○
参考人(
速水優君)
国債の問題をいみじくも御指摘くださいましたが、私
どもとしては、これから起こるであろう最大の問題の
一つでございます。
私
ども中央
銀行の立場から言わせていただきますと、確かに今の
日本の
国債発行残高は三百数十兆、地方を入れますとGDPを超えるような数字になっておりますし、今後もまだまだ増発が予想されるわけでございます。そういうものをどうやって消化していくかということは、これは非常に大きな
金融問題ではなかろうかというふうに思っております。しかし、中央
銀行の立場から言えますことは、
国債を新規に引き受けるということはやるべきでないということを強い信念といいますか、これまでの歴史や私
どもの経験からも言えることだと思っております。
日本の場合を
考えてみましても、昭和七年に高橋是清は、満州事変が起こり不況のときに
国債の引き受けをやって、高橋是清は二・二六事件で昭和十一年に亡くなるわけですけれ
ども、それ以降、そのまま引き受けが続いて臨時軍事費がどんどん出され、そしてまた終戦になって終戦処理費が出され、ハイパーインフレを呼んでいったわけでございます。
こういう負債の中央
銀行引き受けといった、そのときは必要な
資金の調達に非常に便利であることは間違いないと思いますけれ
ども、そういう
国債に対して、今
金融市場というものがグローバル化している中で、一たん中央
銀行でないと引き受けない
国債というのは、それだけでもういわばジャンクボンド扱いになってしまうわけです。そういうことはやっぱりやるべきでない、
国債のためにもやるべきでないし、一たびそういう制度ができ、あるいは癖がつきますと、それが
資金調達の最も簡易な方法になってしまうといったようなことになると困るわけです。
せっかく
日本銀行も独立性が与えられたわけでございますので、私
どもの判断で、引き受けはもとよりのこと、買い切りオペがどんどんふえていくといったようなことになりますと、これは必ずインフレをもたらすというふうに思われます。
市場自体もそういう危険性を十分知っておるわけでございますし、
我が国だけでなく、そういうことを中央
銀行がやっております国は、特に引き受けをやっております国はございません。
前例を見ましても、ドイツが第一次大戦のときに戦費調達のために引き受けの道を開いて、それによって戦後にハイパーインフレをもたらした。また、イタリーが一九七〇年代に
財政が非常に苦しくなって引き受け制度を導入した結果、非常なインフレで後々まで困ったといったような例もございます。そういうことを
考えますと、
国債の買い切りオペも引き受けもやるべきことではないというふうに
考えております。
国債の消化あるいは価格支持を目的として行うということであるならば、結局は
国債を際限なく買っていくことにならざるを得ない直接引き受けと同様な結果となることが買い切りオペについても言えるわけでございまして、このため
日本銀行は、従来から
国債の買い切りオペは
経済が必要とする長期的な
資金を円滑に
供給するための手段というふうに位置づけております。長い目で見た
日銀券の増加と大体とんとん、トレンドを合わせていくというような
考え方でこれまで来ております。こうした基本的な方針をここへ来て変更するつもりはございません。
このことはこれからも
国民にも理解をしていただく必要がありますし、それと同時に、
市場をなるたけ広く、しかも
流動性のあるものにして、ビッグバンによって債券
市場が内外に開かれていくわけでございます。その中で、やはり
国債というものが債券
市場のいわゆるベンチマークといいますか中心になっていくということは、この数量からいっても性格からいっても
リスクのない証券でございますので、中心になっていくことは当然の
流れではなかろうか。そういうものを早く一般の人たちに買いやすいものにしていく、内外の
市場から調達しやすいものにしていくことが必要かというふうに思っております。
そういうことをよく
考えた上で、
国債の方もできるだけ、既に二年物、四年物などができておりますが、種類をふやしていただきますと同時に、これをもって
日本の債券
市場、今
預金、現金に非常に大きくとどまっております
日本の
家計の資産というものを流動化していくように使っていっていただきたいものだというふうに思っております。