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参考人(
伊藤幸吉君) 山形から来ました
伊藤ですけれ
ども、実は風邪を引いてしまいまして、お聞き苦しいと思いますが、よろしくお願いします。
私は、山形県高畠町で二十三年間にわたって有機農業、自然循環農業に取り組んできました。現在は、
地域の約三百名の
生産者仲間とともに
農事組合法人米沢郷牧場を組織し、
地域循環型の有畜複合
経営に取り組み、
生産額のほぼ半分ぐらいは有機無農薬栽培を実現しております。
きょうは、そういう取り組みをしてきた者として、
JAS
法改正案についての率直な感想と
意見を述べさせていただきたいと思います。
まず、一つ目ですけれ
ども、私たちの有機農業二十三年の
経過を振り返ってみますと、私
どもも未熟であったため、残念ながら行政からの支援はほとんど得られませんでした。それでも、
首都圏コープ事業連合や大地を守る会といった
消費者組織との産直提携で支えられ、長い年月を経て進化してきました。そんなマイナーな生消提携で育て上げられた有機農業が、一転して社会において積極的な位置づけをしていただけるようになった今日の
状況変化を大変感慨深く、また喜ばしく感じております。
二つ目ですけれ
ども、今回の
JAS
法改正案に盛られている生鮮農産物の原
産地表示の義務化については、農業
生産に携わる
立場から強く賛意を表したいと思います。ただし、これまでの九品目表示の
実施状況を見ますと、大変不十分だったという現実があります。末端の小売現場において新制度の確実な
実施のためには強い指導措置、現場におけるチェック、そして
流通段階における適正
実施のためのいろいろな措置が必要と思われます。また、年々消費が急増しております加工食品にも原料の原
産地表示の義務化は重要だと考えます。
三つ目ですけれ
ども、有機農産物の基準・認証・表示の問題については、
日本における
生産、
流通、消費の現実を踏まえた適切な
実施、段階を踏んだ
実施が必要だと考えられます。
四つ目は、しかし、この問題についての
法改正は枠組みの
改正だけしか示されておらず、現実的な
実施方策についてはすべて政令あるいは省令事項とされており、しかも政令・省令案は提示されておりません。これでは
法案に対して賛否を表明することはできません。政府当局としてはどのような政令、省令を考えておられるのかをまずお示しいただきたいと思います。
五つ目です。
法案によれば、有機農産物の
生産方法基準は
JAS規格調査会の
意見を聞いて政令で定めるとされておりますが、その他の事項については
関係当事者を含む国民的
検討の手段は示されておりません。政令の
制定に当たっては、改めて
関係当事者や
学識経験者等からの
意見聴取の場を設けられることを強く
要望いたします。
なお、一昨年から昨年にかけて有機食品の検査・認証についての
検討委員会が設けられ、私もその
委員でしたが、この
委員会では政府当局から有機食品の基準・認証を
JAS
法改正という形で行うとの意向は十分には表明されておらず、したがって同
委員会における一年以上にわたる
検討は今回の
JAS
法改正と十分に対応するものではありませんでした。
同
委員会において、私も含めてこれまで有機農産物の
生産、
流通に携わってきた多くの
委員は、単に農産物の規格基準を定めるだけの
JAS
法改正という形ではなく、
日本における有機農業の健全な育成、発展、有機食品の
流通・消費システムの構築をねらいとする有機農業振興法を独立法として
制定することを主張してまいりました。今回の
法案では
JAS
法改正という形になっておりますので、
JAS法という枠組みではカバーし切れない技術開発を含む
生産振興の側面について、別途十分な措置が講じられることを強く
要望いたします。
七つ目ですが、予想されている具体的問題についても二、三述べさせていただきます。
第一は、
生産基準の策定に関してです。有機農業には
全国各地の
生産者による
生産実践を踏まえた明確な
生産原則の確認が必要です。しかし、同時に現実の有機農業は零細な農業者が一般農業者と混在した形で
実施されており、有機農業者の圃場と一般農業者の圃場の画然とした区別が困難だという現実もあります。また、高温多雨という
日本の気象条件下で病害虫や雑草の多発という現実もあります。こうした中では、
原則の確認だけでなく、運用における現実性のある対応が望まれます。省令制度とその運用に当たっては、この点への十分な配慮が望まれます。
第二は、コスト負担の問題です。例えば、九州のある
生産グループの場合、
生産者の
経営面積は一から二ヘクタールで、圃場枚数は五十から百五十枚に及びます。しかも、熱心な彼らは、その畑で年に三品目もの
生産を行っています。このような形での有機農業の展開を圃場ごと、
品目ごとに認証しようとすれば、最大百五十掛ける三ですから四百五十通りの書類
整備が必要で、現地確認も年三回、百五十枚ずつの
実施ということになります。こうした点では欧米は一圃場が
日本の何十倍であり、欧米のシステムを
日本に等しく適用するには極めて無理があります。
第三は、今回の
法改正によって有機農業の
生産原則はある程度明確にされようとしておりますが、有機農業は
生産原則の確立だけで育成、発展するものではありません。
現在の大量
流通、大量消費のシステムと、自然とともに生きようとする有機農業とはたくさんの点で矛盾があります。ところが、
流通の現場においては、有機農産物を単に
市場の
活性化の手段として考える
傾向があり、有機農業の
生産特質を尊重するという動きにはなっておりません。また、消費の場においても、欲しい食べ物はいつでも欲しいだけ入手できるという消費の
あり方が依然として優勢であり、自然とともに生きようとする有機農業の
あり方への
消費者の理解は浸透しておりません。こうした
状況を踏まえるならば、有機農業の
生産原則の確立だけでなく、
流通原則、消費
原則の確立についても国として明確な政策方針がぜひ必要だと考えます。
新潟県南魚沼郡のコシヒカリは現在、
生産量の五十倍以上
販売されていると聞きます。こうしたことは、
生産者の手を離れてから不当に利益を得ようとする
流通業者等によって行われているわけで、有機食品の扱いについては、農業者の
努力や
消費者の信頼を欺くことのない
流通が保証される制度、システムの確立を求めます。
第四は、以上のことや、昨年十二月三日付朝日新聞「論壇」に有機農業研究者足立氏の「有機食品認証論議の忘れ物」、「農業と経済」での鯉淵学園教授中島氏の「オーガニックフーズの基準・認証・表示制度化をめぐる諸問題」でも
指摘されているように
JAS法では不十分とも思いますが、
JAS法反対とまでは思いません。しかし、特別栽培農産物の扱いについては、決してこの有機食品と同じ
JAS法での認証・表示はすべきでないと考えます。
最後に、改めて国の農政の全体的な
あり方に関して、
環境保全型農業への転換の必要性を強調したいと思います。
国は、一方で有機農産物の基準・認証を法制化しながらも、例えば
地域の現場では公費の助成のもとで農薬の空中散布が推進されております。しかも、農薬の空中散布は有機農業の広がりの大きな障害となっております。私の住む有機農業者の比較的多い高畠町でも、町長が三年前、空中散布廃止を提案しましたが、地元の農業団体からの抵抗で撤回せざるを得なかったということは甚だ矛盾であります。
また、有機農業の根本思想は身土不二、すなわち人々の食は風土に根差した
地域の農業によって支えられるべきだという点にあります。この根本思想からすれば、有機農産物の国際マーケットなどというものは本来あり得ないものです。にもかかわらず、今回の
JAS
法改正の結果、海外のオーガニック食品の輸入増大が予測されております。貿易制限はできないとしても、国内有機農業の発展
強化、端的に言えば競争力の
強化のための短期、長期の総合的
対策が絶対に必要だと考えます。
そのためにも、食料・農業・農村
基本問題調査会の答申で強調された
日本農業の持続型農業、
環境保全型農業への転換という方針を国は明確に示すべきだと考えます。
以上でございます。