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国務大臣(
有馬朗人君) 第百四十五回
国会に当たり、私の
所信を申し上げます。
二十一
世紀を目前に控えた今、
我が国は、極めて厳しい
経済状況や少子高齢化の急速な進展などを踏まえ、これまでに整えられた
社会システムを新しい
時代にふさわしいものに変革していかなければならない
状況にあります。このような中、豊かで潤いのある
社会の
発展基盤を構築し、私たちや私たちの子孫にとって明るく希望に満ちた次代を迎えることができるよう
努力していくことが、我々に課せられた使命であります。尽きることのない知的資源である
科学技術は、
経済構造の
改革を
実現し、
活力と
創造性にあふれた
社会をつくっていく原動力であり、この使命を果たすために必要不可欠のものであります。
また、
科学技術は、地球温暖化や
環境破壊のような、人類が直面している地球規模の諸問題の解決に資するものであり、人類の
未来に展望を開くものであります。さらに、長年の夢であった国際宇宙ステーションの建設開始や、向井千秋宇宙飛行士の日本人としては初の二度目の宇宙
活動の例のように、
科学技術は、次代を担う若者たちが大きな夢と希望、そして高い志を持つことをも可能とするものであります。
私は、このような
科学技術について、その
振興に積極的に取り組む所存であり、このため、
科学技術創造立国の
実現を目指して、
科学技術基本法及び
科学技術基本計画を着実に実行し、政府の
研究開発投資の
拡充を図ってまいります。その上で、喫緊の
課題である
経済の
活性化に取り組むとともに、未踏の
科学技術分野への挑戦、柔軟かつ競争的で開かれた
研究社会の
実現、安全で豊かな
生活の
実現のため、諸
施策の積極的
展開を図ってまいります。特に、現下の困難な
経済状況においては、新産業創出を促すような先端
科学技術分野の
研究開発やその成果の
活用の
推進が、
経済再生を進めていく上で重要であり、それらに関連した
施策に力を入れてまいります。
一方、より一層の
研究開発
活動の効率化、
活性化を図りつつ、
研究資金等の
研究開発資源の適切な配分、
研究開発の厳正な
評価、省庁の枠を超えた
連携の
強化を図ります。さらに、国際的な
科学技術活動を積極的に
展開してまいります。
なお、これらの
取り組みの多くは、昨年末に成立した第三次補正
予算の
施策と切れ目なく
実施することによって、景気回復に資することとしております。
また、
行政改革においては、創造的な
科学技術行政体制の
整備を図ることが重要であります。とりわけ、現内閣において、私が
文部大臣と
科学技術庁長官を兼務していることにかんがみ、
文部省及び
科学技術庁の統合に向けてこれまで以上の
取り組みができるものと思いますし、また、一層の
努力もしてまいる所存であります。
以上のような認識のもと、
平成十一年度には、以下に申し上げますような柱を
中心として、
科学技術の
振興施策を総合的に
展開してまいります。
第一に、
経済フロンティアの拡大等、
経済活性化に資する
施策の積極的
展開であります。
現下の最
重要課題である
経済の再生を達成し、国民の期待にこたえていくためには、
我が国の得意とする技術集約型の
戦略分野を開拓、
強化していくとともに、新技術、新規
事業の創出等を促進するための
施策を強力に
推進していくことにより、
我が国の
経済構造の
改革を促進し、
経済を
活性化していくことが極めて重要であります。このため、産業全般の
発展等の源となる情報
科学技術を初めとする重要
戦略分野の開拓と、新規
事業の種を多く包含する
研究開発成果の
活用を促進するための
科学技術環境の
整備を
中心として、
科学技術の側面から
経済の
活性化に資する諸
施策の積極的な
展開を図ってまいります。
情報
科学技術の
推進につきましては、
社会の重要で高度なニーズに
対応し、明確で高い目標を掲げた
研究開発を行うことが効果的であります。このため、複雑な
生命の諸現象の
理解を深めるための先端的な
研究開発や、地球規模の気候変動等の解明に資する地球シミュレーターの開発等を進めてまいります。
また、新たな
戦略分野として、地球深部を探査し、地殻の変動、地球温暖化現象等の解明、有用な地殻内
生命の探索等を目的とした深海地球ドリリング計画を
推進してまいります。
さらに、二十一
世紀はライフサイエンスの
時代とも言われておりますが、
生命機能の根源であるゲノムの構造及び機能に関する
研究や、二十一
世紀に残された大きなフロンティアである脳科学
研究等を積極的に進めてまいります。
そのほか、現在の鉄鋼の二倍の強度と二倍の寿命を有する超鉄鋼材料の
研究などを
展開してまいります。
一方、
研究開発成果の
活用促進のための
施策として、プレ・ベンチャー
推進事業や
研究成果
活用促進
事業などを
推進し、
大学や国立試験
研究機関等の先端的な
研究成果の特許化や、
研究開発型ベンチャーを通じた成果の
展開を図ってまいります。
また、
地域における新産業創出等に資する
基礎的・先導的
研究開発を
推進することなどにより、
地域の
科学技術振興策を
強化してまいります。
第二に、地球規模の諸問題の解決など、
社会的・
経済的ニーズに
対応した未踏の
科学技術分野への挑戦であります。
我が国においては、みずから率先して未踏の
科学技術分野へ挑戦し、知的資産としての革新的な
科学技術の成果を創出し、
我が国の
発展のみならず人類に対し貢献することが強く求められています。このため、地球規模の諸問題の解決等に資する
科学技術分野へ積極的に挑戦することとし、地球
科学技術、宇宙開発、海洋
科学技術等の先端的
科学技術に取り組んでまいります。
地球温暖化等の地球変動現象の解明や予測の
実現は、
経済社会の持続的
発展や地球
環境の保全、
改善のための
基礎となるものであり、特に地球温暖化対策については、地球温暖化対策
推進大綱が
平成十年六月に決定される等、
取り組みの
強化が求められております。このため、革新的温暖化防止技術探索プログラムや地球観測フロンティア
研究等の地球変動予測に関する
研究開発を
推進してまいります。
宇宙開発につきましては、コスト削減など開発の一層の効率化を図りつつ、確実かつ着実な
推進を図ってまいります。とりわけ、輸送需要に柔軟に
対応するとともに大幅な輸送コストの低減を目指したHⅡAロケットなどの宇宙輸送システムの開発、組み立てが順調に開始された国際宇宙ステーション計画の
推進、情報収集衛星を含め、地球観測などの
分野の人工衛星の
研究開発に力を入れてまいります。
また、海洋
科学技術につきましては、国内外の関係機関との
協力のもとに、海洋地球
研究船「みらい」や深海
調査研究船「かいれい」等を
活用して、総合的に海洋観測
研究開発、深海
調査研究開発などを
推進してまいります。
このほか、あらゆる
科学技術の
基盤技術として重要な物質・材料系
科学技術の
研究開発、次世代超音速機技術等の航空技術の
研究開発などの先端的
科学技術を
推進してまいります。
第三に、開かれた
研究社会を目指した柔軟な
研究開発システムの構築と、
科学技術に対する国民の
理解の増進、並びに独創的な
基礎研究の
推進等であります。
科学技術創造立国を目指していくためには、
研究者の
創造性を
最大限に発揮できる
活力と魅力のある
研究環境を具現化し、
我が国全体の
研究開発の抜本的な
活性化を図っていくことが不可欠であります。このため、国研独立
行政法人化先導プログラム等に
取り組み、人、資金、
制度に関して組織の枠を超えた柔軟な
研究開発システムの構築を目指してまいります。
また、近年の青少年の
科学技術離れを勘案すれば、
科学技術に対する国民の関心と
理解を深めていくことが極めて重要な
課題となっております。このため、
科学技術に関する話題や科学実験の番組等を
家庭に提供するサイエンス・チャンネルの試験的放送、
創造性をはぐくむとともに物づくりの体験機会を提供し得るいわゆるロボリンピックの準備等を
推進し、次代を担う青少年の
創造性の涵養、国民の
科学技術に対する関心の高揚等を図ってまいります。
さらに、
科学技術創造立国を目指す上で必要不可欠である知的資産の
形成を図るため、
科学技術振興調整費や
戦略的
基礎研究推進事業などの競争的資金の
拡充を
中心として、
基礎研究の強力な
推進を図ってまいります。
加えて、
研究開発の
基盤整備の
観点から、
研究情報等のデータベースの
整備など
研究開発に関する情報化の促進、大型放射光施設の
整備及び共用の促進などを図ってまいります。
第四に、安全で豊かな
生活を
実現するために必要な、国民
生活に密着した
科学技術の
推進であります。
特に、地震国の
我が国にとって、地震防災対策は極めて重要な
課題であります。このため、地震
調査研究推進本部の方針のもと、
基盤的地震
調査観測施設の
整備及びそのデータの流通、活断層の
調査など、地震に関する
調査・観測の
充実強化や、国民一般に対する正確かつわかりやすい広報の
実施などを総合的に
推進してまいります。また、実大三次元震動破壊実験施設の
整備を推し進める等、地震に強い
社会の
実現に努めてまいります。
また、内分泌攪乱物質、いわゆる
環境ホルモンに関連する
研究や、がんやエイズの
研究など、
生活者に身近な
課題に
対応する
研究開発を
推進してまいります。さらに、クローン技術の人への応用の問題等、ライフサイエンスの進展に伴い生ずる
生命倫理の問題につきましても、規制の
あり方の検討を含め鋭意取り組んでまいります。
このほか、核融合の
研究開発等、次
世紀の長期的な
課題として取り組むべき
未来エネルギーの
確保に向けた
研究開発を
推進してまいります。
第五に、安全
確保と国民の
理解を大前提とした原子力
科学技術を
推進してまいります。
エネルギー資源の約八割を
海外からの輸入に依存し、今後ともエネルギー需要の着実な伸びが予想される中、供給安定性にすぐれ、発電過程において二酸化炭素や健康に有害な窒素や硫黄の化合物等を排出しない原子力の重要性は、地球温暖化防止京都会議での合意も踏まえると、ますます高まるものと考えられます。
原子力を
推進するに当たっては、安全
確保と国民の
理解が不可欠であります。しかるに、昨年十月、使用済み燃料輸送容器のデータ改ざん問題が判明し、国民の
皆様の原子力に対する信頼を損なうことになったことは極めて遺憾に思っております。
今後は、このような問題が二度と起こらぬよう、
事業者に対し再発防止の
取り組みを強く促すとともに、国としての安全
審査、検査の
充実強化や原子力安全
委員会の機能
強化など、原子力安全対策のより一層の
充実強化を図ってまいります。さらに、国民各界各層との一層の対話の促進、情報公開等を積極的に
推進してまいります。このような
努力とともに、高速増殖炉や高レベル放射性廃棄物処分を初めとする核燃料サイクルの確立に向けた
研究開発の着実な
展開を図ってまいります。
一方、昨今の国際的な核不拡散に関する諸問題に
対応するための
体制整備と、使用済み燃料の中間貯蔵のための法的
整備を進めるとともに、原子力損害の賠償についての諸規定の
整備を行うことが必要であり、今
国会において
関係法律の
改正をお願いすることとしております。
以上、私の
所信を申し上げてまいりました。
小渕首相は、二十一
世紀の
社会に向け、
未来へのかけ橋を築いていかなければならないという目標を掲げられました。私は、
科学技術の
振興こそ、新しい
世紀を希望と
活力のあるものにするための
基盤を築くものであり、
未来へのかけ橋を築く原動力となるものであると信じております。
私は、
科学技術に課せられた重大な使命を全うすべく、
科学技術行政の責任者として
全力を尽くしてまいります。
委員長を初め
委員各位の御
支援、御
協力を心よりお願いいたします。
ありがとうございました。