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1999-04-21 第145回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第3号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年四月二十一日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         村上 正邦君     理 事                 岡  利定君                 山本 一太君                 石田 美栄君                 魚住裕一郎君                 井上 美代君                 田  英夫君                 月原 茂皓君                 山崎  力君     委 員                 加藤 紀文君                 亀井 郁夫君                 佐々木知子君                 常田 享詳君                 馳   浩君                 若林 正俊君                 今井  澄君                 今泉  昭君                 櫻井  充君                 内藤 正光君                 高野 博師君                 吉岡 吉典君                 田村 秀昭君                 島袋 宗康君    事務局側        第一特別調査室        長        加藤 一宇君    参考人        ジョージ・ワシ        ントン大学政治        学部教授     ヤン・C・キ                 ム君        東京大学大学院        総合文化研究科        教授       柴  宜弘君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○国際問題に関する調査  (「二十一世紀における世界日本」のうち、  朝鮮半島情勢について)  (「二十一世紀における世界日本」のうち、  コソヴォ問題について)     ─────────────
  2. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  国際問題に関する調査を議題といたします。  本調査会は、調査テーマを「二十一世紀における世界日本」として、参考人方々からいろいろと御意見を承ってまいりました。  本日は、朝鮮半島及びコソボ問題について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  まず、前半は朝鮮半島情勢について、ジョージワシントン大学政治学部教授ヤン・C・キム参考人から御意見をお伺いいたします。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本調査会に御出席をいただきまして、まことにありがとうございます。  どうか忌憚のない御意見をお聞かせ賜れば、その御意見を今後の私ども調査会参考にしてまいりたいと存じますので、何とぞよろしくお願い申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まずキム参考人から三十分以内で御意見をお述べいただきました後、午後三時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をよろしくお願いいたします。  なお、意見質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  では、キム参考人から早速御意見をお述べいただきます。キム参考人
  3. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) 本日は、本調査会にお招きをいただき、私の意見を述べさせていただく機会がありますことを大変にうれしく、また光栄に存じております。  米朝関係現状と将来というテーマで、特に核とミサイル問題を中心意見を述べさせていただきたいと思います。  米朝間にはさまざまな懸案がありますが、その中でもアメリカから見て最も優先順位が高いのが核とミサイル開発及びその拡散の阻止の問題であります。もちろん核凍結に関連するものですが、軽水炉建設の問題、重油供給の問題等々、KEDO関連事業の問題がありますけれども、その他の懸案に関しましては、もし御質問がございましたら後でお答え申し上げますけれども、ざっとリストだけを読んでみたいと思います。  一、米軍遺骨発掘、送還の問題。二、テロに関する問題、すなわち北朝鮮テロ国家リストから除外する問題。三、経済制裁解除の問題。四、平和協定暫定協定の問題。五、四者会談を通じた平和体系構築の問題。六、食糧支援の問題。七、南北対話再開南北政府間関係改善の問題。八、連絡事務所設置及び究極的には国交正常化の問題。九、人権の問題、等々でございます。  昨年八月以降、米朝間で大きな問題になりました金倉里にあるいわゆる地下核疑惑施設の問題でございますが、先月妥協が成立いたしまして、いわゆる九九年の春の危機というのは一応回避されることになりました。  北はアメリカ査察を複数回受け入れ、アメリカ人道的食糧支援という形式で、実質的には北の要求する補償に応ずることで妥協したわけでございます。それにバレイショの栽培問題に対する支援等々が加わることになっていると思います。最近、北の文献を読んでみたんですが、そこにはアメリカ参観料を払って問題の施設を訪問することになったという表現になっておりました。  合意された地下施設査察が米議会対策的な見せかけの虚構でなく、意味ある査察になるかについては、懐疑的な見方が非常に多いわけでございます。特定地域に対しての訪問で、またどんな有効な査察方法が実際に使われるかにもよりますけれども、北朝鮮の核とミサイル開発への米国の強い懸念が解消されることはないと私は見ています。  米国は今後も引き続き核及びミサイル開発阻止を対北朝鮮政策の最重要課題として北に迫っていくでありましょうし、北朝鮮はこれに強く抵抗するといった、米朝間の葛藤の構図は基本的に変わらないだろうと私は思います。  次に、核とミサイルの意義についてでありますが、北朝鮮体制防衛のため、国家の存亡をかけて、また統一を目指し、北朝鮮のいわゆる革命力量を強化させるために、長い期間核ミサイル開発に真剣に取り組んできたであろう、そして今後もその努力は簡単に放棄しないであろうと言われています。  八〇年代後半から、特に九〇年代初期からはこの体制危機意識が非常に強まりまして、北朝鮮から見た場合に、中国と旧ソ連に裏切られ、国際的には孤立した状況で、北が言う枯渇政策圧殺政策により北の体制を打倒しようとする超大国アメリカと、それに追従する韓国日本相手に戦っているのであるという厳しい認識が作用しているわけであります。  そのような状況で、体制生き残りを目指し、米韓武力攻撃に備え、特にアメリカの核とミサイルへの抑止力としての独自の核及びミサイル開発は、北が取り得る政策オプションの一つであると理解できるわけであります。  私は、北がそういうオプションを追求しているという前提といいますか仮定のもとで、きょう議論を進めたいと思います。  北がそのような路線を採択しているとすると、その前途には重大な障害や危険が立ちふさがっているというのが国際政治の現実であると思います。  一方、米国は、国益上北朝鮮の核及びミサイル開発は絶対に容認できないといたし、その阻止を目標とする政策には超党派的合意がありますし、また国民の幅広い支持を得られるものでございます。  北の核及びミサイル開発は、アメリカの核不拡散原則に大きな打撃を与え得るし、韓国日本核武装を促進し、中国ロシアを巻き込んだ日中ロ間の軍拡競争につながるなど、地域の緊張を高め、その安定を著しく損ね、米国安全保障に重大な脅威になるとの認識アメリカは持っているのでございます。それで、北朝鮮の中長距離ミサイルの輸出はもちろんのこと、その開発、試射、配備までもこれを何とか阻止しよう、統制しようとして、北朝鮮とのミサイル協議を九六年から続けている次第であります。  北のミサイル問題に対する立場は、輸出中断でこうむるであろう外貨収入の損失に対しアメリカが現金で補償しろと約三十億ドルを提示していますが、そうすれば我々北朝鮮は検討すると。しかし、ミサイル開発、試射、配備等々に関しては、これは北の自主権に属するものであり、アメリカの核・ミサイル脅威にさらされている北朝鮮として自衛上必要な対応であり、アメリカと話し合うべき筋合いのものではないというのが北の立場なのでございます。  核に関しまして、北の回答は、九四年度の米朝枠組み合意に規定されているとおり、核凍結の義務を我々は誠実に遵守しており、地下施設云々というものは事実無根であり、我々は寧辺の凍結された施設以外に核開発関連施設はないというのが北朝鮮の言い分でございます。  米国専門家の中では、一九九四年の米朝枠組み合意北朝鮮核開発阻止するのに有効でなかったとの意見が優勢であります。それで、合意書を破棄すべきだと主張する意見も相当根強いものがあります。しかし、現時点アメリカ側からこれを破棄するのは賢明ではないという意見クリントン政権内ではまた多数意見でございますが、批判勢力の前で枠組み合意の維持を正当化するためにクリントン政権は非常に苦戦しているというのが現状でございます。  クリントン政権は、今後も北朝鮮核疑惑施設査察協力する限り、何とかしてこの枠組み合意を維持する路線を堅持していくだろうと私は考えます。枠組み合意成立クリントン外交の大勝利であると説明してきた政権にとって、実はこれは失敗であったと認めるような行為に消極的になりがちだと言われていますし、また、クリントン政権中枢的集団国内政治上の要請に対する判断、彼らの国際政治観などから考えて、今までの関与といいますか宥和政策を大きく転換することはクリントン政権は望んでいないと考えます。それに、戦争を覚悟しない限り武力行使現実的オプションでないならば、今までの政策以外のオプションはないのではないかという考えが根底にあると思います。  アメリカ政府議会強硬派に対して使う殺し文句がありまして、アメリカ武力行使をすれば戦争になるのは必至である、アメリカ兵士の遺体を包んだ数万の袋がアメリカにどんどん送還されてくるんだよ、君たちは本当に戦争の責任をとる用意があるのかと。ペリー前国防長官が任命されるに至る過程で、行政府当局強硬議員さんとのやりとりの一面であったと言われています。  対北朝鮮政策をめぐって、アメリカでは活発な議論が行われていまして、多数の政策提言が発表されているわけでございます。  北朝鮮があくまで核及びミサイル開発を放棄しない場合、先制的武力行使をしてでも関連施設を破壊すべきとの意見も出ています。あるいは、直接的武力行使は避けるとしても、他のあらゆる強制的手段を動員して北朝鮮体制早期崩壊をもたらすべきだとの意見があります。また、それ以外にもさまざまな封じ込め政策を基礎にした解決案を提唱している方々がいらっしゃいます。一方、そのような案はいずれも全面戦争の危険を伴うものであって、そんなリスクの高い、積極的に崩壊を促進する政策はとらず、北朝鮮自然崩壊を待ちながら最低限の関与を続けるべきだとの意見もございます。  最近特に注目を浴びている案に、優しい無視政策というのがございます。英語ではビナインネグレクトと申しますが、これも幾つかバリエーションズがございまして、共通点北朝鮮の存在を無視する姿勢で、むしろ北朝鮮が改革・開放に応ずる等誠意ある反応を示すまでは北との接触交流原則的に拒否するあるいは最低限度にとどめるとする、いわば不関与政策であると言えます。今までの接触交流の中断を部分的あるいは全面的なものにするのかというのは明らかでございませんし、また無視政策というものを極端に進めていきますと、北はこれを敵視政策とみなすでしょうし、猛烈な反発と極端な対応をしてくるだろうと思います。  徹底的というか、完全なる無視政策は、既にアメリカが公約していますKEDO関連事業を破棄することもいつかは想定せねばならず、また、今までの米国北朝鮮とのかかわりや駐韓米軍に象徴される米国朝鮮半島での権益、役割等を考えたら、無視政策というものは非現実的であり、賢明でないと私は考えます。  それで私は、いわゆる柔軟的関与政策が一番適切、妥当であろうと思いまして、きょうその私の構想を御紹介いたしたいと思います。  基本的にこれは関与政策でありまして、関与度合いは柔軟に、上向きあるいは下向きにも調整できる政策であります。クリントン政権上向き一辺倒の調整に終始した硬直した宥和政策であったと批判されているわけであります。  それでは、いわゆる核・ミサイル問題を含めて米朝間主要懸案解決するためにどうすればいいのか、幾つかの提言をさせていただきたいと思います。  第一、米朝間基本関係を規定する新協定に向け米朝交渉を始めますということに合意し、これを発表する。それと同時に、現在あるいは今後の核疑惑施設に関する査察等々に対しての合意、それからミサイル協議での一定の進展、それにアメリカによる経済制裁の解除等々を盛り込んだ声明を発表する。このような合意事項を例えば米朝外相協議レベルで発表する。  この新協定には、九三年六月以降、米国北朝鮮合意した内容、例えば相互の武力行使、核を使用した威嚇行為禁止、核の不使用、自主権の尊重、内政不干渉といった主要なる諸原則を含め、各分野での今後の関係を規定する基本原則を文書化するのでございます。この新協定は、北朝鮮安全保障上の懸念にこたえアメリカ自分たち立場を鮮明にするところに意義があります。  ここで私が申し上げていることのポイントは、経済的なインセンティブだけでは北朝鮮のイデオロギーと政治軍事上の利益、その要請等に絡んだ彼らの主要政策の変更を促すことはできないというのが私の考えでございます。北朝鮮側から見た軍事的脅威の解消を視野に入れているかいないかというのが非常に重要だと思います。北にとって安全保障上の脅威が解消されない限り、核開発努力の放棄はないと私は思います。  米朝両側には、国際政治学を勉強している我々が言ういわゆる認識上の硬直性という概念がございまして、お互い相手の意図を認識する過程で今までの視点を変えることがなかなか容易でない、それでお互い誤解し行動するといった今までのパターンが繰り返される可能性というのが大いにあると私は思います。  アメリカは、自分独自の抑止理論妥当性を信じつつ、北がなぜ核開発をしようとしているのか、あるいはなぜ現行のプログラムを断念しないのかについて十分なる考慮を払っていないと思いますし、一方北朝鮮は、アメリカのとる一連の抑止政策措置が北の体制打倒のものだと確信してやまないという事情なんですね。それでお互い抑止力を向上、安全保障を高めようとするのを相手の攻撃的な措置だと判断、結果的には相互関係安定度予測性を乱して不安定な安全保障関係をつくっているわけなのでございます。  私の基本関係協定構想に戻りますが、この協定という構想は、アメリカのこの側面での意図を明確に文書化するということなんです。  それから、四者会談での停戦協定にかわる平和体系構築への努力はこれを並行して進めることを想定していまして、その作業をできるだけ早い時期にまとめるよう我々は努力すべきだと思います。米朝国交正常化が実現するまでに間に合わなかった場合、これはその後で継続審議するというふうに考えています。  第二番目のステップでございますが、米朝間の新基本協定づくり交渉を始める発表が行われたとほぼ並行して、韓国北朝鮮南北間の首相レベルでの高位級会談を開催し、九二年二月に発効した南北基本合意書の効力を再確認、特にそこに規定されている不可侵宣言を尊重するということを再確認し、また軍事共同委員会を含めた各種の共同委員会早期稼働合意する。  次の段階、三段階でございますが、南北首脳会談を開催する。そこで、南北共同委員会中心に進められてきた交流協力事業を踏まえて、南北間関係を次の段階に発展させることに対する原則的合意を発表する。次の段階というのは、南で言う連合、北で言う連邦を想定しているわけでございます。  第四番目、ワシントン米朝首脳会談を開催し、米朝基本関係協定の調印と米朝国交樹立の発表を行う。核、ミサイル等主要案件に対して米朝が満足する解決があったということを前提にしています。  第五、日本中国ロシアの三カ国は南北合意米朝合意に対して支持を表明する。それは各政府が個別的に、または六者協議の場で共同支持表明を発表する。  第六、これは日朝間正常化に関するものですが、南北首脳会談米朝首脳会談が行われるとほぼ同時に、日本北朝鮮の間の首脳会談日朝国交正常化に対する合意を発表することが私の構想でございまして、そのための日朝間正常化交渉再開米朝間の新協定交渉開始前後に始めることを想定しているわけであります。  私は、日朝米朝国交正常化交渉を同時に推進、実現させることは、日米両国にとって、またその他の関連諸国にとって有益であろうと考えています。アメリカにとって、日本経済力に基づいた経済的インセンティブカードを組み入れ、対北朝鮮パッケージ一環として利用できますし、日本アメリカ政治的、軍事的レバレッジといいますか、てこ、あるいは代償、インセンティブを借用し、対北朝鮮との交渉に臨む、こういうようなメリットがあるんじゃないかなというように私は考えます。  この包括的解決案北朝鮮が応ずれば、関与政策度合い上向きに調整され、北が拒否すれば、現在進行中の米朝接触交流支援等々は下向きに適切なレベルに再調整する。  ですから、私は、今後、基本的に北朝鮮枠組み合意を遵守している限り軽水炉建設重油供与などの米国の義務は履行する、しかし、今後一段と核疑惑が深刻化し北朝鮮査察全面不可といった疑惑解明への協力を拒否する場合は、これは無視政策または封じ込め政策へ転換していくだろうと考えています。米国国内政治弾劾裁判後のクリントン外交の特徴、次回の大統領選挙、ポスト・クリントン米外交の趨勢等々を展望したときに、私は米朝関係の前途は多難であると言わざるを得ないというふうに考えています。  あと数分だけで終わろうと思います。  私のこの柔軟的関与政策は、北朝鮮独立主権国家としての存続を前提としていまして、米朝両国関係を敵対的な現状から正常的な国家関係に転換することを目的としています。日米北朝鮮体制早期崩壊を目標とした政策を追求していないことは明らかでありますが、このことを我々は適切な機会に明言すべきであると考えています。北朝鮮がどんな体制を持つべきかということは北が選択すべき問題でありますし、武力行使あるいはその他の強制的手段で北の体制打倒を試みることは正当化できないと私は考えます。日米が自己の価値観を信じ、その優越性を提唱することは構いませんが、基本的に北の主体性を認める姿勢が日米に必要であります。同時に、周辺国家軍事的脅威をもたらす行為で北が地域の安定と平和を乱す場合は、それに相応した対応があってしかるべきだと私は思います。  上に述べました見解は、北朝鮮の核・ミサイル開発阻止されなければならないというアメリカ論理に基づいたものであります。米国論理とは、しょせん核保有国現状維持志向の大国としての論理であります。理論的に考えて、米国北朝鮮の核・ミサイル開発を実際には黙認するオプションもあるわけなのです。  インド、パキスタンの例にもかかわらず、北朝鮮核開発は絶対に容認できないというのがアメリカ立場でありますが、仮定のことですけれども、そう遠くない将来、ある日、北朝鮮核保有が表面化したとき、あるいは公表前にでも核保有の事実が確認されたとき、米国武力行使をするかどうかを決断しなければならないと思います。そして、そういう場合に武力行使をすると決断するであろうという考え方が現在多数意見であります。しかし、そのとき想定され得るいろいろな状況のもとで、私は、米国武力行使決定を下し北朝鮮核保有を事実上容認する可能性は、その確率は低いですけれども、完全に否定することはできないというように考えています。  最後に、日朝関係に対しての私の意見を述べさせていただきたいのですが、結論をまず申し上げますと、対北朝鮮対応措置といいますか制裁措置を解除し、早期前提条件なしで国交正常化交渉を再開する用意ありという立場を表明されるべきだと私は思います。そして、幾ら遅くても米朝間国交樹立が行われるほぼ同じ時期に日朝正常化が実現できるよう努力されたらと思っています。  WFP等国際機構からのアピールに対しては食糧支援に応ずる。今まで障害になってきましたいわゆる拉致事件拉致疑惑事件については、私は出口論です。正常化交渉と並行して協議を重ね、正常化実現一環として解決を目指す。この問題が解決しない限り交渉再開には応じないとの態度では、この問題はいつまでも解決できないと思います。日朝関係正常化をおくらすことが果たして日本の国益にそぐうものかというものが問題であると思います。  なぜ私がこういう立場をとるのかという理由を説明いたしたいと思います。  第一に、朝鮮半島の平和と安全が日本にとって死活的な利益を持っており、日本外交朝鮮半島の平和と安定に資することだと日本方々はおっしゃっています。しかし、日本の対北朝鮮政策実践過程を見ますと、周辺国家、例えばアメリカ政策決定にお任せしているという状態でございます。それで、北朝鮮との政府間レベルでの対話のチャンネルの不在という状況がございまして、日本周辺国家に頼んで日本意思伝達をお願いしているという状況でございます。それで、周辺国家決定政策の結果が出たときに、それに適応していくというのが日本外交パターンでございます。不審船問題で抗議をするためニューヨークや北京で、これは電話でするべきかファクスですべきかといったことを考えざるを得ないような状態であります。  第二に、北朝鮮との国交正常化というのは、日本にとって戦後処理の一環の意味もあり、また日本の独自の対アジア外交推進を可能ならしめる基盤づくりになるはずであります。日本が北と直接政府間対話を持つ場を確保するということは、日本の対北朝鮮への影響力行使だけでなく、アメリカ中国ロシア韓国に対しての日本立場の強化を意味すると思います。それを一九九二年の本会議が決裂した後、今まで本会議テーブルにも着かずにいられる。九五年三月の三党ミッションや九七年秋の政府間合意、三党与党の訪朝時の新聞報道等々にもかかわらず、テーブルにまだ着かないでいらっしゃるわけであります。  それから第三番目、国際的環境から見ますと、時期的に非常にタイムリーであると私は考えます。外的制約要素というのはほぼ不在になりました。九二年から今まで七年間の空白というものは、ある時点では確かにアメリカの、いや、韓国からの反対という側面である程度説明できると思いますけれども、その七年全部は解明できないと私は思います。特に、現時点韓国政府日朝早期関係改善を願っていますし、アメリカ政府は今までの宥和政策の見直しを迫られ国内的に非常に苦戦を強いられている状態で、日本考え方政策は非常なインパクトを持ち得る状況であります。ですから、日本側が中長期的なビジョンを含めて朝鮮半島に対する日本考え方をはっきりと周辺国家に主張すべきであろうと私は思います。北朝鮮に対する複雑な感情的要素の屈折により、日本の冷静なる対北朝鮮政策形成が阻まれているのではないかと思います。  あと、日本北朝鮮に対する政策的オプション等々がありますけれども、この部分は全部省略いたして、私のプレゼンテーションを終わりにいたします。  ただ、村山元総理を団長としました超党派代表団の派遣が検討されていると聞いていますが、それはそれなりの意義があるでしょうけれども、私は、もっと重要なものは日本政府政府レベルにおける対話の開始である、それには政府高官レベルでの第三国での接触、特にピョンヤンへ首相の特使を派遣する問題等々も御検討なさったらいかがかなと思っています。しかし、代表団の形態よりも、日本政府の対北朝鮮政策の中身はもちろんのこと、日朝関係改善や日朝国交正常化交渉再開への総理の意思と決断がもっと重要であろうと考えています。  御清聴ありがとうございました。
  4. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) ありがとうございました。  これより質疑を行います。  本日も委員各位の自由濶達な御意見、御論議、御質疑を願いますので、各位、要領よくそれぞれおまとめいただいての御質疑を願っておきます。  それでは、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  5. 山本一太

    ○山本一太君 質問時間はいつも大体五分以内ということですから、短くやりたいと思います。  キム先生の柔軟的な関与政策というのは大変おもしろいお話だと思って伺いました。北との関係で、ある程度一定の基準を設けて、その基準に対する対応で調整をしていくという考え方も大変参考になったわけなんです。  先生が示している段階的なアプローチ、第一段階、第二段階、第三段階、こういうものを通じて米朝関係正常化させていこうというそのお考えも大変おもしろいと思うんですが、実際上、一段階から二段階に行けるかな、そういう疑問を持っております。  それは、特にミサイル核開発の問題について北朝鮮が本当に譲歩するかなという疑問があるからです。ミサイル開発というのは、北朝鮮の恐らく唯一の外交カードで、これをあきらめるということはちょっと考えにくいということと、先生も御存じのとおり、歴史上ミサイル開発阻止できた例がないということがまず一つ挙げられるのではないかと思います。  私は、米朝合意の枠組みというのは基本的に失敗だと思っていますけれども、ただクリントン政権が言っているように、ではほかのオプションがあるのかと言われればなかなか難しいとは思うんですが、この第一段階から第二段階に行くまでの、例えば核疑惑施設査察段階北朝鮮が本当に意味のある査察アメリカに許すかどうか、国連に許すかどうかということについてはかなり疑問があると思うんです。  私のおそれは、北朝鮮が核査察合意をしたらさらにそれをひっくり返す、そういうブリンクマンシップを続けることで結局はアメリカ意図を利用した形で事態が進んでいくということで、先生がおっしゃった最悪のシナリオは十分可能性考えられると思っております。それは結局北朝鮮核保有を容認する方向に進んでしまうのではないか、そんなことを考えながらもう一度先生のお話を伺いたいんですが、そういう中で第一段階から第二段階に行くことが果たして可能なのか、その点についてもう少しお話を伺いたいと思います。
  6. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) 第一段階と申し上げたのは、米朝間でいわゆる基本関係に関する新協定締結のための交渉を始める、これはどの程度期間を要するかということにも関連するんですが、例えば一年ぐらいかけてやると。では、一年の間に第二段階に進めるような合意というのはできるだろうか。私は、基本関係協定の内容自体に対してはそう困難が伴わないであろうと思いますが、二段階に移行する大前提といたしまして……。  二段階と私が申し上げているのは米朝間の二段階、すなわち協定に対する署名・調印それから国交樹立を私は二段階考えておりますが、先生がおっしゃっているのは、私が順序で申し上げた南北間の高位級レベルの会談をおっしゃっていらっしゃるんですか。
  7. 山本一太

    ○山本一太君 いや、その第一段階から第二段階に進む前提が、米朝ミサイル問題と核問題についてある程度合意ができることを前提とするというふうにおっしゃったように思ったものですから、その基本的な合意が本当にできるのかどうかという点は非常に疑問があるというふうに思ったんです。
  8. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) では、誤解のないように私の考え方を補足的に説明申し上げます。  私は、基本関係協定の内容に合意し、それから核及びミサイル問題に対する満足する解決前提にして、初めて米朝間がいわゆる国交正常化前提とした米朝首脳会談等々に移行すべきだというように考えているわけです、そのプロセスは相当の期間を私自身は想定していますが。  それから、先生の今おっしゃっていらっしゃいます、では北が核とミサイル問題で本当に満足する合意に応ずるであろうか。これは非常に核心をついていらっしゃる御質問でございまして、私はこう考えます。  例えば、今、四者会談の形で行われている平和協定づくり、北が言う平和協定づくりを含んでの平和体系構築の問題が非常にいい進展を見たとすると、可能であろうと。それから、四者会談での平和体系づくりに対しての進展が非常に難航したような場合でも、例えばミサイル問題でのある程度の進展というものは可能である、すなわち輸出問題等々に対しての米朝間の妥協の可能性はあると私は個人的に判断しています。ただ、北に、開発だとか試射等々を含めて、例えばMTCRの統制下に入れる程度にレンジを縮小する云々というような努力というのが功を奏するか、これはちょっと疑問でございますけれども。  それから、核問題で今後、地下施設疑惑、我々がつい最近経験したような事態がいろいろと起こり得るだろう。その都度、何とか先制攻撃というオプションをとらないでこの問題を解決するような外交努力というものをアメリカ北朝鮮が続けていくであろう。  ただ、最終的には、北が言う平和協定ができたとき、あるいは基本関係協定の中身が北が言うアメリカ軍事的脅威を十分に解消し得るような内容にまで詰められた場合、私は北の核開発放棄というのは可能であろう。非常に期待と言えますけれども、絶対に不可能ではないじゃないか、そういう一抹の希望を持って我々はこの問題を交渉し続けないとだめであろうというふうに考えています。  それから、私の申し上げました二段階への展開には、先生がおっしゃったような二つの条件は満たされなくてもいいことなんです。すなわち、韓国北朝鮮と首脳レベル会議を開き、九二年度のいわゆる基本合意書を再確認し、南北共同委員会を再稼働するとかいうことを始める、そういうたぐいの会合は十分に持てますし、それと米朝間ミサイル・核問題に対する合意とリンクしているわけではございません。ただ、できれば南北間のそういう対話の前進とほぼ並行して、米朝間基本関係協定づくりへの合意、調印じゃないんですよ、我々はこの新協定締結に向けてこれから努力するというような合意発表は、南北間のいわゆる基本合意書確認のための首相レベルでの会議開催とほぼ同時に行われるのが好ましいというように私は考えています。
  9. 今井澄

    ○今井澄君 きょうはどうもありがとうございました。  私は、先生の柔軟的関与政策、大変すばらしいお考えだと思いますし、特にその中で軸を決めて上あるいは下に修正していくというのは、我が国のようにまことに残念ながらきちっとした外交政策の軸を持っていない国に対する大変大きな示唆だというふうに思っております。  さて、その上で二点、私はお聞きしたいんです。  一つは、九四年の米朝枠組み合意、これを北朝鮮側が守ることを前提として先生のお考えもあると思うんですが、北朝鮮がこの枠組み合意を守ったままやっていこう、ひいては核開発を断念しよう、放棄してもいいというふうな形で、先生の言われるそういう段階を追っての米朝あるいは南北さらに日朝まで含めたものにいくかどうかがかぎだと思うんですが、最近の情勢の中で北朝鮮側は、コソボの問題あるいはこの間のミサイルだとかなんかに対する日本の反応の問題、あるいはさらにガイドラインの問題等で、その枠組み合意を放棄する方向に動いていることはないだろうかということについて先生はどう御判断になられるかということが一点です。  それからもう一点は、韓国の太陽政策ですけれども、これは聞くところによりますと、南北統一あるいは連合、いずれにしてもそういう方向で基本的には南北はそれを目指しているというふうに私は受け取っていたんですが、この太陽政策というのは必ずしもそういうものを目指さない、どちらかというと北朝鮮北朝鮮のままでかなり長期にわたって存続することを期待している、ひいては、例えば中国韓国との間の緩衝帯みたいなものがあってもいい、そういう政策転換だということを聞いたことがあるんですが、果たしてそうなのだろうかということです。  それで、最後にもう一点だけちょっと、これは感想ですけれどもつけ加えますと、先生の柔軟的関与政策は、米朝枠組み合意を基本として、それは核・ミサイル問題を最大の関心事としての文脈の中にあるというふうに理解しておりましたし、特に、事前に配られました先生の資料、九八年十一月七日付の読売新聞の記事の中に書かれていたわけですが、そこになかったことできょうお聞きしたことでは、核・ミサイル開発を容認するというオプションもあり得るというところにさらに先生の今後の論理的な展開の御発展があるのかなというふうな感想を持ちました。  最後の点は結構ですので、二点、お願いいたします。
  10. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) 北朝鮮の資料を毎日読んでいるわけでございますが、さすがに向こうでもコソボ情勢に対する関心というものが非常に高まっていまして、ほぼ連日のごとく、アメリカ非難、NATO軍非難、コソボに関してのいわゆるユーゴ政府との連帯性の表明等々、非常に組織的に大きな規模でやっているというような印象を受けています。  イラクに対する空爆だとか、今度のコソボをめぐるアメリカを含めたNATO軍の軍事介入だとか、それからクリントン政権が出発以降、クリントン政権の対外武力行使の数々の事例等々を見て、北はやはり自分たち軍事優先の路線妥当性というものをますます確信を持って堅持していきたいと考えているだろうと私は推測いたします。  それから、アメリカ側で非常に非難の的になっていますものは、だれが時間を稼いでいるのかと。アメリカが時間を稼ぐつもりだったんだけれども、どうも結果を見たら北朝鮮側が時間を稼いでいるようなものであるといって、いろいろクリントン政権が非難の対象になっているわけでございます。  すなわち、あの当時、なぜ九四年枠組み合意という形でアメリカが妥協したかということを研究したことがございますが、これはまた長い時間を要しますのでやめますけれども、その理由。あの当時のアメリカの考慮の一つは、北朝鮮はそう遠くない将来崩壊するであろうという一つの前提政府側にあったわけなんです、幾つかの要因のうちの一つだったと思うんですが。それがその後少しも、あの政権、あの体制、いろいろ我々は食糧危機等に対しての情報に接していますけれども、そう早期崩壊するような機運が見えてこない。それでは、その前提が間違っていたのであろうか。その後、アメリカ政府側は、政府側といっても政府内外の専門家たちの会合に出て話を聞いてみますと、いや、北の早期崩壊は困るんだというような認識にちょっと変わってきているというような感じでございます。  なぜかというと、北はそういうような状況で南に対しての武力行使に踏み切るかもしれない、これは非常に危険な状態であると。第二次朝鮮戦争が必ず勃発するとは考えないとしても、問題は、例えば大量の難民の流出問題あるいは食糧不足をめぐる国内での深刻な社会不安等々、こういうような状態が果たしてアメリカから見た国益に合致するのかどうかという面で、九四年当時と比べてちょっと別の解釈をし始めているなというように私は感じています。  先ほど申し上げましたように、枠組み合意に関する限り、共和党議員それから批判勢力というのが実に大勢いらっしゃいまして、クリントンさんは非常に受け身に立たされている現状でありますけれども、彼は自分の任期を全うするまではこの枠組み合意体制の変更というのはまずしないであろうと思います。その後の政権ではこれは別問題であろうと。  北朝鮮といたしましてはコソボ問題等々でいかなる教訓を得、枠組み合意問題に対してどのような対応をするようになるかというようなことが御質問の要旨だと思っていますけれども、その点は、北としてはできるだけ枠組み合意維持したいであろうと私は思うんです。  それは、彼らのいろんな声明を読んだら、彼らは、いつでもそれを放棄する用意あり、アメリカがその気ならば我々は我々の道を行く、すなわち再び施設の稼働を始め再処理プロセスを始め得る云々といろいろ言っていますけれども、彼ら自身、今の枠組み合意の忠実なる実践というものが北の彼らから見た国益に一番そぐうものであると判断しているだろうと私は考えます。  それから、太陽政策問題ですが、金大中大統領は、就任以後つい最近までは非常に言葉遣いが慎重でございまして、統一に言及なさることが非常に少なかったんです。あくまでも我々が望むものは政経分離のもとでいわゆる交流協力推進である、こういうようにだけ説明なさっていらっしゃいますが、金大統領が今の段階と言うのは、彼が今の経済交流協力段階と言うことは、金大中大統領がお書きになった本にも書いているとおり、統一へのいわゆる三段階構想の中の第一段階に突入する過程であると彼は御判断であると私は考えます。  最近、この問題で大統領がもう一つおっしゃったことは、彼の安全保障問題首席秘書官の林東源さんの演説にもつい最近出ていましたけれども、だんだんと統一問題への関連性を太陽政策問題を説明する過程でも触れ始めたなというのが非常に印象的でございました。
  11. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 公明党の魚住でございます。  きょうは示唆に富むプレゼンテーション、ありがとうございます。特に日朝関係についての先生の御意見、本当に参考になりました。  ただ、いろんな状況を見ますと、北朝鮮は、韓国でありますとかあるいは我が国に対して挑発的なといいますか、そういうことを非常に繰り返しておりまして、北朝鮮はあくまでアメリカとだけ交渉していればいいんではないかというふうに見られるわけであります。私自身の認識上の硬直性というものがあるのかもしれませんけれども、北朝鮮にとってアメリカ韓国あるいは日本と同時に交渉していくという、そういう意思があるのかどうかという点について先生の御見解を承りたいと思います。  もう一点ですが、アメリカの関心はやはり核でありミサイルかと思いますけれども、報道によりますと、中国の朱鎔基首相がアメリカで、米中協調してミサイル抑制への働きかけをしようと、そういうふうに報道されております。やはり中国に対して日本アメリカ韓国が連携しながら働きかけていくことが大事だと思っておりますが、その点についての先生の御見解はどうでしょうか。  また、アメリカ日本韓国、それぞれ意図というか、韓国にとってみれば今おっしゃったような統一への問題意識のもとで行動されていると思いますけれども、この三国間の連携を図っていくということが非常に大事かと思いますが、先生の御見解はいかがでしょうか。
  12. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) 第二番目の御質問にお答えしたいと思います。  中国の朱鎔基首相のことに言及なさったんですが、彼は、最近の全国人民代表大会、全人代が終了した直後に記者会見で、北朝鮮ミサイル発射問題に対しての質問に次のように答えているんです。ミサイルを発射するというのは主権的行為に属するものであって、第三国があれこれ言うべき筋合いのものではないと。朱首相御自身がおっしゃったと。これは非常に大きく韓国には報道されていまして、あの当時、朝鮮日報の社説では非常にこれに対する不満を表明しているような時点がありました。  中国北朝鮮問題に対して韓国日本あるいはアメリカとどの程度の協力、協調性を示すことができるのかというのは、これは学者間でいろんな意見がありまして、基本的に、もちろん中国側から見ても北朝鮮の核あるいはミサイル開発等々というものを心から歓迎、支持する立場ではないであろうと。大体そのように我々学者は考えているのでございますけれども、北朝鮮に対する中国側のいろんな配慮、考慮の要因というものがございまして、アメリカ日本韓国の期待に沿う形で北朝鮮への影響力を行使することに対しての限界というものも相当あるというふうに私は考えています。  例えば、これはいろんな事例が頭に上がってきますが、中国側がアメリカ側の要望に応じたそういうようないろんな例もございますし、アメリカの要望に沿えず、アメリカから言わせますと非常に失望するようないろいろな決定をして、北朝鮮問題に関しましてなかなか一概には言えないと思いますが、例えば去年のミサイル発射後、アメリカ国防長官に対して中国の高官が、これは中国に対しても脅威であるというような趣旨のことを発言なさったというように報道も出ています。  それから、一つ私の頭に浮かぶのは、数年前中国を訪れ政府の人々と意見交換をする機会がありましたときの話なんでございますが、我々中国は絶対に北朝鮮崩壊を許さないだろう、我々は北朝鮮が生き残れるようにあらゆる種類の支援をする、アメリカも我々の意を酌んで崩壊はしないぐらい食糧支援を含めて北朝鮮支援する方向に動いてほしいというようなことを政府の方がおっしゃっていたのを今も思い出します。  ことしは、例えば中国に金正日書記が訪問するのかしないのかということをめぐって、いろんなマスコミの方、我々学者も含めまして、想像をたくましくしているような状態であります。アメリカ側から見ますと、最近の米中間のいろんな葛藤要因といいますか、しっくりしないいろいろな米朝間の緊張に貢献している要因がありまして、このような状態中国が本当にアメリカ日本韓国の意思に沿って北朝鮮への影響力を行使してくれるかということに対して、非常に慎重な希望を持たざるを得ないということ。もう一つは、中国がそのような影響力行使をする意図があったとしても実際にどの程度の影響力を行使できるのか、これまたいろんな説がございます。私は、北朝鮮の場合、中国自身が我々にいつも告白といいますか率直におっしゃっているとおり、そう大きな影響力の行使というものはできないんじゃなかろうかというような見方をしているのでございます。  北が、アメリカとの関係改善に最大の優先順位を与えていながら、日本との国交正常化交渉等々を同時に進めていかれるだろうかという趣旨の御質問でございました。  私は過去の日朝間交渉パターンをちょっと調べてみたんです。九〇年度、それは金丸ミッション前後、それから九五年三月の渡辺ミッション前後、それから米支援問題、九五年の夏と秋、それから九七年度の訪朝団及び北京での政府レベルでの接触等々、この当時の米国北朝鮮との関係と連携の度合いというものをちょっと考えてみたことがございますけれども、簡単にお答え申し上げて、可能であるというふうに私は思います。  非常に熱を上げて日本に接近していた時代がございましたが、それが非常に不可能である、至難である、難しいというような状態にまた変わって、アメリカに向いてまた真剣なる努力をし始めたというようなことがございまして、まずアメリカとの関係を固めて、そうしたら日本は大体自然にまとまるだろう、それから韓国に向かっての交渉を始めるだろう、これが一般論として学者間で言われていることなのでございますが、アメリカ日本との交渉を同時にやり得る用意はあるだろうというふうに私は思います。
  13. 月原茂皓

    ○月原茂皓君 月原です。  貴重な御意見、ありがとうございました。簡潔に質問いたします。  第一に、米朝ミサイルあるいはKEDOの関係、そういうものが話がついたとしても、私が思うのは、我が日本の国にとって重要な影響を与えるものは何かといったら、ノドンの配備であり、そしてKEDO以前に材料のある核の問題、そういうものが果たしてそれで除去されるのか、それはもう認めるという形になるのではないか。そこに米国日本国益の違いが出てくる、地理的な条件も含めて。それを米国の方はどう認識されているんだろうかということが一つ。  それから、先ほど十分私は聞くことができなかったんですが、先制攻撃というのは、私は北朝鮮に内乱でも起こらない限り無理だと思います。というのは、今のお話のように中国とか、あるいは韓国にしても米軍が駐在し多くの人口があるわけですから、そういうことからいってなかなか先制攻撃はできない。だから今のまま進んでいくのではないかと思います。  アメリカが九四年のときに期待した、北朝鮮がそんなに長く続くことはないだろう、一、二年ぐらいじゃないか、こういうふうな考え方でおったようですが、そこのところで、一般の北朝鮮の国民が外の情報というものを遮断されておる、それを米国の方はもっと何かの方法で、自由世界というのはこんなにすばらしいものなんだ、あなたたちの親分が言っていることは間違っているんだというふうな、放送なんかではやっておると思うんですが、そういう手だてをしない限り、現体制はずっと維持されていくと私は思うんですが、その点どうでしょうか。  二つの点。
  14. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) 日本側からごらんになってノドン・ミサイル配備等々が非常に問題である、アメリカと必ずしもこの点の重要度というのが違うんじゃないかなというような御趣旨の御質問でございました。  私は、ノドン一号の配備、これはほぼ今配備が完了しているような状態だと聞いていますが、例えば米朝あるいは日朝交渉でこの問題を解決するというのはほぼ不可能であろうというふうに私は考えていまして、それはそれに対応する、今日本政府がおっしゃっている抑止と対話の、その抑止の範疇の中で適切なる処置をお考えになるのが妥当でなかろうかと思います。  それから、先制攻撃のことでございますが、先ほど私が冒頭のプレゼンテーションで申し上げたごとく、北の核施設除去に対してのアメリカの執念というか、あれは非常に強いものがございまして、普通、無責任な方が先制攻撃を云々されているわけじゃ今ないんです。  私、一月から二月にかけてワシントンに帰っていたんですけれども、いろいろ会合にも出まして、いろんな書類等々に目を通してきました。その後、いろいろ向こうで送ってくれまして、学者または政府関係、内外の専門家たちがお書きになった政策提言等々に大体目を通したつもりなんですが、非常に責任がある方で、ですから学者だけじゃなくて、過去に重要な政府の責任あるポジションでお働きになった方々の記事にも提言にも、先制攻撃に言及されているケースは非常に多いわけなんです。    〔会長退席、理事岡利定君着席〕  ですから、いかに北の核開発等々に対する疑惑、アメリカ側懸念というのは非常に強烈なものがあるんだなというふうに私は感じているわけです。ですから、これは何も我々が理論的に考え得るオプションの一つだというくらいじゃなくて、本当にこの問題は深刻にアメリカ考えるだろうと思います。  しかし、そう申し上げていますけれども、ではある特定の状況で先制攻撃を本当に決断するかというのは、これは別問題であろうと申しまして、第一韓国政府は反対するでありましょう。日本政府の態度というのはこれは非常に大きなインパクトを与えるだろうと思いますが、ある想定される状況のもとで、日本側アメリカの先制攻撃、武力行使支援する立場をおとりになるのか、すべての武力行使等々に否定的な韓国政府立場に接近なさるかによって、アメリカ政策というのは非常に影響を受けるだろうと思います。もし日本が反対という立場を鮮明にされれば、アメリカの対北朝鮮武力行使の確率、可能性というのは相当縮小されてくるだろう、そういうふうに私は思っています。  この機会に一つ申し上げたいのは、では日本北朝鮮に対してどのようなオプションがあるだろうか、政策指向面で、あるいはスタンス面で。  幾つ考えられるオプションがございますが、一つは、北がよく言う敵視政策という範疇に入りますでしょうけれども、極端な政策でございまして、北の体制あるいは政権崩壊するのが望ましいという前提のもとで、できるだけ早期崩壊を目指し、それに必要な適切な措置をとるといったような一つの極端な政策目標というものは理論的には考えられるわけでございます。どの程度のリスクを伴う方法をとるかによってバリエーション ズというのはあると思うんですが。  一方、正反対のオプションといたしまして、北の体制あるいは政権維持のために日本があらゆる支援をする。これは親北朝鮮あるいは友好宥和政策と、こういうようなことでしょうけれども、このオプション支持の幅、種類、タイミング等々でいろいろと類型が考えられますが、一番極端なものは、北の行動にかかわらず徹底的に政経分離で北を支持する。北がいつかは開放・改革政策をとるであろうと信じつつ、北がどんなに非友好的な挑発的な行為に出ても日本北朝鮮支援する。韓国の太陽政策にちょっと近いような、日本版太陽政策と言えると思うんです。  しかし、この二つの、一つは敵視、一つは極端な友好政策の中間にいろんな類型のオプションがあると思います。いろんな程度の関与政策をとり得るので、これは、条件づきにするのか無条件にするのか、相互主義なのか政経分離なのか、代償をとるのか期待するのか、代償を受け取るのは時差があってもいいのか、いろいろ考えられるわけです。  日本政府は、現在、いわゆる抑止と対話のスローガンのもとで、北朝鮮が建設的対応を示せば日本も建設的対応をとる、すなわち条件つきの対話再開用意ありという政策だというように私はとらえています。そのときの建設的、形容詞の内容はどういうことをお考えになっているかというのはちょっとよくわかりませんが、もしこれが例えばミサイル発射問題、不審船問題、拉致事件問題等々ならば、これに対する建設的対応を示せと。それが前提であると言うならば、そういうような建設的対応というのをまず望めるような現実的なものじゃないじゃないか、そういうことでは、日本側としては北との対話現時点で真剣にお考えでないんじゃないか、今おっしゃっていらっしゃるいろんな前向きな発言というものはアリバイ工作的なものなのかというような質問が出てくるわけなのでございます。    〔理事岡利定君退席、会長着席〕
  15. 若林正俊

    ○若林正俊君 ちょっと角度を変えて、今、日本の国民の立場でどう受けとめているのか、いったらいいのかということからちょっと質問したいと思います。  北の脅威に対する受けとめ方は、韓国アメリカ中国、それから外されていますけれども日本ロシア、それぞれ脅威の受けとめ方が違うと思います。事実、脅威自身が違うと私は思うんです。現実には、朝鮮半島の問題の解決は、国際的には北と韓国、南と中国アメリカと、いわば四国の協議体制の中で対応していて、日本ロシアは外されているわけであります。しかし、北がどういうふうに行動していくのか、あるいは行動をするように周辺諸国がこれにかかわるかというのは、日本ロシアを排除した形で問題の解決を図ろうとしても、日本も納得できませんしロシアも納得できない。  こういう北を取り巻く周辺諸国の利害というものは、これは現実にかなり深くかかわっているわけですが、日本が四国体制の中で外されているということについて、私は、何とか日本ロシアを加えた六カ国の協議体制をつくるという方向を明確にして、このことをアメリカあるいは韓国そして中国にも積極的に働きかける。そういう前提がないと、先ほどオプションで言われた北の体制崩壊を何らかの形で期待しながら封じ込めていくのか、あるいは北に対してもっと無条件で宥和の体制をつくって北を引き込んでいくのか、いろんなオプションをとろうとしても、何ら発言力がない今の状況の中では、国民の納得も得られませんし、日本政府が行動しようとしても、国民に責任持てないというふうに私は思っております。  そういう意味で、今度いよいよKEDOについて支援をするという米朝の話し合いができ上がって踏み込んでいく。ところが日本は、日本円にすると千二百億円近いものの負担を約束する。今の選択とすればせざるを得ない状況下に置かれているんですけれども、こんなことのまま引っ張り込まれていっても、北の挑発的な諸行為考えると、国民の合意がつくりにくいというふうに私は感じているんです。  そこで、アメリカは核の不拡散ということを最大の国益としてとらえておりますから、場合によっては、不拡散が保障されるならばミサイル開発なり核の保有なりは最終的には容認するかもしれない。韓国の方は、ミサイルなどという脅威よりももっと身近に、戦乱になれば直ちに地上戦闘に巻き込まれて大変なことになるという、それが一番の大きな脅威だといったようなことを考えますと、私は、日本外交としてアメリカあるいは中国に対して、日本も積極的にお互い協調のもとで北政策を展開するけれども日本も仲間に入れろと、こういうことを強く主張すべきではないかと思っているんですよ。  日本を入れることに対する抵抗というのは、北の側もいろんな思惑で抵抗しているでしょうし、中国アメリカ合意しないので進まないんですが、日本ロシアを加えた周辺諸国でこの朝鮮半島の問題を考えるという体制をつくるという可能性といいますか、またそういう国際関係を分析しておられる先生を初め皆さん方の見通しというのはどうでしょうか。
  16. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) まず、六者会談あるいは協議の場に対しての私の意見を申し上げたいと思います。  私は、この問題に対する日本政府努力が非常に足りなかったというように見えます。それから、その前提として、六者会談開催というのは可能であるというふうに私は判断いたしておりまして、その根拠を今申し上げたいと思います。  今のところ、もちろん韓国の金大中大統領は六者会談開催に賛成であるという立場を明確になさっていますし、もちろんロシアも賛成でございまして、日本も賛成である。よく、いや六者会談は不可能だろうと言う方の大部分の方がまず想定なさるのは、北朝鮮が反対するであろうというふうに考えているわけですね。それから、中国があいまいな態度をとっていまして、いや四者会談があるんだからまず四者会談でやってみましょうというような態度で、はっきりとした態度表明をしないというように私は理解していますが、確かに北朝鮮の態度はどうであろうかということを意識しながら中国側の慎重な反応であったというふうに私は見るわけなんです。  私は、四者会談とは性格が違うという点をはっきりまず日本側がなさらないとだめだと思うんです。すなわち、小渕総理がニューヨークでクリントン大統領とお会いしたときに一番最初この話をなさったときには、四者会談日本も入るというようにとれるような表現をお使いになったんですが、その後は、四者会談に入るというのではなくて、それとは別のエンティティーとしての六者間の協議の機構、こういうふうに私は日本側が明確にしていらっしゃると思います。その点をはっきりとする必要があるということ。  もう一つは、その協議の対象になる分野というのは何かというと、朝鮮半島問題に限らないということを明確にすべきだと思うんです。もちろん、朝鮮半島の問題を含む北東アジア全般の政治、経済、社会、環境、すべての関心事に対しての討議、意見の交換を前提とする云々というような表現で、とにかくこれは朝鮮半島問題解決のためだけをねらった、目指した協議の場でないということを明確にするという前提のもとでは、私は北朝鮮は非常に関心があるだろうと思います。  なぜか。例えばそういう六者会談で、今申し上げたとおり朝鮮半島問題解決のものじゃなくて、そういうような場所に相当のレベルの方が参加なさるわけなんです、外務大臣も。それから、東南アジアのそういうようなマルチのケースを見ますと、首脳、国家元首レベル等々の参加も考えられるわけで、北朝鮮にとって、例えば外務大臣等が参加して、オルブライト女史だけじゃなく大統領だとか、ほかの国の首脳、西側の首脳と同じ場でおつき合いできるということ、これは北朝鮮のレジティマシー、正統性を高めるためにも非常に有利なことだと判断するであろうと私は見るわけなんです。彼らが実際に東南アジアでの一定の民間レベルでのそういう協議体等々に参加している事例もありまして、ということは、私は日本側努力次第でこの六者会談というのはあり得るだろうというふうにまず考えております。  それで、きょうかきのうのニュースで見ましたけれども、森幹事長がデミング国務次官補代理に向かってこの六者会談問題にお触れになったようなのでございますが、もうちょっと日本側が真剣に主張なさってしかるべきだったと私は思います。  特に、去年のミサイルのあれで非常に日本側が興奮していたときに、アメリカがニューヨークでKEDO支援問題をぽんぽんと決めていくようなああいうものは、これは非常に同盟国日本に対する配慮に欠けているような行動であったと私自身は考えたんですが、日本側が六者会談の正当性というものに対して、国民の間でも、それから対アメリカ外交でもっとはっきりとおっしゃって、実現でき得るものだと考えております。  先ほど御質問なさったもので思い出しましたが、米日韓の三カ国間の連携というものが可能であろうかという御趣旨の質問をいただいたのを覚えていますが、それに御返事できなかったわけですが、私は非常に不幸なことだと思うんですけれども、三国間に存在する認識の相違というもの、これを一体化するというか調整するという作業がまだ残っているというような感じなんです。  小渕総理がソウルに最近行かれて行った記者会見での冒頭の声明文を読んでみました。あそこではっきりしたことは、韓国の新聞では一斉に、小渕総理がいらっしゃって我々のいわゆる太陽政策に対する完全なる支持を与えた、我々の太陽政策を全面的に支持する、これが最大の結果であるというように韓国新聞ではみんな解説をされているわけなんですが、確かに小渕総理は支持するという表現をお使いになりましたけれども、少なくとも私が読んだ限りは、何を支持なさるかという、何をというその目的語が韓国語と日本語と実は解釈が違うわけです。  日本語によりますと、核・ミサイル等当面の問題を解決すると同時に、金大統領がおっしゃるような南北関係の対立を中長期的に解決していくという金大統領の太陽政策を私は支持しますというふうにおっしゃっているわけです。それから、彼がソウルに行かれる前に韓国の記者団にこういうふうにおっしゃっていらっしゃるんです。その記者会見の内容を見ましたら、私は韓国政府の太陽政策目標支持しますとおっしゃっていらっしゃるわけです。  これは、韓国政府側あるいは韓国国民がとらえているごとく、韓国の太陽政策全般、すなわち目標だけじゃなく、その進め方をも含めて日本政府支持しているということではないと私は解釈をしているわけなんでございます。すなわち、小渕総理は、私は支持します、しかし私の支持する太陽政策というものは、当面の課題である核・ミサイル問題を解決して、それと同時に中長期的には南北間の関係改善云々という大統領の太陽政策支持しますというふうに、核・ミサイル問題に対しての言及が明確に出ているわけなんです。  確かに金大統領側にも変化がございまして、これは小渕総理の訪韓の成果だと思うんですが、大統領の発言内容を見ますと、こう言っています。北による中長距離ミサイル開発はアジアの安定等々のために容認できないものであると私は小渕総理と考えを一致した云々というくだりがあるわけなんです。金大統領が核・ミサイル問題等々が当面の課題として重要な課題であるということをあんなにはっきり明確におっしゃったことはなかなかまれで、初めてそういう表現をお使いになったのが第二回目のペリーの訪韓当時だったと覚えています。つい最近のことであったと思っています。  ですから、さきの御質問にお答え申し上げますと、やはり三国間の連携というものは非常に難しい課題である。確かに、核それからミサイル問題に対しては、現時点アメリカ政府日本政府側では非常に協調、同調という、共同対応する心構えというか認識、これが非常に共有する点が多いわけなんです、この問題で。しかし、この核・ミサイル問題の意義に対する韓国政府側の考え方は、アメリカ日本から見て相当同調しかねるような側面があるんじゃないか。  例えば、日本が言うミサイル韓国側が言う人工衛星が発射された去年の八月末以降、どうも韓国政府側からは、北のミサイル発射の持つ戦略的意義、それが持つ脅威という側面に対しては余り聞こえてこないというのが実情でございますし、地下施設問題でアメリカがあれほど騒いでいるときに、韓国の高官たちいわく、あれはたとえ核施設であったとしても建設にはあと四、五年かかるんじゃないか、なぜ今から騒いで不必要に緊張を高めているのかと。これが韓国政府の高官たちのおっしゃっていたことなんですね、あの時点で。  これに対してアメリカ側の反応というのは、私、いろんな研究会に参加して感じたものですが、これはちょっと理解できない、理解に苦しむものであると。なぜか。今そういう状況対応するときのコストとリスクと、四、五年後にアメリカが同じ問題に対応する場合のコスト、リスクとは、けた違いな相違があるであろうと。  というように、この時点では韓国側との協議により最近認識のギャップというのが相当埋まり縮まったというふうに理解して喜ばしいと思っていますけれども、やはり三国間の連携というものは非常に難しいなということを私は感じております。
  17. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) あらかじめ予定いたしました三時の刻限まであと五分と迫っておりますが、なお井上理事、石田理事から質問希望がございます。お許しをいただければ、井上理事、石田理事には三分ずつ意見の開陳だけにしていただいて、これに対しての参考人のお答えはいただかないということにしていただけますか。参考人には、日本のそれぞれ政党の、また議員の考え方にはこういう考え方があるのだということをおわかりいただければ、それはそれなりに意味があると思いますので。  井上理事。
  18. 井上美代

    ○井上美代君 日本共産党の井上美代でございます。  いや、もう非常に残念です。またとない貴重な時間だったというふうに思いますので、先生にお聞きしたかったんですけれども、残念です。  私は、やはり北朝鮮というのが日本にとっては全くなぞの国になっているんですね。日本共産党も関係がずっと断絶したままで長いですから、よくわかりません。それで、北朝鮮にもよく行っておられる先生にぜひお聞きしたいというふうに思ったのは、一つは、北朝鮮がどんな国家目標を掲げていらっしゃるのかということと、それから国内政策、対外政策の基本をどこに置いておられるのかという、この一番基本のところが聞きたかったんです。  それから、もう一つお尋ねしたかったのは、キム先生は九八年九月十一日に朝日新聞の「論壇」で、日本政府対応についてということで書かれております。これを見ますと、この脅威に対するいろいろな防衛問題があるんですけれども、その中でも先生は、「政治、経済、外交を含めた包括的な対応策は論議されていない。」というふうにそこで指摘をされているんです。同時に、中長期的な視野で、今後北朝鮮とどのような関係を構築していくべきかということを真剣に取り組まなければいけないということを言っておられます。それは九八年ですが、その後に北朝鮮籍の不審船の問題が出ました。その後、北朝鮮日本に対する侵略意図を持っているのではないかと言う人も日本にはいらっしゃるわけです。だから、どのようにお考えになるのかということを聞きたかったんです。  それからもう一つは、いずれにしましても、私たちはこの国際問題調査会で岡崎久彦氏をお呼びしてお話を聞きましたときに、日本は海空軍について世界第二位の実力を持っているということを言われたんです。最新の最も近代的な装備を持っているということで、これがアメリカと一緒になればこれはもう軍事力が圧倒的であるということを言われたんです。  そういう中で、今、日本では日本の平和と民主主義を基調にする憲法を持っているんですが、そのもとで日本が周辺事態法というのを今制定しようとしておりますけれども、これについてどういうふうに先生御自身はお考えになっているのかという、この三点をお聞きしたいというふうに思いました。  以上です。
  19. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) 参考人は、いろいろとインタビューだとか原稿を寄稿なさる機会が多いと思いますので、今の御質問に対してはそういう紙上において先生の御意見を聞かせていただくということでとどめておきたいと思います。  石田理事、最後に三分あります。
  20. 石田美栄

    ○石田美栄君 先生、慎重にですが、私たちがそういう方法はいろいろある、やらなきゃいけない、そのような確信を持っていろんな御提示をいただいたその中でずっと聞いていまして、私たちと多分違うのは、先生はより北朝鮮の正体をつかんでおられるからそういういろんな御提言をしっかりおできになる。私がかもしれませんが、私は平均的な日本人の一人程度なものですから、その正体がわからない。  そういう立場でお聞きしていましたから、どれも、そうはいってもあの国はというそういう気持ちをずっと持って聞いていましたので、もう少し先生から北朝鮮の、先ほど井上議員もおっしゃったようなことにも触れるんですけれども、国家目標とまではいかないまでも、どういう国なのかということをもう少しこういう場ですからお聞きできたらいいのになと思っておりました。
  21. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) 非常に残念でございますが、時間が参りました。  まだまだこの北朝鮮問題というのは日本にとっては非常に大きな問題だと思いますので、キム先生には御日程を調整いただき、また次の機会をつくっていただくよう、よろしく御協力を願っておきたいと思います。  特に、この調査会には田先生など北朝鮮についての専門家もいらっしゃる。きょうは一言も御発言がなかったのは非常に寂しい。時間もないということだろうと思いますが、次の機会を楽しみにしたい。  キム参考人に対する質疑はこの程度といたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  キム参考人におかれましては、二時間にわたりまして、あっという間に過ぎた感じがいたしますが、大変有意義質疑ができたと思っております。キム参考人の今後のますますの御活躍を祈念いたしますと同時に、ただいま申しましたように、この北朝鮮問題は、本当に日本にとっては、これは日本の平和という、安全保障と申しましょうか、関心事の大きいところでございますので、どうぞひとつ我々につまびらかに御提言をこれからますますお願いしたいところと存じます。  本当にきょうはありがとうございました。感謝を込めまして、本日のお礼とさせていただきます。
  22. ヤン・C・キム

    参考人ヤン・C・キム君) ありがとうございます。(拍手)
  23. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) 速記をとめてください。    〔速記中止〕
  24. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) 速記を起こしてください。  それでは、引き続きコソボ問題について、東欧地区研究、バルカン研究についての第一人者でいらっしゃる東京大学大学院総合文化研究科教授柴宜弘参考人から御意見をお伺いいたします。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  忌憚のない御意見を承りまして、今後のこの調査会調査参考にいたしたいと存じますので、よろしくお願いを申し上げます。  議事の進め方につきましては、まず柴参考人から二十分程度の御意見をお述べいただきました後に、午後四時半ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をお願いいたします。  なお、理事、委員の先生方各位、御意見、御質疑については前回同様で、御発言は着席のままで結構でございますので、どしどし自由濶達に議論を進めていただきたいと思います。  それでは、柴参考人から御意見をお述べいただきます。柴参考人
  25. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 本日は、この調査会にお招きいただきまして、ありがとうございます。  本日、コソボの問題について、最初概括的な形でプレゼンテーションをして、後の質疑段階で少し補足あるいは具体化できたらというふうに考えております。  私は、個人的なことになるんですけれども、今からもう二十五年くらい前になりますが、一九七五年から七七年まで、かつてあった旧ユーゴですけれども、旧ユーゴのベオグラードというところ、現在のユーゴの首都でもありますけれども、ベオグラード大学というところに二年間留学しておりまして、この九〇年代になってユーゴは解体して、その後、内戦という形でずっと戦闘が続いているわけで、非常に心を痛める日々なんです。それが私の本当のところなんです。  それで、コソボの問題ということなんですけれども、私が一番初めにコソボに行ったのはその留学が終わった直後の時期で、一九七九年の時期と八〇年代の時期と、二度しかコソボには実際には入っていないんです。  コソボというところは、お手元にあるその地図でごらんになっていただけるとおわかりになりますように、あるいは連日この地図が載っておりますのでおわかりのことと思うんですけれども、現在のユーゴスラビアという連邦のセルビア共和国というところに属する自治州であったわけです。  そのセルビア共和国というところの人口構成から少し大まかな話をしておきたいんですけれども、セルビアという共和国は九三年の統計で九百七十二万の人口があります。それで、セルビアという共和国の中には、セルビア人が六六%、それからアルバニア人が一七%、それからハンガリー人が四%という形の民族構成をとっております。ですから、セルビア共和国という全体においてはセルビア人が圧倒的な多数を占めている。  そのセルビア共和国の中にあるコソボ自治州というのが今問題になっているわけですけれども、コソボ自治州の人口構成を見ると、コソボ自治州自体は百九十六万という人口なんです。その構成は、政府側が出している公式統計という形で申し上げますけれども、アルバニア人が百六十万であり全体の八二%、そしてセルビア人は十九万でありまして全体の一〇%という人口構成。そのほかにも、このコソボには、ボスニアの内戦のときによく出てきたムスリム人というイスラム教徒が七万、それからいわゆるジプシーと称されるロマの人たちが五万、それからモンテネグロ人が二万、そのほかにトルコ人であるとかエジプト人と称される人だとか、あるいは山岳の少数民族が存在しています。そういう構成であって、コソボにおいてはアルバニア人が八二%、あるいは最近ではもう九〇%を超えていたという状況があったわけです。  こういう地域、自治州というところにおいてコソボの問題というのは一体何だったのかというと、現在、このユーゴスラビアという連邦のセルビア共和国に属するコソボ自治州のアルバニア人とセルビア人との民族対立であるというふうに基本的には規定することができると思うんです。  今回のコソボ紛争と称される問題が出てきたきっかけは、昨年の一九九八年の二月から三月にかけて、当時のセルビアの治安部隊が、コソボの独立を求めて武器を持って活動をしていた集団であるコソボ解放軍というグループに対する掃討作戦を始めたというのがそもそものきっかけであったわけです。それがきっかけなんですけれども、その前の段階を少し追っておかないとこの問題の説明ができないので、そもそもそれはどこまでさかのぼるのかというと、一九八九年、ちょうど十年前までさかのぼってお話しすることができると思うんです。  八九年の三月という段階で、これは当時、セルビアという共和国とそれからコソボという自治州、これは法的にはセルビア共和国に属する一自治州であったんですけれども、一九七四年から旧ユーゴスラビアの憲法のもとでは、セルビアという共和国も、それからセルビア共和国に属する自治州もほぼ同等の権限を持つ存在であったわけです。つまり、裁判権も警察権も教育権も含め、セルビア共和国とコソボ自治州というのは同等の権利を持っていた。それから、この地図にはちょっと出ていないんですけれども、北の方に最近爆撃でノビサドとかという地名が出てきますけれども、北の方はボイボディナという自治州でありまして、コソボと同等の自治州だと。現在でも自治州になっているわけです。  そのコソボもボイボディナもセルビア共和国も含めて、旧ユーゴは六つの共和国と二つの自治州がほぼ同等の憲法を持つ存在であったということでありまして、コソボもみずからの憲法を持ち、共和国と同じ自治権をちゃんと持っていた。それが八九年の段階で、それまで持っていた自治権がセルビア共和国に移されていくという経緯があったわけです。そのことによって、コソボのアルバニア人たちが、自分たちが多数を占めている自治州の権限が共和国というところに移されていく、裁判権、警察権もすべて移されていくということがありまして、それに対してコソボのアルバニア人たちが自治権の回復ということを求めて動きを見せ始めていくことになる。  八九年の三月にその憲法が修正されていくわけですけれども、その後、アルバニア人たちはかつて、かつてというかそれまで与えられていた自治権をもう一度回復するということで、例えば現在も名前は出てくるルゴバという人物、これは穏健派ということで知られていますけれども、そのルゴバなどが中心になってコソボの自治権の回復ということを訴えかける動きを始めていく。  そして、自治権が奪われた後アルバニア人たちは、これはシャドーステートという言い方で言われているんですけれども、セルビアの側は認めないわけですけれども、みずからは共和国をつくっていく。それが九一年の九月にコソボ共和国ということをみずから宣言し、セルビアの政治の枠の中ではなく、自分たちは独自の共和国なんだという宣言を出していきます。そして、その大統領にルゴバという人物が九二年には選出されていき、コソボの自治権の回復という動きを見せ始めていったわけです。  そして、そういう動きがずっと続き、八九年以後は、このコソボにおいてはいわゆるセルビアの政府側の議会というのもあったわけですけれども、そういうものにはアルバニア人は一切ボイコットするという形でみずからのシャドー国家の中での活動を続けてきていた。そして、一方ではルゴバを中心に、ルゴバというのは非暴力ということでセルビアの側と交渉をする中で、最終的には独立ということを目的にはしていたんですけれども、自治権の回復を求めてずっと活動を続けていくということがありました。  そして、そういう事態が数年続いていき、なかなかしかし自治権の回復という方向に事が運んでいかないという中で、アルバニア人の中に、交渉ではなくてむしろ武器をとってでも独立の方向を目指すべきだというグループが出てきました。それが先ほど申し上げたコソボ解放軍というグループだったわけで、彼らが九七年あたりから、とりわけ若い青年層の人たちの支持を得るようになっていく。つまり、既存の交渉での自治権の回復ではらちが明かないということで、武器を持って戦うというようなそういう方向を持つコソボ解放軍に対する支持が強まっていったということが九七年にありまして、それが九八年、冒頭に述べました掃討作戦というところにつながっていったということになります。  ですから、セルビアの政府あるいはミロシェビッチを中心とするユーゴの政府側の基本的な考え方というのは、つまりそういった武力で独立を達成しようとする集団に対する、これはセルビア側の言い方で言えばテロリスト集団という言い方をするわけですけれども、そういったグループに対する掃討なんだということが基本的なことでありました。  そして、今回のコソボ紛争を見ていて首をちょっとかしげなければいけない点は何なのかというと、そういったコソボ解放軍という組織を、当初はアメリカも含めて国際社会も、九八年の二月以前はテロリスト集団という規定の仕方をしていたわけです。それが九八年の三月から両者の激しい戦闘が展開されていき、ヨーロッパ諸国も仲介の動きを見せるんですけれども、セルビア政府あるいはユーゴの政府がコソボの問題はあくまで国内問題であるということで、つまり外国の調停ということを一切拒むという非常にかたくなな姿勢をしていたわけですね。そのため、九八年の三月以降、なかなか国際的な調停ができないという中で両者の戦闘が激しくなっていき、ちょうど転換点は九八年の六月だと思うんですけれども、それまでテロリスト集団というふうな規定の仕方をされていたコソボ解放軍というのに対して、アメリカのホルブルックという当時バルカン担当の特使がこの地に行ったときの発言、つまり両者を何とか休戦に持っていかなければいけないと。そのときの休戦の当事者として、つまりそれまでルゴバというコソボ共和国の大統領がいたんですけれども、そうではなくてコソボ解放軍という人ですね、そのコソボ解放軍の人たちを休戦のための当事者という規定をするようになる。そして、それによってコソボ解放軍というのが国際的な認知を得るということで、国内ではセルビアの治安部隊との戦闘をさらに激しくしていくという事態が続いていったんですね。  そして、最終的にはというか、九八年の秋、それから今回の九九年の二月、それから三月のランブイエとパリの市内での和平交渉においては、両者の、つまりセルビアの代表団とそれからアルバニア人の代表団が行ったわけですけれども、そのアルバニア人の代表団の主導権を握っていくというふうに、コソボ解放軍というのがアルバニア人の側の中心的な存在になっていったという過程があります。ですから、現在というか三月の段階の和平交渉においては、それがコソボの解放軍、KLAという組織が主導権を握ってしまっているという状態ですね。そういう経緯があります。  それで、コソボの今回の問題はそういう経緯があったんですけれども、一番大きな問題は、今回、コソボ紛争という問題をめぐってはこの三月二十四日から空爆が始められていったわけですけれども、その空爆の問題点が一つは指摘できるのではないかと思うんですね。それは、コソボの問題というのはこの地域の複雑な歴史に伴う解決の非常に難しい問題であった。ですから、そういう問題に対して、基本的には空爆というような軍事的な力によって民族問題を解決することはなかなか難しいということがあったと思うんです。  今回の空爆自体は、要するにコソボにおいてセルビアの治安部隊によるアルバニア人に対する弾圧、あるいは民族浄化というような言葉が使われるわけですけれども、そういう弾圧があって、それに対する人道的な見地から空爆を行うということだったと思うんですね。しかし、その空爆によってアルバニア人たちを保護するという所期の目的が達成できているのかというふうに考えると、現時点ではほとんどできていないし、さらに事情を悪くしてしまっている。つまり、あれだけの六十万人という難民が空爆以後出てきてしまっているということが指摘できると思います。そのアルバニア人の大量の難民が出てきている。  ですから、最近では、空爆の目的はユーゴという国の大統領であるミロシェビッチという政権を倒すことに目的が変わりつつあるように見受けられますけれども、ミロシェビッチという政権を倒すことが目的であるとしても、空爆をやるということが本当にその目的にかなっているのかというふうに考えると、これも首をかしげざるを得ない。  つまり、空爆をやっていった中で、ユーゴにおいては、とりわけユーゴというのはセルビアとモンテネグロという二つの共和国から成る連邦なんですけれども、そのセルビアにおいては戦時宣言というのが出されることによって非常に統制的な事態になってきて、ミロシェビッチの連邦としての大統領権限というのも強化され、その中でマスメディアだとか、すべてを統制していくような方向が生み出されてきてしまっている。それによってミロシェビッチの政権の基盤というのがより一層強まってしまっているという事態があるわけで、そういうことを考えると、ミロシェビッチを倒すという目的も必ずしも達成できてはいないんではないか、あるいは達成できないんではないかというふうに言うことができると思うんです。  ですから、空爆ということの問題点、さらには地上軍というような話が最近では専ら出てきているわけですけれども、それによってこの民族の問題が解決できるのかということを考えると、さらに大きな疑問を持たざるを得ないと思います。  こういうコソボの問題をどういうふうに解決すべきなのか、あるいは今後何が問題になるのか、あるいは日本の役割はどうなのかというようなことについては、この後の御質疑の中でお答えしたいと思います。
  26. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) ありがとうございました。  では、御発言は着席のままで結構ですから、質疑のある方は順次。
  27. 馳浩

    ○馳浩君 ありがとうございました。  概略的なお話だけだったと思うのですが、今回の問題の中で私がわからないところをまず教えていただきたいのは、ミロシェビッチ大統領の立場というのが、今回のNATOの空爆が泥沼化になることによってより一層ユーゴスラビア国内では求心力が高まっているというふうに見ていいんだと思いますが、そのミロシェビッチ大統領政権を内部から批判する勢力というのはないのかという国内的な問題。逆に、ミロシェビッチ大統領を操って大セルビア共和国を建国しようとかあるいは実現しようというそういうふうな政治勢力はないのか。  つまり、どうも我々遠く離れた国から見ますと、ヨーロッパ国内でも、あるいはアメリカからも、ミロシェビッチ一人が悪者になっているような気を受けるんですが、そうではなくて、非常に複雑なユーゴスラビア国内の政治勢力の争いの中から、今回それを一本化する方向としてミロシェビッチ大統領がこのコソボ問題を、コソボ紛争を利用しようとしていると、それを利用させようとしている勢力があるのではないかというふうな見方もすることができるわけですね。もつれた糸を今後少しずつほぐしていく上でも、ユーゴスラビア国内政治勢力の関係を注目していくことも必要なのではないかと思うのですが、この辺をもうちょっと詳しくお教えいただければありがたいと思います。  とりわけ、よく言われる大統領夫人のミリヤナ・マルコビッチ女史の存在感、これはヨーロッパのマスコミでも取り上げられているようでありますが、この点についても情報があれば教えていただければと思います。
  28. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 批判勢力の問題なんですけれども、セルビアの政治は、ミロシェビッチの政権というのは必ずしも強固なものではなくて、ちょうど二年ちょっと前ですかね、九六年の選挙があったんですけれども、その際には、ミロシェビッチが率いるセルビアの社会党という政党は都市部ではかなり負けたんですね、村部では相変わらず強い支持を持っていたんですけれども。そして、都市部の選挙の開票をめぐって混乱が生じて野党側からの猛反発があって、つまり、なかなか開票がちゃんと公表されない、負けていそうなのになかなかそれが出てこないというようなことから、結局最終的には幾つかの都市部で負けということをちゃんと公表することになるんです。そういう問題をめぐって野党側が連日、百日にわたって野党も含め市民も含めたデモが続けられて、ミロシェビッチはもう終わりだというふうに見られた時期があったんですけれども、その時期に、最終的には両者の話し合いがついて、野党側がベオグラード市の市長のポストを占めるとか、幾つかのことで決着がついていったんですが、結局野党側が分裂してしまって、それで大きな統一した勢力になれなかったという経緯があるんですね。  そして、その後は、ミロシェビッチはセルビアの民族主義を利用して、コソボの問題を利用しながらみずからの勢力、権力の基盤を維持してきたんですけれども、ミロシェビッチよりももっとセルビア民族主義的な方向を持っているシェシェリという、セルビア急進党という党があるんですけれどもその党を連立の形で組み入れ、それから最近、ことしの一月には、かつての野党勢力の一つであったセルビア民族再生運動という政党のドラシュコビッチという人も副首相に入れるという形で、かなりオール与党という形が実はとられてきていた。  ですから、ミロシェビッチにかわり得る、現在、いわゆる民主的な政権というふうに欧米が望んでいるようなそういう指導者というのは今のところ見当たらない。ミロシェビッチが倒れると、もっと大セルビアとかをはっきりと掲げるような民族主義的な指導者、つまりシェシェリというような人がかわって出てくる可能性が非常に強いと思いますね。  それで、ミロシェビッチなんですけれども、ミロシェビッチは、今御質問にありましたように、まさにこのコソボの問題、きょうは八九年からしかお話ししなかったんですけれども、その前からさかのぼれば、八一年以来コソボの問題というのはずっと継続しておりまして、このコソボの少数者であるセルビア人の権利を守るということを掲げてこのミロシェビッチという人物は自分の権力基盤を強めていくわけで、まさにコソボから彼の権力の基盤というのは始まったというふうに言えると思います。  それからもう一つ、ミーラ・マルコビッチというミロシェビッチの妻なんですけれども、そのミーラ・マルコビッチという女性は、JULと言われている、これはユーゴスラビア左翼連合というふうにいいますか、そういうふうに訳されている政党の党首なんですね。この党というのは、かつてユーゴスラビアにおいてありましたユーゴスラビア共産主義者同盟という政党、その政党を継続している党であるということでやっている政党なんですけれども、ミロシェビッチはずっとそれとは連合を組んでいたんですけれども、先ほど言いましたように、急進とも連合を組み民族再生運動とも連合を組みという形で、現在はオール与党化しているというふうに考えられると思います。
  29. 佐々木知子

    佐々木知子君 どうもありがとうございました。  先日、アメリカ人でこの種の政治問題に詳しい方からお話を聞く機会があったんですけれども、その方が言われるには、日本は直ちに今回のNATOの空爆に対して支持表明を出してほしいと。それから、軍事的介入はもうもちろん憲法の制約もあるから無理ですけれども、難民の救助なり医者を送ったりとか、そういうような救助をする、援助をするということは直ちにできるはずである、直ちにやってほしいということを言われたんですけれども、日本はこの問題に関してどのような立場をとるべきだというふうにお考えでしょうか。
  30. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 先ほどもちょっと申し上げたんですけれども、つまりNATOのそういう空爆によって何を解決しようとするのかということだと思うんですね。ここでのコソボの民族対立の問題を解決していくために空爆をする、NATOによって空爆をすることで解決できるのかということを、私はもう三十年近くこの地域を勉強してきて考えるわけですけれども、この問題はそれでは解決できませんというふうに私は思っております。  ですから、直ちにNATOにというような立場を私はとるべきではない。ほかに日本がとるべき方向というのは私なりの考えは持っておりますので、私は、やはり日本としてはそういうNATOにすぐにという形をとるべきではないというふうに思います。
  31. 佐々木知子

    佐々木知子君 援助とか、そういう形ではもちろんやるべきだというふうにお考えでしょうか。
  32. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) もちろんそうです、今回の難民の援助もそうですし。  それから、日本の問題にすぐになってしまいそうですけれども、日本は、この地域の難民の帰還の問題あるいは難民に対する物資の援助ということは当然だと思うんですけれども、そのほかにもう少し踏み込んでできることがあるのではないかというふうに思います。  それは、この地域のこういう問題、民族の問題というのはコソボだけではないんです。コソボだけではなくて、実はもっと危険だなというふうに感じているのは、隣のマケドニアというところもそうなんです。この地図のコソボの南側にマケドニアという国がありますけれども、このマケドニアにおいても人口構成でいいますと二五%くらいのアルバニア人が少数者としております。そして、今回コソボの難民の流出によって二十万以上の人がマケドニアにも入っていったという状態でありますので、マケドニアでのアルバニア人の数というのはさらに高まっているわけです。  マケドニアにおいても、アルバニア人たちが自分たちの国をつくる、独立を求めるという動きが生じてきたときに、マケドニア政府がそれに対して反対する、そうしたときにどうなるのかという問題がすぐに思い浮かぶわけですし、そういう問題はブルガリアにもルーマニアにもあるわけです。国内の少数者の問題ですね。  そういう問題があるわけで、このバルカンの地域の諸国が集まって和平会議というような平和のための会議というのを、むしろ今積極的にそれを進めていくことが必要だと思うんです。そういう動きは幾つかあるんです。例えば、近隣のブルガリアであるとかあるいはギリシャという国が今中心になって、EUのもとでバルカン和平会議あるいは平和会議という会議をつくっていこうという動きを見せているんですけれども、私は、EUだけの問題ではなくて、むしろ国連という形で問題解決会議というのを開いていくべきだというふうに考えているんです。  国連だとかあるいはヨーロッパ規模でいえば全欧安全保障機構、OSCEというのもあって、そういうものを中心としたバルカンの地域の和平会議というのをつくっていくことがむしろ重要であり、そういう会議のおぜん立てであるとかあるいは会議にかかる費用負担であるとか、これらの国だけではできない、非常に経済的に苦しい国々が多いわけですから、そういう場を設定する役割というか、それがむしろ日本としてはできるし、それができれば将来的に非常に強い関係をこれらの国々と結んでいくことができるのではないかというふうに考えているんです。  ですから、今、私が考えているのは、どうもやはり現在は国連の危機なのではないかというふうに感じているんです。つまり、NATOというものが前面に出てきてしまっていて、国連がなかなかこの地域でも活動できないという事態であって、今回の問題はまさに今、国連の意義が問われているのではないかというふうにまで思っております。
  33. 吉岡吉典

    ○吉岡吉典君 共産党の吉岡でございます。  今、国連の話が出ましたから、私は国連憲章にかかわることをお伺いしたいと思うんです。  今の参考人意見で、見通しはより悪くなる見通しだというお話です。私もそういうふうに思うわけです。同時に、目的がはっきりしない、何か次々変わるような感じがしているわけです。そういう、目的もはっきりしない、それから実際上こういうやり方では解決しないということが少なくとも今の時点では言える。そういう点からも、あの空爆という方法が間違っていたと私は思うんです。それから同時に、国連憲章のあるもとでこういう武力行使というのが許されていいものかどうなのか、一体なぜまかり通って国際的な大問題にならないでいるのか、NATOの中でも議論がないのかということが私のお伺いしたい点なんです。  私らが国連憲章について教わったことといえば、二条四項で規定している以外は武力による威嚇も武力行使も禁止されている、ただ自衛権の行使と国連安保理事会の制裁措置、これ以外は武力行使は禁止されているということをさんざん教わってきたものなんです。それが、大量の人権侵害という理由での武力行使ということが議論になるようになり、また実際にそういう武力行使が行われるようになったと思うんですけれども、こういう武力行使というのは参考人は国連憲章上あり得るとお考えになるのか、そういうことは法律上もまた実際の効果から見てもやっぱり許されないとお考えになるのか。  国連憲章との関係でのお考えが一つと、それから、私らが常識のように教わってきたことが国際的な大問題にならないのはニュースとしてそれが報道されないだけで、実際には至るところで問題になっているのか問題になっていないのか、そういうこともあわせてお伺いしたいと思います。  実は、先立って米朝関係北朝鮮をめぐる問題がありましたけれども、私は、北朝鮮がよくわからない国だと同じように、すぐ武力行使武力行使だと言うアメリカもわからない国だなと思っているところですけれども、ここは朝鮮の問題ではありませんからそっちのお答えは結構ですけれども、今の問題、ちょうど国連の問題が出たところですので、御意見をお伺いさせていただきたいと思います。
  34. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 国連憲章については、これは違反していることだというふうに私も思います。それから、事前に安全保障理事会の許可もとっていないわけですから、合意もとっていないわけですから、それはそのとおりだと思いますし、さらに加えて言えば、今回はNATOのいわゆる域外なわけです。NATOの加盟国の内部の問題ではなくてその外の問題であるという点もありますので、なおさら合法性ということについては大きな問題を含んでおり、国際政治をやっている人たちも含めて、それは私と同じように考えている人が多いです。  ですから、それにもかかわらずなぜこのコソボというところでこういうことをやらざるを得なかったのかということがむしろ問題なんだと思います。
  35. 山崎力

    ○山崎力君 今、最後におっしゃったところがまさにポイントでございまして、なぜやらなきゃいかぬか、これはもう明らかだと思うんです。  要するに、かつての国家間であれば内政干渉になるんでしょうけれども、一応別の考え方として、これはユダヤ人に対するジェノサイドに対する反省もあったんだと思うんですが、人権という問題が出てきて、民族紛争が出てきて、そういった人たちがかつての国家間であればどのような統治をしようとも国内問題だ、少数の者が国民を全部殺そうが奴隷にしようが、何しようが国内問題である、そこのところに国際社会が口を挟む余地はないんだというような感覚ではいけないというところがあって、それでまさにここのところが、コソボ自治州が民族間の対立のもとに一種の、静かではある、表面には出ていないのかもしれない、そこが一番ある程度我々の知れないところですけれども、静かなる民族浄化の方に行きかねている、それで内乱になっている、内戦状態になっている。  そういったことを何とか調停しなきゃいかぬということで出てきたのがNATOであって、国連はそこに関しては今まで余り成功したことがないんです。カンボジアの問題、あるいはベトナムの中国の制裁戦争、インド・カシミールの問題、あるいはパレスチナはまだましな方だというふうな感じ。それが本当のヨーロッパの、これからNATOといいますかEUの中に入ってくるかもしれない、真ん中のところで、現実に二十世紀末のヨーロッパで起きちゃった。それがユーゴのショックだろうと思うんです、前のクロアチアからボスニアの内戦を含めて。片っ方が言うことを聞く、片っ方は言うことを聞かない。なぜEUが出ないかというと、内戦のところに割って入るには武力行使しかないからNATOが前面に出てきた。言うことを聞かないときに、そうするとこれがなぜ爆撃したかというのは極めて簡単で、ここで爆撃しなければ今後そういった内戦に対する仲介の資格をNATO自体が失うからだというのが僕自身の結論なんです。  だけれども、結果が思わしくないということで、連中の方も所期の目的が全然狂っちゃったというところでNATOが今どうするかという状況なんですが、事ここに至って爆撃を続行せざるを得ないというのは、ヨーロッパ的な感覚からすれば当然だろうと思うんです。  やめてそれではどうなるのかということがあるので、非常にそこが難しい問題だろうと思っておるんですが、そういう感覚というものは間違いでしょうか。僕みたいな感覚で受けとめているのが間違いなのか、それともヨーロッパ的にいえばそういうふうな感覚で動いているのか、どちらなんでしょう。
  36. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 恐らくヨーロッパ的な感覚でいうと、それは今おっしゃられたような考えが底流にあるというふうには思いますね。しかし、民族浄化というような人権に対する抑圧がどこまで本当に行われているのかということですね。  それと、NATOの空爆の今回の動きも、二度ほど実はコソボの紛争が生じてからもあったわけですね。NATOがもう空爆しか方法はないというふうに出てくるきっかけは、二度とも住民の虐殺ということが報じられたことによってそれが出てくるんですけれども、その虐殺というのが、例えば今回では、一月にラチャックという村で、これはOSCEの検証団が入っていて、そのOSCEの検証団が四十五の遺体を見つけた。それがその村の住民なのか、コソボの解放軍の兵士なのか、どちらかわからないということがあったんですけれども、コソボの虐殺という形で報道が出てくる。それから、昨年十月の段階もやはりコソボの虐殺ということで、そういう事件があって、それを契機にしてNATOの軍事的な介入というのは起こっているんですね。  これは、先ほど申し上げましたように、セルビア側はコソボの解放軍というのを掃討しているんだという、つまり武力を持っている勢力に対してそれを掃討するという立場であるわけで、それとの関係でどれほど一般の住民たちを殺害するような事件が生じていったかというのは、これは私も十分に検証できておりません。ですから、さまざまなニュースで知る以外には方法はないんですけれども、虐殺あるいは民族浄化といったようなことがどこまで本当に起こっていたのかというのは、やはりもっと検証されなければいけないと思うんです。  そういうのが十分に、国際的、中立的というか、例えば旧ユーゴのボスニアでの戦争においては国際的な裁判が現在も継続して行われておりますから、そういうところでの事実の検証ということをしていかないと、まだまだはっきりしない点というのはあるんですね。ですからこれは、人口構成もそうなんですけれども、それから難民の数もそうですし、それから死者の数もそうですし、これが実際の数なんだという形ではなかなか確定できない、特定できない状況がまだまだあります。  つまり、今回、空爆が起こってからは、少なくともコソボには、OSCEの検証団もみんな撤退してしまっているわけですから、いないわけですね、中立的に被害を調査できるような。ですから、どちらかかの情報でしかあり得なくなっている。アルバニア側なのかセルビア側なのかということなわけですから非常に困難なんですけれども、やっぱり検証をしていかなきゃいけない。  そのことと、それから、NATOが人権の問題というのを非常に重要な問題として、今回こういう問題に空爆ででも立ち上がらないとということですね。つまり、NATOの大きな存在意義は、やはり域内の民族だとか人権抑圧だとかということに対して大きな役割を果たしていくというのが新しい形のNATOの役割だと思うので、それで今回の空爆に踏み切ったということはわかりますけれども、要するに、結局は何なのかというと、ここでの問題をどういうふうに解決していくのかということに基本的にはかかわってくると思うんです。そういうふうに考えたときに、空爆をしてそして最終的にどうするのかということにつながっていくのですけれども、独立ということを認めるという方向に結局向かっていくのか、それともそうではない形で解決という方向に持っていくのかということになると思うんです。  独立という方向で問題を解決するということになると、現在でも国際社会でそれは認められないわけですね、アメリカも含めて。つまり、戦後の国境の変更にかかわってくる問題。少数者が独立を言ったときにそれを認めていけば、それは国境が変わっていくわけですから認められないということになるわけで、これはバルカンの問題だけではなくて、それこそヨーロッパの国々にもそれから中国にもかかわる大きな問題なわけです。そういう原則をつくっていくのか、あるいはそうではなくて、既存の国家の枠の中で自治という形でそれが保障できるような仕組みをつくっていくのか、そういう問題になっていくんだと思うんです。  それから、そこまでの展望を持った上での介入というふうにはどうも現時点ではなかなか思えない。つまり、人権の問題もそうなんですけれども、介入によって、ミロシェビッチといういわば非常に残虐なというふうにレッテルを張られている人物を倒して、ユーゴというところで違った政権をつくっていくというのがやっぱりその背景に大きな問題としてあったのではないかというふうに思えます。  それと、NATO自体は、五十周年というのを迎えるに当たって、ヨーロッパでのプレゼンスを強めていくために、自分たちの同じ地域で生じている問題をやはり何としてでも解決したいという強い思いが見られたんだと思うんです。
  37. 月原茂皓

    ○月原茂皓君 先ほど先生がおっしゃったことと重なるんですが、この問題は少数民族の問題でありますが、政治体制議論とかそういうものが、今この地図を見せてもらって、どういうところに今後波及する可能性があるのか、波及するとしたらこういう問題を抱えて、今起こっておるわけじゃないけれどもここらも問題が出てくるよと、そういうのはどういうところでしょうか。第一次世界大戦のことを考えてもここらは非常に複雑なところですし、第二次世界大戦後、無理していろいろ国分けをしたものですから。そこらのところがちょっと教えていただきたいことです。  それからもう一つは、今、検証の問題をおっしゃっておったのですが、私は、今の先生のお話を聞きながら、これはNATOにしても引き下がることのできない行動をして、途中でやめるとそれは何のためだったんだというようなことになりますので、ここでやっぱり国連というものをどういう形で登場させるかと。NATOなんかの攻撃を名誉ある形でストップさせるのには、やっぱり検証も含めて、国連なり適当な機関がそこに登場することだと思うんですよ、とりあえずは。そういうのは今、先生がいろいろ分析された情報ではどうか。それで、日本がやっぱりそういうところで働く、そういう作用に力をかすというようなことが一つの方法かなと思いながら私は聞いたのですけれども。  この二つの点をお尋ねします。
  38. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 一番目の、民族の問題がどこの地域に拡大する危険性があるかという点については、先ほども少し触れましたけれども、最も問題を抱えているのはやはりマケドニアだと思います。それから、現在大きな問題にはなっていないんですけれども、しかしルーマニアにもトランシルバニアという地方にハンガリー人が百五十万以上いるわけです。それから、ブルガリアにはトルコ人が少数者としておりまして、これもみずからの権利の主張あるいは権利の要求をしていますので、そういったところに独立という方向性が出てくるとすぐに問題が波及することになりかねないというふうに思います。  それから、独立というような方向は、実は、ボスニアの内戦を平和的に解決していく、その際の最終的にデイトンの合意ですね、和平案というのが成立していってボスニアの和平のプロセスが動いてきているわけですけれども、そのデイトン合意というのとも違っていくんですね。  デイトン合意というのは、ここでは三つの勢力があったんですけれども、その勢力を分割した形でボスニアを将来的につくっていくのではなくて、ボスニアを一つにということを大前提にしてつくられていったわけです。ですから、コソボについても、独立という方向を出してしまうと、その原則とも大きく原則が違ってしまうということになります。  それから、国連の動きなんですけれども、アナン事務総長が今積極的な動きを始めているのは私もニュースで知っております。つまり、アナン事務総長が提案を出して、ユーゴ側あるいはミロシェビッチ側がそれを拒否したわけですね。それは、最初にNATO軍の空爆をやめろというのがユーゴあるいはセルビア側のまず停戦のときの第一条件なんですけれども、国連が出したものは治安部隊の撤退ということをまず第一に出してきていたので、結局それはのめないという形で拒否をしたんです。  今、もし停戦ということに持っていくには、私は、やっぱり両者を同時にという形の提案をしていかないとだめだと思うんです。NATOは空爆をやめる、セルビアの治安部隊もコソボから撤退するというのを同時に行う。どちらが先かという形で問題を解決していこうとするとどちらも譲れないという形になりますので、同時と。そういう形での停戦に持っていこうという提案をドイツが現在していて、そのドイツ案にロシアもかかわると、そしてそれを国連という場を使ってそういう解決の方向を目指していこうという動きが見られつつあります。しかし、どれほどこれが大きな動きにつながっていくのかはわかりませんけれども、そういう動きはどうもあります。
  39. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 先行の質問者からも既に出ておりますけれども、私も、どうしてもこの空爆の目的がよくわからないということがあります。  人によっては、カスピ海の石油がメーンではないかと、湾岸諸国のオイルに依存するのではなくしてバルカン半島を安定化させてパイプラインを引く、そういうふうに持っていくべきだと、そういうことからきているのではないかと言っている人もいれば、あるいは武器の商売上やっているというようなそういう考えの方もいるわけでございますけれども、どうしてもその目的が明確には私は理解できない。  ただエスニッククレンジングとか言いながら、人道上の目的で国家主権の枠を超えて空爆に踏み切ったわけですが、今度、先ほど先生からのコメントがございましたけれども、民族の少数者の独立は認めないよ、戦後の国境の枠は変更は許さないんだと。一方でこの国家主権というものを乗り越えていろんな行動をしながら、また一方で国家主権の枠に閉じ込めるというのは、ちょっと矛盾しているのではないかと私は感ずるんです。  ユーゴに留学されて現場を見ておられる先生としては、この多民族社会あるいは多民族国家のあり方といいますか、多民族と国家概念というものをどのようにお考えなのかということをコメントいただければありがたいなと思います。
  40. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 私は、この問題について、まず自治権というものを回復していくことがやはり最も望ましい解決方法だと思います。  それで、現在のユーゴというのは、これは先ほど申し上げましたように二つの共和国なんです。モンテネグロとそれからセルビアという二つの共和国から成っておりまして、モンテネグロというのは六十万くらい、それからセルビアという方が九百七十万ですから非常にバランスが悪いんですけれども、その二つの共和国から成っている。そして、こういうコソボというところをもう一つ、自治権を回復し、さらにそのユーゴスラビアという連邦の枠の中で共和国という地位を持てるような形にしていくこと、つまり、ユーゴの中の連邦のあり方を考えていくこと以外にこの問題の解決というのは現時点ではあり得ないと思います。  この政治的な自治の合意というのは、実はもうランブイエとパリでできていたんです。アルバニア側の代表とそれからセルビア側の代表が集まって政治的な合意、つまり自治の回復、あるいは高度な自治というふうに言われましたけれども、自治の回復ということについてはできていたんです。しかし、軍事面というか、合意ができた後その合意をいかに守らせるかという軍事的な問題で、NATOを中心とする平和維持軍を展開するということに対して、ユーゴ側が反対しセルビア側が反対したということであったわけです。  しかし、こういった多民族の国家においてその少数者がすべて独立という形になっていくと、もう本当にこの地域はとりわけ問題が複雑なわけですのでそういう形はとれない。だとすれば、全体では少数者なんだけれどもその地域では多数だというところについては完全な自治権を保障する形の仕組みをつくる以外には、ここでの民族の問題というのはやはり解決できないのではないかというふうに考えております。
  41. 山本一太

    ○山本一太君 私のお聞きしたいことはもうほとんど先生のお話の中に今まであったんですけれども、先生がおっしゃった、今回のNATOの空爆というのは裏を返すと国連の危機だということは、私も全く同感だと思います。  しかし、考えてみると、アメリカの戦略というのは国連が機能しなかった米ソの冷戦時代と変わっていなくて、つまり国際的な枠組みを目的のためにいわば戦略的に最大限活用する、しかしながら万一の場合にはその国連の枠組みを超えて独自でも行動するというアメリカの本音が本当に改めてかいま見えたような気がしているんです。  そこで、日本がこのことについて何かをしなければいけないという質問が佐々木委員の方からもあったんですが、私は、もちろん国連を通じて日本がこのコソボの問題にある程度対応していくということはいいとしても、十分配慮をしていかなければいけないと思います。それは、ユーゴの問題についてはほとんど政策決定のプロセスにもかかわっていない、つまり常任理事国でもない日本が、基本的にその政策決定のプロセスにかかわっていないのに常任理事国並みのお金とか人の負担を求められるみたいな、こういうやり方についてはやっぱり十分に考えていかなければいけないというふうな気がします。特に、文化的背景も全然よくわかっていないところに日本がどういうふうに支援をしていくかというのは、十分考えていかなければいけないと思います。  そこで、先生に伺いたいのは、ここら辺の地域の特徴とか民族の特徴とか歴史もよく御存じだと思うので、私自身はもちろん国連でできること、日本が国連を通じてできることには限界があると思っておるんですけれども、そういう要素を踏まえた上で日本はコソボ問題に対してどういうような支援ができるというふうなお考えを持っているのかということ。あわせて、これからのシナリオとしては、だれが幕引きをするか、だれが交渉者になるかということに絞られてくると思うんですけれども、ロシアか国連以外には考えられないというふうに書かれているんですけれども、なぜギリシャではだめなのか、そこら辺のところもちょっと伺いたいと思います。
  42. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 国連でできる日本の役割というのは、まさに今までバルカンのさまざまな問題について日本が直接的にかかわってきているわけではないのですけれども、しかし先ほど言ったようなこの地域の国々の和平会議国家間の会議は、必ずしも政府間だけではない、つまり地方自治体だとかNGOだとか、そういうのも含めた形の国際会議というのを設けていかないといけないと思うんです。  つまり、バルカン諸国外相会議だとかバルカンのサミットなんというのは、実際にもうこの数年行われているわけです。にもかかわらず、やっぱり問題は残ってしまっている。例えば、ボスニアの内戦が終結した後、九六年からはバルカンの外相会議というのが始められて、これはトルコ、ギリシャも含めて、マケドニア、アルバニア、ユーゴ、ブルガリア、ルーマニア、それからボスニアもオブザーバーで出したりというそういう会議が開かれているんですけれども、一つはやっぱり、会議をやってもプロジェクトをつくっても、結局お金がないというところに行き着く問題というのがかなりあるんです。インフラの問題でも、プロジェクトをつくって何かやろうとしたときにという、そういう問題があります。  それから、国家間ではさらに、その外相会議をもっとサミットの形にしようということで、これはおととしあたりからだと思いますけれども、バルカン・サミットというのが開かれているんです。各国の首相あるいは大統領が来てやるんですけれども、これもどうもひとつ具体的にならない。外交的な協調関係を保っていくんですよということをうたう文面は出すんですけれども、実際なかなか具体化していかない。  こういう国境周辺の民族の問題だとかというのを解決していくためには、この周辺の地域のいわゆる自治体だとか、そういうところの代表も含めた、それからNGOも含めた形の新しい会議、そういうNGO、地方自治体だとかというのが、例えば今後難民の問題やなんかを解決していく際でも非常に重要だと思うんです、自治体のネットワークというか。そういうものを含めた新しい形の和平会議というものを国連だとかを中心考えていく。  そういうもっとアイデアだとかを出せるんじゃないか。それによって日本がこの地域で非常に大きな役割を果たし得る、非常に好機なんではないか。このあたりの人たちは日本に対する期待というのは物すごく大きいんです、どこの国も。偏見が全くありません。経済的な利害関係がないわけですし、日本に対する関心も強いし、期待も強いんです。そういうところでありますので、先ほど言った会議というのはそういうふうな形で会議が持てる、そのおぜん立てをしていくことは十分に可能ではないかというふうに思います。  実際に、前ですか、国連大学の副学長を務められていた武者小路公秀先生、今はどこですか、フェリス女子大ですか、その武者小路さんなんかは、そういう動きを国連の枠で、例えばアメリカの元大統領のカーターだとか、ゴルバチョフだとか、そういういわゆる世界の著名な政治家たちを集めて委員会をつくってこういうような会議をつくろうとする動きと同時に、もう一方では、もっと一般市民のレベルでのそういう会議をつくろうとする動きと、両面からやろうとする試みはどうもなされているようです。私もそれと非常に近いんですけれども、政府間だけじゃない形の国際会議、平和の会議というのを開いていけるような、そういうことで大きな役割が果たせるというふうに思います。  それからもう一点は、幕を引いていく際に、やはり現時点ではロシアか国連ではないかというふうに書いたんですけれども、ギリシャというのもこれはセルビアにとっては非常に友好国の一つでありまして、この空爆のさなかにもさまざまな代表が行って日常的に接触をしています。だから、一時キプロスの大統領が出てきたのも、あれも背後でギリシャがアレンジしているという背景がありますけれども、ギリシャもそういう役割を果たす国ではあると思うんですけれども、ヨーロッパの諸国それからアメリカとの関係において、やはりロシアという国に頼らざるを得ない面は国際政治の場では現時点でもあるというふうに思っておりまして、そういう意味でロシアが最も重要な国なんではないかというふうに思っています。
  43. 井上美代

    ○井上美代君 時間がありませんので、一問だけ質問をしたいというふうに思います。  非常に民族対立の深刻さというのもよくわかりましたし、民族対立という問題は、二十一世紀に向けまして私たち人類が課せられている非常に重要な課題であるということもよくわかりました。  そうした中で、今方向もいろいろと提言をいただいておりますので、そういう問題についても考えていきたいというふうに思いますが、民族浄化にしましても、NATOの攻撃にしましても、やはり私は認められないし、やめるべきであるというふうに思っております。  民族浄化については、この地図の左側にありますボスニア・ヘルツェゴビナのときにも女性のレイプなども非常に行われまして、国連の数字では一万人ぐらいの子供が生まれているというのも出ているんです。このたびも二十人の女性がレイプで殺されているというのが日本の新聞でも報道されております。だから、何としてもこの民族浄化もすぐやめるべきであるというふうに私は思います。  それで、今解決の方向は出ているんですが、やはり攻撃をする側の問題としてあるんじゃないかなというふうに私は思っているんです。国連憲章の五十一条にも基づかない空爆だし、国連憲章にも違反しているというのは先ほどから出ているとおりなんですけれども、これはNATOが主権国に対して国連の決議なしに軍事介入した初のケースではないかと思うんです。  それで、この間、日経新聞を読んでおりましたら、「ロシアなどにとって、今回の空爆は「冷戦後の世界秩序を根本から壊し、NATOつまり米国世界の警察・司法機能を担う新たな国際システムを構築する試み」」と、こういうふうに国際評論家のボービンさんが言っておられるんですけれども、こうしたことについて先生はどのようにお思いになるかということをお聞きしたいのです。
  44. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 一つは、民族浄化だとかが行われていると。  ボスニア内戦のときの民族浄化の問題は確かにあって、その問題はまさに先ほど言ったハーグの国際的な裁判で現在行われている。それから、同じようなことがコソボでもとまたニュースで流れているんですけれども、これもいささか疑問を持って見なければいけない。つまり、ニュースの出どころが一体どこなのかということをちゃんと検証しないといけないと思うんです。もしその事実があるんだとしたら、それは本当にボスニアと同じような事態がまたここでも発生しているということになるわけです。  コソボのレイプだとか収容所だとかといううわさも流れているわけですけれども、本当に収容所がどういうふうな形で存在しているのかというのは、検証がちゃんとできていませんから、何ともそれについては私はお答えできないんですけれども、そういうことが事実であるとすれば、ボスニアと同じような問題が発生しているということは言えるわけで、それに対しては私は強い憤りをやっぱり持ちます。  それから、もう一点はアメリカの問題でしたですね。
  45. 井上美代

    ○井上美代君 NATO自身がそうですけれども、世界の警察的にやってくる、そして国連の決議も何もなしに行動していくという問題です。これを国際評論家のボービン氏は、司法機能を担う新たな国際システムを構築する試みではないかと、こういうふうに指摘しているんです。だから、こういう報道についてどういうふうに思われるのかというのを聞きたいんです。
  46. 柴宜弘

    参考人(柴宜弘君) 確かにそういう側面もあると思うんですけれども、私は、基本的に初めからアメリカは今回の問題に非常に積極的ではなかったのではないかと思うんです。むしろヨーロッパの問題であって、ヨーロッパのNATOのプレゼンスの問題ということが背景にあって、空爆をする際に、アメリカがやらなければヨーロッパだけではできないわけで、ですから、当初は決してアメリカが積極的に動いていったのではなくて、NATOの五十周年の問題だとかというのと含めて、ヨーロッパにおける新たなNATOの戦略なりあるいはプレゼンスというのを強めていくためにアメリカはかかわったのではないかというふうに私は見ております。
  47. 井上美代

    ○井上美代君 ありがとうございました。
  48. 村上正邦

    ○会長(村上正邦君) 柴参考人に対する質疑はこの程度といたします。  一言ごあいさつを申し上げます。  柴参考人におかれましては、大変貴重な御意見をお述べいただき、おかげさまで大変有意義質疑ができました。これからの参考に資してまいりたいと思っております。  柴参考人には今後ますます御見識を御発揮いただき、御貢献されますことを祈念いたします。  本日はありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後四時三十分散会