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1999-02-03 第145回国会 参議院 国際問題に関する調査会 第1号 公式Web版

  1. 会議録情報

    平成十一年二月三日(水曜日)    午後一時開会     ─────────────    委員氏名     会 長         村上 正邦君     理 事         岡  利定君     理 事         山本 一太君     理 事         石田 美栄君     理 事         魚住裕一郎君     理 事         井上 美代君     理 事         田  英夫君     理 事         田村 秀昭君     理 事         山崎  力君                 加藤 紀文君                 亀井 郁夫君                 佐々木知子君                 塩崎 恭久君                 常田 享詳君                 馳   浩君                 服部三男雄君                 若林 正俊君                 今井  澄君                 今泉  昭君                 櫻井  充君                 内藤 正光君                 高野 博師君                 吉岡 吉典君                 月原 茂皓君                 島袋 宗康君     ─────────────    委員異動  二月二日     辞任         補欠選任      今井  澄君     小川 勝也君     ─────────────   出席者は左のとおり。     会 長         村上 正邦君     理 事                 岡  利定君                 山本 一太君                 石田 美栄君                 魚住裕一郎君                 井上 美代君                 田  英夫君                 月原 茂皓君                 山崎  力君     委 員                 亀井 郁夫君                 佐々木知子君                 塩崎 恭久君                 常田 享詳君                 馳   浩君                 服部三男雄君                 今泉  昭君                 小川 勝也君                 櫻井  充君                 内藤 正光君                 高野 博師君                 吉岡 吉典君                 田村 秀昭君                 島袋 宗康君    事務局側        第一特別調査室        長        加藤 一宇君    参考人        博報堂岡崎研究        所所長      岡崎 久彦君        朝日新聞社編集        委員       船橋 洋一君     ─────────────   本日の会議に付した案件 ○理事辞任及び補欠選任の件 ○参考人出席要求に関する件 ○国際問題に関する調査  (「二十一世紀における世界日本」のうち、  アジア安全保障について)     ─────────────
  2. 村上正邦

    会長村上正邦君) ただいまから国際問題に関する調査会を開会いたします。  委員異動について御報告いたします。  去る一月十八日、笠井亮君が委員辞任され、その補欠として吉岡吉典君が選任されました。  また、昨二日、今井澄君が委員辞任され、その補欠として小川勝也君が選任されました。     ─────────────
  3. 村上正邦

    会長村上正邦君) 理事辞任についてお諮りいたします。  田村秀昭君から、文書をもって、都合により理事辞任したい旨の申し出がございました。これを許可することに御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  4. 村上正邦

    会長村上正邦君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。  この際、理事補欠選任を行いたいと存じます。  理事選任につきましては、先例により、会長の指名に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  5. 村上正邦

    会長村上正邦君) 御異議ないと認めます。  それでは、理事月原茂皓君を指名いたします。     ─────────────
  6. 村上正邦

    会長村上正邦君) 参考人出席要求に関する件についてお諮りいたします。  国際問題に関する調査のため、今期国会中必要に応じ参考人出席を求めたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  7. 村上正邦

    会長村上正邦君) ちょっと速記をとめてもらいたいんですが。    〔速記中止
  8. 村上正邦

    会長村上正邦君) 速記を起こしてください。  御異議ないと認めます。  なお、その日時及び人選等につきましては、これを会長に御一任願いたいと存じますが、御異議ございませんか。    〔「異議なし」と呼ぶ者あり〕
  9. 村上正邦

    会長村上正邦君) 御異議ないと認め、さよう決定いたします。     ─────────────
  10. 村上正邦

    会長村上正邦君) 国際問題に関する調査を議題といたします。  本日は、本調査会テーマである「二十一世紀における世界日本」のうち、アジア安全保障について参考人から御意見をお伺いした後、質疑を行います。  本日は、参考人として、博報堂岡崎研究所所長岡崎久彦君及び朝日新聞社編集委員船橋洋一君に御出席いただいております。  この際、一言ごあいさつを申し上げます。  本日は、御多忙中のところ本調査会に御出席いただきまして、まことにありがとうございます。  本日は、忌憚のない御意見を承りまして、今後の調査参考にいたしたいと存じますので、何とぞよろしくお願いを申し上げます。  本日の議事の進め方でございますが、まず岡崎参考人船橋参考人の順にお一人三十分以内で御意見をお述べいただきたいと存じます。その後、午後四時ごろまでを目途に質疑を行いますので、御協力をお願いいたします。  なお、意見質疑及び答弁とも御発言は着席のままで結構でございます。  それでは、岡崎参考人から御意見をお述べいただきたいと存じます。岡崎参考人
  11. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) どうもありがとうございます。ちょっと風邪を引いておりますので言語不明晰な点があるかも存じませんが、お許しください。  アジア安全保障日本の役割、これはもう極めて大きなテーマでございますので、お配りいたしましたレジュメに沿って、まず要点だけなるべく簡単に申し上げたいと思います。  まず、一番の前提として申し上げたいのは、日本政府は従来、何十年にわたりまして日米同盟を中心として日本の安全と繁栄を守っていくという方針をとっております。これに対して、もう少し何かほかのアイデアがあるのではないかという議論がいろいろございます。いわく、包括的安全保障はどうかとか、あるいは予防外交はどうだとか、あるいは逆にもっと自主外交があったらいいのではないか、そういう議論はいろいろございます。  特に、そういう議論は一般的によく言われている議論でございますけれどもよく練れていない議論でございまして、国際政治の上でも必ずしも有効な反論でもないわけでございますけれども、その中で一番大きな問題は、同盟よりも集団安全保障の方がいいのではないか、そういう議論があるのでございます。まず、それについて若干御説明したいと思います。  同盟集団安全保障というのは、これはしばしば混同されておりまして、また故意に混同している面もあるのでございます。例えば、アメリカが戦後NATOに入った。これは、平時に軍事同盟に入るのは初めてでございますから、上院で審議するときにこれは何だということで大変攻撃されまして、そのときにアチソン国務長官は、これは伝統的な同盟ではないんだ、これは全く伝統的な同盟とは違う新しい集団安全保障である、そういう説明をしておりまして、それ以来、とにかくアメリカ政府説明でもこの両者の区別というのは全く混沌としてきております。  これを非常に明快に整理したのはキッシンジャーでございまして、同盟集団安全保障というものは百八十度違うものだ、まるっきり違うものだ、そういうことを言っております。ごく簡単に申しますと、同盟というのは言っても言わなくても結局は仮想敵国というものを考えているんだ、それを力のバランスでもって抑えるのが同盟の目的であると。それに対して、集団安全保障というのは、これは仮想敵国というものは全くないんですね。ちょうど国内司法制度と同じであると。だれが犯人だということは特定しないで、犯罪が起こったらばみんなでそれを罰しよう、それが集団安全保障であるというふうに定義してございます。  もっと具体的に申しますと、日本にとってはかつての日英同盟、現在の日米同盟ヨーロッパではNATO、これは同盟でございます。集団安全保障というのは国連であり国際連盟である。それから、日英同盟が廃棄されたときに後にできました四カ国同盟というものがございます。これは日英米仏の四カ国同盟でございます。それから、当時、ちょうどヨーロッパでも英独仏伊ロカルノ条約ロカルノ条約はその後メンバーもふえておりますけれども、それができた。要するに、お互いの力のバランスで平和を守ろうというのではなしに、お互いルールを決めてお互いルールを守れば平和になるじゃないか、それをみんなで守ろうじゃないか、それが国際連盟であり、こういう集団安全保障でございます。それがヨーロッパでは今はCSCEというものになっております。これは全欧安全保障機構でございます。それでアジアでもARF、これはASEANに周辺の大国が若干加わりまして安保対話を行う、そういう機構でございます。それによって平和を守ろう、そういう話でございます。  歴史の上では、この集団安全保障という考えはもうアメリカ理想主義見果てぬ夢でございまして、旧来の同盟のようなことをやっているから一次大戦みたいなことが起きるのだ、みんなが法律を決めていい子になれば戦争は起きないんじゃないか、それでいこうと、そういう話でございました。それが歴史の上では一度も成功していないのでございます。成功していなかった例はもう数限りないのでございますけれども、キッシンジャーが挙げておりますのは、国際連盟下満州事変、イタリアのエチオピア占領、ドイツのオーストリア、チェコ制圧ソ連フィンランド侵攻、今度は国際連合になってソ連のハンガリー、チェコアフガン侵攻と、何の役にも立たない。にもかかわらず、これは見果てぬ夢でございまして、何度でもこれをすると、そういうことでございます。  この二つをどういうふうに整理して考えるかということでございますけれども、一九九五年にアメリカ国防省が出しましたナイ報告というのがございます。時の国務次官補ジョセフナイの名前をとってナイ報告になっておりまして、そこに極めて明確に書いてございまして、多数国安全保障というものは同盟を補完するけれども代替しないと。つまり、同盟というものは必要なんです。アメリカは、こういうアイデアをさんざん出しながら、結局NATO日米同盟に依存して世界の平和を守ってきた、またそれに成功しているわけなのでございます。それ以外では何も成功していない。であるから、その同盟なるものは必要なのでございます。  といって、こういう試みをすることがむだというわけではないんです。これは道徳的にもいいことでございますし、みんなが一緒になって平和を守ろう、それはまた結構な話なのでございます。ただ、これは補完するものであって代替しない、だから同盟だけは忘れてはいけない、これははっきりナイがここで書きました。実はジョセフナイ自身、二、三年前から、日米同盟などはやめて極東日米中ソの四カ国条約をつくったらどうかとか、ちょうど日英同盟をやめて四カ国条約をつくったらというようなアイデアを持っておりました。しかし、国防省に入って現実の政治に直面しているうちに考えを変えまして、はっきりこうなりました。  私はこの考え方がいいと思います。これからもいろいろ、予防外交を重点にしろとか、まず経済外交だとか、それから人道外交だ、道義外交であるとか、その方を先にすべきだという議論がございますでしょうけれども、これはあくまでも同盟がしっかりしているという前提のもとでございます。その上でこういうことをすることは一向構わないことでありますし、これはいいことであります。いいことではありますけれども代替はしないと、そういうふうにお考えいただければこの問題は整理がつくと思います。代替しない上に過剰な期待をすれば過去の例では全部裏切られている、こういうことをしても国際の平和を守るためには役に立っていない、そういう前例でございます。    〔会長退席理事岡利定着席〕  そこで、同盟というか、力のバランスによって平和を維持するということがやはり基本でございます。そうなりますと、アジアにおける力のバランスというのは今後二十一世紀に向かってどうなるだろうか、まずその見通しが必要なわけでございます。やはり二十一世紀アジアの平和の最大の問題は中国でございます。  ヨーロッパアジアとは全く違いまして、ヨーロッパはもはやソ連脅威が地政学的にもう三百年分後ろに引きました。一九八九年はもうヨーロッパの真ん中まで来ておりましたのが、八九年にベルリンの壁が崩れまして大体百五十年分後ろに引きました。エカチェリーナのころまで引きました。それからまた九一年にもう百五十年分引きまして、ピョートルのころまで引きまして、ヨーロッパはまず大きな戦争ということは今ちょっと考えられません。小さなものはございます。コソボとか、そういうことはございます。  ただ、アジアはむしろ今からナショナリズムの時代でございまして、それで力のバランスが非常に重要になる時代でございます。やはり中国がだんだん強大になってくる、これがアジア最大の問題でございます。朝鮮半島の問題は、これは実は軽々に考えてはいけないんです。というのは、友好国アメリカの三万何千人の将兵、その家族の命がかかっている問題でございますし、それからまさに友好国韓国、これが百万の犠牲が出るかもしれない問題でございまして、これはもう大問題でございます。ただ、これは幾ら大きくても局地的問題であると同時に、二十一世紀の大問題であるかどうかはわかりません。二十一世紀初頭にはあるいは片づく問題かもしれません。ですから、二十一世紀の長期的問題というふうに考える場合は、これは中国問題に集中して考えればいい。    〔理事岡利定退席会長着席〕  中国が強大な国になるかどうか、これはならないという説もございます。大体見通しからいって、中国が民主化するという見通し、あるいは逆に分解してばらばらになってしまう、そういう見通しがございます。ただ、それは情勢判断をする場合は普通捨象して考えていいことなのでございます。どうして捨象していいかということでございますけれども、日本の安全ということから考えますと、それは日本の安全にとって脅威が少なくなるということでございますから、そういうケースの場合はそうなったときに考えればいい話でございます。  情勢判断基本でございますけれども、きざなようでございますけれども国とは憂えるものでございまして、憂国の士なる者はいるけれども楽国の士なる者はいないと。ですから、一番心配なことをやっぱり考えた方がいい。しかも、その可能性が一番高い可能性でございます。大体今どおりの経済成長もいたしますでしょうし、その間、軍事力もだんだんと増加してくる、そうしますと極東軍事バランスがだんだんと変わってくるわけでございます。それが二十一世紀アジア最大の問題でございます。  それで、一番の焦点となるのは台湾問題でございますけれども、昨年一年間の事態の動きを見ているだけでもこの解決は至難のわざでございます。実は、昨年の初めごろからクリントン訪中にかけて、アメリカ国内、特に親中派の人は、何とかこれを解決しようということで、例えばアメリカ台湾の独立は認めない、そのかわり中国台湾武力行使をしない、そういうような妥協がどこかにあるんじゃないか、それを模索したようでございます。それを試みたのでございますね、クリントン訪中の際にスリーノーという政策で。ところが、スリーノーを言うが早いか、上院、下院が満場一致決議をしまして、これはクリントン政策を認めないという強い意思表示であるということをはっきり言って、それでこれを満場一致で可決しました。ということは、アメリカの議会がクリントンのしたことをだれ一人承認しないという意思表示と。これはとてもアメリカ政策にはなり得ません。そうなりますと、そのときの決議にございますけれども、台湾意思を尊重するということが書いてございまして、結局台湾の意向を尊重する解決にならざるを得ない。それから、絶対的に平和的解決でなきゃいけない。ところが、中国はあくまでも武力行使を捨てないと言っておりますので、このどちらかがおりない限りはこれはもう平行線で、どうしても衝突路線になっております。現状ではそう考えざるを得ない。これがやはり二十一世紀最大の問題でございます。  二十一世紀安全保障を言う場合に、いろいろ一般論あるいは細かいことを申し上げましても、何が大きいかと言えば、結局この問題が一番大きな問題でございます。これが大体いつバランスが崩れるかという話でございます。ただ、米中の力関係で本当にバランスが崩れるということはあり得ないんで、アメリカの方が圧倒的に強いのでございます。  問題は、中国軍事力がだんだんとふえてくるに従って、その都度に少しずつ局面が変わってくるわけでございます。具体的に申しますと、この前は李総統選挙、これに対して中国影響力を与えようとして武力を行使する姿勢を示した。それでアメリカ空母機動部隊を二個送りまして、それで中国はもうなすところなく引っ込んだということでございます。  まず第一の段階は、アメリカ空母機動部隊が二個来ても中国はそんなものは怖くないというような軍事バランスがいつできるかということでございます。それならアメリカは三個にすれば、四個にすればいいわけでございますけれども、やはり二個と四個というのはアメリカというのは違うのでございます。二個というのはいつもこの辺におりますけれども、四個になるとこれは本当に戦争を覚悟で配置する。湾岸戦争の場合に六個機動部隊を配置したとか、そういうことでございますから、これはやっぱり違うのでございます。また、今度は沖縄のアメリカの空軍を使えば、それでもまた十分。その場合は、日米安保条約を適用するというもう一つの敷居をまたぐわけでございます。中国の力が強くなるにつれて次々と敷居をまたいでいかなきゃいけない、そういう時期がやがて来るわけでございます。  それが一体いつごろ来るかという見通しでございますけれども、私はもう少し早くかと思いましたけれども、やはり二〇一〇年ごろだそうでございます、専門家に言わせますと。二〇一〇年ごろに新鋭戦闘機が約三百機中国側にそろって、訓練も何も全部完成する、それからそれを修理する飛行場も大体全部完備する。これはやっぱり十年以上かかるらしい。そのころになると最初の危機が来まして、それから後は次、次のステージが来る、大体そう考えていいと思います。それが大体二十一世紀初頭の軍事バランスの変化の見通しでございます。  これを解決する方法でございます。これを解決する方法は私は二つあると思います。  まず第一は、一番初めの議論に戻りまして、同盟集団安全保障かという問題でございます。ヨーロッパではCSCE全欧安保会議というものがございまして、これによって相互の信頼を醸成する、それから透明性を確保する、そうして平和を守っております。現在はそれは非常に有効に機能しております。これがアジアでもできればいいわけでございます。ただ、中国台湾武力解放を言っている間はこれはできないのでございます。  どういうことかと申しますと、CSCEというのは一九七五年、ヘルシンキで合意をしたのでございます。このときの取引は、西側は現在の国境線武力では変えないということを認めました。ヨーロッパ国境線というのは非常に妙な国境線でございまして、ロシアはいまだに平和条約を持っていないんです。二次大戦の後で勝手に占領したところに線を引いて、それを頑張っているだけの話でありまして、これはだれも認めていなかった。初めて七五年に、武力を使っては変えないと。これは事実上の承認でございます。そこまでは認めたんです。  その条件として、東側は言論の自由、要するに西側からラジオ、テレビが入ってきたり通信したり、この言論の自由を認めた。これは、当時は西側が損な取引をしたように考えられますけれども、結果としては大きかったんですね、もう国境線は変わらないという安心感があったものですから。ソ連の方は、少しぐらい自由化してもいいということで自由がどんどん入ってきまして、それがベルリンの壁の崩壊につながるわけでございます。その後もお互い信頼醸成、これはCSCEの枠内で着々と進んでおります。  ところが、極東になりますと、これは交換条件にならないんですね。国境線現状中国が認めるということは、台湾海峡現状を認めて武力行使をしないということなんです。それの条件として中国に対する言論自由化を求める。これは中国にとっては損ばかりでございます。得は何もない。西側にとっては得ばかりでございます。ギブ・アンド・テークにならないんですね。ですから、ヨーロッパ方式アジアに適用するという基盤がそこにないわけでございます。それがまずできれば、お互い信頼を醸成してお互い軍備を手を開いて見せる、それでもってお互い軍縮する。これがヨーロッパで成功した例でございますけれども、武力行使をすると宣言した後でお互いの手を見せても、中国はこれから三百機スホーイを買うと、こうやってとるんだと、それじゃ台湾の方は百五十機のF16を買ってミラージュを六十機買って守ると、そう言っているうちにと、エスカレートするだけでございますね。  ですから、基本的に信頼醸成するためには平和的解決ということを尊重しない限りこれはあり得ないんですね。そもそも軍縮なるものが、これはお互いのうそでいいんです、プロパガンダでいいんです。私は平和愛好国家だ、うちも平和愛好国家だ、私の軍備は防衛的、私の軍備も全く防衛的と、そういうことならお互いで話し合いしてお互いの手の内を見せましょうと。じゃ、あなたもこれだけ減らしてこちらも減らす、お互いに減らしていけばそれでいいんだと、これが軍縮基本でございます。ところが、武力を行使すると言っていると、ちょっと軍縮信頼醸成緊張緩和もこれはあり得ないですね。ですから、これは不可能なんです。  ですから、アジアにおいてヨーロッパ並みの平和を達成する最大方法は、一番の早い方法は、台湾問題の平和的解決、この原則を中国が認めることであります。これを認めればすべて解決します。これを認めた上で、ああそうか、平和的解決かと、武力行使をしないのか、それなら台湾海峡にあれだけの武力は要らないからお互いに減らしましょうとか、あるいは金門馬祖も要らない、そのかわり福建省の施設も変えるとか、それから演習する場合は必ず事前に通告しましょうと。これはヨーロッパは全部やっていることでございます。そうなっていけばアジアは平和になります。これが一つの方法。  それからもう一つの方法は、こういう軍事バランスがだんだん悪化してきて、そのために緊張が激化してくる。アメリカ軍備を増強することもできる、それから沖縄の兵力を強化することもできる、それから日本は沖縄からアメリカが出動することを認めていくこともできる。こうやって三、四年、五年ずつ稼いでいく、それはできます。ただ、これはいずれ限界が来ます。これは追いつき追い越すゲームでございますから、いつかは限界が参ります。  ここで問題なのは、日本という国が現在、海空軍については世界第二位の実力を持っているんです。冷戦が終わるころにつくった防衛計画があと少しで大体完備します。という意味で、最新の、最も近代的な装備を持っております。これが今実は極東軍事バランスでゼロに計算されているんですね。これは非常に奇異な事態でありまして、どういうバランス考える場合にもゼロになっているんです。これをプラスに数えますと、軍事バランスというのは一挙に変わるのでございます。  そうしますと、極東日本の持っている二百機近いF15でございますね、最新鋭戦闘機、それからAWACSそれからイージス艦、これ全部を別に使おうというんじゃありませんけれども、ひょっとしたら使われるかもしれない、可能性があるというふうに軍事バランスの中に計算しますと、極東軍事バランスは一挙に変わります。二〇一〇年なんてものじゃございません、二十年ぐらい先になります。そうしますと、これから二十年ぐらいはアジアの平和というのはもうほとんど心配ない、そういうことになります。それが軍事能力が潜在的に持つ抑止力でございます。  二十年平和がもてば、この間いろんな戦略が考えられます。例えば、キューバ危機でロシアがミサイルを運び込もうとした、それでアメリカに一喝されて引っ込んだ。あのときの軍事バランスではとてもかなわない。これはまさに台湾海峡と同じでございます。それから二十年間、本当にロシアが遺恨十年一剣を磨くということでもう営々と大軍拡をしたんです、ブレジネフ軍拡でございます。それが一九八〇年ごろ、ですから十八年ぐらいして追いついてきて、それで本当にあのときはソ連脅威が事実上追いつきました。追いついて、ある面ではアメリカを凌駕していると当時見られて、そういう意味で大体五分五分になってきて、アメリカが最も危機を感じたころでございます。北方領土に進駐したりアフガン侵攻があったり、あの時代、あのときは本当に戦争をすると五分五分、非常に際どいバランスになりました。  ところが、その結果、ソ連は経済的に追いつかなくなって経済的に崩壊するんですね。結局、アメリカも軍拡競争をして、それで戦争をしないで平和のうちに問題を解決した、つぶしたということがございます。  二十年ということになりますと、中国ソ連よりも賢いですから、途中であきらめる可能性は十分あると思います。そうしますと、冷戦の終わりのような状況が戦争にならずに実現する、そういう戦略は十分立ちます。例えば一九二二年のころでございますけれども、例の海軍の軍縮で五・五・三、日本が三で英米が五と。あれは、もし軍拡競争を続ければ日本は五年もっていないですね。三年ぐらいでもう謝っています。恐らくそれで太平洋戦争はもうとてもできなかっただろうと思います。そういう長期戦略もあり得るわけでございます。  ですから、結論で申しまして、アジアの平和にとって最も大事なことは何かということを申し上げますと、それはやっぱり軍事バランスです。軍事バランスとは何かと申しますと、これもキッシンジャーの定義でございますけれども、問題を平和的にしか解決できない形をつくることが軍事バランスです。つまり、台湾海峡にしろ何にしろ、平和的解決以外の方法はあり得ない、武力をちょっと使えばどうにかなる、そうでない形をつくる、これが軍事バランスです。軍事バランスを使って解決しまいと思うならば、これは武力行使をあきらめる、平和的解決しかないということを宣言して、それで信頼醸成措置、軍縮を実行する、これが一つの方法でございます。  もう一つは、これはやむを得ないので軍事バランス平和的解決しかあり得ない形をいつもつくっておく。その場合に、日本軍事力というのは非常に大きな要素でございます。それを長く続けると、今度は本当の最後には経済力の限界というものが参りまして、それがまさに冷戦の終わりと同じような形でありまして、問題の決着をつける、そういう可能性もございます。  この二つのいずれかが二十一世紀アジアの平和を保つ最も実効的な方策である、そういうふうに考えます。  以上でございます。
  12. 村上正邦

    会長村上正邦君) ありがとうございました。  次に、船橋参考人から御意見をお述べいただきます。船橋参考人
  13. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 船橋でございます。  きょうはお招きいただきましてありがとうございました。大変光栄に思います。  アジア安全保障、それと日本の役割ということで報告せよということでございますけれども、最初に、九〇年代に入って、アジアだけでないんですけれども、世界の大きな政治潮流といいますか、さらには構造変化、それがどのようにアジア太平洋にも影響を及ぼしているだろうか、そういう見取り図をちょっと描いてみたいと思うんです。  それから、各論といいますか、朝鮮半島と、今、岡崎さんも触れられましたけれども中国をどう見るかという問題、その中で新しい挑戦が日本安全保障政策上間違いなく生まれていて、それに対してどのような手段、手法、政策でもって対応するべきだろうか。その際に、日本安全保障政策考え方、あるいはその進め方の死角といいますか、問題点をどういうふうに見るべきだろうか、そのような順序で御報告をしたいと思います。  九〇年代は湾岸戦争で始まったわけです。その余波というのは、実は非常に深いところがあると思うんです。それは、日本国内政治もそうですし、その背景あるいは震動源となっている一種の新たな日本世界とのかかわり方のあり方、一言で言うと、金だけではだめだ、汗を出せというような一つの思想、そういうものもあると思います。これは、日本だけでなくて、実は中国にも物すごいショックを与えた。  一つは、アメリカのハイテクパワーです。これは、ことしのイラク空爆、アメリカとイギリスが中心になってやりましたけれども、ここではさらに先端的な軍事技術が動員されている。単にトマホークの個々の命中率が上がったとかいうことだけでなくて、システムとして、あるいは国防、あるいは軍事、兵力の投入であるとか消耗であるとかということ、全体の軍事力をどう使うかというところ、思想に至るまで変化が生まれている。クリントン・ドクトリンと言う人もいますけれども、アメリカの兵隊の命はほかのどの兵隊よりもはるかに高い、あるいはとうといと言わんばかりの、つまり労働力のかわりに資本と技術でもって戦争をするというような新しい考え方、これをRMAという新たな潮流の一端というふうにも見ることができると思うんですね。これは、レボリューション・イン・ミリタリー・アフェアーズ、軍事革命と呼んでいますけれども、突然出てきた突然変異ではなくて、特に九〇年代に入ってから加速度的にそういう方向に向かっている。  中国は、もちろん人民戦争論というのはとうの昔にかなぐり捨てましたけれども、新しい軍事ドクトリンであるとか、そういうものを模索しているときにこれにさらされたということで、軍部を中心に、新たなアメリカ脅威、一極構造、中国では独覇と言いますけれども、それに対する脅威感。さらに、後ほど触れますけれども、台湾の位置づけ、意味づけというのが単に政治的な問題というだけでなくて地政学的な問題にも発展しかねないという危機感。日本アメリカ軍事同盟がさらに中国を明確に標的とするものではないかというような危惧、この辺が一つ大きい分水嶺で生まれたと思うんです。  つまり、中国にとってソ連は敵性国、アドバーサリーですけれども、ある意味ではアメリカをチェックするパワーでもあった。しかし、ソ連が崩壊したときに、下手すると自分がチェック機能にさせられてしまうし、アメリカ中国をそういうものとして意識してくる危険性が非常に高まってくるというようなこと、それが軍事技術のおくれというような意識と相まって、新たな中国世界観、安全保障観というものに非常に大きいインパクトを及ぼしたということがあるんだと思います。  それから、沖縄の基地問題は、沖縄の七二年返還後、約束事としては最大の基地返還の成果といいますか結果を生んだわけです、普天間の飛行場の返還を含めて。しかし、その過程での議論安全保障政治の力学みたいなものを見ていますと、明らかに変化が生まれている。特にそれは日本の方で顕著である。  海兵隊のプレゼンスの問題をめぐって、かなり広範な国民層に、政党も含めて、アメリカのプレゼンスの適当量の削減の方がむしろ日米安保を持続して維持する上で望ましいのではないかというような考え方が生まれる。同時に、国民のより多数が日米安保を支持という広がりは見せていると思うんですけれども、冷戦時代のように激しく支持する、強く支持するというような深まりといいますか強度といいますか、それは薄らいでいるのではないかということも含めて、アメリカのプレゼンスをどういうふうに考える、基地をどういうふうに考えるというような問題、これが今までとは違う、より大きな国民的な、一沖縄という問題だけでなくて、広がりを持ったイシューとして出てきている。日米安保の将来を考えたときに、これは一つの大きな問題であり続けるだろうし、今まで以上により深い問題となるだろうという点です。  それから、先ほど岡崎さんも触れられましたけれども、九六年三月の中台危機、これは実は、実相がどうだったのか、アメリカの意図、中国の意図、台湾の意図、軍部の動き、その結果をそれぞれどういうふうに総括、評価しているか、まだまだわからないところがたくさんあると思うんですけれども、少なくとも、中国がみずからの政治意思、あるいはそれを軍事ドクトリンによって支えられた形で外に投影する。つまり、台湾は不可侵の主権の範囲内である、そこに独立運動は認めない、ほかの国がそれを支持するのも認めないと。いつでも軍事的に我々はそういう意思を貫徹することができる、あるいはその意思があるということを示す。  それに対してアメリカが、台湾の問題というのは確かに中国の主権問題であるけれども、同時にそれは国際問題でもあると。西太平洋におけるアメリカのプレゼンスに対する挑戦、それがアメリカの国益あるいは安全保障にとってマイナスになったら認めないということで、アメリカもみずからの能力と意思を、空母機動部隊ですけれども二隻派遣することによって示すと。ある意味では、米中がそういう形で安全保障を軍事的にまみえるという事態に立ち至った。  これは多分、長期的に実は二十一世紀的な大きな課題を投げかけていると思うんです。そこから出てくる矛盾はいろいろあると思うんですけれども、根本的矛盾は、アメリカのプレゼンス、日米安保もそのプレゼンスと連動した形での機構ですけれども、それはこの地域の安定にとって役立つのか、つまり安定機能なのか、それともそうでないのか。中国は、まだ一〇〇%の結論は出していないと思うんですけれども、アメリカのプレゼンスさらには日米安保はこの地域の安定にとって脅威になり得る、その部分が見え始めた、こういうふうに判断する。それに対して日本アメリカは、そうではなくてこれは安定そのものだ、安定機能であると。ここでは、これは根本的に矛盾になってしまうということが出てきたと思うんです。この問題は今後とも相当長期にわたって多分問題であり続けるだろうと思います。  それから、九〇年代の大きなショックといいますか、インド、パキスタンの核実験、それのグローバルに与える影響とともに北東アジア安全保障に及ぼす影響、それから去年の八月三十一日の北朝鮮のテポドンの実験、その前段階の九三年五月のノドンの実験とこれは込みとして考えた方がいいと思うんですけれども、テポドンの方がショックは大きかった、日本列島をまたいだというようなこともありますし。  これは、ある意味では日本の、やややゆ的に使われている言葉ですけれども一国平和主義であるとか、言ってみれば一国非核主義といいますか、日本世界唯一の被爆国として二度と繰り返しませんという、そういう市民層、市民運動も含めた非核の祈り、あるいはそういう運動ということで、そのメッセージだけではとても十分に対処、対応し切れない問題。それも、単にIAEAであるとかNPTであるとか、世界機構あるいはレジームといいますけれども制度、体制をつくるということだけでもまた対処、対応し切れない。例えば、北東アジアという限定された地域の中で地政学的にどのようにより非核化していくか、それはゾーンであれプロセスであれ、そういうような課題を突きつけられるというときに、ここは安全保障政策としてこの問題をまたとらえざるを得ないという側面も出てくるということがあったと思うんです。  テポドンに関して言えば、言葉は悪いですけれども一国専守防衛主義といいますか、より根本的に言うと、日米安保という体制は抑止力として機能することが想定されているわけですけれども、部分的にこの抑止力が崩れたということが言えるかもしれない、ここは私はもう少し考えなきゃいけないところだと思っているんですけれども。つまり、去年八月十三日、十四日から、北朝鮮がこのような実験をするということはかなりの程度アメリカも、日本にも情報も入っていたし、そのような認識も共有していた。にもかかわらず、八月三十一日に北朝鮮が、彼らは人工衛星と言っていますけれども、要するにミサイルを発射するまでの間どのような抑止力が形成されようとしたのか。  例えば、アメリカは、八月三十一日にテポドンを打ち上げた後、慌ててB2、B52をグアムに派遣していますけれども、なぜそれをその前にしないのか、その前にしていれば北朝鮮は別のことを考えたかもしれないというような問題も含めて。冷戦時代に余りにも完璧につくり上げた、世界のチェスボードの中での米ソを中心としたそのような抑止力というのが、コミュニケーションも十分でない、相手のリーダーシップの構図もわからない、意図もわからない、何を考えているかわからない、そういうような極めてアンプレディクタブルでわかりにくい相手のとき、今までの日米安保、即抑止力、即日本の安全というようなことが言えるのかどうかということも含めた重大な問題提起だと思うんです。  最後に、九〇年代のもう一つの大きなショックは実は経済でして、アジア経済危機だと思います。  これは今もまだ続いておりますし、中国の経済に黄信号がともり始めていると思うんですけれども、まだまだ予断を許さない。インドネシアなどは、専門家の予測を見ていましても、回復するのに十年ぐらいはかかるだろうというような見通しも出ている。ここでもし今のインドネシアのような民族紛争、宗教紛争というようなものがより深化した場合、例えばタイにも六百万人のイスラムがいるわけですし、フィリピンも五、六百万人イスラムがいるわけです。それからマレーシアは、今のところマハティールさんが、これはなかなかの政治家ですから、インドネシアのように華僑を排斥するということを絶対させないようにしていますから民族融和は辛うじて保たれていますけれども、インドネシアの情勢あるいはタイとかほかの情勢次第では飛び火する危険性も強い。そうしますと、マレー系、中国系の融和ということでこの三十年間つくり上げてきた東南アジアのASEANの軸、これが解けてしまう。その危険性が非常に強い。となると、アジア太平洋の地域主義というのはとても難しくなるだろう。もう既にその兆候があらわれています。ARFもほとんど進みませんし、APECも足どめ状態になっています。そうなりますと、アジア太平洋の中での安全保障の面でのより集団安全保障を目指すような動き、その前の信頼醸成措置の動きというのもまたとんざする可能性が非常に強いと思うんです。  そういうことも考えますと、九〇年代というのはさまざまなところから日本安全保障に対して重層的な挑戦が生まれているというふうに思います。ですから、安全保障政策考えるときもこのような新しい環境変化というものをまず十分に見据えておく必要がある。中でも朝鮮半島、それから中国の台頭という二つが決定的に重要な要素だと思います。  朝鮮半島では、御存じのようにKEDO枠組み合意ということで、北の核脅威というものを無力化するという形で今まで九四年から五年間その枠組みで走ってきたんですけれども、テポドンさらにはそれと前後して明るみに出た北のもう一つの核開発の疑いということで、仕切り直しの形になっています。アメリカ政府は、前の国防長官のペリーさんを特別の調整官に推し立てて議会対策その他いろいろあって新たな枠組みづくりを始めていますけれども、結論的に言って軍事的な解決というのはないと思います。  これは先ほど岡崎さんもおっしゃいましたけれども、三万七千人のアメリカの将兵がソウルあるいはソウル近辺に駐屯している。私もちょうど一年前にその駐屯地にも行ってトップにもお会いしたんですけれども、兵隊なんかと会っていましても、ガスマスクを見せてくれるんですね。そのガスマスクを横に毎晩寝るわけです。それほど生物兵器、化学兵器の、DMZまで二十四キロしか離れていませんから、物すごい恐怖感のもとにさらされている。先ほどのクリントン・ドクトリンじゃありませんけれども、ここに重大な脅威を招いてまでもアメリカが軍事的にイラクに行ったようなことをするというのはとても考えられない。ですから、ペリーさんが提案されるのも、今の枠組み合意の延長上に、例えば食糧援助の増分というようなことをにおわせながら、北にさらに強いコミットメントを求めるというようなことでしか多分ないんではないかと思うんです。  それで問題は解決するかというと、問題はさらに深刻になる。  例えば、ヨンピョンの核施設以外に発見されたということですけれども、それがその一つで終わりという保証はまずないわけです。どうもほかにもありそうだと。本当にそれが核施設なのかどうか、これはだれもわからない。核施設あるいは関連ということでは、これはIAEAの査察の対象になります、今はNPTに入っていますから、戻っていますから。ですからアメリカは出番はないわけですけれども、その前段階、例えばこの穴ぼこは何なんだというような形でアメリカが北朝鮮に招待されて観光してくる、その結果なかったとか、いろいろな便法は使うと思うんです。にもかかわらず、どこまで行ったらこのプロセスは打ちどめになるのか、モグラたたきじゃないかと。いつまでそれでアメリカの世論、特に議会がもつかとかいう問題があると思います。  もう一つは、核の脅威を無力化するということと同時に、ミサイルの脅威をどうしたらいいか。  核の場合は、これは原子力発電ということにスライドさせようという、手品みたいな話ですけれどもそういうやり方がある。しかし、ミサイルはどうか。これは人工衛星だから、じゃ人工衛星を一緒に上げましょうというわけにはいかない。そうなると、ミサイルの問題は最後まで難しいと思います。アメリカ日本との間で、脅威感をめぐって段差といいますか、日本はもちろん北の核の脅威というのが最大脅威でしょうけれども、当面まずミサイルの脅威がある。やはり国内世論も含めてミサイルに対して何らかの形で対応策をとらないことには、核に対する共同作業といいますか、これもなかなか乗りにくい、新たなコミットメントもしにくいという問題もあると思うんです。このミサイル脅威というのが、北にとっては現に持っている、そこにある最後の手段ですから、なかなかこれを取り上げるのは難しいという問題があると思います。  それからもう一つ、北の脅威とは一体何の脅威だろうと。  現象的にはミサイルとかなんとかあります。しかし、ミサイルとかなんとかいろいろあっても、相手と十分にコミュニケートできて、お互い脅威というものの認識をそれぞれが共有して、それに対する対応策、話し合いができればこれはいいわけですけれども、北の問題というのはそれができない、リーダーシップの問題がありますので。リーダーシップを始末するかというオプション、ここにいずれは行くのかどうかという問題も出てくると思うんです。これは今のところ決断ができないところではないかと思います。  ですから、そのようにまだ北の脅威というのは、非常に短期的な話を申し上げましたけれども、日本にとっては日米関係上も非常に難しい問題がいろいろあるし、共同歩調とか共同作業というものも、日本の去年九月のKEDO一時停止というようなことも含めて、非常に噴出しやすい地合いがあると思うんです。  もう一つ、中国がどう出るかというのが非常に読みにくいんです。  基本的な地政学的な力学でいうと、朝鮮半島で非常に緊張が高まったときは中国の発言力というのは必ず増すという傾向が読み取れると思います。中国は建国が一九四九年ですけれども、それから一年もたたずに朝鮮戦争が勃発する。中国は義勇軍ということであれだけ大量に兵隊を派遣して、その結果、アメリカと大体引き分けに持ち込む。これが当時の国際政治のスクリーンで中国のパワープロジェクション、威信をけた外れに高めた。今も、九四年からの北の核疑惑以降の中国の発言力、地政学的な重みといいますか存在感というのは非常に強まっていると思います。  そういう中で、中国と新しい朝鮮半島をめぐる何らかの共通理解というのを持つ難しさというのがまた出てきていると思うんです。これは、中国の大国化ということと非常に深く連動しているところにさらに厄介なところがある。  この間の江沢民国家主席の訪日もそうですけれども、中国は、あのときには善隣友好パートナーシップという言い方で日中関係をくくろうとしたんですね。日本政府はそれに対して、善隣はやめてくれというので、たしか日中友好協力パートナーシップというのをつくりました。中国の言わんとするところは、日本とは善隣、つまり隣国としては友好平和でいきましょう、しかしアジア太平洋さらにはグローバル、これは中国が、アジアを代表してとは言いませんけれども、やりますからというような意図が相当濃厚に出ている。  それはまた、欧米の中に、日本は衰退である、これは長期的な趨勢だ、これからは中国時代で、例えばブレジンスキーのように、日本は将来グローバルにはカナダみたいな国になればいい、アジアの問題は中国とやっていった方がこれからおさまりやすい、朝鮮半島一つとってもそうだ、このような見方がもう既に出始めている。  それがまた中国アメリカのある意味では一種のバーチャルな、擬似的な二極化みたいなものが部分的に生まれていて、それのあらわれが江沢民主席の訪米、クリントン大統領の訪中です。そういう新たな米中関係というものを背景に、ある意味ではてことして日本に対して中国が新たなゲームを、ゲームと言うと言葉は過ぎるかもしれませんけれども、対日政策というものを押し出してくる。そのときに日米安保を一つの照準として見定めてくるという傾向も見えると思うんです。  ですから今、周辺事態、ここで台湾はどういう扱いになっているんだというのを一貫して中国は問題提起してきておりますけれども、いずれは、あるいはもう既に中国の方からすれば、いや、それは周辺事態というような問題にとどまらない、日米安保の中で台湾はどうなのか、それも台湾除外というものをはっきり言ってもらいたいと、そういうような圧力がかかってくる可能性もかなりあると思うんです。  最後ですけれども、日米安保をやはり中軸に日本安全保障考える以外にないと思います。これはお配りした「同盟考える」でも指摘したんですけれども、今世紀の七十年間、日本同盟生活をしてきました。大体、同盟生活してきているときは、日露戦争のようなのもありますけれども、安定した平和を保つ。同盟だけではありませんけれども、日本の戦後の憲法であるとか日本の国民の意思であるとか、さまざまな要素も当然あったと思うんですけれども、やはり日米同盟のかけがえのない外交的な資産というのはしっかりと、はっきりと認識しておく必要があるというふうに私は思っております。  そういう前提といいますか、そういうことを基盤に、それでも日本に欠けているところを、時間が余りないので最後にちょっとだけ触れたいと思うんです。  最初に、与件という言葉があるんですけれども、我々日本人は、えてして、外のことを分析して、外の環境変化ということで安全保障に一体どういうふうに対応しようかと思いがちなんですけれども、日本自身の変化というのが非常に国際環境にも影響を及ぼして、それがまたはね返ってくるということが実は非常に大きい。ですから、日本の憲法であれ、あるいはシビリアンコントロールであれ国防費であれ、何でもいいんですけれども、そのような安全保障政策そのものが与件の一つであるというような意識がこれからさらに必要になってくると思うんです。  そのためには、やはり説明責任、透明性も含めてですけれども、この能力をよほど高めないといけない。自分の国の意図だとか能力、それが決して脅威にならない、むしろ安定的な機能を果たすということをよりよく相手に、地域に、世界説明できる国、これが安全保障政策の勝者だと思います。最も賢明な安全保障政策、この努力がこれまで以上に必要になってくるだろう。  二つ目ですけれども、テポドンであれだけショックを受ける。私は、なぜノドンのときにもう少し我々はショックを受けなかったのかという気が実はするんです。四年間たってテポドンで物すごいショックを受けて、それで偵察衛星だと。偵察衛星はいいんですけれども、しかし一種の黒船型の対応というものしかできない怖さ、問題点というのを感じるんです。つまり、安全保障を日々の営みということで考える、そういう心構え、これが不足しているのではないか。  最後に、先ほども触れましたけれども、抑止力万能論、特に冷戦時代の抑止力万能論に取りすがっていると思わぬ伏兵にやられるという危険、怖さですね。ですから、ここは日米韓の軍事協力、安保協力、ガイドラインというような新たなオペレーションも含めた物心両面のいざというときに対する心構え、備えというのが非常に必要になってくると思うんです。  それは、さらに言いますと、去年のテポドンのときに、日米の政治的な意思政策協議の質、日本アメリカのトップがこの問題についての深刻さ、あるいは安全保障上の意味合いというものをどれだけ真剣に受けとめてそれを北に見せるかということ次第で、北の対応も実は違っていた。単に安保が条約であるとか体制にあるとかいうことでは抑止力に十分なり切れない、つまりは政治的な意思であるというふうに思います。
  14. 村上正邦

    会長村上正邦君) ありがとうございました。  岡崎参考人から大事なことを一言と追加発言を求められておりますので、一分間ほどこれを許します。
  15. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 私の発言は短く終わりまして何か言い忘れたと思ったんですけれども、メモには書いてございます、また皆さん、私の言わんとするところはもう既におわかりと思いますけれども、集団的自衛権の行使の問題に入ります。  要するに、日本は集団的自衛権の権利がある、しかし行使する権利がないという妙なことを言っているのでございますけれども、これを行使できると一言言っただけで極東軍事バランスが全部変わります。これは別に台湾で問題があったときに日本が必ず武力を使うという意味じゃございませんで、集団的自衛権を行使できるとなれば、時と場合によって、シナリオによって、これがひょっとしたら日本が来るかもしれないというだけでアジアの平和が二十年確保されます。それを申し上げたかった。  今までは権利があるけれども行使する権利がないというのを言っておりまして、これは間違いでございます。正しい答えは、日本は集団的自衛権を持っている、ただ、憲法というものがあって、その精神に従ってこの行使に当たっては慎重の上にも慎重を期する、それは容易には使わないということを宣言すればいいのでありまして、それだけでもうゼロだった数字がプラスになって軍事バランスに入ってまいります。  以上でございます。
  16. 村上正邦

    会長村上正邦君) 両参考人意見の陳述は終わりました。  これより質疑を行います。  本日は自由に質疑を行っていただきます。  なお、多くの委員から質疑の申し出が今回覧をいたしましたところございますので、各位におかれましては、質問の中身を簡潔に、明確に、建前抜きに、ひとつ要領よく御質疑をお願いできればと思っております。  では、質疑のある方は挙手をお願いいたします。
  17. 山本一太

    山本一太君 きょうは日本を代表するお二人の論客のお話をいろいろ伺うことができました。実は、質問させていただきたいことが山ほどあるんですけれども、一応質問五分ルールというのが国際問題調査会にありますので……
  18. 村上正邦

    会長村上正邦君) きょうは五分じゃなくて三分でお願いします。
  19. 山本一太

    山本一太君 はい、わかりました。  じゃ、北朝鮮の問題一点に絞って伺いたいと思います。  先ほど船橋さんの方から、今回のテポドンの事件の一つのインプリケーションとして日米安保の部分的抑止力が崩れたのではないかという問題提起がありました。私も今回同じような認識を持ちました。  今週、超党派の議員八人で北朝鮮に対する戦略的外交を考える会というのを立ち上げることにしました。目的は一つ。日本はこれまで外交上北朝鮮にしっかりとしたメッセージを送っていない、これを政治のリーダーシップでしっかりとした戦略的外交に構築するきっかけをつくろうと。我々がやろうとしていることは、KEDO、朝鮮半島エネルギー開発機構に対する日本の対応というのは最初からボタンをかけ違っていたのではないか、すなわち、国際的枠組みの中であるにもかかわらず、やるとかやめるとかいう対応には限界があり、それがうまくいかないときにはまた北朝鮮に間違ったメッセージを送るということで、二国間、バイの関係でできることがないだろうかと。  一番いいのはお金と人の流れをとめることですが、これは人権上の問題やいろんな実質的な問題で難しい。それならば輸出、貿易ではないかと。今、香港経由で北朝鮮に流れているステンレス鋼、すなわち、先ほどミサイルの問題がありましたがテポドンの部品に使われている。こういう輸出規制を議員立法でやるか、あるいは通産省の内規を厳しくやるのか。こういうところを二国間のアプローチで北朝鮮にメッセージを送りたい。  もう一つ、あと一分あるので申し上げますが、例えば拉致の問題について言えば、これもボタンをかけ違えているのは、一番力を使わなければいけないのは拉致の問題を国際的に認知させる努力をすることだと思います。例えば、拉致家族がジュネーブの人権委員会に提訴する、これを政治的にサポートする、アメリカ国内の議員に議員外交、あるいは国務省に働きかけて拉致の問題の質問をしてもらう、認識を高めてもらう。  こういった外交を二国間で行うことについて、お二人の御意見、あるいはここがいい、ここがまずいということがあれば簡潔にお伺いできればと思います。かなり短くしましたけれども、その一点、お願いいたします。
  20. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 今おっしゃった二国間外交のアイデアでありますけれども、最後におっしゃった二つとも私は有効と思います。議員立法で武器輸出の統制についてもっと厳しくすると。これは常識で言ってそう無理なことでございませんし、国際的にもそう無理なことではないと思います。それから、人権委員会に訴える、それもいいと思います。  一番初めは信頼性の問題なんですね。これは冷戦時代を通じてヨーロッパでも日本でもどこにでもある問題なんです。つまり、核を一発撃たれた場合にすぐにアメリカが全面的に反撃してくれるだろうか、また、通常その意思を示してそれによって抑止してくれるかどうか。これは、イギリスもドイツもフランスも全部問題にしている問題でありまして、その点はアンビギュアスな形でもって、アンビギュアスであるというがゆえに抑止力があるという形で解決してきた問題でございます。ですから、今後も日本はやっぱりそれに耐えなきゃならないと思います。
  21. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 私も基本的には賛成です。  最初の点は全く同感で、副産物としては、日本がKEDOに対する拠出を抗議の意味を含めて一時的に停止する、それでアメリカが少し泡を食って、より日本を真剣にというような程度の効果はあったかもしれません。同時に、マイナス効果、つまり北朝鮮が日本というのはこういうビヘービアをする国かと。こちらの方が私は大きかったんじゃないかと思いますし、同じようなことをまた二度繰り返す愚も避けるべきだろう。ですから、日本が北朝鮮に対して独自に、二国間といいますか、何らかの手段というものを持っておく必要がある。  外為法改正、私は余り細かいこと、詳しいことはわかりませんけれども、湾岸のときに国連の決議、要請というものを引いた形で外為法を改正したと思うんです。だから、その場合、国連とは違うオペレーションであっても外為法を使って何らかの送金ブレーキとかいうことができるのかどうか、そういうことも検討するべきじゃないかというふうに思います。  ただ、同時に、やはり北朝鮮との間で何らかの、赤十字も、里帰りもああいう形でストップしてしまっていますのでこれは難しいんですけれども、何らかの形でのインターフェース、接点というのを持っておかないと、それこそ抗議をするにもファクスで送りつけるというようなことになってしまう。ですから、そこの外交努力というのは、そちらをやればやるほどもう一つ重要になってくるだろうというふうに思います。  それから第二点、拉致。これは国連、特にジュネーブの人権委員会やアメリカの議会その他に提示していく、提出していくと。全く賛成です。
  22. 高野博師

    高野博師君 岡崎参考人にお伺いいたします。  中国台湾問題で武力行使をしない、平和的解決を認めるということによって東アジアの平和というか安定が確保できるのではないかということなんですが、武力行使をしないと言った途端に台湾は独立するんじゃないか、したがって武力行使をしないということは絶対に言えないのではないか、中国にとっては。  そこをもう一度確認したいのと、もう一つ、軍事バランスによって平和的解決しかあり得ないという状況をつくり出すという考え方は私は反対でありまして、まさにそういう考え方が今まで戦争を繰り返してきたのではないか。軍事バランスによって平和的解決というやり方を今までずっと言ってきたんですが、まさにこれはエスカレートする考え方で、バランスが崩れれば戦争の危険があるということで、むしろそういう軍事バランスじゃなくて、どうしたら平和的解決しかあり得ないという状況をつくれるのかということが最大の問題ではないかと思うんです。  そこで、例えば人間の安全保障とかそういう考え方、あるいは軍事力軍備費、これを減らすことによって世界じゅうの貧困の問題とかあるいは環境問題とか、大変な貢献ができるというような考えをどうやったら広めることができるのか、それが重要ではないかと思うんですが、その辺について。  二点、お伺いいたします。
  23. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 後の方の御質問から先に申し上げますと、全くおっしゃるとおりでございます。まさにそれがアメリカの論理でございまして、一次大戦前というのはお互い同盟で平和を守ってきた、そのおかげで結局一次大戦というのはあれだけの大きな戦争になってしまった、だから同盟でなく、また力でなしにどうにか平和が達成できないか、これがウィルソンの思想でございました。いろいろやったのでございます。これは見果てぬ夢でございまして、いまだにどれ一つ成功しておりません。むしろ、その結果、二次大戦が起こったと言っても間違いではございません。ですから、結局アメリカも、冷戦五十年間、ついに平和で戦い抜いたんでございますけれども、これは、NATO日米同盟を中心にしていた、軍事バランスを中心にして平和を守り切った成功例でございます。  それから、中国の場合、確かに中国もそう考えております。武力行使をしないと言った途端に独立してしまう。そうすると、もっと重大な問題は、台湾の独立を中国がさせないということと世界の平和とどちらが大事かということでございます。それは中国自身が判断しなきゃいけない問題でございますし、また、一度独立しても、もし台湾の民意が中国と一緒になりたいというんなら、独立した後でまた一緒になることもあり得るわけでございます。台湾の民意はどうしても独立したいというものを無理やりにさせないということがいいか悪いかでございます。ですからそれは、平和か、その問題を条件にして扱うかという間のチョイスの問題でございます。
  24. 馳浩

    ○馳浩君 先ほどの山本委員意見とも少し重なってくるかもしれませんが、まず岡崎参考人にお聞きしたいんです。  お話の最初のときに、日米同盟以外のアジア安全保障考える上で、包括的安全保障とか、それから予防外交自主外交という点を申されましたが、そのメニュー、日本としての予防外交自主外交、これは三カ国に関して聞きたいんですが、北朝鮮、韓国、中国に対してのあり方というものについてのお考えがありましたらお聞きしたい。  同時に、関連するかもしれませんが、船橋参考人にお聞きしたいのは、北朝鮮の脅威というのは、核であったりミサイルであったり戦争であったりということよりも、根本的には金正日体制と日本の対応だと思うんですね。昨年九月のミサイル事件がありました後の日本政府の対応というものに対して、私は、ちょっと過敏過ぎて、あらゆる外交のルートを遮断する形というのは非常にマイナスの面があったのではないかと思っております。そういう意味では、進めようとしていた連絡事務所をピョンヤンに開設するとか、そういった点でも、ある一点においてはやっぱり突破口を開くための手を握っておく部分は政治的に必要であるのではないかと思いますが、この金正日体制と日本政府との対話の突破口というのをどの部分に求めていったらいいのか。継続した、細くてもいいから糸をつないでおかなければいけないと思うのですが、その点に関してのコメントがあればいただきたいと思います。  以上です。
  25. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) ヨーロッパ的な緊張緩和を朝鮮半島に適用して、それで何とか平和を確保しようと。それは理論的には可能なのでございます。理論的には、ヨーロッパのとおりにすれば、まず第一に、お互いに既存の国境線武力で変えない、問題は全部平和的に解決する。その上で南北の交流を盛んにして、それでお互い信頼を醸成する。それは一つの正攻法でございます。  ただ、一番の障害は、それが両方とも言えない状況にございます。それを言うと民族の分断を永久化するのかという話になって、それで統一という目標を捨てられないんですね。それがございます。その上に、北朝鮮の体制の問題がございまして、自由化すると崩れるんじゃないかということを恐れている体制でございますので、自由化はなかなか受けられない。  ただ、理論的には、両方の平和的解決を認めてお互い自由化しようと、それが達成できれば私は解決できると思います。
  26. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 馳さんのおっしゃった点は私も全く同感で、先ほど山本さんもおっしゃいましたけれども、ここは繰り返しません。  ただ、我々の場合、どちらかというと潔さとか潔癖症とかいうのがあるんですけれども、国際政治ではこういうのはマイナスだと思うんですね。ですから一方で、当然のことながら、例えばガイドライン、周辺事態、法制もしっかり備えをつくる、と同時に、日米間の安全保障協力もさらに強化する。それと、日朝の何らかの形での接点を再び求めるということは決して矛盾しないと思いますし、そうであればあるほどやるべきだと思うんですね。  例えばガイドラインについて言えば、これはまた一方で、金大中政権の北に対する宥和政策、これを後押しすることにもなると思うんです。後方ではありませんけれども、韓国からしますと、後方の日本あるいは日米がよりこの問題に関してはしっかり足場を固めてくれるということで、自分の方もまた宥和政策がどこまでできるかやってみようじゃないかということもできるわけですよね、ある意味では強い立場から。ですから、北との接点というのは、単に日朝だけでなくて韓国というものをまた媒介にするやり方があってもいいし、さまざまだと思うんですね。
  27. 今泉昭

    今泉昭君 大変参考になるお話、ありがとうございました。  時間がございませんので、私、二つだけお聞きしたいと思うんです。特に岡崎参考人にお伺いしたいと思います。  先ほどのお話の中で、二十一世紀中国の動向というのが大変焦点になる、別な言葉で言えば、中国がいろいろな動向を左右するような存在になってくるというお話に受けとめました。アジアというものの安全保障考える場合に、アジアというものの地域をどこまで限定するかはなかなか難しい問題ですが、例えば同じような地政学的な意味で、大変大きな人口を持っている隣のインド、さらにはまた、日本から見ると大変遠いんですがアラブを中心とした近東諸国、こういうものの存在がこの二十一世紀においてどのような姿をあらわしてくるのか。特に中国とインドというのはいろんな意味での歴史的な紛争の持ち主でございますから、そういう意味でこの両地域をどのように考えていらっしゃるのか、ひとつお伺いしたいと思うんです。  それからもう一つは、力のバランスということ。一つの力に対してカウンターバランスをつくって平和を維持していくという、キッシンジャー考え方の一つであったと思うんですが、もう一つ彼が言っていたことは、平和を維持するためには、カウンターバランスじゃなくしても、一つの大きなパワーをつくることによって平和を維持していく方法もあるんだということを申していたように記憶しているわけです。最近の流れを見てみますと、アメリカは御存じのようにグローバルスタンダードと称してアメリカンスタンダードを世界各国に押しつけるような流れがありますが、世界的に見るんじゃなくして、アジアにおける将来性から見て、二十一世紀において一つの極の大きな力というものが平和を維持していくような可能性というものが考えられるんでしょうか。  二つ、お聞きしたいと思います。
  28. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) インドの重要性、これは注目している論説もございます。恐らく人口はインドの方が多くなるだろうという説でございます。それから、あそこは全くの民主主義国でございまして、全部法律で少しずつ変えるものでございますから非常に遅い。遅いのでございますけれども、ジグザグがなくて着実に成長するだろうと思われております。  ただ、アジアのパワーバランスでインドが中国とのバランスをとる力になるのは、これはやはり二十年、三十年かかると思います。それから先の問題でございまして、今のところはまだそういう試論しかございません。  それから、その次は何でしたか。
  29. 今泉昭

    今泉昭君 アラブ諸国の、中近東の問題です。
  30. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) アラブは、あれはハンティントンがそういうことを申しまして、それで中国とアラブが一緒になったらということを言っておりますけれども、これはハンティントンの仮説でございまして、ロシアを倒した後で一体どこが敵になるかとあたりを見回すとやはりこれは中国とアラブしかない、それでこれが一緒になったらという仮説をつくったわけでございます。これは私もハンティントン自身に話しましたけれども、そうなるというのではありませんで、あたりを見回して何が恐ろしいかといえば、その一つの可能性、これも一つの仮説にすぎません。  それから……
  31. 今泉昭

    今泉昭君 キッシンジャーの……
  32. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 一極体制でございますね。
  33. 今泉昭

    今泉昭君 はい。
  34. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) これはまだ世界的に定説がないのでございます。  それで、結局私自身の個人の意見なんでございますけれども、日米同盟というものが、これが経済的に言えばもう東アジアが必要とする資本、技術、マーケットを一緒にほとんど独占的に持っておりますから、軍事的には日米を足せばこれはもう圧倒的にどこもかなわない。日米同盟を強化すれば、アジアがどう動いても、アジアというのはいろいろ独立変数のある方程式でございますけれども、圧倒的な大きな数値を持っているのは日米同盟でございます。ですから、すべての問題について、日本中国政策をどうする、ロシア政策をどうする、それから北朝鮮、統一朝鮮政策をどうする、そう聞かれた場合に、非常に明快な答えは日米同盟を強化すればいいと。そうすればいかなる問題でも扱える。ですから、アメリカ一極というよりも、東アジアにおいては日米同盟を強化すればそれで大体安定すると思います。
  35. 島袋宗康

    島袋宗康君 船橋参考人に三点ばかりお願いしたいと思います。  私の政治的立場は日米安保条約廃棄論でありますけれども、きょうは長期的な視点に立ってお伺いしたいというふうに思っております。  第一点は、仮に我が国の安全保障上、日米安保条約が有効だとしても、余りにも対米依存的じゃないかというふうに私は思っております。アメリカへの肩入れが強過ぎではないかというふうに思っておりますし、逆に言えば米国の言いなりに、あちらの要求には何でもはいはいというふうなことではないか、主体性がないのではないかというふうに思っておりますし、我が国は東アジアの一画に位置するアジアの一員であるわけですから、あくまでも我が国の独自のアジア外交を展開すべきじゃないかというふうに思っております。日韓、日朝関係、日中関係にしても、過去の歴史的経緯をきちんと踏まえた上で日本独自の外交関係を築くべきではないか。いたずらに背後の巨人をバックにして、日本独自の卑屈な態度といいますか、そういったものが余りにも明々白々であるというふうに私は感じております。したがって、参考人としてこれについてどういうふうに御意見を持っているのか。  もう一点は、我が国の基本姿勢とも関連するのでありますけれども、今回の新ガイドライン及びその関連法案は余りにも対米傾斜を強めているのではないかというふうに思っております。特に、これに対する中国の警戒感は強いものがあると思いますが、長期的に見た場合、日中関係に悪い影響を与えるのではないかというふうに私は心配しております。この点についてお伺いしておきたいと思います。  それから、最後の三点目でありますけれども、現在の日米安保体制下で、在日米軍基地は沖縄県一県に過重に偏在しております。御承知のとおり、在日米軍専用施設の七五%が沖縄にあります。先般のSACOの最終合意は、沖縄の立場から見れば県内移設を条件としているものが大部分であります。問題の根本的な解決にはほど遠いものがあります。しかし、仮にその返還合意施設がすべて返還されたとしても、政府は在沖米軍基地の二一%が返還されると宣伝しておりますけれども、なお七〇%の米軍基地が沖縄に偏在し続けるわけであります。この点の解決なしには沖縄問題は終わらないわけであります。  米軍の東アジアのプレゼンス、十万人体制は不変なものかどうか、そして在日米軍の兵力、規模、兵種、兵員数などは不変なものであるのか。私は、沖縄の米軍基地の過密の解消には、在沖米海兵隊の全面撤退か、もしくは大幅な縮小しかあり得ないと主張しております。沖縄の米海兵隊は米本国以外に唯一の大規模駐留部隊であり、その全面撤退があれば現在の在沖米軍基地の七〇%が削減されることになります。しかも、在沖米海兵隊は日米安保上不可欠の部隊でないことは日米双方の軍事専門家の間で強い主張があります。沖縄の米軍基地問題は日米関係ののど元に刺さったとげのようなもので、その解決なしには良好な日米関係を築くことはできないと私は思っております。  細川元総理の最近の論文の中で、同盟関係の基地の存在をめぐる日米間の認識の隔たりが大切な二国間関係を損なう前に、二十一世紀にふさわしい同盟関係のあり方を議論すべきであると言っておられます。また、朝日新聞によると、一九九六年五月の世論調査によっても、日本国民の七〇%がアメリカ同盟関係を支持する一方、六七%の人々が米軍基地の数を削減した方が好ましいと見ているというふうな結果も出ておりますので、この点について参考人の御意見を承りたいと思います。
  36. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 第一点はそのとおりだと思うんです。対米従属とは言いませんけれども、アメリカとの安保協議、政策対話、いずれにしても、もう少し日本の方から主張するべきところは主張するというような態度も、知的な強靱さも必要だと思います。全くないというふうに申し上げているわけではないんですけれども、まだまだ不十分であるというふうに私もかねがね感じております。  それは、同盟をどう考えるかということだと思うんです。同盟は運命じゃないわけですから、我々が選択してオプションとして使い切ればいい。日本の国益と安全保障にとって必要である、そういう判断のもとに同盟を手段として使うということだと思うんです。ですから、同盟というのは、利益がなければ相手の方も持続しようと思わないでしょうし、こちらもまたしかりだと。ですから、そういう関係を二十一世紀、これからどうつくるかということだと思うんです。  今までの日米同盟は、やはり戦後の非常に歴史的な状況があって、単に冷戦の産物ということではなかった。これは吉田茂も言っていますけれども、やはり敗戦国の日本と戦勝国のアメリカの関係をどうつくるかと、物すごく難しいときに、同盟という関係がどれだけありがたかったかというようなところもあったと思うんです。ですから、ここは地政学よりむしろ政治学の産物というところもあったと思うんです。  しかし、例えば同盟の中にはいろいろな機能があると思いますけれども、日英同盟もそういうところがあったという専門家の指摘もありますけれども、ある意味では、同盟というのは相互に抑止する、相互に牽制する、相互に紛争を予防するような機能というのも同盟国同士の中である。  ですから、アメリカ一極構造が多分向こう二十年ぐらいは、アメリカ自身もこれから二十年間はストラテジックポーズの時代だ、つまり戦略的な猶予期間だと言っていますけれども、多分そうだと思うんです。チャレンジャーは生まれない。そうすると、やはりアメリカ一国が非常に勝手なまねをする。国連がそれをチェックすればいいですけれども、国連はますます使えなくなるというときに、NATOとか日米同盟とか、そういうアメリカ同盟国がうまいぐあいにブレーキをかけてやるとかいろいろ角をとってやるとか、やりようはあると思うんです。それはよほどの外交力、アメリカとの信頼関係がなければできませんけれども、そういうことも含めて、アメリカに単に従属している同盟はむしろ続かないというふうに私は思います。  第二点、これと関連してアジアについても御質問でありましたけれども、アジアとの関係は、先ほど申し上げましたように、信頼醸成集団安全保障の環境というのが十分整っていない、むしろ難しくなっている。私は、日米同盟を中心にして、それをアジアのほかの国々にも公共財ということで、アメリカのプレゼンスだけではなくて、日米同盟が公共財なんだという認識を共有してもらうというのが非常に重要だと思うんです。最近もフィリピンの政治学者が、ASEANは今まで少し日米安保にただ乗りし過ぎてきた、実は沖縄の基地があるおかげで我々の安定がどれだけ保たれたか、そういうことを我々はもう少し認識するべきだというようなことを言い始めていますけれども、非常に新しいですね。  ですから、単にこれは日本安全保障だけでなくて、日米安保はアジア太平洋みんなの安全保障にも役に立つんだ、安定に役立っているんだという共有の認識をつくっていくということで、先ほど岡崎さんもおっしゃったような、代替はしない、補完するという形でアジア安全保障信頼醸成から進めていくべきだろうというふうに思います。  ガイドライン、これが日中関係にマイナスの影響を及ぼすのじゃないかと。マイナスの影響を及ぼしています、もう既に。しかし、短期的に私は及ぼしてもいいと思います。  長期的に、今申し上げたように、日米同盟あるいはそれのオペレーションのハウツーとしてのガイドラインが少し入ったということで、そのプロセスがアジア太平洋の安定に役立つということを中国が認識すれば、中国はそのときには考えを変えると思います。台湾問題がありますから、ここはよほど注意しなきゃいけませんけれども。ですから、ガイドラインだから、安定だから大丈夫だというだけでは中国はもちろん納得しませんし、日米安保だけでない、日中の関係強化も重要ですから。しかし、長期的には私はそれほど実は心配していません。  基地の問題は最も悩んでいるところでして、ここはおっしゃるとおり、沖縄だけに全部押しつけるわけにはいかないんです。しかし、現状の中で、北朝鮮の脅威、その他タイミングも含めて、アメリカの十万というものを今ここで変えてくれ、海兵隊一万八千出ていけというのはとるべきじゃないと思うんです。ですから、SACOで決まったところのできるところから積み上げていくというようなこと。  それから、ガイドラインを日本が法制化するというのは、アメリカにとってみれば日本はより信頼できるパートナーである、そういうことであればアメリカ日本から基地を少し減らして、あるいはアメリカの兵隊を少し削減しても大丈夫だなというような、その辺のプロセスをどううまく政治的につくるかというのもあると思います。
  37. 吉岡吉典

    吉岡吉典君 岡崎参考人にお伺いしたいんですが、私は一人のジャーナリストとして外務省へずっと通い続けて、国連憲章の勉強はさせていただきました。その中で、今、岡崎参考人がおっしゃったようなことが間違いであるという教育をさんざん受けてきました。つまり、武力による平和というのが間違いであり、抑止力論、均衡論が戦争のもとだ、それを克服する方向としての国連憲章が生まれたと。今、力によるいわば平和というのを同じ外務省出身の方からお伺いして、これはと思ったのですが。  そこで、私はまずお伺いしたいのですが、ここは議論の場じゃないのですからお伺いしたいのですが、見果てぬ夢だというのは国連の集団安全保障体制に限定してのことなのか。例えば武力による威嚇、武力行使を禁止した条項等を含めて、国連憲章そのものが大体見果てぬ夢だという考え方なのかどうなのかという点がまず第一点としてお伺いしたい点なんです。  それともう一つ、そこから出てくる結論にもなるわけですけれども、同盟基本だということですが、そうしますと、ソ連が崩壊して東西対抗がなくなった。これは私自身は、国連が目指す集団安全保障体制が確立する条件が生まれた、今こそ努力すべきだと思っているときに、見果てぬ夢だと言われたからちょっと驚いたわけですけれども、そういう時期に同盟基本だというその同盟というのは、一方では仮想敵を持つものだという定式か。そうすると、今存続する同盟というのは一体仮想敵を持つのか持たないのか。持たないとすれば、それはいわゆる従来言われた対抗的な同盟とは違うもので、それならなぜ国連憲章で言うような集団安全保障体制へ向かうことはできないのかというようなことをちょっと疑問を持ちながら聞きましたので。
  38. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) おっしゃったとおり、見果てぬ夢だと、別に夢だから軽べつするわけじゃないのだと、夢というものは必ず持たなきゃいけないので。それで、現在は不可能であっても将来はいつか実現しなきゃならない、夢は夢なのでございますけれども。ただ、現在までのところ一度も成功していないんですね。これは別に外務省の意見とか私の意見ということではございませんで、過去十幾つの例で一度もまだ成功していないし、それに頼って安全を守れたケースもない。  一つだけ、今まさにおっしゃった冷戦が終わったんだからというお話で、それに非常に近い例が湾岸戦争でございます。湾岸戦争ソ連中国アメリカの行動に反対しなくなったということでもって平和を守れた例がございます。これが唯一の例外として、キッシンジャーもさっき言った論文の中で、湾岸戦争については、集団安全保障アメリカのリーダーシップに取ってかわるためではなく、それを正当化するために発動されたと。ですから、結局はあれはアメリカがやったのでございまして、国連がやったんじゃない。ただ、アメリカがリーダーシップをとって平和を守ったことを正当化する手段として使われたのだと。正当化する手段として使われたんだから、それはそれでいいじゃないかといえば若干の意味はあったわけですね。  それならば、今後アメリカが至るところで力をもって平和を維持する、それを国連が裏で支持できる形にすると、それはまた一つの形なのでございます。列国のコンセンサスということでなしに、最も強大な国がいて、これは何でもできる。ただ、国際社会がそれを支持してやる。二次大戦が終わった直後のアメリカの国連に対する期待は、大体それに近かったんです。そういう形でもって実現する。それは可能かもしれません。  ただ、先生のおっしゃっているのはそういうことじゃないんでしょうね。世界の国が全部集まって仲よくやって、それでやっていこうという話なので、私はその是非は、それがいいか悪いかといえば道徳的に悪いとはとても申し上げられませんけれども、現実としてそれが成功したためしもないし、まして日本の国民の安全と繁栄、これを守るためということになりますと、それに頼るということはとてもできません。そういう無責任なことはやはり日本としてはできない、そういう現状でございます。
  39. 吉岡吉典

    吉岡吉典君 同盟の仮想敵の問題は、今の答弁にはなかったので。
  40. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 同盟には、仮想敵は必ずございます。ただ、これは言わないんです。  NATOのときでも、これはいかなる仮想敵も考えていないと。NATOの国十数カ国、どこから攻められても、例えばエジプトから攻められてもアイルランドから攻められてもすぐ守る、そのための同盟であるという形はとっておりましたけれども、言わず語らずしてソ連でございます。それはもう明々白々でございます。
  41. 吉岡吉典

    吉岡吉典君 今の仮想敵のことを。
  42. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 日米同盟の場合もそれはございます。ただ、それは言ってはいけないんですね。しかし、それは皆さん御存じのことでございますから言うまでもないということでございます。  仮想敵はございます。
  43. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 私は、仮想敵を持つべきじゃないと思うんですね、日米同盟はこれからは。地域の安定に役立つ公共財というふうにつくり上げていくという可能性があると思うんです。  同盟は、確かに、リスカという同盟専門家が書いていますけれども、何々に対しての同盟それから何々に向けての同盟、これはアゲンストとフォー、こう二つ考えたときに、二つしかないんですけれども、このアゲンストの方が長続きすると。やっぱり、人間社会というのは恐怖によって、特に国際社会は、国際政治は恐怖によって突き動かされる方が愛によって突き動かされるより大きいと。ですから、日米同盟もその意味では難しくなっていることは間違いないと思うんですね。  しかし、私は、やっぱり長期的には例えばNATOの中でもこれから、最後はロシアまで入れてもいいじゃないかと。ただ、入れたときはNATOという意味があるのかというような議論もありますけれども。つまり、そういう究極の目標みたいなものを掲げて、そのプロセスというものも残しておく、そちらも含めて常に可能性というものは模索しておく、レファーしておくと。レファレンスとして、参考例としてというようなビジョンというものを日米同盟にもう持ってもいいじゃないかと。  つまり、長期的な将来のことかもしれませんけれども、中国は民主主義の国になるかもしれない、台湾と共存を本当に台湾の人々も含めて一緒にやるかもしれない、連邦制とか何でもいいんですけれども。そういうようなときには、日米同盟、この中に中国も、オープニングと言いますけれども、NATOは開放と言っていますけれども、同じようにどうぞと、そのときは、いや、日米同盟という今までの同盟は要らないじゃないか、要らないと思うんですね。それがアジア太平洋の集団安全保障になっていけばもう最高にいいし、そう簡単にいかないと思いますけれども。  ですから、仮想敵は表も裏もつくらないということをはっきり言うべきだと思いますね。
  44. 村上正邦

    会長村上正邦君) これは両参考人意見が違うようでありますが、理想と現実ということからいってさらに議論を深めたいところでございますが、時間もございますので、この辺で吉岡委員質疑は終わりたい、こう思います。  両参考人議論を少し聞きたいなと思いながら、次に移ります。
  45. 山崎力

    山崎力君 両参考人に共通で、ちょっとお伺いしたいと思います。  一つは、長期的なアジアの安全という情勢の中の中核にある中国の動向ですが、これを大きく今後左右するというのは中国の経済状況が大きなファクターになるだろうと。どういうふうに経済発展するのかしないのか、中国の内部格差の是正の問題、いろいろ細かいことはあると思うんですが、一番大づかみに見てそこのところが難しいというか足かせになりかねないのは、私はエネルギーの問題だろうと思うんです。  特に、石油の輸入国になったということ、これが大きくどういうふうに影響するのかというのが不確定要素として出てきている状況だろうと思うんですが、ここ十年、二十年先、そういった中での中国のエネルギー事情、石油に対する要求をどのように思っているかということをお聞かせ願いたいという点が一点。  それからもう一つは朝鮮半島絡みですが、私個人は、今度のいろいろな一連の朝鮮の問題について、日本から能動的な行動はすべきではない、米韓のコンセンサスのもとに後をくっついていけばいいという基本的な考え方を持っておりますが、その点についての御意見をお伺いしたい。  それからもう一つ、一番シリアスな状況というのは、我々にとっては、北側が核を持ち、それで有効的なミサイルを装備した、これがアメリカに届く、あるいは日本に確実に届くというようなときにアメリカがどう対応するのか、もっと具体的に言えば、その場合アメリカが先制攻撃をする気があるのかないのかということが一番大きな不安要因だと思うんです。  そういったときに、アメリカという国は、簡単に言えば大義名分がなければ、それなりの大義名分をつけなければしないと。この間のイラクに対する攻撃も、再三警告をして、休戦協定の監視、大量破壊兵器の監視のあれを邪魔したということが一応大義名分になって攻撃したわけですが、そのときの大義名分は何ぞやといったときに、朝鮮戦争の休戦協定違反、あるいはそういったときの信義則の休戦協定を単に破棄したことにあるということでできるのだろうかどうなんだろうかということを私は感じておりまして、その点について御存じであれば教えていただきたい。  以上、三点をお願いしたいと思います。
  46. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 中国のエネルギー、余り詳しいことを知りませんけれども、純輸入国にはもう既になっているわけですね。それから、中国がペルーとか、既に石油の開発国として海外に出ていますけれども、これがイラクであるとかイランであるとかそういうところに直接出てDDの取引もしようと。それから、上流のプレーヤーとしても中国が出てくるというようなところもあると思うんですね。さらに、中国も自主輸入原油を増大させたとしても、相当長期にわたって石油輸入国であり続けるとして、そのシーレーン、オイルレーンのセキュリティー、それに対して海軍増強に対する関心がさらに強まると。最後に、それとまた関連して、南シナ海であるとか尖閣も含めた領土問題への意味合い、非常に錯綜した複合的なピクチャーになってくると思うんですね。  私は、そういう中国日本も同じような石油輸入国で過当競争しない、できれば中東でも一緒に共同開発しようじゃないかというようなジョイントベンチャーの考え方、それから中国の省エネをとことん手伝うと。ですから今、対中円借、これを根本的に考え直さなきゃいけないと思いますけれども、もうすべて環境と省エネのみにする、あとは一切しないというようなことで、やはり中国自身の省エネもとことん進めさせるというようなこととか、単に安全保障じゃない非常に総合的なアプローチが必要になってくると思いますね。  第二点の米韓のしりについていく、これはちょっとどういう意味合いでおっしゃったのかわかりにくいんですけれども、私は、米韓が北に対して軍事オペレーションをやるのに日本はついていく必要は全くないと思います。軍事オペレーション、戦闘行為は日本はするべきではないと思っておりますし、ですから、意味合いは多分後方支援ということかとも思いますけれども。  ただ、日本は今まででしたら米韓の後を追っていくというようなことで距離感ほどほどであったと思うんですけれども、やはりノドン、テポドン、あれ以来、私は、日本安全保障は韓国の安全保障と相当程度ダブってきたと。それまでは、朝鮮半島問題というのは日本にとって安全保障関連問題であったと。しかし、今や安全保障問題そのものであるというふうに思いますね。ですから、単に米韓の後を追うというのではなくて、最初から米韓と政策協議を進めていく、情報も交換するということが必要になってきていると思います。  最後、ここは私もよくわかりませんけれども、先ほど申し上げましたように、アメリカは今相当なことがあっても軍事行動することをオプションとして考えていないのではないかというふうに見ております。
  47. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 初めのエネルギーのお話でございますけれども、エネルギーが中国の経済発展の障害になるかどうか。  現状では石油がちょっと過剰生産気味でございまして、それで安くなっておりますので、こういう状況が続けば別に外から買っても大した問題はございませんけれども、これが続きますとどうしても湾岸依存度がふえてまいりまして、湾岸依存度が恐らく九割を超してくるんだろうと思うんです。その場合に、もし何かあると今度は逆に急騰する、そういうこともあります。これは中国だけの問題ではございません。日本中国も全部同じ問題でございます。ただ、それを中国がしのげるかどうかという問題でございますけれども、中国が莫大な石炭の埋蔵量を持っておりますので、それでエネルギーを転換することは可能だろうと思います。  結果としては、そういう経済変動があればそれは経済成長に若干の影響はあると思いますけれども、だからといって経済成長がとまるということはないと思います。経済成長のファンダメンタルである労働力の質、それともともと低いところからスタートしているという成長余力、これがまだございますので、まだまだこれから経済成長すると考えていいと思います。それが第一点でございます。  それから、アメリカと韓国についていった方がいい、私は全くそういう意見でございます。  これは、戦争が起こった場合、何か動乱が起こった場合、それによって起こるリスク、これが韓国がこうむるリスク、アメリカがこうむるリスクに比べて日本のリスクは極めて少ないんです。最悪の場合に、ミサイルが二発飛んでくると。それだけでもこれは重大なことでございますけれども、それは朝鮮戦争の場合の韓国の被害それからアメリカ軍の被害、それに比べれば比較的小さいわけです。  ですから、やっぱり同盟国であり友好国である両国の意向をいつも尊重して、その意向についてできる限りの範囲で協力していくというのが私は日本基本姿勢だと思っております。それは、自主的にとかいろいろ議論はございますけれども、私は基本的にはその方が正しいと思っております。  それから、最後に攻撃でございます。これは可能性があればアメリカはするのにやぶさかではないと思うのでございますけれども、北朝鮮の場合はたしか技術的にもうほとんど不可能だというふうに言われております。これは深い穴を掘っているということなんでしょうね。それで、イスラエルがイラクを攻撃したような、それからまた今回アメリカがイラクを攻撃している、それからその前にテロに対してスーダンとかイランを攻撃した、ああいう攻撃を実施する能力は十分持っていない、そう判断されます。
  48. 月原茂皓

    月原茂皓君 月原です。お二人に質問させていただきます。    〔会長退席理事岡利定着席〕  中国がこれから台頭してきた場合、周辺諸国に対する影響力というものが非常に大きくなってくる。そうすると、これは古い考え方かもしれませんが、中国自身はアメリカ大陸をたたくだけのミサイル、さらに精度を上げようと努力しておる。そうなってくると、必ずしもそこにおける利益というものについて、アメリカはこの程度ならいいじゃないかと、俗な言葉で言えば。例えば日本の領土問題、そういうものが起こってきたときにむしろアメリカが出ないという、日米同盟を持っていてもそういう可能性がある。NATOの中でも最近そういう食い違いについてどうするか検討されておるんですが、そういうことにはどう対処したらいいのかということが一つ。  それからもう一つは、北朝鮮の核の問題でいろいろ言われておりますが、私が見るところでは、アメリカそのものはこれ以上拡散はさせたくない。ミサイルにしても核にしてもそういう考え方でありますが、我が日本もそれと同じではあるけれども、さらにもっとこれ以前に、少なくとも一、二発持っておるんじゃないかというような話もありますが、その問題についてはアメリカは関心が私はないと思うんです。日本ほどの関心を持っていない。だから、今度KEDOなんかの問題で一応不拡散ということが成功しても、我が日本に残る問題は非常に大きい、こういうふうに思うんですが、それに対して日本はどういうふうに対処していったらいいのか、こういうことをお尋ねしたいと思います。
  49. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 初めに提起されました問題は、これは答えのない問題でございます。これは冷戦時代五十年間、特にフランスが議論した問題でございまして、フランスはそれに対する解決策としてみずからの核武装をしたわけでございます。それは、むしろ本当にミサイルが撃ち込まれた場合に、たった一発の場合に、アメリカが自分の安全まで冒してフランスを助けてくれるかどうかわからないではないかと。それに対してアメリカは助けると言っておりますけれども、本当にどうかわからない。結論が出ないままにフランスは核武装したわけでございます。アメリカは猛烈に反対しております。終始反対しましたけれども、核武装してしまいました。  その結果として、だから冷戦が最後になって本当にソ連脅威がひどくなったときは、まあいいじゃないかと、これによって今度攻めてくる方の計算が複雑になると。要するに、単純にアメリカの報復だけ考えなきゃいけないんじゃなしに、フランスの報復も考えなきゃいけないし、だから攻めてくる方の計算が複雑になるから、その意味で得じゃないかということで決着がついている問題でございます。ですから、結論は出ておりません。    〔理事岡利定退席会長着席〕  ですから、日本の場合もこれはわかりません。日本の場合は核武装しないわけでございますから、これを一体助けに来るのか来ないのかという議論は、実際戦争が起こるまでこれは永久に続く議論だろうと思います。  それから、一発や二発は持っているんだろうという話、これは当然でございます。実は最近になってアメリカは騒いでおりますけれども、これは九四年に決着がついたときからその問題はあるんでございます。九四年の決着がついたときから、二発分ぐらいのプルトニウム爆弾をつくれるプルトニウムは持っているに違いないと。これはもう織り込み済みでございます。それを理由にして、九四年に戦争する理由も十分あったんです。それと別の考慮とを勘案しまして、当時の国防長官の発言によりますと、戦争してみたら大変なことだ、これは百万人死ぬかもしれないし、財貨に対する損害はこれははかり知れない、そういうことをするならむしろ妥協した方がいいだろうと。  ですから、それはもともと二発のプルトニウム爆弾はあるかもしれないという条件で今のをやっているわけでございます。年月がたつにつれて、これはだんだんと開発してきただろう、それからまた、それを運ぶミサイルもだんだんと出てきただろうと。  ということで、現在新たに問題になっている問題でございますけれども、基本的には昔からある問題でございます。これまたさっき申しましたけれども、その上でアメリカがどちらかに決断した場合は、結局それに日本政策を合わせていくしかない問題だろうと思います。
  50. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 中国がさらに大国になって周辺諸国へさらに影響力が高まる、そういうときに日米同盟とかなんとかいってもアメリカがいざというときにどれほどしてくれるかと、そういう御趣旨だと思いますけれども、既に尖閣の問題ではアメリカはそのような行動に近いものをとっていると思うんです。  沖縄が七二年に返ってきましたけれども、そのときにニクソン、それから先ほどから何回も出ているキッシンジャーという人ですが、それまでの、米軍が沖縄に対する施政権を持っていて尖閣がその範囲内にあるときは、これは当然日米安保の適用内である、対象であるというふうに言ってきたにもかかわらず、沖縄を手放してしまうと、それはそうとは言い切れないというようなことで身を引いてしまうということですね。それから、九五年、六年、尖閣に対して中国台湾、香港が中心ですけれども、ああいうようなデモンストレーションをする。そのときに、もし何かがあったときに日米安保は適用されるのでしょうねというふうに聞かれたときに、アメリカ政府は、いや、これは一概にすぐ適用されるとは言えないと。  ですけれども、これは我々日本も巻き込まれは嫌だと、アメリカも嫌だと。同盟というのは、それぞれ巻き込まれるのが嫌だというのが同時にあるわけですね。ですから、一概にこれでもってアメリカはけしからぬ、これでもう日米同盟はだめだということにはならないと思うんです。ただ、今御指摘のような中国がより強大になって石油とかいろいろなところで非常に一国主義的な傾向というのを強めてくれば、そのような危険性もまた強まるということは考えておかなきゃいけないと思います。  もう一回KEDOをまき直してつくって、それで何とかやってアメリカはそこで引き下がる。その後に核が出てきても、今度は日本だけが大変だと。私はそうはならないと思います。アメリカは、やはりどんな形であれ北に核は持たせたくない、朝鮮半島に持たせたくない、日本に持たせたくないというので一貫していると思うんです。ですから、新しいKEDOが出て、また北に何か核疑惑と、私ども先ほど申し上げましたけれども、その可能性は非常に強いと思います。そのときにはまた必死になって、アメリカはまたもう一回やろうということだろうと思います。
  51. 田英夫

    ○田英夫君 田英夫です。  先ほどの仮想敵論は、我々も心しなければいけないと思っているのは、最近ある野党の党首が、北朝鮮をめぐって紛争が起きればそれは日本に対する危険が及ぶから、やはりガイドラインでアメリカの後方支援をすべきだという発言をされて、それに対して野中官房長官が、仮想敵というものは言わないのが外交の常識じゃないかという反論をされたのを報道で知ったわけですが、まさに先ほどのお二人のお話は、結果的にはそういう意味で口にすべきでないということ、私も全く同感でありまして、心しなくちゃいかぬなと思います。これはお答えは要りません。  船橋さんにお聞きしたいことがあるんですが、船橋さんがお書きになった「日本は「第三国」ではない」という記事を拝読しました。本当に同感するところが多いんですけれども、もうちょっと私の視点、経験からつけ加えていただきたいと思うところがあるんです。  確かに、江沢民主席の来日をめぐっての問題は、書いておられるとおり非常に厳しい。ところが、周恩来世代といいますか第一世代の当時は、第一に周総理は、日本に対する賠償を免除する、こういうことをまず表明された。その後続けて、いわゆる友好第一で、日本に対するいろいろな過去の問題についての批判というのは余り出なかったんですね。  それどころか、花岡事件という強制連行の問題で、中国人を強制連行で連れてきて働かせたあの問題について私はかかわったんですが、救援のようなことをやりましたら、たまたま訪中したときに張香山さん、これは周恩来世代の方ですが、この方がわざわざ私を呼んで、ぜひあの問題は余り深くしないでください、日中友好の方を大事にしていただきたいということを言われたのがかれこれ十年ぐらい前です。  ということから考えますと、今はいわば、江沢民さんは第三世代と船橋さんは書いておられるけれども、唐家セン外務大臣のような人はもっと若いですからこれが第三世代で、江沢民さんは第二・五世代ぐらいなのかなと思うんですが、そういうあたりは、世代論をするのではありませんけれども、確かに違う。  こういうところで、それは一体何が原因だろうか。本当は一番ひどい目に遭ったのはこの第一世代の人たちなんですから、そこを一回私も非常にここは大事なところだと思っておりますのでお考えいただきたいと思いますが、どういうお気持ちか聞かせていただきたいと思います。
  52. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 私が記事を書きましたのは、やはり江沢民氏の日本に対する歴史問題の取り上げ方、迫り方、日中の長期的な友好であるとか、それから日本中国の新たな二十一世紀に向けての関係をつくる上でプラスにならない。  特に、江沢民氏が日本の国民あるいは日本の首脳に対して直接いろいろ日本の最近の動きに対して危惧されることをるるおっしゃる。これはもう当然、またはそうしていただかなきゃトップ外交の意味ないですけれども、ほかの国の首脳に対して、クリントンにしても金大中さんにしても台湾の辜振甫さんにしても、まず日本問題ということから批判して回る、これもまた決して得策にもならないしやめてもらいたい、こういうことを書いたわけです。  私自身は、歴史問題、我々はより真剣にとらえなきゃいけないと思っておりますけれども、しかし果たして中国、江沢民さんも含めて、今首脳部にそのような形で日本と過去に区切りをつけて将来に向かっていく勇気、度胸があるのか。これはわかりません、聞いてみないと。私は、どうもないんじゃないか、つまり政治的にこの問題を使おうとしているのではないかというふうに見ているわけですね。  その背景はさまざまあると思いますけれども、やはり第三世代とあえて書いたのは、あの第一世代の人とか第二世代のトウ小平さんに比べると、明らかに、政治の威信それから正統性といいますか、カリスマも含めて確立していない。十年やってもまだ確立できないという彼自身の問題、それから彼だけでなくて、多分我々は今、江沢民問題というふうに思いたいところですけれども、江沢民問題で終われば次の指導者に期待するということでいいんですが、そうでないかもしれない。中国が、共産党体制であるとかイデオロギーであるとか、経済ももしかしたらうまくいかないというときに非常にナショナリズムを使いかねない。台湾などを使っているのもそうだと思いますけれども、そのときに日本が標的になりやすい。そういうようなゲームであるとすれば、我々もそういうものとして覚悟を決めてつき合わなきゃいけない、そういう思いで書きました。
  53. 田英夫

    ○田英夫君 ありがとうございました。
  54. 井上美代

    井上美代君 井上美代でございます。  私は、二人の参考人に共通してお答えいただければというふうに思って、三つの質問をしたいというふうに思っております。  一つは、やはり北朝鮮の問題ですが、このところずっとテレビを見ておりますけれども、査察を拒否した場合に軍事制裁すべきであるという議論が非常にあるというふうに思っておりまして、やはり日本安全保障考える上でも、このことについて私は国連の憲章の精神、その諸原則をきちんと考えていかなきゃいけないんじゃないかというふうに思っているんです。国連の安全保障理事会の認定や決定なしに動くことはできないというのが大事ではないかというふうに思っております。  そういう意味で、北朝鮮の暴発ということは絶対に許されない。そして、暴発しないようにどう努力をしていくかということがあるというふうに思うんですけれども、同時に、先ほどから質問も出ておりますように、先に攻撃をかけてくる、どちらがどういうふうにかけてくるかというのはあると思いますけれども、私は、そういうことをやはり国連の憲章をきちんと踏まえながら話し合っていくということが非常に大事であると。個別の国家の独自の判断では動かないということが大事ではないかというふうに思っておりますが、その点について御意見を聞きたいというのが一つです。  それからもう一つは、先ほどから安保条約の問題が出されておりまして、日米同盟の強化が安定につながるということを言われました。そしてまた、船橋参考人も、同盟七十年によって安定をしてきたということを言われたんですけれども、私は、果たしてそうだろうかというふうに思うんです。  安保条約というのはやはり平和をもたらしたというふうに言われるんですけれども、あのアジアの大被害を、大変なアジアを苦しめましたベトナムの侵略戦争、これなどを思いますときに、日本に基地があったためにベトナムへのいろんな支援をしたということがあると思います。だから、そういう意味で日本自身が戦争に巻き込まれるのではないかという問題がありますので、そういう点で安保条約の問題について、私は、平和を守ってきたのは日本国民の日本国憲法をやはり守っていきたいというそういう思いが平和をもたらしたというふうに思いますので、その点の御意見をいただきたい。  最後に、集団的自衛権の行使の問題ですけれども、先ほどのお話の中で、日本は持っている、そして慎重にと宣言をすればよいのだということを岡崎参考人は言われました。私は、これは憲法に違反しているのではないかというふうに思いますし、政府もそれを言ってこられた、違反しているというふうに言ってこられたというふうに認識しているんです。集団的自衛権の行使というのは日本国憲法に反するという立場から考えたときに、私は、そう軽く、慎重にすればいいというふうに宣言すればいい、そういうものではないというふうに思うんです。  だから、特に今、新ガイドラインが国会に提出されているわけなんですけれども、この集団的自衛権の行使に踏み込み、そしてまた、日本周辺でのアメリカの軍事介入に日本が輸送だとか補給だとかで参加して協力していくというふうになったら、これは大変なことだというふうに思っております。だから、日米安保条約も含めて、日本国憲法にもこれは反するし、アジア太平洋地域の平和を守るものではないというふうに私は考えております。このような憲法に反する集団的な自衛権の行使や、そしてまた周辺地域の紛争に対して日本が行うことができるのは、憲法に照らしてもやはり国連憲章に基づく平和的解決というのが求められなければいけないのではないかというふうに考えております。  私は、船橋参考人の岩波新書の本も見せていただきました。その中で、「日本同盟の負担のバランスを心がけることは大切だが、双務性を目標とするべきではない。自らを取り巻く歴史的状況に盲目になってはならない。」というふうに書いてあります。その点もこの集団的自衛権のところの問題だと思っておりますので、その辺をぜひ聞かせていただきたいと思います。  以上です。
  55. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 軍事行動となった場合に、アメリカが単独にみずからの判断でやるというのは望ましくないと思います。その場合の合理性、正当化も相当難しいと思います。先ほども申し上げましたように、どういう根拠でもってアメリカはその単独査察ということを国際的に認知させるのかという問題もありますし、ですから、やはりそこは国連であるとかその種の何らかの正統性のある枠組みの中でやる以外にないと思うんです。  私はむしろ、それは脅威の質、強度、緊急性にもよりますけれども、アメリカ中国がその場合に拒否権を発動できる直接当事国ですけれども、その両国を巻き込んだ形でこの問題を国際政治的に一応対処させるというのが非常に必要だと思います。その方がむしろ日本にとっては、アメリカの単独軍事行動でいろいろな形で要求が来る、それがうまくできない場合は日米安保も崩れてしまうというような直下型地震のような非常な危険というのを感じるんです。ですから、さまざまな時間も正統性も枠組みも、中国のインボルブメントとかいろいろなことを考えたときに、国連をやはりとことん使うという形でまずはやってみるというのが先決だろうというふうに思います。  憲法、我々日本人の戦後の営みがやはり平和の大きな礎になったと、これは私が先ほど申し上げたとおりで、日米安保だけでやったというふうには一切思っておりませんし、しかし日米安保がなかったときには非常に難しかっただろうというふうにも思います。  最後の点、これは井上さん、もう一度、済みません。私の本を引用していただいたんですけれども、双務性でないところで……
  56. 井上美代

    井上美代君 憲法違反だというふうに思っておりますので、その点についてどういうふうに思うか。
  57. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) わかりました。  日本の場合、よくアメリカとイギリスの同盟を一種のモデルにして、やはり本当の同盟というのは男同士でいざというときは戦場で一緒に戦うんだと、そういうものでないのは欠けているというような、そう言った人はいませんけれども、非常に強いと思うんです。しかし、私は、日米同盟というのはそういう同盟である必要は全くないし、片務性片務性というふうによく言われますけれども、全体として見ればかなりバランスのとれた同盟だろうというふうにも思います。  ですから、相互補完的な役割ということを中心に考えればよろしいと。しかし、それは何も日本が、国連のPKOにしても、あるいはガイドラインによる周辺事態、後方支援というのは全くしなくていいんだと、単に金だけ払っていればいいということではまたない。中間のところで共同作業できることはたくさんあると。それがアジアの国により直接的に脅威になるかといえば、九〇年代の初頭には中国日本のPKOに対して物すごい批判をしたし、すごい警戒感を抱きましたけれども、最近はほとんど言いません。カンボジアでは日本の自衛隊と中国の軍人が一緒になって話もし、意見も交換するというようなことも見られたし、ですから私は、そういうところも模索していくべきだというふうに思います。
  58. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 論点をたくさんお挙げになったので、一点ずつ簡単に申し上げます。  北朝鮮に対してアメリカが一方的行動をとることが正しいかどうかという問題です。  これはあくまでも国連憲章に従ってというお話でございますけれども、先ほども申し上げましたけれども、現在の国際社会はまだ不完全でございます。国連憲章に従うのは理想でございますけれども、現実はそうでない場合もある。その場合は良心的な国のコンセンサスに従って行動する、これもまた必要なことでございます。国連だけに従ってそれで世界の平和が維持されるかと申しますと、それによって犠牲になった例はまた数限りなくございます。フィンランドがソ連に攻撃されて、ハンガリー、チェコ、アフガニスタン、これは国連憲章どおりやっていたら攻撃されなかったというものではございません。これはやっぱり国際社会がまだ不十分な点でございまして、国連憲章も使う、それから力のある国の良識も使うと、両方で国際社会というものの平和と安全が維持されるものと私は思います。  それから、日米同盟を強化、この例はちょっと私は無理と思います。ベトナム戦争日本の基地を使ったから平和に寄与したと思われないと。ベトナム戦争が悪であるとまずお決めになっていいかどうか。これは近代政治史の問題でございますのでまだ全然決まったわけでもなく、その悪をなすに当たって日本の基地を使ったと。これは、日本の基地の役割は本当に何分の一か何十分の一でございます。それはちょっと御無理なように思います。  それから、一番の大きな問題でございますけれども、集団的自衛権の行使の問題。  憲法違反とおっしゃいますけれども、憲法違反であるかどうか決めるのは、これは我々が決めることじゃございません。国会は決められないんです。三権分立がはっきりしておりまして、これを決める唯一の機関は、有権解釈は裁判所でございます。  今までの裁判所の判決は、自衛隊とかすべてにつきまして日本は固有の自衛権を持つと、そういう判定を下しております。固有という言葉は、国連憲章でも使っておりますけれども、インヒアラント、これはもともとある権利でございます。もともと人間というものが生まれたときから持っている権利でございまして、それが自衛権でございます。それで、裁判所の判決は、日本には憲法があるけれども、固有の権利が、自衛権があると。固有の権利の自衛権の内容は、これはもう裁判所は別に集団的自衛権と個別的自衛権は全く区別しておりませんし、日本が既に国会をもって批准した各条約、これは自衛権の内容は集団的自衛権及び個別的自衛権でございます。  ということで、今までの国会答弁はすべて日本は集団的自衛権があると、これははっきり言っております。これは憲法上あると。というよりか、憲法を有権解釈を持つところの裁判所がそう認定していると、そういうことでございます。ですからあるのでございます。  その上で、権利があって行使できないというのは、これはもうむちゃくちゃな話でございまして、それは例え話をするのはあれですけれども、買い物に行ってお金を払ったからそのものを持ってくる権利があるので、それで商品をとろうとしたら相手が、あなたは権利があります、だけどそれを行使していいとは言っていないと。これは人間社会の基本的な信頼関係が崩れます。そういうむちゃくちゃな答弁をしているということは、これはやっぱり国家として改めるべきと、私はそう思っております。
  59. 魚住裕一郎

    魚住裕一郎君 魚住裕一郎でございます。  両先生にお聞きしたいんですけれども、岡崎参考人は、集団安全保障、補完はすれども代替はしないんだというようなお話がありました。また、船橋参考人も、例えばARFもだんだん機能しなくなりつつあると、アジアの経済危機の中で話しておられました。  しかし、軍事バランスだけではなくして、やはり信頼醸成というものをつくっていかなきゃいけないんじゃないか。代替はしないけれどもやっぱりそれが必要なんではないか。ASEANプラス3のときに、ハノイで小渕総理も、やはりアジアの安全あるいは安定と平和のために四カ国あるいは六カ国の話し合う場をつくっていく必要があるんではないか、そういう趣旨のことを講演されたと思いますけれども、それをつくっていく具体的なプロセスといいますか、どのように考えていくのか、あるいはそれを乗り越えるべきハードルは一体どういうものがあるのか、またどうやって乗り越えるべきなのか。  先ほど岡崎先生は、CSCEの原則はアジアには適用しないんだと。僕は、それはそうかもしれないけれども、北東アジア版みたいなものをつくってもいいんではないか、何か考えるべきではないかというふうに思うんですけれども、いかがでしょうか。両先生にお聞きしたいと思います。  例えば、私どもも北東アジア安全保障会議というものを提唱したいと思いますし、また北東アジア平和フォーラムみたいなことも提唱されている時代ですから、いいことはいいとして、具体的にどういう手段でやっていくかということをぜひ両先生からお聞きしたいと思います。
  60. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 先ほども申し上げましたけれども、集団的安全保障の問題を考える場合、決して悪いことではないのでございます。いいことなんです。ただ、二つの原則、一つは、補完はするけれども代替はしないということをよく知っているということ。それからもう一つは、過去の歴史の例から見て過大な期待は持たないこと。その二つでございますね、それさえあればできる限り推進していいわけでございます。  そうしますと、中国武力を行使すると言っているにもかかわらず、やはりヨーロッパで達成されたような透明性をどうやって確保するか。透明性を確保しても、それを減らすとか、いや、使わないと言わない限りはほとんど意味はないのでございますけれども、それでもやっぱり信頼醸成。これはほんの部分です。ですから過大な期待は持てません。中国がそう言っている限り過大な期待は持てませんけれども、部分的な透明性確保、それは可能だと思います。  現に、中国に国防白書を出したらどうかといって国防白書が出ました。これ自身、透明性ととても言えないようなものでございますけれども、それは第一歩でございましょう。これは透明性に欠けると言ったらもう少し透明性のあるものが出てくるかもしれない。その程度のこれは非常に遅々たる動きでございますけれども、努力をすることは私は何の異存もございません。また、極めて微量でございますけれども、成果は上がるものと思っております。
  61. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) ASEANリージョナルフォーラムの役割であるとか価値、決して軽んじているわけじゃないんです。非常に重要だと思いますし、今、ASEANが中軸になって、単にASEANだけではなくて、アジア全体の信頼醸成装置をつくろうということですから、後押ししなきゃいけない。  しかし、東南アジア、ASEANの今までの安全保障観とか、あるいは安全保障の必要性というのは、ベトナムを共通の敵とした時代はともかくとして、基本的にはより安定した社会、政治体制、その中での経済の発展、これをレジリエンシー、強靱性という概念でASEANは言いあらわしてきましたけれども、もう一度そこから踏み固めるということじゃないかと思うんです。ですから、足場を固めないことには建造物はなかなかできない。やはり、ASEANを中心に、中軸に大国の日本とか中国、あるいは韓国までを含めてASEANと対話して、ああせいこうせいということじゃないと思うんですね。  ですから、そのときに軍の突出とか軍の支配というものからシビリアンコントロールの方に持っていくとか、特にインドネシアの場合は六月に選挙がありますので、この選挙をうまくできれば民主主義の方向に一気に持っていけるかとか、そういうプロセスを推進することで民主主義の機構をつくる、あるいはその土台をつくる、そういう単に安全保障に直結するものでない広がりのある協力が必要だと思うんです、日本の場合、特に。アメリカなんかと違って。  ですから、安全保障の概念、さっきヒューマンセキュリティーという言い方をされましたけれども、私は非常に重要な視点じゃないかというふうに見ております。
  62. 村上正邦

    会長村上正邦君) あらかじめ質疑をいただきます予定者は一応終わりましたが、多少時間も残っておりますので、御質問のある委員は挙手を願い、また、御質問なさった委員でも、やりとりの中でもう少し突っ込んでここらあたりはどうかなとお思いの質疑のある委員は挙手を願います。
  63. 岡利定

    ○岡利定君 先ほどから大変勉強させていただいております。  アジア安全保障考えていく上で中国の役割そして朝鮮半島の状況というのが大変大きな課題だというようなこともお話があったわけでありますが、それはそれとしまして、アジアの中で、ソ連とは違っているわけでありますけれども、ロシアの存在というのをこれからどのように理解し、見通し、また日本がこれからまさにロシアとおつき合いをしていくわけですが、どのように留意したらいいかというようなことで御意見があればお聞かせいただきたいと思います。よろしくお願いします、お二人に。
  64. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 安全保障の関係で、極東ロシアというのは非常に独特な存在でございます。  冷戦時代はこれは恐るべき脅威だったわけでございます。それが、ヨーロッパは地政学的にソ連脅威というのが三百年分下がってしまったのでございますけれども、極東は全く下がっていないんです、北方領土に至るまで全くそのまま。それから、軍備の数量でございますね、これはヨーロッパではがたがたに減っておりますけれども極東はちっとも減っていないのでございます。その二つがヨーロッパと全く違うところでございます。  ただ、同じことは、ヨーロッパと共通するのは、ソ連軍の士気なるものが全く低下しておりまして、給料も不十分でございますし、それから訓練する油ももらっていない。ですから、現時点で脅威でないと言うことは許されると思います。ただ、そういうソフトの問題はいつ回復するかわからない、短期間に回復し得る問題なんで。潜在的には非常な軍事能力を持った国があそこにあるということは間違いございません。  ただ、冷戦時代と違いましてイデオロギー的な敵対国ではないんです。ですから、これは将来のもう一度実力がカムバックしたときの国際情勢いかん、世界政治情勢いかんでいかようにでもなる国だ、そういうふうに考えられます。  そのときの中国とロシアとの関係、アメリカとロシアとの関係、それから何よりも日本とロシアとの関係でございますね、それによって決定するわけでございます。願わくはそれまでに北方領土が解決している。北方領土の問題が解決しませんと、これは片手を縛られておりまして、ロシアとの間で国際政治というものができないのでございます。それが解決するまでできない形になっておりまして、何とかそれだけは解決できればと思っております。
  65. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) ロシアが脅威に、あるいは脅威感としてあらわれてくることは、向こう二十年ぐらい多分ないだろう。  ただ、日本の場合は領土問題がありますから、ロシアが国内的にも経済あるいは民族問題とか、いろいろうまくいかないというときに日本がやり玉に上がる、あるいはスケープゴートにされかねないという危険が非常に強いと思うんです。多分、中国の方がよりロシア人にとっては脅威感が強まると思うので日本はその陰に隠れると思いますけれども、しかし二〇〇〇年までの平和条約というのは現状を冷静に見ればとても難しいだろう。  その後、モメンタムとか、やはり今日本に対する期待もロシアはありますし、これは大切にする。一気に領土問題は解決できないかもしれないけれども、そのプロセスを大切にしていく。少なくとも、日本はロシアに敵意は持っていないし悪意も持っていないということをロシアの国民にわからせていくというのが非常に重要だと思います。  それからもう一つは、ロシアのシベリア以東、極東の問題。ウラルより西、これが国土は四分の一ですけれども人口は五分の四、これより以東が人口五分の一。ウラル以東というのが置いてきぼりになっている。非常な社会、政治問題というのが出てくるというときに何らかの形で、領土問題は別として、やはりロシアの安定に対する協力というのが求められるだろうし、私は条約のプロセスを見やりながら進めるべきだというふうに思うんですね。  中国を念頭に置いて進めることは当然なんですけれども、吉田茂が言ったように、日本の外交の要諦のもう一つは中国とロシアを同時に敵に絶対にしないということでしょうから、そういう視点は必要ですけれども、しかし一部に想定されているようなロシア・カードを中国に当てるとか使うということはあり得ない、中国はそれほど軽い存在ではないというふうに私は思っております。
  66. 服部三男雄

    服部三男雄君 両先生とも、世界安全保障軍事同盟を基軸に考えていった方がいいんだ、まだそういう時代なんだと。特に岡崎先生の、キッシンジャーバランス・オブ・パワーの考え方を基軸に考えた方がいい、ウィルソン流の世界の平和というのはやや抽象論になるからというお考えは、全くそのとおりだろうと思うんです。その中で、先生がおっしゃったように、二十年間は多分猶予期間はあるだろう、中国が軍事大国になるまで二十年間ぐらいはあるだろうと。そのときに日本は何をすべきかというのは、日本は憲法がありますからおっしゃるとおり後ろに引き下がっていくしかないわけです。  ただ、世界の平和、すべてそれは経済が原因になりますから、経済が混乱しますとこれはぎくしゃくしてきて、特に専制国家のようなところは国内の不満を外へ向ける。これはもう共通の現象がありますからね、世界史を見まして。そのときに一番なるのは、去年、おととしから始まっている国際金融の問題ですね。  両先生とも軍事同盟とかそういうことを論点にしておっしゃるのは、それは確かに間違いないんですが、国際経済を二十年間やっていく場合に、今ユーロが一番大事になってきたわけです。これは、ソビエトが崩壊したということと、敗戦国ドイツが非常に我慢して、突出しないように、しないようにしてフランスとの融和を基軸にしてあれをつくり上げてきたわけです。ところが、アジアじゃそれはできないですね、今おっしゃったような観点から。  しかし、日本の経済を考えますと、特にクリントンは経済戦略の方に振りかえてきまして、もう世界唯一のヘゲモニー国家ですから、サマーズとかルービンというような金融資本を代表する者を登用してやってきている。日本も、一千二百兆円のお金があるからこれをうまく活用しないと、何のために五十年間平和に来たのか意味がないですからね。といって、かつての大東亜共栄圏のような円を中心とした経済圏というのは、これはできません。これは不可能です、今の地政学的に見ても不可能です、中国があるから。そのときに日本としては、何とか円の国際化を図りながら円のウエートを高めていこうという漸進的努力しかないわけです。アジア・ファンドとかいろいろやろうとするのは、アメリカが物すごく怒るわけです。嫌がるんです。  この問題と世界の平和とをどうやって調和させながらいくかというのは、日本経済外交、物すごくこれから難しい時代が来ると思う。ただ物をつくって、かつてのアメリカ日本の輸出をがぶ飲みしたような形で、東南アジア、ASEAN・NIESの商品を日本ががぶ飲みする。やってできぬことはないですけれども、それをやったって経済の安定にはつながらない。ここらをどういうふうにやっていったらいいか。  恐らく大蔵省も外務省もわからずに難儀しているような状況でして、お考えが何かありましたら、参考になるような意見があったらおっしゃってください。
  67. 岡崎久彦

    参考人岡崎久彦君) 経済と安全保障の関係でございますけれども、これはあると言えばある、ないと言えばないのでございまして、例えばあれだけ経済状態が悪ければ崩壊するに決まっているというイラクや北朝鮮も、国内の警察権力さえきちっと統制していれば、人民の何分の一かが餓死してももつわけなんです。  これは直接結びつけられる場合とそうじゃない場合がございまして、これもやはり安全保障のときに申しましたけれども、同盟を補完はするけれども代替はしないんです。ですから、日米同盟というものをはっきり持った上で、あと世界経済にどう対処するかという問題です。  確かに、日本経済をどうするかというのは、これは問題なのでございます。私はおのずからすみ分けはできるように思っております。つまり、ユーロが幾ら強くなっても、最大の問題はロシアを救わなきゃいけないですから。それから、アメリカは今は非常に景気がいいのでございますけれども、やっぱりブラジルを救うために全力を挙げなきゃいけない。すると、やはりアジアの問題は日本が中心に責任を持つようになると思います。アメリカは一時、日本アジア基金に反対しましたけれども、あれは昨年の十一月の話でございまして、その後、かなり意見も変わってきております。それぞれやはり実力と住む地域でなるようにしかならないということです。  ですから、宮澤構想のようなものはもう世界的にだれも反対もしませんし、特に地域諸国は歓迎しておりまして、日本の果たすべき役割はおのずからあると私は存じております。
  68. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 服部さんの分析、私も全く同感なんです。経済、特に金融、通貨がどれほど破壊力を持つか。  インドネシア一つとってみても、少しルピアは戻していますけれども、一番ひどいときになるとあっという間に、GDP比で一人当たり、三十年前の水準に戻っちゃう、引き戻されるというほどすさまじい破壊力を持つ。経済だけで、ショック療法でまた直ればいいですけれども、社会問題、政治問題、民族問題に発展すると多分戻るのは十年というような深刻な問題だと思います。ですから、その意味で、まず民族問題とかナショナリズムを噴出させる危険、これがあります。そして、もう既にそれは起こっている。  二つ目は、先ほど申し上げましたように、地域主義。せっかくARFだとかAPECだとか少しずつ積み上げようとしたところにこれに見舞われたので、当分の間、これは足踏み状態が続かざるを得ないだろうと。  ですから、信頼醸成措置にしても何にしても、やはり経済の安定した基盤というものの上に積み上げていくと。ユーロの場合も、究極の目標は政治統合ですけれども、その過程というのは経済を通じてやったわけですね。これが一番シュアだと思うんです。しかし、この回路が当面の間、なかなかうまくつながらないだろうという問題。  最後に、アメリカアジア太平洋におけるプレゼンス、これのインセンティブといいますか、これが弱まる危険性。  今、十万人体制ということで維持して、この間のEASI、EASRというのもそれをもう一度確認していますけれども、酸素理論というのがあって、アメリカの国民になぜアメリカが十万人も兵隊をアジアに置くのかと言うときに、アメリカの兵隊を置けばアジア太平洋は安定する、安定すれば経済も発展してアメリカの投資も、アメリカの収益もそこから得ることができるからアメリカの国民も利益を得るんだ、だから支持しようというようなことがあったと思うんですね。しかし、経済がうまくいかない。向こう三年、五年、なかなかうまくいかないということになると、この理屈も揺らいでくるという危険性があると思います。
  69. 石田美栄

    石田美栄君 船橋参考人に最後にお伺いしたいのです。  これは多分次回の私たちの「我が国外交の在り方」にもつながっていくんだと思うんですけれども、日本自身の変化によって安全保障にはね返ってくるというお話の中で、私がきょうのお話の中で最も興味を引かれたところなんですけれども、説明能力を持つことが最も賢明な安全保障となるということをおっしゃいました。多分、いただいた資料を詳しく読めばそういうことについて、何々がどうしても基本的に必要というのはどこかにお書きになっているんだと思うんですが、ちょっと時間がなくてその努力ができていませんので。  きょうここで、その中の一つとして、日米同盟アジア諸国もそのおかげを受けてきているんだし、地域の安定の公共財というふうなことも多分その一つなのかなと思ってお伺いしましたが、時代によって、状況によってそのことは変化する部分もあるのだろうと思いますけれども、変化しない何点かがきっとおありだと思うんです。日本の国として政治的な意思ということもおっしゃったんですが、私も、いつもそういう部分を一番いら立つというか、何とかならないかと思っている者の一人でもあります。これとこれとこれはというのをこの場でお教えいただければと思います。
  70. 船橋洋一

    参考人船橋洋一君) 今、石田さんがおっしゃったところが、私もきょう一番お伝えしたかったところなんです。  これとこれとこれというふうにあえて言うと、シビリアンコントロールというのがあると思うんです。これは少し語弊があるかもしれないんですけれども、もちろん憲法であるとか、そういう制度の問題、と同時に、やはりリーダーシップ、政治プロセスとか総体としてのシビリアンコントロール、これが必要だろうと。そこでは、やはり何といっても政治家によるシビリアンコントロール、議員、あるいは閣僚、防衛庁長官というふうになると思うんです。けれども、日本のシビリアンコントロールはえてして、内局が制服を管理する、あるいは大蔵の主計が予算で管理する、さらには外務省の条約が解釈力で、あるいは条約ということで管理するとか、さらには政府でいいますと法制局が法解釈で管理するという、行政の一種のチェック・アンド・バランスみたいなものを使ったシビリアンコントロールで、これが世界から、周辺諸国からするとすごくわかりにくいというところがあると思うんですね。ですから、シビリアンコントロールはこういう形で政治がしっかりやっておりますということをきちっと説明する責任がある。それはまだ努力が多分不十分なのではないかというのが一つですね。  それから、歴史観といいますか、歴史問題に対して日本がどれだけ自分たちの決意でもってやるかということ。これは、中国などからああせいこうせいと言われてやるというのではなくて、やはり自分たちの国益の問題としてもやるという決意、それからその筋道を示すというのが非常に必要ではないか。それでも以前に比べると教科書一つとっても大分進展してきているところもあるので、私は何も日本だけが一方的に言われることではないと思うんです。しかし、ここはやはりなお、中国、韓国、特に冷戦が終わって一番重要なのは、つまりグローバルなアプローチも重要なんですけれども、隣の国、近隣諸国からのアプローチ、これが弱いのが決定的に日本の外交の弱さだと。それが安全保障の弱さにもつながる。外交が弱いと結局軍事の方に最後は逃げようというような誘惑が出てくると思うんですね、戦前の日本がそうだったと思いますけれども。ですから、外交を強くするというのがある意味ではシビリアンコントロールでもあるというふうに思います。
  71. 村上正邦

    会長村上正邦君) 本日の質疑はこの程度といたします。  岡崎船橋参考人におかれましては、長時間にわたり大変貴重な御意見をお述べいただきました。おかげさまで有意義な質疑ができましたこと、まことにありがとうございました。  お願いでございますが、両参考人、テレビだとか対談等にいろいろと出演、また投稿なさる機会が多いわけでありますが、参議院では衆議院と違ったこうした質疑の形態がございまして、全員出席のもとで熱心に、非常に見識豊かな質疑が行われておることをひとつ両先生の口からお伝えいただければ、またこれも非常に私は相乗効果が出てくると。国民の皆さんは知らないんですね。だれ一人、居眠りする人はいませんよ。何か委員会というとすぐ居眠りしているというふうに国民はとっておりますが、参議院は熱心にこうした問題について国際問題調査会がやっておることをお知らせいただければありがたい。  両先生のますますの御活躍を御祈念申し上げて、本日の御礼を申し上げさせていただいた次第であります。  ありがとうございました。(拍手)  本日はこれにて散会いたします。    午後三時五十分散会