私自身も一年、今おっしゃった在留特別許可を取得しましたので、実際に私どもは強制送還で引き離されるという経験をしなくて済んだわけです。ただ、これは申請すればだれでもとれるものではないということです。先ほどお配りしましたチャートの中の退去強制手続の中の一番下に在留特別許可とあります。これは例外的な恩恵的な措置であるということで、これは基本的に退去強制手続図解ですから、退去強制手続の下から二番目に法務大臣裁決、ここに行くまでに三段階。  これで、私どものときは実質的に八カ月ぐらいだったんですが、今は当事者、それ以後いろいろな変化がございますけれども、東京入管に限ってはつい最近二種類に分けて、早い人と遅い人を分けて、一年とそうじゃないカップルと分けたりいろいろあります。ただ、全国に名古屋入管とか大阪入管とかあるわけですから、平均しますとまず二年、三年かかっても不思議ではないぐらいこの結果だけで待たされます。この結果、確実に在留特別許可が出るとは限らないわけですから、出なかったら、二年、三年待った後でまさに引き離されて、かつ先ほど申し上げております一年は入れませんというと、プラス一年。  しかし、じゃ一年で入れるかといいますと、その次のチャートです。次のチャートは在留資格認定証明書による入国手続ですが、これは九〇年の入管法改正のときに採用された新しい、これは簡素化という名目で入ったんですが、これをずっと過去八、九年見ておりますと、在留資格認定証明書を取得するのは地方入国管理局等、上から二つ目の箱に書いてありますが、要するに法務省管轄の入管です。  例えば、これを現地にいる外国人配偶者に送った場合に、その配偶者がその他書類を添えて大使館に行くんですが、ここで問題がございまして、大使館は当然外務省が主管庁です。そうすると、外務省は法務省の言うことと全然、何と言ったらいいんでしょうか、つまり法務省による在留資格認定証明書が出ているからといってビザを必ずしも出す義務はないとか非常にごねるわけです。それで、もう一回照会しろとか、当事者によっては裁判で、公判で有罪認定されている場合には検察官にまで連絡をする。こういうことで、法務省から通った書類を在外公館、日本大使館、領事館に出したんですが受け付けてくれないとか、あっちへ行ってもこっちへ行っても言うことが違うんです。検察も違うし入管も違う。入管の方に電話すると、おかしいですね、そんなはずはない、出すのが当然ですと。お互いに責任を押しつけ合っているのかもしれませんが、こういうようなことで非常に時間がかかる。これで一年たって、こういうことをまたごちゃごちゃとやっているうちに簡単に一年、二年たってしまいます。  今の段階でこうですから、これから先五年なんかになりましたら、本当に先ほど十年と私申し上げたのは冗談ではなくて、子供が生まれているカップルなんかもいるわけです。実際にオーバーステイだけ、それは入管法違反は事実です。ただ、例えば強盗とか殺人とかそれ自体どこの国の法令においても明らかに悪いというようなこととはやっぱり違うわけです。例えば単純労働者を受け入れますというふうに方針を日本政府が変えましたら、これは即座に合法になるわけです。そういうような立場の人をそういう状況に置いていいのか、私はやはり非常に疑問に思います。  悪さをする人というふうに先ほどおっしゃって、それは大変適切な表現だと思うんですが、入管法違反等々をして退去強制で一年待つところを五年になればあきらめるとか追い払えるといいますが、大体、不法入国、不法上陸しようとするよからぬ外国人が例えば五年待ってそれで拒否されるとあきらめるか。そんな待っていないです。偽造パスポートで要するに全然別人に成りかわって来ると考えることだってできる。一年から五年になって、そういう不届きな外国人入国者をけ散らすという効果がこれでは全然ないと私は思います。
  82. 橋本敦

    ○橋本敦君 きょうは、お二人の参考人、御苦労さまでございました。  関口さんに最初にちょっとお伺いしたいんですが、先ほどの話で我が国の入管行政は裁量という範囲が大変広いということでお話がありました。私もその点を心配しておる一人なんですが、先ほど今の上陸拒否期間の一年でも実際の実態は一年で許可されることが珍しい、長いのが多い、こういうお話でしたが、具体的な例として、どういう場合に一年で珍しくおりて、どういう場合に二年、三年と待たされるか、そこらあたり、あなた御自身の御体験なり調査なりから何か判断できる資料ありますか。どういう点を政府は裁量の判断にしているのか。どうなんでしょう、そこは。わかれば御意見を聞きたいということです。
  83. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) あくまで過去、といいますのは、私自身取材とあわせてそうした当事者から相談を非常に受けるものですから、それでいろいろと微に入り細に入りケースを聞き、もちろん弁護士法に違反するような形ではございませんので、別にそれで有料の何かを取っているわけではございません。  それで、裁量なんですけれども、まず早めに入れるというのは、必ずしも全部が、一〇〇%と申し上げませんけれども、男性が日本人の場合の配偶者ですね。それから、あと比較的早いのは、一年とはいきませんけれども比較的早いのは、先ほど二通りの扱いがあると申しましたが、要するに有罪、公判に付されて有罪プラス執行猶予、そうではない人は比較的早いです。ただ、要するに有罪、今申し上げたような一通りの刑事手続のプロセスを経た上で退去強制されている人というのは三年、四年はあっても不思議ではありません。
  84. 橋本敦

    ○橋本敦君 それで、先ほどもお話がありましたが、不法残留罪の新設、不法滞在罪の新設、この問題ですね。この問題で、政府の方は、現在オーバーステイの場合は不法残留罪ということで刑法的な処理はできる。ところが、不法入国の場合は、入ってから三年の時効で、あとは刑事罰が科せられない。この不均衡を正すためだという説明もあるんですね。私はそういう均衡論だけでこれは考えてはならない、もっと大きな立場、人権の立場で検討すべきだと、こう思っておるんですが、そういう均衡論というようなことについて、あなたの御体験からどういうお考えをお持ちでしょうかね。
  85. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) 先ほど駆け足で申し上げていたので、もう一回ちょっと補足します。  不法残留につきまして、入管法の二十四条に規定がございますけれども不法就労、不法残留には行政処分が既に七十条についています。つまり、不法入国とか不法上陸で日本に入ってきた外国人、この人がそのまま居続けるということは、当然実態としては不法残留なわけですね。その不法残留に対して、既に二十四条で行政処分、退去強制手続処分、それから七十条で刑事罰が科されている。今七十条を読み上げるとちょっといろいろ長いのでやめますが、屋上屋を架すというのはそういうことなんですよ。既にある法律で対処できる。  実際に職質は、入管職員は少ないですから大体警察官がやると思うんですね、今は。例えば、繁華街でそれらしきアジア人ならアジア人をちょっと職質すると。実際には観光ビザとか正規のビザで入国しましたが、その後、例えば期限が切れて不法残留状態になりましたとか、ついでに仕事もしていて不法就労ですとか、不法入国で入ってこようが実態的には変わらないわけですよね、その運用の実態の対象としても。既にある条文で使えるのに何でわざわざそんなことをやるのかなと思うんです。
  86. 橋本敦

    ○橋本敦君 別の観点から伺いますが、この不法滞在罪をつくることによって不法入国を抑止する抑止効果があるというようなことを言う人もいるんですね。しかし、そういうことで果たして抑止効果があるだろうかという疑問も私は持っておるんですが、関口さんは御経験からその点はどう判断されますか。
  87. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) はっきり一言で申し上げますと、抑止効果は全くないと思います。つまり、現状が彼らにとっては変わりませんから、外から来る場合ですね。
  88. 橋本敦

    ○橋本敦君 その現状というのは、一つはやっぱり単純労働で、日本が入国を素直には承認しませんから密入国をする以外ないという、そういう就労要求ということが一つあるし、それからもう一つは、蛇頭その他の国際的な連携による不法入国を利権としている集団もある。そういったところをどう整理するかということが、立法政策をやると同時に国の政策問題として、そこのところを考えなきゃならぬと私は思うんですが、御意見いかがですか。
  89. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) それにつきましてちょっと想起したのですが、先ほど一言忘れましたのをつけ加えさせていただきます。  不法残留そのものは減ってきているんですね。この趣旨にかんがみというここを読んでみますと、不法残留、それから不法就労そのものの人数は非常に減ってきている。これはもちろん法務省入国管理局の過去数年の統計を見ていて、きょうお配りすればよかったんですが、あるわけです。不法残留者数も不法就労者数も減ってきていて、ふえているのは不法入国者数だけなんです。  ところが、数年前にも入管法改正がありましたけれども、あれは要するに密航者対策であると。ただ、その前からそもそも入管法それ自体は二十四条を持っていたわけですから、仮にその二十七万人を問題と見るにしましても、実際に不法就労者自体が減ってきているのに何でわざわざと思いますね。
  90. 橋本敦

    ○橋本敦君 ありがとうございました。  崔さんの方にお伺いしますが、きょうは本当にありがとうございました。もうあなたのお話を私も真剣に聞かせていただきまして、ありがとうございました。  残念ながら、指紋押捺ということから、今三年ごとの許可を延長なさっているということですね。その許可はもう何遍ぐらいになりますか、今までに。
  91. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) ちょうど十年ほど前、一九八八年に留学から戻ってきたときに百八十日、そして次、百八十日後の申請でまた百八十日、そしてその後に半年、その後、一年のビザを五年間切りかえまして、そして四年前、ようやくというんですか、三年が出まして、そのときに入管の方から、蛇足かもしれませんが、三年にしてやったからというふうに言われました。
  92. 橋本敦

    ○橋本敦君 三年にしてやったからじゃなくて、本当にあなたのもとの永住資格の回復、それ自体が指紋押捺制度をなくした以上は当然だというように私も思っておるんです。  もう一つの問題は、申請をなさって六カ月間申請を待たされるということで、申請中というのがあるというんですね。どうしてそんなにあなたのような方が、ずっと順次許可がおりているにもかかわらず六カ月間もかかるのか。そのこと自体権利侵害ではないかというように私は思いたくさえなるんですが、どうして六カ月もかかるかという何か入管の説明はありましたか。何でかかるんでしょうね。
  93. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 私も本当にわからないとしか申し上げようがないんですけれども、そのことは二次的な被害といいますか、新規入国者になったこと自体でもう既に私はかなりの、あえて被害と申しますが、被害を受けているにもかかわらず、在留期間を更新する際に、一年しかないのに六カ月以上待たされるということは、新たに出たときにもう次の申請に行かなければいけない。ですから、その間、申請中ですから、再入国を許可してもらうこともできない。要するに、ステータスがない状態で六カ月以上過ごして、私はもうそこでも再入国不許可イコール不許可状態というふうに言えて、外国に演奏旅行に行くこともできないわけです。
  94. 橋本敦

    ○橋本敦君 私は、今あなたが指摘されたそのこと自体が人権侵害という問題を引き起こしかねないという問題意識からお尋ねしたんです。  先ほどから議論もありましたが、私も、指紋押捺制度廃止する以上は、どうやってこれを拒否して不利益を受けた方の権利回復をするのかということで、法務大臣に実情もよく調査しなさいよということを要求したんですけれども、そういう実態も含めてきょうお話をいただいて私も大変参考になったんですが、あなたとして権利回復をしてほしい一番の最も大事なことといえば何になりますか。
  95. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 先ほど質問していただいたときに、どうしてそこまでして留学したのかということをお話ししました。ちょっと補足というか、こんなにいい先生がいるから習いたいという自分の幸福の追求が第一にあったということ、それだけのためなら押していけばよかったわけです。それでも押せなかったというのは、もともと私が指紋拒否した最初の動機は韓国人の問題ではありません。どうして部落という制度が今も残り、私より若い人が悩んでいるのか。それは、結局何百年もそれを繰り返してきて、これから生まれてくる子供たちも同じように傷ついて悩む、それがおかしいと思ったから拒否したわけです。  ですから、私の幸福の追求を実現するために指紋を押すとしたら、私がどうして拒否したというその一番大事なところをみずから放棄してしまう、それはできないと思って指紋を押しませんでした。
  96. 橋本敦

    ○橋本敦君 わかりました。  もう最後になりますけれども指紋拒否をされた韓さんが言っておられることを私も本で読んだんですが、日本指紋をしなきゃならぬというこの制度を残す限り、子供や孫も日本在留する限りそうなっていくと。そういう子供や孫に何を残してやりたいか。やっぱり人権を守るということで、指紋押捺制度をなくすという方向で自分はやってやりたいし、日本も国際社会の一員としてそういう国になってほしいという日本に対する要望も含めておっしゃっていることを私も大変大事に読んだんですけれども、あなたのお気持ちとしても、国際的に活動なさっている中で、日本の行政のあり方に対してやっぱりそういうお気持ちがあると思うんですが、いかがですか。
  97. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) きょうは余り資料を出せないということで、私なりに選んできたんですけれども、その資料の中から、新聞記事なんですけれども、「指紋押捺はアジア侵略の遺物」であるという記事をあえて選ばせていただきました。私は、指紋拒否するときに、指紋を押すのが嫌だからとか、そういう肉体的な不快感から拒否したわけではなくて、そういう本当に、この目の前のことではなくて、歴史を見たときに、私たちの親の苦しみを聞いたときに、それが今なおまた新しい人たちにも繰り返されている。ですから、指紋を押すのが嫌だから拒否したというふうに考えてほしくないです。指紋は、それは一つの事柄にすぎません。  この記事の中で書かれているんですけれども、その指紋押捺の歴史的起源、どうして指紋が始まったのかということを読んでいただくと、結局日本が韓国を侵略したときに指紋をたくさんとりました。それが今なおこういう形で残っているんだということを私は学校で学んだこともありませんし、こういったものでしか知ることはできないんですけれども、そういう中からそういう流れというものを知った以上できないというふうに思っています。
  98. 橋本敦

    ○橋本敦君 よくわかりました。  終わります。
  99. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 きょうはどうもありがとうございます。  常時携帯義務について御両者に話していただいたんですが、ちょっと率直にお聞きしたいことがあります。  規約人権委員会のパラグラフ十七は、御存じのとおり、外国人永住者登録証明書を常時携帯しないことを犯罪とし、刑事罰を科す外国人登録法は規約第二十六条に適合しないとの最終見解を示した意見を再度表明すると言っています。  私自身は、確かに永住者の人、なぜ二世、三世までやらせるのかとも思いますけれども、特にきょうは関口さんはニューカマーの人の人権問題、崔さんは在日韓国・朝鮮の人の立場で話していただいたので、常時携帯義務は本当は全部撤廃した方がいいんですけれども、特に関口さんにお聞きしたいんですが、ニューカマーの人たちの中における常時携帯義務に対する不満や不安というのをお聞かせ願えますか。
  100. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) その常時携帯義務、先ほども中国人の、彼は日本語学校の学生だったんですが、やはりいつも持っていたらなくしてしまったので家に置いていたところが逮捕されたというような非常に危険なことだった、知らなかったというようなことと、やはり煩わしさというのは、当然それはその在日の韓国・朝鮮籍の方々がこれまで運動でおっしゃってこられた、本当にたばこを買いに行こうが何を買いに行こうが、銭湯に行こうがということは当然同じように言っています。特に永住者、協定永住者とか特別永住者以外の、中でも、これはちょっと立場上言いづらいんですが、それは先ほどの参政権の問題ともまた絡んでくると思うんですが、定住のある程度実績がある者にとってやはり常時携帯義務を外すというような段階的なことも考えていけるのではないかと。  ちょっとつけ加えさせていただきます。やはり資料の中で、例えば米国でも永住権者には常時携帯義務を課しているとかあるんですが、アメリカの移民法で言ういわゆるグリーンカードですね、永住許可、永住権。ただ、実際にエイリアン・レジストレーション・カード、日本で言う外国人登録証のようなものを持たされますけれどもアメリカの移民法によるカードというものを持つ効力ですよね。やっぱり日本の参政権、要するに被選挙権と選挙権はそれぞれ抜かす。要するに生活保護から何からすべてほとんど享受できる。アメリカ国籍者、市民権者、そのぐらい権利が認められているものです。あれでやっぱり初めて指紋押捺ということが言えますが、ただアメリカに今、日本人が不法、合法含めて数十万人いますけれども、じゃ彼らが持たされているかというと、やはり持たされていないと。ですから、何か認められる権利との兼ね合いというのもあるんじゃないでしょうか。
  101. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 ありがとうございます。  関口さんになんですが、不法滞在罪と一年から五年の延長についての改正の目的、非常に疑義をおっしゃったんですが、私も実はこの改正の目的がよくわからないんですね。立法目的が犯罪の防止だとすれば役に立たない。つまり、本当に悪い人は偽造パスポートを持って何度も何度も繰り返してやってくる。これにひっかかるのは、非常に平凡に家族を持ちたい、子供を持ちたい、恋人がいる、何年待てばいいんだろうというような人が一番被害者になるというふうに思うんですが、どうですか。
  102. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) 全くそのとおりです。
  103. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 再入国のことについてきょうは本当によくわかりました。  それで、やはり規約人権委員会が、さっき崔さんがおっしゃったように、十八のパラグラフでこのことについて勧告を言っております。出入国管理及び難民認定法第二十六条は、再入国許可を得て出国した外国人のみが在留資格を喪失することなく日本に戻ることを許可され、そのような許可の付与は完全に法務大臣の裁量であることを規定している、この法律に基づき、第二世代、第三世代の日本への永住者日本に生活基盤のある外国人は出国及び再入国の権利を剥奪される可能性がある、これはおかしいということを言っているんですが、崔さん、この再入国の日本の入管の条文により被害を受けているほかの方というのを御存じですか。
  104. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 指紋押捺拒否を理由としたですか。
  105. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 それでも結構です。
  106. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 指紋押捺拒否を理由とした再入国が不許可になって外国に出た例というのは知りませんが、押捺拒否をしたために再入国が不許可になった方はたくさんいたわけで、その方たちは、先ほど申し上げたように、母国に帰れない一世の人たち、それはもうさまざまな立場の方、留学をあきらめたりした方は何人も知っています。
  107. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 関口さんが入管行政は裁量の幅が大変大きいということを冒頭おっしゃったんですが、実は私もそう思っているんですね。つまり、法務大臣の許可ですと、待って最終的にもらえたらうれしいけれども、デモに行ったり目立っているともらえないかもしれないといういつも不安感、自分はいい子ちゃんかどうかというのを常に試されるということがあると思います。  それで、この裁量の幅との関係でもあるんですが、第三者機関の設置ということを規約人権委員会は言っております。特に外国人収容所の中で暴行事件やいろんなことが起きた場合に、独立した調査権限を持つ第三者機関が存在しないことに懸念を有するとあるわけですが、裁量の幅が大きければ大きいほど、第三者機関が逆に必要であると思うんですが、関口さん、いかがですか。
  108. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) 実際に捜査機関による暴行傷害、こういう場ですからまたはっきり申しますが、実際にそういう疑いの非常に大きなケースあるいは実際にそのように司法警察職員から殴る、けるの目に遭って、裁判までしたけれども結局負けたとか、そういうようなケースを見てきておりますと、はっきり言いますと、今の段階でようやくそれがこういう国会の場で討議されるというのは大変ありがたいと思う反面、もっと早くにやるべきだった。ですから、先ほどおっしゃった規約人権委員会の勧告の第三者機関、当然独立した権限、まともな実態のある権限を持った機関ということですが、それは絶対に必要だと思います。
  109. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 在留特別許可なのですが、これは現在もらうのに一年以上かかる場合があるというふうに聞くんです。つまり、先ほどの崔さんの申請中ではありませんが、もし違うパスポートで入ってきて、例えばフィリピンの女性で、ずっといて、その場合に、子供が生まれる、夫と結婚する、在留特別許可を申請して、もらえる可能性は今ふえましたけれども、どれぐらいの期間がかかっているんでしょうか。
  110. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) そういうケースの大半が東京入管の管轄でやっていると思います。あとは名古屋、大阪、あと九州、福岡がちょっとですけれども、ほとんど東京入管です。  東京入管は、要するに余罪がないとかややこしくないケース、不法在留期間が短いとか、そういうような場合には大体一年ちょっとで出すというような方針を、ついここ一、二年ぐらい、これは全部内部通達の形で伝えられてくるものを現実に見ていて、ああそうなのかと我々がわかる、判断するだけですから、別にそうした書類を見たとかいうことではありませんが、ただ、現実問題としてやっぱり三、四年、違うパスポートで入ってきたということは、そもそも、これは私、ちょっと口幅ったい言い方ですけれども、実際にそういう相談をされるんです。余りにも引き離されている期間が長いから、偽造パスポートを使ったら早く一緒になれるんじゃないかと。それは絶対やめた方がいいと。  それは立場上、ジャーナリストとしてとかそういうことではなくて、つまりその後、例えば子供が生まれたから子どもの顔を見せるために相手側のお母さんを呼びたいとか、家族というのは延々と続いていくわけです。そういう場合に、全然違う偽造パスポートなんかを使って、もちろん違法ですからいけないんですが、そういうようなことで家族間が全然ばらばらになってしまうこともあるし、子供を学校に入れるときにどうするんですかとか、あるいは弟が勉強に来たいんだけれども、弟と兄弟の関係が全然証明できないとか。ですから、そういうことは一切やめるようには言っています。ただ、そこまでせっぱ詰まっている人たちが非常に多いです。  ですから、一年というのもつい最近のことですし、これがまた内部通達とか内規とか何か知りませんが、そういうことでまた変わると思います。  ただ、現実問題、名古屋の方とか大阪の方はそんなに早くはないのが普通です。つまり二、三年から三、四年というのが普通です。
  111. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 常時携帯義務の話にちょっと戻ります。  先ほど崔さんは、お兄さんが常時携帯義務で警察でとめ置かれたということを話されました。資料によりますと、外登法違反の通常受理人数はだんだん年々減っております。そうしますと、常時携帯義務違反で受理する件数が減っているのであれば、実は常時携帯義務の法的根拠が逆になくなっているのではないかと私は思うわけです。  一方、受理件数は少なくても、実際に事情を聞くという形で、何らか警察で事情聴取を受けるといった形の、つまり受理件数の背後にある暗数、そういうのが逆に多いのかなと思うんですが、その辺、もし御存じでしたら教えてください。
  112. 崔善愛

    参考人(崔善愛君) 件数については私は全然専門外でありまして、そういう調査とか勉強とかは一切やっておりませんので、どれぐらいあるかというのは全く知りません。  問題なのは、件数として出すのも大事だと思いますが、先ほども述べましたが、常時携帯しなきゃいけないということはどういうことなのかというと、それがないときにもしだれかから被害を受けても、自分は届け出ることをためらわざるを得ない。今、常時携帯しないから、ある人からもしかして刺されたとしても、大げさな言い方ですけれども、これで警察に行ったら私もとがめられる、そういうこともあるわけです。もし駐車違反でも見つかったときに、うっかり常時携帯していなかった、そのときにまた私もとがめられます。  常にそういうふうに脅かされた状況というのがあるということが問題なんだと思います。
  113. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 常時携帯義務の暗数の部分について、関口さん、もし御存じでしたら教えてください。
  114. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) こちらの資料にもありますけれども、例えば外登法で検察官送致されるような件数というのは実際減っている。その一方で、ある具体的な犯罪の被疑者がそこにいて、警察官が職務質問する以前に、外国人らしいのがいて、どうも素行が怪しいからちょっとたたけば出てくるかもしれないというような、あえて申しますと、そのようなことが多いんです。ですから、例えば私なんかも先ほどの崔さんのお話で、雰囲気としては同じだなと思いながら聞いたんです。  実は、私も配偶者の帰りがちょっと遅くなりますと非常にやはり怖いんです。怖いというのは、どこかで酔っぱらって倒れているとかというのでしたらいいんですけれども、警察に何か引っ張られたんじゃないかというのは、実際にたまにあるんです。  例えば、池袋とかそういう繁華街で一人でタクシーを待っていた。それで三、四人トランシーバーか何かを持った警官に囲まれた。外国人登録証を見せなさいと言われて見せる。どういう在留資格だとかおまえの配偶者の名前は何だと、これは数年前にあったことですけれども、そういうことを言われる。当然、外国人登録証に配偶者の名前なんか書いてあるわけです。  けれども、結局何だかんだで、余り素直に従わないような受け答えをする癖がたまたまあって、それは私の配偶者もいけないんでしょうが、それで一つ間違うと、ちょっとおもしろくないからというので、実際に何の犯罪にもかかわってはいないんですが、引っ張り込まれてぼかすか殴られるなんということがあった場合に、本人は中から弁護士とか家族に一本電話を、これは日本人も同じですけれども、被疑者がかけられるかというと、やっぱり今それが保障されていないと思うんです、これは外国人の話だけじゃないんですけれども。しかも、大使館に電話してくれと言っても、おまえの大使館に電話したけれどもだれも出なかったとか、そういうようなことを言われているケースが都内の主な管轄署の中にたくさんありますので、そういうことを聞きますと、ちょっと遅くなりますと、今度はどこかでひどい目に遭っているんじゃないかと。それで連絡がないと非常に大げんかになる。これが唯一のけんかの理由です。
  115. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 最後一つ、ちょっとまた質問が戻って済みませんが、簡単に言います。  裁量の幅が大きいということがどうにかならないかということをずっと思っていまして、この間も言ったんですが、シュワルツェネッガーは特別上陸許可が出たわけですけれども、バングラデシュのボーイフレンドを持つ日本女性が、私の彼はシュワちゃんより素敵だというチラシをまいていたんです。ですから、有名人だと上陸許可を法務大臣のそれこそ裁量でもらえるけれども、そうでなければ、ましてやデモなんかに行くようなタイプだとなかなか難しいというようなこともあります。  裁量の幅はどういうふうに見直したらいいでしょうか。
  116. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 時間が来ておりますので、簡潔にお願いします。
  117. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) この条文だけ見ていると、実際にこの手続にどんな書類が必要かということがことごとくわからないんです。ですから、許可するなりあるいは拒否するなり、なるべく基準をことごとく明確にしていただきませんと、やはり幾らでも裁量が拡大するということだろうと思います。
  118. 福島瑞穂

    ○福島瑞穂君 ありがとうございます。
  119. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 崔さんのお話は痛いほどよくわかります。といいますのは、私もたくさんの在日の芸術家あるいは芸能人、普通の人々も含めて親友だと言ってもいいような人がたくさんおります。それで、身の上話をいつも聞かされて、崔さんのケースも非常に過酷ですが、また別の具体的なケースもたくさんあるんですよね。ですから、そういう具体例のことについて今新たに聞くことはありません。私自身も何か自分の身の上のような気がしてくる。それで、ふだん在日日本人だというふうに言っているような、そういうことですから。  時間がないので崔さんへの質問はカットさせていただいて、関口さんに一つだけお尋ねしますけれども不法在留の実態、恋愛とかいろいろケースはあるでしょうけれども、圧倒的多数者はやっぱり仕事をするということだと思うんです。労働ということなんですね。  ですから、基本的な問題なしに不法残留罪だけやったって全然意味がないと思っているんですよ。ですから、これを一年から五年にするとかということはナンセンスだ、これは修正すべきだと思っております。  九七年の長野冬季オリンピックの労働者、働かせておいて、終わったらばばっと一斉に逮捕したというようなひきょうなことをやったわけです。ですから、これはそうした罰則の方の法律が問題じゃなくて、労働条件の問題ということが大きくなってくると思うんです。  それから、長期的に見ると、日本は少子化社会になるということがあって、どうしたって外国人労働者というものを大量に扱わなきゃいけないという宿命にあると思うんですね。今、慌てて子供を産め産めなんて言っているけれども、産めるような社会にしないでそんなことを言っていても無理だと思うんですよ。ですから、こういう事態は必ず来るということなんですね。  ですから、罰則の問題じゃなくて、こうした外国人労働者というものを、今からそうした事態にだんだん適合するような形の政策というのが必要だと思っているんですが、法的に言うとどこがネックになっているか、別の法的な部分でどこを変えたらいいかというようなことを考えられたことはありますか。
  120. 関口千恵

    参考人(関口千恵君) 少子化の問題は私もよく考えます。ただ、現在の少子化は、私も女ですので、女性の労働条件その他がやはり整えられていないという問題はそれはそれでネグって、それとはまた別の、外国籍の家族も、皆さん、結婚なさっていらっしゃる方も多いと思うんですが、そういうふうに皆さんが配偶者に対して思う、あるいは恋人に対して思う思いと同じようなものを外国籍の配偶者に対しても日本人の配偶者は持っているということですね。  ただ、きょう私、日本人の配偶者ということだけを申してきましたけれども、基本的に、例えば特別永住や協定永住の方々、いわゆる在日韓国・朝鮮の方々権利というのは、つまり崔さんがおっしゃったことというのは当然の要求あるいは御提言であろうと思っております。  法的なネックというようなお話なんですが、不法入国がもういきなりこんなにふえましたというようなことを法務省は随分宣伝されていますが、日本社会にとって一番脅威なのはいわゆる凶悪犯罪だろうと思うんです、殺人とか強姦とか強盗とか。そういうような件数自体は特に大きくふえていないんですね、統計を見てみましても。ほとんど一割もないというような、〇・数%のような形なんです、凶悪犯といいますのは。ですから、あとはほとんどが今おっしゃったように労働で来ているわけです。  そうしますと、今、全面的にいわゆる単純労働を廃止していて、ただ、一応研修というものを新たに九〇年の改正のときに設けて、多少制限つきの労働にその後何かできるようにしていくというような制度を持っているんですが、基本的には単純労働も──と言いますと、また日本人の労働を奪うと言いますが、現実問題としまして、今もう既に八〇年代からこの方十数年、外国人の労働者がいることによって成り立っている地場産業その他はたくさんあるわけでして、実際に、では今非常に仕事がなくて困っている人たちが、じゃ、どこか建設会社へ建設の仕事が欲しいといって行って採用されるかどうかとか、あるいはそういう人たちが行くかというと、またそういうこととは違いますから、いきなりそれが日本人の雇用機会を奪うとか奪わないというバッティングの問題ではないと思うんですね。  ですので、私、はっきり申し上げまして、いろいろ入管当局の説明によりますと入管法は米国移民法を参考にしてつくってきているということなんですが、米国移民法はあめとむちですから、今この段階で、もし締めつけといいますか厳しくするのであれば、一回、今いる二十七万人を、もしこれが違法状態で問題だというのであれば、アムネスティを合法化してしまう、これをもう時限的にやってしまう、その方がいろいろな問題というのはかえって解決しやすくなるということは最後に申し上げたいと思います。
  121. 中村敦夫

    ○中村敦夫君 質問を終わります。
  122. 荒木清寛

    委員長荒木清寛君) 以上で両参考人に対する質疑は終了いたしました。  両参考人に一言御礼のごあいさつを申し上げます。  本日は、御多用のところ大変貴重な御意見をお述べいただきまして、まことにありがとうございました。当委員会を代表いたしまして厚く御礼申し上げます。  本日の審査はこの程度にとどめ、これにて散会いたします。    午後二時五十六分散会